繊維強化樹脂板材の製造方法
【課題】工程数を増加させることなく、高い剛性を備えた繊維強化樹脂板材を製造する。
【解決手段】長繊維に熱硬化性樹脂が含浸したプリプレグを具備するシート状物13の少なくとも一部に、角パイプ12などの金属製部材を配置し、シート状物13の両側端部を角パイプ12に巻き付けて角パイプ12の外周を覆うなどして、プリフォーム14を製造する。ついで、金型で圧縮成形して、平板状のFRP板材本体の片面に2本の角パイプ12を備えたFRP板材を製造する。
【解決手段】長繊維に熱硬化性樹脂が含浸したプリプレグを具備するシート状物13の少なくとも一部に、角パイプ12などの金属製部材を配置し、シート状物13の両側端部を角パイプ12に巻き付けて角パイプ12の外周を覆うなどして、プリフォーム14を製造する。ついで、金型で圧縮成形して、平板状のFRP板材本体の片面に2本の角パイプ12を備えたFRP板材を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の部材(補強材)を備えた繊維強化樹脂板材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両のドアやシートの背もたれなどには、芯材として、繊維強化樹脂からなる概略板状の成形品、すなわち繊維強化樹脂板材が使用されることがある。このように繊維強化樹脂板材を芯材に用いる場合、芯材により高い剛性を付与するために、リブを形成したり、凹凸を形成したりすることが多い。例えば特許文献1には、ドアの芯材として、上下方向に延びる複数の凹条が形成された繊維強化樹脂板材が開示されている。また、特許文献2には、繊維強化樹脂板材の両側部に、上下方向に延びる凸条(側補強部)が形成された背もたれの骨格材が記載されている。その他には、芯材の裏面にコルゲート形状の補強材を後加工で接着して、芯材の剛性を高める方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−339778号公報
【特許文献2】特開2005−194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リブの形成には、SMC(シートモールディングコンパウンド)などの短繊維系材料を用いた複合成形が必要となり、成形工程が増加するうえ、十分な剛性が得られにくいという問題があった。また、凹凸を形成する方法でも、満足のいく剛性が得られない場合が多かった。また、後加工により、芯材の裏面にコルゲート形状の補強材を接着する方法では、接着工程の分だけ工程数が増加し、生産性の点で問題があった。
【0005】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、工程数を増加させることなく、高い剛性を備えた繊維強化樹脂板材を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維強化樹脂板材の製造方法は、長繊維に熱硬化性樹脂が含浸したプリプレグを具備するシート状物の少なくとも一部に、金属製部材を配置し、前記シート状物と前記金属製部材とを金型で圧縮成形し一体化する、繊維強化樹脂板材の製造方法である。
前記シート状物は2層以上から構成され、前記シート状物の前記金属製部材と接する層の樹脂含有量が、それ以外の層の樹脂含有量よりも大きいことが好適である。
前記金型のキャビティは、前記シート状物が硬化した繊維強化樹脂と前記金属製部材との線膨張係数の差によって生じる繊維強化樹脂板材の反り変形を打ち消す形状に、予め形成されていることが好適である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、工程数を増加させることなく、高い剛性を備えた繊維強化樹脂板材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の製造方法により製造された繊維強化樹脂板材の一例を示す(a)斜視図、(b)断面図である。
【図2】図1の繊維強化樹脂板材の製造工程において、(a)シート状物の片面に角パイプを配置した状態を示す斜視図、(b)シート状物で角パイプを被覆して得たプリフォーム示す斜視図である。
【図3】図1の繊維強化樹脂板材の製造に使用される金型の一例を示す斜視図である。
【図4】図1の繊維強化樹脂板材において、反り変形が生じた場合の要部を示す模式的な断面図である。
【図5】図1の繊維強化樹脂板材の製造に使用される金型の他の例を示す断面図である。
【図6】本発明の製造方法により製造された繊維強化樹脂板材の他の例を示す斜視図である。
【図7】本発明の製造方法により製造された繊維強化樹脂板材の他の例を示す斜視図である。
【図8】本発明の製造方法により製造された繊維強化樹脂板材の他の例を示す斜視図である。
【図9】本発明の製造方法により製造された繊維強化樹脂板材の一例を示す(a)斜視図と、(b)断面図である。
【図10】図9の繊維強化樹脂板材の製造に使用される金型の一例を示す斜視図である。
【図11】図9の繊維強化樹脂板材において、反り変形が生じた場合の様子を示す斜視図である。
【図12】図9の繊維強化樹脂板材の製造に使用される金型の他の例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の製造方法により製造された繊維強化樹脂板材の一例を示す(a)斜視図、(b)断面図である。
図1の繊維強化樹脂板材10Aは、繊維強化樹脂(以下、FRPという場合もある。)からなる長方形の平板状のFRP板材本体11と、FPR板材本体11の片面において、長手方向の両側端部に沿って配置され、FRP板材本体11を補強する2本の金属製の角パイプ(金属製部材)12とを備えている。この例のFRP板材10Aは、2本の角パイプ12の外周がFRP板材本体11の両側端部によりそれぞれ被覆された状態で、FRP板材本体11と角パイプ12とが一体化したものである。
【0010】
FRP板材本体11を構成するFRPは、強化繊維としての長繊維と、マトリックス樹脂としての熱硬化性樹脂とを含む。
長繊維とは、FRP板材本体11中において途切れのない連続した繊維のことを意味し、例えば炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、スチール繊維、PBO繊維、高強度ポリエチレン繊維、ガラス繊維などを例示でき、これらを1種以上使用できる。これらのなかでも、炭素繊維を使用すると、より剛性が高く、例えば鉄道車両のドアやシートの背もたれの芯材として好適なFRP板材10Aを製造することができる。
【0011】
熱硬化性樹脂としては、たとえば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。これらのなかでも、長繊維との接着性、補強材である金属製部材との接着性のいずれもが優れていることから、エポキシ樹脂が好ましい。
金属製部材の材質(金属)としては、アルミニウム、鉄、ステンレス、各種合金等が挙げられる。これらのなかでも、コストを重視する場合は、SS400(JIS規格)などの汎用鋼材が好ましく、軽量性を重視する場合はアルミニウムが好ましい。
【0012】
図1のFRP板材10Aは次のようにして製造することができる。
まず、FRP板材本体11を形成するためシート状物として、一方向に配向した長繊維に熱硬化性樹脂が含浸したプリプレグを具備するものを用意する。
シート状物は、少なくとも1層のプリプレグを備えたものであればよく、場合によっては、シート状物の一方の表面に、長繊維を含まない樹脂層を備えたものでもよい。この例では、長繊維の配向角度が0°の層と90°の層とが互い違いに5層積層した構成となるようにプリプレグを積層した、いわゆる5ply(0/90/0/90/0)のプリプレグ積層体をシート状物として使用する。
【0013】
ついで、図2(a)に示すように、シート状物13の片面に、2本の角パイプ12を略平行に配置し、シート状物13の両側端部を角パイプ12に巻き付けて角パイプ12の外周を覆い、図2(b)に示すプリフォーム14を製造する。
なお、プリフォーム14の製造時には、角パイプ12とシート状物13との付着性を高めるために、あらかじめ角パイプ12の外周をアセトンなどの有機溶剤で拭いて、脱脂処理しておくことが好ましい。また、シート状物13の両側端部を角パイプ12に巻き付けた後には、脱気処理を行い、シート状物13と角パイプ12との間のエアや、シート状物13を構成するプリプレグ間のエアを抜き、密着性を高めることが好ましい。
【0014】
ついで、図3に示すように、上型21と下型22とからなり、図2(b)のプリフォーム14とほぼ同じ形状のキャビティを形成する金型20を用意する。この金型20のキャビティは、幅W1、長さL1、高さH1の凸部を有する上型21と、幅W2、長さL1、深さD1の凹部を有する下型22とによって形成される。
ついで、この金型20内にプリフォーム14を配置して金型20を閉じ、圧縮成形する。成形温度(金型温度)、成形圧力、成形時間(硬化時間)などの圧縮条件は、シート状物13のプリプレグを構成する熱硬化性樹脂の種類などに応じて適宜決定することができる。また、金型には、適宜必要な抜き勾配を設定することができる。
このように金型20を用いて圧縮成形することにより、プリフォーム14のシート状物13に含まれる熱硬化性樹脂が熱硬化するとともに、熱硬化したシート状物13、すなわちFRP平板本体11と角パイプ12とが一体化し、平板状のFRP板材本体11の片面に2本の角パイプ12を備えた図1のFRP板材10Aを製造することができる。
【0015】
このようにして製造されたFRP板材10Aは、金属製部材を備えたものであるため、例えば、FRP板材自体に凹凸が形成されて剛性が付与された板材や、短繊維系材料を用いた後加工によりリブが形成された板材に比べて、より高い剛性を備える。よって、例えば鉄道車両のドアやシートの背もたれの芯材など、高い剛性が要求される用途に好適に使用される。
また、以上説明したFRP板材10Aの製造方法は、プリプレグを具備するシート状物13の片面に、金属製部材を配置し、シート状物13と金属製部材とを金型20で圧縮成形して一体化する方法であって、補強材をFRP板材本体に接着する接着工程や、短繊維系材料を用いたリブの形成などの後加工が不要である。よって、工程数を増加させることなく、高い剛性を備えたFRP板材10Aを製造することができる。
【0016】
このような圧縮成形により、金属製部材とFRP板材本体11とを一体化する場合、金属はFRPよりも線膨張係数が大きいため、圧縮成形して得られたFRP板材10Aには、このような金属とFRPとの線膨張係数の差に起因した反り変形が生じやすい。具体的には金属製の角パイプ12の方がFRP板材本体11よりも線膨張係数が大きく圧縮成形後の冷却による収縮が大きいために、図4に要部を拡大して示すように、得られたFRP板材10Aにおいて、角パイプ12の4つの各面に対応する面部分が、それぞれ矢印で示す外側(FRP本体側)に凸に反りやすい。
そこで、このような反り変形を抑制するために、圧縮成形に用いる金型として、そのキャビティが、成形後のFRP板材10Aのこのような反り変形を打ち消す形状に予め形成された金型を用いることが好ましい。具体的には図5に示すように、上型21’および下型22’において、角パイプ12の各面に対応する面部分Pのキャビティ形状がそれぞれ内側(金属製部材側)に凸とされ、反り変形と逆の形状に形成された金型20’を用いる。このようにキャビティが、FRPと金属製部材との線膨張係数の差によって生じるFRP板材10Aの反り変形を打ち消す形状に予め形成されていると、圧縮成形後の冷却により金属製部材が大きく収縮しても、反り変形の抑制されたFRP板材10Aを得ることができる。
なお、キャビティ形状を金属製部材側に凸とする程度は、FRP板材10Aに要求される寸法精度、金属製部材およびFRPの材質(両者の線膨張係数の差の度合い)などに応じて、適宜設定できる。
【0017】
また、このような反り変形を抑制する方法としては、FRP板材本体11を形成するシート状物を2層以上とし、金属製部材と接する層の樹脂含有量をそれ以外の層の樹脂含有量よりも大きくする方法も挙げられる。金属、熱硬化性樹脂、FRPの線膨張係数の大きさは、金属>熱硬化性樹脂>FRPの順である。よって、金属製部材と接する層の樹脂含有量を大きくして、その層の線膨張係数を大きくして金属製部材の線膨張係数に近づけることによって、線膨張係数の差に起因する反り変形を抑制することができる。この場合、金属製部材と接する層は、長繊維を含まずに樹脂のみからなる、樹脂含有量が100質量%の樹脂層であってもよい。
なお、シート状物が3層以上である場合には、金属製部材と接する層の樹脂含有量がそれ以外の2層以上の層の平均の樹脂含有量よりも大きければよい。
また、シート状物をこのような構成とするとともに、圧縮成形時には図5に示すような金型20’を用いる方法によれば、より反り変形を抑制することができる。
【0018】
以上説明した図1のFRP板材10Aでは、金属製部材である角パイプ12は、FPR板材本体11の片面の両側端部に配置されているが、配置本数、配置パターンは、FRP板材の用途、求められる剛性などに応じて適宜設定でき、特に制限はない。
例えば、図6に示すように、FRP板材本体11の両側端部に加えて、長手方向の一端部にも配置されているコ字状の配置形態や、図7に示すように、両側端部に加えて長手方向の両端部にも配置され、すなわちFRP板材本体11の全外周縁部に亘って枠状に配置されているロ字状の配置形態など、FRP板材本体11の外周縁部の少なくとも一部に配置されている各種形態が例示できる。
また、図8に示すように、FRP板材本体11の全外周縁部に加えて、両側端部の角パイプ12を連結する1本以上の角パイプ12をさらに備えた梯子状の配置形態なども例示できる。これらのいずれの配置パターンの場合でも、角パイプ12の外周はFRP板材本体11により被覆されていることが好ましい。角パイプ12を被覆する際には、プリフォームの製造時において、シート状物に角パイプ12の配置パターンに応じた切込みを入れるなどして、角パイプ12の全外周を被覆できるようにすればよい。
【0019】
また、この例では、金属製部材として、横断面が四角形である角パイプ12を用いているが、FRP板材の用途、求められる剛性などに応じて、円形、四角形以外の多角形、異形など、任意の横断面形状を備えた中空のパイプを用いることができる。また、金属製部材としては、パイプではなく、外周の一部が開口し、横断面形状が例えばコ字状などの部材や、中空ではない中実の部材などを用いてもよい。しかしながら、パイプは、外周の一部が開口した例えば横断面形状がコ字状などの部材よりも高い剛性を付与でき、かつ、中実の部材よりも軽量である点などで好適である。
さらに、FRP板材の形状としても、図示例のような四角形(長方形)に限定されず、概略平板状であれば、目的に応じて種々の形状にすることができる。
【0020】
また、FRP板材本体11を構成するシート状物は、少なくとも1層のプリプレグを備えたものであればよく、上述したとおり、1層のプリプレグからなるものでも、2層以上のプリプレグが積層したものでも、さらには、一方の面の最外層に長繊維を含まない熱硬化性樹脂のみからなる樹脂層を備えたものでもよい。
また、シート状物が2層以上のプリプレグを備える場合、各プリプレグに含まれる熱硬化性樹脂の種類は異なっていてもよいが、互いの密着性の観点からは、同じ熱硬化性樹脂であることが好ましい。また、各プリプレグに含まれる長繊維の種類は、同じでも異なっていてもよい。
【0021】
図9は、本発明の製造方法により製造されたFRP板材の他の一例を示す斜視図である。
図9のFRP板材10Bは、FRPからなる長方形の概略平板状のFRP板材本体11と、FPR板材本体11の片面において、短手方向の中央部に長手方向に沿って配置され、FRP板材本体11を補強する1枚の金属板(金属製部材)15とを備え、金型での圧縮成形により、FRP板材本体11と金属板15とが一体化したものである。この例のFRP板材10Bの両側端部は、金属板15が配置された側に向けて立ち上がる立上がり部11a,11bになっていて、金属板15は、立上がり部11a、11b以外の部分に長手方向に沿って配置されている。
【0022】
図9のFRP板材10Bは次のようにして製造することができる。
まず、図10に示すように、上型31と下型32からなり、FRP板材10Bに沿う形状のキャビティを形成する金型30を用意する。具体的には、この金型30のキャビティは、立上がり分11a,11bに対応する部分も含めた幅がW3で、長さがL2であり、所定の絞り量(FRP板材10Bの深さ)となるように形成されたものである。また、金型を閉じた際に上型31と下型32とで形成される隙間のうち、金属板が有る部分(金属板インサート部)に対応する隙間と、金属板が無い部分に対応する隙間は、それぞれ適切な範囲に設定されている。
【0023】
一方、FRP板材本体11を形成するためのシート状物として、一方向に配向した長繊維に熱硬化性樹脂が含浸したプリプレグを具備する長方形のシート状物を用意する。この例で用いるシート状物も、少なくとも1層のプリプレグを備えたものであればよいが、この例では、長繊維の配向角度が0°の層と−45°の層と+45°の層とが5層積層した構成となるようにプリプレグを積層した、いわゆる5ply(0/+45/0/−45/0)のシート状物を用いている。
【0024】
ついで、図10の金型30内にシート状物と金属板とを下側から順次配置して金型30を閉じ、圧縮成形する。成形温度(金型温度)、成形圧力、成形時間(硬化時間)などの圧縮条件は、プリプレグを構成する熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜決定することができる。
このように圧縮成形することにより、シート状物に含まれる熱硬化性樹脂が熱硬化するとともに、熱硬化したシート状物(FRP板材本体11)と金属板15とが一体化し、平板状のFRP板材本体11と、その片面に配置された金属板15とが一体化した図9のFRP板材10Bを製造することができる。
【0025】
図9の例のFRP板材10Bにおいても、金属とFRPの線膨張係数の差に起因した反り変形が生じやすい。具体的には図11に示すように、金属板15の方がFRP板材本体11よりも線膨張係数が大きく、より収縮するために、FRP板材本体11側に凸に反りやすい。また、この例のように、長尺なFRP板材10Bの場合には、短手方向よりも長手方向の反りが顕著となり、主に長手方向に湾曲した反り形状となりやすい。
そこで、この例の場合にも、反り変形を抑制するために、圧縮成形に用いる金型として、そのキャビティが、成形後のFRP板材のこのような反り変形を打ち消す形状に予め形成された金型を用いることが好ましい。具体的には、図12のイメージ図に示すように、反り変形に応じた所定の曲率で、長手方向のキャビティCの形状が金属板15の配置された側(図12中上側)に凸となるように湾曲した金型を用いる。図12の金型では、このような湾曲により、キャビティCの上型側の長さL2’が下型側の長さL2’’よりもやや長くなっている。
これにより、圧縮成形後に金属製部材である金属板15が大きく収縮しても、長手方向の反り変形の抑制されたFRP板材10Bを得ることができる。
なお、短手方向の反りも抑制する必要がある場合には、短手方向のキャビティ形状についても同様に金属板15側に凸に湾曲させた金型を用いればよい。また、キャビティ形状を金属製部材側に凸とする程度は、FRP板材10Bに要求される寸法精度、金属製部材およびFRPの材質(両者の線膨張係数の差の度合い)などに応じて、適宜設定できる。
【0026】
また、この例の場合にも、シート状物を2層以上から構成し、金属板15と接する層の樹脂含有量をそれ以外の層の樹脂含有量よりも大きくすることによって、上述のような線膨張係数の差に起因した反り変形を抑制することができる。また、このように樹脂含有量が調整されたシート状物を用いるとともに、成形後のFRP板材の反り変形を打ち消す形状にキャビティが予め形成された金型を用いることも好ましい。
【0027】
以上説明した製造方法により製造されたFRP板材10A,10Bの用途には特に制限はなく、例えば鉄道車両のドアやシートの背もたれの芯材、自動車部材、鉄道車両外面部部材、船舶用部材、産業機械用部材などとして好適に使用できる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
[実施例1]
図1に示すように、長方形の平板状のFRP板材本体11と、FPR板材本体11の片面において、長手方向の両側端部に沿って配置された2本の金属製の角パイプ12とを備えたFRP板材10Aを次のようにして製造した。
まず、一方向に配向した長繊維(炭素繊維)に熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)が含浸した一方向プリプレグ(樹脂含有量:30質量%、厚み0.2mm、三菱レイヨン(株)製「TR391E250S」)を用意し、長繊維の配向角度が0°の層と90°の層とが5層積層した構成となるように該プリプレグを積層し、5ply(0/90/0/90/0)のシート状物(300mm×300mm)を作製した。
ついで、図2に示すように、このシート状物13の片面に、角パイプ12を略平行に配置し、シート状物13の両側端部を角パイプ12に巻き付けて角パイプ12の外周を覆い、プリフォーム14を製造した。
角パイプ12としては、横断面が28mm×28mmの正方形であり、長さが300mm、厚みが2mmである鋼材(SS400)製角パイプを用いた。
また、プリフォーム14の製造に際しては、角パイプ12とシート状物13との付着性を高めるために、あらかじめ角パイプ12の外周をアセトンで拭く脱脂処理を行った。そして、シート状物13の両側端部を角パイプ12に巻き付けた後には、角パイプ12の両端にゴム材で栓をしたうえで脱気処理(デバルク)を行い、シート状物13と角パイプ12との間のエアや、シート状物13の層間のエアを抜き、密着性を向上させた。
ついで、図3に示す金型20を用意し、金型20内にプリフォーム14を配置して金型20を閉じ、圧縮成形した。その後、金型20を開き、図1のFRP板材10Aを得た。
【0029】
圧縮成形条件、用いた金型20のサイズは以下のとおりである。
成形温度(金型温度):上型140℃、下型140℃
成形圧力:3.6MPa
成形時間(硬化時間):600秒
上型の凸部:幅W1=40mm、長さL1=300mm、高さH1=39mm
下型の凹部:幅W2=100mm、長さL1=300mm、深さD1=30mm
【0030】
[実施例2]
図9に示すように、長方形の平板状のFRP板材本体11と、FPR板材本体の片面において、短手方向の中央部に長手方向に沿って配置された1枚の金属板15とを備えたFRP板材10Bを次のようにして製造した。
まず、一方向に配向した長繊維(炭素繊維)に熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)が含浸した一方向プリプレグ(樹脂含有量:30質量%、厚み0.2mm)を用意し、長繊維の配向角度が0°の層と−45°の層と+45°の層とが5層積層した構成となるように該プリプレグを積層し、5ply(0/+45/0/−45/0)のシート状物(110mm×400mm)を作製した。
ついで、図10に示す金型30を用意した。
そして下型上に、シート状物と金属板(鋼材平板:79mm×399mm×2mm(t))15とを順次配置して金型30を閉じ、実施例1と同じ条件で圧縮成形した。その後、金型30を開き、図9のFRP板材10Bを得た。
なお、金型30を閉じて形成されるキャビティは以下のサイズである。
幅W3=100mm
長さL2=400mm
絞り量(深さ)=10mm
金属板が有る部分(金属板インサート部)に対応する隙間=4mm
金属板が無い部分に対応する隙間=2mm
【0031】
[実施例3]
シート状物として、一方の表面を構成する層(配向角度0°の層)のみ、プリプレグの樹脂含有量を40質量%とし、それ以外の4層のプリプレグの樹脂含有量を30質量%とした5plyのシート状物を用いた以外は、実施例2と同様にして、図9のFRP板材11Bを圧縮成形により得た。なお、樹脂含有量が40質量%とされた層と金属板15とが接するように、これらを金型30内に配置した。
【0032】
[実施例4]
図12に示すように、長手方向のキャビティCの形状が金属板側に凸となるように湾曲した金型を用いた以外は、実施例2と同様にして、図9のFRP板材10Bを得た。具体的には、キャビティCの上型側の長さL2’が400.44mm、下型側の長さL2’’が400.01mmとなるような曲率で湾曲した金型を用いた。
【0033】
以上の各実施例によれば、工程数を増加させることなく、高い剛性を備えたFRP板材を製造することができた。
また、特に実施例2と、実施例3および4とで得られたFRP板材を比較すると、実施例2で得られたFRP板材には、FRP板材本体側に凸の反り変形が認められたが、実施例3および4で得られた各FRP板材にはこのような反り変形はほとんど認められず、実施例3および4の方法によれば、FRP板材の反り変形を抑制できることが明らかであった。
【符号の説明】
【0034】
10A,10B 繊維強化樹脂板材
12 角パイプ(金属製部材)
13 シート状物
15 金属板(金属製部材)
20,30 金型
C キャビティ
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の部材(補強材)を備えた繊維強化樹脂板材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両のドアやシートの背もたれなどには、芯材として、繊維強化樹脂からなる概略板状の成形品、すなわち繊維強化樹脂板材が使用されることがある。このように繊維強化樹脂板材を芯材に用いる場合、芯材により高い剛性を付与するために、リブを形成したり、凹凸を形成したりすることが多い。例えば特許文献1には、ドアの芯材として、上下方向に延びる複数の凹条が形成された繊維強化樹脂板材が開示されている。また、特許文献2には、繊維強化樹脂板材の両側部に、上下方向に延びる凸条(側補強部)が形成された背もたれの骨格材が記載されている。その他には、芯材の裏面にコルゲート形状の補強材を後加工で接着して、芯材の剛性を高める方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−339778号公報
【特許文献2】特開2005−194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リブの形成には、SMC(シートモールディングコンパウンド)などの短繊維系材料を用いた複合成形が必要となり、成形工程が増加するうえ、十分な剛性が得られにくいという問題があった。また、凹凸を形成する方法でも、満足のいく剛性が得られない場合が多かった。また、後加工により、芯材の裏面にコルゲート形状の補強材を接着する方法では、接着工程の分だけ工程数が増加し、生産性の点で問題があった。
【0005】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、工程数を増加させることなく、高い剛性を備えた繊維強化樹脂板材を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維強化樹脂板材の製造方法は、長繊維に熱硬化性樹脂が含浸したプリプレグを具備するシート状物の少なくとも一部に、金属製部材を配置し、前記シート状物と前記金属製部材とを金型で圧縮成形し一体化する、繊維強化樹脂板材の製造方法である。
前記シート状物は2層以上から構成され、前記シート状物の前記金属製部材と接する層の樹脂含有量が、それ以外の層の樹脂含有量よりも大きいことが好適である。
前記金型のキャビティは、前記シート状物が硬化した繊維強化樹脂と前記金属製部材との線膨張係数の差によって生じる繊維強化樹脂板材の反り変形を打ち消す形状に、予め形成されていることが好適である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、工程数を増加させることなく、高い剛性を備えた繊維強化樹脂板材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の製造方法により製造された繊維強化樹脂板材の一例を示す(a)斜視図、(b)断面図である。
【図2】図1の繊維強化樹脂板材の製造工程において、(a)シート状物の片面に角パイプを配置した状態を示す斜視図、(b)シート状物で角パイプを被覆して得たプリフォーム示す斜視図である。
【図3】図1の繊維強化樹脂板材の製造に使用される金型の一例を示す斜視図である。
【図4】図1の繊維強化樹脂板材において、反り変形が生じた場合の要部を示す模式的な断面図である。
【図5】図1の繊維強化樹脂板材の製造に使用される金型の他の例を示す断面図である。
【図6】本発明の製造方法により製造された繊維強化樹脂板材の他の例を示す斜視図である。
【図7】本発明の製造方法により製造された繊維強化樹脂板材の他の例を示す斜視図である。
【図8】本発明の製造方法により製造された繊維強化樹脂板材の他の例を示す斜視図である。
【図9】本発明の製造方法により製造された繊維強化樹脂板材の一例を示す(a)斜視図と、(b)断面図である。
【図10】図9の繊維強化樹脂板材の製造に使用される金型の一例を示す斜視図である。
【図11】図9の繊維強化樹脂板材において、反り変形が生じた場合の様子を示す斜視図である。
【図12】図9の繊維強化樹脂板材の製造に使用される金型の他の例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の製造方法により製造された繊維強化樹脂板材の一例を示す(a)斜視図、(b)断面図である。
図1の繊維強化樹脂板材10Aは、繊維強化樹脂(以下、FRPという場合もある。)からなる長方形の平板状のFRP板材本体11と、FPR板材本体11の片面において、長手方向の両側端部に沿って配置され、FRP板材本体11を補強する2本の金属製の角パイプ(金属製部材)12とを備えている。この例のFRP板材10Aは、2本の角パイプ12の外周がFRP板材本体11の両側端部によりそれぞれ被覆された状態で、FRP板材本体11と角パイプ12とが一体化したものである。
【0010】
FRP板材本体11を構成するFRPは、強化繊維としての長繊維と、マトリックス樹脂としての熱硬化性樹脂とを含む。
長繊維とは、FRP板材本体11中において途切れのない連続した繊維のことを意味し、例えば炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、スチール繊維、PBO繊維、高強度ポリエチレン繊維、ガラス繊維などを例示でき、これらを1種以上使用できる。これらのなかでも、炭素繊維を使用すると、より剛性が高く、例えば鉄道車両のドアやシートの背もたれの芯材として好適なFRP板材10Aを製造することができる。
【0011】
熱硬化性樹脂としては、たとえば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。これらのなかでも、長繊維との接着性、補強材である金属製部材との接着性のいずれもが優れていることから、エポキシ樹脂が好ましい。
金属製部材の材質(金属)としては、アルミニウム、鉄、ステンレス、各種合金等が挙げられる。これらのなかでも、コストを重視する場合は、SS400(JIS規格)などの汎用鋼材が好ましく、軽量性を重視する場合はアルミニウムが好ましい。
【0012】
図1のFRP板材10Aは次のようにして製造することができる。
まず、FRP板材本体11を形成するためシート状物として、一方向に配向した長繊維に熱硬化性樹脂が含浸したプリプレグを具備するものを用意する。
シート状物は、少なくとも1層のプリプレグを備えたものであればよく、場合によっては、シート状物の一方の表面に、長繊維を含まない樹脂層を備えたものでもよい。この例では、長繊維の配向角度が0°の層と90°の層とが互い違いに5層積層した構成となるようにプリプレグを積層した、いわゆる5ply(0/90/0/90/0)のプリプレグ積層体をシート状物として使用する。
【0013】
ついで、図2(a)に示すように、シート状物13の片面に、2本の角パイプ12を略平行に配置し、シート状物13の両側端部を角パイプ12に巻き付けて角パイプ12の外周を覆い、図2(b)に示すプリフォーム14を製造する。
なお、プリフォーム14の製造時には、角パイプ12とシート状物13との付着性を高めるために、あらかじめ角パイプ12の外周をアセトンなどの有機溶剤で拭いて、脱脂処理しておくことが好ましい。また、シート状物13の両側端部を角パイプ12に巻き付けた後には、脱気処理を行い、シート状物13と角パイプ12との間のエアや、シート状物13を構成するプリプレグ間のエアを抜き、密着性を高めることが好ましい。
【0014】
ついで、図3に示すように、上型21と下型22とからなり、図2(b)のプリフォーム14とほぼ同じ形状のキャビティを形成する金型20を用意する。この金型20のキャビティは、幅W1、長さL1、高さH1の凸部を有する上型21と、幅W2、長さL1、深さD1の凹部を有する下型22とによって形成される。
ついで、この金型20内にプリフォーム14を配置して金型20を閉じ、圧縮成形する。成形温度(金型温度)、成形圧力、成形時間(硬化時間)などの圧縮条件は、シート状物13のプリプレグを構成する熱硬化性樹脂の種類などに応じて適宜決定することができる。また、金型には、適宜必要な抜き勾配を設定することができる。
このように金型20を用いて圧縮成形することにより、プリフォーム14のシート状物13に含まれる熱硬化性樹脂が熱硬化するとともに、熱硬化したシート状物13、すなわちFRP平板本体11と角パイプ12とが一体化し、平板状のFRP板材本体11の片面に2本の角パイプ12を備えた図1のFRP板材10Aを製造することができる。
【0015】
このようにして製造されたFRP板材10Aは、金属製部材を備えたものであるため、例えば、FRP板材自体に凹凸が形成されて剛性が付与された板材や、短繊維系材料を用いた後加工によりリブが形成された板材に比べて、より高い剛性を備える。よって、例えば鉄道車両のドアやシートの背もたれの芯材など、高い剛性が要求される用途に好適に使用される。
また、以上説明したFRP板材10Aの製造方法は、プリプレグを具備するシート状物13の片面に、金属製部材を配置し、シート状物13と金属製部材とを金型20で圧縮成形して一体化する方法であって、補強材をFRP板材本体に接着する接着工程や、短繊維系材料を用いたリブの形成などの後加工が不要である。よって、工程数を増加させることなく、高い剛性を備えたFRP板材10Aを製造することができる。
【0016】
このような圧縮成形により、金属製部材とFRP板材本体11とを一体化する場合、金属はFRPよりも線膨張係数が大きいため、圧縮成形して得られたFRP板材10Aには、このような金属とFRPとの線膨張係数の差に起因した反り変形が生じやすい。具体的には金属製の角パイプ12の方がFRP板材本体11よりも線膨張係数が大きく圧縮成形後の冷却による収縮が大きいために、図4に要部を拡大して示すように、得られたFRP板材10Aにおいて、角パイプ12の4つの各面に対応する面部分が、それぞれ矢印で示す外側(FRP本体側)に凸に反りやすい。
そこで、このような反り変形を抑制するために、圧縮成形に用いる金型として、そのキャビティが、成形後のFRP板材10Aのこのような反り変形を打ち消す形状に予め形成された金型を用いることが好ましい。具体的には図5に示すように、上型21’および下型22’において、角パイプ12の各面に対応する面部分Pのキャビティ形状がそれぞれ内側(金属製部材側)に凸とされ、反り変形と逆の形状に形成された金型20’を用いる。このようにキャビティが、FRPと金属製部材との線膨張係数の差によって生じるFRP板材10Aの反り変形を打ち消す形状に予め形成されていると、圧縮成形後の冷却により金属製部材が大きく収縮しても、反り変形の抑制されたFRP板材10Aを得ることができる。
なお、キャビティ形状を金属製部材側に凸とする程度は、FRP板材10Aに要求される寸法精度、金属製部材およびFRPの材質(両者の線膨張係数の差の度合い)などに応じて、適宜設定できる。
【0017】
また、このような反り変形を抑制する方法としては、FRP板材本体11を形成するシート状物を2層以上とし、金属製部材と接する層の樹脂含有量をそれ以外の層の樹脂含有量よりも大きくする方法も挙げられる。金属、熱硬化性樹脂、FRPの線膨張係数の大きさは、金属>熱硬化性樹脂>FRPの順である。よって、金属製部材と接する層の樹脂含有量を大きくして、その層の線膨張係数を大きくして金属製部材の線膨張係数に近づけることによって、線膨張係数の差に起因する反り変形を抑制することができる。この場合、金属製部材と接する層は、長繊維を含まずに樹脂のみからなる、樹脂含有量が100質量%の樹脂層であってもよい。
なお、シート状物が3層以上である場合には、金属製部材と接する層の樹脂含有量がそれ以外の2層以上の層の平均の樹脂含有量よりも大きければよい。
また、シート状物をこのような構成とするとともに、圧縮成形時には図5に示すような金型20’を用いる方法によれば、より反り変形を抑制することができる。
【0018】
以上説明した図1のFRP板材10Aでは、金属製部材である角パイプ12は、FPR板材本体11の片面の両側端部に配置されているが、配置本数、配置パターンは、FRP板材の用途、求められる剛性などに応じて適宜設定でき、特に制限はない。
例えば、図6に示すように、FRP板材本体11の両側端部に加えて、長手方向の一端部にも配置されているコ字状の配置形態や、図7に示すように、両側端部に加えて長手方向の両端部にも配置され、すなわちFRP板材本体11の全外周縁部に亘って枠状に配置されているロ字状の配置形態など、FRP板材本体11の外周縁部の少なくとも一部に配置されている各種形態が例示できる。
また、図8に示すように、FRP板材本体11の全外周縁部に加えて、両側端部の角パイプ12を連結する1本以上の角パイプ12をさらに備えた梯子状の配置形態なども例示できる。これらのいずれの配置パターンの場合でも、角パイプ12の外周はFRP板材本体11により被覆されていることが好ましい。角パイプ12を被覆する際には、プリフォームの製造時において、シート状物に角パイプ12の配置パターンに応じた切込みを入れるなどして、角パイプ12の全外周を被覆できるようにすればよい。
【0019】
また、この例では、金属製部材として、横断面が四角形である角パイプ12を用いているが、FRP板材の用途、求められる剛性などに応じて、円形、四角形以外の多角形、異形など、任意の横断面形状を備えた中空のパイプを用いることができる。また、金属製部材としては、パイプではなく、外周の一部が開口し、横断面形状が例えばコ字状などの部材や、中空ではない中実の部材などを用いてもよい。しかしながら、パイプは、外周の一部が開口した例えば横断面形状がコ字状などの部材よりも高い剛性を付与でき、かつ、中実の部材よりも軽量である点などで好適である。
さらに、FRP板材の形状としても、図示例のような四角形(長方形)に限定されず、概略平板状であれば、目的に応じて種々の形状にすることができる。
【0020】
また、FRP板材本体11を構成するシート状物は、少なくとも1層のプリプレグを備えたものであればよく、上述したとおり、1層のプリプレグからなるものでも、2層以上のプリプレグが積層したものでも、さらには、一方の面の最外層に長繊維を含まない熱硬化性樹脂のみからなる樹脂層を備えたものでもよい。
また、シート状物が2層以上のプリプレグを備える場合、各プリプレグに含まれる熱硬化性樹脂の種類は異なっていてもよいが、互いの密着性の観点からは、同じ熱硬化性樹脂であることが好ましい。また、各プリプレグに含まれる長繊維の種類は、同じでも異なっていてもよい。
【0021】
図9は、本発明の製造方法により製造されたFRP板材の他の一例を示す斜視図である。
図9のFRP板材10Bは、FRPからなる長方形の概略平板状のFRP板材本体11と、FPR板材本体11の片面において、短手方向の中央部に長手方向に沿って配置され、FRP板材本体11を補強する1枚の金属板(金属製部材)15とを備え、金型での圧縮成形により、FRP板材本体11と金属板15とが一体化したものである。この例のFRP板材10Bの両側端部は、金属板15が配置された側に向けて立ち上がる立上がり部11a,11bになっていて、金属板15は、立上がり部11a、11b以外の部分に長手方向に沿って配置されている。
【0022】
図9のFRP板材10Bは次のようにして製造することができる。
まず、図10に示すように、上型31と下型32からなり、FRP板材10Bに沿う形状のキャビティを形成する金型30を用意する。具体的には、この金型30のキャビティは、立上がり分11a,11bに対応する部分も含めた幅がW3で、長さがL2であり、所定の絞り量(FRP板材10Bの深さ)となるように形成されたものである。また、金型を閉じた際に上型31と下型32とで形成される隙間のうち、金属板が有る部分(金属板インサート部)に対応する隙間と、金属板が無い部分に対応する隙間は、それぞれ適切な範囲に設定されている。
【0023】
一方、FRP板材本体11を形成するためのシート状物として、一方向に配向した長繊維に熱硬化性樹脂が含浸したプリプレグを具備する長方形のシート状物を用意する。この例で用いるシート状物も、少なくとも1層のプリプレグを備えたものであればよいが、この例では、長繊維の配向角度が0°の層と−45°の層と+45°の層とが5層積層した構成となるようにプリプレグを積層した、いわゆる5ply(0/+45/0/−45/0)のシート状物を用いている。
【0024】
ついで、図10の金型30内にシート状物と金属板とを下側から順次配置して金型30を閉じ、圧縮成形する。成形温度(金型温度)、成形圧力、成形時間(硬化時間)などの圧縮条件は、プリプレグを構成する熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜決定することができる。
このように圧縮成形することにより、シート状物に含まれる熱硬化性樹脂が熱硬化するとともに、熱硬化したシート状物(FRP板材本体11)と金属板15とが一体化し、平板状のFRP板材本体11と、その片面に配置された金属板15とが一体化した図9のFRP板材10Bを製造することができる。
【0025】
図9の例のFRP板材10Bにおいても、金属とFRPの線膨張係数の差に起因した反り変形が生じやすい。具体的には図11に示すように、金属板15の方がFRP板材本体11よりも線膨張係数が大きく、より収縮するために、FRP板材本体11側に凸に反りやすい。また、この例のように、長尺なFRP板材10Bの場合には、短手方向よりも長手方向の反りが顕著となり、主に長手方向に湾曲した反り形状となりやすい。
そこで、この例の場合にも、反り変形を抑制するために、圧縮成形に用いる金型として、そのキャビティが、成形後のFRP板材のこのような反り変形を打ち消す形状に予め形成された金型を用いることが好ましい。具体的には、図12のイメージ図に示すように、反り変形に応じた所定の曲率で、長手方向のキャビティCの形状が金属板15の配置された側(図12中上側)に凸となるように湾曲した金型を用いる。図12の金型では、このような湾曲により、キャビティCの上型側の長さL2’が下型側の長さL2’’よりもやや長くなっている。
これにより、圧縮成形後に金属製部材である金属板15が大きく収縮しても、長手方向の反り変形の抑制されたFRP板材10Bを得ることができる。
なお、短手方向の反りも抑制する必要がある場合には、短手方向のキャビティ形状についても同様に金属板15側に凸に湾曲させた金型を用いればよい。また、キャビティ形状を金属製部材側に凸とする程度は、FRP板材10Bに要求される寸法精度、金属製部材およびFRPの材質(両者の線膨張係数の差の度合い)などに応じて、適宜設定できる。
【0026】
また、この例の場合にも、シート状物を2層以上から構成し、金属板15と接する層の樹脂含有量をそれ以外の層の樹脂含有量よりも大きくすることによって、上述のような線膨張係数の差に起因した反り変形を抑制することができる。また、このように樹脂含有量が調整されたシート状物を用いるとともに、成形後のFRP板材の反り変形を打ち消す形状にキャビティが予め形成された金型を用いることも好ましい。
【0027】
以上説明した製造方法により製造されたFRP板材10A,10Bの用途には特に制限はなく、例えば鉄道車両のドアやシートの背もたれの芯材、自動車部材、鉄道車両外面部部材、船舶用部材、産業機械用部材などとして好適に使用できる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
[実施例1]
図1に示すように、長方形の平板状のFRP板材本体11と、FPR板材本体11の片面において、長手方向の両側端部に沿って配置された2本の金属製の角パイプ12とを備えたFRP板材10Aを次のようにして製造した。
まず、一方向に配向した長繊維(炭素繊維)に熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)が含浸した一方向プリプレグ(樹脂含有量:30質量%、厚み0.2mm、三菱レイヨン(株)製「TR391E250S」)を用意し、長繊維の配向角度が0°の層と90°の層とが5層積層した構成となるように該プリプレグを積層し、5ply(0/90/0/90/0)のシート状物(300mm×300mm)を作製した。
ついで、図2に示すように、このシート状物13の片面に、角パイプ12を略平行に配置し、シート状物13の両側端部を角パイプ12に巻き付けて角パイプ12の外周を覆い、プリフォーム14を製造した。
角パイプ12としては、横断面が28mm×28mmの正方形であり、長さが300mm、厚みが2mmである鋼材(SS400)製角パイプを用いた。
また、プリフォーム14の製造に際しては、角パイプ12とシート状物13との付着性を高めるために、あらかじめ角パイプ12の外周をアセトンで拭く脱脂処理を行った。そして、シート状物13の両側端部を角パイプ12に巻き付けた後には、角パイプ12の両端にゴム材で栓をしたうえで脱気処理(デバルク)を行い、シート状物13と角パイプ12との間のエアや、シート状物13の層間のエアを抜き、密着性を向上させた。
ついで、図3に示す金型20を用意し、金型20内にプリフォーム14を配置して金型20を閉じ、圧縮成形した。その後、金型20を開き、図1のFRP板材10Aを得た。
【0029】
圧縮成形条件、用いた金型20のサイズは以下のとおりである。
成形温度(金型温度):上型140℃、下型140℃
成形圧力:3.6MPa
成形時間(硬化時間):600秒
上型の凸部:幅W1=40mm、長さL1=300mm、高さH1=39mm
下型の凹部:幅W2=100mm、長さL1=300mm、深さD1=30mm
【0030】
[実施例2]
図9に示すように、長方形の平板状のFRP板材本体11と、FPR板材本体の片面において、短手方向の中央部に長手方向に沿って配置された1枚の金属板15とを備えたFRP板材10Bを次のようにして製造した。
まず、一方向に配向した長繊維(炭素繊維)に熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)が含浸した一方向プリプレグ(樹脂含有量:30質量%、厚み0.2mm)を用意し、長繊維の配向角度が0°の層と−45°の層と+45°の層とが5層積層した構成となるように該プリプレグを積層し、5ply(0/+45/0/−45/0)のシート状物(110mm×400mm)を作製した。
ついで、図10に示す金型30を用意した。
そして下型上に、シート状物と金属板(鋼材平板:79mm×399mm×2mm(t))15とを順次配置して金型30を閉じ、実施例1と同じ条件で圧縮成形した。その後、金型30を開き、図9のFRP板材10Bを得た。
なお、金型30を閉じて形成されるキャビティは以下のサイズである。
幅W3=100mm
長さL2=400mm
絞り量(深さ)=10mm
金属板が有る部分(金属板インサート部)に対応する隙間=4mm
金属板が無い部分に対応する隙間=2mm
【0031】
[実施例3]
シート状物として、一方の表面を構成する層(配向角度0°の層)のみ、プリプレグの樹脂含有量を40質量%とし、それ以外の4層のプリプレグの樹脂含有量を30質量%とした5plyのシート状物を用いた以外は、実施例2と同様にして、図9のFRP板材11Bを圧縮成形により得た。なお、樹脂含有量が40質量%とされた層と金属板15とが接するように、これらを金型30内に配置した。
【0032】
[実施例4]
図12に示すように、長手方向のキャビティCの形状が金属板側に凸となるように湾曲した金型を用いた以外は、実施例2と同様にして、図9のFRP板材10Bを得た。具体的には、キャビティCの上型側の長さL2’が400.44mm、下型側の長さL2’’が400.01mmとなるような曲率で湾曲した金型を用いた。
【0033】
以上の各実施例によれば、工程数を増加させることなく、高い剛性を備えたFRP板材を製造することができた。
また、特に実施例2と、実施例3および4とで得られたFRP板材を比較すると、実施例2で得られたFRP板材には、FRP板材本体側に凸の反り変形が認められたが、実施例3および4で得られた各FRP板材にはこのような反り変形はほとんど認められず、実施例3および4の方法によれば、FRP板材の反り変形を抑制できることが明らかであった。
【符号の説明】
【0034】
10A,10B 繊維強化樹脂板材
12 角パイプ(金属製部材)
13 シート状物
15 金属板(金属製部材)
20,30 金型
C キャビティ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維に熱硬化性樹脂が含浸したプリプレグを具備するシート状物の少なくとも一部に、金属製部材を配置し、前記シート状物と前記金属製部材とを金型で圧縮成形し一体化する、繊維強化樹脂板材の製造方法。
【請求項2】
前記シート状物は2層以上から構成され、前記シート状物の前記金属製部材と接する層の樹脂含有量が、それ以外の層の樹脂含有量よりも大きい、請求項1に記載の繊維強化樹脂板材の製造方法。
【請求項3】
前記金型のキャビティは、前記シート状物が硬化した繊維強化樹脂と前記金属製部材との線膨張係数の差によって生じる繊維強化樹脂板材の反り変形を打ち消す形状に、予め形成されている、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂板材の製造方法。
【請求項1】
長繊維に熱硬化性樹脂が含浸したプリプレグを具備するシート状物の少なくとも一部に、金属製部材を配置し、前記シート状物と前記金属製部材とを金型で圧縮成形し一体化する、繊維強化樹脂板材の製造方法。
【請求項2】
前記シート状物は2層以上から構成され、前記シート状物の前記金属製部材と接する層の樹脂含有量が、それ以外の層の樹脂含有量よりも大きい、請求項1に記載の繊維強化樹脂板材の製造方法。
【請求項3】
前記金型のキャビティは、前記シート状物が硬化した繊維強化樹脂と前記金属製部材との線膨張係数の差によって生じる繊維強化樹脂板材の反り変形を打ち消す形状に、予め形成されている、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂板材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−166463(P2012−166463A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29698(P2011−29698)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】
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