説明

繊維性多糖類分解酵素、それをコードする遺伝子、繊維性多糖類分解酵素の生産方法、及びそれに用いられる微生物

【課題】耐熱性及び酸性領域で活性を有する繊維性多糖類分解酵素、それをコードする遺伝子、繊維性多糖類分解酵素の生産方法、及びそれに用いられる微生物を提供する。
【解決手段】以下の理化学的性質を有する繊維性多糖類分解酵素。(a)キシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する。(b)SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が100kDa。(c)至適温度範囲が70〜85℃。(d)至適pH範囲が2〜6。(e)70℃、10分間の処理で80%以上の活性を保有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キシラナーゼ、セルラーゼ等の繊維性多糖類分解作用を有する新規な繊維性多糖類分解酵素、それをコードする遺伝子、その繊維性多糖類分解酵素の生産方法、及びその繊維性多糖類分解酵素の生産に用いられる微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、植物体を構成するセルロースやキシランを加水分解する酵素としてセルラーゼやキシラナーゼが知られている。その酵素は、例えば各事業所及び一般家庭から排出される家畜排泄物、下水余剰汚泥、及び食品廃棄物等の植物性廃棄物の減量化又は堆肥化処理等に利用することができる。また、将来バイオエタノールの生産に関し、上記植物性廃棄物、木材・草材等の植物由来のバイオマスから糖を得る方法に利用され得ることが期待されている。また、衣料用洗浄成分として配合されたり、衣類の材質改善にも利用されている。また、植物細胞をプロトプラスト化するための研究用試薬としても使用されている。
【0003】
従来より、特許文献1に記載されるセルラーゼが知られている。かかるセルラーゼは、アルカリ条件側で活性を有するものである。
【特許文献1】特開平10−313859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1は、酸性条件側で活性を有するものについては、開示していない。耐熱性を有するとともに、酸性条件側で活性を有する繊維性多糖類分解酵素が切望されていた。
【0005】
そこで、本発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、アリシクロバチルス.エスピーにおいて、耐熱性を有するとともに酸性側で活性を有する新規な繊維性多糖類分解酵素を有することを発見したことによりなされたものである。本発明の目的とするところは、耐熱性及び酸性領域で活性を有する繊維性多糖類分解酵素、それをコードする遺伝子、繊維性多糖類分解酵素の生産方法、及びそれに用いられる微生物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明の繊維性多糖類分解酵素は、以下の理化学的性質を有する繊維性多糖類分解酵素。(a)キシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する。(b)SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が100kDa。(c)至適温度範囲が70〜85℃。(d)至適pH範囲が2〜6。(e)70℃、10分間の処理で80%以上の活性を保有する。
【0007】
請求項2に記載の発明の繊維性多糖類分解酵素は、以下の(a)から(c)のいずれかに記載される。(a)配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有する。(b)配列番号1で表わされ、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つキシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有する。(c)配列番号1で表わされるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有する。
【0008】
請求項3に記載の発明の遺伝子は、請求項2に記載の繊維性多糖類分解酵素をコードする。
請求項4に記載の発明の遺伝子は、以下の(a)から(c)のいずれかに記載のポリヌクレオチドからなる。(a)配列番号2で表わされる塩基配列を有する。(b)配列番号2で表わされ、1又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、且つキシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有するタンパク質をコードする。(c)配列番号2で表わされる塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つキシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有するタンパク質をコードする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有する繊維性多糖類分解酵素の生産方法であって、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されたアリシクロバチルス.エスピーGCB−A1(受託番号NITE BP-406)を、培養液を用いて培養する工程、前記培養液から上澄液又は濾過液を回収する工程、上澄液又は濾過液からクロマトグラフィを用いて配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有する繊維性多糖類分解酵素を分離する工程からなる。
【0010】
請求項6に記載の発明の微生物は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターへ2007年8月29日に寄託されたアリシクロバチルス.エスピーGCB−A1(受託番号NITE BP-406)である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐熱性及び酸性領域で活性を有する繊維性多糖類分解酵素を容易に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、この発明の繊維性多糖類分解酵素を具体化した第1の実施形態を詳細に説明する。本実施形態の新規な繊維性多糖類分解酵素は、以下の理化学的性質(酵素学的性質)を有する。(a)キシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する。(b)SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が100kDaである。(c)至適温度範囲が70〜85℃である。(d)至適pH範囲が2〜6である。(e)70℃、10分間の処理で80%以上の活性を保有する。
【0013】
本実施形態の繊維性多糖類分解酵素は、基質としてキシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する。つまり、キシラナーゼ、セルラーゼ、リケナーゼ、及びマンノシダーゼ活性を有する。
【0014】
本実施形態の繊維性多糖類分解酵素は、これらの中でキシラン及びセルロースを加水分解する活性が高い。基質としてのセルロースは、セルロース誘導体としてのカルボキシメチルセルロース、及び結晶セルロース(例えば、Phosphoric acid swollen Avicel)であっても加水分解することができる。
【0015】
本実施形態の繊維性多糖類分解酵素の分子量は、SDS−ポリアクリルアミドゲル(PAGE)により電気泳動を用いることにより決定される分子量として100kDaである。SDS−PAGEは、公知の方法を用いることができる。本実施形態の繊維性多糖類分解酵素を含む試料と分子量マーカーを同時に電気泳動し、その移動量を測定及び対比することにより分子量を決定することができる。SDS−PAGEを用いた分子量の決定は、解析度が約5000Da程度であるため、本発明のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が100kDaとは±5000Da程度の誤差を含むものとする。
【0016】
本実施形態の繊維性多糖類分解酵素の至適温度範囲が70〜85℃である。例えば、カルボキシメチルセルロースを基質として使用し、pH4.0、反応時間20分間の条件下において、至適温度は75〜80℃付近にあり、70〜85℃の範囲において最大活性の80%以上を示す。
【0017】
本実施形態の繊維性多糖類分解酵素の至適pH範囲が2〜6である。例えば、カルボキシメチルセルロースを基質として使用し、温度60℃、反応時間30分間の条件下において、至適pHは3〜4付近にあり、pH2〜6の範囲において最大活性の40%以上を示す。
【0018】
本実施形態の繊維性多糖類分解酵素の温度安定性は、70℃、10分間の処理で80%以上の残存活性(熱に対して未処理の活性を100%とした場合の割合)を保有する。例えば、カルボキシメチルセルロースを基質として使用し、pH4.0の条件下において、未処理の活性を100%とした場合、70℃以下の温度では熱に対して80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の残存活性を有する。また、同条件下において、80℃では好ましくは30%、より好ましくは40%の残存活性を有する。
【0019】
本実施形態の繊維性多糖類分解酵素として、例えば、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質(繊維性多糖類分解酵素)が挙げられる。
(第2の実施形態)
以下、この発明の繊維性多糖類分解酵素を具体化した第2の実施形態を詳細に説明する。本実施形態の繊維性多糖類分解酵素は、(a)配列番号1で表わされるアミノ酸配列からなる繊維性多糖類分解酵素であり、キシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性(キシラナーゼ、セルラーゼ、リケナーゼ、及びマンノシダーゼ活性)を有する新規な繊維性多糖類分解酵素である。
【0020】
また、本実施形態の繊維性多糖類分解酵素は、配列番号1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列からなり、キシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有するタンパク質も含まれる。実質的に同一とは、具体的に(b)配列番号1で表わされ、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つキシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有する繊維性多糖類分解酵素を示す。又は(c)配列番号1で表わされるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有する繊維性多糖類分解酵素を示す。ここで、1又は数個のアミノ酸とは、好ましくは1〜10個のアミノ酸、より好ましくは1〜5個のアミノ酸を示す。尚、上記のアミノ酸配列の同一性は、BLASTを用いたアミノ酸配列ホモロジー検索法により実施することができる。
【0021】
キシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有するとは、その活性の程度が、その機能を発揮する限り配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる繊維性多糖類分解酵素と同程度のものであってもよい。又は低いもの(好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上)のみならず、これより高いものであってもよい。なお、本実施形態の繊維性多糖類分解酵素は、公知の化学合成法又は後述する遺伝子工学的手法によって製造することができる。また、アミノ酸配列における改変は、公知の方法、例えば部位特異的変異導入法等を用いて、改変しようとするアミノ酸配列に、1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、付加の変異を導入することができる。
【0022】
本実施形態の配列番号1で表わされるアミノ酸配列からなる繊維性多糖類分解酵素と公知の繊維性多糖類分解酵素とのアミノ酸配列における同一性を比較すると、アリシクロバチルス・アシドカルダリウス(Alicyclobacillus acidocaldarius)ATCC27009株のエンドグルカナーゼ(celB)(Eur.J.Biochem.270, 3593-3602(2003))との同一性が高く、88%であった。基質特異性及び相同検索の結果から本実施形態のタンパク質はグルカナーゼに分類される酵素であると考えられる。しかし、配列番号1で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質は、後記実施例に示すように繊維性多糖類分解活性の最適pHが酸性領域にあるという従来知られていない性質を有することから、配列番号1で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質は、新規な繊維性多糖類分解酵素であると判断される。
【0023】
(第3の実施形態)
以下、この発明の繊維性多糖類分解酵素の生産方法を具体化した第3の実施形態を詳細に説明する。第3の実施形態における繊維性多糖類分解酵素の生産方法は、第1の実施形態及び第2の実施形態に開示される繊維性多糖類分解酵素の生産方法を示す。具体的には、例えば、アリシクロバチルス・エスピー(Alicyclobacillus sp.)GCB−A1株(受託番号NITE BP-406)より実施することができる。本寄託されたアリシクロバチルス・エスピーGCB−A1株(受託番号NITE BP-406)について、下記に生育形態所見及び生化学的所見を示す。
【0024】
(a)形態
形状:桿菌(0.7〜0.9×2.0〜3.0μm)
グラム染色:陰性
胞子形成能:有り
運動性:なし
(b)生育状態(YSG寒天培地)
色調:クリーム色
形:円形
隆起状態:レンズ状
周縁:全縁
表面の形状:スムーズ
透明性:半透明
粘稠度:バター様
(c)生理学的性質
カタラーゼ:陰性
オキシダーゼ:陰性
<炭化水素からの酸産生について>
グリセロール +
エリスリトール −
D−アラビノース −
L−アラビノース +
リボース −
D−キシロース −
L−キシロース −
アドニトール −
β−メチルキシロシド −
ガラクトース +
D−グルコース +
D−フルクトース +
D−マンノース −
L−ソルボース −
ラムノース −
ズルシトール −
イノシトール −
マンニトール +
ソルビトール −
α−メチル−D−マンノシド −
α−メチル−D−グルコシド −
N−アセチルグルコサミン −
アミグダリン −
アルブチン −
エスクリン −
サリシン −
セロビオース −
マルトース +
ラクトース −
メリビオース −
サッカロース −
トレハロース −
イヌリン −
メレジトース −
D−ラフィノース −
デンプン −
グリコーゲン −
キシリトール −
β−ゲンチオビオース −
D−ツラノース −
D−リキソース −
D−タガトース −
D−フコース −
L−フコース −
D−アラビトール −
L−アラビトール −
グルコン酸塩 −
2−ケト−グルコン酸 −
5−ケト−グルコン酸 −
嫌気的生育:−
生育温度範囲:40〜70℃
生育pH範囲:pH2.5〜6.5
塩化ナトリウム耐性:3%塩化ナトリウム濃度で生育
DNA塩基組成:GC含量62.6%
アリシクロバチルス・エスピーGCB−A1株は、グラム陰性桿菌であり、YSG寒天培地にて50℃で生育し、芽胞を形成し、カタラーゼ反応及びオキシダーゼ反応はともに陰性を示したことから、アリシクロバチルス・エスピーであることが推認された。
【0025】
また、上記微生物について、16SrRNAのホモロジー検索ソフト(BLAST)を用いた相同検索の結果、アリシクロバチルス属由来の16SrRNAに対し、高い相同性を示した。アリシクロバチルス・センダイエンシス(Alicyclobacillus sendaiensis)NTAP−1株と99.7%の相同性を示し、アリシクロバチルス・アシドカルダリウス(Alicyclobacillus acidocaldarius)ATCC27009株と98.4%の相同性を示した。アリシクロバチルス・エスピーGCB−A1株はアリシクロバチルス・センダイエンシスと最も近縁であった。アリシクロバチルス・センダイエンシスNTAP−1株は、生育温度が40〜65℃、4%塩化ナトリウム濃度で生育可能である(Int J Syst Evol Microbiol. 2003, 53, 1081-1084参照)。一方、アリシクロバチルス・エスピーGCB−A1株は、生育温度40〜70℃、3%塩化ナトリウム濃度で生育可能であることから同一種ではないと思料される。
【0026】
本微生物は、例えば、酵母エキス、並びにカルボキシメチルセルロース(CMC)及びキシランを含む寒天培地を使用し、好ましくは60〜80℃、より好ましくは65〜70℃の高温条件下、及びpH2.5〜6.5の酸性条件下にて培養することにより、耐熱性及び耐酸性を有する繊維性多糖類分解酵素の産生菌をスクリーニングすることができる。
【0027】
上記の微生物を用いて本発明の繊維性多糖類分解酵素を取得するには、まず培養液に微生物を接種し、常法に従って培養する工程が行なわれる。次に、前記培養液から上澄液又は濾過液を回収する工程が行なわれる。次に、上澄液又は濾過液からクロマトグラフィを用いて繊維性多糖類分解酵素を分離する工程が行なわれる。培養液は、例えば酵母エキス、ペプトン等を含有する公知の培地を適宜採用することができる。培養条件は、40〜70℃、pH2.5〜6.5が好ましく、45〜60℃、pH3.0〜5.0がより好ましい。上澄液は、培養後の培養液を遠心分離等の公知の方法を用いて取得することができる。クロマトグラフィとしては、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、カラムクロマトグラフィ及び高速液体クロマトグラフィ(HPLC)のいずれも使用することができる。また、クロマトグラフィ担体としては、例えば、イオン交換クロマトグラフィ、逆相クロマトグラフィ、ゲルろ過クロマトグラフィが挙げられる。繊維性多糖類分解酵素の分離工程は、上澄液又は濾過液から繊維性多糖類分解酵素を粗精製した状態で完了しても、さらに複数種類のクロマトグラフィを組み合わせることにより精製した状態で完了してもいずれでもよい。このようにして得られた酵素液は、そのまま溶液状態で適用しても、凍結乾燥等の方法を使用することにより粉末状にして適用してもよい。
【0028】
(第4の実施形態)
以下、この発明の遺伝子を具体化した第4の実施形態を詳細に説明する。本実施形態の遺伝子は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドである。配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる繊維性多糖類分解酵素をコードするポリヌクレオチドとして配列番号2で表わされる塩基配列を有するポリヌクレオチドが挙げられる。この遺伝子は、配列番号2で表わされる塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有するポリヌクレオチドを採用してもよい。
【0029】
実質的に同一の塩基配列を有するポリヌクレオチドとは、具体的には、(b)配列番号2で表わされ、1又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、且つキシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを示す。又は(c)配列番号2で表わされる塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つキシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを示す。ここで、1又は数個の塩基とは、好ましくは1〜10個の塩基、より好ましくは1〜5個の塩基を示す。尚、上記の塩基配列の同一性は、BLASTを用いた塩基配列ホモロジー検索法により実施することができる。
【0030】
キシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有するとは、その活性の程度が、その機能を発揮する限り配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる繊維性多糖類分解酵素と同程度のものであってもよい。又は低いもの(好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上)のみならず、これより高いものであってもよい。
【0031】
本実施形態の遺伝子は、例えば、アリシクロバチルス・エスピーGCB−A1(受託番号NITE BP-406)よりクローニングすることができる。クローニング方法としては、公知の方法、例えばプライマーを用いたPCR法を挙げることができる。なお、本実施形態の遺伝子は、公知の化学合成法によっても製造することができる。また、塩基配列における改変は、公知の方法、例えば部位特異的変異導入法等を用いて、改変しようとする塩基配列に、1又は数個の塩基の置換、欠失、又は付加の変異を導入することができる。
【0032】
本実施形態の遺伝子を用いて繊維性多糖類分解酵素を得るためには、公知のインビトロ(in vitro)タンパク合成系を利用して製造することができる。具体的には、本実施形態の遺伝子を公知の任意のベクターに組み込むことにより組換えベクターを作製する工程、該ベクターを宿主内に導入して形質転換体を作製する工程、該形質転換体を培養する工程、培養物中から目的のタンパク質を精製する工程からなる。形質転換体は、使用する組換えベクターにより適宜決定され、例えば大腸菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞、哺乳動物細胞等の種々の細胞を用いることができる。ポリペプチドを迅速かつ容易に大量生産できることから、大腸菌や酵母等の微生物を用いるのが好ましく、大量生産に特に適していることから大腸菌を用いるのが最も好ましい。培養物中から目的のタンパク質の精製方法は、公知の方法を適宜採用することができる。このようにして得られた酵素は、そのまま溶液状態で利用してもよく、凍結乾燥等の方法により粉末状態にして利用してもよい。
【0033】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)第1の実施形態において、上記(a)〜(e)の理化学的性質を有する繊維性多糖類分解酵素により、耐熱性を有するとともに、酸性条件下で作用する繊維性多糖類分解酵素を利用することができる。
【0034】
(2)第2の実施形態において、配列番号1で表わされるアミノ酸配列からなる繊維性多糖類分解酵素又は配列番号1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列からなる繊維性多糖類分解酵素を用いることにより、耐熱性を有するとともに、酸性条件下で作用する繊維性多糖類分解酵素を容易に利用することができる。
【0035】
(3)第3の実施形態において、アリシクロバチルス・エスピーGCB−A1(受託番号NITE BP-406)をスクリーニングにより分取した。したがって、配列番号1で表わされるアミノ酸配列からなる繊維性多糖類分解酵素を容易に取得することができる。また、配列番号1で表わされるアミノ酸配列からなる繊維性多糖類分解酵素をコードする遺伝子をクローニングすることができる。
【0036】
(4)第4の実施形態において、配列番号2で表わされる塩基配列を有するポリヌクレオチド、又は配列番号2で表わされる塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有するポリヌクレオチドからなる遺伝子を用いることにより、耐熱性を有するとともに、酸性条件下で作用する繊維性多糖類分解酵素を容易に取得することができる。
【0037】
(5)配列番号2で表わされる塩基配列を有するポリヌクレオチド、又は配列番号2で表わされる塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有するポリヌクレオチドからなる遺伝子を組み込んだベクター及び形質転換体を利用することにより、耐熱性を有するとともに、酸性条件下で作用する繊維性多糖類分解酵素を大量に合成することができる。
【0038】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において得られる繊維性多糖類分解酵素の用途は特に限定されず、例えば、植物性廃棄物の減量化又は堆肥化処理、植物性廃棄物、木材・草材等の植物由来のバイオマスから糖を得る方法、衣料用の洗浄成分、衣類の材質の改善、植物細胞をプロトプラスト化するための研究用試薬として使用することができる。
【実施例】
【0039】
次に、試験例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。
<試験例1:菌の分離>
菌株分取用の堆肥を採取した。採取した堆肥を水で希釈し、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びキシランを含む寒天培地(酵母エキス(ディフコ社製)0.2%、ペプトン(ディフコ社製)0.2%、カルボシキメチルセロース(CMC)又はキシラン(Birchwood)0.2%、pH4.0)を使用し、65℃で24時間培養して、耐熱性及び耐酸性の繊維性多糖類分解酵素の産生菌のスクリーニングを行なった。その結果、単離した微生物(GCB−A1と命名)株を分取した。
【0040】
本試験例において、自然界より単離したGCB−A1株を同定したところ、該菌株は生育形態所見及び生化学的所(上記参照)より、アリシクロバチルス・エスピー(Alicyclobacillus sp.)であることが判明した。本単離及び同定したアリシクロバチルス・エスピーGCB−A1を、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号NITE BP-406、受託日2007年8月29日)。以下、本実施例においては、寄託されたアリシクロバチルス・エスピーGCB−A1を使用した。
【0041】
<試験例2:繊維性多糖類分解酵素の抽出及びアミノ酸配列の決定>
分取したアリシクロバチルス・エスピーGCB−A1株を酵母エキス(ディフコ社製)0.2%、ペプトン(ディフコ社製)0.2%、CMC0.2%、pH4.0の液体培地に接種し、50℃で18時間培養した。培養後、菌体を遠心分離により取り除き、上清を限外濾過膜で濃縮した。
【0042】
上記のように採取された培養上清をCMC又はキシラン(Birchwood)を含んだSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により展開し、CBB染色とザイモグラムを行ない、セルラーゼとキシラナーゼの両方の活性を有する約100kDaの繊維性多糖類分解酵素を検出した。
【0043】
上記検出された約100kDaの繊維性多糖類分解酵素をSDS−ポリアクリルアミドゲルから切り出し、セントリエリュータ(アミコン社製)を用いてゲルからタンパク質を取り出し、限外濾過膜で脱塩・濃縮し、精製タンパク質を得た。得られた精製タンパク質について、N末端アミノ酸配列分析を行なった。残りはプロテアーゼV8(ロシュ社製)を用いて断片化し、タンパク質の内部配列分析を行なった(配列番号1,2参照)。得られたアミノ酸配列データに基づいて、LA PCR in vitro Cloning kit(タカラバイオ社製)を用いて、アリシクロバチルス・エスピーGCB−A1株より繊維性多糖類分解酵素の遺伝子をクローニングした。
【0044】
<試験例3:理化学的性質の特定>
採取された培養上清を繊維性多糖類分解酵素の含有溶液として用い、至適pHの測定を行なった。基質には1%(w/v)CMCを含む0.05Mグリシン−塩酸緩衝液(pH2.0、pH3.0)(グラフ中「Glycine buffer」と表記)、0.05Mリン酸−クエン酸緩衝液(pH3.0、pH4.0、pH5.0、pH6.0、pH7.0)(グラフ中「PC buffer」と表記)を使用し、60℃、30分間の反応条件下でDNS法により活性を測定した。最大活性を示したpHの値を100%とした相対活性で示した。結果を図1に示す。その結果、至適pHは2〜6の範囲にあり、より正確にはpH3〜4であった。
【0045】
採取された培養上清を繊維性多糖類分解酵素の含有溶液として用い、至適温度の測定を行なった。基質には1%(w/v)CMCを含む0.05Mリン酸−クエン酸緩衝液pH4.0を使用し、各温度、20分間の反応条件下でDNS法により活性を測定した。最大活性を示した温度の値を100%とした相対活性で示した。結果を図2に示す。その結果、至適温度は60〜90℃の範囲にあり、正確には70〜85℃、より正確には75〜80℃であった。
【0046】
採取された培養上清を繊維性多糖類分解酵素の含有溶液として用い、基質特異性の測定を行なった。各基質を1%(w/v)含む0.05Mリン酸−クエン酸緩衝液pH4.0を使用し、60℃、60分間の反応を行い、還元糖の生成量を調べた。結果を表1に示す。その結果、キシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解することが示された。また、ラミナリンやガラクタンを基質とした場合、還元糖の産生は確認されなかった。
【0047】
【表1】

採取された培養上清を繊維性多糖類分解酵素の含有溶液として用い、熱安定性の測定を行なった。基質には1%(w/v)CMCを含む0.05Mリン酸−クエン酸緩衝液pH4.0中に培養上清を添加し、40〜100℃の各温度で10分間インシュベートした後の残存活性について、熱に対して未処理の活性を100%とした場合の割合を測定した。結果を図3に示す。その結果、70℃以下の温度では、95〜100%の残存活性が認められ、それらの温度範囲では熱安定性を有することが確認された。80℃の温度では約45%の残存活性が認められ、それ以上の温度では、耐熱性は低下することが確認された。
【0048】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)配列番号2で表わされる塩基配列からなる遺伝子を含む組換えベクター。(b)上記組換えベクターを含む形質転換体。したがって、この(a)及び(b)に記載の発明によれば、形質転換体として大腸菌等の宿主を用いて、本発明の繊維性多糖類分解酵素を大量に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施例の繊維性多糖類分解酵素のpH依存性を示すグラフ。
【図2】本実施例の繊維性多糖類分解酵素の温度依存性を示すグラフ。
【図3】本実施例の繊維性多糖類分解酵素の温度安定性を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の理化学的性質を有する繊維性多糖類分解酵素。
(a)キシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する。
(b)SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が100kDa。
(c)至適温度範囲が70〜85℃。
(d)至適pH範囲が2〜6。
(e)70℃、10分間の処理で80%以上の活性を保有する。
【請求項2】
以下の(a)から(c)のいずれかに記載の繊維性多糖類分解酵素。
(a)配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有する。
(b)配列番号1で表わされ、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つキシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有する。
(c)配列番号1で表わされるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有する。
【請求項3】
請求項2に記載の繊維性多糖類分解酵素をコードする遺伝子。
【請求項4】
以下の(a)から(c)のいずれかに記載のポリヌクレオチドからなる遺伝子。
(a)配列番号2で表わされる塩基配列を有する。
(b)配列番号2で表わされ、1又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、且つキシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有するタンパク質をコードする。
(c)配列番号2で表わされる塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つキシラン、セルロース、リケナン及びマンナンから選ばれる少なくとも一つの繊維性多糖類を加水分解する活性を有するタンパク質をコードする。
【請求項5】
配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有する繊維性多糖類分解酵素の生産方法であって、
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されたアリシクロバチルス.エスピーGCB−A1(受託番号NITE BP-406)を、培養液を用いて培養する工程、
前記培養液から上澄液又は濾過液を回収する工程、
上澄液又は濾過液からクロマトグラフィを用いて配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有する繊維性多糖類分解酵素を分離する工程
からなる配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有する繊維性多糖類分解酵素の生産方法。
【請求項6】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターへ2007年8月29日に寄託されたアリシクロバチルス.エスピーGCB−A1(受託番号NITE BP-406)である微生物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−82051(P2009−82051A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254869(P2007−254869)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】