説明

繊維成型品の抄造方法及び抄造装置

【課題】補強繊維への熱硬化性樹脂の定着を効率的に行うことができる繊維成型品の抄造方法及び抄造装置を提供する。
【解決手段】抄造方法を実施する抄造装置1は、スラリーSを流送するスラリー流送管3と、スラリー流送管3の下流側先端に設けられる分散ノズル5と、スラリー流送管3に対し三又に連結され、スラリーSの定着を行う定着剤Aをスラリー流送管3内に投入する定着剤投入管4と、分散ノズル5から分散投入されるスラリーSを収受する抄造槽6とを備え、定着剤投入管4が連結される位置から分散ノズル5までのスラリー流送管3が、スラリーSを停留させずに流送可能に構成されるとともに、スラリーSが分散ノズル5に到達するまでに定着を完了させるだけの長さを備え、分散ノズル5は、抄造槽6に蓄えられた受け水24へスラリーSを直接投入可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、補強繊維及び熱硬化性樹脂を媒体中に分散させて形成したスラリーを抄き取って、繊維成型品を抄造する抄造方法及び抄造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、媒体中にフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂とアラミド繊維等の補強繊維を分散配合して形成したスラリーを抄き取り、得られた抄造材料を加熱して熱硬化性樹脂を硬化させることにより機械強度を高める繊維成型品が製造されている。
【0003】
かかる繊維成型品では、熱硬化した熱硬化性樹脂が補強繊維を相互に接着することにより機械強度が高められるが、熱硬化性樹脂が補強繊維を相互に接着可能となるためには、熱硬化性樹脂が補強繊維に定着している必要が有る。このため抄造するスラリーに、非イオン界面活性剤等の定着剤が添加されている(特許文献1参照)。
【0004】
この定着剤は、抄造槽の上部に設けられた定着槽においてスラリーに混合されており、定着剤を混合したスラリーは、熱硬化性樹脂の定着が完了した後、定着槽から定着槽下部に設けられた分散ノズルを介して下流の抄造槽へ投入されている。また、特許文献1では、抄造槽内に設けられる抄造網上に満遍なくスラリーを分散させるために、底一面に抜水孔が設けられた貯水槽が設けられており、分散ノズルから貯水槽にスラリーを投入し、貯水槽の抜水孔を一斉に開くことにより、受け水にスラリーを投入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−123386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、熱硬化性樹脂は、補強繊維表面に一度定着しても、スラリーに衝撃を加えるとその定着が外れ、一度定着が外れると再び定着させることが困難であるという性質を有する。この性質により、特許文献1の方法では、補強繊維に熱硬化性樹脂を定着させたスラリーを分散ノズルで貯水槽へ投入する際や貯水槽から抄造槽へスラリーを投入する際にスラリーに衝撃が加わるため、熱硬化性樹脂の定着が外れてしまうという問題があり、予め定着剤を多めに添加する必要が生じたり、より強度の高い繊維成型品を開発する上での障害となったりしていた。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、熱硬化性樹脂の定着がスラリーを抄き取る前に外れてしまうことを抑制できる繊維成型品の抄造方法及び抄造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、分散槽で補強繊維と熱硬化性樹脂とを媒体中に分散させてスラリーを形成するスラリー形成工程と、前記分散槽から流送されるスラリーから所定量のスラリーを計量手段により計量するスラリー計量工程と、前記スラリー計量工程で計量したスラリーが流送されるスラリー流送管内で、当該スラリーに定着剤を添加し、スラリーに含まれる熱硬化性樹脂の補強繊維に対する定着を行う定着工程と、前記定着工程を経たスラリーを前記スラリー流送管の下流側先端に設けられた分散ノズルから抄造槽へ分散投入するスラリー投入工程と、前記スラリー投入工程で前記抄造槽へ投入したスラリーを抄造槽内に配設された抄造網で抄き取る抄造工程とを有し、前記定着工程において、スラリーに前記定着剤が添加されてから前記分散ノズルまでスラリーが流送される間のスラリー流送管内でスラリーを停留させることなく前記定着を行い、前記定着工程に連続して前記スラリー投入工程を行うとともに前記定着工程で定着を行いながら流送したスラリーを停留させることなくそのまま前記分散ノズルから前記抄造槽に蓄えられた受け水へと直接投入することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る繊維成型品の抄造方法では、スラリー流送管内でスラリーの定着を行うため、スラリーを定着させるための定着槽を省略することができる。また、定着工程において、スラリーの流れをタンク等への貯留やバルブの閉鎖等により停留させることなく分散ノズルまでスラリーを流送するとともに、分散ノズルから直接スラリーを抄造槽に投入するため、スラリーを停留した状態から放流するときに生じる衝撃を回避することができ、熱硬化性樹脂の補強繊維に対する定着を外してしまうことを抑制することができる。
【0010】
本発明の繊維成型品の抄造方法は、前記計量手段として流量計を用いることが好ましい。
【0011】
本発明の計量手段としては、計量槽を用いることもできるが、このように、流量計により抄造槽へ投入するスラリーの重量を計測することにより、スラリーの投入量を計測するための計測槽を省略することができる。
【0012】
本発明の繊維成型品の抄造装置は、熱硬化性樹脂と補強繊維とを媒体中に分散させてスラリーを形成する分散槽と、前記分散槽から前記スラリーを流送するスラリー流送管と、前記スラリー流送管の下流側先端に設けられる分散ノズルと、前記分散槽と前記分散ノズルの間でスラリー流送管に設けられスラリー流送管を流送されてくるスラリーから所定量を計量するスラリー計量手段と、前記計量手段と前記分散ノズルの間で前記スラリー流送管に対し三又に連結され、前記熱硬化性樹脂の前記補強繊維に対する定着を行う定着剤を前記スラリー流送管内に投入する定着剤投入管と、前記分散ノズルから分散投入される前記スラリーを収受する抄造槽と、前記抄造槽内に配備され、前記スラリーを抄き取る抄造網とを備え、前記定着剤投入管が連結される位置から前記分散ノズルまでのスラリー流送管が、前記スラリーを停留させずに流送可能に構成されるとともに、スラリーが分散ノズルに到達するまでに前記定着を完了させるだけの長さを備え、前記分散ノズルは、前記抄造槽に蓄えられた受け水へ前記スラリーを直接投入可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の繊維成型品の抄造方法及び抄造装置によれば、抄造前に熱硬化性樹脂の補強繊維への定着が外れてしまうことを抑制することができるため、定着剤を節約することができるとともに、より強度の高い繊維成型品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る抄造装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る抄造方法の流れ図である。
【図3】抄き取った抄造材料を抄造網とともに複数弾積み上げて脱水プレスする態様を示す説明図である。
【図4】脱水を終えた抄造材料を示す側面外観図である。
【図5】図1に示した抄造装置の分散ノズルを示し、(a)は斜視図、(b)は底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき詳述する。図1は、本発明の一実施形態に係る抄造装置1である。抄造装置1は、水(媒体)W中に補強繊維Fや熱硬化性樹脂Rの他、各種の充填剤を配合して撹拌する配合槽20と、配合槽20で配合した材料を分散させてスラリーSを形成する分散槽2と、分散槽2からスラリーSを流送するスラリー流送管3と、スラリー流送管3に三又に連結され熱硬化性樹脂Rを補強繊維Fに定着させる定着剤Aをスラリー流送管3内に投入する定着剤投入管4と、スラリー流送管3の先端に設けられる分散ノズル5と、分散ノズル5から拡散投入されるスラリーSを収受する抄造槽6と、抄造槽6内に配設される抄造網7と、分散槽2の下流で定着剤投入管4がスラリー流送管3に連結される位置のやや上流に設けられる流量計8とを主に備えている。
【0016】
配合槽20は、上部が開口した有底円筒形状のタンクであり、図1に示すように、投入された原材料を撹拌して混合する撹拌機21を備えている。
【0017】
分散槽2は、配合槽20同様上部が開口した有底円筒形状のタンクであり、配合槽20の下流側に連続して設けられている。分散槽2は、撹拌機9を備えており、配合槽20から配管を通して移送された配合済みの材料(水Wや補強繊維Fなど)をさらに撹拌して、補強繊維Fや熱硬化性樹脂Rを水W中に分散させスラリーSを形成する。分散槽2の上方には、スラリーSの濃度を調整する水Wを追加するための注水口(図示せず)が設けられている。
【0018】
スラリー流送管3は、上流側の端部が分散槽2に連結され、下流側の端部は、抄造槽6の上方で水平方向から折れ曲がって垂下し、この垂下する部分の下端に分散ノズル5が設けられている。スラリー流送管3には、分散槽2との連結部となる上流側から下流側へと順に、バルブ18、スラリーS(図1中実線の矢印で示す。)を流送するスラリー流送ポンプ10、ピンチバルブ17及び流量計8が設けられている。
【0019】
定着剤投入管4は、定着剤Aを貯留する定着剤タンク12と、スラリー流送管3の流量計8のすぐ下流側部分とを連絡している。定着剤投入管4は、上流部に定着剤A(図1中破線の矢印で示す。)を流送する定着剤流送ポンプ13を備え、下流部に定着剤Aの逆流を防止するチャッキ弁23を備えている。
定着剤投入管4は、スラリー流送管3に対する連結位置27が上流側から下流側まで複数個所に変更できることが好ましい。こうすることで、後述するように定着を行うスラリーSの成分や分量に応じて定着剤Aの投入位置を変更することができる。
【0020】
分散ノズル5は、図5に示すように、側面視半円状をなすかまぼこ状の箱体であり、曲面を底面5aにして、上方から垂下するスラリー流送管3の下流側先端に取り付けられている。この底面5aには、多数の噴水孔5bが、スラリーSを抄造槽6の開口部6a全体に向けて均一に噴き出すことができるよう適宜配置されている。分散ノズル5は、例えば縦が約150mmで横が約400mmであり、噴水孔5bは、長径が約40mmで短径が約20mmの長円形である。
【0021】
抄造槽6は、上下が開口する角筒上の抄造枠14と、抄造枠14と水平断面形状を略同じくする有底角筒状の排水槽15とを備えている。抄造枠14と排水槽15とは、間に抄造網7と抄造網7を支持する抄造網ホルダ16とを挟み込んだ状態で連結される。抄造枠14の底側周縁部には、矩形の枠状のシール部材14aが貼付されており、シール部材14aで抄造網7及び抄造網ホルダ16の周縁部を押さえつけてシール部26を形成する。
こうして、抄造枠14と排水槽15は、上下に離間可能に水封される。排水槽15には、抄造槽6から水抜きを行う排水管22が設けられている。
【0022】
抄造網7は、例えばステンレス鋼で構成された約60メッシュの網体である。抄造網7を載置支持する抄造網ホルダ16は、いわゆるパンチングメタルや合成樹脂板などで構成されていて、通水孔16aが全面にわたり多数穿設されている。
【0023】
流量計8はスラリーSの流量を重量で測定する重量流量計である。流量計8は、そのやや上流に設けられているピンチバルブ17と連動して、所定量のスラリーSを計量し、下流側へ流送するよう構成されている。
【0024】
次に、図1の抄造装置1を用いた本発明の抄造方法の実施形態について、図2の流れ図を用いて詳述する。
尚、本発明の抄造方法は、以下の実施形態に限られるものではない。
<実施形態1>
(第1工程)
第1工程は、分散槽2で補強繊維F及び熱硬化性樹脂Bを水W中に分散させてスラリーSを形成するスラリー形成工程P1である。配合槽20で、水Wに補強繊維F及び熱硬化性樹脂Rの他、各種の充填剤を計量して配合したものを、分散槽2へ移送し、適宜水Wを加えて濃度を調整しながら、撹拌機9で撹拌してスラリーSを形成する。
【0025】
実施形態1では、熱硬化性樹脂Rとしてフェノール樹脂粉末を用い、補強繊維Fとして合成繊維のアラミド繊維を用いた。原材料の詳細を以下に示す。
(1)フェノール樹脂粉末・・・15〜45wt%
(2)アラミド繊維・・・・・・20〜30wt%
(3)ガラス繊維・・・・・・・10〜15wt%
(4)カーボンパウダー・・・・20〜30wt%
ここで、フェノール樹脂粉末は、エア・ウォーター社製のベルパールを用い、アラミド繊維としては、細径のフィラメントを約3mmにカットした米国デュポン社製のケブラー(登録商標)繊維又は帝人テクノプロダクツ株式会社製のテクノーラ(登録商標)を用いた。また、ガラス繊維は、約9μm径のロービングを約3mmにカットしたものを用いた。カーボンパウダーは、製品強度を高くし製品表面のすべりをよくするために添加した。定着剤としては、住友精化社製のポリエチレンオキサイドを主成分とする非イオン界面活性剤「PEO−PE」を用いた。
【0026】
(第2工程)
第2工程は、抄造槽6へ一度に投入するスラリーSの重量を計測するスラリー計量工程P2である。本実施形態では、スラリー流送管3に設けられた流量計8によりスラリーSの重量を測定する。図1において、流量計8より上流側のスラリー流送管に設けられたスラリー流送ポンプ10は連続的に駆動しており、ピンチバルブ17を開放すると、スラリーSが流量計8を通過し始め、流量計8が所定の重量のスラリーSが通過したことを計量すると、ピンチバルブ17が閉鎖される。こうして一度に抄造槽6へ投入するスラリーが計測される。ピンチバルブ17が閉鎖されている間、スラリー流送ポンプ10が流送するスラリーSは、バイパス(図示せず)を通って分散槽2へ戻される。
【0027】
(第3工程)
第3工程は、スラリーSに定着剤Aを添加して補強繊維Fに熱硬化性樹脂Rを定着させる定着工程P3である。定着剤Aは、定着剤タンク12から定着剤投入管4を介し、流量計8よりすぐ下流部分でスラリー流送管3に投入される。定着剤Aにより、スラリーSに含まれる熱硬化性樹脂Rが補強繊維Fに定着される。
詳細には、ピンチバルブ17が開かれて流量計8側へスラリーSが流送されると同時に、バルブ19が開かれて、定着剤Aがスラリー流送管内を流れるスラリーSの先頭部分から定着剤Aが添加されるように、かつスラリーSに対する定着剤Aの重量濃度が所定の濃度となるように制御手段(図示せず)により制御されている。
本実施形態では、上記した原材料に対し、定着剤Aの濃度が0.08wt%となるように定着剤Aを投入した。
【0028】
この定着は、定着剤投入管4がスラリー流送管3に連結される連結位置27から分散槽5までの間に行われる。連結位置27から分散ノズル5までの距離が短い場合は、スラリーSの定着が完了せず、白く濁ったスラリーSが分散ノズルから放出される。また、この距離が長すぎる場合は、一度定着した熱硬化性樹脂Fの定着が外れて、分散ノズル5から白く濁ったスラリーSが流出される場合が有る。
従って、定着がうまくいかず、白く濁ったスラリーSが分散ノズル5から放出される場合には、連結位置27をスラリー流送管3の上流側又は下流側に移動させて、分散ノズル5から放出されるスラリーSが透明な状態となるよう、連結位置27を調整する。
【0029】
(第4工程)
第4工程は、定着工程P3を経たスラリーSを、分散ノズル5により分散して抄造槽6へ投入するスラリー投入工程P4である。スラリーSは、分散ノズル5に設けられた噴水孔5bから抄造槽6内に貯留された受け水24の表面に均等に分散するように投入される。
受け水24の水面は、スラリーSがこの水面に衝突する衝撃により、熱硬化性樹脂Fの定着が外れないように十分に高い(分散ノズル5に近い)ことが好ましい。また、このように受け水Sの水面を高くすることで、スラリーSを分散させるための貯水槽を分散ノズル5と抄造槽6の間に設けなくとも、スラリーSを均一に抄造網7の上に分散させることができる。スラリーS投入後は、ピンチバルブ11を閉じて、スラリー流送管3内に残ったスラリーSが抄造槽6内に垂れ落ちるのを防止する。
【0030】
上述したスラリー計量工程P2、定着工程P3及びスラリー投入工程P4は、分散槽2から分散ノズル5までのスラリーSの流送を途中で停留することなく、一連に行われる。また、スラリーSは、分散ノズル5から抄造槽6に蓄えられた受け水24へ直接的に投入される。こうすることで、スラリーSの流送を停留・再開することによる衝撃を少なくして、補強繊維Fに対する熱硬化性樹脂Rの定着が外れることを抑制することができる。
【0031】
(第5工程)
第5工程は、抄造槽6へ投入されたスラリーSを抄造槽6内に配備された抄造網7で抄き取る抄造工程P5である。抄造工程P5では、排水管22に設けられた排水バルブ28を開いて抄造槽6から水抜きを行う。すると、抄造枠14と排水槽15の間に配備された抄造網7で熱硬化性樹脂Rが付着した状態の補強繊維Fが抄き取られる。
【0032】
第5工程の水抜きは、抄造槽6中のスラリーSの水面が平定しているときにパンチングメタル16のいずれの通水孔からも均等にかつ一気に水を抜くよう行うのが好ましい。抄造網7上のスラリーSの表面が波打っている状態で水抜きを行うと、抄造材料40が波打って仕上がる虞が有る。
【0033】
この水抜きの際に、定着剤Aの機能により、熱硬化性樹脂R(フェノール樹脂粉末)は補強繊維F(アラミド繊維)の表面にしっかりと吸着されて流れ落ちることがない。水抜き後に、抄造枠14はエアシリンダ(図示省略)により持ち上げられて排水槽15から分離される。そして、水Wを多量(含水率=約85wt%程度)に含む抄造材料40aが抄造網7を付けたまま排水槽15上から取り出される。
【0034】
(第6工程)
第6工程は、抄造材料40aをプレスして、抄造材料40aの脱水を行う脱水工程P6である。抄造工程P5で取り出された抄造材料40a及び抄造網7は、図3に示すように、プレス用架台30下部の固定座23上に複数段重ね合わせられ、プレス板24により圧下されて脱水される。このように抄造網7を抄造材料40aの間に挟んだ状態で複数段重ねてプレス脱水すると、抄造網7が水の通り道となって脱水を容易に迅速に終えることができる。
図4は、脱水工程P6を終えた後に得られた抄造材料40である。プレス脱水後の抄造材料40は含水率が約34wt%程度であり、その厚さTは例えば20mm程度(繊維密度は約5000g/m2 )となっている。プレス後は、抄造材料40を抄造網7から容易に剥し取ることができる。図4に示すように、抄造材料40中の補強繊維Fには熱硬化性樹脂Rが定着されている。ここまでの工程P1〜P6は常温・常圧下で実施される。
【0035】
(第7工程)
第7工程は、プレス脱水された抄造材料40を、乾燥炉(図示せず)で乾燥する乾燥工程である。実施形態1では、抄造材料40を、例えば約110℃で90分間加熱する。
【0036】
(第8工程)
第8工程は、乾燥した抄造材料40を高温で加熱処理する高温加熱工程P8である。実施形態1では、200℃程度の高温でこの加熱処理を行う。加熱処理を行うと、補強繊維F(アラミド繊維)に付着している熱硬化性樹脂(フェノール樹脂)Rが、図4に示す補強繊維Fどうしの接合点25に浸透した状態で硬化し、補強繊維Fを相互に接着して極めて機械的強度の高い3次元網目構造体を形成する。
【0037】
この実施形態による抄造装置1で高温加熱工程P8を経ることにより製造された繊維成型品は、極めて機械的強度が高く有用な成型製品として市場に提供される。
【0038】
<実施形態2>
次に、実施形態2について説明する。実施形態2において、実施形態1と共通する部分については説明を省略する。
実施形態2においては、実施形態1と同様、熱硬化性樹脂粉末Rとしてフェノール樹脂を用い、補強繊維Fとして合成繊維のアラミド繊維用いた。実施形態1で用いたガラス繊維やカーボンパンダーは用いなかった。原材料の詳細を以下に示す。
(1)フェノール樹脂粉末・・・40wt%
(2)アラミド繊維・・・・・・40〜70wt%
ここで、フェノール樹脂粉末は、実施形態1同様エア・ウォーター社製のベルパールを用い、アラミド繊維としては、細径のフィラメントを約3mmにカットしたケブラー(米国デュポン社の登録商標)繊維を用いた。定着剤としては、住友精化製の「PEO−PE」を用い、上記の原材料に対し0.08wt%となるように添加した。
【0039】
実施形態2において、実施形態1と同様の連結位置27においてスラリー流送管内へ定着剤を混合すると、分散ノズル5から抄造槽6へ、定着が不十分なために白濁したスラリーSが投入された。そこで、定着剤の投入位置を実施形態1よりも上流側、下流側へと移動させながら、分散ノズル5から定着が十分になされ透明になったスラリーSが流出されるような定着剤の投入位置(連結位置27)を探索した。すると、実施形態2の原材料を用いた場合、実施形態1の場合よりもかなり下流側で投入すると、うまく定着を行うことができることが分かった。
【0040】
本発明の実施形態は、上述したものに限られず、熱硬化性樹脂Rの材質としては、フェノール樹脂以外に、例えばフラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などを用いることができる。また、補強繊維としては、アラミド繊維や、ガラス繊維に限らず、他の樹脂繊維や、金属繊維、カーボン繊維、天然繊維の他、公知の繊維を適宜用いることができ、補強繊維の長さも3mmに限られず、3mm未満であってもよいし、3mmを超えるものを用いてもよい。ポリエチレンオキサイド以外の定着剤やカーボンパウダー以外の充填材を用いることももちろん可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の繊維成型品の抄造方法及び抄造装置によれば、熱硬化性樹脂を補強繊維に効率よく定着させることができ、補強繊維どうしを強固に結合できるため、機械強度の優れた繊維成型品を提供することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 抄造装置
2 分散器
3 スラリー流送管
4 定着剤投入管
5 分散ノズル
6 抄造槽
7 抄造網
8 流量計
F 補強繊維
R 熱硬化性樹脂
W (水)媒体
S スラリー
A 定着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散槽で補強繊維と熱硬化性樹脂とを媒体中に分散させてスラリーを形成するスラリー形成工程と、
前記分散槽から流送されるスラリーから所定量のスラリーを計量手段により計量するスラリー計量工程と、
前記スラリー計量工程で計量したスラリーが流送されるスラリー流送管内で、当該スラリーに定着剤を添加し、スラリーに含まれる熱硬化性樹脂の補強繊維に対する定着を行う定着工程と、
前記定着工程を経たスラリーを前記スラリー流送管の下流側先端に設けられた分散ノズルから抄造槽へ分散投入するスラリー投入工程と、
前記スラリー投入工程で前記抄造槽へ投入したスラリーを抄造槽内に配設された抄造網で抄き取る抄造工程と
を有し、
前記定着工程において、スラリーに前記定着剤が添加されてから前記分散ノズルまでスラリーが流送される間のスラリー流送管内でスラリーを停留させることなく前記定着を行い、前記定着工程に連続して前記スラリー投入工程を行うとともに前記定着工程で定着を行いながら流送したスラリーを停留させることなくそのまま前記分散ノズルから前記抄造槽に蓄えられた受け水へと直接投入することを特徴とする繊維成型品の抄造方法。
【請求項2】
前記計量手段として流量計を用いる請求項1に記載の繊維成型品の抄造方法。
【請求項3】
熱硬化性樹脂と補強繊維とを媒体中に分散させてスラリーを形成する分散槽と、
前記分散槽から前記スラリーを流送するスラリー流送管と、
前記スラリー流送管の下流側先端に設けられる分散ノズルと、
前記分散槽と前記分散ノズルの間でスラリー流送管に設けられスラリー流送管を流送されるスラリーから所定量を計量するスラリー計量手段と、
前記計量手段と前記分散ノズルの間で前記スラリー流送管に対し三又に連結され、前記熱硬化性樹脂の前記補強繊維に対する定着を行う定着剤を前記スラリー流送管内に投入する定着剤投入管と、
前記分散ノズルから分散投入される前記スラリーを収受する抄造槽と、
前記抄造槽内に配備され、前記スラリーを抄き取る抄造網と
を備え、
前記定着剤投入管が連結される位置から前記分散ノズルまでのスラリー流送管が、前記スラリーを停留させずに流送可能に構成されるとともに、スラリーが分散ノズルに到達するまでに前記定着を完了させるだけの長さを備え、
前記分散ノズルは、前記抄造槽に蓄えられた受け水へ前記スラリーを直接投入可能であることを特徴とする繊維成型品の抄造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−72149(P2013−72149A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211008(P2011−211008)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(598159908)株式会社ワメンテクノ (5)
【Fターム(参考)】