説明

繊維成形体からなるフィルター体の製造方法

【課題】面方向の繊維密度をコントロールし、且つ厚み方向の繊維密度勾配を抑制して濾過性能を向上させることのできる繊維成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】吸引口33を有する容器31内に通気可能な扁平な成形型37を配設し、容器31内において繊維を水中に分散させたスラリー状材料Sに対して成形型37を介して厚み方向の少なくとも一方向から吸引力Xを作用させ、繊維が流動可能な状態で成形型37の面方向でスラリー状材料Sに作用する吸引力Xに勾配をつけることにより吸引力の大きい位置に繊維を寄せ集めてプレ繊維成形体41を成形し(第1の工程)、そのプレ繊維成形体41の厚み方向の少なくとも他方向側の面41bに吸引力を作用させて該プレ繊維成形体41を圧縮して繊維成形体23を成形する(第2の工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維成形体からなるフィルター体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、フィルター体ではなく緩衝材を構成するものだが、繊維成形体の製造方法が開示されている。その製造方法によれば、短冊状にカットした古紙を水に分散させたスラリーを吸引して脱水することにより繊維成形体を得ることができる。具体的には、先ず、上部が開放しており下部に吸引口を備える成形容器の内部に、多数の脱水用小孔を有する成形型を配置し、この成形型に前記スラリーを注入しながら下部の吸引孔から吸引して脱水することにより、短冊状の古紙を容器の開放面上に盛り上がるように堆積させる。次いで、容器から盛り上がった不要部分を切除して上面を平坦にし、軽くプレスして上面を平滑にする。この製造方法によれば、厳密には吸引力が作用する下方ほど繊維密度が大きくなるものの、敢えて解繊していない短冊形状の古紙を用いることにより全体として嵩高でクッション性能に優れる繊維成形体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−234499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の繊維成形体は、解繊していない古紙により嵩高に構成されておりフィルター体として用いられるものではないが、解繊された繊維により構成された繊維成形体はフィルター体として使用されることがある。例えば、オイルフィルターには、円盤状の繊維成形体からなるフィルター体に対してオイルを面方向に通過させて濾過するものがある。本発明者らは、このようなフィルター体について、濾過性能を高めるべく鋭意検討したが、特許文献1のように厚み方向では一方から他方にかけて徐々に繊維密度が変化し、面方向では繊維密度が一定となる繊維成形体の製造方法によりフィルター体を製造しても濾過性能の向上には限界があった。そこで、繊維密度に着目して更に検討を重ねた結果、面方向の繊維密度の勾配をコントロールしながら厚み方向における繊維密度の勾配を抑制することで、濾過性能を向上させることのできる繊維成形体の製造方法を見出し、本発明に至った。すなわち、本発明の目的は、面方向の繊維密度をコントロールし、且つ厚み方向の繊維密度勾配を抑制して濾過性能を向上させることのできる繊維成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の繊維成形体からなるフィルター体の製造方法は、繊維を水中に分散させたスラリー状材料からプレ繊維成形体を成形する第1の工程と、第1の工程で成形されたプレ繊維成形体から繊維成形体を成形する第2の工程と、を備えている。
【0006】
第1の工程では、吸引口を有する容器内に通気可能な扁平な成形型を配設し、容器内において繊維を水中に分散させたスラリー状材料に対して成形型を介して厚み方向の少なくとも一方向から吸引力を作用させる。このとき、繊維が流動可能な状態で成形型の面方向でスラリー状材料に作用する吸引力に勾配をつけることにより、吸引力の大きい位置に繊維を寄せ集めてプレ繊維成形体を成形する。この第1の工程では、面方向において相対的に吸引力の大きい位置にスラリー状材料中の繊維が寄せ集められることにより、吸引力の大きい位置では繊維量が相対的に多く、吸引力の小さい位置では繊維量が相対的に少ない、面方向で繊維量に勾配のある繊維の集合体が成形される。このような繊維の集合体を本発明ではプレ繊維成形体と称する。プレ繊維成形体の段階では、面方向の繊維密度に勾配の有無は限定されない。プレ繊維成形体としては、例えば、面方向で繊維密度の勾配がほとんど無く、繊維量の多い部位が盛り上がったものも含まれるし、厚みがある程度制限されることで繊維量の多い部位では繊維が密になった面方向で繊維密度に勾配のあるものも含まれる。
【0007】
第2の工程では、第1の工程で成形されたプレ繊維成形体の厚み方向の少なくとも他方向側の面に吸引力を作用させて該プレ繊維成形体を圧縮して繊維成形体を成形する。プレ繊維成形体は圧縮と共に脱水されて繊維成形体となる。繊維量の多い部位が盛り上がり、面方向で繊維密度の勾配が殆ど無いプレ繊維成形体であっても、この第2の工程において盛り上がった部位の方が他の部位よりも圧縮の程度が大きくなるように圧縮されて扁平になることで、面方向の繊維密度に勾配がつけられる。したがって、第2の工程で得られる繊維成形体の面方向の繊維密度は、プレ繊維成形体における繊維密度勾配の有無に関わらず、第1の工程で繊維が寄せ集められた部位において相対的に大きくなる。そこで、第1の工程において、最終的にフィルター体における濾過流路の出口側(下流側)となる部位に繊維を寄せ集めるのが好ましい。その場合、フィルター体における濾過流路の入り口側から出口側にかけて徐々に繊維密度が大きくなり、間隙が漸次小さくなるため、濾過時の圧力損失が小さくなり、濾過性能をより向上させることができる。
【0008】
第2の工程では、プレ繊維成形体の少なくとも他方向側の面に吸引力を作用させる。つまり、第1の工程と第2の工程とを経れば、必ず繊維成形体に対して厚み方向の両方の面に吸引力が作用するように吸引面が設定される。繊維成形体の成形にあたり、一方向のみから吸引力を作用させた場合、一方面側の繊維密度は他方面側より大きくなる傾向にある。そこで、第2の工程において、第1の工程で吸引力を作用させた一方面とは反対側の他方面に対して吸引力を作用させることにより、厚み方向の繊維密度勾配を抑制することができる。
【0009】
本発明の繊維成形体からなるフィルター体の製造方法の望ましい一形態として、第1の工程においてスラリー状材料に対して一方向から吸引力を作用させてプレ繊維成形体を成形し、第2の工程においてプレ繊維成形体を反転させて第1の工程で吸引力を作用させた一方向側の面(一方面)とは反対側の他方面に対して前記一方向から吸引力を作用させて繊維成形体を成形する方法が挙げられる。この場合、第1の工程と第2の工程で吸引方向は同じであるため、同じ容器を用いることができる。吸引力を作用させる一方向が下方であると、水分の自重に逆らわずに吸引力を作用させることにより、効率よく脱水することができる点で一層好ましい。
【0010】
本発明では、第2の工程においてプレ繊維成形体に対して厚み方向の両方向から吸引力を作用させるのも好ましい。それにより、効率よく脱水することができる。
【0011】
本発明の繊維成形体からなるフィルター体の製造方法の望ましい他の形態として、第1の工程において、スラリー状材料に対して他方向からも吸引力を作用させる方法が挙げられる。この場合、繊維がスラリー状材料中で流動可能な状態において厚み方向の両方向から吸引力を作用させるため、厚み方向の繊維密度の勾配を一層抑制しやすい。また、効率よく脱水することもできる。
【0012】
また、繊維は古紙を原材料とすると省資源化の観点で好ましい。また、古紙を裁断して水中で撹拌することにより解繊すれば、バインダー無しでも水素結合により良好に保形でき、より好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フィルター体における面方向の繊維密度をコントロールし、濾過時の圧力損失を低減させることができる。しかも、製造時に厚み方向の両面に対して吸引力を作用させることにより厚み方向の密度勾配が小さくなっているので、厚み方向の全体に渡って面方向の圧力損失低減効果を担保することができる。そのため、濾過性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るフィルター体の斜視図である。
【図2】本発明に係るフィルター体がオイルフィルター内に配置された状態を示す縦断面図である。
【図3】(a)〜(d)は、本発明の実施形態1に係るフィルター体の製造方法を説明する縦断面図である。
【図4】(a)〜(d)は、本発明の実施形態2に係るフィルター体の製造方法を説明する縦断面図である。
【図5】(a)〜(d)は、本発明の実施形態3に係るフィルター体の製造方法を説明する縦断面図である。
【図6】(a)〜(c)は、本発明の実施形態4に係るフィルター体の製造方法を説明する縦断面図である。
【図7】試験例に係る亜鉛除去率の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るフィルター体は、濾過の対照となる流体をフィルター体の内部で面方向に通過させて濾過するものである、代表的にはオイルフィルターに用いられる。図1,2には、本発明の製造方法により製造されるフィルター体21の形態と使用方法が例示されている。図1に示されるフィルター体21は、例えば厚み15〜30mmの円盤状の繊維成形体23からなり、中央に厚み方向に貫通する貫通孔25が形成されている。このフィルター体21は、図2に示されるように、オイルフィルター装置11を構成するハウジング13内に複数重ねて配置される。図2には、オイルの濾過流路が白抜き矢印で模式的に示されている。すなわち、オイルフィルター装置11において、オイルはハウジング13の側部に設けられた流入口15からハウジング13内に流入してハウジング13の内部に満たされ、フィルター体21の外周面27から中央の貫通孔25へ、フィルター体21の内部を面方向に沿って通過して濾過される。そして、フィルター体21の中央の貫通孔25から下方へ流下してハウジング13の下部に設けられた流出口から17から流出する。本発明のフィルター体21の製造方法によれば、フィルター体21の面方向において繊維密度に勾配をつけることができる。したがって、図2に示されるように、フィルター体21の面方向に濾過流路が設定された場合に、その濾過流路において繊維密度を漸次変化させて濾過性能を高めることができる。
【0016】
フィルター体を構成する繊維成形体は、吸引口を有する容器内に通気可能な扁平な成形型を配設し、その扁平な成形型を介して繊維を水中に分散させたスラリー状材料に吸引力を作用させることで、成形型に繊維を寄せ集めてプレ繊維成形体を作成する第1の工程と、プレ繊維成形体を圧縮して繊維成形体とする第2の工程とを経て作成される。
【0017】
第1の工程では、繊維成形体を構成する繊維が、水中に分散したスラリー状材料として供給される。繊維成形体を構成する繊維は限定されないが、オイルフィルターに用いる場合、耐熱性等の観点からパルプ等のセルロース繊維が好適である。なかでも、古紙を構成する繊維を利用すれば省資源の観点で好ましい。古紙を利用する場合には、予めシュレッダー等を用いて、例えば、幅1〜5mm、長さ2〜5mm程度に裁断し、繊維をある程度短繊維化した上で、水中に投入して撹拌することにより、解繊するとともに更に短繊維化するのが好ましい。これにより、繊維を構成するセルロースの水酸基による水素結合によってバインダー無しでも保形しやすくなる。スラリー状材料中の繊維濃度は限定されないが、古紙を利用する場合、目安としては、繊維1重量部に対する水の量を20〜40重量部の範囲で調整すると解繊を効率的に行うことができる。
【0018】
第1の工程では、スラリー状材料に対して通気可能な扁平な成形型を介して厚み方向の少なくとも一方向から吸引力を作用させ、最終的に繊維密度を大きくしたい面方向の特定位置に多く繊維が寄せ集められるように成形型に繊維を吸い寄せる。ここでの厚み方向とは、最終的なフィルター体21における厚み方向である。通気可能な扁平な成形型とは、その成形型を介してスラリー状材料に吸引力を作用させることができ、且つ繊維を捕捉することのできる網目構造ないし複数の小孔を有する扁平な部材である。代表的には、金網やパンチングプレート等が挙げられる。この第1の工程では、容器内においてスラリー状材料に特定位置に向かう流れを生じさせて成形型の面方向の特定位置に多く繊維が寄せ集められるように、成形型の面方向でスラリー状材料に作用する吸引力に勾配をつける。それにより、繊維が成形型上の吸引力の大きい位置に寄せ集められながら、ある程度脱水されてプレ繊維成形体が成形される。成形型の面方向でスラリー状材料に作用する吸引力に勾配をつける方法としては、例えば、成形型の面積に対して吸引口を小さくすることが挙げられる。その場合、スラリー状材料に対して作用する吸引力は吸引口に近いほど大きくなり、吸引口から離れるほど小さくなる。また、成形型の小孔の密度又は開口面積を面方向で変更することによってもスラリー状材料に作用する吸引力に勾配をつけることができる。その場合、小孔が密に又は大きく形成されているほどスラリー状材料に対して作用する吸引力は大きくなり、小孔が疎に又は小さく形成されているほど小さくなる。
【0019】
第1の工程では、スラリー状材料に対して厚み方向の一方向ないし両方向から吸引力を作用させる。一方向から吸引力を作用させる場合には、後述する実施形態1〜3のように吸引力の大きい位置が盛り上がったプレ繊維成形体が得られる。両方向から吸引力を作用させる場合には、後述する実施形態4のように、厚みが制限されるため、吸引力の大きい位置で繊維密度が大きいプレ繊維成形体が得られる。いずれの場合も、第1の工程において繊維を寄せ集めた部位が、最終的にフィルター体21において繊維密度が高い部位となる。そのため、この第1の工程では、最終的にフィルター体21において繊維密度を大きくしたい部位に繊維を寄せ集める。フィルター体21において濾過流路の出口側(下流側)となる部位に繊維を寄せ集めてプレ繊維成形体を成形すれば、フィルター体21において濾過流路の入り口側(上流側)から出口側にかけて繊維密度が徐々に大きくなり、濾過時の圧力損失が小さくなり濾過性能をより長く保持することができるため好ましい。
【0020】
第2の工程では、プレ繊維成形体に対して吸引力を作用させて該プレ繊維成形体を圧縮する。プレ繊維成形体は、第1の工程で繊維が寄せ集められるのに伴ってある程度は脱水されているが、この第2の工程では、第1の工程以上の大きさの吸引力を作用させて圧縮するとともに更に脱水することで繊維成形体とする。第2の工程での吸引力を、第1の工程での吸引力よりも大きくするとより好ましい。吸引力の大きさは、吸引圧又は吸引時間によって制御すればよい。
【0021】
第2の工程では、プレ繊維成形体の厚み方向の少なくとも他方向側の面(他方面)に吸引力を作用させる。つまり、第1の工程と第2の工程とを経ることで厚み方向の両方の面に吸引力が作用して繊維成形体が形成されるように、吸引力を作用させる面が設定される。それにより、厚み方向で繊維密度に勾配が生じるのを抑制することができる。なお、繊維成形体の厚み方向の一面をA面、反対側の他面をB面とすると、第1の工程でA面のみに吸引力を作用させる場合には、第2の工程では、B面のみ、或いはB面とA面との両面に吸引力を作用させる。第1の工程でB面のみに吸引力を作用させる場合には第2の工程ではA面のみ、或いはA面とB面との両面に吸引力を作用させる。第1の工程と第2の工程の双方において両面に吸引力を作用させることもできる。
【0022】
第2の工程では、吸引力の大きい位置が盛り上がったプレ繊維成形体は、盛り上がりの大きい部分ほど圧縮率が高くなる。そのため、結果的に第1の工程で繊維を寄せ集めた位置の繊維密度の大きい、繊維密度に勾配のある繊維成形体が得られる。プレ繊維成形体において既に繊維密度に勾配がある場合は、そのまま第2の工程で全体が圧縮されて脱水されることにより、やはり、第1の工程で繊維を寄せ集めた位置の繊維密度の大きい、繊維密度に勾配のある繊維成形体が得られる。
【0023】
以下、このような第1の工程と第2の工程を含む繊維成形体23からなるフィルター体21製造方法の実施形態について、図面を参照しながらより具体的に説明する。
【0024】
[実施形態1]
実施形態1では、図3(a)に示されるように、上部が開放されており底面に吸引口33を有する容器31を用いる。容器31の内部には、板状の成形型35が配設され、吸引方向(下方)へスライド不能に固定されている。成形型35には、その上面に供給されるスラリー状材料Sに対して、下方の吸引口33に接続された吸引装置(図示せず)による吸引力Xを作用させることのできる小孔37が複数形成されている。吸引口33は、成形型35の大きさに比べて小さく、容器31の底面の中央に形成されている。なお、成形型35と吸引口33の距離は近いほうが好ましい。
【0025】
第1の工程では、先ず、図3(a)に示されるように、容器31内の成形型35の上にスラリー状材料Sが供給される。次いで、吸引口33に接続された吸引装置により成形型35の下方から成形型35を介してスラリー状材料Sに吸引力Xを作用させる。すると、図3(b)に矢印の長さで模式的に示されるように、スラリー状材料Sには、吸引口33に近いほどより大きな吸引力が作用する。そのため、スラリー状材料Sには、面方向中央へ向かう流れが生じ、繊維が面方向中央に集りながら水が成形型35の下方に抜けて中央が盛り上がったプレ繊維成形体41が成形される。プレ繊維成形体41の第1工程において吸引力が作用した面41aをA面、その反対側の面41bをB面と称する。
【0026】
第2の工程では、図3(c)に示されるように、プレ繊維成形体41を反転させてB面41b側が下方に向くように成形型35の上に載せ、A面41aに沿わせて成形型39を配設する。そして、下方から吸引力Xを作用させる。それにより、プレ繊維成形体41は、図3(d)に示されるように、下側の成形型35に引き付けられて圧縮されて更に脱水される。プレ繊維成形体41に作用する吸引力は第1の工程と同様にプレ繊維成形体41の面方向中央側ほど大きいため、中央側ほど圧縮の程度が大きくなり繊維密度が大きくなる。また、上側の成形型39がプレ繊維成形体41のA面41aに追従して下方へスライドすることによって、プレ繊維成形体41は上下の成形型35,39に挟まれて圧縮され、最終的にはB面41bも平らになり、厚みが一様で面方向中央側ほど繊維密度の大きな繊維成形体23が成形される。厚み方向の繊維密度は、第1の工程でA面に吸引力Xを作用させた段階では、A面41a側からB面41b側にかけて徐々に疎になる。しかし、第2の工程で全体が圧縮される際に、B面41bに吸引力を作用させるとB面41b側の方がA面41a側よりも圧縮率が高くなるため、最終的な繊維成形体23では厚み方向の繊維密度が略一様になる。
【0027】
このようにして得られた繊維成形体23は、乾燥され、適宜仕上げ加工されてフィルター体21として仕上げられる。繊維成形体23の乾燥温度は、100℃以上であると効率よく乾燥することができる。また、乾燥温度の上限は構成繊維の耐熱性を考慮して設定されるが、セルロース繊維であれば、250℃未満の乾燥室内で乾燥させるのが好ましい。250℃以上であると焦げて変性するおそれがある。200℃以下であると繊維が変性しにくいためより好ましい。仕上げ加工では、中央に貫通孔25を打ち抜き、適宜表面を研磨したり、或いは表面に僅かに外周方向へ下るテーパ加工をしたりする。
【0028】
実施形態1によれば、第1の工程でも第2の工程でも吸引方向が下方であるため、水分の自重に逆らわずに吸引力を作用させることにより、効率よく脱水することができる。
【0029】
[実施形態2]
実施形態2では、図4(a)に示されるように、第1の工程において、下方が開口し、天井面に吸引口55を備える上容器51と、上方が開口する下容器61とを用いる。上容器51の内部には、該上容器の下方の開口全体を塞ぐように成形型57が装着されている。成形型57は板状であり、複数の小孔57hを有するとともに、その外周において下方に起立する周壁59を備える。
【0030】
第1の工程では、先ず、図4(a)に示されるように、下容器61中に展開されたスラリー状材料Sに上容器51に装着された成形型57を挿入し、吸引装置の吸引力X1をスラリー状材料Sに作用させる。それにより、水が吸い込まれるとともに、成形型57の表面に繊維を吸い付けられる。すると、矢印の長さで模式的に示されるように、スラリー状材料Sには、吸引口55に近いほど大きな吸引力が作用し、成形型57の中央ほど繊維が多く寄せ集められて、図3(b)に示されるように面方向中央が盛り上がったプレ繊維成形体63が成形される。プレ繊維成形体63の第1の工程において吸引力が作用した面63aをA面、その反対側の面63bをB面と称する。
【0031】
第2の工程では、プレ繊維成形体63のA面63aとB面63bとの双方に対して吸引力を作用させる。そこで、第1の工程の下容器61に替えて、図4(c)に示されるように、上部が開放されており底面に吸引口67を有する下容器65を用いる。下容器65の内部には、小孔69hを複数有する板状の成形型69が下容器65が配設されている。第2の工程では、プレ繊維成形体63を、そのB面63bが下側の成形型69に対向するように該成形型69の上に配設する。そして、下方から吸引力X2を作用させるとともに、上方から吸引力X3を作用させてプレ繊維成形体63を更に脱水する。このとき、繊維成形体63が層間剥離しないように上容器51が下方へスライド可能となっている。それにより、プレ繊維成形体63は上下の成形型57,69に挟まれた状態のままで圧縮され、脱水される。そして、最終的にはB面63bも平らになり、厚みが一様で面方向中央側ほど繊維密度の大きな繊維成形体23が成形される。
【0032】
なお、本実施形態では、プレ繊維成形体63が圧縮されるのに伴い上容器51が自重により下方にスライド可能に構成されていてもよいし、下方へスライドするよう積極的に付勢されていてもよい。例えば、引張バネを介して上下の容器51,65を連結することで上容器51を下方へスライドするように付勢することができる。また、上容器51を下方へスライドさせる代わりに、容器内で上下の成形型57,69が近づくように付勢されていてもよい。
【0033】
また、第2工程では、少なくとも、プレ繊維成形体63のB面63bに対して吸引力を作用させればよく、プレ繊維成形体63のB面63bに対して上方から吸引力を作用させても構わない。
【0034】
このようにして得られた繊維成形体23は、上記実施形態1と同様に乾燥され、適宜仕上げ加工されてフィルター体21として仕上げられる。
【0035】
[実施形態3]
実施形態3は、上記実施形態2において、第1の工程で用いる成形型のみを変形した実施形態である。図5(a)に示されるように、実施形態3で用いられる成形型71は、複数の小孔71hを有する板状であり、その外周において下方に起立する周壁73と、中央で突起する円柱状の突起部75とを備える。このような成形型71を用いると、第1の工程で成形型71にスラリー状材料S中の繊維を吸い付けるにあたり、突起部75を避けて繊維が寄せ集められるため、図5(b)に示されるように、中央に貫通孔79の空いたプレ繊維成形体77が形成される。そして、図5(c)に示されるように、このプレ繊維成形体77を第2の工程で圧縮することにより、図5(d)に示されるように中央に貫通孔79の空いた繊維成形体23が成形される。この貫通孔79がそのままフィルター体21における貫通孔25となる。したがって、仕上げ工程で貫通孔を形成することを要しないため上記実施形態2に比べて仕上げ工程を簡略化することができる。
【0036】
[実施形態4]
実施形態4では、図6(a)に示されるように、対向して配置される上下一対の容器91,81が用いられる。下容器81は上方が開口しており、底面に吸引口83を備える。下容器81の内部には、複数の小孔85hを有する板状の成形型85が底面とは離間して配置されている。上容器91は下方が開口しており、天井面に吸引口93している。上容器91の内部には、複数の小孔95hを有する板状の成形型95が天井面とは離間して配置されている。上容器91と下容器81とは対向して配置されて上下の成形型95,85の間に閉じた空間が形成されるようになっている。
【0037】
第1の工程では、上下の成形型95,85の間にスラリー状材料Sが供給される。そして、図6(b)に示されるように、上下の吸引口93,83から上下の成形型95,85を介して上下方向の吸引力X2,X1を作用させる。すると、矢印の長さで模式的に示されるように、スラリー状材料Sには、吸引口93,83に近いほどより大きな吸引力が作用し、中央に繊維が寄せ集められながら、水が成形型95,85から抜ける。このとき、上下の成形型95,85に引き寄せられた繊維層が分離して成形されないように上下の成形型95,85が近づくように付勢する。それにより、厚み方向では繊維密度が略一様であり、面方向では中央に向かって漸次繊維密度が大きくなった一つのプレ繊維成形体87が成形される。引き続いて、第2の工程ではさらに上下方向の吸引力X2,X1を作用させる。それにより、全体が圧縮され、更に脱水されて繊維成形体23が得られる。なお、容器91,81を近づける代わりに、容器内で成形型95,85を近づけるように付勢してもよい。
【0038】
このようにして得られた繊維成形体23は、上記実施形態1と同様に乾燥され、適宜仕上げ加工されてフィルター体21として仕上げられる。
【0039】
実施形態4によれば、繊維がスラリー状材料S中で流動可能な状態において厚み方向の両方向から吸引力X1,X2を作用させるため、厚み方向の繊維密度の勾配を一層緩やかにしやすい。
【0040】
[試験例]
<実施例>
古紙を原料としてフィルター体を作成した。先ず、古紙をシュレッダーで幅約1〜5mm、長さ約2〜5mmに裁断した。次いで裁断した古紙を水中で撹拌し、古紙を構成するパルプ繊維を解繊するとともに短繊維化してスラリー状材料を調整した。このとき、水1重量部に対する水の量は20重量部とした。このスラリー状材料中のパルプ繊維を抜き取って観察すると、直径5μm、長さ0.8mmであった。このスラリー状材料を用い、上記実施形態1に示される方法により、第1の工程と第2の工程とを経て面方向の中央側ほど繊維密度の大きい円盤状の繊維成形体を成形した。このとき、吸引口における吸引力を0.06MPaとし、第1の工程では1分間、第2の工程では3分間吸引した。なお、この繊維成形体は、繊維を構成するセルロースの水素結合により保形されるため、スラリー状材料にバインダーを添加することなく作成した。得られた繊維成形体を120℃の乾燥室内で4時間乾燥させ、中央に貫通孔を打ち抜き、図1に示されるようなドーナツ状のフィルター体とした。得られたフィルター体の寸法は、厚みが 30mm、外径が260mmであり、面方向の密度は、中央側が概ね0.25〜0.30g/cm3であり、外側の密度は概ね0.20〜0.25g/cm3であった。厚み方向の密度は、両表面において表層では内部よりも若干高かった。
【0041】
<比較例>
市販のオイルフィルター用のフィルター体を用意した。このフィルター体は、ブナのバージンパルプを成形した繊維成形体からなる。寸法は上記実施例のフィルター体と同じであり、密度は概ね0.18〜0.22g/cm3であり、面方向の密度勾配は無く、厚み方向の一面側が比較的高密度になっていた。フィルター体Bにおける繊維成形体の製法は必ずしも明らかではないが、密度分布から推察すると、面方向に均一な吸引力を一方向から作用させて繊維を堆積させて製造したことが推察される。
【0042】
<濾過性能の評価>
フィルター体A,Bのそれぞれについて、オイルフィルター内に置いて、外側から内側にオイルを通過させて濾過するようにセットし、オイル中の亜鉛粉末を濾過させて、その濾過性能を評価した。まず、濾過の対象とするオイルを、鉄板を洗浄する洗浄油に亜鉛粉末を0.2g/l含ませて調整した。亜鉛粉末は、直径5μm以下を90%、直径5μm以上を10%含む。この洗浄油を連続的に濾過し、100時間おきに900時間まで濾液を採取した。採取した各濾液について、予め重量を測定したメンブランフィルター(材質:PTFE)を用いて濾過し、オイルフィルター内でフィルター体に捕捉されずに濾液(洗浄油)に残存する亜鉛粉末を捕集した。濾過後の濾紙に付着した洗浄油をノルマルヘキサンで洗い流し、濾紙を乾燥させて再び重量を測定した。濾過前後の濾紙の重量の差からオイルフィルターの濾液(洗浄油)に残存する亜鉛粉末の重量を算出し、濾過前の洗浄油に含まれる亜鉛粉末に対するフィルター体A,Bにより除去された亜鉛粉末の重量比を除去率として算出した。その結果を図7に示す。
【0043】
図7に示されるように、フィルター体Aの100時間後の除去率は100%に近く、700時間後まで殆ど除去率が変わらない。700時間を越えると除去率は低下し始めるが、900時間後でも約90%の除去率を維持している。これに対し、フィルターBは100時間後の除去率が約90%であり、その後、除去率が低下して400時間後には60%にまで低下する。この結果から、面方向の密度に勾配をつけるとともに、厚み方向の両面に対して吸引力を作用させて成形された繊維成形体によれば、初期濾過性能に優れ、且つその濾過性能を長時間持続するフィルター体が得られることが明らかとなった。これは、フィルター体の面方向の繊維密度に勾配がつけられているため濾過時の圧力損失が低減され、厚み方向の両面に対して吸引力を作用させることにより厚み方向の密度勾配はできるだけ小さく抑制されていることで、その圧力損失低減作用が厚み方向の全体に渡って有効であるためと推察される。
【符号の説明】
【0044】
21 フィルター体
23 繊維成形体
25 貫通孔
31 容器
33 吸引口
35 成形型
37 小孔
41 プレ繊維成形体
51 上容器
55 吸引口
57 成形型
57h 小孔
61 下容器
63 プレ繊維成形体
65 下容器
67 吸引口
69 成形型
69h 小孔
71 成形型
71h 小孔
77 プレ繊維成形体
81 下容器
83 吸引口
85 成形型
85h 小孔
87 プレ繊維成形体
91 上容器
93 吸引口
95 成形型
95h 小孔
S スラリー状材料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維成形体からなるフィルター体の製造方法であって、
吸引口を有する容器内に通気可能な扁平な成形型を配設し、前記容器内において繊維を水中に分散させたスラリー状材料に対して前記成形型を介して厚み方向の少なくとも一方向から吸引力を作用させ、前記繊維が流動可能な状態で前記成形型の面方向で前記スラリー状材料に作用する吸引力に勾配をつけることにより吸引力の大きい位置に前記繊維を寄せ集めてプレ繊維成形体を成形する第1の工程と、
前記プレ繊維成形体の厚み方向の少なくとも他方向側の面に吸引力を作用させて該プレ繊維成形体を圧縮して繊維成形体を成形する第2の工程と、を備えることを特徴とする繊維成形体からなるフィルター体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程においてスラリー状材料に対して一方向から吸引力を作用させて前記プレ繊維成形体を成形し、
前記第2の工程において前記プレ繊維成形体を反転させて前記一方向から吸引力を作用させて前記繊維成形体を成形する、請求項1に記載の繊維成形体からなるフィルター体の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程において前記プレ繊維成形体に対して厚み方向の両方向から吸引力を作用させることを特徴とする請求項1に記載の繊維成形体からなるフィルター体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程において、前記スラリー状材料に対して他方向からも吸引力を作用させることを特徴とする請求項1または請求項3に記載の繊維成形体からなるフィルター体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程において、最終的に前記フィルター体における濾過流路の出口側となる部位に前記繊維を寄せ集めることを特徴とする、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の繊維成形体からなるフィルター体の製造方法。
【請求項6】
前記繊維は古紙を原材料とし、該古紙を裁断して水中で撹拌することにより解繊して前記スラリー状材料を得ることを特徴とする、請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の繊維成形体からなるフィルター体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−58141(P2011−58141A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211498(P2009−211498)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】