説明

繊維状チーズの製造方法

【課題】保存すると経時的に繊維性を発現しなくなるという繊維状チーズの問題を解決し、嗜好性や商品性を向上させるとともに、チーズカードの生産工程と、それを用いた延伸などの繊維状チーズの生産工程を分離した製造方法を提供する。
【解決手段】乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングし、ホエー排除した後、食塩を直接添加し、圧搾脱水するか、又は乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングし、ホエー排除し、圧搾脱水した後、細断し、食塩含有溶液に浸漬又は食塩含有溶液をカードに噴霧して、1.0〜5.0重量%の食塩含量のチーズカードの製造工程と、それを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程との間に保存期間を設けた後、このチーズカードを加温し、延伸し、成形して繊維状チーズを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状組織を有するチーズ製品、特に繊維状組織が長期間保持される繊維状組織を有するチーズ(以下、繊維状チーズという)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維状チーズは、一定の方向性と弾力性、繊維性を持ち、手で裂くと一定方向に多数の糸状に細く裂け、引き裂いたチーズ片はしこしことした非常に好ましい歯ごたえを呈し、その独特の食感を楽しむことができる。繊維状チーズは、生乳に乳酸菌及び凝乳酵素を添加して凝乳させ、カッティング、ホエー排除をして得たチーズカードを、加温等の工程を経て一定の延伸をかけて棒状又は板状に成形し、冷却・固化することにより得られる(例えば、特許文献1参照)。
繊維状チーズのチーズカードは前記のように、生乳に乳酸菌及び凝乳酵素を添加して凝乳させ、カッティング、ホエー排除をして得られるものであるが、UF濃縮乳に乳酸菌もしくは乳酸と、凝乳酵素を作用させ、その酸性乳を熱水中に押し出して、熱水との蝕融によりチーズカードを得る方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。このようにして得たチーズカードも、加温等の工程を経て一定の延伸をかけて棒状又は板状に成形し、冷却・固化することで、繊維状チーズを得ることが出来る。
【0003】
しかし、繊維状チーズには、経時的に繊維性を発現しなくなるという問題がある。繊維性を発現しないとは、手でチーズを裂いても一定方向に糸状に細く裂けなくなることを言い、繊維状チーズの嗜好性や商品性を著しく損ねてしまう。この繊維性の減少は、乳から従来方法で調製したチーズカードを保存しても同様であり、チーズカードの状態で保存すると1〜2日で繊維性を発現しなくなるという問題があった。これは、チーズカードの生成に用いられた凝乳酵素や乳酸菌、あるいは乳由来の酵素の作用により、チーズカード中のカゼインが加水分解され、繊維構造を発現し難くなることに起因する。そのため、従来の方法で得られたチーズカードから繊維状チーズを得るためには、カードの調製から成形、冷却・固化までを連続的に行う必要があった。
【0004】
一方、ナチュラルチーズの製造において、原料乳と最終製品の需給バランスの調整は極めて重要な課題である。特に、繊維状チーズの場合、原料であるチーズカードを生産する工程と、このチーズカードを用いて成形、風味付けなどを施し最終製品としての繊維状チーズを製造する工程は、本質的に異なる工程である。例えば、チーズカードを生産する工程と、最終製品としてのチーズを製造する工程との処理能力が異なれば、生産したチーズカードを一時ストックしておく必要が生じる。また、原料乳生産地に立地する複数の工場でチーズカードを生産し、そのチーズカードを最終製品としてのチーズを製造する工場に集める場合もチーズカードを一時ストックしておく必要が生じる。そのため、衛生上の管理や、生産の効率化の観点から、可能であればチーズカードを生産する工程と、このチーズカードを用いて最終製品としてのチーズを製造する工程を分離することが望ましい。しかしながら、前記したようにチーズカードが経時的に繊維性を発現しなくなるという問題があり、原料であるチーズカードの製造工程と、それを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程を分離することは極めて困難で、生産を同一工程にて行う必要があった。
【0005】
したがって、チーズカードが経時的に繊維性を発現しなくなるという問題が解決できれば、繊維状チーズの嗜好性や商品性の向上に大きく寄与するだけでなく、チーズカードを生産する工程と、このチーズカードを用いて繊維状チーズを製造する工程が分離できることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−164744号公報
【特許文献2】特公平3−60466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述したような従来技術に見られる繊維状チーズの問題点に鑑みなされたものであって、チーズカードあるいは繊維状チーズを保存しても繊維性を発現しなくなるという問題を解決することを課題とする。繊維性を発現しなくなるという問題を解決することにより、製品としての繊維状チーズの嗜好性や商品性の向上に大きく寄与するだけでなく、チーズカードの製造とそれを用いた繊維状チーズの製造を連続的に行う必要がなくなり、原料であるチーズカードの製造工程と、それを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程を分離するという課題も解決される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のような状況を鑑み、本発明者らは、3週間程度保管しても繊維性の発現可能な繊維状チーズの原料に関して鋭意研究を行ったところ、乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングし、ホエー排除した後、食塩をカードに直接添加して得た食塩含量が1〜5重量%のチーズカードは、繊維状チーズの原料としての特性を長期にわたって維持することが可能であることを究明し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の構成上の特徴は、乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングし、ホエー排除した後、食塩をカードに直接添加し、さらに圧搾脱水して得た、食塩含量が1〜5重量%であるチーズカードの製造工程と、それを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程との間に保存期間を設けた後、加温し延伸して成形し、冷却すること、あるいは乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングし、ホエー排除し、圧搾脱水した後、細断し、食塩含有溶液にカードを浸漬したもの又は食塩含有溶液をカードに噴霧して得た、食塩含量が1〜5重量%であるチーズカードの製造工程と、それを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程との間に保存期間を設けた後、加温し延伸して成形し、冷却することにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により得られる繊維状チーズは、保存後でも繊維状チーズ独特の弾力性、繊維性を維持し、一定方向に裂いて食することができ、引き裂いたチーズ片はしこしことした非常に好ましい歯ごたえを呈する。さらにチーズカードをストックしても繊維性を喪失しないので、チーズカードの製造工程とそれを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程を連続的に行う必要がなくなり、チーズカードの製造工程とそれを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程を、時間的、空間的に分離することができる。そのうえ、乳酸菌を加えて得たチーズカードの製造工程とそれを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程との間に保存期間を設けることで、繊維状チーズに熟成したナチュラルチーズが持つ風味及び芳香を付与することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明においては、乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングしてホエー排除した後、食塩をカードに直接添加し、さらに圧搾脱水するか、あるいは乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングし、ホエー排除し、圧搾脱水した後、細断し、食塩含有溶液にカードを浸漬し、又は食塩含有溶液をカードに噴霧して、食塩含量が1〜5重量%のチーズカードを形成し、このチーズカードを必要に応じて粉砕又はスライスして加熱媒体にて加温し、組織を溶融させて結着させてから、一定の延伸をかけ、棒状又は板状に成形し、冷却・固化させて、繊維状チーズを製造する。
【0011】
本発明に使用する原料としては、従来のチーズ製造に用いられる乳であれば全て用いることができる。すなわち、生乳、脱脂乳、部分脱脂乳、又はこれらの混合物、又は、これらとクリーム、ホエークリーム、バターミルクとのいかなる混合物をも使用することができ、必要に応じて殺菌や脂肪調整した乳を用いることができる。この原料乳からチーズカードをつくるには、チーズ製造におけるチーズカード製造の常法に従って行うことができる。すなわち、原料乳に凝乳酵素及び/又は酸、必要な場合には乳酸菌、カルシウムイオン(例えば塩化カルシウム)を添加して適温に保持してカードを形成させ、カードの切断、ホエーの排除を行う。なお、本発明に使用する乳酸菌は、従来のチーズ製造に用いられる乳酸菌であれば全て用いることができ、特に限定する必要はない。
【0012】
このようにして得たチーズカードに、食塩含量が1〜5重量%となるように、速やかに加塩を行う。チーズカードへの加塩方法としては、1日以内にチーズカード全体に均一に加塩が可能な方法であれば良く、例えば、ホエー排除後、食塩をカードに直接添加して均一に混ぜ合わせた後、圧搾脱水する方法が挙げられる。この場合に添加する食塩量は圧搾脱水により流出する食塩量も考慮に入れ、圧搾脱水後のチーズカードの食塩含量が1〜5重量%となるよう添加する。この際、添加する食塩量は、目標とするチーズカードの食塩含量の1.5倍量を目安とすればよく、例えば食塩含量3重量%のチーズカードを目標とする場合は、圧搾脱水前のチーズカードに対して食塩を4.5重量%添加すればよい。また、製造条件によって最終的な食塩含量が変化することを考慮すると、添加する食塩量を圧搾脱水前のチーズカードに対して好ましくは1.8〜7.2重量%、より好ましくは2〜7重量%とすることで、食塩含量が1〜5重量%のチーズカードを得ることができる。なお、食塩は、まぶすようにカードに添加するか、濃厚な食塩水として噴霧等によりカードに添加する。
また、チーズカードへの加塩方法としては、ホエー排除したチーズカードを圧搾脱水後、マット状になったカードを一辺が好ましくは15mm以下、より好ましくは10mm以下に細断し、食塩含有溶液にカードを浸漬するか、又は食塩含有溶液をカードに噴霧して加塩する方法も挙げられる。この際、圧搾脱水後、マット状になったカードを一辺が15mm以下に細断したものの表面に、満遍なく食塩濃度15重量%以上の食塩含有溶液を噴霧することで、表面に食塩含有溶液の皮膜が形成され、速やかに内部に食塩が浸透し、食塩含量1重量%以上のチーズカードを得ることができる。そして、飽和食塩水に6時間浸漬しても食塩含量が5重量%を超えないことから、食塩濃度15重量%以上の食塩含有溶液をカードに満遍なく噴霧するか、食塩濃度15重量%以上の食塩含有溶液に5分〜6時間浸漬することで食塩含量が1〜5重量%のチーズカードを得ることができる。
【0013】
チーズカードの食塩含量が1重量%に満たないと蛋白質の分解が進み、繊維状組織をもつチーズの原料としての特性はカード調製後1、2日のうちに失われてしまう。また、食塩含量が5重量%を超えると蛋白質の分解は抑えられるものの、蛋白質は変性してしまい、この後に行う最終製品としての繊維状チーズの製造工程において得られるチーズは、繊維状組織の乏しいものとなる。
本発明の方法で得られたチーズカードは、15℃以下で3週間まで保存することが可能である。
そのうえ、乳酸菌を加えて得たチーズカードの製造工程とそれを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程との間に保存期間を設けることで、繊維状チーズに熟成したナチュラルチーズが持つ風味及び芳香を付与することもできる。
【0014】
一般的なチーズ製造における加塩方法としては、ホエー排除後、食塩をカードに直接添加するか、あるいはホエー排除後のカードを結着させて型詰めしやすいように予備圧搾(ディッピング)を行い、次いでマット状になったチーズカードを型の大きさに応じて裁断し、型詰め(モールディング)し、圧搾成形して組織を緻密にすることにより得られたグリーンチーズを濃厚食塩水に浸漬する方法がある。従来、チーズに加塩する目的は、塩風味を付与することと、雑菌を抑制して好ましい乳酸菌の生育を促進することにある。
しかし、本発明の加塩の目的は繊維性の維持にあるため、本発明では、上記加塩方法のうち、ホエー排除後、食塩をカードに直接添加する方法により加塩することはできるが、圧搾脱水後にカードを成形し、食塩含有溶液にカードを浸漬して行う方法により加塩することはできず、圧搾脱水後のチーズカードを細断した後に、食塩含有溶液にカードを浸漬するか、又は食塩含有溶液をカードに噴霧する方法により加塩する。というのは、圧搾脱水後のカードを成形し食塩含有溶液中に浸漬して行う加塩方法では、カードの表層部への加塩は速やかに行われるものの、カードの内部への食塩の拡散には数週間の時間が必要である。その間に、カード中心部の蛋白質の分解は進み、繊維状組織をもつチーズの原料としての特性はカード調製後1、2日のうちに失われることになるからである。
【0015】
なお、ホエー排除後のカードに食塩を直接添加して均一に混ぜ合わせた後、圧搾脱水してチーズカードを得る方法は、特定のチーズの製造方法として従来から存在したが、繊維状チーズの原料としては使用されていなかった。この食塩を直接添加したチーズカードを繊維状チーズの原料として使用することにより繊維状組織を維持するという特段の効果を奏することは、本発明により初めて見出されたものである。
【0016】
このようにして調製したチーズカードを加温し延伸して成形し、冷却して本発明の繊維状チーズを得ることができる。なお、ここでいう延伸とは、チーズカードを一定の方向に引き伸ばすことを言う。例えば、チーズカードを熱水中で練圧し、熱水から取り出した後、押出孔を通して押し出し延伸する方法が、繊維状チーズを連続的に製造することができ好ましい。この場合の熱水としては、カードの品温が40〜75℃となるような熱水を用いるのが好ましい。また、チーズカードの練圧は、例えば2軸のエクストルーダーによって行うことができるが、チーズを練圧し延伸できる装置であれば特に限定されない。
押出孔を通して押出し延伸したものは、そのまま、あるいは適当に板状又は棒状等に成形して切断し、必要ならば濃厚食塩水(ブライン)中で加塩する。このブライン浸漬が一般的なチーズ製造における加塩に相当する。チーズカードの状態での加塩量が多い場合には、このブライン浸漬を省略することができる。
【0017】
以上が本発明の繊維状チーズの製造方法であるが、本製造方法により得られる繊維状チーズは、弾力性、繊維性を持ち、手で一定方向に裂いて食することができ、引き裂いたチーズ片は糸状の組織でしこしことした非常に好ましい歯ごたえを呈する。さらに、本製造方法を用いることで、従来は連続的に行わなければならなかったチーズカードの製造工程とそれを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程とを、時間的、空間的に分離することが可能となる。そのうえ、乳酸菌を加えて得たチーズカードの製造工程とそれを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程との間に保存期間を設けることで、繊維状チーズに熟成したナチュラルチーズが持つ風味及び芳香を付与することもできる。
【0018】
風味物質として、油脂成分、香辛料、あるいはフレーバー等を添加することも可能である。さらに、チーズ、チーズフード又は乳等を主要原料とする食品には、細片化したハムやサーモン等の固形食品や、調味料等を配合して風味の変化を図ることもできる。調製したチーズカードを練圧する際や成形後の加塩時に、これらを配合する。
【0019】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明すると共に、比較例及び試験例を示して本発明の効果をより明確に示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例及び試験例における「%」は、「重量%」を意味する。
【0020】
[実施例1]
全乳(脂肪率3.5%)を75℃で15秒間加熱殺菌した後、30℃に冷却した。この殺菌乳に塩化カルシウム0.02%を加え、0.5%の乳酸菌スターターを添加した。さらに、凝乳酵素0.003%を加えて30分間静置し、乳を凝固させてカードを得た。このカードをカッティングし、撹拌しながらカード中心温度が36℃となるように温湯を加えた。ホエーを排除した後、残ったカードに食塩2.3%を直接添加して混合した。その後、型に詰めて8時間の圧搾脱水を行い、食塩含量1.5%のチーズカードを得た。このチーズカードを5℃の冷蔵庫で冷蔵保存した。保存0、1、2、4、8、14、21日後のチーズカードを熱水中で60℃に加熱した後、エクストルーダーで押し出し、延伸して棒状に成形し本発明の繊維状チーズを得た。
【0021】
[実施例2]
全乳(脂肪率3.5%)を75℃で15秒間加熱殺菌した後、30℃に冷却した。この殺菌乳に塩化カルシウム0.02%を加え、0.5%の乳酸菌スターターを添加した。さらに、凝乳酵素0.003%を加えて30分間静置し、乳を凝固させてカードを得た。このカードをカッティングし、撹拌しながらカード中心温度が36℃となるように温湯を加えた。ホエーを排除した後、残ったカードに食塩1.5%を直接添加して混合した。その後、型に詰めて8時間の圧搾脱水を行い、食塩含量1.0%のチーズカードを得た。このチーズカードを15℃で保存した。保存0、1、2、4、8、14、21日後のチーズカードを熱水中で60℃に加熱した後、エクストルーダーで押し出し、延伸して棒状に成形し本発明の繊維状チーズを得た。
【0022】
[実施例3]
全乳(脂肪率3.5%)を75℃で15秒間加熱殺菌した後、30℃に冷却した。この殺菌乳に塩化カルシウム0.02%を加え、0.5%の乳酸菌スターターを添加した。さらに、凝乳酵素0.003%を加えて30分間静置し、乳を凝固させてカードを得た。このカードをカッティングし、撹拌しながらカード中心温度が36℃となるように温湯を加えた。ホエーを除去した後、残ったカードに食塩4.5%を直接添加して混合した。その後、型に詰めて8時間の圧搾脱水を行い、食塩含量3.0%のチーズカードを得た。このチーズカードを5℃の冷蔵庫で冷蔵保存した。保存0、1、2、4、8、14、21日後のチーズカードを熱水中で60℃に加熱した後、エクストルーダーで吐出、延伸して棒状に成形し本発明の繊維状チーズを得た。
【0023】
[実施例4]
全乳(脂肪率3.5%)を75℃で15秒間加熱殺菌した後、30℃に冷却した。この殺菌乳に塩化カルシウム0.02%を加え、0.5%の乳酸菌スターターを添加した。さらに、凝乳酵素0.003%を加えて30分間静置し、乳を凝固させてカードを得た。このカードを10mmのサイコロ状に切断し、撹拌しながらカード温度が36℃となるように温湯を加えた。ホエーを除去した後、残ったカードに食塩6.8%を直接添加して混合した。その後、型に詰めて8時間の圧搾脱水を行い、食塩含量4.5%のチーズカードを得た。このチーズカードを5℃の冷蔵庫で冷蔵保存した。保存0、1、2、4、8、14、21日後のチーズカードを熱水中で60℃に加熱した後、エクストルーダーで押し出し、延伸して棒状に成形し本発明の繊維状チーズを得た。
【0024】
[実施例5]
全乳(脂肪率3.5%)を75℃で15秒間加熱殺菌した後、30℃に冷却した。この殺菌乳に塩化カルシウム0.02%を加え、0.5%の乳酸菌スターターを添加した。さらに、凝乳酵素0.003%を加えて30分間静置し、乳を凝固させてカードを得た。このカードをカッティングし、撹拌しながらカード中心温度が36℃となるように温湯を加えた。ホエーを排除した後、8時間の圧搾脱水を行った。そして、このカードを、一辺10mmのサイコロ状に切断し、15%濃度の食塩水溶液に30分間浸漬し、食塩含量1.5%のサイコロ状のチーズカードを得た。このチーズカードを5℃の冷蔵庫で冷蔵保存した。保存0、1、2、4、8、14、21日後のチーズカードを熱水中で60℃に加熱した後、エクストルーダーで押し出し、延伸して棒状に成形し本発明の繊維状チーズを得た。
【0025】
[実施例6]
全乳(脂肪率3.5%)を75℃で15秒間加熱殺菌した後、30℃に冷却した。この殺菌乳に塩化カルシウム0.02%を加え、さらに、凝乳酵素0.003%を加えて30分間静置し、乳を凝固させてカードを得た。このカードをカッティングし、撹拌しながらカード中心温度が36℃となるように温湯を加えた。ホエーを排除した後、残ったカードに食塩2.3%を直接添加して混合した。その後、型に詰めて8時間の圧搾脱水を行い、食塩含量1.5%のチーズカードを得た。このチーズカードを5℃の冷蔵庫で冷蔵保存した。保存0、1、2、4、8、14、21日後のチーズカードを熱水中で60℃に加熱した後、エクストルーダーで押し出し、延伸して棒状に成形し本発明の繊維状チーズを得た。
【0026】
[比較例1]
全乳(脂肪率3.5%)を75℃で15秒間加熱殺菌した後、30℃に冷却した。この殺菌乳に塩化カルシウム0.02%を加え、0.5%の乳酸菌スターターを添加した。さらに、凝乳酵素0.003%を加えて30分間静置し、乳を凝固させてカードを得た。このカードをカッティングし、撹拌しながらカード中心温度が36℃となるように温湯を加えた。ホエーを除去した後、型に詰めて8時間の圧搾脱水を行ってチーズカードを得た。このチーズカードを5℃の冷蔵庫で冷蔵保存した。保存0、1、2、4、8、14、21日後のチーズカードを熱水中で60℃に加熱した後、エクストルーダーで押し出し、延伸して棒状に成形してチーズを得た。
【0027】
[比較例2]
全乳(脂肪率3.5%)を75℃で15秒間加熱殺菌した後、30℃に冷却した。この殺菌乳に塩化カルシウム0.02%を加え、0.5%の乳酸菌スターターを添加した。さらに、凝乳酵素0.003%を加えて30分間静置し、乳を凝固させてカードを得た。このカードをカッティングし、撹拌しながらカード中心温度が36℃となるように温湯を加えた。ホエーを除去した後、残ったカードに食塩0.8%を直接添加して混合した。その後、型に詰めて8時間の圧搾脱水を行い、食塩含量0.5%のチーズカードを得た。このチーズカードを15℃で保存した。保存0、1、2、4、8、14、21日後のチーズカードを熱水中で60℃に加熱した後、エクストルーダーで押し出し、延伸して棒状に成形してチーズを得た。
【0028】
[比較例3]
全乳(脂肪率3.5%)を75℃で15秒間加熱殺菌した後、30℃に冷却した。この殺菌乳に塩化カルシウム0.02%を加え、0.5%の乳酸菌スターターを添加した。さらに、凝乳酵素0.003%を加えて30分間静置し、乳を凝固させてカードを得た。このカードをカッティングし、撹拌しながらカード中心温度が36℃となるように温湯を加えた。ホエーを除去した後、残ったカードに食塩7.8%を直接添加して混合した。その後、型に詰めて8時間の圧搾脱水を行い、食塩含量5.2%のチーズカードを得た。このチーズカードを5℃の冷蔵庫で冷蔵保存した。保存0、1、2、4、8、14、21日後のチーズカードを熱水中で60℃に加熱した後、エクストルーダーで押し出し、延伸して棒状に成形してチーズを得た。
【0029】
[試験例1]
実施例1〜6、比較例1〜3で得られた、保存0、1、2、4、8、14、21日後のチーズカードを用いて得られたチーズに関して、官能評価により繊維性を評価した。特別に訓練された官能パネラー20人による官能検査を行い、パネラーの評点の平均点により評価した。本官能検査で繊維性とは、組織に明確な一定の方向性が見られ、手で裂いたときに一定方向に裂け、多数の細かい糸状の組織が見られることを言う。官能検査の評点は次のとおりとした。
5点:非常に明確な方向性を有し、手で裂いたときに細かく明確な糸状組織を多数生じる。
4点:良好な方向性を有し、手で裂いたときに明確な糸状組織を生じる。
3点:方向性を有し、手で裂いたときに一部に糸状組織を生じる。
2点:わずかに方向性を有するが、手で裂いたときに糸状組織は生じない。
1点:組織は均一で、手で裂いても糸状組織を生じない。
【0030】
[試験例2]
実施例1〜6、比較例1〜3で得られた、保存0、1、2、4、8、14、21日後のチーズカードを用いて得られたチーズに関して、官能評価によりチーズ風味を評価した。特別に訓練された官能パネラー20人による官能検査を行い、パネラーの評点の平均点により評価した。ここでチーズ風味とは、熟成したナチュラルチーズが持つ風味及び芳香を言い、フレッシュチーズなどがもつ淡白味、乳感とは区別する。官能検査の評点は次のとおりとした。
5点:強い芳香性、味覚を有する。
4点:良好な芳香性、味覚を有する。
3点:芳香性、味覚を有する。
2点:かすかな芳香性、味覚を有する。
1点:芳香性、味覚を持たない。または、好ましくない芳香性、味覚を有する。
【0031】
試験例1の結果を表1に示した。全パネラーの評点の平均値として示している。
【0032】
【表1】

【0033】
試験例2の結果を表2に示した。全パネラーの評点の平均値として示している。
【0034】
【表2】

【0035】
表1に示されるように、本発明のチーズカードの状態で3週間保存して製造した繊維状チーズは、チーズカードの状態で保存せずに製造したチーズとほぼ同様の良好な繊維性を有することが確認された。チーズカードの状態で3週間保存して製造したチーズでも、チーズカードの状態で保存せずに製造したチーズと全く同様の繊維性を有するものもあった。また、実施例1と実施例2を比較すると、保存温度については温度が低いほうがより好ましいが、15℃以下であれば満足する繊維性が得られることが確認された。また、表2に示されるように、乳に乳酸菌を添加し、チーズカードの食塩含量を低く(3%未満と)することで、熟成したナチュラルチーズが持つ風味及び芳香を持つ繊維状チーズを得ることができた。
一方、チーズカードの状態で加塩しない従来法により製造したチーズ(比較例1)、及びチーズカードの状態で加塩するが食塩含量が1%に満たないチーズカードを用いて製造したチーズ(比較例2)は、チーズカードの状態で2日保存すると、繊維性が喪失してしまうことが分かった。また、食塩含量が5%を超えるチーズカードを用いて製造したチーズ(比較例3)は、チーズカードの状態での保存期間にかかわらず、満足する繊維性が得られなかった。
この結果から、本発明により製造した繊維状チーズは、チーズカードの状態で加塩しない従来法により製造したチーズではチーズカードの状態で2日保存すると繊維性が喪失してしまうのに対して、チーズカードの状態で3週間保存してから製造しても、チーズカードの状態で保存せずに製造したチーズとほぼ同様の繊維性を有するという顕著な効果を示した。また、本発明の製造法を用いることで、繊維性を維持するという顕著な効果が得られるだけではなく、従来は連続的に行わなければならなかったチーズカードの製造工程とそれを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程とを、時間的、空間的に分離することが可能となり、衛生性の向上や、生産の効率化を図ることができる。そのうえ、乳酸菌を添加して得たチーズカードの製造工程とそれを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程との間に保存期間を設けることで、繊維状チーズに熟成したナチュラルチーズが持つ風味及び芳香を付与することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングし、ホエー排除した後、食塩をカードに直接添加し、さらに圧搾脱水して得た、食塩含量が1〜5重量%であるチーズカードの製造工程と、それを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程との間に保存期間を設けた後、加温し延伸して成形し、冷却することを特徴とする繊維状チーズの製造方法。
【請求項2】
乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングし、ホエー排除し、圧搾脱水した後、細断し、食塩含有溶液にカードを浸漬したもの又は食塩含有溶液をカードに噴霧して得た、食塩含量が1〜5重量%であるチーズカードの製造工程と、それを用いた最終製品としての繊維状チーズの製造工程との間に保存期間を設けた後、加温し延伸して成形し、冷却することを特徴とする繊維状チーズの製造方法。
【請求項3】
乳にさらに乳酸菌を添加する請求項1又は2に記載の繊維状チーズの製造方法。

【公開番号】特開2012−110343(P2012−110343A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−24776(P2012−24776)
【出願日】平成24年2月8日(2012.2.8)
【分割の表示】特願2006−121620(P2006−121620)の分割
【原出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(711002926)雪印メグミルク株式会社 (65)
【Fターム(参考)】