繊維製造装置の集束剤塗布装置及び集束剤塗布方法
【課題】塗布ローラの位置を精度よく微調整可能にする、ガラスフィラメントへの集束剤塗布装置を提供する。
【解決手段】繊維製造装置1の集束剤塗布装置5は、ブッシングに形成された多数のノズルから溶融状の多数のフィラメントfを導出し、それらフィラメントfを複数のフィラメント群Fとなるように複数の集束ローラ6aで集束してストランドSを製造する繊維製造装置1に装備され、前記集束ローラ6aよりブッシング側において多数のフィラメントfに集束剤を塗布する装置5であり、共通のローラ軸13にその軸心方向に間隔を空けて装備され、複数群のフィラメントFに夫々集束剤を塗布する複数の集束剤塗布ローラ14と、集束剤を夫々貯溜し且つその集束剤を夫々の集束剤塗布ローラ14の外周面に塗布可能に配設された複数の集束剤供給トレイ16と、複数の集束剤供給トレイ16の下側に配置された共通の1つの回収トレイ17を備えている。
【解決手段】繊維製造装置1の集束剤塗布装置5は、ブッシングに形成された多数のノズルから溶融状の多数のフィラメントfを導出し、それらフィラメントfを複数のフィラメント群Fとなるように複数の集束ローラ6aで集束してストランドSを製造する繊維製造装置1に装備され、前記集束ローラ6aよりブッシング側において多数のフィラメントfに集束剤を塗布する装置5であり、共通のローラ軸13にその軸心方向に間隔を空けて装備され、複数群のフィラメントFに夫々集束剤を塗布する複数の集束剤塗布ローラ14と、集束剤を夫々貯溜し且つその集束剤を夫々の集束剤塗布ローラ14の外周面に塗布可能に配設された複数の集束剤供給トレイ16と、複数の集束剤供給トレイ16の下側に配置された共通の1つの回収トレイ17を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製造装置の集束剤塗布装置及び集束剤塗布方法に関し、特に集束剤塗布装置の集束剤塗布ローラと、集束剤塗布ローラに集束剤を供給する集束剤供給トレイの構造を改良したものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維の製造装置においては、複数種類の無機材料を調合したガラス原料をガラス溶融炉内で溶融し、高温に溶融した溶融ガラスを溶融ガラス貯留槽に導入し、その底部のブッシングに形成された多数のノズルから連続的に多数の微小径のガラスフィラメントを導出して冷却し、それら多数のガラスフィラメントの表面に集束剤を塗布し、そのガラスフィラメントを集束ローラで集束してガラスストランドとし、このガラスストランドを円筒状の巻取りコレットに巻き取って回巻体を製造する。
【0003】
近年、ガラス繊維製造の生産性を高める為に、数百〜数千本のノズルを形成した大型のブッシングを装備したガラス繊維製造装置が実用に供されている。特許文献1のガラス繊維の製造装置においては、ブッシングに形成した多数のノズルから多数のガラスフィラメントが導出され、これら多数のガラスフィラメントを複数のガラスフィラメント群に群分けし、集束剤塗布装置により集束剤を塗布してから複数の集束ローラで集束し、複数条のガラスストランドを製造し、巻取り装置に取り付けた複数の紙管に巻き取る。
【0004】
前記の集束剤塗布装置は、多数のガラスフィラメントに集束剤を塗布する集束剤塗布ローラと、この集束剤塗布ローラに塗布する為の集束剤を貯溜し且つその集束剤を集束剤塗布ローラの外周面に塗布可能に配設された集束剤供給トレイとを備えている。回転駆動される集束剤塗布ローラの下端部を集束剤供給トレイ内の集束剤に浸漬させて、その外周面に集束剤を塗布し、集束剤塗布ローラの外周面にガラスフィラメントを接触させることで、ガラスフィラメントに集束剤を塗布するようになっている。
【0005】
特許文献2のポリエステル繊維の製造技術においても、油剤(集束剤)を塗布する油剤付与工程において、回転する油剤付与ローラの下部を油剤供給皿内の油剤に浸漬させ、ローラ外周面に油剤を均一に付着させ、ローラ外周面にポリエステルのマルチフィラメントを接触させることで、マルチフィラメントに油剤を塗布する。
【0006】
従来の集束剤塗布装置(特許文献1,2)の集束剤塗布ローラは、複数のフィラメント群の多数のフィラメントに集束剤を塗布できるように連続した1本の共通の塗布ローラに形成されていた。集束剤供給トレイも集束剤塗布ローラに集束剤を塗布できるように集束剤塗布ローラ以上の長さに構成されていた。
【0007】
集束剤塗布ローラの外周面に集束剤を均一に塗布する為に、集束剤供給トレイの集束剤塗布ローラ側上端縁と集束剤塗布ローラの外周面間の隙間をローラ外周面が前記上端縁に接触しない程度の微小隙間に設定しておく必要がある。集束剤塗布ローラに接触するガラスフィラメントの走行速度は約2000m/分〜6000m/分もの高速であるため、上記の隙間が大きい場合には、フィラメントの随伴エア流が上記の隙間から集束剤塗布ローラの下側へ流入し、集束剤が波立ち、ローラ外周面に集束剤が均一に塗布されずに塗布ムラが発生する。
【0008】
集束剤塗布ローラに集束剤の塗布ムラが発生し、ガラスフィラメンの表面に十分に集束剤の被膜が形成されない場合、ガラスフィラメント同士の結束力が弱くなり、ガラスストランドの集束性が悪くなる。その結果、その後の撚糸、整経、製織工程の際にガラスストランドにおけるガラスフィラメントの折れや糸切れにより毛羽が発生し易くなる。
【0009】
そこで、集束剤供給トレイの上端縁と集束剤塗布ローラの外周面間の隙間の大きさを、ガラスフィラメントの種類に応じた走行速度、ガラスフィラメントの材質、集束剤の種類に応じて調整するため、集束剤供給トレイの両端付近には、トレイの上下方向位置を調整する調整ボルトと、トレイの水平方向位置を調整する調整ボルトなどが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−127970号公報
【特許文献2】特開平10−266012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のガラス繊維製造装置では、前記集束剤塗布ローラが複数のガラスフィラメント群に対応する長い共通の塗布ローラに形成されているため、前記の複数の調整ボルトを操作して、集束剤供給トレイの上端縁と集束剤供給ローラの外周面間の隙間を調整する際に、塗布ローラの全長に亙って均一の微小隙間となるように塗布ローラの位置を精密に微調整することが難しかった。そのため、ガラスフィラメントへ集束剤を均一に塗布することが難しく、ガラスストランドの品質を安定させることが難しかった。そして、前記隙間を微調整する際には多くの時間と労力も要していた。しかも、塗布ローラの軸心が微小に撓んでいる場合には、その修正が困難で、前記隙間の大きさの変動要因になっていた。
【0012】
集束剤塗布ローラが長い共通の塗布ローラであるため、塗布ローラの外周面のうちフィラメント群とフィラメント群の間に、フィラメントが接触しない部分が発生し、そこに集束剤が無駄に塗布されていたため集束剤が酸化により劣化しやすかった。
【0013】
本発明の目的は、繊維製造技術において、集束剤供給トレイの上端縁と塗布ローラ間の隙間を簡単に精度よく微調整可能にし、ガラスフィラメントへの集束剤の均質な塗布を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の繊維製造装置の集束剤塗布装置は、ブッシングに形成された多数のノズルから溶融状の多数のフィラメントを導出し、それらフィラメントを複数のフィラメント群となるように複数の集束ローラで集束してストランドを製造する繊維製造装置に装備され、前記集束ローラよりブッシング側において多数のフィラメントに集束剤を塗布する繊維製造装置の集束剤塗布装置において、共通のローラ軸にその軸心方向に間隔を空けて装備され、複数群のフィラメントに夫々集束剤を塗布する複数の集束剤塗布ローラと、前記集束剤を夫々貯溜し且つその集束剤を夫々の集束剤塗布ローラの外周面に塗布可能に配設された複数の集束剤供給トレイとを備えたことを特徴としている。
【0015】
上記の構成を有するため、集束剤塗布ローラは、集束剤を塗布するフィラメント群に対応する長さの短いローラになり、集束剤供給トレイの長さも集束剤塗布ローラと同様に短くなり、集束剤供給トレイが小型化する。それ故、集束剤供給トレイと集束剤塗布ローラ間の隙間を調整する際に、集束剤塗布ローラの全長に亙って隙間が均一となるように高精度に隙間調整することが可能になり、集束剤塗布ローラに集束剤を均一に塗布することが可能になる。
【0016】
上記の構成において、前記フィラメントがガラスフィラメントであり、前記繊維製造装置がガラス繊維製造装置であることが好ましい。
【0017】
上記の構成において、前記各集束剤供給トレイの集束剤塗布ローラ側上端縁と前記集束剤供給トレイに対応する前記集束剤塗布ローラの外周面間の隙間を調整可能な隙間調整手段を備えることが好ましい。隙間調整手段により、集束剤供給トレイと集束剤塗布ローラの外周面間の隙間を、フィラメントの材質、フィラメントの走行速度、集束剤の種類等に応じた隙間に調整することで、集束剤塗布ローラに集束剤を均一に塗布することができ、フィラメントに集束剤を均一に塗布できる。
【0018】
上記の構成において、前記隙間調整手段は、前記集束剤供給トレイの上下方向位置調整機構と水平方向位置調整機構を両方有することが好ましい。集束剤供給トレイの上下方向位置の調整と水平方向位置の調整を介して、前記隙間の大きさと、この隙間の集束剤ローラに対する相対的な位置を最適に調整することができる。特に、集束剤供給トレイの上下方向位置を調整することで、集束剤塗布ローラの集束剤への浸漬深さも調整できる。
【0019】
上記の構成において、前記ローラ軸が金属材料で構成され、前記集束剤塗布ローラがカーボン材料で構成されることが好ましい。ローラ軸の剛性を確保し、各集束剤塗布ローラの位置を安定させることができる。
【0020】
上記の構成において、前記集束剤塗布ローラの直径が10mm〜30mmの範囲に設定されることが好ましい。集束剤塗布ローラの直径を上記のように小さく設定することで、集束剤塗布ローラからフィラメントに作用する摩擦力を小さくして、糸切れしにくくすることができる。微小径のフィラメントを製造する際に特に有効である。
【0021】
上記の構成において、前記複数の集束剤供給トレイの下側に、前記複数の集束剤供給トレイから漏れた集束剤を回収する1つの共通の回収トレイを設けることが好ましい。複数の集束剤塗布ローラや複数のフィラメントから落下する集束剤を回収トレイに確実に回収することができる。
【0022】
上記の構成において、前記集束剤塗布ローラに接触する複数のフィラメントの接触長が均一化するように、前記集束剤塗布ローラは、前記ローラ軸の軸心と直交する面と平行にフィラメントが接触する部分を最大径部とし、その最大径部から軸心方向へ離隔する程小径化するように形成することが好ましい。集束剤塗布ローラに接触する複数のフィラメントの接触長を短かくしつつ均一化できるため、複数のフィラメントに作用する張力を小さく均一化し、複数のフィラメントの太さを均一化し、糸切れを生じにくくすることができる。
【0023】
本発明の集束剤塗布方法は、繊維製造装置のブッシングに形成された多数のノズルから溶融状の多数のフィラメントを導出し、それらフィラメントを複数のフィラメント群となるように複数の集束ローラで集束してストランドを製造する際に、前記集束ローラよりブッシング側において、共通のローラ軸にその軸心方向に間隔を空けて装備された複数の集束剤塗布ローラにより、複数群のフィラメントに夫々集束剤を塗布することを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
本発明の繊維製造装置の集束剤塗布装置によれば、複数群のフィラメントに夫々集束剤を塗布する複数の集束剤塗布ローラと、複数の集束剤を夫々貯溜し且つその集束剤を夫々集束剤塗布ローラの外周面に塗布可能に配設された複数の集束剤供給トレイとを備え、複数の集束剤塗布ローラは、共通のローラ軸にその軸心方向に間隔を空けて装備されているため、集束剤供給トレイと集束剤塗布ローラ間の隙間を調整する際に、集束剤塗布ローラの全長に亙って隙間が均一となるように高精度に隙間調整することが可能になり、集束剤塗布ローラに集束剤を均一に塗布することが可能になり、製造するストランドの品質を安定させることができる。
【0025】
共通のローラ軸に複数の集束剤塗布ローラを装備したため、1つの回転駆動手段で共通のローラ軸を介して複数の集束剤塗布ローラを回転駆動可能である。
フィラメント群に対応する長さの集束剤塗布ローラにすることができるため、集束剤塗布ローラに無駄に集束剤が塗布されることをなくし、集束剤の劣化を抑制できる。
本願発明のその他の作用効果については実施例に記載するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1に係るガラス繊維製造装置の斜視図である。
【図2】ガラス繊維製造装置の正面図である。
【図3】ガラス繊維製造装置の縦断側面図である。
【図4】集束剤塗布装置の正面から視た斜視図である。
【図5】集束剤塗布装置の縦断側面図である。
【図6】隙間調整機構のL形部材の斜視図である。
【図7】集束剤塗布ローラの断面図である。
【図8】溶融ガラス貯留槽とブッシングの底面図である。
【図9】変形例の集束剤塗布ローラの断面図である。
【図10】実施例2の集束剤塗布装置の正面から視た斜視図である。
【図11】実施例3の集束剤塗布装置の縦断側面図である。
【図12】実施例4の集束剤塗布装置の平面図である。
【図13】実施例4の集束剤塗布装置の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0028】
最初に、実施例1に係るガラス繊維製造装置1とその集束剤塗布装置5について、図1〜図8に基づいて説明する。図2の前後、左右、上下を前後、左右、上下として説明する。図1、図2に示すように、ガラス繊維製造装置1は、矢印Aで示す上流側から溶融ガラスが供給される溶融ガラス貯留槽2を有し、この溶融ガラス貯留槽2の底部の白金製のブッシング3には多数の微小径のノズル3aが形成され、これら多数のノズル3aから溶融状の多数のガラスフィラメントfを夫々導出し、それら複数のガラスフィラメントfからなるガラスフィラメント群Fを複数の集束ローラ6aで集束してガラスストランドSを製造する装置である。
【0029】
具体的には、ガラス繊維製造装置1は、溶融ガラス貯留槽2と、その底部のブッシング3と、多数のガラスフィラメントfに冷却水を噴霧する複数の噴霧ノズル4と、多数のガラスフィラメントfに集束剤Bを塗布する複数の集束剤塗布装置5と、複数の集束ローラ6a(集束ガイド)を含む集束機構6と、複数本のガラスストランドSを複数の巻取りコレット8aに巻取るワインダー8と、ワインダー8の上流側位置で複数本のガラスストランドSを綾振りするトラバース機構7などを有する。
【0030】
ガラス繊維製造装置1は、天井側の天井壁(図示略)と、後側の後側仕切壁10と、左側の左側壁11と、右側の右側壁(図示略)と、右側面の一部を開閉可能な開閉扉(図示略)等を有する。
【0031】
前記ブッシング3には、図8の底面図に模式的に示すように、複数行複数列のマトリックス状に多数(例えば、数百〜数千)のノズル3aが形成されている。尚、図8中において、点線で示した13はローラ軸、14は集束剤塗布ローラを示している。
【0032】
前記集束機構6は、電動モータ(図示略)で回転駆動される水平な集束用回転軸6bと、この集束用回転軸6bに固定された複数の集束ローラ6aを備えている。本実施例のガラス繊維製造装置1は、3つの集束ローラ6aを介して3本のガラスストランドSを製造し、3つの巻取りコレット8aに巻き取る構成であるため、ブッシング3の多数のノズル3aは3群に群分けされ、各群の多数のガラスフィラメントfがそれに対応する集束ローラ6aに集束されてガラスストランドSになる。
【0033】
集束用回転軸6bよりもブッシング3側において、3群に群分けされた多数のガラスフィラメントfに3組の集束剤塗布装置5により集束剤Bを夫々塗布するように構成してある。前記トラバース機構7は、左側壁11側のターレット支持部12から水平に右方へ延び且つ電動モータ(図示略)で回転駆動されるトラバース用回転軸7aと、3つの集束ローラ6aに対応するようにトラバース用回転軸7aに固定された3つのワイヤトラバース7bとを有し、各ワイヤトラバース7bが回転しながらガラスストランドSをトラバース用回転軸7aと平行方向へ綾振りすることで、巻取りコレット8aに均等に巻取るようになっている。
【0034】
前記ワインダー8は、ターレット支持部12に回転可能に装備されたターレット8bと、このターレット8bに片持状に平行に装備されて右方へ水平に延びた2つのスピンドル8cと、ターレット8bに付設され各スピンドル8cを回転駆動する電動駆動モータ(図示略)と、3つの巻取りコレット8aが満巻き状態になった時その一方のスピンドル8cを他方のスピンドル8cに切換える為にターレットを180°ずつ回転駆動可能な回転駆動手段(図示略)等を備えている。
【0035】
次に、集束剤塗布装置5について説明する。
3つのガラスフィラメント群Fに対応する3組の集束剤塗布装置5が、ブッシシング3と集束用回転軸6bとの間の途中位置に配設されている。3組の集束剤塗布装置5は、共通のローラ軸13と、このローラ軸13に付設された3つの集束剤塗布ローラ14(以下、塗布ローラという)と、ローラ軸13を回転駆動する電動モータ15と、3つの塗布ローラ14の下側に夫々配設された3つの集束剤供給トレイ16と、3つの集束剤供給トレイ16の下側近傍位置に配設された1つの共通の回収トレイ17と、カバー18などを備えている。
【0036】
ローラ軸13の右端部は、例えば右側壁に支持された軸受13aで回転自在に支持されている。図1、図3に示すように、3つの塗布ローラ14は3群の複数のガラスフィラメントfに夫々集束剤Bを塗布するように配設され、各塗布ローラ14はそれに対応する群の複数のガラスフィラメントfに集束剤Bを塗布する。3つの集束剤供給トレイ16は、3つの塗布ローラ14に塗布する為の集束剤Bを夫々貯溜し、その集束剤Bを対応する塗布ローラ14の外周面に塗布可能に配設されている。本実施例の集束剤Bは、澱粉、ポリビニルアルコール、パラフィン、動植物油、界面活性剤などを含む溶液である。但し、集束剤の成分は上記に限定されるものではない。
【0037】
図2〜図5に示すように、集束剤供給トレイ16は、左右方向に細長い箱体に形成され、その内部の下部に集束剤Bが貯留されている。集束剤供給トレイ16は、底板16aと、上方程前方へ移行するように傾斜した前側板16bと、後側板16cと、左側板16d及び右側板16eとで構成されている。集束剤Bは供給管19aから集束剤供給トレイ16に供給され、排出管19bから図示外のポンプとフィルターの方へ排出されて循環し、集束剤Bの液面は前側板16bのローラ側上端縁16uとほぼ同液位になっている。回収トレイ17は3つの集束剤供給トレイ16から漏れた集束剤Bを回収するもので、左右方向に細長い箱体に形成され、回収トレイ17に回収された集束剤Bは、回収配管9から排出される。この回収トレイ17は、ブラケット17aを介して後側仕切壁10に固定されている。
【0038】
3つの塗布ローラ14は、ローラ軸13にその軸心方向に所定の間隔を空けて装備されているが、各塗布ローラ14のローラ軸方向の長さは塗布ローラ14の位置におけるガラスフィラメント群Fの左右方向幅よりも大きく設定している。ローラ軸13は金属材料(例えば鋼又はステンレス等)で構成され、その直線性を維持し得るだけの剛性を有する。塗布ローラ14は、ガラスフィラメントfに作用する摩擦力を低減し、ローラ自体の耐摩耗性を高め、集束剤塗布性能を高める為に、カーボン材料にバインダーを添加した材料で数mmの肉厚の筒体形状に構成されている。
【0039】
ガラスフィラメントfは数μm〜数十μmの微小径のものであり、ノズル3aから導出されるガラスフィラメントfの走行速度は例えば2000m/分〜4000m/分という高速であるが、塗布ローラ14の外周面の周速は上記の走行速度よりも小さいことから、塗布ローラ14からガラスフィラメントfに作用する摩擦力によりガラスフィラメントfの糸切れが発生することがある。
【0040】
ガラスフィラメントfが塗布ローラ14に接触する接触長に比例して、塗布ローラ14からガラスフィラメントfに作用する摩擦力が増大するため、塗布ローラ14の外径を極力小さく設定して接触長を極力小さくすることが好ましい。そこで、図7に示すように塗布ローラ14の外径Dは、10mm〜30mmの範囲に設定するのが好ましい。外径Dが小さ過ぎると、ローラ軸13の外径dが小さくなり剛性を確保しにくくなるため、塗布ローラ14の外径は15mm〜20mmの範囲に設定するのが最も好ましい。
【0041】
しかも、ローラ軸13を集束剤供給トレイ16内の集束剤Bに浸漬させずに塗布ローラ14の下端部に集束剤Bを塗布できるように、塗布ローラ14は筒体形状に構成することが好ましい。他方、ローラ軸13の剛性確保の観点からローラ軸13の外径は10mm程度に設定することが好ましい。具体的には、本実施例のローラ軸13の外径dは10mm、カーボン材料製の塗布ローラ14の内径dは10mmで外径Dは15mmであり、各塗布ローラ14をローラ軸13に外嵌装着して接着剤等で固定してある。
【0042】
但し、塗布ローラ14は筒体形状のものに限定されず、図9に示すように、ローラ軸13の外周面に塗着や蒸着や貼着により形成したカーボン材料製の薄膜14aで構成してもよい。つまり、塗布ローラ14は、少なくとも、ガラスフィラメントfに集束剤Bを塗布する外周面の表層部がカーボン材料で構成されていればよい。これと同様に、塗布ローラ14は、例えば合成樹脂製の筒形部材と、その外周面の表層部に形成したカーボン材料製の薄膜とで構成してもよい。
【0043】
図3、図8に示すように、塗布ローラ14は、ブッシング3の前端側部分に下方から対向する位置に配設され、各群の複数のガラスフィラメントfは、ブッシング3のノズル3aから下方へ延び、塗布ローラ14の外周面に接触して小角度だけ方向変換し、集束ローラ6aへ集まり、集束ローラ6aからほぼ鉛直下方へ延びて巻取りコレット8aに巻き取られる。このため、ガラス繊維製造装置1の前後幅が小さくなるため、設備のスペース効率の面で有利である。
【0044】
図3、図5に示すように、カバー18は、ガラスフィラメントfの糸切れが発生した際に、ガラスフィラメントfが集束剤供給トレイ16に流入したり、異物が落下侵入したりするのを防止すると共に、ブッシング3から放射熱が集束剤供給トレイ16内の集束剤Bに入射するのを防止するものである。
【0045】
カバー18は、集束剤供給トレイ16の上方を覆うように前方下がりの傾斜状に配設され、先端部(下端部)には上方へ90°折曲されたフランジ18aが形成され、カバー18の上面に沿って落下した異物を受け止め得るようになっている。カバー18を後側仕切壁10に支持するため、後側仕切壁10に水平板10aが固定され、この水平板10aにカバー基板18bが固定され、カバー18の上端部がヒンジ18cによりカバー基板18bに固定され、カバー18が上方へ開閉可能になっている。尚、水平板10aは後側仕切壁10の前面に固定してもよい。
【0046】
次に、各集束剤塗布装置5に装備された隙間調整機構20について説明する。
図5に示すように、塗布ローラ14の下端部が集束剤供給トレイ16内の集束剤Bに浸漬している。ガラスフィラメントfが高速で走行するため、その随伴エア流が、図5において矢印C方向へ回転する塗布ローラ14の下面側へ流入すると、塗布ローラ14に集束剤Bを均一に塗布できなくなるため、集束剤供給トレイ16の前側板16bの塗布ローラ側上端縁16uと塗布ローラ14の外周面の間は、例えば1mm程度の微小な隙間Gとなるように形成されている。この隙間Gは、ガラスフィラメントfの種類、材質、走行速度等に応じて精密に調整する必要があるため、以下に説明する隙間調整機構20が設けられている。
【0047】
図4〜図6に示すように、隙間調整機構20は、集束剤供給トレイ16の上下方向の位置を調整可能な左右1対の上下方向位置調整機構21と、集束剤供給トレイ16の水平方向(前後方向)の位置を調整可能な左右1対の水平方向位置調整機構22とを有する。
集束剤供給トレイ16の左側板16dの上端と右側板16eの上端に、前後に細長い水平で互いに相接近側へ折曲されたフランジ部16f,16gが一体形成されている。
【0048】
各フランジ部16f,16gが図6に示すL形部材23を介して後側仕切板10に位置調整可能に固定されている。L形部材23は帯状金属板を中間位置で90°屈曲し、鉛直板部24と水平板部25を形成したものである。鉛直板部24は上下方向に細長い長穴24aを有し、後側仕切板10の前面に当接状態に配置されている。水平板部25は前後方向に細長い長穴25aを有し、フランジ部16f,16gの上面に当接状態に配置されている。
【0049】
左右の各上下方向位置調整機構21は、L形部材23の鉛直板部24の長穴24aと、この長穴24aに挿通されて後側仕切板10の2つのボルト穴24bに夫々螺合され且つ鉛直板部24を後側仕切板10に固定する2つのボルト26等で構成されている。左右の4つのボルト26を緩めて集束剤供給トレイ16の上下方向位置を調整でき、 その調整後ボルト26を再び締結する。
【0050】
左右の各水平方向位置調整機構22は、L形部材23の水平板部25の長穴25aと、この長穴25aに挿通されてフランジ部16f,16gの2つのボルト穴25bに夫々螺合され且つ水平板部25をフランジ部16f,16gに固定する2つのボルト27等で構成されている。左右の4つのボルト27を緩めて集束剤供給トレイ16の前後方向位置を調整でき、 その調整後ボルト27を再び締結する。尚、ボルト26,27はその頭部に六角穴を有する穴付きボルトであるが、これと異なるボルトも採用可能である。
【0051】
上記のガラス繊維製造装置1の集束剤塗布装置5の作用効果について説明する。
ガラスフィラメントfに集束剤Bを塗布する際には、ブッシング3の多数のノズル3aから溶融状の多数のガラスフィラメントfを導出し、それら複数のガラスフィラメントfを3つのガラスフィラメント群Fに分け、これらフィラメント群Fを複数の集束ローラ6aで集束してガラスストランドSを製造する際に、集束ローラ6aよりブッシング3側において、共通のローラ軸13にその軸心方向に間隔を空けて装備された3つの塗布ローラ14により、3群のガラスフィラメントFに夫々集束剤Bを塗布する。
【0052】
塗布ローラ14の外径を小径化(実施例の塗布ローラでは15mm)することにより、塗布ローラ14に接触するガラスフィラメントfとの接触長が短くなるから、塗布ローラ14からガラスフィラメントfに作用する摩擦力を小さくし、ガラスフィラメントfの張力を低減させて、ガラスフィラメントfの糸切れが発生しにくくすることができる。それ故、ガラスフィラメントfの径の一層の微細化にも対応できる。しかも、塗布ローラ14をカーボン材料で構成するため、ガラスフィラメントfに作用する摩擦力を低減し、塗布ローラ14の耐摩耗性を高め、集束剤塗布性能を高めることができる。
【0053】
3群のガラスフィラメントFに対応する3組の集束剤塗布装置5を設け、各集束剤塗布装置5に塗布ローラ14と、集束剤供給トレイ16を設けたため、塗布ローラ14の長さを各群の複数のガラスフィラメントfに集束剤Bを塗布するのに必要かつ十分な長さに設定して、塗布ローラ14に付着する無駄な集束剤Bの量を低減でき、集束剤Bの消費量を節減できる。しかも、塗布ローラ14に対応する集束剤供給トレイ16に構成するため、集束剤供給トレイ16に余分に収容する集束剤Bの量を低減でき、集束剤供給トレイ16に沈殿し付着する集束剤Bの量を低減して集束剤Bの消費量を低減できる。
【0054】
各集束剤供給トレイ16の前側板16bの上端縁16uと塗布ローラ14の外周面間の隙間Gを調整する隙間調整機構20を設けたため、ガラスフィラメントfの径、材質、走行速度等に応じて、上記の隙間Gを最適な大きさに調整することができる。
【0055】
しかも、塗布ローラ14及び集束剤供給トレイ16は、各群のガラスフィラメントFに対応するように、ローラ軸13の長さ方向にほぼ3分割され、ローラ軸方向の長さが小さくなっているため、塗布ローラ14の全長に亙って上記の隙間Gが均一となるように高精度に容易に調整することができる。それ故、塗布ローラ14の外周面に集束剤Bを均一に塗布することが可能になり、ガラスストランドSの品質を安定させることができる。
【0056】
塗布ローラ14の外周面の下端が、集束剤供給トレイ16の前側板16bの上端縁16uよりも後方且つ下方に位置しているため、左右の上下方向位置調整機構21により集束剤供給トレイ16の上下方向位置を微調整して前記隙間Gの大きさを微調整できる。集束剤供給トレイ16の位置を上方へ調整すれば前記隙間Gが小さくなり、集束剤供給トレイ16の位置を下方へ調整すれば前記隙間Gが大きくなる。
【0057】
同様に、左右の水平方向位置調整機構22により集束剤供給トレイ16の水平方向位置を微調整して前記隙間Gの大きさを微調整できる。集束剤供給トレイ16の位置を後方へ調整すれば前記隙間Gが小さくなり、集束剤供給トレイ16の位置を前方へ調整すれば前記隙間Gが大きくなる。しかも、上下方向位置調整機構21と水平方向位置調整機構22を介して、前記隙間Gの塗布ローラ14に対する相対的な位置も調整できる。
【0058】
尚、集束剤供給トレイ16の上下方向位置を微調整することで、塗布ローラ14の集束剤Bへの浸漬深さを最適に調整できるため、塗布ローラ14への集束剤塗布厚さを微調整でき、ガラスフィラメントfに塗布する集束剤Bの量を最適に調整できる。
【0059】
3組の集束剤塗布装置5に共通の1本のローラ軸13を採用しているため、3つの塗布ローラ14を回転駆動する機構を簡素化でき、設備費の面で有利である。そして、金属製のローラ軸13であるため、ローラ軸13の剛性を確保し、3つの塗布ローラ14の位置を安定させることができる。3組の集束剤塗布装置5に1つの共通の回収トレイ17を設けるため、回収トレイ17の構造が複雑化することがない。
【実施例2】
【0060】
次に、実施例2のガラス繊維製造装置の集束剤塗布装置5Aについて図10に基づいて説明する。但し、実施例1の集束剤塗布装置5と異なる構成(塗布ローラ14Aの構成)についてのみ説明する。複数のガラスフィラメントfが塗布ローラ14Aに接近してくる方向は一定方向ではなく様々であるが、塗布ローラ14Aに接触する複数のガラスフィラメントfの接触長を極力均一化することが好ましい。
【0061】
そこで、3つの塗布ローラ14Aの各々は、ローラ軸13の軸心Xと直交する面と平行にフィラメントfが接触する部分において塗布ローラ14Aの略中央部を最大径部14mとし、その最大径部14mから軸心方向へ離隔する程小径化するように形成されている。具体的には、塗布ローラ14Aは、緩曲線状の2次曲線(円弧、部分放物線、部分双曲線、部分楕円線など)を軸心X回りに回転させた回転体又はそれに近い形状(つまり、細長く引き伸ばした和太鼓形状)に形成されている。
【0062】
塗布ローラ14Aの最大径部14mの外径は例えば30mm、ローラ端部の最小径部14nの外径は例えば12mmである。但し、上記の数値は一例でありこれに限るものではない。この構成によれば、塗布ローラ14Aに接触する複数のガラスフィラメントfの接触長を均一化またはほぼ均一化することができるため、塗布ローラ14Aから複数のガラスフィラメントfに作用する摩擦力を均一化し、複数のガラスフィラメントfの張力を均一化し、糸切れの発生を少なくし、ガラスフィラメントfとガラスストランドSの品質を高めることができる。特に、この塗布ローラ14Aは、ガラスフィラメントfの径が微細化した場合に特に好ましい。
但し、前記の最大径部14mから最小径部14nにかけて、塗布ローラ14Aの外径がリニアに減少するような形状に構成してもよい。
【実施例3】
【0063】
次に、実施例3のガラス繊維製造装置の集束剤塗布装置5Bについて図11に基づいて説明する。但し、実施例1の集束剤塗布装置5と異なる構成(隙間調整機構20Bの構成)についてのみ説明する。
【0064】
前記の隙間Gを調整する為の隙間調整機構20Bは、集束剤供給トレイ16Bの上下方向の位置を調整可能な左右1対の上下方向位置調整機構31と、集束剤供給トレイ16Bの水平方向の位置を調整可能な左右1対の水平方向位置調整機構32とを有する。隙間調整機構20Bは、集束剤供給トレイ16Bを後側仕切壁10に解除可能に固定する機能も有する。
【0065】
L形部材33は、鉛直板部34と水平板部35とを有する。鉛直板部34は左右方向に細長い長円形の長穴34aを有し、後側仕切壁10の前面に当接状に配置されている。水平板部35は円形穴35aを有し、集束剤供給トレイ16Bのフランジ部16f又は16gの上面に当接状に配置されている。
【0066】
各上下方向位置調整機構31は、長穴34aに挿通されて鉛直板部34を後側仕切壁10に固定する調整軸部材36と、低摩擦の平座金37と、ナット38などを備えている。 調整軸部材36は、六角穴付きの頭部36aと、ボルト部36cと、頭部36aとボルト部36cの間に一体形成され且つ頭部36aとボルト部36cの軸心に対して例えば2mm〜3mm偏心した軸心を有し且つボルト部36cよりも大径の円形の偏心カム36bとを有する。偏心カム36bは長穴34aの上下幅と等しい外径を有し、長穴34aに回転可能に嵌合されている。
【0067】
偏心カム36bは頭部36aと後側仕切壁10とで挟持され、ボルト部36cは後側仕切壁10の円形穴36dを挿通して後側仕切壁10の後側へ突出し、ボルト部36cの先端のネジ部に平座金37を介してナット38が螺合され、鉛直板部34が頭部36aと後側仕切壁10の間に挟持されている。調整軸部材36の頭部36aを操作して偏心カム36bを回動させ、L形部材33の上下方向位置(つまり、集束剤供給トレイ16Bの上下方向位置)を微調整し、集束剤供給トレイ16Bの上下方向の位置を精密に微調整することができる。尚、平座金38は位置調整時に後側仕切壁10に対して摺動回転し、ナット38が緩むのを防止するものである。
【0068】
各水平方向位置調整機構32は、円形穴35aに挿通されて水平板部35をフランジ部16f又は16gに固定する調整軸部材39と、低摩擦の平座金40と、ナット41などで構成され、上下方向位置調整機構31と同様の構成である。調整軸部材39は、上記の調整軸部材36と同様のもので、頭部39aと、ボルト部39cと、偏心カム39bとを有し、偏心カム39bは円形穴35aに摺動可能に内嵌されている。
【0069】
偏心カム39bは頭部39aとフランジ部16f又は16gとで挟持され、ボルト部39cはフランジ部16f又は16gの円形穴39dを挿通してフランジ部16f又は16gの下側へ突出し、ボルト39cの先端のネジ部に低摩擦の平座金40を介してナット41が螺合され、水平板部35が頭部39aとフランジ部16f又は16gの間に挟持されている。調整軸部材39を操作して偏心カム39bを回動させ、集束剤供給トレイ16Bの水平方向の位置を精密に微調整することができる。
【0070】
前記の隙間調整機構20Bは、偏心カム36b,39bを介して位置調整する構成であるため、簡単な機構で精密に微調整可能である。尚、前記の長穴34aを偏心カム36bが摺動可能に内嵌する円形穴とし、且つ前記の円形穴35aを偏心カム39bが回転可能に嵌合する長穴としてもよい。
【実施例4】
【0071】
次に、実施例4のガラス繊維製造装置の集束剤塗布装置5Cについて、図12、図13に基づいて説明する。但し、実施例1の集束剤塗布装置5と異なる構成(回収トレイ17Cの構造、集束剤供給トレイ16Cと回収トレイ17Cの連結構造、隙間調整機構20Cの構成)についてのみ説明する。
【0072】
この集束剤塗布装置5Cにおいては、3つの集束剤供給トレイ16Cに対応する3つの回収トレイ17Cが設けられ、各集束剤供給トレイ16Cは各回収トレイ17Cに一体的に連結されている。各集束剤供給トレイ16Cに対応する隙間調整機構20Cであって、集束剤供給トレイ16Cと回収トレイ17Cとを一体的に位置調整することにより、集束剤供給トレイ16Cと塗布ローラ14の外周面間の隙間Gを調整する隙間調整機構20Cが設けられている。
【0073】
隙間調整機構20Cは、左右1対の上下方向位置調整機構42と、左右1対の水平方向位置機構43と、ガイド機構44とを有する。
各上下方向位置調整機構42は、後端が後側仕切壁10に固定されて後側仕切壁10から前方へ延びる水平アーム42aと、この水平アーム42aのネジ穴に螺合された鉛直の押しボルト42bとで構成され、押しボルト42bの頭部が回収トレイ17Cの底板の下面に当接している。押しボルト42bを回動操作することで、回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cの上下方向位置、つまり前記隙間Gを調整可能である。
【0074】
各水平方向位置調整機構43は、上端が回収トレイ17Cの底板に固定されてその底板から下方へ延びる鉛直片43aと、この鉛直片43aのネジ穴に螺合された水平の押しボルト43bとで構成され、押しボルト43bの頭部が後側仕切壁10の前面に当接している。押しボルト43bを回動操作することで、回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cの水平方向位置、つまり前記隙間Gを調整可能である。
【0075】
前記ガイド機構44は、回収トレイ17Cの長さ方向中央部を後側仕切壁10に解除可能に連結し且つ回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cの上下方向と水平方向への位置調整を許容するものである。ガイド機構44は、ガイド部材45と、回収トレイ17Cの底板から垂設された鉛直部材46と、後側仕切壁10から前方へ延びる水平部材47とを有する。
【0076】
ガイド部材45は、鉛直部材46のガイド穴に挿通した水平ロッド部45aと、この水平ロッド部45aの後端から下方へ一体的に延びる鉛直ロッド部45bであって水平部材47のガイド穴に挿通した鉛直ロッド部45bとを有する。鉛直部材46には水平ロッド部45aを解除可能にロックするロックボルト48が設けられ、水平部材47には鉛直ロッド部45bを解除可能にロックするロックボルト49が設けられている。
【0077】
図13に示すように、塗布ローラ14の下端が集束剤供給トレイ16Cの前側板16bの上端縁16uよりも後方かつ下方に位置しているため、左右の上下方向位置調整機構42を介して回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cを上方へ位置調整すると、前記の隙間Gを小さく調整することができ、その反対に下方へ位置調整すると前記の隙間Gを大きく調整することができる。左右の水平方向位置調整機構43を介して回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cを後方へ位置調整することにより、前記の隙間Gを小さく調整することができ、その反対に前方へ位置調整することにより前記の隙間Gを大きく調整することができる。但し、水平方向へ調整する際には予めロックボルト48を緩め、また鉛直方向へ調整する際には予めロックボルト49を緩め、調整後にはロックボルト48,49を再締結する。
【0078】
この集束剤塗布装置5Cにおいては、回収トレイ17Cをローラ軸13の長さ方向に3分割し、回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cを一体的に連結し、隙間調整機構20Cにより、回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cの位置を一体的に上下方向と水平方向へ独立に調整可能にしたので、回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cの相対的な位置関係が変動しないため、前記隙間Gの調整の後に回収トレイ17Cの位置を調整する必要がなく、集束剤供給トレイ16Cからこぼれた集束剤Bを回収トレイ17Cに回収する回収率を高めることができる。
【0079】
前記実施例を部分的に変更する例について簡単に説明する。
1)前記実施例は、ガラス繊維製造装置の集束剤塗布装置及び集束剤塗布方法に本発明を適用した場合を例にして説明したが、本発明は、種々の合成樹脂製の繊維や炭素繊維を製造する種々の繊維製造装置の集束剤塗布装置にも適用することができる。
【0080】
2)ガラスフィラメント群Fの数(つまり、塗布ローラの数)は3に限るものではなく、2でもよく、4以上でもよい。
3)前記実施例では、隙間調整機構を介して手動により隙間を調整する例を説明したが、隙間調整機構を介して圧電素子等を有する微動型アクチュエータにより隙間を調整するように構成してもよい。
4)前記実施例の隙間調整機構は、上下方向位置調整機構と水平方向位置調整機構とを備えているが、上下方向位置調整機構と水平方向位置調整機構の何れか一方のみで構成してもよい。
5)その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の繊維製造装置の集束剤塗布装置は、ガラス繊維、種々の合成樹脂繊維、炭素繊維などを製造する繊維製造装置において、フィラメントに集束剤を塗布する装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 ガラス繊維製造装置
3 ブッシング
3a ノズル
f ガラスフィラメント
F ガラスフィラメント群
S ガラスストランド
B 集束剤
G 隙間
5,5A,5B,5C 集束剤塗布装置
6a 集束ローラ
13 ローラ軸
14,14A 集束剤塗布ローラ
14m 最大径部
16,16B,16C 集束剤供給トレイ
16u 上端縁
17 回収トレイ
20,20B,20C 隙間調整機構
21,31,42 上下方向位置調整機構
22,32,43 水平方向位置調整機構
X 軸心
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製造装置の集束剤塗布装置及び集束剤塗布方法に関し、特に集束剤塗布装置の集束剤塗布ローラと、集束剤塗布ローラに集束剤を供給する集束剤供給トレイの構造を改良したものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維の製造装置においては、複数種類の無機材料を調合したガラス原料をガラス溶融炉内で溶融し、高温に溶融した溶融ガラスを溶融ガラス貯留槽に導入し、その底部のブッシングに形成された多数のノズルから連続的に多数の微小径のガラスフィラメントを導出して冷却し、それら多数のガラスフィラメントの表面に集束剤を塗布し、そのガラスフィラメントを集束ローラで集束してガラスストランドとし、このガラスストランドを円筒状の巻取りコレットに巻き取って回巻体を製造する。
【0003】
近年、ガラス繊維製造の生産性を高める為に、数百〜数千本のノズルを形成した大型のブッシングを装備したガラス繊維製造装置が実用に供されている。特許文献1のガラス繊維の製造装置においては、ブッシングに形成した多数のノズルから多数のガラスフィラメントが導出され、これら多数のガラスフィラメントを複数のガラスフィラメント群に群分けし、集束剤塗布装置により集束剤を塗布してから複数の集束ローラで集束し、複数条のガラスストランドを製造し、巻取り装置に取り付けた複数の紙管に巻き取る。
【0004】
前記の集束剤塗布装置は、多数のガラスフィラメントに集束剤を塗布する集束剤塗布ローラと、この集束剤塗布ローラに塗布する為の集束剤を貯溜し且つその集束剤を集束剤塗布ローラの外周面に塗布可能に配設された集束剤供給トレイとを備えている。回転駆動される集束剤塗布ローラの下端部を集束剤供給トレイ内の集束剤に浸漬させて、その外周面に集束剤を塗布し、集束剤塗布ローラの外周面にガラスフィラメントを接触させることで、ガラスフィラメントに集束剤を塗布するようになっている。
【0005】
特許文献2のポリエステル繊維の製造技術においても、油剤(集束剤)を塗布する油剤付与工程において、回転する油剤付与ローラの下部を油剤供給皿内の油剤に浸漬させ、ローラ外周面に油剤を均一に付着させ、ローラ外周面にポリエステルのマルチフィラメントを接触させることで、マルチフィラメントに油剤を塗布する。
【0006】
従来の集束剤塗布装置(特許文献1,2)の集束剤塗布ローラは、複数のフィラメント群の多数のフィラメントに集束剤を塗布できるように連続した1本の共通の塗布ローラに形成されていた。集束剤供給トレイも集束剤塗布ローラに集束剤を塗布できるように集束剤塗布ローラ以上の長さに構成されていた。
【0007】
集束剤塗布ローラの外周面に集束剤を均一に塗布する為に、集束剤供給トレイの集束剤塗布ローラ側上端縁と集束剤塗布ローラの外周面間の隙間をローラ外周面が前記上端縁に接触しない程度の微小隙間に設定しておく必要がある。集束剤塗布ローラに接触するガラスフィラメントの走行速度は約2000m/分〜6000m/分もの高速であるため、上記の隙間が大きい場合には、フィラメントの随伴エア流が上記の隙間から集束剤塗布ローラの下側へ流入し、集束剤が波立ち、ローラ外周面に集束剤が均一に塗布されずに塗布ムラが発生する。
【0008】
集束剤塗布ローラに集束剤の塗布ムラが発生し、ガラスフィラメンの表面に十分に集束剤の被膜が形成されない場合、ガラスフィラメント同士の結束力が弱くなり、ガラスストランドの集束性が悪くなる。その結果、その後の撚糸、整経、製織工程の際にガラスストランドにおけるガラスフィラメントの折れや糸切れにより毛羽が発生し易くなる。
【0009】
そこで、集束剤供給トレイの上端縁と集束剤塗布ローラの外周面間の隙間の大きさを、ガラスフィラメントの種類に応じた走行速度、ガラスフィラメントの材質、集束剤の種類に応じて調整するため、集束剤供給トレイの両端付近には、トレイの上下方向位置を調整する調整ボルトと、トレイの水平方向位置を調整する調整ボルトなどが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−127970号公報
【特許文献2】特開平10−266012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のガラス繊維製造装置では、前記集束剤塗布ローラが複数のガラスフィラメント群に対応する長い共通の塗布ローラに形成されているため、前記の複数の調整ボルトを操作して、集束剤供給トレイの上端縁と集束剤供給ローラの外周面間の隙間を調整する際に、塗布ローラの全長に亙って均一の微小隙間となるように塗布ローラの位置を精密に微調整することが難しかった。そのため、ガラスフィラメントへ集束剤を均一に塗布することが難しく、ガラスストランドの品質を安定させることが難しかった。そして、前記隙間を微調整する際には多くの時間と労力も要していた。しかも、塗布ローラの軸心が微小に撓んでいる場合には、その修正が困難で、前記隙間の大きさの変動要因になっていた。
【0012】
集束剤塗布ローラが長い共通の塗布ローラであるため、塗布ローラの外周面のうちフィラメント群とフィラメント群の間に、フィラメントが接触しない部分が発生し、そこに集束剤が無駄に塗布されていたため集束剤が酸化により劣化しやすかった。
【0013】
本発明の目的は、繊維製造技術において、集束剤供給トレイの上端縁と塗布ローラ間の隙間を簡単に精度よく微調整可能にし、ガラスフィラメントへの集束剤の均質な塗布を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の繊維製造装置の集束剤塗布装置は、ブッシングに形成された多数のノズルから溶融状の多数のフィラメントを導出し、それらフィラメントを複数のフィラメント群となるように複数の集束ローラで集束してストランドを製造する繊維製造装置に装備され、前記集束ローラよりブッシング側において多数のフィラメントに集束剤を塗布する繊維製造装置の集束剤塗布装置において、共通のローラ軸にその軸心方向に間隔を空けて装備され、複数群のフィラメントに夫々集束剤を塗布する複数の集束剤塗布ローラと、前記集束剤を夫々貯溜し且つその集束剤を夫々の集束剤塗布ローラの外周面に塗布可能に配設された複数の集束剤供給トレイとを備えたことを特徴としている。
【0015】
上記の構成を有するため、集束剤塗布ローラは、集束剤を塗布するフィラメント群に対応する長さの短いローラになり、集束剤供給トレイの長さも集束剤塗布ローラと同様に短くなり、集束剤供給トレイが小型化する。それ故、集束剤供給トレイと集束剤塗布ローラ間の隙間を調整する際に、集束剤塗布ローラの全長に亙って隙間が均一となるように高精度に隙間調整することが可能になり、集束剤塗布ローラに集束剤を均一に塗布することが可能になる。
【0016】
上記の構成において、前記フィラメントがガラスフィラメントであり、前記繊維製造装置がガラス繊維製造装置であることが好ましい。
【0017】
上記の構成において、前記各集束剤供給トレイの集束剤塗布ローラ側上端縁と前記集束剤供給トレイに対応する前記集束剤塗布ローラの外周面間の隙間を調整可能な隙間調整手段を備えることが好ましい。隙間調整手段により、集束剤供給トレイと集束剤塗布ローラの外周面間の隙間を、フィラメントの材質、フィラメントの走行速度、集束剤の種類等に応じた隙間に調整することで、集束剤塗布ローラに集束剤を均一に塗布することができ、フィラメントに集束剤を均一に塗布できる。
【0018】
上記の構成において、前記隙間調整手段は、前記集束剤供給トレイの上下方向位置調整機構と水平方向位置調整機構を両方有することが好ましい。集束剤供給トレイの上下方向位置の調整と水平方向位置の調整を介して、前記隙間の大きさと、この隙間の集束剤ローラに対する相対的な位置を最適に調整することができる。特に、集束剤供給トレイの上下方向位置を調整することで、集束剤塗布ローラの集束剤への浸漬深さも調整できる。
【0019】
上記の構成において、前記ローラ軸が金属材料で構成され、前記集束剤塗布ローラがカーボン材料で構成されることが好ましい。ローラ軸の剛性を確保し、各集束剤塗布ローラの位置を安定させることができる。
【0020】
上記の構成において、前記集束剤塗布ローラの直径が10mm〜30mmの範囲に設定されることが好ましい。集束剤塗布ローラの直径を上記のように小さく設定することで、集束剤塗布ローラからフィラメントに作用する摩擦力を小さくして、糸切れしにくくすることができる。微小径のフィラメントを製造する際に特に有効である。
【0021】
上記の構成において、前記複数の集束剤供給トレイの下側に、前記複数の集束剤供給トレイから漏れた集束剤を回収する1つの共通の回収トレイを設けることが好ましい。複数の集束剤塗布ローラや複数のフィラメントから落下する集束剤を回収トレイに確実に回収することができる。
【0022】
上記の構成において、前記集束剤塗布ローラに接触する複数のフィラメントの接触長が均一化するように、前記集束剤塗布ローラは、前記ローラ軸の軸心と直交する面と平行にフィラメントが接触する部分を最大径部とし、その最大径部から軸心方向へ離隔する程小径化するように形成することが好ましい。集束剤塗布ローラに接触する複数のフィラメントの接触長を短かくしつつ均一化できるため、複数のフィラメントに作用する張力を小さく均一化し、複数のフィラメントの太さを均一化し、糸切れを生じにくくすることができる。
【0023】
本発明の集束剤塗布方法は、繊維製造装置のブッシングに形成された多数のノズルから溶融状の多数のフィラメントを導出し、それらフィラメントを複数のフィラメント群となるように複数の集束ローラで集束してストランドを製造する際に、前記集束ローラよりブッシング側において、共通のローラ軸にその軸心方向に間隔を空けて装備された複数の集束剤塗布ローラにより、複数群のフィラメントに夫々集束剤を塗布することを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
本発明の繊維製造装置の集束剤塗布装置によれば、複数群のフィラメントに夫々集束剤を塗布する複数の集束剤塗布ローラと、複数の集束剤を夫々貯溜し且つその集束剤を夫々集束剤塗布ローラの外周面に塗布可能に配設された複数の集束剤供給トレイとを備え、複数の集束剤塗布ローラは、共通のローラ軸にその軸心方向に間隔を空けて装備されているため、集束剤供給トレイと集束剤塗布ローラ間の隙間を調整する際に、集束剤塗布ローラの全長に亙って隙間が均一となるように高精度に隙間調整することが可能になり、集束剤塗布ローラに集束剤を均一に塗布することが可能になり、製造するストランドの品質を安定させることができる。
【0025】
共通のローラ軸に複数の集束剤塗布ローラを装備したため、1つの回転駆動手段で共通のローラ軸を介して複数の集束剤塗布ローラを回転駆動可能である。
フィラメント群に対応する長さの集束剤塗布ローラにすることができるため、集束剤塗布ローラに無駄に集束剤が塗布されることをなくし、集束剤の劣化を抑制できる。
本願発明のその他の作用効果については実施例に記載するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1に係るガラス繊維製造装置の斜視図である。
【図2】ガラス繊維製造装置の正面図である。
【図3】ガラス繊維製造装置の縦断側面図である。
【図4】集束剤塗布装置の正面から視た斜視図である。
【図5】集束剤塗布装置の縦断側面図である。
【図6】隙間調整機構のL形部材の斜視図である。
【図7】集束剤塗布ローラの断面図である。
【図8】溶融ガラス貯留槽とブッシングの底面図である。
【図9】変形例の集束剤塗布ローラの断面図である。
【図10】実施例2の集束剤塗布装置の正面から視た斜視図である。
【図11】実施例3の集束剤塗布装置の縦断側面図である。
【図12】実施例4の集束剤塗布装置の平面図である。
【図13】実施例4の集束剤塗布装置の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0028】
最初に、実施例1に係るガラス繊維製造装置1とその集束剤塗布装置5について、図1〜図8に基づいて説明する。図2の前後、左右、上下を前後、左右、上下として説明する。図1、図2に示すように、ガラス繊維製造装置1は、矢印Aで示す上流側から溶融ガラスが供給される溶融ガラス貯留槽2を有し、この溶融ガラス貯留槽2の底部の白金製のブッシング3には多数の微小径のノズル3aが形成され、これら多数のノズル3aから溶融状の多数のガラスフィラメントfを夫々導出し、それら複数のガラスフィラメントfからなるガラスフィラメント群Fを複数の集束ローラ6aで集束してガラスストランドSを製造する装置である。
【0029】
具体的には、ガラス繊維製造装置1は、溶融ガラス貯留槽2と、その底部のブッシング3と、多数のガラスフィラメントfに冷却水を噴霧する複数の噴霧ノズル4と、多数のガラスフィラメントfに集束剤Bを塗布する複数の集束剤塗布装置5と、複数の集束ローラ6a(集束ガイド)を含む集束機構6と、複数本のガラスストランドSを複数の巻取りコレット8aに巻取るワインダー8と、ワインダー8の上流側位置で複数本のガラスストランドSを綾振りするトラバース機構7などを有する。
【0030】
ガラス繊維製造装置1は、天井側の天井壁(図示略)と、後側の後側仕切壁10と、左側の左側壁11と、右側の右側壁(図示略)と、右側面の一部を開閉可能な開閉扉(図示略)等を有する。
【0031】
前記ブッシング3には、図8の底面図に模式的に示すように、複数行複数列のマトリックス状に多数(例えば、数百〜数千)のノズル3aが形成されている。尚、図8中において、点線で示した13はローラ軸、14は集束剤塗布ローラを示している。
【0032】
前記集束機構6は、電動モータ(図示略)で回転駆動される水平な集束用回転軸6bと、この集束用回転軸6bに固定された複数の集束ローラ6aを備えている。本実施例のガラス繊維製造装置1は、3つの集束ローラ6aを介して3本のガラスストランドSを製造し、3つの巻取りコレット8aに巻き取る構成であるため、ブッシング3の多数のノズル3aは3群に群分けされ、各群の多数のガラスフィラメントfがそれに対応する集束ローラ6aに集束されてガラスストランドSになる。
【0033】
集束用回転軸6bよりもブッシング3側において、3群に群分けされた多数のガラスフィラメントfに3組の集束剤塗布装置5により集束剤Bを夫々塗布するように構成してある。前記トラバース機構7は、左側壁11側のターレット支持部12から水平に右方へ延び且つ電動モータ(図示略)で回転駆動されるトラバース用回転軸7aと、3つの集束ローラ6aに対応するようにトラバース用回転軸7aに固定された3つのワイヤトラバース7bとを有し、各ワイヤトラバース7bが回転しながらガラスストランドSをトラバース用回転軸7aと平行方向へ綾振りすることで、巻取りコレット8aに均等に巻取るようになっている。
【0034】
前記ワインダー8は、ターレット支持部12に回転可能に装備されたターレット8bと、このターレット8bに片持状に平行に装備されて右方へ水平に延びた2つのスピンドル8cと、ターレット8bに付設され各スピンドル8cを回転駆動する電動駆動モータ(図示略)と、3つの巻取りコレット8aが満巻き状態になった時その一方のスピンドル8cを他方のスピンドル8cに切換える為にターレットを180°ずつ回転駆動可能な回転駆動手段(図示略)等を備えている。
【0035】
次に、集束剤塗布装置5について説明する。
3つのガラスフィラメント群Fに対応する3組の集束剤塗布装置5が、ブッシシング3と集束用回転軸6bとの間の途中位置に配設されている。3組の集束剤塗布装置5は、共通のローラ軸13と、このローラ軸13に付設された3つの集束剤塗布ローラ14(以下、塗布ローラという)と、ローラ軸13を回転駆動する電動モータ15と、3つの塗布ローラ14の下側に夫々配設された3つの集束剤供給トレイ16と、3つの集束剤供給トレイ16の下側近傍位置に配設された1つの共通の回収トレイ17と、カバー18などを備えている。
【0036】
ローラ軸13の右端部は、例えば右側壁に支持された軸受13aで回転自在に支持されている。図1、図3に示すように、3つの塗布ローラ14は3群の複数のガラスフィラメントfに夫々集束剤Bを塗布するように配設され、各塗布ローラ14はそれに対応する群の複数のガラスフィラメントfに集束剤Bを塗布する。3つの集束剤供給トレイ16は、3つの塗布ローラ14に塗布する為の集束剤Bを夫々貯溜し、その集束剤Bを対応する塗布ローラ14の外周面に塗布可能に配設されている。本実施例の集束剤Bは、澱粉、ポリビニルアルコール、パラフィン、動植物油、界面活性剤などを含む溶液である。但し、集束剤の成分は上記に限定されるものではない。
【0037】
図2〜図5に示すように、集束剤供給トレイ16は、左右方向に細長い箱体に形成され、その内部の下部に集束剤Bが貯留されている。集束剤供給トレイ16は、底板16aと、上方程前方へ移行するように傾斜した前側板16bと、後側板16cと、左側板16d及び右側板16eとで構成されている。集束剤Bは供給管19aから集束剤供給トレイ16に供給され、排出管19bから図示外のポンプとフィルターの方へ排出されて循環し、集束剤Bの液面は前側板16bのローラ側上端縁16uとほぼ同液位になっている。回収トレイ17は3つの集束剤供給トレイ16から漏れた集束剤Bを回収するもので、左右方向に細長い箱体に形成され、回収トレイ17に回収された集束剤Bは、回収配管9から排出される。この回収トレイ17は、ブラケット17aを介して後側仕切壁10に固定されている。
【0038】
3つの塗布ローラ14は、ローラ軸13にその軸心方向に所定の間隔を空けて装備されているが、各塗布ローラ14のローラ軸方向の長さは塗布ローラ14の位置におけるガラスフィラメント群Fの左右方向幅よりも大きく設定している。ローラ軸13は金属材料(例えば鋼又はステンレス等)で構成され、その直線性を維持し得るだけの剛性を有する。塗布ローラ14は、ガラスフィラメントfに作用する摩擦力を低減し、ローラ自体の耐摩耗性を高め、集束剤塗布性能を高める為に、カーボン材料にバインダーを添加した材料で数mmの肉厚の筒体形状に構成されている。
【0039】
ガラスフィラメントfは数μm〜数十μmの微小径のものであり、ノズル3aから導出されるガラスフィラメントfの走行速度は例えば2000m/分〜4000m/分という高速であるが、塗布ローラ14の外周面の周速は上記の走行速度よりも小さいことから、塗布ローラ14からガラスフィラメントfに作用する摩擦力によりガラスフィラメントfの糸切れが発生することがある。
【0040】
ガラスフィラメントfが塗布ローラ14に接触する接触長に比例して、塗布ローラ14からガラスフィラメントfに作用する摩擦力が増大するため、塗布ローラ14の外径を極力小さく設定して接触長を極力小さくすることが好ましい。そこで、図7に示すように塗布ローラ14の外径Dは、10mm〜30mmの範囲に設定するのが好ましい。外径Dが小さ過ぎると、ローラ軸13の外径dが小さくなり剛性を確保しにくくなるため、塗布ローラ14の外径は15mm〜20mmの範囲に設定するのが最も好ましい。
【0041】
しかも、ローラ軸13を集束剤供給トレイ16内の集束剤Bに浸漬させずに塗布ローラ14の下端部に集束剤Bを塗布できるように、塗布ローラ14は筒体形状に構成することが好ましい。他方、ローラ軸13の剛性確保の観点からローラ軸13の外径は10mm程度に設定することが好ましい。具体的には、本実施例のローラ軸13の外径dは10mm、カーボン材料製の塗布ローラ14の内径dは10mmで外径Dは15mmであり、各塗布ローラ14をローラ軸13に外嵌装着して接着剤等で固定してある。
【0042】
但し、塗布ローラ14は筒体形状のものに限定されず、図9に示すように、ローラ軸13の外周面に塗着や蒸着や貼着により形成したカーボン材料製の薄膜14aで構成してもよい。つまり、塗布ローラ14は、少なくとも、ガラスフィラメントfに集束剤Bを塗布する外周面の表層部がカーボン材料で構成されていればよい。これと同様に、塗布ローラ14は、例えば合成樹脂製の筒形部材と、その外周面の表層部に形成したカーボン材料製の薄膜とで構成してもよい。
【0043】
図3、図8に示すように、塗布ローラ14は、ブッシング3の前端側部分に下方から対向する位置に配設され、各群の複数のガラスフィラメントfは、ブッシング3のノズル3aから下方へ延び、塗布ローラ14の外周面に接触して小角度だけ方向変換し、集束ローラ6aへ集まり、集束ローラ6aからほぼ鉛直下方へ延びて巻取りコレット8aに巻き取られる。このため、ガラス繊維製造装置1の前後幅が小さくなるため、設備のスペース効率の面で有利である。
【0044】
図3、図5に示すように、カバー18は、ガラスフィラメントfの糸切れが発生した際に、ガラスフィラメントfが集束剤供給トレイ16に流入したり、異物が落下侵入したりするのを防止すると共に、ブッシング3から放射熱が集束剤供給トレイ16内の集束剤Bに入射するのを防止するものである。
【0045】
カバー18は、集束剤供給トレイ16の上方を覆うように前方下がりの傾斜状に配設され、先端部(下端部)には上方へ90°折曲されたフランジ18aが形成され、カバー18の上面に沿って落下した異物を受け止め得るようになっている。カバー18を後側仕切壁10に支持するため、後側仕切壁10に水平板10aが固定され、この水平板10aにカバー基板18bが固定され、カバー18の上端部がヒンジ18cによりカバー基板18bに固定され、カバー18が上方へ開閉可能になっている。尚、水平板10aは後側仕切壁10の前面に固定してもよい。
【0046】
次に、各集束剤塗布装置5に装備された隙間調整機構20について説明する。
図5に示すように、塗布ローラ14の下端部が集束剤供給トレイ16内の集束剤Bに浸漬している。ガラスフィラメントfが高速で走行するため、その随伴エア流が、図5において矢印C方向へ回転する塗布ローラ14の下面側へ流入すると、塗布ローラ14に集束剤Bを均一に塗布できなくなるため、集束剤供給トレイ16の前側板16bの塗布ローラ側上端縁16uと塗布ローラ14の外周面の間は、例えば1mm程度の微小な隙間Gとなるように形成されている。この隙間Gは、ガラスフィラメントfの種類、材質、走行速度等に応じて精密に調整する必要があるため、以下に説明する隙間調整機構20が設けられている。
【0047】
図4〜図6に示すように、隙間調整機構20は、集束剤供給トレイ16の上下方向の位置を調整可能な左右1対の上下方向位置調整機構21と、集束剤供給トレイ16の水平方向(前後方向)の位置を調整可能な左右1対の水平方向位置調整機構22とを有する。
集束剤供給トレイ16の左側板16dの上端と右側板16eの上端に、前後に細長い水平で互いに相接近側へ折曲されたフランジ部16f,16gが一体形成されている。
【0048】
各フランジ部16f,16gが図6に示すL形部材23を介して後側仕切板10に位置調整可能に固定されている。L形部材23は帯状金属板を中間位置で90°屈曲し、鉛直板部24と水平板部25を形成したものである。鉛直板部24は上下方向に細長い長穴24aを有し、後側仕切板10の前面に当接状態に配置されている。水平板部25は前後方向に細長い長穴25aを有し、フランジ部16f,16gの上面に当接状態に配置されている。
【0049】
左右の各上下方向位置調整機構21は、L形部材23の鉛直板部24の長穴24aと、この長穴24aに挿通されて後側仕切板10の2つのボルト穴24bに夫々螺合され且つ鉛直板部24を後側仕切板10に固定する2つのボルト26等で構成されている。左右の4つのボルト26を緩めて集束剤供給トレイ16の上下方向位置を調整でき、 その調整後ボルト26を再び締結する。
【0050】
左右の各水平方向位置調整機構22は、L形部材23の水平板部25の長穴25aと、この長穴25aに挿通されてフランジ部16f,16gの2つのボルト穴25bに夫々螺合され且つ水平板部25をフランジ部16f,16gに固定する2つのボルト27等で構成されている。左右の4つのボルト27を緩めて集束剤供給トレイ16の前後方向位置を調整でき、 その調整後ボルト27を再び締結する。尚、ボルト26,27はその頭部に六角穴を有する穴付きボルトであるが、これと異なるボルトも採用可能である。
【0051】
上記のガラス繊維製造装置1の集束剤塗布装置5の作用効果について説明する。
ガラスフィラメントfに集束剤Bを塗布する際には、ブッシング3の多数のノズル3aから溶融状の多数のガラスフィラメントfを導出し、それら複数のガラスフィラメントfを3つのガラスフィラメント群Fに分け、これらフィラメント群Fを複数の集束ローラ6aで集束してガラスストランドSを製造する際に、集束ローラ6aよりブッシング3側において、共通のローラ軸13にその軸心方向に間隔を空けて装備された3つの塗布ローラ14により、3群のガラスフィラメントFに夫々集束剤Bを塗布する。
【0052】
塗布ローラ14の外径を小径化(実施例の塗布ローラでは15mm)することにより、塗布ローラ14に接触するガラスフィラメントfとの接触長が短くなるから、塗布ローラ14からガラスフィラメントfに作用する摩擦力を小さくし、ガラスフィラメントfの張力を低減させて、ガラスフィラメントfの糸切れが発生しにくくすることができる。それ故、ガラスフィラメントfの径の一層の微細化にも対応できる。しかも、塗布ローラ14をカーボン材料で構成するため、ガラスフィラメントfに作用する摩擦力を低減し、塗布ローラ14の耐摩耗性を高め、集束剤塗布性能を高めることができる。
【0053】
3群のガラスフィラメントFに対応する3組の集束剤塗布装置5を設け、各集束剤塗布装置5に塗布ローラ14と、集束剤供給トレイ16を設けたため、塗布ローラ14の長さを各群の複数のガラスフィラメントfに集束剤Bを塗布するのに必要かつ十分な長さに設定して、塗布ローラ14に付着する無駄な集束剤Bの量を低減でき、集束剤Bの消費量を節減できる。しかも、塗布ローラ14に対応する集束剤供給トレイ16に構成するため、集束剤供給トレイ16に余分に収容する集束剤Bの量を低減でき、集束剤供給トレイ16に沈殿し付着する集束剤Bの量を低減して集束剤Bの消費量を低減できる。
【0054】
各集束剤供給トレイ16の前側板16bの上端縁16uと塗布ローラ14の外周面間の隙間Gを調整する隙間調整機構20を設けたため、ガラスフィラメントfの径、材質、走行速度等に応じて、上記の隙間Gを最適な大きさに調整することができる。
【0055】
しかも、塗布ローラ14及び集束剤供給トレイ16は、各群のガラスフィラメントFに対応するように、ローラ軸13の長さ方向にほぼ3分割され、ローラ軸方向の長さが小さくなっているため、塗布ローラ14の全長に亙って上記の隙間Gが均一となるように高精度に容易に調整することができる。それ故、塗布ローラ14の外周面に集束剤Bを均一に塗布することが可能になり、ガラスストランドSの品質を安定させることができる。
【0056】
塗布ローラ14の外周面の下端が、集束剤供給トレイ16の前側板16bの上端縁16uよりも後方且つ下方に位置しているため、左右の上下方向位置調整機構21により集束剤供給トレイ16の上下方向位置を微調整して前記隙間Gの大きさを微調整できる。集束剤供給トレイ16の位置を上方へ調整すれば前記隙間Gが小さくなり、集束剤供給トレイ16の位置を下方へ調整すれば前記隙間Gが大きくなる。
【0057】
同様に、左右の水平方向位置調整機構22により集束剤供給トレイ16の水平方向位置を微調整して前記隙間Gの大きさを微調整できる。集束剤供給トレイ16の位置を後方へ調整すれば前記隙間Gが小さくなり、集束剤供給トレイ16の位置を前方へ調整すれば前記隙間Gが大きくなる。しかも、上下方向位置調整機構21と水平方向位置調整機構22を介して、前記隙間Gの塗布ローラ14に対する相対的な位置も調整できる。
【0058】
尚、集束剤供給トレイ16の上下方向位置を微調整することで、塗布ローラ14の集束剤Bへの浸漬深さを最適に調整できるため、塗布ローラ14への集束剤塗布厚さを微調整でき、ガラスフィラメントfに塗布する集束剤Bの量を最適に調整できる。
【0059】
3組の集束剤塗布装置5に共通の1本のローラ軸13を採用しているため、3つの塗布ローラ14を回転駆動する機構を簡素化でき、設備費の面で有利である。そして、金属製のローラ軸13であるため、ローラ軸13の剛性を確保し、3つの塗布ローラ14の位置を安定させることができる。3組の集束剤塗布装置5に1つの共通の回収トレイ17を設けるため、回収トレイ17の構造が複雑化することがない。
【実施例2】
【0060】
次に、実施例2のガラス繊維製造装置の集束剤塗布装置5Aについて図10に基づいて説明する。但し、実施例1の集束剤塗布装置5と異なる構成(塗布ローラ14Aの構成)についてのみ説明する。複数のガラスフィラメントfが塗布ローラ14Aに接近してくる方向は一定方向ではなく様々であるが、塗布ローラ14Aに接触する複数のガラスフィラメントfの接触長を極力均一化することが好ましい。
【0061】
そこで、3つの塗布ローラ14Aの各々は、ローラ軸13の軸心Xと直交する面と平行にフィラメントfが接触する部分において塗布ローラ14Aの略中央部を最大径部14mとし、その最大径部14mから軸心方向へ離隔する程小径化するように形成されている。具体的には、塗布ローラ14Aは、緩曲線状の2次曲線(円弧、部分放物線、部分双曲線、部分楕円線など)を軸心X回りに回転させた回転体又はそれに近い形状(つまり、細長く引き伸ばした和太鼓形状)に形成されている。
【0062】
塗布ローラ14Aの最大径部14mの外径は例えば30mm、ローラ端部の最小径部14nの外径は例えば12mmである。但し、上記の数値は一例でありこれに限るものではない。この構成によれば、塗布ローラ14Aに接触する複数のガラスフィラメントfの接触長を均一化またはほぼ均一化することができるため、塗布ローラ14Aから複数のガラスフィラメントfに作用する摩擦力を均一化し、複数のガラスフィラメントfの張力を均一化し、糸切れの発生を少なくし、ガラスフィラメントfとガラスストランドSの品質を高めることができる。特に、この塗布ローラ14Aは、ガラスフィラメントfの径が微細化した場合に特に好ましい。
但し、前記の最大径部14mから最小径部14nにかけて、塗布ローラ14Aの外径がリニアに減少するような形状に構成してもよい。
【実施例3】
【0063】
次に、実施例3のガラス繊維製造装置の集束剤塗布装置5Bについて図11に基づいて説明する。但し、実施例1の集束剤塗布装置5と異なる構成(隙間調整機構20Bの構成)についてのみ説明する。
【0064】
前記の隙間Gを調整する為の隙間調整機構20Bは、集束剤供給トレイ16Bの上下方向の位置を調整可能な左右1対の上下方向位置調整機構31と、集束剤供給トレイ16Bの水平方向の位置を調整可能な左右1対の水平方向位置調整機構32とを有する。隙間調整機構20Bは、集束剤供給トレイ16Bを後側仕切壁10に解除可能に固定する機能も有する。
【0065】
L形部材33は、鉛直板部34と水平板部35とを有する。鉛直板部34は左右方向に細長い長円形の長穴34aを有し、後側仕切壁10の前面に当接状に配置されている。水平板部35は円形穴35aを有し、集束剤供給トレイ16Bのフランジ部16f又は16gの上面に当接状に配置されている。
【0066】
各上下方向位置調整機構31は、長穴34aに挿通されて鉛直板部34を後側仕切壁10に固定する調整軸部材36と、低摩擦の平座金37と、ナット38などを備えている。 調整軸部材36は、六角穴付きの頭部36aと、ボルト部36cと、頭部36aとボルト部36cの間に一体形成され且つ頭部36aとボルト部36cの軸心に対して例えば2mm〜3mm偏心した軸心を有し且つボルト部36cよりも大径の円形の偏心カム36bとを有する。偏心カム36bは長穴34aの上下幅と等しい外径を有し、長穴34aに回転可能に嵌合されている。
【0067】
偏心カム36bは頭部36aと後側仕切壁10とで挟持され、ボルト部36cは後側仕切壁10の円形穴36dを挿通して後側仕切壁10の後側へ突出し、ボルト部36cの先端のネジ部に平座金37を介してナット38が螺合され、鉛直板部34が頭部36aと後側仕切壁10の間に挟持されている。調整軸部材36の頭部36aを操作して偏心カム36bを回動させ、L形部材33の上下方向位置(つまり、集束剤供給トレイ16Bの上下方向位置)を微調整し、集束剤供給トレイ16Bの上下方向の位置を精密に微調整することができる。尚、平座金38は位置調整時に後側仕切壁10に対して摺動回転し、ナット38が緩むのを防止するものである。
【0068】
各水平方向位置調整機構32は、円形穴35aに挿通されて水平板部35をフランジ部16f又は16gに固定する調整軸部材39と、低摩擦の平座金40と、ナット41などで構成され、上下方向位置調整機構31と同様の構成である。調整軸部材39は、上記の調整軸部材36と同様のもので、頭部39aと、ボルト部39cと、偏心カム39bとを有し、偏心カム39bは円形穴35aに摺動可能に内嵌されている。
【0069】
偏心カム39bは頭部39aとフランジ部16f又は16gとで挟持され、ボルト部39cはフランジ部16f又は16gの円形穴39dを挿通してフランジ部16f又は16gの下側へ突出し、ボルト39cの先端のネジ部に低摩擦の平座金40を介してナット41が螺合され、水平板部35が頭部39aとフランジ部16f又は16gの間に挟持されている。調整軸部材39を操作して偏心カム39bを回動させ、集束剤供給トレイ16Bの水平方向の位置を精密に微調整することができる。
【0070】
前記の隙間調整機構20Bは、偏心カム36b,39bを介して位置調整する構成であるため、簡単な機構で精密に微調整可能である。尚、前記の長穴34aを偏心カム36bが摺動可能に内嵌する円形穴とし、且つ前記の円形穴35aを偏心カム39bが回転可能に嵌合する長穴としてもよい。
【実施例4】
【0071】
次に、実施例4のガラス繊維製造装置の集束剤塗布装置5Cについて、図12、図13に基づいて説明する。但し、実施例1の集束剤塗布装置5と異なる構成(回収トレイ17Cの構造、集束剤供給トレイ16Cと回収トレイ17Cの連結構造、隙間調整機構20Cの構成)についてのみ説明する。
【0072】
この集束剤塗布装置5Cにおいては、3つの集束剤供給トレイ16Cに対応する3つの回収トレイ17Cが設けられ、各集束剤供給トレイ16Cは各回収トレイ17Cに一体的に連結されている。各集束剤供給トレイ16Cに対応する隙間調整機構20Cであって、集束剤供給トレイ16Cと回収トレイ17Cとを一体的に位置調整することにより、集束剤供給トレイ16Cと塗布ローラ14の外周面間の隙間Gを調整する隙間調整機構20Cが設けられている。
【0073】
隙間調整機構20Cは、左右1対の上下方向位置調整機構42と、左右1対の水平方向位置機構43と、ガイド機構44とを有する。
各上下方向位置調整機構42は、後端が後側仕切壁10に固定されて後側仕切壁10から前方へ延びる水平アーム42aと、この水平アーム42aのネジ穴に螺合された鉛直の押しボルト42bとで構成され、押しボルト42bの頭部が回収トレイ17Cの底板の下面に当接している。押しボルト42bを回動操作することで、回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cの上下方向位置、つまり前記隙間Gを調整可能である。
【0074】
各水平方向位置調整機構43は、上端が回収トレイ17Cの底板に固定されてその底板から下方へ延びる鉛直片43aと、この鉛直片43aのネジ穴に螺合された水平の押しボルト43bとで構成され、押しボルト43bの頭部が後側仕切壁10の前面に当接している。押しボルト43bを回動操作することで、回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cの水平方向位置、つまり前記隙間Gを調整可能である。
【0075】
前記ガイド機構44は、回収トレイ17Cの長さ方向中央部を後側仕切壁10に解除可能に連結し且つ回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cの上下方向と水平方向への位置調整を許容するものである。ガイド機構44は、ガイド部材45と、回収トレイ17Cの底板から垂設された鉛直部材46と、後側仕切壁10から前方へ延びる水平部材47とを有する。
【0076】
ガイド部材45は、鉛直部材46のガイド穴に挿通した水平ロッド部45aと、この水平ロッド部45aの後端から下方へ一体的に延びる鉛直ロッド部45bであって水平部材47のガイド穴に挿通した鉛直ロッド部45bとを有する。鉛直部材46には水平ロッド部45aを解除可能にロックするロックボルト48が設けられ、水平部材47には鉛直ロッド部45bを解除可能にロックするロックボルト49が設けられている。
【0077】
図13に示すように、塗布ローラ14の下端が集束剤供給トレイ16Cの前側板16bの上端縁16uよりも後方かつ下方に位置しているため、左右の上下方向位置調整機構42を介して回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cを上方へ位置調整すると、前記の隙間Gを小さく調整することができ、その反対に下方へ位置調整すると前記の隙間Gを大きく調整することができる。左右の水平方向位置調整機構43を介して回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cを後方へ位置調整することにより、前記の隙間Gを小さく調整することができ、その反対に前方へ位置調整することにより前記の隙間Gを大きく調整することができる。但し、水平方向へ調整する際には予めロックボルト48を緩め、また鉛直方向へ調整する際には予めロックボルト49を緩め、調整後にはロックボルト48,49を再締結する。
【0078】
この集束剤塗布装置5Cにおいては、回収トレイ17Cをローラ軸13の長さ方向に3分割し、回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cを一体的に連結し、隙間調整機構20Cにより、回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cの位置を一体的に上下方向と水平方向へ独立に調整可能にしたので、回収トレイ17Cと集束剤供給トレイ16Cの相対的な位置関係が変動しないため、前記隙間Gの調整の後に回収トレイ17Cの位置を調整する必要がなく、集束剤供給トレイ16Cからこぼれた集束剤Bを回収トレイ17Cに回収する回収率を高めることができる。
【0079】
前記実施例を部分的に変更する例について簡単に説明する。
1)前記実施例は、ガラス繊維製造装置の集束剤塗布装置及び集束剤塗布方法に本発明を適用した場合を例にして説明したが、本発明は、種々の合成樹脂製の繊維や炭素繊維を製造する種々の繊維製造装置の集束剤塗布装置にも適用することができる。
【0080】
2)ガラスフィラメント群Fの数(つまり、塗布ローラの数)は3に限るものではなく、2でもよく、4以上でもよい。
3)前記実施例では、隙間調整機構を介して手動により隙間を調整する例を説明したが、隙間調整機構を介して圧電素子等を有する微動型アクチュエータにより隙間を調整するように構成してもよい。
4)前記実施例の隙間調整機構は、上下方向位置調整機構と水平方向位置調整機構とを備えているが、上下方向位置調整機構と水平方向位置調整機構の何れか一方のみで構成してもよい。
5)その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の繊維製造装置の集束剤塗布装置は、ガラス繊維、種々の合成樹脂繊維、炭素繊維などを製造する繊維製造装置において、フィラメントに集束剤を塗布する装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 ガラス繊維製造装置
3 ブッシング
3a ノズル
f ガラスフィラメント
F ガラスフィラメント群
S ガラスストランド
B 集束剤
G 隙間
5,5A,5B,5C 集束剤塗布装置
6a 集束ローラ
13 ローラ軸
14,14A 集束剤塗布ローラ
14m 最大径部
16,16B,16C 集束剤供給トレイ
16u 上端縁
17 回収トレイ
20,20B,20C 隙間調整機構
21,31,42 上下方向位置調整機構
22,32,43 水平方向位置調整機構
X 軸心
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブッシングに形成された多数のノズルから溶融状の多数のフィラメントを導出し、それらフィラメントを複数のフィラメント群となるように複数の集束ローラで集束してストランドを製造する繊維製造装置に装備され、前記集束ローラよりブッシング側において多数のフィラメントに集束剤を塗布する繊維製造装置の集束剤塗布装置において、
共通のローラ軸にその軸心方向に間隔を空けて装備され、複数群のフィラメントに夫々集束剤を塗布する複数の集束剤塗布ローラと、
前記集束剤を夫々貯溜し且つその集束剤を夫々の集束剤塗布ローラの外周面に塗布可能に配設された複数の集束剤供給トレイと、
を備えたことを特徴とする繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項2】
前記フィラメントがガラスフィラメントであり、前記繊維製造装置がガラス繊維製造装置であることを特徴とする請求項1に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項3】
前記各集束剤供給トレイの集束剤塗布ローラ側上端縁と前記集束剤供給トレイに対応する前記集束剤塗布ローラの外周面間の隙間を調整可能な隙間調整手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項4】
前記隙間調整手段は、前記集束剤供給トレイの上下方向の位置を調整可能な上下方向位置調整機構と、前記集束剤供給トレイの水平方向の位置を調整可能な水平方向位置調整機構とを有することを特徴とする請求項3に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項5】
前記ローラ軸が金属材料で構成され、前記集束剤塗布ローラがカーボン材料で構成されたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項6】
前記集束剤塗布ローラの直径が10mm〜30mmの範囲に設定されることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項7】
前記複数の集束剤供給トレイの下側に、前記複数の集束剤供給トレイから漏れた集束剤を回収する1つの共通の回収トレイを設けたことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項8】
前記集束剤塗布ローラに接触する複数のフィラメントの接触長が均一化するように、前記集束剤塗布ローラは、前記ローラ軸の軸心と直交する面と平行にフィラメントが接触する部分を最大径部とし、その最大径部から軸心方向へ離隔する程小径化するように形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項9】
繊維製造装置のブッシングに形成された多数のノズルから溶融状の多数のフィラメントを導出し、それらフィラメントを複数のフィラメント群となるように複数の集束ローラで集束してストランドを製造する際に、前記集束ローラよりブッシング側において、共通のローラ軸にその軸心方向に間隔を空けて装備された複数の集束剤塗布ローラにより、複数群のフィラメントに夫々集束剤を塗布することを特徴とする集束剤塗布方法。
【請求項1】
ブッシングに形成された多数のノズルから溶融状の多数のフィラメントを導出し、それらフィラメントを複数のフィラメント群となるように複数の集束ローラで集束してストランドを製造する繊維製造装置に装備され、前記集束ローラよりブッシング側において多数のフィラメントに集束剤を塗布する繊維製造装置の集束剤塗布装置において、
共通のローラ軸にその軸心方向に間隔を空けて装備され、複数群のフィラメントに夫々集束剤を塗布する複数の集束剤塗布ローラと、
前記集束剤を夫々貯溜し且つその集束剤を夫々の集束剤塗布ローラの外周面に塗布可能に配設された複数の集束剤供給トレイと、
を備えたことを特徴とする繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項2】
前記フィラメントがガラスフィラメントであり、前記繊維製造装置がガラス繊維製造装置であることを特徴とする請求項1に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項3】
前記各集束剤供給トレイの集束剤塗布ローラ側上端縁と前記集束剤供給トレイに対応する前記集束剤塗布ローラの外周面間の隙間を調整可能な隙間調整手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項4】
前記隙間調整手段は、前記集束剤供給トレイの上下方向の位置を調整可能な上下方向位置調整機構と、前記集束剤供給トレイの水平方向の位置を調整可能な水平方向位置調整機構とを有することを特徴とする請求項3に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項5】
前記ローラ軸が金属材料で構成され、前記集束剤塗布ローラがカーボン材料で構成されたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項6】
前記集束剤塗布ローラの直径が10mm〜30mmの範囲に設定されることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項7】
前記複数の集束剤供給トレイの下側に、前記複数の集束剤供給トレイから漏れた集束剤を回収する1つの共通の回収トレイを設けたことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項8】
前記集束剤塗布ローラに接触する複数のフィラメントの接触長が均一化するように、前記集束剤塗布ローラは、前記ローラ軸の軸心と直交する面と平行にフィラメントが接触する部分を最大径部とし、その最大径部から軸心方向へ離隔する程小径化するように形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維製造装置の集束剤塗布装置。
【請求項9】
繊維製造装置のブッシングに形成された多数のノズルから溶融状の多数のフィラメントを導出し、それらフィラメントを複数のフィラメント群となるように複数の集束ローラで集束してストランドを製造する際に、前記集束ローラよりブッシング側において、共通のローラ軸にその軸心方向に間隔を空けて装備された複数の集束剤塗布ローラにより、複数群のフィラメントに夫々集束剤を塗布することを特徴とする集束剤塗布方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−193098(P2012−193098A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60224(P2011−60224)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】
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