説明

織機における経糸張力調整方法

【課題】本願発明の目的は、織機の運転開始時の経糸張力を運転時の経糸張力に速やかに対応させ、織段発生等の問題を解消することにある。
【解決手段】経糸張力復帰スイッチ27を押して正転インチング1回転を行う。制御装置2は織機の回転開始位置S1から停止位置S2までの織機回転角度を記憶し、ロードセル20で計測された経糸張力を各織機回転角度に対応して記憶する。制御装置2は、記憶した経糸張力の平均経糸張力Aを算出し、予め設定された運転時目標経糸張力Xとの偏差A1を算出して補正値として記憶する。前記補正値は予め定められた織機回転角度である織機の停止位置S2の経糸張力Bに加算され、織機の停止位置S2における復帰目標経糸張力Cが算出される。次に、経糸送出しモータ3の逆転により経糸Tに張力が付加され、経糸張力が復帰目標経糸張力Cに一致すると織機の運転開始の準備が完了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、織機の運転に先立って経糸張力を織機の運転に必要な張力状態に復帰させるための経糸張力調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
織機においては、例えば新しい織物を製織する場合、機仕掛け作業が行われる。機仕掛け作業は、ワープビームの交換作業、新しい経糸を織布巻き取り側へ引き通す作業、新しい織物の製織条件の設定作業等が含まれる。各設定が行われると、経糸張力を予め設定されている運転時目標経糸張力に復帰調整する作業が行われ、織機の運転が開始される。また、同じ織物を製織中であっても織機が長時間停止していると経糸の伸びに起因する経糸緩みが生じるため、織機の運転に先立って経糸張力の復帰調整作業が行われる。これらの経糸張力復帰作業が正しく行われないと、織機の運転開始毎に織段が発生し、織物品質の低下を招くばかりか織段の発生頻度が高いと製織そのものを阻害することにもなるため、従来から経糸張力復帰のための種々の経糸張力調整方法が提案されている。。
【0003】
例えば特許文献1に開示された方法は、織段防止のために、目標張力処理器76に予め設定された情報、即ち補正係数あるいは補正値kを定常運転時の目標値Trに乗算あるいは加算し、定常運転時の目標値Trと異なる起動準備時の経糸の目標張力Tsを決定して目標張力処理器76に設定する。織機の運転開始に先立って入力される起動準備信号S4により経糸ビーム14を駆動して経糸張力を前記起動準備時の経糸目標張力Tsに復帰させる。
【0004】
特許文献2に開示された方法は、織機の停止期間中に変化した経糸の張力値を、織機の運転期間における経糸の張力値に復帰させるために、織機の運転指令の発生から織機の起動開始までの起動準備期間中に検出した経糸の張力値を予め設定された復帰目標経糸張力値に近づけるように、経糸送出し及び経糸巻取りの少なくともいずれか一方を動作する。また、織機の起動開始直後の所定期間における経糸の張力値に基づいて前記復帰目標経糸張力値を修正し、次の張力復帰時の復帰目標経糸張力値として設定している。この修正操作は復帰目標経糸張力値が定常運転目標経糸張力値に最も近似する状態になるまで段階を踏んで行うようにしている。なお、前記復帰目標経糸張力値は、定常運転目標経糸張力値のパーセンテージによって設定されており、100%、即ち定常運転目標経糸張力値と同一の場合も含まれている。
【特許文献1】特開2004−300610号公報
【特許文献2】特開2006−57227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1における起動準備時の経糸の目標張力Tsを決定する補正係数や補正値kは製織する織物に応じて異なる数値とする必要があるため、あらゆる織物に対応した適切な補正係数や補正値kは膨大な数になり、しかも予め準備されていない新しい織物の製織が必要となった場合はその織物に適した補正係数あるいは補正値kを新たに入力し、設定しなければならないという不都合がある。
【0006】
特許文献2においても、復帰目標経糸張力値を決定するパーセンテージは特許文献1の補正係数と同様の値と思われるので、あらゆる織物に最適な多数のパーセンテージを準備し予め設定しておかなければならず、しかも予め準備されていない新しい織物の製織が必要となった場合はその織物に適した補正係数あるいは補正値kを新たに入力し、設定しなければならないという不都合がある。さらに、パーセンテージという予測数値によって復帰目標経糸張力値が決定される方法では、決定された値が必ずしも実際に製織される織物に最適な値であるという保証は無い。このため、特許文献2では織機の起動直後の数回転において測定される経糸張力をみて、復帰目標経糸張力値が定常運転目標経糸張力値に最も近似する状態になるまで段階を踏んで修正すると言う煩わしい修正操作を行わざるを得ないという問題を有している。この問題は、補正係数あるいは補正値kという推定値を用いる特許文献1においても同様に発生するものである。
【0007】
本願発明の目的は、織機の運転開始時の経糸張力を運転時の経糸張力に速やかに対応させることができるようにし、織段発生等の問題を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本願発明は、ワープビームを回転する専用の経糸送出しモータと経糸張力検出装置及び運転時目標経糸張力が予め設定されている制御装置を備えた織機において、前記織機の運転に先立ち前記織機を回転して前記経糸張力検出装置により回転中の経糸張力を計測し、前記計測した経糸張力及び前記運転時目標経糸張力に基づき補正値を算出するとともに前記補正値を用いて予め定められた織機回転角度における復帰目標経糸張力を算出して前記制御装置に設定し、少なくとも前記経糸送出しモータを駆動して経糸張力を前記復帰目標経糸張力に一致させることを特徴とする。
【0009】
請求項1記載の本願発明によれば、復帰目標経糸張力が実際に製織される織物条件において計測された経糸張力に基づいて設定されるので、織機の運転開始時から運転時の経糸張力に対応した経糸張力状態で製織を開始することができ、織段発生防止に大きく貢献することができる。
【0010】
請求項2に記載の本願発明は、前記経糸張力の計測に先立ち、仮目標経糸張力を前記制御装置に設定し、経糸張力を前記仮目標経糸張力に一致させておくことを特徴とするため、例えば機仕掛け時のように経糸張力がほとんど掛かっていないか相当程度低い状態にあるような場合でも織機の運転に先立つ経糸張力の復帰調整を適切に行うことができる。
【0011】
請求項3に記載の本願発明は、前記補正値は前記計測した経糸張力の平均値と前記運転時目標経糸張力との偏差であり、前記復帰目標経糸張力は前記予め定められた織機回転角度において計測された経糸張力に前記補正値を加算して算出することを特徴とするため、簡単な計算式のみで運転時の経糸張力に対応した復帰目標経糸張力を得ることができる。
【0012】
請求項4に記載の本願発明は、前記補正値は前記計測した経糸張力の平均値と前記予め定められた織機回転角度において計測された経糸張力との偏差であり、前記復帰目標経糸張力は前記運転時目標経糸張力に前記補正値を加算して算出することを特徴とするため、簡単な計算式のみで運転時の経糸張力に対応した復帰目標経糸張力を得ることができる。
【0013】
請求項5に記載の本願発明は、前記予め定められた織機回転角度は、前記経糸張力計測時の織機の回転開始位置又は停止位置であることを特徴とするため、織機がどのような停止位置にあっても特に織機回転角度を定めることなく、復帰目標経糸張力を定める織機停止位置を認識することができる。
【0014】
請求項6に記載の本願発明は、前記経糸張力の計測時に前記織機を1回転することを特徴とするため、最も少ない操作回数で製織する織物に適切な復帰目標経糸張力を設定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本願発明は、実際に製織する織物の経糸張力を基に復帰目標経糸張力を設定することにより織機の運転開始時の経糸張力を運転時の経糸張力に速やかに対応させることができるので、織段発生等の問題解消に大きく貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本願発明の実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。
図1は本願発明を実施する織機の経糸送出し機構、織布巻き取り機構及び制御機構を示したものである。
【0017】
織機駆動モータ1は制御装置2の作動制御を受ける。織機駆動モータ1から独立した正逆転可能な経糸送出しモータ3はワープビーム4を駆動し、経糸Tを送り出す。ワープビーム4から送り出された経糸Tはバックローラ5及びテンションローラ6を経由して綜絖7及び筬8に通される。経糸Tの間に緯入れされた緯糸(図示せず)を筬打ちすることにより形成された織布Wは、エキスパンションバー9、サーフェスローラ10、プレスローラ11及びしわ取りガイド部材12を経由してクロスローラ13に巻き取られる。プレスローラ11と協働して織布Wをクロスローラ13側へ引き取るサーフェスローラ10は、織機駆動モータ1から独立した正逆転可能な専用の織布巻取りモータ14から駆動力を得る。クロスローラ13は、サーフェスローラ10に連動して回転する。なお、織布巻取りモータ14はクロスローラ13を駆動し、サーフェスローラ10はクロスローラ13から駆動されるように構成してもよい。
【0018】
テンションローラ6は、テンションレバー15の一端部に取付られており、テンションレバー15の他端アーム16に取付られた引張りばね17により張力が経糸Tに付与されるようになっている。テンションレバー15は、検出レバー18の他端アーム19に回転可能に支持されており、検出レバー18の一端部にはロードセル20が連結されている。経糸張力は、テンションローラ6、テンションレバー15及び検出レバー18を介してロードセル20に伝えられ、ロードセル20は経糸張力に応じた電気信号を制御装置2に出力する。従って、テンションローラ6、テンションレバー15、検出レバー18及びロードセル20は本願発明の経糸張力検出装置を構成する。
【0019】
ファンクションパネル21には、織物種類及び各織物に対応した経糸張力を含む製織条件を入力する入力スイッチ22、織機の起動スイッチ23、織機の正転インチングスイッチ24、織機の逆転インチングスイッチ25、織機の停止スイッチ26、経糸張力復帰スイッチ27、経糸送出しモータ駆動スイッチ28及び織布巻取りモータ駆動スイッチ29が配設され、それぞれ制御装置2に電気的に接続されている。また、制御装置2には織機駆動モータ1の駆動系に配設された織機回転角度検出用のロータリエンコーダ30、経糸送出しモータ3の回転軸に配設されたモータ回転角度検出用のロータリエンコーダ31及び織布巻取りモータ14の回転軸に配設されたモータ回転角度検出用のロータリエンコーダ32がそれぞれ電気的に接続されている。なお、図1の実施形態では1つの制御装置2によって織機駆動モータ1や経糸送出しモータ3等を制御するように記載されているが、織布巻き取りモータ14や図示していない経糸開口装置等を含めそれぞれに専用の制御装置を備え、各制御装置をホストとしての機能を持たせた制御装置2に接続するなどの制御システムであっても本願発明の実施は可能である。
【0020】
制御装置2は織機駆動モータ1、経糸送出しモータ3及び織布巻取りモータ14へ駆動信号を出力し、織機を運転させることができる。制御装置2には、織機の稼動運転中、ロータリエンコーダ30から出力される織機回転角度検出信号、ロードセル20から出力される経糸張力の検出信号、経糸送出しモータ3のロータリエンコーダ31及び織布巻取りモータ14のロータリエンコーダ32から出力されるモータ回転角度検出信号が入力される。制御装置2はロードセル20の検出信号に基づき、経糸張力が制御装置2に予め設定されている運転時目標経糸張力と一致するように経糸送出しモータ3に駆動信号を出力する。
【0021】
一方、制御装置2は図示しない演算部、記憶部及び入出力インターフェース等を備えている。例えば、新しい織物を製織する場合、新旧のワープビーム4の交換及び新しいワープビーム4の経糸を織布巻取り側へ引き通す機仕掛け作業が行われる。また、新しい織物の製織条件がファンクションパネル21の入力スイッチ22の操作により開かれる入力画面から入力され、入出力インターフェースを介して制御装置2の記憶部に格納される。製織条件の中に織機の運転時目標経糸張力が含まれ、制御装置2に予め設定され、記憶される。
【0022】
次に、織機の運転開始に先立って行われる経糸張力調整方法について、図2〜図4を参照しながら説明する。機仕掛け作業が完了し、制御装置2には運転時目標経糸張力X(図2参照)が予め設定されているが、経糸Tはほとんど張力が掛かっていないか、相当低い張力状態にある。この状態で織機を回転しても経糸張力を適切に計測できないばかりか経糸Tの損傷を生じる恐れがある。従って、図3のフローチャートに示すように、作業者は入力スイッチ22を操作し、仮目標経糸張力を設定する。仮目標経糸張力は運転時目標経糸張力Xよりも低く設定することが好ましい。次に、作業者がファンクションパネル21の経糸送出しモータ駆動スイッチ28を押下すると、制御装置2に設定されているプログラムに基づき経糸送出しモータ3が単独で逆転駆動して経糸Tをワープビーム4に巻き取り、経糸Tに張力を付加する。ロードセル20によって計測される経糸張力が仮目標経糸張力に一致すると、経糸送出しモータ3が自動的に停止される。なお、この操作は経糸送出しモータ3と織布巻取りモータ14の双方を駆動して行うことも可能である。このようなプログラムを動作するには、経糸送出しモータ駆動スイッチ28及び織布巻取りモータ駆動スイッチ29の代わりに仮目標経糸張力復帰スイッチを別個に設けて操作しやすくすることが好ましい。
【0023】
続いて、図4のフローチャートに示すように、作業者はファンクションパネル21の経糸張力復帰スイッチ27を押下する。織機は制御装置2に設定されているプログラムに基づき正転インチングが自動的に開始される。正転インチングの回転量は、本実施形態の場合1回転に設定されている。従って、制御装置2はロータリエンコーダ30から入力される織機回転角度信号が1回転に達すると織機の停止信号を出力し、織機が停止する。この織機1回転の間に制御装置2は、ロータリエンコーダ30から出力される織機回転角度信号に基づき、織機の回転開始位置S1から停止位置S2までの所定間隔毎の織機回転角度を認識し、前記記憶部に格納される。また、ロードセル20において計測された経糸張力のうち、制御装置2に格納された各織機回転角度に対応する経糸張力が前記記憶部に格納される。織機1回転で計測された経糸張力線図を図2の実線で示す。
【0024】
制御装置2では、前記記憶部に格納された経糸張力の平均経糸張力Aを算出し、記憶する。平均経糸張力Aは予め設定されている運転時目標経糸張力Xと比較され、その偏差A1が算出され、偏差A1が補正値として記憶される。補正値、即ち偏差A1は織機運転中における実際の経糸張力(図2の1点鎖線で示した経糸張力線図)と測定した経糸張力(図2の実線で示した経糸張力線図)との間の偏差に相当する経糸張力の変化量である。従って、制御装置2の記憶部に格納されている予め定められた織機回転角度である織機の停止位置S2における経糸張力Bに前記補正値、即ち偏差A1を加算することにより予め定められた織機回転角度における復帰目標経糸張力Cを算出し、制御装置2の記憶部に設定する。
【0025】
作業者はファンクションパネル21の経糸送出しモータ駆動スイッチ28を押下すると、制御装置2に設定されているプログラムに基づき、経糸送出しモータ3が逆転されて経糸Tの張力を上げる。ロードセル20によって計測される経糸張力が復帰目標経糸張力Cに一致した時点で経糸送出しモータ3は自動的に停止される。
【0026】
なお、この操作は経糸張力復帰スイッチ27の押下のみで自動的に行われるようにプログラムを設定しておけばより効率的である。復帰目標経糸張力Cへの調整作業を経糸送出しモータ3と織布巻取りモータ14の双方を駆動して行うように設定することも可能である。また、前記した仮目標経糸張力を設定した後、経糸張力復帰スイッチ27を押すことにより、経糸張力を仮目標経糸張力に一致させる作業、織機を回転して経糸張力を計測し復帰目標経糸張力を設定するする作業及び経糸張力を復帰目標経糸張力に一致させる作業の一連の動作を連続して行うプログラムを設定し、経糸Tの張力調整作業を自動的に行うことも可能である。このように作業を自動化することによって作業者の負担を軽減し、経糸の張力調整作業をより効率的に行うことができる。
【0027】
経糸張力が復帰目標経糸張力に一致すると、織機の運転準備が完了し、作業者はファンクションパネル21の起動スイッチ23を押すことにより、織機の運転を開始することができる。なお、経糸張力復帰スイッチ27の押下により、仮目標経糸張力への経糸張力一致作業から織機の運転開始までの全ての作業を自動化するプログラムの設定も可能である。このようにすれば作業者は経糸張力復帰スイッチ27を押すだけで織機の運転を開始することができ、最も効率的である。
【0028】
前記した本願発明の第1の実施形態は、以下の作用効果が得られる。
(1)実際に製織される織物条件におけるインチング回転中の経糸張力を測定し、その測定結果から復帰目標経糸張力C、C1を設定するため、織機の運転開始直後から運転時の経糸張力に対応した経糸張力状態で製織することができ、運転開始時の織段発生防止に大きく貢献することができる。
(2)織機の運転時と織機停止時のインチング運転とにおける経糸張力線図は、経糸張力の絶対値には差があっても織機回転角度方向の位相はほとんど変化しないという特異性(図2の実線と1点鎖線で示した経糸張力線図参照)を利用して復帰目標経糸張力C、C1を算出するため、復帰目標経糸張力C、C1を設定するために予め定める織機回転角度は自由に設定することができる。このことは織機がどのような位置に停止していても張力復帰のための経糸張力調整を適切に行えることを意味している。
(3)新しい織物の仕掛け時のように、経糸張力がほとんど掛かっていない場合でも仮目標経糸張力を設定し、経糸Tを一定の張力状態にしてから経糸張力の測定を行うので、復帰目標経糸張力C、C1を適切に設定することができる。
(4)復帰目標経糸張力C、C1の算出は測定した経糸張力A、B及び運転時目標経糸張力Xを用いた極めて単純な計算式のみで済むため、制御装置2に設定されるプログラムを極めて簡単にすることができる。
(5)復帰目標経糸張力C、C1を設定する予め定められた織機回転角度を経糸張力計測時の織機回転開始位置あるいは停止位置としておけば、他の織機回転角度を特別に選択する必要が無いので、設定が容易である。特に織機停止位置としておけば、他の織機回転角度のように位置合わせを行うことなく復帰のための経糸張力調整を行うことができるので、極めて効率的である。なお、予め定められた織機回転角度を織機回転開始位置とした場合、経糸張力の測定のためのインチング回転量が織機1回転あるいはその整数倍であれば停止位置と同じであるため織機の位置合わせの必要は無いが、他の回転量の場合は他の織機回転角度と同様に織機の位置合わせを行う必要がある。
(6)経糸張力の計測のためのインチング回転量を織機1回転に設定しているため、経糸張力の全ての変化を最も効率良く測定することができる。
【0029】
(第2の実施形態)
本願発明の補正値及び復帰目標経糸張力Cの算出は第1の実施形態で説明した方法とは異なる方向からのアプローチによっても同じ結果を得ることができる。即ち、織機においては経糸開口運動により経糸張力が大きく変動するため、これを緩和すべく通常イージング運動が付加されている。経糸開口運動及びイージング運動は織機の通常運転中であっても停止中のインチング運転時であっても同一の運動を行うため、図2の実線と1点鎖線で示す経糸張力線図はほぼ同様の形態をなしている。即ち、経糸張力が低い場合、あるいは高い場合は図2の経糸張力線図が図の経糸張力方向(縦軸方向)に変位するのみで、織機回転角度方向(横軸方向)の位相はほとんど変化しないという織機特有の実情がある。従って、経糸張力線図における平均経糸張力と織機回転角度における経糸張力との偏差は織機が回転可能な状態においては織機の通常運転中であってもインチング運転中であってもほぼ同じである。
【0030】
このような実情に鑑み、第2の実施形態では織機のインチング運転1回転中に計測された経糸張力の平均経糸張力Aを予め定められた織機回転角度である織機の停止位置S2における経糸張力Bと比較し、偏差B1(図2の仮想線参照)を算出し、これを補正値とする。偏差B1は、織機運転中の織機の停止位置S2における経糸張力のその平均値(運転時目標経糸張力X)(図2の1点鎖線参照)からの偏差と同じである。この補正値、即ち偏差B1は前記説明のように織機の通常運転中における経糸張力の平均値からの偏差と実質的に同じであるため、予め設定されている運転時目標経糸張力Xに偏差B1を加算し、得られた経糸張力を予め定められた織機回転角度における復帰目標経糸張力C1として制御装置2に設定する。ここで、第1の実施形態における復帰目標経糸張力Cの計算式は、C=(X−A)+Bで表し、第2の実施形態における復帰目標経糸張力C1の計算式は、C1=X+(B−A)で表すことができる。従って、両式の右辺は同一の計算結果になることを示しており、第1の実施形態及び第2の実施形態における復帰目標経糸張力C及びC1は同一であり、いずれの計算式でも本願発明を実施することができる。第2の実施形態は、第1の実施形態の作用効果である(1)、(2)及び(4)〜(6)と同じ作用効果を得ることができる。
【0031】
(第3の実施形態)
例えば、織機が長時間に渡って停止していたために経糸張力が運転時目標経糸張力Xから大きく変化してしまった場合、あるいは同じ織物の製織中に予め設定されている運転時目標経糸張力Xでは不具合が生じるため運転時目標経糸張力Xを変更しなければならない場合等がある。このような場合は、機仕掛け時と異なり経糸張力は織機を回転することに不都合が無い程度に高い状態にあるため、復帰目標経糸張力C及びC1の設定及び復帰のための経糸張力調整は図4のフローチャートに示した作業のみで行うことができ、図3に示したフローチャートの作業を省くことができる。その他、第3の実施形態は、第1の実施形態の作用効果である(1)、(2)及び(4)〜(6)と同じ作用効果を得ることができる。
【0032】
本願発明は、前記した各実施形態の構成に限定されるものではなく本願発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、次のように実施することができる。
【0033】
(1)復帰目標経糸張力C及びC1を設定するための経糸張力の測定は前記各実施形態のような正転インチングに限らず逆転インチングで行うことができる。
(2)復帰目標経糸張力C及びC1を設定するための経糸張力測定時の織機回転量は前記各実施形態のように1回転に限らず複数回転で行ってもよい。また、復帰目標経糸張力C及びC1を設定する織機位置である予め定めた織機回転角度を含むものであれば、織機の回転量が1回転未満であってもよい。
(3)復帰目標経糸張力C及びC1を設定する織機位置である予め定めた織機回転角度は、前記各実施形態のように織機の回転開始位置又は停止位置に限らず、他の織機回転角度を自由に設定することができる。なお、この場合、遅くとも復帰目標経糸張力C及びC1の設定時には織機を予め定めた織機回転角度へ移動しておく必要がある。
(4)織機回転角度はロータリエンコーダ30からの信号により常に把握することができるため、織機の回転開始位置から所定時間のインチング運転によって経糸張力を測定し、本願発明を実施することができる。
(5)伸張性のある経糸を使用した織物の場合、伸びを考慮した補正係数を補正値に付加して復帰目標経糸張力C及びC1を算出することが可能である。
(6)第1の実施形態における仮目標経糸張力は、運転時目標経糸張力Xと同じ値にしてもよい。また、運転時目標経糸張力Xより高い値にすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】織機全体を示す概略図である。
【図2】織機の経糸張力線図である。
【図3】経糸張力調整を行うフローチャートである。
【図4】経糸張力調整を行うフローチャートである。
【符号の説明】
【0035】
1 織機駆動モータ
2 制御装置
3 経糸送出しモータ
4 ワープビーム
6 経糸張力検出装置を構成するテンションローラ
15 経糸張力検出装置を構成するテンションレバー
18 経糸張力検出装置を構成する検出レバー
20 経糸張力検出装置を構成するロードセル
A 計測した経糸張力の平均値
C 復帰目標経糸張力
X 運転時目標経糸張力
A1 計測した経糸張力の平均値と運転時目標経糸張力との偏差
B1 計測した経糸張力の平均値と予め定められた織機回転角度において計測された経糸張力との偏差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワープビームを回転する専用の経糸送出しモータと経糸張力検出装置及び運転時目標経糸張力が予め設定されている制御装置を備えた織機において、
前記織機の運転に先立ち、前記織機を回転して前記経糸張力検出装置により回転中の経糸張力を計測し、前記計測した経糸張力及び前記運転時目標経糸張力に基づき補正値を算出するとともに前記補正値を用いて予め定められた織機回転角度における復帰目標経糸張力を算出して前記制御装置に設定し、少なくとも前記経糸送出しモータを駆動して経糸張力を前記復帰目標経糸張力に一致させることを特徴とする織機における経糸張力調整方法。
【請求項2】
前記経糸張力の計測に先立ち、仮目標経糸張力を前記制御装置に設定し、経糸張力を前記仮目標経糸張力に一致させておくことを特徴とする請求項1に記載の織機における経糸張力調整方法。
【請求項3】
前記補正値は前記計測した経糸張力の平均値と前記運転時目標経糸張力との偏差であり、前記復帰目標経糸張力は前記予め定められた織機回転角度において計測された経糸張力に前記補正値を加算して算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の織機における経糸張力調整方法。
【請求項4】
前記補正値は前記計測した経糸張力の平均値と前記予め定められた織機回転角度において計測された経糸張力との偏差であり、前記復帰目標経糸張力は前記運転時目標経糸張力に前記補正値を加算して算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の織機における経糸張力調整方法。
【請求項5】
前記予め定められた織機回転角度は、前記経糸張力計測時の織機の回転開始位置又は停止位置であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の織機における経糸張力調整方法。
【請求項6】
前記経糸張力の計測時に前記織機を1回転することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の織機における経糸張力調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−303484(P2008−303484A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150191(P2007−150191)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】