説明

織機における耳形成装置

【課題】一方のバンドの動力受承孔の壁面における摩耗の進行と、他方のバンドの動力受承孔の壁面における摩耗の進行との差を無くす。
【解決手段】電動モータ17によって往復回転されるホイール18の動力伝達歯181には第1のバンド23と第2のバンド24との動力受承孔231,241が噛合されている。第1のバンド23側の第1の接線L1と、第2のバンド24側の第2の接線L2とが成す角度はαである。第1のバンド23の動力受承孔231のピッチと、第2のバンド24の動力受承孔241のピッチとは、同じピッチPである。ホイール18の歯数(動力伝達歯181の数)をZ、ホイール18の半径をRとすると、α/2=2π/Z及びP=2π×R/Zの関係が設定されている。又、電動モータ17の最小の動作角度をθ、nを正の整数とすると、α/2=n×θの関係が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに逆方向へ往復動する第1の耳糸用綜絖と第2の耳糸用綜絖との動作に基づいて耳を形成する織機における耳形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
互いに逆方向へ往復動する第1の耳糸用綜絖と第2の耳糸用綜絖との動作に基づいて耳を形成する耳形成装置は、例えば特許文献1,2に開示されている。
特許文献1に開示の耳形成装置では、電動モータによって2次元クランク機構を駆動し、2次元クランク機構の駆動によって一対の糸ガイド要素を往復直線運動させるようになっている。2次元クランク機構は、電動モータの出力軸に取り付けられたレバーと、レバーの両端部に連結された一対のリンクとからなる。一対のリンクは、一対の糸ガイド要素に1対1に連結されている。
【0003】
耳糸の開口量が大きいほど、緯糸の緯入れを円滑に行いやすい。特許文献1に開示の装置において最大の耳糸開口量を大きくしようとすると、レバーの回転半径(即ち、レバーの回転中心軸線からレバーとリンクとの連結位置に至る距離)を大きくする必要がある。レバーの回転半径を大きくすると、レバーを回転するために必要なトルクが大きくなり、電動モータに掛かる負荷が増える。これは、電動モータを高速で動作させることを難しくし、織機の高速化の妨げになる。
【0004】
特許文献2に開示の耳形成装置では、第1の耳糸用綜絖を支持する第1のバンドと第2の耳糸用綜絖を支持する第2のバンドとがそれらの動力受承孔とホイールの動力伝達歯とを噛合するようにホイールを挟んで対向されている。ホイールを往復回転することにより、第1のバンドと第2のバンドとが互いに逆方向へ移動し、第1の耳糸用綜絖と第2の耳糸用綜絖とが互いに逆方向へ上下動する。最大の耳糸開口量は、往復回転されるホイールの片道回転量を増やすことによって大きくすることができる。ホイールを回転させるために必要なトルクは、ホイールの半径を小さくすることによって小さくすることができ、しかも、ホイールと噛合する撓み変形可能なバンドは、その厚みを小さくして軽量にすることができる。従って、電動モータを高速で動作させることができる。
【特許文献1】特表平10−503563号公報
【特許文献2】特開2004−308064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示の耳形成装置において、一方のバンドの動力受承孔とホイールの動力伝達歯との噛合状態と、他方のバンドの動力受承孔とホイールの動力伝達歯との噛合状態とが同じでない場合、バンドの加速度が最も大きいとき(ホイールの回転方向の切り替わり時)において、一方のバンドの動力受承孔の壁面に掛かる荷重と、他方のバンドの動力受承孔の壁面に掛かる荷重とに差が生じる。そのため、大きな荷重を受けるバンドの動力受承孔の壁面が小さな荷重を受けるバンドの動力受承孔の壁面よりも早く摩耗してしまう。
【0006】
本発明は、一方のバンドの動力受承孔の壁面における摩耗の進行と、他方のバンドの動力受承孔の壁面における摩耗の進行との差を無くすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために本発明は、互いに逆方向へ往復動する第1の耳糸用綜絖と第2の耳糸用綜絖との動作に基づいて耳を形成する耳形成装置を対象とし、請求項1の発明の耳形成装置は、複数の動力受承孔を列設した撓み変形可能な第1のバンドと、複数の動力受承孔を列設した撓み変形可能な第2のバンドと、前記第1のバンド及び第2のバンドの動力受承孔にそれぞれ噛合する複数の動力伝達歯を有するホイールとを備え、前記第1のバンドは、前記第1の耳糸用綜絖を支持し、前記第2のバンドは、前記第2の耳糸用綜絖を支持し、前記第1のバンドと第2のバンドとは、それぞれの動力受承孔と前記動力伝達歯とを噛合させるように、撓み変形された状態で前記ホイールを挟んで対向されており、前記第1のバンドの動力受承孔に噛合している動力伝達歯の周方向の中央を通るホイールの半径線と歯底円との交点における第1の接線と、前記第2のバンドの動力受承孔に噛合している動力伝達歯の周方向の中央を通るホイールの半径線と歯底円との交点における第2の接線とが成す角度をα、前記ホイールの歯数をZ、前記ホイールの半径をR、前記第1のバンドと第2のバンドとの動力受承孔のピッチをP、mを正の整数又は正の半整数とすると、α/2=m×2π/Z及びP=2π×R/Zの関係が設定されていることを特徴とする。なお、本発明において、噛合とは、ホイールの動力伝達歯と第1及び第2のバンドの動力受承孔とが接触し、両者の間で動力伝達が行われている状態を指す。
【0008】
このような関係は、第1のバンドの動力受承孔の壁面に掛かる荷重と、第2のバンドの動力受承孔の壁面に掛かる荷重とを同じにし、第1のバンドの動力受承孔の壁面における摩耗の進行と、第2のバンドの動力受承孔の壁面における摩耗の進行との差が無くなる。
【0009】
好適な例では、前記ホイールは、最小の動作角度の間隔の回転位置で停止する電動モータによって駆動され、前記電動モータの最小の動作角度に対応した前記ホイールの最小回転角度をθ、nを正の整数とすると、α/2=n×θの関係が設定されている。
【0010】
α/2=n×θの関係が設定されていると、ホイールの回転方向が切り替えられるとき(電動モータの回転方向が切り替えられるとき)における第1,2のバンドの動力受承孔とホイールの動力伝達歯とを完全に噛合させた状態とすることができる。
【0011】
好適な例では、前記第1のバンドの直線状態の部分における動力受承孔と、前記第2のバンドの直線状態の部分における動力受承孔とが前記ホイールの動力伝達歯に噛合する。
第1のバンドと第2のバンドとの直線状態の部分がホイールに接する。第1のバンドと第2のバンドとの直線状態の部分をホイールに接触させた構成は、バンドの往復動を円滑にする上で有利である。
【0012】
好適な例では、前記mは、1/2、1又は3/2である。
m=1/2、1又は3/2とした構成は、角度αの大きさを抑制してバンドの往復動を円滑にする上で有利である。
【0013】
好適な例では、前記第1のバンドと前記第2のバンドとを案内する案内手段を備え、前記案内手段は、前記動力伝達歯と前記動力受承孔との噛合位置から離れるにつれて第1のバンドと第2のバンドとを接近させてゆき、次いで前記第1のバンドの一部と第2のバンドの一部とを隣り合わせで平行にする。
【0014】
このような案内手段は、平行な第1の耳糸用綜絖と第2の耳糸用綜絖とに撓み変形可能なバンドを連結する上で好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、一方のバンドの動力受承孔の壁面における摩耗の進行と、他方のバンドの動力受承孔の壁面における摩耗の進行との差を無くすことができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を耳形成用開口装置に具体化した第1の実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、第1の耳糸用綜絖11及び第2の耳糸用綜絖12は、往復駆動機構13によって互いに逆方向へ上下動される。第1の耳糸用綜絖11と第2の耳糸用綜絖12との移動経路は、上下に延びる互いに平行な往復動経路である。第1の耳糸用綜絖11に通された耳糸14と、第2の耳糸用綜絖12に通された耳糸15とは、緯入れされた緯糸(図示略)を挟んで耳Weを形成する。
【0017】
図3(a),(b)に示すように、往復駆動機構13を構成するボックス16の内壁161には電動モータ17が装着されている。電動モータ17は、ステッピングモータあるいはサーボモータである。ボックス16の上部と下部とは、開放している。電動モータ17の出力軸171は、内壁161を貫通してボックス16内に突出されている。出力軸171の軸方向は、緯糸の緯入れ方向に略一致する。出力軸171の突出端部は、ボックス16の外壁162に回転可能に支持されている。ボックス16内において、出力軸171にはホイール18が止着されている。ホイール18の外周には複数の動力伝達歯181が設けられている。
【0018】
図1及び図2(a)に示すように、ボックス16の外壁162の内面には金属製の第1の位置規制体19及び金属製の第2の位置規制体20が止着されている。第1の位置規制体19と第2の位置規制体20とは、ホイール18を挟んで対向している。ボックス16の外壁162の内面には取り付け体21が止着されている。取り付け体21は、第1の位置規制体19と第2の位置規制体20との間に配置されている。取り付け体21は、第1の位置規制体19と第2の位置規制体20との対向面191,201から離間している。
【0019】
対向面191,201は、ホイール18側に向けて凸のガイド曲面193,203と、ガイド曲面193,203に滑らかに連なるガイド平面194,204とからなる。対向面191,201は、ホイール18側に向けて凸であって互いに対向している。ガイド平面194,204は、上方に向かうにつれて拡開するようにホイール18を挟んで対向しており、ガイド曲面193,203は、上方に向かうにつれて拡開するように取り付け体21を挟んで対向している。ガイド平面194,204は、角度αをなしている。本実施の形態では、ガイド曲面193,203は、円弧曲面である。
【0020】
取り付け体21には金属製のガイドレール22が垂下状態に止着されている。図2(b)に示すように、ガイドレール22には一対の案内溝221,222が背中合わせに形成されている。案内溝221,222は、第1の耳糸用綜絖11と第2の耳糸用綜絖12との往復動経路と平行な方向に延びるように隣り合っている。案内溝221は、織機の前側〔図1及び図2(a)において右側が織機の前側、左側が織機の後側〕に露出しており、案内溝222は、織機の後側に露出している。
【0021】
案内溝221には撓み変形可能な第1のバンド23の一部が摺動可能に挿入されており、案内溝222には撓み変形可能な第2のバンド24の一部が摺動可能に挿入されている。つまり、案内溝221,222内の第1のバンド23の部分及び第2のバンド24の部分は、第1の耳糸用綜絖11と第2の耳糸用綜絖12との往復動経路と平行に往復動するように隣り合っている。第1のバンド23及び第2のバンド24は、炭素繊維で強化された繊維強化プラスチック製である。
【0022】
第1のバンド23は、撓み変形した状態で取り付け体21と第1の位置規制体19の対向面191との間隙を通って上方へ延びている。第2のバンド24は、撓み変形した状態で取り付け体21と第2の位置規制体20の対向面201との間隙を通って上方へ延びている。さらに、第1のバンド23は、ホイール18と第1の位置規制体19の対向面191との間を通って上方へ延びており、第2のバンド24は、ホイール18と第2の位置規制体20の対向面201との間を通って上方へ延びている。
【0023】
第1のバンド23及び第2のバンド24には複数の動力受承孔231,241が列設されている。動力受承孔231,241には動力伝達歯181が噛合されている。つまり、第1のバンド23と第2のバンド24とは、第1のバンド23と第2のバンド24との動力受承孔231,241と動力伝達歯181とを噛合するように、撓み変形した状態でホイール18を挟んで対向している。第1の位置規制体19のガイド平面194に対向する第1のバンド23の部分は、直線状態になっており、第2の位置規制体20のガイド平面204に対向する第2のバンド24の部分は、直線状態になっている。ホイール18の動力伝達歯181は、ガイド平面194に対向する第1のバンド23の直線状態の部分における動力受承孔231に噛合する。又、ホイール18の動力伝達歯181は、ガイド平面204に対向する第2のバンド24の直線状態の部分における動力受承孔241に噛合する。ガイド平面194に対向する第1のバンド23の直線状態の部分は、図4に示すように、ホイール18の歯底180に接しており、ガイド平面204に対向する第2のバンド24の直線状態の部分は、ホイール18の歯底180に接している。
【0024】
第1のバンド23の動力受承孔231と動力伝達歯181との噛合位置において、第1の位置規制体19の対向面191(ガイド平面194)には逃げ溝192が形成されている。第2のバンド24の動力受承孔241と動力伝達歯181との噛合位置において、第2の位置規制体20の対向面201(ガイド平面204)には逃げ溝202が形成されている。第1のバンド23の動力受承孔231に噛合している動力伝達歯181は、逃げ溝192内に入り込んでおり、第2のバンド24の動力受承孔241に噛合している動力伝達歯181は、逃げ溝202内に入り込んでいる。これにより第1の位置規制体19と動力伝達歯181とが干渉することはなく、第2の位置規制体20と動力伝達歯181とが干渉することはない。
【0025】
図4に示すように、ホイール18の歯底180に接する側の第1のバンド23の接触面230は、ガイド平面194に対向する部分では直線状態にあり、ホイール18の歯底180に接する側の第2のバンド24の接触面240は、ガイド平面204に対向する部分では直線状態にある。ガイド平面194,204は、角度α(本実施形態ではπ/5)を成している。第1のバンド23の動力受承孔231Aに噛合している動力伝達歯181Aの周方向の中央を通るホイール18の半径線182と歯底円185との交点における第1の接線L1と、前記第2のバンド24の動力受承孔241Bに噛合している動力伝達歯181Bの周方向の中央を通るホイール18の半径線182と歯底円185との交点における第2の接線L2とが成す角度は、αである。
【0026】
第1のバンド23の動力受承孔231のピッチと、第2のバンド24の動力受承孔241のピッチとは、同じピッチPである。ホイール18の歯数(動力伝達歯181の数)をZ、ホイール18の半径(ホイール18の回転中心Cからホイール18の歯底までの距離)をRとすると、α/2=2π/Z及びP=2π×R/Zの関係が設定されている。本実施形態では、Z=20である。又、電動モータ17の最小の動作角度をθ、nを正の整数とすると、α/2=n×θの関係が設定されている。本実施形態では、θ=π/100、n=10である。電動モータ17の回転停止位置は、最小の動作角度θの間隔の回転位置であり、ホイール18の回転停止位置は、電動モータ17の最小の動作角度θに対応した最小回転角度(θ)の間隔の回転位置である。
【0027】
図4は、ホイール18の動力伝達歯181Aと第1のバンド23の動力受承孔231Aとが完全に噛合している状態を示す。動力伝達歯181Aと動力受承孔231Aとが完全に噛合している状態とは、動力受承孔231Aに噛合している動力伝達歯181Aの周方向の中央を通るホイール18の半径線182に対して直交する仮想平面H1が第1のバンド23の直線状態の部分の方向と平行な状態となることである。第1の接線L1と第2の接線L2との交点Dと、回転中心Cとを通る線を基準線E1とし、基準線E1に対して直交し、かつ回転中心Cを通る線を第2の基準線E2とする。そうすると、半径線182と第2の基準線E2とは、角度α/2を成し、半径線183と第2の基準線E2とは、角度α/2を成す。図4の状態から電動モータ17が最小の動作角度θだけ回転(例えば左回転)したとする。そうすると、第1の基準線E1上にある動力伝達歯181C,181Dの歯先184と、第1の基準線E1との交差位置G1,G2に対応する歯先184の部位は、回転中心Cを通って第1の基準線E1に対して角度θで交差する直線E11上に移動する。
【0028】
第1のバンド23には一対の掛け止めアーム25,26が止着されており、第2のバンド24には一対の掛け止めアーム27,28が止着されている。一対の掛け止めアーム25,26には第1の耳糸用綜絖11が掛け止め支持されており、一対の掛け止めアーム27,28には第2の耳糸用綜絖12が掛け止め支持されている。つまり、第1のバンド23は、第1の耳糸用綜絖11を支持し、第2のバンド24は、第2の耳糸用綜絖12を支持している。
【0029】
次に、第1の実施形態の作用を説明する。なお、以下においては、動力受承孔231,241と動力伝達歯181との噛合位置のことをバンド23,24とホイール18との噛合位置ということもある。
【0030】
電動モータ17の出力軸171は往復回転し、ホイール18が往復回転する。ホイール18の往復回転は、動力伝達歯181と動力受承孔231,241との噛合を介して第1のバンド23及び第2のバンド24に伝達される。これにより、第1のバンド23と第2のバンド24とが案内溝221,222内を互いに逆方向へ上下動する。第1のバンド23は、対向面191(ガイド曲面193及びガイド平面194)に摺接して往復動し、第2のバンド24は、対向面201(ガイド曲面203及びガイド平面204)に摺接して往復動する。つまり、第1の位置規制体19は、第1のバンド23とホイール18との噛合位置を規制するように第1のバンド23に接し、第2の位置規制体20は、第2のバンド24とホイール18との噛合位置を規制するように第2のバンド24に接する。
【0031】
第1のバンド23及び第2のバンド24が案内溝221,222内を互いに逆方向へ上下動すると、第1の耳糸用綜絖11及び第2の耳糸用綜絖12は、互いに逆方向へ上下動する。これにより、第1の耳糸用綜絖11に通された耳糸14(図1参照)と、第2の耳糸用綜絖12に通された耳糸15(図1参照)とが緯入れされた緯糸(図示略)を挟んで耳We(図1参照)を形成する。
【0032】
ガイドレール22は、互いに平行な一対の案内溝221,222を有する第3の位置規制体である。第1の位置規制体19、第2の位置規制体20及びガイドレール22は、第1のバンド23及び第2のバンド24を案内する案内手段を構成する。この案内手段は、動力伝達歯181と動力受承孔231,241との噛合位置から離れるにつれて第1のバンド23と第2のバンド24とを接近させてゆく。次いで、案内手段は、第1のバンド23の一部と第2のバンド24の一部とを隣り合わせで平行にするように、第1及び第2のバンド23,24を案内する。
【0033】
第1の実施の形態では以下の効果が得られる。
(1−1)α/2=2π/Z及びP=2π×R/Zの関係が設定されている本実施形態では、図4に示すようにホイール18の動力伝達歯181Aが第1のバンド23の動力受承孔231Aに完全に噛合しているときには、ホイール18の動力伝達歯181Bが第2のバンド24の動力受承孔241Bに完全に噛合する。動力伝達歯181Bと動力受承孔241Bとが完全に噛合している状態とは、動力受承孔241Bに噛合している動力伝達歯181Bの周方向の中央を通るホイール18の半径線183に対して直交する仮想平面H2が第2のバンド24の直線状態の部分の方向と平行な状態となることである。
【0034】
図5は、図4の状態からθ/10に満たない角度だけホイール18を回転させた状態を示す。図5の状態においても、第1のバンド23側の動力受承孔231とホイール18の動力伝達歯181との噛合状態は、第2のバンド24側の動力受承孔241とホイール18の動力伝達歯181との噛合状態と同じである。
【0035】
図6は、α/2=m×2π/Z〔mは、正の整数又は正の半整数(1/2,3/2,5/2・・・)〕の関係が設定されていない例を示す。図6の例では、第1の接線L1と第2の接線L2との成す角度α1は、角度αよりも大きくしてある。図6に示すように、ホイール18の動力伝達歯181が第2のバンド24の動力受承孔241に完全に噛合しているときには、ホイール18の動力伝達歯181が第1のバンド23の動力受承孔231に完全に噛合することはない。つまり、α/2=m×2π/Z(mは、正の整数又は正の半整数)の関係が設定されていない場合には、第1のバンド23側の動力受承孔231とホイール18の動力伝達歯181との噛合状態と、第2のバンド24側の動力受承孔241とホイール18の動力伝達歯181との噛合状態とは、同じにならない。
【0036】
α/2=2π/Z及びP=2π×R/Zの関係が設定されている本実施形態では、第1のバンド23側の動力受承孔231とホイール18の動力伝達歯181との噛合状態と、第2のバンド24側の動力受承孔241とホイール18の動力伝達歯181との噛合状態とは、常に同じになる。従って、ホイール18の動力伝達歯181から第1のバンド23の動力受承孔231の壁面232に掛かる荷重は、ホイール18の動力伝達歯181から第2のバンド24の動力受承孔241の壁面242に掛かる荷重と同じになる。その結果、第1のバンド23の動力受承孔231の壁面232における摩耗の進行と、第2のバンド24の動力受承孔241の壁面242における摩耗の進行との差が無くなる。
【0037】
(1−2)バンド23,24の加速度が最大のとき、つまりホイール18の回転方向が切り替えられるときは、電動モータ17の回転が停止するとき(電動モータ17の回転方向が切り替えられる時)である。ホイール18の回転方向が切り替えられるときには、動力受承孔231,241の壁面232,242に掛かる荷重が最も大きくなる。そのため、壁面232,242の摩耗抑制の観点からすると、ホイール18の回転方向が切り替えられるときには、第1,2のバンド23,24の動力受承孔231,241とホイール18の動力伝達歯181とが完全に噛合していることが望ましい。最小の動作角度θを有する電動モータ17を用いた場合、ホイール18の最小の回転角度は、θである。α/2=n×θの関係が設定されていると、ホイール18の回転方向が切り替えられるときにおける第1,2のバンド23,24の動力受承孔231,241とホイール18の動力伝達歯181とを完全に噛合させた状態に設定することができる。
【0038】
(1−3)ガイド平面194に対向する第1のバンド23の直線状態の部分は、ホイール18の歯底に接しており、ガイド平面204に対向する第2のバンド24の直線状態の部分は、ホイール18の歯底に接している。そして、第1のバンド23の直線状態の部分における動力受承孔231と、第2のバンド24の直線状態の部分における動力受承孔241とがホイール18の動力伝達歯181に噛合する。
【0039】
第1,2のバンド23,24をホイール18に巻き掛けて動力受承孔231,241を動力伝達歯181に噛合させたとする。そうすると、第1,2のバンド23,24をホイール18に巻き掛けた状態で案内するガイド部材と第1,2のバンド23,24との間の摺動抵抗が大きくなる。このような大きな摺動抵抗は、第1,2のバンド23,24を円滑に往復動させる上で支障となる。
【0040】
第1,2のバンド23,24の直線状態の部分をホイール18に接触させた構成は、第1,2のバンド23,24を円滑に往復動させる上で有利である。
(1−4)α/2=2π/Zとした構成は、角度αの大きさを抑制して第1,2のバンド23,24の往復動を円滑にする上で有利である。
【0041】
(1−5)第1の位置規制体19、第2の位置規制体20及びガイドレール22からなる案内手段は、動力伝達歯181と動力受承孔231,241との噛合位置から離れるにつれて第1のバンド23と第2のバンド24とを接近させてゆく。次いで、案内手段は、第1のバンド23の一部と第2のバンド24の一部とを隣り合わせで平行にする。このような案内手段は、撓み変形可能なバンド23,24の平行な部分を平行な第1の耳糸用綜絖11と第2の耳糸用綜絖12とに連結する上で好適である。
【0042】
(1−6)織機駆動モータ(図示略)から独立して種々の耳組織の形成に対応可能な電動モータ17は、ホイール18を往復回転させるための駆動源として好適である。
(1−7)第1のバンド23は、金属製の第1の位置規制体19及び金属製のガイドレール22と摺接し、第2のバンド24は、金属製の第2の位置規制体20及び金属製のガイドレール22と摺接する。炭素繊維で強化された繊維強化プラスチックと金属との摺接抵抗は、小さい。炭素繊維で強化された繊維強化プラスチックは、撓み変形可能なバンド23,24の材質として好適である。
【0043】
本発明では以下のような実施形態も可能である。
(1)mを2以上の整数として、α/2=m×2π/Zの関係を設定してもよい。図7の実施形態は、Z,Rが第1の実施形態と場合と同じ、かつm=2の場合を示す。この場合、α/2=π/5となる。このような設定においても、第1の実施形態における(1−1)項と同様の効果が得られる。α/2=n×θの関係を設定すれば、第1の実施形態における(1−2)項と同様の効果が得られる。
【0044】
(2)mを正の半整数として、α/2=m×2π/Zの関係を設定してもよい。図8(a)の実施形態は、Z,Rが第1の実施形態と場合と同じ、かつm=1/2の場合を示す。この場合、α/2=π/20となる。図8(b)の実施形態は、Z,Rが第1の実施形態と場合と同じ、かつm=3/2の場合を示す。この場合、α/2=3π/20となる。このような設定においても、第1の実施形態における(1−1)項及び(1−4)項と同様の効果が得られる。α/2=n×θの関係を設定すれば、第1の実施形態における(1−2)項と同様の効果が得られる。
【0045】
(3)第1のバンド23及び第2のバンド24をホイール18に巻き掛けるようにして動力受承孔231,241と動力伝達歯181とを噛合させてもよい。
(4)第1のバンド23及び第2のバンド24として、撓み変形可能な帯形状の金属板を用いてもよい。
【0046】
(5)第1のバンド23と第2のバンド24とをホイール18の上部側の周りで連なるように一体にしてもよい。
(6)電動モータ17の出力軸171とホイール18との間に、減速歯車機構あるいは増速歯車機構を介在してもよい。この場合、βを減速比又は増速比、kを正の整数とすると、β=k/nであればよい。そうすると、電動モータ17の最小の動作角度をθoとすると、α/2=n×θは、α/2=n×β×θo=k×θoとなる。
【0047】
前記した実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
〔1〕請求項1乃至請求項5のいずれか1項において、前記ホイールは、最小の動作角度の間隔で回転停止する電動モータによって駆動され、α/2=n×θの関係が設定されており、前記電動モータが回転方向を切り替えるときには、第1のバンドの動力受承孔と前記ホイールの駆動力伝達歯とが完全噛合すると共に、前記第2のバンドの動力受承孔と前記ホイールの駆動力伝達歯とが完全噛合する織機における耳形成装置。
【0048】
バンドの加速度が最も大きくなる電動モータの回転方向の切り替え時に動力受承孔と動力伝達孔とが完全噛合することにより、動力受承孔の壁面の摩耗抑制の効果が得られる。
〔2〕請求項1乃至請求項5、前記〔1〕項のいずれか1項において、前記第1のバンド及び第2のバンドは、炭素繊維で強化された繊維強化プラスチック製である織機における耳形成装置。
【0049】
炭素繊維で強化された繊維強化プラスチックと金属との摺接抵抗は、小さく、炭素繊維で強化された繊維強化プラスチックは、撓み変形可能なバンドの材質として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】第1の実施形態を示す側断面図。
【図2】(a)は、側断面図。(b)は、図2(a)のA−A線断面図。
【図3】(a)は正断面図。(b)は背断面図。
【図4】部分拡大側断面図。
【図5】部分拡大側断面図。
【図6】α/2=m×2π/Zを満たさない例の部分拡大側断面図。
【図7】別の実施形態を示す部分拡大側断面図。
【図8】(a),(b)は、いずれも別の実施形態を示す部分拡大側断面図。
【符号の説明】
【0051】
11…第1の耳糸用綜絖。12…第2の耳糸用綜絖。17…電動モータ。18…ホイール。181,181A,181B,181C,181D…動力伝達歯。182,183…半径線。185…歯底円。19…案内手段を構成する第1の位置規制体。20…案内手段を構成する第2の位置規制体。193,203…ガイド曲面。194,204…ガイド平面。22…案内手段を構成する第3の位置規制体としてのガイドレール。23…第1のバンド。24…第2のバンド。231,231A,241,241B…動力受承孔。We…耳。L1…第1の接線。L2…第2の接線。α…第1の接線と第2の接線とが成す角度、Z…ホイールの歯数、R…ホイールの半径、P…動力受承孔のピッチ、m…正の整数又は正の半整数、θ…電動モータの最小の動作角度であり、かつホイールの最小回転角度。n…正の整数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに逆方向へ往復動する第1の耳糸用綜絖と第2の耳糸用綜絖との動作に基づいて耳を形成する織機における耳形成装置であって、
複数の動力受承孔を列設した撓み変形可能な第1のバンドと、
複数の動力受承孔を列設した撓み変形可能な第2のバンドと、
前記第1のバンド及び第2のバンドの動力受承孔にそれぞれ噛合する複数の動力伝達歯を有するホイールとを備え、
前記第1のバンドは、前記第1の耳糸用綜絖を支持し、前記第2のバンドは、前記第2の耳糸用綜絖を支持し、前記第1のバンドと第2のバンドとは、それぞれの動力受承孔と前記動力伝達歯とを噛合させるように、撓み変形された状態で前記ホイールを挟んで対向されている織機における耳形成装置において、
前記第1のバンドの動力受承孔に噛合している動力伝達歯の周方向の中央を通るホイールの半径線と歯底円との交点における第1の接線と、前記第2のバンドの動力受承孔に噛合している動力伝達歯の周方向の中央を通るホイールの半径線と歯底円との交点における第2の接線とが成す角度をα、前記ホイールの歯数をZ、前記ホイールの半径をR、前記第1のバンドと第2のバンドとの動力受承孔のピッチをP、mを正の整数又は正の半整数とすると、α/2=m×2π/Z及びP=2π×R/Zの関係が設定されている織機における耳形成装置。
【請求項2】
前記ホイールは、最小の動作角度の間隔の回転位置で停止する電動モータによって駆動され、前記電動モータの最小の動作角度に対応した前記ホイールの最小回転角度をθ、nを正の整数とすると、α/2=n×θの関係が設定されている請求項1に記載の織機における耳形成装置。
【請求項3】
前記第1のバンドの直線状態の部分における動力受承孔と、前記第2のバンドの直線状態の部分における動力受承孔とが前記ホイールの動力伝達歯に噛合する請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載の織機における耳形成装置。
【請求項4】
前記mは1/2、1又は3/2である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の織機における耳形成装置。
【請求項5】
前記第1のバンドと前記第2のバンドとを案内する案内手段を備え、前記案内手段は、前記動力伝達歯と前記動力受承孔との噛合位置から離れるにつれて第1のバンドと第2のバンドとを接近させてゆき、次いで前記第1のバンドの一部と第2のバンドの一部とを隣り合わせで平行にする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の織機における耳形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−322092(P2006−322092A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144282(P2005−144282)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】