説明

織機における遊星歯車式耳組装置

【課題】遊星歯車式耳組装置において、駆動軸の回転変動に起因する遊星キャリアの回転振動を抑制又は吸収し、遊星キャリアの回転振動に起因するギヤの摩耗促進やボビンホルダの破損の頻発を防止する。
【解決手段】中心軸(2,47)の軸心周りに回転自在に設けられた円盤状の遊星キャリア(3)と該遊星キャリア(3)と同軸的に配置されて回転不能に設けられた太陽ギヤ(41)とを含む遊星歯車式耳組装置において、遊星キャリア(3)を支持する前記中心軸(2,47)の軸心を回転中心として回転する回転体であって前記遊星キャリア(3)を含む回転体と当接して前記回転体に対し回転抵抗を付与する抵抗付与部材(46,91,93)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織機における遊星歯車式耳組装置に関し、特に、中心軸の軸心周りに回転自在に設けられた遊星キャリアであって前記中心軸の軸心に対する対称的な配置で一対の支持軸を回転自在に支持する円盤状の遊星キャリアと、該遊星キャリアと同軸的に配置されて回転不能に設けられた太陽ギヤと、一端にボビンホルダが固定された前記一対の支持軸の各々の他端に取り付けられた遊星ギヤであって前記太陽ギヤと間接的に噛合する一対の遊星ギヤとを含む遊星歯車式耳組装置に関する。なお、前記の「間接的に噛合」とは、遊星ギヤと太陽ギヤとが直接的に噛合しているのではなく、太陽ギヤと噛合する別のギヤに対し遊星ギヤが噛合していることを表す。
【背景技術】
【0002】
織機に用いられる前記の様な遊星歯車式耳組装置(以下、「遊星耳組装置」という)として、例えば、特許文献1又は特許文献2に記載されたものがある。
【0003】
特許文献1、2に記載の遊星耳組装置は、装置内において回転不能に設けられた太陽ギヤ及び太陽ギヤと同軸的に配置されて回転自在に設けられた円盤状の遊星キャリアを含み、該遊星キャリアが、その回転中心に対し対称的に配置された一対の遊星ギアを回転自在に支持する。また、一対の遊星ギヤは、遊星キャリアに対し回転自在に支持されると共に太陽ギヤに噛合する中継ギヤと噛合している。なお、特許文献1に記載の遊星耳組装置では、遊星キャリアは、外周部にギヤ歯が形成されたギヤの形態を為すと共に太陽ギヤと一体的に形成された中心軸に回転自在に支持されており、駆動軸によって回転される駆動ギヤと噛合して直接的に回転駆動される構成となっている。また、特許文献2に記載の遊星耳組装置では、遊星キャリアは、太陽ギヤを回転自在に貫通する中心軸に対し相対回転不能に支持されており、中心軸が駆動軸によって回転駆動されることによって回転駆動される、すなわち、間接的に回転駆動される構成となっている。
【0004】
さらに、前記遊星ギヤは、遊星キャリアに対し回転自在に支持された支持軸の一端に取り付けられており、該支持軸の他端には、耳糸が巻かれた耳糸ボビンを保持するボビンホルダが取り付けられている。そして、これらの構成を含む遊星耳組装置では、遊星キャリアが回転駆動されることにより、支持軸を介して遊星キャリアに支持されたボビンホルダが公転すると共に、支持軸に取り付けられた遊星ギヤが固定の太陽ギヤと間接的に噛合しながら公転することによって支持軸周りに回転する。それにより、ボビンホルダは、公転しつつ自転する遊星運動を行う。その結果、各ボビンホルダの耳糸ボビンから引き出されて製織中の織布の織端に連なる一対の耳糸は、開口運動をしつつ互いに撚られることとなり、織布の織端にもじり耳が形成される。
【0005】
ところで、その様な構成の遊星耳組装置おいて、例えば、前記の駆動軸が図示しない織機の主軸(原動モータ)を駆動源とする場合、主軸の回転速度の変動(以下、「回転変動」ともいう)に起因して発生する衝撃により、ギヤの摩耗が促進されたり、あるいはボビンホルダが破損する等の問題が発生する。詳しくは、次の通りである。
【0006】
ボビンホルダに前記の様な遊星運動を行わせる為の遊星ギヤ機構は、太陽ギヤ、遊星ギヤ及び中継ギヤ等のギヤの組み合わせから成っている。そして、噛合する各ギヤ間にバックラッシ(遊び)が存在している。その為、遊星ギヤ機構全体としてみた場合、遊星ギヤ機構には、総バックラッシ量(各ギヤ間のバックラッシ量の合計)に相当する大きな遊びが存在していることになる。一方、織機の主軸は、定常運転状態においても常に一定速で回転しているわけではなく、主軸を駆動源とする筬の筬打ち動作や開口装置の開口運動等によって主軸に掛かる負荷により、1回転中において回転変動しつつ平均で所定の回転数となるように回転している。
【0007】
織機の主軸を駆動源とする駆動軸によって遊星キャリアが回転駆動される場合、前記の様な主軸の1回転中における回転変動に伴って駆動軸の回転速度が変動し、それに起因して遊星キャリアに回転方向の振動(=回転ムラ/以下、「回転振動」という)が発生する。そして、遊星キャリアにその様な回転振動が生じると、ギヤの噛合部分では、前記バックラッシ(遊び)の存在により、速度が変化する時点で噛合するギヤの歯面同士が衝突して歯面に衝撃が与えられる。そして、遊星ギヤ機構における各ギヤの噛合部分でその様な衝撃が発生する為、遊星耳組装置全体が大きい衝撃を受けることになる。その結果、ギヤの歯面の摩耗が促進されたり、あるいは、全体の衝撃がボビンホルダに波及してボビンホルダの破損が頻発したりする、という問題が生じる。
【特許文献1】特開2004−190192号公報
【特許文献2】特開2004−250816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、前述の遊星耳組装置において、駆動軸の回転変動に起因する遊星キャリアの回転振動を抑制し、ギヤの摩耗促進やボビンホルダの破損の頻発を防止し得る構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の様に、本発明は、中心軸の軸心周りに回転自在に設けられた遊星キャリアであって前記中心軸の軸心に対する対称的な配置で一対の支持軸を回転自在に支持する円盤状の遊星キャリアと、該遊星キャリアと同軸的に配置されて回転不能に設けられた太陽ギヤと、一端にボビンホルダが固定された前記一対の支持軸の各々の他端に取り付けられた遊星ギヤであって前記太陽ギヤと間接的に噛合する一対の遊星ギヤとを含む遊星歯車式耳組装置を前提とする。
【0010】
そして、前記課題のもとに、本発明の遊星耳組装置は、前記中心軸の軸心を回転中心として回転する回転体であって前記遊星キャリアを含む回転体と当接して前記回転体に対し回転抵抗を付与する抵抗付与部材を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明においては、前記抵抗付与部材は、前記回転体の外周面に対し部分的に2以上の箇所で当接するものであってもよく、また、好ましくは、前記回転体の外周面に対しその全周に亘って当接するものとするのがよい。
【0012】
更に、本発明による遊星耳組装置は、ボビンホルダ等を支持する前記支持軸に当接する第2の抵抗付与部材を備えるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、遊星キャリア等の前記回転体に対し抵抗付与部材を当接させることにより、遊星キャリアに対し直接的に又は間接的に回転抵抗が付与される。その為、回転体を回転駆動する駆動軸に回転変動が生じたとしても、それに起因する遊星キャリアの回転振動が抑制(吸収)される。それにより、前述の遊星キャリアの回転振動に起因するギヤの摩耗促進やボビンホルダの破損の頻発といった問題の発生を防止することができる。なお、この抵抗付与部材は、当然ながら遊星キャリアの回転を許容する接圧力で遊星キャリアに対し当接するものであり、その接圧力は、抵抗付与部材の材質や構成、及び織機の回転数等に応じて適宜に定められる。
【0014】
また、本発明の抵抗付与部材によれば、織機自体の振動に起因する遊星キャリアの半径方向の振動(以下、「ラジアル振動」という)も抑制でき、その振動に起因するボビンホルダ等の破損も防止できる。
【0015】
詳しくは、織機の運転時においては、筬の揺動運動に伴う振動や筬打ち時の衝撃、あるいは開口運動に伴う振動により、織機自体が激しく振動している。そして、遊星耳組装置は、織機の左右フレーム間に架設された梁上に設けられる為、その織機の振動による影響を受ける。因みに、筬打ち運動による影響は主として織機の前後方向(経糸方向)の振動として作用し、開口運動による影響は主として上下方向の振動として作用する。その為、遊星耳組装置における遊星キャリアが両振動の影響によって半径方向に激しく振動し、それが原因でボビンホルダ等の破損を招いてしまう。
【0016】
これに対し、回転体の外周面に抵抗付与部材を当接させる構成とすれば、前記のラジアル振動が抵抗付与部材によって受けられて吸収される為、ラジアル振動の少なくとも一部を抑制できるという効果が得られる。但し、抵抗付与部材を前記回転体の外周面に当接させる構成とする場合は、抵抗付与部材を弾性変形可能な部材で形成されたものとすることが望まれる。なお、そのラジアル振動の抑制効果は、回転体の外周面に抵抗付与部材を当接させる場合に限らず、回転軸の軸線方向で遊星キャリアの端面(前面及び/又は後面)に対し抵抗付与部材を当接させる場合にも得られる。
【0017】
そして、前記のラジアル振動の抑制効果を考えた場合は、前記回転体の外周面に対し部分的には2以上の箇所で抵抗付与部材を当接させるのが効果的であり、より効果的には、前記回転体の外周面に対し全周に亘って抵抗付与部材を当接させるのがよい。特に、遊星キャリアの外周面に抵抗付与部材を当接させる構成とすれば、前記の振動抑制効果を高めることができる。
【0018】
すなわち、一般的な遊星耳組装置の構成においては、それ自身が重量物である遊星キャリアは、更に装置中において比較的に重量の大きい部材である一対のボビンホルダをその前面側で支持しており、一方で、その遊星キャリアを支持する中心軸は、その軸線方向におけるボビンホルダから離間した位置で支持されている。その様に、遊星耳組装置において、中心軸おける遊星キャリア及びボビンホルダの重量を支持する点と中心軸自身が支持される点とが軸線方向に離間している、言い換えると、中心軸は自身の支持点から軸線方向に離間した位置で重量物を支持している為、中心軸は遊星キャリア側で振動の影響を受け易い状態となっている。そこで、重量物であるボビンホルダに近い位置に存在し、且つ、そのボビンホルダを支持する遊星キャリアに対しその外周面に抵抗付与部材を当接させる、すなわち、遊星キャリアをその外周面で支持することにより、前記のラジアル振動の抑制効果を高めることができる。
【0019】
なお、2箇所のみに抵抗付与部材を設ける場合は、影響の大きい振動の方向を考慮し、その方向において遊星キャリアの中心(中心軸)を挟んで2つの抵抗付与部材が対向する様に抵抗付与部材を設ければよい。例えば、一般的に織機においては、筬打ち運動による振動の影響が最も大きい為、中心軸を挟んで経糸方向に対向する様に2つの抵抗付与部材を配置することにより、筬打ち運動に起因する遊星キャリアの前後方向の振動を抑制することができ、従来装置と比べてボビンホルダの破損の発生頻度を抑えることができる。また、部分的に3箇所以上で設ける場合は、前記回転体の外周面上において各抵抗付与部材間の間隔が均等になるように抵抗付与部材を配置すればよい。
【0020】
更に、遊星耳組装置が、遊星ギヤ及びボビンホルダを支持する支持軸に当接する第2の抵抗付与部材を備えることにより、ボビンホルダの破損の発生を更に抑えることができる。
【0021】
詳しくは、支持軸にはボビンホルダが支持されていてボビンホルダを自転させつつ公転させているが、ボビンホルダの重心が支持軸の軸心と一致していない場合、ボビンホルダの自転による遠心力の合力が支持軸に対し回転方向の力として作用する。すなわち、ボビンホルダの自転によって支持軸に対し回転モーメントが作用する。但し、ボビンホルダは自転だけでなく公転もしている為、この回転モーメントは、ボビンホルダの自転による回転位相と公転方向との関係で変化する。従って、支持軸に作用する前記回転モーメントは支持軸の1回転中において変化し、その結果、支持軸の回転速度も1回転中において変動する。
【0022】
この様に、ボビンホルダを支持する支持軸の回転変動については、前述の主軸の回転変動による影響だけでなく、ボビンホルダの遊星運動も影響している。その場合は、遊星キャリアの回転振動を抑えたとしても支持軸に回転振動が生じ、ギアの噛合部分での歯面同士の衝突による衝撃が依然として発生してしまう。そこで、前記の様な第2の抵抗付与部材を設けることにより、ボビンホルダの遊星運動に起因する支持軸の回転振動を抑制(吸収)することができ、前記衝撃によるボビンホルダの破損を更に有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳述する。
【0024】
図1〜3に示すのは本発明の一実施形態であって、図1は、本発明が適用される遊星耳組装置の一部断面側面図であり、図2は、遊星耳組装置における遊星ギヤ機構部分の背面断面図である。また、図3は、図1の遊星耳組装置における本発明の要部である遊星ギヤ機構の周辺部分を拡大した断面図である。なお、図1、3の遊星ギヤ機構部分は、図2のB−B断面を矢印の方向で見た図として示してあり、また、図2は、図1のA−A断面を矢印の方向で見た図として示してある。但し、図2には、本来なら示されない後述のプーリ等が参考のために仮想線で示されている。また、図3では、図1に示されている後述のボビンホルダは省略してある。
【0025】
本発明が適用される遊星耳組装置1は、中心軸としての回転軸2、遊星キャリア3、太陽ギヤ41を含む太陽ギヤ形成部材4、一対の遊星ギヤ5、5、一対の中継ギヤ6、6、及び一対のボビンホルダBHを含む。なお、ボビンホルダBHは、例えば、特開平9−137334号公報等に開示された公知のものである。よって、以下では、ボビンホルダに関する説明については省略する。また、以下の説明において、前(前側)は、回転軸2の軸線方向におけるボビンホルダBH側(図1における図面右側)をいい、後(後側)は、ボビンホルダBHとは反対の側(図1における図面左側)をいう。また、軸線方向とは、回転軸2の中心軸線(回転軸線)と平行な方向(向きは問わず)をいい、半径方向とは、前記の軸線方向と直交する方向をいう。
【0026】
前記の様に、本実施例では、本発明でいう中心軸が、回転駆動される回転軸2として設けられている。そして、この回転軸2は、太陽ギヤ形成部材4に形成された貫通孔44を貫通し、貫通孔44内において軸受を介して太陽ギヤ形成部材4に対し回転自在に支持されている。また、遊星キャリア3については、噛合する駆動ギヤによって直接的に回転駆動される構成ではなく、回転軸2に対し相対回転不能に支持され、回転軸2を介して間接的に回転駆動される構成となっている。
【0027】
太陽ギヤ形成部材4は、前側に位置する部分であって外周部にギヤ歯が形成されたギヤ部である太陽ギヤ41と、太陽ギヤ41から後方へ延びる軸部42と、軸部42から半径方向へ放射状に拡がる様に形成されたフランジ部43とを形成している。そして、前記の貫通孔44は、軸部42及び太陽ギヤ41を貫通して形成されている。なお、貫通孔44内において、後側の端部には、貫通孔44の内周面と回転軸2との間の間隙に接触式のシール部材であるオイルシール46が介装されている。因みに、図示のオイルシール46は、それ自体公知のものであって、その外周面において貫通孔44の内周面に対し圧入固定され、その内周面側のシールリップ部等が回転軸2の外周面に圧接している。そして、回転軸2の回転時において、回転軸2の外周面がオイルシール46に対し摺動する。
【0028】
また、太陽ギヤ形成部材4には、ギヤカバー7が取り付けられている。このギヤカバー7は、前記した太陽ギヤ41、遊星ギヤ5、5及び中継ギヤ6、6から成るギヤ列19、並びに遊星キャリア3を含む遊星ギヤ機構を囲繞するように設けられている。そして、ギヤカバー7は、太陽ギヤ形成部材4の軸部42が嵌挿される貫通孔74を有しており、この貫通孔74と太陽ギヤ形成部材4の軸部42とが嵌め合わされると共に、フランジ部43の前面に当接した状態で、フランジ部43を通して螺挿されるネジ部材45により、太陽ギヤ形成部材4に対し一体的に固定されている。
【0029】
前記の様に一体化された太陽ギヤ形成部材4とギヤカバー7とは、支持ブラケット11によって支持されている。支持ブラケット11は、図示しない織機のフレーム間に架設されたステー等の上面に立設されており、後述の駆動機構を収容する様に箱状の形態を為している。そして、太陽ギヤ形成部材4及びギヤカバー7は、太陽ギヤ形成部材4のフランジ部43が支持ブラケット11の前側の側壁に形成された貫通孔に嵌挿されると共に、ギヤカバー7の貫通孔74周りの後面が支持ブラケット11の貫通孔周りの外壁面に当接して位置決めされた状態で、支持ブラケット11の前記前側の側壁を通して螺挿された複数のネジ部材(図示せず)によって支持ブラケット11に対し固定されている。従って、太陽ギヤ形成部材4(太陽ギヤ41)は、遊星耳組装置1の装置内において回転不能に設けられた状態となっており、また、ギヤカバー7も太陽ギヤ形成部材4と一体化されて回転不能となっている。
【0030】
遊星キャリア3は、図示の例では、本体31を主体とし、本体31の前側の端部において半径方向へ放射状に拡がるフランジ部32を有している。この本体31は、外周部にリムを形成した円盤状の形態を為しており、中心部に回転軸2が嵌挿される貫通孔31aが形成されている。また、図示の例では、本体31の直径は、遊星ギヤの前記公転に伴って遊星ギヤの歯部先端が描く円形の軌跡の径、すなわち、両遊星ギヤの中心を通る直線と各遊星ギヤの歯部の外縁とが交差する点(交差点)のうちの各遊星ギヤにおける外側の交差点の間の距離(以下、「歯端間距離」という)よりも大きいものとなっている。
【0031】
更に、遊星キャリア3においては、貫通孔31aが形成される部分(回転軸2が嵌挿される部分)及び後述の遊星ギヤ5等を支持する支持軸が支持される部分は、他の部分と比べて肉厚のボス部として形成されている。そして、回転軸2が嵌挿される貫通孔31aには、回転軸2に装着されたキー23が嵌合されるキー溝31dが形成されている。従って、遊星キャリア3は、回転軸2に対し相対回転不能となっており、太陽ギヤ形成部材4に対し回転軸2と共に回転自在に支持されている。すなわち、遊星キャリア3は、遊星耳組装置1内において、回転軸(中心軸)2の軸心周りに回転自在に設けられた状態となっており、遊星キャリア3及び遊星キャリア3と一体的に回転する回転軸2によって本発明でいう回転体が構成されている。
【0032】
また、遊星キャリア3には、それぞれが一対で、回転軸の軸心に対し対称的な位置に配置された2組の支持軸対51、51及び61、61が支持されている。
【0033】
一対の支持軸51、51の各々は、一端にボビンホルダBHが取り付けられると共に、遊星キャリア3を貫通し、他端側で遊星ギヤ5を支持している。各支持軸51は、ボビンホルダBH及び遊星ギヤ5を相対回転不能に支持すると共に、遊星キャリア3に対し軸受を介して回転自在に支持されている。従って、各ボビンホルダBH及び各遊星ギヤ5は、支持軸51を介し、遊星キャリア3に対し回転自在に支持された状態となっている。また、遊星キャリア3の支持軸51が挿通される貫通孔31b内には、前側の端部において、貫通孔31bの内周面と支持軸51との間に接触式のシール部材であるオイルシール52が介装されている。因みに、図示のオイルシール52は、前述のオイルシール46と同様のものであり、その外周面において貫通孔31bの内周面に対し圧入固定され、その内周面側のシールリップ部等が支持軸51の外周面に圧接している。そして、遊星ギヤ5の回転に伴い、支持軸51の外周面がオイルシール52に対し摺動する。
【0034】
なお、各遊星ギヤ5、5の配置は、支持軸51に支持された状態で、太陽ギヤ形成部材4の太陽ギヤ41と噛合しない位置となっている。言い換えると、支持軸51の遊星キャリア3上での配置は、回転軸2との軸心間の距離が、太陽ギヤ41の半径と遊星ギヤ5の半径とを合せた寸法よりも大きくなる様な位置に設定されている。
【0035】
また、一対の支持軸61、61は、各々が中継ギヤ6を支持するためのものである。各支持軸61は、それによって支持される中継ギヤ6が太陽ギヤ41及び遊星ギヤ5の両ギヤに噛合する位置で、遊星キャリア3に形成された貫通孔31cに嵌挿されて支持されている。また、各支持軸61は、遊星キャリア3に対し回転不能に支持されており、中継ギヤ6が支持軸61に対し軸受を介して回転自在に支持されている。従って、中継ギヤ6も、、支持軸61を介して遊星キャリア3に対し回転自在に支持された状態となっている。
【0036】
これらの構成から成る遊星ギヤ機構では、遊星キャリア3が回転軸2の軸心を中心として回転駆動されることにより、回転軸2の軸心から偏心した位置で遊星キャリア3に支持された一対の遊星ギヤ5、5及び中継ギヤ6、6が、回転軸2の軸心周りを公転する。その際、各中継ギヤ6は太陽ギヤ41に噛合した状態で公転するため、その公転に伴い、支持軸61の軸心を中心として回転する。これにより、中継ギヤ6と噛合する遊星ギヤ5も中継ギヤ6の回転に伴って支持軸51を軸心を中心に回転(自転)する。その結果、遊星ギヤ5を相対回転不能に支持する支持軸51に取り付けられたボビンホルダBHは、遊星キャリア3の回転に伴い、回転軸2の軸心周りで公転しつつ自転する遊星運動を行う。
【0037】
前記の様にボビンホルダBHに遊星運動を行わせるために回転軸2を回転駆動する駆動機構として、図示の例では、図示しない織機の主軸(原動モータ)を駆動源として回転する駆動軸12の回転を回転軸2に伝達する機構を採用している。具体的には、回転軸2に対しその後端部に従動プーリ13が相対回転不能に組み付けられており、この従動プーリ13が駆動軸12上に設けられた駆動プーリ14とタイミングベルト16によって連結されている。従って、駆動軸12の回転が、駆動プーリ14、タイミングベルト16及び従動プーリ13を介して回転軸2へ伝達され、回転軸2が回転駆動されて遊星キャリア3が回転する。
【0038】
因みに、図示の駆動機構において、駆動軸12は、軸受ブッシュを介して支持ブラケット11を貫通している。また、駆動プーリ14は、割り締め構造によって駆動軸12の軸線方向における任意の位置で固定可能なプーリ支持部材14aを介して駆動軸12に取り付けられており、その回転軸心を駆動軸12の軸心に一致させた状態で設けられている。
【0039】
また、回転軸2は、先に述べた様に、ギヤカバー7を介して支持ブラケット11に固定された太陽ギヤ形成部材4に対し軸受を介して支持されているが、図示の構成では、駆動機構中の軸線方向における従動プーリ13の位置においても軸受により支持されている。
【0040】
詳しくは、従動プーリ13には、回転軸2に嵌め合わされる基部とタイミングベルト16が巻き掛けられる外周部との間に、後側に開口するリング状の溝13aが形成されており、一方で、支持ブラケット11の後端には、前側(プーリ側)へ延びる円筒部15aが形成された軸受ケース15が取り付けられている。また、軸受ケース15の円筒部15aは、軸受ケース15を支持ブラケット11に組み付けた状態において、従動プーリ13の溝13a内に侵入した状態となる。そして、軸受ケース15の円筒部15aの内周面と従動プーリ13の基部の外周面との間には軸受が介装されており、回転軸2を従動プーリ13を介して支持する構造となっている。
【0041】
更に、図示の遊星耳組装置1では、太陽ギヤ41、遊星ギヤ5、5及び中継ギヤ6、6から成るギヤ列19を潤滑するために、ギヤ列19が収容される空間を液密性が保たれた密閉空間とし、その収容空間RS内に潤滑用の油(機械油)MOを貯留してオイルバスを形成している。そして、図示の構成では、ギヤ列19を収容する空間(収容空間RS)は、主として遊星キャリア3及びギヤカバー7によって画定形成されている。
【0042】
ギヤカバー7は、貫通孔74に嵌め込まれた太陽ギヤ形成部材4の軸部42から半径方向へ放射状に拡がる円盤状の後部壁であって外周径が一対の遊星ギヤ5、5の歯端間距離よりも大きい後部壁71と、後部壁71の外周部から前方へ向かって延びる円筒状の外周壁72とを一体的に形成した構成となっている。更に、ギヤカバー7の外周壁72は、遊星キャリア3のフランジ部32の近傍まで延びると共に、ギヤ列19を超えた位置で拡径されており、小径部72aと大径部72bとを形成している。この様に、ギヤカバー7は、後面がほぼ閉塞されると共に前面が開放された円筒形状を為しており、外周壁72(小径部72a)でギヤ列19の外周を囲繞している。従って、ギヤ列19は、ギヤカバー7の後部壁71と外周壁72の小径部72aとで囲まれた空間内に収容された状態となっている。
【0043】
なお、ギヤカバー7自体には貫通孔74が形成されているが、この貫通孔74には太陽ギヤ形成部材4の軸部42が嵌挿されており、貫通孔74は太陽ギヤ形成部材4によって閉塞されている。また、太陽ギヤ形成部材4にも回転軸2が貫通すると共に軸受を介して回転軸2が支持される貫通孔44が形成されているが、貫通孔44においては、その後端部側において回転軸2との間隙にオイルシール46が介装されており、このオイルシール46によって貫通孔44における回転軸2周りの間隙が閉塞されて外部に対する密封性が保たれている。従って、収容空間RSは、貫通孔44と連通しているが、貫通孔44内の収容空間RS側の空間が外部に対し密閉されているため、結果として収容空間RSの密閉状態も保たれている
【0044】
また、前記収容空間RSについて、ギヤカバー7自体は前面が開放されているためにギヤカバー7のみによって画定される空間は前方に開放されたものとなっている。但し、図示の様に、ギヤカバー7の外周壁72で囲まれた領域内の前面側に遊星キャリア3が配置されるため、ギヤカバー7の前部の開放領域である大径部72bで囲まれた領域の大部分は遊星キャリア3によって閉塞されている。この様に、ギヤ列19を収容する収容空間RSは、ギヤカバー7における後部壁71の前面71aとそれに対向する遊星キャリア3における本体31の後面31fとの間の領域であってギヤカバー7の外周壁72の内周面73に囲まれた領域内の空間となる。
【0045】
なお、遊星キャリア3においても、ボビンホルダBH等を支持する支持軸51が貫通すると共に軸受を介して支持軸51が支持される貫通孔31bが形成されているが、この貫通孔31bも、前記貫通孔44と同様に、その前端部に設けられたオイルシール52によって支持軸51との間隙が閉塞されている。よって、収容空間RSの密閉状態は保たれている。また、回転軸2と回転軸2が嵌挿される遊星キャリア3の貫通孔31aとの間にはOリング等のシール部材が介装されており、両者間の隙間をシールしている。同様に、中継ギヤ6を支持する支持軸61が嵌挿される貫通孔31cと支持軸61の間にもOリング等のシール部材が介装されており、両者間の隙間をシールしている。
【0046】
更に、収容空間RSについて、その領域を外部に対し密閉状態とするため、遊星キャリア3とギヤカバー7との間の間隙に大径のオイルシール91が介装されている。すなわち、前記の様にギヤカバー7の内部領域内に遊星キャリア3を配置する場合において、遊星キャリア3は高速で回転駆動されるため、固定のギヤカバー7との間に間隙を形成しておく必要がある。そのため、収容空間RSは、遊星キャリア3とギヤカバー7との間の間隙によって外部と連通する状態となる。そこで、この間隙を閉塞して収容空間RSの密閉状態とすべく、図示の様に、遊星キャリア3とギヤカバー7との間の間隙、すなわち、遊星キャリア3の外周面31gとこの外周面31gを囲繞するギヤカバー7の外周壁72(大径部72b)の内周面73(73a)との間に接触式のシール部材であるオイルシール91を介装している。
【0047】
因みに、図示の構成では、ギヤカバー7は、その外周壁72のうちの遊星キャリア3を囲繞する部分が、ギヤ列19を囲繞する部分である小径部72aよりも径の大きい大径部72bとして形成されており、遊星キャリア3の外周面31gと外周壁72における遊星キャリア3を囲繞する部分(大径部72b)の内周面73aとの間の間隙を大きくする様に形成されている。そして、その様にして形成された空間にオイルシール91が介装されている。なお、このオイルシール91は、前述のオイルシール46、52と同様のものであり、ギヤカバー7の大径部72bの内周面73aに圧入固定され、内周面側のシールリップ部等が遊星キャリア3に圧接している。そして、遊星キャリア3は、その回転に伴って外周面がオイルシール91に対し摺動する。
【0048】
この様に、図示の遊星耳組装置1では、太陽ギヤ41、遊星ギヤ5、5及び中継ギヤ6、6から成るギヤ列19を収容する収容空間RSが、オイルシール91等で液密性が維持された密閉空間となっており、この収容空間RSに潤滑剤としての潤滑油(機械油)MOが貯留されてオイルバスが形成されている。なお、この潤滑油MOは、ギヤカバー7の外周壁72に設けられた給油口(図示せず)から給油される。
【0049】
そして、以上の様な構成による本実施例の遊星耳組装置1において、前記のオイルシール91が、本発明でいう抵抗付与部材に相当する。すなわち、オイルシール91は、遊星耳組装置1の固定部分(非回転部分)であるギヤカバー7の内周面73に対し、より詳しくは、遊星キャリア3の外周面31gと対向(対面)するギヤカバー7の外周壁72における大径部72bの内周面73に対し、その外周面において圧入固定されてギヤカバー7に対し相対回転不能に設けられており、更に、その内周面において回転体の一部である遊星キャリア3の外周面31gに対し全周に亘って当接(圧接)している。
【0050】
従って、遊星キャリア3が回転駆動されると、遊星キャリア3は、その外周面31gにおいてオイルシール91に対し摺動し、オイルシール91から受ける接圧力に応じた回転抵抗が付与された状態で回転する。これにより、駆動軸12の回転速度が1回転中において変動する場合であっても、それに起因する遊星キャリア3の回転振動が、オイルシール91による回転抵抗の付与によって抑制又は吸収されるため、遊星キャリア3の回転振動が原因で生じる前述のギヤの噛合部分での歯面同士の衝突が緩和される。
【0051】
また、図示の構成では、ボビンホルダBH等を支持する支持軸51に対してもオイルシール52が圧接される構成となっている。そして、このオイルシール52が、本発明でいう第2の抵抗付与部材に相当する。前述の様に、支持軸51は、遊星キャリア3に支持されていて遊星キャリア3に対し相対回転する。オイルシール52は、その外周面において遊星キャリア3の貫通孔31bに対し圧入固定されて遊星キャリア3に対し相対回転不能に設けられており、その内周面が支持軸51の外周面に対し全周に亘って圧接している。従って、支持軸51は、その回転時において外周面がオイルシール52と摺動し、オイルシール52から受ける接圧力に応じた回転抵抗が付与された状態で回転する。よって、前述の様なボビンホルダBHの遊星運動に起因して支持軸51に回転振動が発生し得る状態であったとしても、その回転振動がオイルシール52による回転抵抗の付与によって抑制又は吸収される。
【0052】
なお、図示の例では、回転軸2を支持する太陽ギヤ形成部材4の貫通孔44内において、前記のオイルシール52と同様に、回転軸2の外周面の全周に対しオイルシール46が圧接している。従って、回転軸2もオイルシール46との摺動によって回転抵抗を受けており、このオイルシール46も本発明でいう抵抗付与部材に相当するといえる。すなわち、この場合は、回転体の一部に相当する回転軸2に対しても抵抗付与部材が当接しているといえる。
【0053】
但し、回転軸2におけるオイルシール46との摺動部分は径が小さく、オイルシール91が摺接する遊星キャリア3の外周面31gと比べ、回転軸2の軸心から摺動面までの距離が小さい。従って、全周に亘る摺動面の面積は小さく、また、摺動抵抗による摺動トルク(抵抗トルク)は小さい。従って、抵抗付与部材であるオイルシール46によって回転軸2に対し付与できる回転抵抗は小さいが、この様な抵抗付与部材を備えない従来の技術との比較では、オイルシール46によっても遊星キャリア3の回転振動を抑制する効果があるといえる。
【0054】
なお、回転体と摺接する抵抗付与部材について、前記の回転軸2の様に径の小さい部分でも所望の回転抵抗を付与できる様に摩擦係数の高い部材を採用することも考えられる。しかし、その様なものでは、回転体との摺動に伴う摩耗が激しいものとなり、また、摺動に伴って発熱量が大きくなるため、抵抗付与部材自体が早期に破損してしまう。
【0055】
一方、オイルシール91については、径の大きい遊星キャリア3の外周面31gに対し全周に亘って摺接するものであるから、遊星キャリア3の回転中心から摺動面までの距離が大きく、且つ、摺動面の面積が大きいものとなっている。従って、遊星キャリア3の外周面31gとオイルシール91との摺動に伴って遊星キャリア3に作用する摺動抵抗(回転抵抗)による摺動トルクが大きいものとなり、遊星キャリア3の回転振動の抑制がより効果的に行われる。この様に、抵抗付与部材は、回転体に対し、外周面等のより広い範囲で当接するのが効果的であり、また、中心軸の軸心からより離間した位置で回転体に当接するのが効果的であるといえる。
【0056】
しかも、図示の例では、オイルバスを形成するためのオイルシール46、91が抵抗付与部材として機能するものであり、言い換えると、回転体と摺接する抵抗付与部材が、オイルバス化された収容空間RSに露出し、貯留された潤滑油MOもしくはギヤの回転によって掻き上げられて飛散する潤滑油MOに晒される構成となっている。その様な構成によれば、抵抗付与部材としてのオイルシール46、91に対しても潤滑油MOが供給されるため、回転体との摺動による摩耗や発熱が抑えられる。
【0057】
また、回転軸2に対し、遊星キャリア3とは別に、径の大きい円盤状の部材を相対回転不能に取り付け、この円盤状の部材の外周面に対し回転抵抗を付与する構成とすれば、遊星キャリア3の回転振動を抑制する機能については、遊星キャリア3の外周面31gに回転抵抗を付与する構成に近い効果が得られる。
【0058】
更に、図示の例で抵抗付与部材として用いられるオイルシール46、91は、半径方向に弾性変形可能なものであり、その様なオイルシール46、91が、回転軸2、遊星キャリア31に対し、半径方向への接圧力を作用させた状態で全周に亘って当接している。これらの構成によれば、前述の織機の振動に起因して遊星キャリア3に発生するラジアル振動がオイルシール46、91によって吸収されて抑制されるため、遊星キャリア3のラジアル振動に起因するボビンホルダBH等の破損を防止できる。この様に、抵抗付与部材としてのオイルシール46、91は、遊星キャリア3に対し回転抵抗を付与するのみならず、遊星キャリア3のラジアル振動を吸収して抑制する緩衝機能をも有している。特に、オイルシール91については、遊星キャリア3の外周面31gに当接しており、重量物であるボビンホルダBHにより近い位置で遊星キャリア3を支持するため、遊星キャリア3のラジアル振動を抑制する効果がより高いといえる。
【0059】
同様に、第2の抵抗付与部材として機能するオイルシール52についても、半径方向に弾性変形可能なものであり、支持軸51に対し半径方向への接圧力を作用させた状態で全周に亘って当接している。従って、オイルシール52も、ボビンホルダBHの遊星運動によって生じる支持軸51の半径方向への振動を抑制する緩衝機能を有している。
【0060】
以上で説明した実施例の遊星耳組装置1では、遊星キャリア3が回転軸に対し相対回転不能に支持され、回転軸を回転駆動することによって遊星キャリア3を回転させる構成としたが、本発明が適用される遊星耳組装置はこれに限定されず、図4、5に示すように、遊星キャリア3が直接的に回転駆動されるものであってもよい。なお、図4は、遊星耳組装置における遊星ギヤ機構及びその周辺部分のみを示す側面断面図であり、図5は、図4におけるC−C断面を矢印の方向に見た図である。
【0061】
図4、5に示す構成では、太陽ギヤ形成部材4は、太陽ギヤ41と中心軸線を一致させて太陽ギヤ41よりも前方に延在する軸部47を有している。そして、この軸部47に対し遊星キャリア3が軸受を介して回転自在に支持されている。すなわち、図示の構成では、固定の中心軸に対し遊星キャリア3が回転自在に支持されるものとなっている。従って、先の実施例と異なり、太陽ギヤ形成部材4には軸等が貫通される貫通孔は形成されていない。
【0062】
また、図示の構成では、遊星キャリアは、外周部にギヤ歯(歯部)が形成されたギヤの形態を為しており、キャリアギヤ33として形成されている。そして、このキャリアギヤ33には、そのギヤ部33aに対し、キャリアギヤ33を回転駆動するための駆動ギヤ17が噛合している。この駆動ギヤ17は、駆動軸12上に位置固定され、駆動軸12に対し相対回転不能に設けられている。
【0063】
ギヤカバー8は、先の実施例のギヤカバー7と同様に、太陽ギヤ形成部材4に対し一体的に組み付けられている。但し、図示の例では、ギヤカバー8は、その内部に前記のキャリアギヤ33と噛合する駆動ギヤ17をも収容するため、その後部壁81の一部が先の実施例のものと比べて下方へ延長されたものとなっている。そして、駆動軸12は、ギヤカバー8を貫通するかたちで延在している。従って、ギヤカバー8の後部壁81には、駆動軸12が貫通するための貫通孔81aが形成されており、この貫通孔81aの内周面と駆動軸12との間の間隙に、この間隙を閉塞するためのシール部材が介装されている。
【0064】
更に、ギヤカバー8は、後部壁81の外周部から前方に延びる外周壁82を有しており、この外周壁82が、キャリアギヤ33のギヤ部33aの前面を超えた位置にまで延びている。加えて、ギヤカバー8は、駆動ギヤ17を収容する空間の前面を覆う前部壁83を有している。この前部壁83は、外周壁82の内周面82aから駆動軸12とキャリアギヤ33との間までの範囲で、外周壁82によって囲まれた空間の前面を覆う様に形成されている。そして、この前部壁83にも、駆動軸12が貫通するための貫通孔83aが形成されており、貫通孔83aの内周面と駆動軸12との間の間隙にシール部材が介装されている。
【0065】
また、キャリアギヤ33には、ギヤ部33aの前面から突出する円筒部33bが、ギヤ部33aと一体的に形成されている。この円筒部33bは、その外周面33cがギヤ部33aの外周よりも内側に位置する様な外径寸法で形成されている。
【0066】
そして、ギヤカバー8の外周壁82とキャリアギヤ33の円筒部33bとの間には、接触式のシール部材であるオイルシール93が介装されている。詳しくは、ギヤカバー8の外周壁82は、前方へ向けてキャリアギヤ33のギヤ部33aを超えた位置まで延在しており、その内周面82aの先端部が、キャリアギヤ33における円筒部33bの外周面33cと対向している。そして、オイルシール93は、その外周面においてギヤカバー8における外周壁82の内周面82aの先端部に対し圧入固定され、内周面が円筒部33bの外周面33cに圧接した状態で設けられている。但し、駆動ギヤ17を収容するために後部壁81が延長された部分については、ギヤカバー8の外周壁82の先端部とキャリアギヤ33の円筒部33bとの間に前記の前部壁83が存在しており、オイルシール93は、この前部壁83の内側面83bと円筒部33bの外周面33cとの間に介装された状態となっている。
【0067】
この図4、5に示す構成によっても、太陽ギヤ41等から成るギヤ列19は、ギヤカバー8、太陽ギヤ形成部材4の軸部42及びキャリアギヤ33によって画定される収容空間RS内に収容されており、この収容空間RSは、ギヤカバー8とキャリアギヤ33との間の間隙に介装されたオイルシール93等によって外部との連通が遮断されて密閉空間となっている。その上で、この密閉状態の収容空間RSに潤滑油MOが貯留されてオイルバスが形成されている。そして、この構成の場合では、オイルシール93が、遊星キャリア(キャリアギヤ33)に対し回転抵抗を付与する抵抗付与部材として機能し、先の実施例におけるオイルシール91と同様に作用する。
【0068】
なお、図示の構成では、キャリアギヤ33における円筒部33bは、円筒部33bよりもギヤ列19側に位置するギヤ部33aよりも小さい径のものとして形成されており、ギヤ部33aの歯部先端よりも半径方向内側に位置する外周面33cに対しオイルシール93が圧接する構成となっている。但し、円筒部33bを、ギヤ部33aから前方へ離間した位置で拡径した形状としてギヤ部33a以上の外径を有する部分(大径部)が形成されたものとし、このギヤ部33aの外径(先の実施例における遊星キャリア3の本体31の外径に相当)以上の外径を持つ大径部の外周面に対し抵抗付与部材としてのオイルシール93を圧接させる構成とすることも可能である。そして、その様な構成とすれば、より径の大きい部分で、且つ、ボビンホルダBHにより近い位置で、遊星キャリアに対し抵抗付与部材を当接させることができ、遊星キャリアの回転振動やラジアル振動を抑制(吸収)する効果を高めることができる。
【0069】
なお、本発明は、以上の実施例で説明したものに限定されるものではなく、以下の様に変形させた態様でも実施することができる。
【0070】
(1)図4に示す構成について、円筒部33bをキャリアギヤ33の後面から突出させ、キャリアギヤ33のギヤ部33aよりも後側(例えば、ギヤ列19の外周周り)に抵抗付与部材としてのオイルシール93を配置することも可能である(図6)。更に、図6に点線で示す様に、ギヤカバー8の外周壁82が円筒部33bの半径方向内側に位置するものとし、キャリアギヤ33(円筒部33b)の内周面とギヤカバー8(外周壁82)の外周面との間にオイルシール93を介装することも可能である。
【0071】
この様に、本発明では、遊星キャリアに対し直接的に回転抵抗を付与する場合において、抵抗付与部材の軸線方向の位置は特に限定されず、また、遊星耳組装置1の固定部分と回転体との半径方向に対向する周面間に抵抗付与部材を介装する場合であっても、先の実施例の様に、遊星キャリアの外周面に抵抗付与部材が当接するものには限定されない。更に、先の実施例では、遊星耳組装置1の固定部分であるギヤカバー7(8)に対し抵抗付与部材であるオイルシール91(93)が固定され、抵抗付与部材と回転体とが相対回転して摺動するものとしたが、これに限らず、回転体側に抵抗付与部材が固定され、抵抗付与部材が固定部分に対し摺動する構成であってもよい。
【0072】
(2)先の実施例では、太陽ギヤ等から成るギヤ列を収容する収容空間をオイルバスとすべく、前記収容空間を液密性の保たれた密閉状態とするためのオイルシールが設けられた遊星耳組装置を例示し、そのオイルシールが抵抗付与部材あるいは第2の抵抗付与部材として機能する場合について述べたが、本発明が前提とする遊星耳組装置は、その様なオイルバス化された収容空間によってギヤ列を潤滑するものに限らず、ギヤ列がグリス潤滑されるものであってもよい。その場合は、オイルシールが省略されるため、別の抵抗付与部材を設けるようにすればよい。
【0073】
その場合の抵抗付与部材及び第2の抵抗付与部材としては、摺動抵抗が大きすぎて遊星キャリアの所望の回転が損なわれることなく、また、早期の摩損や高熱が発生した状態とならないようにするために、少なくとも摺動面が低摩擦係数の部材で形成されているものとするのが好ましい。因みに、その様な抵抗付与部材としては、例えば、フェルトや樹脂製のライナーベアリング材、あるいは砲金等で形成されたものが考えられる。
【0074】
そして、その様な低摩擦係数部材による部材を、遊星耳組装置の固定部分(非回転部分)又は回転体(遊星キャリア、回転軸等)の一方に取り付ける共に、他方に対し所望の接圧で摺接する様に設ければよい。例えば、先の実施例で説明した図1の遊星耳組装置1において、オイルシール91の代わりにフェルトを抵抗付与部材として用いる場合には、ギヤカバー7と遊星キャリア3との間の間隙を、用いられるフェルトの厚みよりも小さいものとし、ギヤカバー7の内周面又は遊星キャリア3の外周面にフェルトを貼着して遊星キャリア3に対し回転抵抗が付与されるものとすればよい。なお、この場合、ギヤカバー7と遊星キャリア3との間の間隙の半径方向の大きさは、抵抗付与部材として用いられるフェルトの厚みを考慮して設定すればよく、フェルトを厚さ方向に圧縮したときに生じる弾性力(接圧力)が、遊星キャリア3の回転時において所望の回転抵抗(摺動抵抗)を生じる大きさとなる様に設定すればよい。
【0075】
また、抵抗付与部材及び第2の抵抗付与部材は、先の実施例のオイルシールや前記のフェルトの様に、それ自身が弾性変形可能なものに限らず、前記のライナーベアリング材や砲金等を用いることも可能である。そして、その場合は、前記固定部分又は回転体の一方に対し、抵抗付与部材をバネあるいはゴム等の弾性部材を介して取り付け、前記一方に対し弾性的に変位可能な状態で支持されるものとして他方に圧接するように構成すればよい。
【0076】
(3)抵抗付与部材及び第2の抵抗付与部材は、先の実施例の様に回転体の周面(外周面又は内周面)に対し回転抵抗を付与する場合でも、前述のオイルシール等の様に、周面の全周に亘って当接する必要はなく、部分的に少なくとも1部分(1箇所)において回転体の周面と当接するものであればよい。また、抵抗付与部材は、必ずしも周面に当接させるものでなくてもよく、遊星キャリアの前面及び/又は後面に対し当接して回転抵抗を付与するものであってもよい。例えば、図1に示す遊星耳組装置において、遊星キャリア3のフランジ部32と該フランジ部32に対し軸線方向で対向するギヤカバー7の外周壁72の内面との間に抵抗付与部材を介装してもよい。
【0077】
なお、前記の様に、抵抗付与部材が1箇所のみで回転体に当接する構成であっても、前述のラジアル方向の振動を抑制する効果が得られる。すなわち、回転体に対し抵抗付与部材を弾性的に圧接させることにより、ラジアル振動のうちの少なくとも一部(1方向の振動成分)が抵抗付与部材によって吸収されて抑制されるため、その様な抵抗付与部材を備えない従来装置と比べてラジアル振動の抑制効果が高いといえる。
【0078】
しかし、織機の振動に起因する遊星キャリアのラジアル振動は、1方向のみの振動ではなく、筬打ち動作や開口運動による水平方向及び上下方向の振動によって複合的な振動を生じている。従って、より効果的にラジアル振動を抑制するためには、抵抗付与部材を、回転体の外周面に対し複数箇所で当接させるのが好ましく、回転体周りにおいて等間隔な配置で3箇所以上に設けるのがより好ましい。但し、特定方向の振動のみを抑制できればよいのであれば、その方向で中心軸を挟んで対向する2箇所に設けるだけでもよい。
【0079】
この様に、本発明の抵抗付与部材は、遊星キャリアの回転振動を抑制する効果だけでなく、遊星キャリアのラジアル振動を抑制する効果も奏する。従って、本発明における抵抗付与装置を、その様なラジアル振動の抑制効果のみを期待して装置することも可能である。
【0080】
(4)先の実施例では、抵抗付与部材が、固定部分又は回転体の一方に固定され、他方との相対回転に伴って他方と摺動するものとしたが、抵抗付与部材が固定部分及び回転体のいずれにも固定されない構成としてもよい。例えば、前記のフェルトの様な抵抗付与部材の場合には、固定部分及び回転体のいずれにも固定されずに両者に圧接した状態で両者間に介装され、回転体の回転に伴って両者に対し摺動するという構成も可能である。
【0081】
また、抵抗付与部材を、回転体の外周面に当接させて設けられた転動体であって回転体の回転に従動して回転する1以上の転動体(ローラ等)とすることもできる。詳しくは、回転体周りの所定位置において回転可能に設けられた転動体を回転体に対し滑動しない程度の接圧で当接させて設ける。それにより、回転体の回転に伴って転動体が従動的に回転されるため、この転動体を回転させる力が回転抵抗として回転体に作用することになる。なお、この転動体を半径方向に弾性変形可能なゴム製ローラ等とすることにより、前述のラジアル振動の抑制効果も得られる。
【0082】
(5)先の実施例では、駆動軸12が織機の主軸を駆動源とするものとしたが、本発明が適用される遊星耳組装置はこれに限定されず、駆動軸12が専用の駆動モータで駆動されるものであってもよい。また、先の実施例における回転軸2を直接的に専用の駆動モータで駆動するものであってもよい。なお、遊星耳組装置(回転体)が専用の駆動モータで駆動される場合であっても、その駆動モータは、単に一定速で回転駆動される訳ではなく、織機の他の装置の動作に合せるために、主軸の回転と同期する様に回転制御されるのが一般的である。従って、専用の駆動モータを駆動源とする遊星耳組装置においても、主軸を駆動源とするものと同様に、遊星キャリアにおいて回転振動が発生するため、本発明が有効に作用する。
【0083】
さらに、本発明は、以上で説明したいずれの実施形態にも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々に変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明が適用される遊星耳組装置の一実施形態を示す一部断面側面図
【図2】図1に示す遊星耳組装置のA−A断面による背面図
【図3】図2に示す遊星耳組装置要部のB−B断面による断面側面図
【図4】本発明による遊星耳組装置の他の実施形態の要部を示す一部断面側面図
【図5】図4のに示す遊星耳組装置要部のC−C断面による背面図
【図6】本発明による遊星耳組装置の他の実施形態の要部を示す一部断面側面図
【符号の説明】
【0085】
1 遊星耳組装置(遊星歯車式耳組装置)
12 駆動軸
13 従動プーリ
14 駆動プーリ
16 タイミングベルト
17 駆動ギヤ
19 ギヤ列
2 回転軸(中心軸)
3 遊星キャリア
32 フランジ部
33 キャリアギヤ(遊星キャリア)
33b 円筒部
4 太陽ギヤ形成部材
41 太陽ギヤ
42 軸部
43 フランジ部
46 オイルシール(抵抗付与部材)
5 遊星ギヤ
51 支持軸
52 オイルシール(第2の抵抗付与部材)
6 中継ギヤ
61 支持軸
7 ギヤカバー
8 ギヤカバー
91、93 オイルシール(抵抗付与部材)
RS 収容空間
MO 潤滑油


【特許請求の範囲】
【請求項1】
織機に用いられる遊星歯車式耳組装置であって、中心軸の軸心周りに回転自在に設けられた遊星キャリアであって前記中心軸の軸心に対する対称的な配置で一対の支持軸を回転自在に支持する円盤状の支持ディスクを含む遊星キャリアと、該遊星キャリアと同軸的に配置されて回転不能に設けられた太陽ギヤと、一端にボビンホルダが固定された前記一対の支持軸の各々の他端に取り付けられた遊星ギヤであって前記太陽ギヤと間接的に噛合する一対の遊星ギヤとを含む遊星歯車式耳組装置において、
前記中心軸の軸心を回転中心として回転する回転体であって前記遊星キャリアを含む回転体と当接して前記回転体に対し回転抵抗を付与する抵抗付与部材を備える、
ことを特徴とする織機における遊星歯車式耳組装置。
【請求項2】
前記抵抗付与部材は、前記回転体の外周面に対し2以上の箇所において前記回転体と当接する、
ことを特徴とする請求項1に記載の織機における遊星歯車式耳組装置。
【請求項3】
前記抵抗付与部材は、前記回転体の外周面に対し全周に亘って当接する、
ことを特徴とする請求項1に記載の織機における遊星歯車式耳組装置。
【請求項4】
前記支持軸に当接する第2の抵抗付与部材を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の織機における遊星耳組装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−31409(P2010−31409A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192516(P2008−192516)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000215109)津田駒工業株式会社 (226)
【Fターム(参考)】