説明

織機用部材およびその製造方法

【課題】各種の織機の付属部材として設置されている繊維(糸)の案内部品の長寿命化を達成し、これらの部品作業の低コスト化を図る技術を提案する。
【解決手段】鋼製基材として、下記の成分組成を有するステンレス鋼材を用いること、
[鋼中の(Cr+Mo)量−鋼中の(Ni+Cu)量]≧7mass%
そして、このステンレス鋼材をプラズマエッチング処理して活性化させ、かつその雰囲気中に炭化水素系ガスを導入し、かつ該基材を負の電位に設定した条件下で、炭素と水素を主成分とするアモルファス状の炭素水素固形物微粒子を気相析出させて、1.5〜10μmの厚さのDLC薄膜を被覆形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種繊維を織るための織機などにおいて用いられている筬やヘルド、ソード、バックリートなど、糸を案内するために用いられる部材およびそれの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
綿や毛などの天然繊維、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維、炭素繊維や高機能繊維のような新素材繊維などを織るための繊維機械、例えば織機や整形機などには、例えば筬(以下、「“おさ”」で示す)という部材が使われている。
【0003】
織機用部材の1つである前記“おさ”とは、織物の経糸を揃えたり、緯糸を押しつけたりして織り目を整えるために用いられる部品である。この“おさ”は、多数の金属薄板を0.5〜1mm程度の間隔にて平行に配列させるとともに、そのまわりを縁金と呼ばれる枠体で支持して構成したものである。こうした“おさ”については、一般に、ステンレス鋼製のものが用いられてきた。しかし、近年の“おさ”については、フィラメントと呼ばれる1〜2μm径の原糸を糊付けして糸にしたような新素材繊維が誕生するに至って、しかも、このような繊維を高速で走行させることから、次のような性能が求められている。
【0004】
(1)“おさ”の表面は、平滑で、高速走行する原糸との接触抵抗が少なく、耐摩耗性に優れていること、
(2)使用する原糸が、遠赤外線を利用して保温性を向上させたり、紫外線を利用して殺菌性を発揮させるためにCuOやTiOなどの超微粒子などを含むものである場合、これらの原糸に対しても、良好な耐摩耗性を有すること、
(3)原糸に含浸されている糊が付着しにくく、その糊が付着したとしても簡単に除去できるものであること、
(4)“おさ”の表面に付着した糊を除去するために実施する水洗、酸、アルカリ水溶液による洗浄などが行われても、常に健全な状態を維持できるものであること、
【0005】
従来、上記(1)〜(4)の性能を有する“おさ”の基材として、各種のステンレス鋼が採用されるとともに、その表面に各種の表面処理を施す提案がなされている。
【0006】
例えば、従来の代表的な“おさ”は、基材の表面に硬質クロムのめっきを施したものが一般的であったが、その後は、特許文献1、2に見られるように、基材の表面に、硬質で平滑なCr薄膜を形成したものも提案されている。さらに、近年では、基材表面に炭素と水素を主成分とする非晶質な「DLC」薄膜を被覆した“おさ”が開発され、平滑かつ硬質で原糸との摩擦抵抗が小さい上、酸やアルカリ水溶液にも腐食されない部材として、重用されている。
【0007】
ただし、このDLC薄膜は、密着性が悪いため、これをステンレス鋼製基材の表面に直接形成することはなかった。即ち、該ステンレス鋼基材の表面には、まず、CrやTi、Si、SiCなどからなる金属の膜(アンダーコート)をPVD法などによって形成することが一般的であった(特許文献3〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−245346号公報
【特許文献2】特開平11−029876号公報
【特許文献3】特開平6−060404号公報
【特許文献4】特開平9−105051号公報
【特許文献5】特開平10−037043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
織機用部品の1つである“おさ”の製造に関する前記の各従来技術は、次のような解決すべき課題が残されている。それは、
(1)長期にわたって優れた密着性と耐摩耗性とを示すDLC薄膜を、低コストで提供することができない。
(2)“おさ”基材表面に、電気めっき法やPVD法によって各種の金属や炭化物のアンダーコートを形成した上に、DLC薄膜を間接的に形成しているため、作業性や生産性が悪い。
(3)DLC薄膜自体の耐食性や耐久性が劣り、品質に不安が残る。
【0010】
しかも、前記アンダーコート薄膜の施工には、長い処理時間が必要で、Cr膜を電気めっき法で被覆するには、有害な6価クロムを多量に含むめっき液(通常、CrO250g/L、HSO2.5g/L)を使用することになるため、環境汚染の原因ともなっており、好ましい方法ではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従来技術が抱えている上述した課題を解決するための研究を行ったところ、発明者らは、有効な解決手段に結びつく次のような知見を得た。
(1)金属製“おさ”基材の表面に、もし、密着性に優れたDLC薄膜を直接形成することにした場合、従来技術では必須とされていたアンダーコートの施工を省略することができるようになり、生産コストの大幅な低減を図ることができる。
(2)“おさ”用基材の表面に対し、DLC薄膜を直接施工するには、基材の種類、即ち、鋼種の選定と、それの化学成分とその組成を所定の範囲にすることが不可欠である。
(3)選定された鋼種からなる“おさ”用基材の表面に対し、DLC薄膜を直接形成するには、前処理を行うことが有効である。この前処理とは、真空容器中において前記基材に負の電位を与えると共に、Ar、Heなどの不活性ガスをプラズマ状態にしてイオン化させ、このイオンを該基材表面に衝突させることにより、該基材表面の酸化膜を除去する処理を行うことが有効である。
(4)上記処理と共に、衝突面に原子論的規模の小さな凹みを付加して結晶面のみならず、結晶粒界を活性化させ、その後、同じ真空容器内に炭化水素系ガスを導入することによって、DLC薄膜を生成させるようにすることが好ましい。
【0012】
即ち、本発明は、研磨し、活性化処理した鋼製基材の表面に、直に、アモルファス状の炭素水素固形物の堆積膜を被覆形成してなることを特徴とする織機用部材を、上記の課題解決手段とする。
【0013】
また、本発明では、鋼製基材の表面を研磨して平滑面に仕上げ、次いで、その鋼製基材をArやHeなどの不活性ガス中において、該基材を負の電位に設定してプラズマエッチング処理を行うことにより、該基材表面を活性化させ、その後、同じ雰囲気中において該基材を負の電位に設定した上で炭化水素系ガスを供給し、かつ高周波の高電圧パルルをかけることにより、該基材表面に直接、炭素と水素とを主成分とするアモルファス状の炭素水素固形物微粒子を気相析出させることにより、これら微粒子の堆積層からなる皮膜(以下、この皮膜を単に「DLC薄膜」という)を形成することを特徴とする織機用部材の製造方法を、上記課題解決手段とする。
【0014】
本発明において、
(1)前記鋼製基材は、CrとMoの質量含有量の和が、同じ基材中に含まれるNiとCuの質量含有量の和よりも7質量%以上多く含まれているステンレス鋼を用いること、
(2)前記鋼製基材は、研磨面の表面粗さが、Ra≦0.5μm、Rz≦1.5μmで、圧力:0.1〜1.0Paの不活性ガス中でプラズマエッチングして活性化させた表面を有すること、
(3)前記炭素水素固形物堆積膜は、厚さが1.5〜10μmの範囲にあること、
(4)前記炭素水素固形物堆積膜は、この皮膜中に含まれる水素量が13〜22原子%で、残部が炭素からなり、硬さがHv:1000〜2700の範囲にあること、
がより好ましい解決手段である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、次のような効果が期待できる。
(1)“おさ”などとなる基材の表面に直接、DLC薄膜が被覆形成されているため、CrやTi、Si、WC、SiCなどからなるアンダーコートの施工が不要となる。そのため、アンダーコートの施工に必要な各種の装置、処理時間、経費、材料などが不要で、処理時間が短縮される。しかも、生産性が大幅に向上し、生産コストの低減効果に加え、省資源対策にもなる。
(2)アンダーコートの施工が省略できるため、従来、この処理のために行われてきた電気めっき、特にクロムめっきの施工(環境汚染成分として厳しく制限されている六価クロム水溶液(CrO)が使用されている)がなくなり、作業全体の安全性の向上、作業環境の向上をもたらすことができる。
(3)本発明において用いられるDLC薄膜は、Hvが1000〜2700と高く、かつ繊維との接触抵抗値が小さく、耐摩耗性に優れ、しかも密着性がよいため、強い曲げ変形などに対して十分な耐久性を示す。
(4)本発明において用いられるDLC薄膜は、水素含有が13〜22原子%で残部が炭素からなる気相析出微粒子からなるので、柔軟性を有し、使用中の“おさ”が変形した場合でも十分追随でき、また、酸、アルカリ水溶液に浸食されず、初期性能を長期間にわたって維持できるため、織機製品の生産コストの低減のみならず、織機製品の品質の向上に効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】“おさ”の表面にDLC薄膜を被覆形成する処理工程図である。
【図2】“おさ”用基材の表面粗さと、その上に形成したDLC薄膜の断面模式図であり、(a)はRzより薄い膜厚のDLC薄膜が形成された場合、(b)はRzより厚い膜厚のDLC薄膜が形成された場合である。
【図3】基材の表面にDLC薄膜を被覆形成するためのプラズマCVD装置の模式図である。
【図4】DLC薄膜の密着性を評価するためのスクラッチ疵と薄膜の剥離状態の異なる代表的な評価見本写真である。評価1が最も密着性のよいDLC薄膜、評価4が最も密着性の悪い薄膜の例である。
【図5】“おさ”用基材の耐摩耗性試験装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の説明は、織機用部材として、専ら筬(おさ)の例で述べるが、本発明はその“おさ”にのみ限られるものではない。
図1は、そのおさ“おさ”の基本となる基材の表面に直接、DLC薄膜を形成するという本発明方法の工程図である。以下、この図に従って本発明の構成を説明する。
【0018】
(1)“おさ”用基材の材質の選定;
本発明においてはまず、“おさ”本体とすべき基材の表面に、いわゆるアンダーコートなどの中間層を介在させることなく、DLC薄膜を直接形成するのに適した基材を選定することが重要である。即ち、金属製基材の表面に、直に、炭素と水素を主成分とするアモルファス状のDLC薄膜を、高い密着力をもって被覆形成するには、その金属製基材の化学成分や組成、特性などを検討することが重要である。
【0019】
本発明では、織機の付属部材としての前記“おさ”の使用環境を勘案したとき、基材としては、鉄鋼材料が有効であると考えた。そこで、多くの鋼種についてDLC薄膜を直に被覆して、その薄膜の密着性について調べた。その結果、鋼(基材)の化学成分とDLC薄膜の密着性との間には、次に示すような関係が成立することがわかった。
【0020】
(a)良好の密着性を示す金属成分:Cr、Mo、Nb、Ta、Si、W(C、C23
(b)密着性を阻害する金属成分:Ni、Cu
(c)含有量が少なく影響力の小さい金属および非金属成分:Mn、P、S
なお、(a)良好な密着性を示す金属成分として表示したC、C23は、金属成分ではないが、鋼中に含まれることが多い非金属成分であるので便宜上(a)に含めた。
【0021】
したがって、炭素鋼であっても、一般構造用鋼材(SS400)は、Cr、Moなどの成分を含んでいないため、この鋼材表面に直接被覆したDLC薄膜は密着性が悪い。一方、高炭素鋼材(SC480、SK140)などは、前者のSS400鋼に比較すると、密着力の大きいDLC薄膜の形成は可能であるものの、“おさ”のような薄板に加工することが困難であり、適材とは言えなかった。
【0022】
以上の結果から、“おさ”用の基材としては、鋼鉄製であることが望ましく、機械的性質、加工性、経済性、入手の難易度などを総合的に考慮すると、ステンレス鋼の使用が最も妥当であると考えられる。しかし、ステンレス鋼は、密着性向上成分としてのCrとMoを含む一方で、密着性を阻害するNiやCuも含むことが多いので、何らかの成分調整が必要になることがわかった。そこで、本発明では、基材鋼種、成分組成の決定に当っては、実施例1に示した実験結果などからも明らかになった次のような成分組成のものを使うことにした。
【0023】
即ち、本発明では、CrやMoなどのDLC薄膜の密着性向上させる成分の総和が、密着性阻害成分であるNiとCuとの和よりも、7mass%以上の割合で余分に含まれているステンレス鋼を、好適鋼種として使う。つまり、皮膜密着性向上のための有効性分量が7mass%以上ということである。なお、以下に述べる計算は、日本工業規格に記載されている化学成分を基準としたものであり、一定の成分範囲が示されている場合には、その中間値を用いた。
【0024】
(2)適合鋼種選定のための算出式;
有効成分量=鋼中の(Cr+Mo)量−鋼中の(Ni+Cu)量≧7mass%
上記有効成分量算出式を用いて、各種のステンレス鋼の化学成分量について、その有効成分量を求めた結果を、表1に示す。この結果から明らかなように、多量のCrを含むSUS310鋼であっても、Ni量が多い場合は不適合鋼種となり、また、Niを含まないSUS410鋼では、適合鋼種となるなど、ステンレス鋼の全てが一律に適合鋼種となる訳ではないことがわかった。
【0025】
【表1】

【0026】
なお、上記ステンレス鋼について、“おさ”用基材へのDLC薄膜の密着性に与える影響成分として、Cr、MoおよびNi、Cuにのみ着目しているが、その密着性についてはさらに、Nb、Ta、Si、Wなどの金属元素をはじめ各種金属炭化物の影響も考えられるが、これらの成分は含まれていないか、また含まれていてもその含有量が少ないため、これらの成分(金属元素と炭化物)は計算から除外した。
【0027】
(3)“おさ”の作製とその表面研磨;
選択したステンレス鋼基材から切り出しされた“おさ”は、次に、その表面を研磨する。“おさ”の寸法は、目的によって多少の違いはあるものの、幅:3〜10mm、長さ:80〜120mm、厚さ:0.1〜0.7mm程度の薄い板状のものである。この薄い鋼板をバレル研磨、自動バフ研磨などによって、鋼板の表面(両面)はもとより端部も研磨し、鋭角的な部分をなくすことが大切である。また、必要に応じて化学研磨や電解研磨を用いて鏡面に仕上げてもよい。
【0028】
本発明では、“おさ”用基材の表面を下記の粗さになるように研磨して仕上げることが好ましい。
算術平均粗さRa:0.5μm以下
十点平均粗さRz:1.5μm以下
【0029】
前記基材の表面粗さ値(Ra、Rz)を上記のように規制する理由は下記のとおりである。即ち、前記基材の研磨面を、触針式表面粗さ計で測定すると、Ra値、Rz値、Ry値などが容易に測定できるが、発明者らの実験によると、“おさ”用基材の表面の研磨面は、Ra値は常に小さく、Rz値は大きく出た。とくに、本発明が推奨する表面粗さ範囲内では、Rz値はRa値の4〜7倍以上に達するものが多かった。
【0030】
このようなRz値の高い研磨面を有する基材の表面に対し、DLC薄膜を被覆形成すると、図2に示すような状態となる。すなわち、“おさ”基材表面に形成されるDLC膜は、非常に薄い膜である。従って、研磨面上に実質的にRz値を決定づける凸部23をもつDLC膜24は、凸部25が露出したり、たとえ露出しない場合であっても、実質的な有効膜厚が得られないこととなる。このためDLC膜から露出した凸部は、原糸を切断したり、繊維を傷付けたりする原因になる他、有効膜厚の小さいDLC膜では、稼動中にDLC膜が僅かに摩耗しただけでも、凸部のみが露出して、原糸や繊維の損傷原因となる。なお、図2における21は基材、22はRaで示される粗さである。
【0031】
(4)基材表面の活性化(プラズマエッチング処理);
本発明では、研磨仕上げした“おさ”用基材の表面に対し、DLC薄膜を直に、被覆形成できるようにするために、活性化のための前処理としてプラズマエッチング処理を行う。“おさ”用基材に対してプラズマエッチング処理を行う方法としては、多くの技術があるが、本発明では、プラズマエッチング処理とDLC薄膜とを同一の装置を用いて行い得る、高周波−高電圧パルス重畳型のプラズマCVD法(以下、単に「プラズマCVD法」と呼ぶ)の利用が好適である。
【0032】
図3は、プラズマエッチング処理とDLC薄膜の形成が可能なプラズマCVD装置の略線図を示したものである。このプラズマCVD装置は、接地された反応容器31と、この反応容器内に高電圧パルスを印加するための高電圧パルス発生用電源34、被処理体(“おさ”用基材)32の周囲にArガスプラズマおよび炭化水素系ガスプラズマなどを発生させるためのプラズマ発生用電源35が配設されている他、導体33および被処理体に高電圧パルスおよび高周波電圧の両者を同時に印加するための重畳装置36が、高電圧パルス発生用電源34とプラズマ発生用電源35との間に介装配置されている。なお、導体および被処理体は、高電圧導入部39を介して重畳装置に接続されている。
【0033】
このプラズマCVD装置は、反応容器内にプラズマエッチング用のArやHeなどの不活性ガスおよびDLC薄膜形成用の各種炭化水素系ガスを導入するためのガス供給装置(図示せず)および反応容器を真空引きするための真空ポンプ(図示せず)が、それぞれバルブ37aおよび37bを介して反応容器に接続される。
【0034】
次に、このプラズマCVD装置を用いて、被処理体の表面をプラズマエッチング処理して活性化する方法と、その作用機構について説明する。先ず、被処理体を反応容器内の所定位置に設置し、真空装置を稼動させて該反応容器内の空気を排出して脱気した後、ガス供給装置によってArガスを該反応容器内に導入し、その圧力を0.1〜1.0Paに調整する。
【0035】
次いで、プラズマ発生用電源35から高周波電力を被処理体に印加すると、Arガス分子は電子を放出してArイオンを多量に発生する。なお、反応容器は、アース線38によって電気的に中性状態にあるため、被処理体は相対的に負の電位となり、正に帯電したArイオンは、負電位の被処理体の表面に衝撃的に衝突することとなる。この現象は、イオンボンバードメントと呼ばれ、発明者らの知見によれば、被処理体の表面のイオン衝突部では、DLC膜の密着性低下原因となる金属酸化膜(主としてCrの酸化膜)を原子論的規模で完全に除去され、活性化状態の被処理金属面が露出する。さらに詳しく説明すれば、プラズマエッチングに用いるAr分子の直径は約3.8×10−10mであり、電子の放出した状態のArイオンでは、さらに直径が小さくなる。しかも、これらのイオンが集団となって衝突する被処理体の表面は、原子論的規模で、酸化膜はもちろんのこと露出した金属面も限りなくミクロ的エッチング作用を継続的に受けることとなるので、“おさ”用基材の表面は完全に強い活性化状態となる。特に、本発明においては、DLC薄膜基材表面に直接、形成するために、“おさ”用基材中に比較的多くのCrが含有させているが、このCrは酸素との化学的親和力が極めて強く、空気に触れただけでも容易にCr酸化膜を生成し、DLC薄膜の密着性を阻害する作用があるため、前記プラズマエッチング処理の実施は、非常に重要なプロセスとなっている。
【0036】
とくに、このプラズマエッチングによる基材表面の活性処理では、該基材表面に存在する凸起部、具体的にはRzまたはRyで表示される粗さの先端部ほど強くエッチングされる傾向がある。この意味で基材表面の凸起部を消滅させたり、また、消滅させないまでも低くするのは効果がある。発明者らが、SUS410鋼製基材を用いて行った実験では、プラズマエッチング処理前後における基材表面の粗さは、次に示すようになっており、基材表面の活性化とともに、その平滑性についても効果が認められている。なお、この実験におけるエッチング時間は20分である。
プラズマエッチング処理前 Ra:0.09μm、Rz:0.28μm
プラズマエッチング処理後 Ra:0.09μm、Rz:0.16μm
【0037】
なお、ここではプラズマエッチング用ガスとしてArを用いた例について説明したが、HeやNガスをはじめ質量の小さい炭化水素系ガス、例えば、CH、Cなどの適用が可能である。特に、炭化水素系ガスを用いた場合には、“おさ”用基材の表面に、炭素成分が注入されることになるで、これがアンダーコートと同様の働きを示して、DLC薄膜の密着性向上に効果を示すのである。
【0038】
(5)DLC薄膜の被覆形成;
次に、プラズマエッチング処理を終了した後、被処理体を反応容器中に設置したままの状態で炭化水素ガスを容器中へ導入する。次いで、高電圧パルス発生装置からの高電圧パルス(負の高電圧パルス)を被処理体に印加すると、導入された炭化水素ガスの一部がプラズマ化し、その中のプラスイオンに帯電したものが、負の電位の被処理体の表面に誘引吸着され、その結果、最終的には炭素と水素を主成分とするアモルファス状の固形物からなるDLC薄膜が、被処理体の表面に気相析出することとなる。
【0039】
発明者らは、前記高電圧パルス発生装置を用いて被処理体表面に形成されたアモルファス状のDLC薄膜は、以下の(a)〜(d)のプロセスを経て形成されるものと考えている。
(a)導入された炭化水素ガスのイオン化(ラジカルと呼ばれる中性な粒子も存在する)がおこり、
(b)炭化水素系ガスから変化したイオンおよびラジカルは、負の電圧が印加されたキャリア本体42の表面に衝撃的に衝突し、
(c)衝突時のエネルギーによって、結合エネルギーの小さいC−H間が切断され、その後、活性化されたCとHが重合反応を繰り返して高分子化し、炭素と水素を主成分とするアモルファス状の炭素水素固形物を気相析出し、
(d)そして、上記(c)の反応が起こると、被処理体の表面には、アモルファス状炭素水素固形物微粒子の堆積層からなるDLC薄膜が形成されることになる。
【0040】
なお、本発明で用いる上記装置では、高電圧パルス発生用電源の出力を変化させることによって、活性化のためのプラズマエッチング処理やDLC薄膜形成処理のいずれかの処理を行うことができる。例えば、次のような出力とする。
(a)DLC薄膜のみを形成する処理の場合:数百V〜数KV
(b)プラズマエッチング処理を重点的に行う場合:数百V〜数十KV
また、高電圧パルスの発生は、次の条件とする。
(c)パルス幅:1μsec〜10msec
(d)パルス数:1〜複数回の繰返し可能
なお、プラズマ発生用電源における高周波電力の出力周波数は、数十KHz〜数GHzの範囲で変化させることができる。
【0041】
さらにDLC薄膜を被覆形成するために使用する成膜用の有機ガスの種類としては、炭素と水素を主成分とする次に示すような炭化水素系化合物からなるガスが好適に用いられる。
(イ)常温(18℃)で気相状態のもの
CH、CHCH、C、CHCHCH、CHCHCHCH
(ロ)常温で液相状態のもの
CH、CCHCH、C(CH、CH(CHCH、C12
Cl
【0042】
常温で気相状態の上記化合物は、そのままの状態で反応容器内へ導入し、液相状態のものは、これを加熱してガス化させ、そのガス(蒸気)を反応容器内に供給することによって、DLC薄膜を形成する。
【0043】
本発明で用いられるDLC薄膜の特性としては、適度の柔軟性と耐摩耗性とを兼ね備えることが必要である。これに関し、発明者らは、該薄膜の構成成分である炭素と水素の割合に注目して、種々の実験を行った。その結果、望ましいDLC薄膜は、水素含有量が13〜22原子%で、残部が炭素成分からなる成分組成にすることが有効であることがわかった。なお、水素と炭素の割合をこのように制御するには、前記炭化水素系ガス成分の炭素と水素含有量比を調整することによって果すことができる。
【0044】
(6)本発明で用いるDLC薄膜の特徴;
前記装置および処理方法によって、基材表面に形成する本発明に特有のDLC薄膜は、次のような特徴がある。
(a)本発明に特有な前記DLC薄膜によれば、Crを含む“おさ”用基材表面に対して直に、この薄膜を被覆形成するので、耐摩耗性と密着性に優れた“おさ”を製造することができる。
(b)本発明に特有のものであるDLC薄膜は、撥水性が良好である。そのため、繊維や原糸に付着している水溶性の糊が付着し難い上に、たとえその糊が付着したとしても容易に水洗して除去することができるので、環境汚染源となるアルカリ水溶液による洗浄が不要となる。
(c)本発明に特有のものであるDLC薄膜は、基材表面(エッチングされた金属面)に対し直に、形成されているため、DLC薄膜の気孔発生原因となる酸化膜が存在せず、薄膜の状態でも気孔がなく、酸、アルカリ性溶液中に浸漬しても、基材が腐食されたり、赤錆が発生するようなことがない。
(d)本発明に特有のものであるDLC薄膜は、柔軟性に加え、Hvが1000〜2700程度の硬さを有しているため、繊維や原糸と長期間にわたって接触しても摩耗することが少ない。なお、このような特徴を備えた本発明に特有のものであるDLC薄膜は、“おさ”基材の表面に、1.5〜10μmの厚さに被覆形成するのがよい。その理由は、1.5μm未満の厚さでは、“おさ”としての耐用期間が十分に得られないし、一方で、10μm以上厚くしても、上記の性能が格段に向上するものでないので経済的に得策でない。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
この実施例では、好適な基材の条件を探るため、化学成分の異なる鋼、非鉄金属およびその他の金属皮膜を供試体として、それぞれの表面に被覆形成したDLC薄膜の密着性をスクラッチ試験によって評価した。
【0046】
(1)供試試験片
供試基材として、下記の金属材料および金属表面処理膜を用いた。
(a)鋼基材:SS400鋼、STBA24鋼、STBA26鋼、SUS304鋼、SUS316鋼、SUS310鋼、SUS329JI鋼、SUS405鋼、SUS430鋼
(b)非鉄金属基材:NCF600、NW2200、C1200
(c)電気めっき基材:SS400鋼上にCrめっき膜100μm厚に施工
(d)PVD被覆基材:SUS304鋼上にMo、Nb、Ta、Si、Wを2μm厚に形成
なお、基材の寸法は、幅15mm×長さ30mm×厚さ1mmであり、上記鋼鉄および非金属材料の記号は、すべてJIS規定のものである。
【0047】
(2)DLC薄膜の形成方法
前記供試基材の表面には、プラズマエッチング処理後、プラズマCVD法によって、その表面に2μm厚さのDLC薄膜を被覆形成した。
【0048】
(3)スクラッチ試験方法
スクラッチ試験はISO20502に規定されているセラミック薄膜の密着性を評価するための試験方法に準じて行った。
【0049】
(4)評価方法
試験後、ダイヤモンド針によって、疵をつけられたDLC薄膜の表面は、拡大鏡で観察した結果から、代表的なスクラッチ疵の発生状況を図4に示す写真で記録し、1から4までの評価基準を作成して、DLC薄膜の密着性を判定した。
【0050】
(5)試験結果
試験結果を表2に要約した。この表には、供試基材の化学成分量から計算した有効成分(Cr含量)とともに、スクラッチ試験の評価値を一括してまとめた。
この結果から明らかなように、Cr、Mo、Nb、Ta、Si、Wなどの金属薄膜上に形成したDLC薄膜(No.13〜18)の密着性は極めて良好であり、微小な剥離も観察されなかった。一方、Ni、Cuを多量に含む非鉄合金基材上に形成したDLC薄膜(No.10〜12)の密着性評価は4に属し、スクラッチ疵の周辺において大きな剥離が発生した。また、鋼基材であっても、SS400鋼(No.1)、STBA24鋼(No.2)ではDLC薄膜の密着性は比較的低い(評価3)。これに対して、有効成分量が7mass%以上である鋼種(No.3〜5、7〜9)では、スクラッチ疵の周囲に微小な剥離が認められる程度であり、実用上十分な強度の密着強さを有することが認められた(評価2)。ただSUS310鋼基材(No.6)表面のDLC薄膜の密着性は、前者に比較するとやや低く評価3と判断された。
【0051】
以上の結果から、本発明ではDLC薄膜を直接被覆形成するための基材質を鉄鋼系材料に限定した場合、その基材の化学成分含有量から下記の式によって算出される有効成分量が7mass%以上の鋼種が適合材になることがわかった。
有効成分量=鋼中の(Cr+Mo)量−鋼中の(Ni+Cu)量=7mass%
【0052】
【表2】

【0053】
(実施例2)
この実施例では、前記有効成分量が7mass%以上であるステンレス鋼(SUS304鋼)基材の表面に、水素含有量の異なるDLC薄膜を形成し、その水素含有量と基材の曲げ変形に対する抵抗および耐食性の変化について調査し、DLC薄膜の好適水素含有量を解明する。
【0054】
(1)供試基材およびDLC薄膜の性状
供試試験片は、ステンレス鋼(SUS304鋼)とし、この基材から寸法:幅15mm×長さ70mm×厚さ1.8mmの試験片を作製した。その後、この試験片の全面をRa:0.08μm、Rz:0.09μmに研磨し、この研磨面に対し、プラズマエッチング処理後、水素含有量が5〜32原子%で、残部が炭素成分であるDLC薄膜を、3.0μm厚さに被覆形成した。
【0055】
(2)試験方法およびその条件
DLC薄膜を形成した試験片の中心から180°に曲げ変形を与え(Uベンド形状)、曲げ部のDLC薄膜の外観状況を20倍の拡大鏡で観察した。また、その観察後の曲げ試験後の試験片をpH(水素イオン濃度)12に調節したNaOH水溶液に20℃の温度で96時間浸漬して、DLC薄膜と基材の耐アルカリ性を調べた。また、耐酸性試験として、曲げ試験片を5%HCl水溶液中に20℃の条件で96時間浸漬し、薄膜と酸水溶液の変化を観察した。
【0056】
(3)試験結果
表3に試験結果を要約した。この試験結果から明らかなように、水素含有量の少ないDLC薄膜は(No.1、2、3)は、180°の変形を与えるとクラックを発生したり、微小な面積であるが、局所的に薄膜の剥離らしき個所が観察された。これらのDLC薄膜は柔軟性に乏しいことがうかがえる。一方、曲げ試験後の試験片をPH12のアルカリ水溶液に浸漬しても、全くの供試試験片は変化することなく、浸漬前の状態を維持しており、耐アルカリ性については、十分な抵抗力を有していることが確認された。また、5%HCl中に浸漬した試験片では、水素含有量13原子%以下(No.3)のDLC薄膜のみ、浸漬した5%HCl水溶液が無色から淡い黄色に変化した。この変色は、曲げ変形時に発生したDLC薄膜の欠陥部から、HCl水溶液が内部へ浸入し、SUS304鋼を浸食した結果であると推定される。水素含有量15原子%〜32原子%のDLC薄膜(No.4〜7)には、全く異常は認められず、耐酸性にも優れた性能を発揮した。しかし、水素含有量の多いDLC薄膜(No.7)ほど軟質化するとともに、品質管理が困難となり、耐摩耗性の低下を危惧されるので、本発明では、水素含有量13〜22原子%の範囲にすることが有効であることが確められた。
【0057】
【表3】

【0058】
(実施例3)
この実施例では、SUS410鋼(Cr:11.50〜13.50mass%、有効成分量≦7mass%)基材の表面粗さと、その表面に被覆形成したDLC薄膜の耐食性について調査した。
【0059】
(1)供試基材
供試基材として、幅15mm×長さ30mm×厚さ2μmのSUS410鋼試験片を作製した後、その表面を下記の粗さに研磨したものを準備した。
Ra:0.05〜1.1μm Ra:0.09〜4.8μm
【0060】
(2)DLC薄膜の形成方法と膜厚
DLC薄膜の形成には、前記プラズマCVD法を用い、0.2〜10μm厚のDLC薄膜を被覆形成したが、成膜に際する前処理としてのプラズマエッチング処理の有無の影響についても評価できるようにした。
【0061】
(3)耐食性試験方法
DLC薄膜を被覆形成した試験片を18℃の3%HCl水溶液中に100時間浸漬させた後、これを軽く水洗し、その後、さらにこの試験片を20℃の室温で24時間放置した。この操作によって試験片の表面に発生する赤錆の有無によって、耐食性を評価した。本試験において、酸浸漬後水洗し、さらに室内に放置したのは、酸浸漬のみの場合に比較すると、DLC薄膜に欠陥が存在すると、赤錆の発生が明瞭にみとめられるからである。
【0062】
(4)試験結果
試験結果を表4に要約した。DLC薄膜の耐食性を基材表面の粗さと、プラズマエッチング処理の有無の組合せから評価すると、下記のとおりである。
(a)一般に、プラズマエッチング処理を施した基材表面に形成したDLC薄膜は、プラズマエッチング処理をしない場合に比較して、耐食性に優れた皮膜を形成する。
(b)表面粗さの小さい基材表面に形成したDLC薄膜は、表面粗さの大きい基材表面に形成した皮膜に比較して耐食性に優れている。即ち、欠陥の少ないDLC薄膜が形成され易いといえる。
(c)同一厚さのDLC薄膜の耐食性は、表面粗さが小さく、かつプラズマエッチング処理を施した条件のものが最も良好である。
(d)以上の試験結果から、基材表面の粗さをRa:0.05〜0.5μm、Rz:0.09〜1.5μmの範囲にすれば、プラズマエッチング処理施工条件下のもとで、DLC薄膜の厚さが0.5〜10μmの範囲内において、耐食性に優れたDLC薄膜を選択することが可能であることがわかった。
【0063】
【表4】

【0064】
(実施例4)
この実施例では、SUS410鋼基材の表面に被覆形成するDLC薄膜の密着性と、前処理としてのプラズマエッチング処理の効果について調査した。
【0065】
(1)供試基材
供試基材として実施例1記載のSUS410鋼と同じものを供試した。
(2)DLC薄膜の形成方法と膜厚
実施例1と同じ方法で薄膜を形成し、膜厚に2μmとした。
(3)DLC薄膜の密着性試験方法
実施例1で実施したISO20502に規定されているスクラッチ試験によってDLC薄膜の密着性を評価した。
(4)試験結果
試験結果を表5に示した。この結果から明らかなよう、供試したDLC薄膜の密着性は、図4に示したスクラッチ疵とその周辺で発生する局部的なDLC薄膜の剥離状況からの判定によると、評価2と評価4に分類することができる。しかし、プラズマエッチングの前処理を施した試験片表面に形成した薄膜の密着性評価は、膜厚が大きくなっても評価2を維持しているのに対して、前処理をしない場合の密着性の評価は、膜厚が大きくなると、評価3および4となり、密着性が低下する傾向が認められる。この原因は、DLC薄膜が厚くなるほど、皮膜に発生する残留応力が大きくなるため、僅かなスクラッチ疵の発生によっても薄膜の残留応力が開放され、これにともなって、微小な剥離が誘発されたものと考えられる。
【0066】
【表5】

【0067】
(実施例5)
この実施例では、本発明に係るDLC薄膜を含む3種類の表面処理膜を形成した“おさ”の表面に対して、合金繊維の糸を接触させながら、高速度で走らせ皮膜の耐久性を調査した。
【0068】
(1)供試試験片および表面処理皮膜
SUS410鋼製の“おさ”(寸法:幅6mm×長さ90mm×厚さ0.5mm)の表面に、本発明に適合するDLC薄膜を2.0μmの厚さに被覆したものを準備した。このDLC薄膜の水素含有量は14原子%で残部が炭素であり、また、その硬さはHv=2050であった。
なお、比較用の表面処理皮膜として、下記の皮膜を“おさ”の全面に被覆形成した。
(a)電気Crめっき膜(厚さ5μm)
(b)化学緻密化法によるCr膜(厚さ3μm)
【0069】
図5に試験方法の概要を示した。表面処理膜を形成した“おさ”51が表面に糸52が接触するように、糸巻53から他方の駆動用糸巻54の設置点を少し下方に設け、糸巻54を高速度で回転させることによって、皮膜の耐摩耗性を評価した。なお、糸の走行速度は毎分100mm、糸の材質はポリエステル系(テトロン)であり、3時間試験を行った。
【0070】
(3)試験結果
試験終了後の“おさ”の表面状態を20倍の拡大鏡を用いて観察した結果、比較例の電気めっきCr膜の表面では、糸と接触した皮膜では、すでに窪みが明瞭に確認され、また、Cr膜においても、凹部の形成跡が観察された。しかし、本発明に係るDLC薄膜の表面では異常は認められず、健全な状態を維持していた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る織機用部材およびその製造方法の技術は、綿、絹などの天然糸をはじめ、羊毛、合成繊維などの織機部品に限定されず、釣糸、麻、ジュートなどの繊維、網などを製造するときにおいても有効である。さらに、軟質の銅、アルミニウムなどの金属線を含む新素材繊維の織物用としても使用することができる。
【符号の説明】
【0072】
21 “おさ”基材
22 Raで表示される粗さ
23 Rzで表示される粗さ
24 DLC薄膜
25 DLC薄膜で被覆できなったRzで表示される粗さの凸部
31 反応容器
32 被処理体(“おさ”基材)
33 導体
34 高電圧パルス発生用電源
35 プラズマ発生用電源
36 重畳装置
37a、37b バルブ
38 アース線
39 高電圧導入端子
51 試験用の“おさ”
52 試験用の糸
53 糸巻
54 駆動用の糸巻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨し、活性化処理した鋼製基材の表面に、直に、アモルファス状の炭素水素固形物の堆積膜を被覆形成してなることを特徴とする織機用部材。
【請求項2】
前記鋼製基材は、CrとMoの質量含有量の和が、同じ基材中に含まれるNiとCuの質量含有量の和よりも7質量%以上多く含まれているステンレス鋼を用いることを特徴とする請求項1に記載の織機用部材。
【請求項3】
前記鋼製基材は、研磨面の表面粗さが、Ra≦0.5μm、Rz≦1.5μmで、圧力:0.1〜1.0Paの不活性ガス中でプラズマエッチングして活性化させた表面を有することを特徴とする請求項1または2に記載の織機用部材。
【請求項4】
前記炭素水素固形物堆積膜は、厚さが1.5〜10μmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の織機用部材。
【請求項5】
前記炭素水素固形物堆積膜は、この皮膜中に含まれる水素量が13〜22原子%で、残部が炭素からなり、硬さがHv:1000〜2700の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の織機用部材。
【請求項6】
鋼製基材の表面を研磨して平滑面に仕上げ、次いで、その鋼製基材を不活性ガス中において、該基材を負の電位に設定してプラズマエッチング処理を行うことにより、該基材表面を活性化させ、その後、同じ雰囲気中において該基材を負の電位に設定した上で炭化水素系ガスを供給し、かつ高周波の高電圧パルルをかけることにより、該基材表面に直接、炭素と水素とを主成分とするアモルファス状の炭素水素固形物微粒子を気相析出させることにより、これら微粒子の堆積層からなる皮膜を形成することを特徴とする織機用部材の製造方法。
【請求項7】
前記鋼製基材は、CrとMoの質量含有量の和が、同じ基材中に含まれるNiとCuの質量含有量の和よりも7質量%以上多く含まれているステンレス鋼を用いることを特徴とする請求項6に記載の織機用部材の製造方法。
【請求項8】
前記炭素水素固形物堆積膜は、厚さが1.5〜10μmの範囲にあることを特徴とする請求項6または7に記載の織機用部材の製造方法。
【請求項9】
前記炭素水素固形物堆積膜は、この皮膜中に含まれる水素量が13〜22原子%で、残部が炭素からなり、硬さがHv:1000〜2700の範囲にあることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1に記載の織機用部材の製造方法。
【請求項10】
前記鋼製基材は、研磨面の表面粗さが、Ra≦0.5μm、Rz≦1.5μmで、圧力:0.1〜1.0Paの不活性ガス中でプラズマエッチングして活性化させた表面を有することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1に記載の織機用部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−242227(P2010−242227A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88747(P2009−88747)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【Fターム(参考)】