説明

織物およびそれを用いてなる衣服

【課題】全方向で優れた導電性能を発現する織物を提供し、かつその織物を縫合して、衣服全体で導通性のある導電性衣服を提供する。
【解決手段】導電糸が経方向および緯方向のそれぞれに挿入され格子状に間隔をあけて配列された織物であって、経方向および緯方向の導電糸の少なくとも一方が二重組織として挿入され浮糸となっており、二重組織で導電糸が浮糸となっている面において、二重組織として挿入された導電糸1の、直交する非導電糸に被覆されずに露出している割合(二重組織部の導電糸露出率)の相加平均が50%以上、かつ経方向および緯方向の導電糸が互いに交差して接触する割合(導電糸交差接触率)の相加平均が40%以上である織物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた表面導通性および制電性を有する織物並びにこの織物を縫合してなる衣服に関するものである。さらに詳しくは、衣服の縫い目を挟む全領域にわたり表面導通性を有し、静電気拡散性に優れた織物およびそれを用いてなる衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より導電性衣服は、静電気が障害となる部品・薬品を扱う作業場やクリーンルームにおいて、静電気吸塵を防ぐために用いられてきた。導電性衣服は、静電気対策のために導電糸が衣服内に織り込まれている。例えば、導電糸が一定間隔でストライプ状や格子状に織り込まれ、静電気をコロナ放電によって中和することによって静電気吸塵を防止している。導電糸は一般的に、黒あるいは灰色に着色されている場合が多く、そのため、審美性の観点から、衣服裏面に導電糸を多く露出させたものが特許文献1に記載されている。しかし、この方法においては衣服外側の表面電気抵抗値が高く、かつ衣服内で発生した静電気を衣服の外側に拡散させる効率が悪くなる。
【0003】
近年、静電気管理の要求特性としてIEC(国際電気標準会議)61340−5−1,5−2において導電性衣服の表面抵抗値の規定がなされており、衣服全体にわたる表面導通性が要求されている。衣服全領域で導通性を高めるためには、布帛の斜め方向の導通性は勿論のこと、縫い目を挟んだ導通性もが必要とされる。この場合、導電糸を異方向間で接触するように格子状に織り込み、かつ生地の縫合部でも導電糸を互いに接触させることが必要となる。非導電糸との合糸、撚糸または混繊で導電糸にした場合、導電糸の表面に非導電糸を配置すると他方向の導電糸との導通性が形成されない。つまり、導通性を上げるためには導電糸の混率を増加させなければならず、これに伴う製造コストの増加が避けられなかった。
【0004】
また、導電糸を非導電糸の周りにカバーリングさせることにより他方向の導電糸との導通性を向上させたものが特許文献2に記載されているが、これも同様にカバーリング糸の加工コストとしての課題が残る。
【特許文献1】特開2001−73207号公報
【特許文献2】特許第3880743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑み、全方向で優れた表面導電性能を発現する織物を提供すること、そして、その織物を縫合して、衣服全体で表面導通性があり、静電気を素早く空気中に拡散させることができる導電性の衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記した課題を解消するために、次の構成を有するものである。
(1)導電糸が経方向および緯方向のそれぞれに挿入され格子状に間隔をあけて配列された織物であって、経方向および緯方向の導電糸の少なくとも一方が二重組織として挿入され浮糸となっており、二重組織で導電糸が浮糸となっている面において、二重組織として挿入された導電糸の、直交する非導電糸に被覆されずに露出している割合(二重組織部の導電糸露出率)の相加平均が50%以上、かつ経方向および緯方向の導電糸が互いに交差して接触する割合(導電糸交差接触率)の相加平均が40%以上である織物。
(2)地組織が非導電糸であり、二重組織として挿入された導電糸の糸条総繊度D1と、同方向の地組織を形成している非導電糸の糸条総繊度D2とが、以下の関係を満たす、前記(1)に記載の織物。
D1<D2 [D1:二重組織として挿入された導電糸の糸条総繊度(dtex)、
D2:二重組織として挿入された導電糸と同方向の地組織を形成する非導電糸の糸条総繊度(dtex)]
(3)格子状に間隔をあけて配列された導電糸のピッチが経方向、緯方向ともに1〜20mmの範囲内である、前記(1)または(2)に記載の織物。
(4)IEC(国際電気標準会議)61340−5−1,5−2に記載の方法(、23℃・25%RH環境下)で測定した、少なくとも縫い目を1つ挟む30cm離れた2点間の表面抵抗値(R)が、以下の式を満たす、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の織物。
R≦1.0×1012Ω
(5)導電糸を構成する単繊維は、円形断面または凸部を有する異形断面を有するとともに、導電性成分が外周面の周方向に3カ所以上かつ長手方向に連続して露出している、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の織物。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の織物を用いてなる衣服であって、導電糸が二重組織として挿入され浮糸となっている面を衣服表側とした衣服。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、全方向で優れた表面導電性能を発現する織物が得られ、かつ当該織物を縫合することで、衣服全体で表面導通性の高い導電性の衣服を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の織物は、導電性を発現するという目的からすれば導電糸のみから構成されてもよいが、安価に導電性を発現させるためには非導電糸と導電糸から構成されることが好ましい。
【0009】
本発明の織物に使用される非導電糸としては、合成繊維や天然繊維、すなわち、ポリエステル、ナイロンなどのフィラメント糸や紡績糸、ポリエステルやナイロンなどのステープルとレーヨンステープル、綿繊維などとの混紡糸、さらに、親水性ポリマーをブレンドしたり、親水基を導入した制電性ポリエステルフィラメント糸や制電性ナイロン糸などが好ましく用いられる。
【0010】
本発明の織物に用いる導電糸とは、導電性成分を含んでいる繊維であればよく、例えば金属被覆繊維や、繊維基質となるポリエステルやポリアミド系の非導電性ベースポリマーと、カーボンもしくは金属や金属化合物などの導電性微粒子、または、白色導電性セラミックス微粒子などとを複合紡糸で含有させた導電繊維からなる糸もしくはこれらの導電繊維を含む糸のことである。本発明においては、酸やアルカリ環境下における耐久性や洗濯耐久性の面で、カーボンを導電性成分とする導電糸が好ましい。
【0011】
また、導電成分を繊維に複合させる手法として、芯鞘・被覆・部分表面露出型などの繊維とする方法がある。清浄度の高いクリーンルーム用防塵衣として使用する場合、導電性成分で芯糸を被覆した被覆型導電性繊維や導電性成分が表面に一部露出した部分表面露出型繊維は、導電性成分が発塵し、作業場の汚染に繋がることがあるので、導電性成分を内包した芯鞘型繊維が好適に用いられる。一方、それほど高清浄度を必要とされない作業場においては、前記部分表面露出型繊維を用いることで、表面電気抵抗値のより低い布帛を得ることができる。
【0012】
部分表面露出型繊維としては、繊維を構成する単糸の断面において周方向に導電成分が部分的に露出し、かつ単糸の長手方向にその露出した導電成分が連続して露出している繊維をいう。なかでも、表面抵抗値を低下させるという点からは、図2(a)に示すような円形断面または図2(b)に示すような凸部を有する異形断面の単繊維からなる導電糸であって、該単繊維の外周面に、導電性成分が周方向に3カ所以上かつ長手方向に連続して露出しているものが好ましい。なお、異型断面糸の場合は、導電成分が周方向の凸部に露出していることが好ましい。
【0013】
さらに、これらの導電性成分を含む繊維と、合成繊維若しくは天然繊維とを、合糸、撚糸、または混繊し、本発明における導電糸とすることもできる。
【0014】
導電糸の形態としては、短繊維を用いることができるが、その場合、単繊維間の電気抵抗が増大するため、非導電糸との混用ではなく導電糸単独で用いるのが好ましい。より好ましくは、導電糸を長繊維とするものであり、単繊維間の電気抵抗の増大を最小限に抑えることが可能となる。
【0015】
導電糸は、例えば単繊維繊度が1〜10dtex、総繊度が10〜150dtexのものが用いられる。また、導電糸の電気抵抗値は、10Ω/cm以下、特に10Ω/cm以下が好ましい。かかる電気抵抗値は、導電性成分を表面の一部に露出させることで、容易に達成することができる。なお、導電糸の電気抵抗値は、20℃,30%RH環境下において、10cmにフィラメントカットした両端に電圧を印可(この場合は500Vとした)したときの比抵抗のことである。
【0016】
本発明の織物は、上記した導電糸を経方向および緯方向に挿入することで格子状に間隔をあけて配列した織物である。導電糸は経方向または緯方向の一方、もしくはその両方に二重組織で組み込み、同方向の地組織を構成する地糸(通常は非導電糸)の上(裏面側では下)に配置させる。つまり二重組織で導電糸を織物上に浮糸として露出させ、地組織よりも突出した形態とする。こうすることで、織物表面への導電糸の露出面積が増加し、かつ他方向の導電糸との接触性が向上し、静電気の中和・拡散が容易となる。なお、導電糸を同方向の非導電糸(地糸)の上(または下)に配置せずに、同方向の非導電糸同士の間に配置すると、導電糸が地糸(非導電糸)に埋まり、かつ直交する導電糸との接触性が低下するために静電気の中和・拡散が不充分となる。
【0017】
本願発明においては、以上のようにして導電糸を織物表面へ露出させるが、二重組織で織物に組み込む導電糸は、二重組織部の導電糸露出率が相加平均で50%以上となるようにするのが好ましい。さらに好ましくは70%以上である。
【0018】
ここで言う二重組織部の導電糸露出率とは、導電糸条Aを二重組織で挿入し浮糸とした面を上面から見た時の、二重組織として挿入された導電糸条Aの総面積に対する、該導電糸条Aの、浮糸となり、かつ、直交する非導電糸条に被覆されずに露出している部分の面積の割合である。なお、「二重組織として挿入された導電糸条Aの総面積」とは、導電糸条Aの幅と該導電糸条Aの長さの積であって、直交する別の糸条によって表面に露出していないような部分も当該面積に含まれる。また、ここでいう導電糸条Aの「直交する非導電糸に被覆されずに露出している部分」に、直交する導電糸条に被覆された部分は含まれ、一方、前記導電糸条Aの一部であっても、浮糸となっていない部分、すなわち地組織である非導電糸の上に配置されずに非導電糸の横に転がり落ちた配置をとっているような部分は含まれない。
【0019】
なお、本発明においては、二重組織で挿入した導電糸の長手方向2.54cm(1インチ)当たりの導電糸露出率を算出する。また、ランダムに抽出した5箇所の該導電糸露出率から相加平均を算出する。ここでいう相加平均とは、データの数値を全て足しあわせて、データ数(n数)で除することにより求められる。従って、5箇所の該導電糸露出率の値を全て足しあわせて、足しあわせた値を5で除するものである。
【0020】
経方向および緯方向の両方に二重組織で導電糸を組み込んだ場合は、織物の表裏のどちらの面においても導電糸が露出した形態とすることが可能となる。この場合、二重組織部の導電糸露出率は、表面、裏面のそれぞれについて、先述した方法で算出すればよく、本発明においてはいずれかの面において、導電糸露出率の相加平均が50%以上であればよい。
【0021】
導電糸露出率の相加平均50%以上を達成する手法としては、非導電糸と導電糸の総繊度比を調節することが好ましい。つまり、二重組織部で導電糸を非導電糸の完全に上(裏面側ではまたは下)に配置させるためには、導電糸の糸条総繊度D1を、同方向の地組織を形成している非導電糸の糸条総繊度D2未満(D1<D2)にすることが好ましい。
【0022】
二重組織で挿入する導電糸の糸条総繊度を、地糸の非導電糸の糸条総繊度より小さくすると、導電糸は地糸(非導電糸)の上に配置した形態をとりやすく、導電糸交差点において効率よく電荷の受け渡しが行われ電気導通性を向上させることができる。特に、織物においては導電糸に直交する他の糸によって押さえつけられる力が作用するが、D1<D2を満たすことにより、二重組織で挿入した導電糸が地糸の上に配置されやすくなる。そのため、導電糸の糸条総繊度またはフィラメント数を小さくしても表面抵抗が極端に悪化することはなく、導電糸の細繊度化による製織コストの低減も可能となる。
【0023】
D1≧D2であっても、導電性織物の性能として何ら差し支えはないが、導電糸のコストが大きくなる一方で、織物の導電性能は頭打ちとなるので好ましい形態とは言えない。また、導電糸の糸条総繊度が大きいと二重組織で挿入した時に、地糸の上に配置することが困難になり、例えば導電糸が地糸の上から部分的に転げ落ちた配置をとったり、織物における導電糸挿入部の引っ掛かりが強くなるといった問題が発生する。
【0024】
なお、導電糸の細繊度化は製織時の糸切れによる収率低下に繋がることがあるので、導電性繊維に非導電性繊維を混繊または合撚して導電糸とすることも好ましい。こうすることで、糸強度を調整し、製織性を安定させることができる。混繊糸および合撚糸中の導電性繊維の繊度割合としては、良好な表面抵抗値を得るために、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。
【0025】
前記の構成要件を満たすことで、本発明においては、織物表面に導電糸がより多く露出した導電性織物を得ることができる。そして、織物表面に導電糸がより多く露出しているため、本発明の導電性織物を縫合したときには生地間で導電糸の点接触が容易になされ、縫製品全体での導通性もより高めることができる。
【0026】
本発明においては、二重組織に直交する導電糸の挿入方法は特に限定されないが、織物における経方向および緯方向の導電糸が互いに交差して接触する割合(導電糸交差接触率)の相加平均が40%以上であることが必要である。40%未満であると織物の斜め方向の導通性が不充分となり、縫合した時に織物間の導通性が充分に得られない。一方、40%以上とすることで、斜め方向の導通性も得やすくなり、縫合した時の織物間にも良好な導通性が得られる。導電糸交差接触率の相加平均は、好ましくは50%以上で、より好ましくは60%以上である。例えば、導電糸を緯二重組織で挿入する場合、緯糸導電糸を奇数本に1本の割合で間隔をあけて配列し、経導電糸を平組織で挿入すると、導電糸交差接触率は50%となり充分な導通性が得られる。一方、経糸導電糸を表は1本飛ばし、裏は2本飛ばしに挿入すると、導電糸交差接触率は33%となり導通性が充分に得られない。
【0027】
ここで言う導電糸交差接触率とは、直交する導電糸の交差点数に対する、導電糸同士が直接接触している交差点数の割合のことである。すなわち、導電糸が経方向に5本、緯方向に5本挿入されている場合、計25点の導電糸直交交差点における導電糸交差接触点数から算出するものであり、たとえば導電糸交差接触点数が15点ならば、導電糸交差接触率60%と算出できる。なお、本発明においては、ランダムに選択された計5箇所の相加平均が40%以上であればよい。
【0028】
本発明においては、必ずしも経方向および緯方向の両方に二重組織で導電糸を挿入する必要はなく、一方のみが二重組織であれば良い。つまり、導電糸は、経方向または緯方向の一方で二重組織として挿入されていれば、もう一方の交差する導電糸は交差点において導電糸と接触することになるから、斜め方向においても導通性が確保される。
【0029】
二重組織以外の導電糸挿入方法としては、地糸に導電糸を組み込んだ形態でも問題ないが、上述したような導電糸交差接触率60%以上を満たすためには、織り組織として綾またはサテン組織を用いることが好ましい。平織りの場合は、二重組織で挿入した導電糸が交差する導電糸と接触するように織設計を行えば問題はない。その他の方法として、ドビー織機を用いた変化織りも好適に用いられ、織物表面に導電糸を配置し、導電糸交差接触率が60%以上を満たす設計にすれば、織物の全領域にわたってより良好な表面抵抗値が得られる。
【0030】
そして、本発明において、二重組織部の導電糸条の、直交する地糸(非導電糸)による拘束本数は、少ない程、表面抵抗値が低下傾向を示すが、スナッギング性能の点で6本/2.54cm以上が好ましい。
【0031】
また、本発明の織物においては、上述したように、導電糸が経方向と緯方向のそれぞれにたとえば一定の間隔で格子状に挿入・配置される。該導電糸を挿入・配置させる間隔としては、狭い方が導電特性がよくなるが、導電特性と風合い、審美性・品位、および、コスト等との兼ね合いで、ピッチが1〜20mm程度となるようにすることが好ましい。ピッチが1mm未満では、導電糸の配置本数が多くなりすぎて、風合いや外観・品位、導電糸生産コストの点から好ましくない。また、ピッチが20mmを超える場合には、衣服にする時に、縫い目を挟む表面抵抗を増加させないよう縫い代幅を多くとる必要があり、また織物の生産コスト上からも好ましくない。ピッチは、1〜10mm程度であることがより好ましい。
【0032】
以上のような本発明によれば、構成する織物表面に導電糸が多く露出しているため、縫合された生地間で導電糸の点接触が容易になされる。そのため、本発明の織物によれば、静電気管理の要求特性であるIEC(国際電気標準会議)61340−5−1,5−2規定を満たすものとすることが可能となる。すなわち、23℃・25%RH温調環境下で、少なくとも縫い目を1つ挟む斜め方向に30cm離れた2点間の、印加電圧10Vまたは100Vにおける表面抵抗値を測定したときに、その表面抵抗値Rが1.0×1012Ω以下である織物、衣服とすることができるなお、印加電圧は、試験体の表面抵抗によって選択されるものであり、10Ω以下の領域では10Vを、10Ω以上の領域では100Vを選択する。
【0033】
この要求特性を達成するために、本発明の織物は、縫い目を挟まないように変更した以外はIEC(国際電気標準会議)61340−5−1,5−2と同様にした測定で、表面抵抗値RがR≦1.0×1012Ωであることが好ましい。静電気拡散性を考慮すると、かかる測定におけるRは1.0×1010Ω以下であることがさらに好ましく、1.0×10Ω〜1.0×10Ωであることが最も好ましい。このような範囲であれば、効率よく素早く静電気を拡散させ、かつ帯電体からのスパーク感電を防ぐことができ、制電作業着や防塵衣用途として好適に用いることが可能となる。
【0034】
縫い目を挟む2点間での表面抵抗値を1.0×1012Ω以下にする場合、縫合時に布帛間の導電糸を接触させる必要がある。このとき、縫い代における導電糸接触点が増加するほどに、布帛間の表面抵抗値は低下するが、二重組織を用いて導電糸を地糸の上に配置させた本発明は、導電糸接触の縫合を考えるうえで非常に有利な設計であり、容易に縫い目を挟む2点間での表面抵抗値が上記範囲を満たすことが可能である。
【0035】
以上のような本発明の織物は、導電糸が二重組織で挿入され浮糸となっている面を衣服表側に用いることで、いかなる部分に静電気が発生しても、織物、衣服全体が安定的に導通しているので、導電糸からのコロナ放電またはアースが積極的に行われる、制電性に優れた衣服となる。
【0036】
本発明の織物を用いて衣服を作成する場合、縫合時のステッチ、縫い目はなんら限定させるものではない。本縫い・単環縫い・二重環縫い・オーバーロックなどのあらゆるステッチを選択可能であり、また縫い目に関しても、巻き縫い・折り伏せ縫い・インターロック・パイピングなどの各種用途に適した縫い目を制限なく用いることが可能である。
【実施例】
【0037】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、本発明における各種測定法は下記の通りである。
【0038】
[二重組織部の導電糸露出率]
導電糸を二重組織として挿入し浮糸とした織面を、マイクロスコープを用いて、該導電糸の長手方向2.54cm(1インチ)が同画面上で観察できる状態とする。この面の二重組織部の導電糸部を映し、この画像において、2.54cm(1インチ)長の導電糸の面積(投影面積)全体に対する、直交する非導電糸条に被覆されていない部分(露出した導電糸)の面積の比を算出する。なお、ランダムに選択した計5箇所について二重組織部の導電糸露出率を算出し、その相加平均を採用する。
【0039】
[導電糸交差接触率]
導電糸経5本、緯5本のマス目からなる計25点の直交交差点における導電糸交差接触点数から算出する。なお、ランダムに選択した計5箇所の導電糸露出率から相加平均を算出する。
【0040】
[縫合部表面抵抗値]
IEC(国際電気標準会議)61340−5−1,5−2規定に基づき、下記の通り測定した。
【0041】
本縫いミシンで所定の縫合を行い、衣服(ブルゾン)を作成する。その後、当該衣服に、表面抵抗値測定器(トレック・ジャパン株式会社 Model152AP−5P)の測定ブローブを、30cmの間隔をあけて、かつ、間に縫い目を挟むようにしてのせて、二点間の印加電圧100Vでの表面電気抵抗値を測定する。このとき、織物試料の同軸の導電糸を含まないように斜め方向に2点をとる。これを任意の3箇所について繰り返し、その相加平均を算出した。図3に縫製後の概略図、図4に表面電気抵抗値測定の概略図を示す。
【0042】
(実施例1)
地組織を形成する経糸にポリエステル融着糸(84デシテックス−36フィラメント)の2本双糸、緯糸にポリエステル仮撚加工糸(334デシテックス−96フィラメント)を用い、経糸導電糸および緯糸導電糸として図2の表面露出型繊維からなる導電糸(84デシテックス−9フィラメント)を使用した。地組織を平織(片マット)として、経糸導電糸をドビー織りで地経糸24本に1本の割合(ピッチ5mm)で配列させ、表2本飛ばし、裏1本飛ばしで図1のような組織とした。また、緯糸導電糸は緯二重組織で地緯糸11本に1本の割合(ピッチ5mm)で挿入して地緯糸の上に配置させ(すなわち浮糸となっている)、表3本飛ばし、裏1本飛ばしで図1のような組織とした。このようにして、経密度が141本/2.54cm、緯密度が57本/2.54cmの生機を作製した。この生機を常法に従い精練、染色、仕上げを行い、仕上経密度が153本/2.54cm、緯密度が62本/2.54cmの織物を得た。得られた織物をミシンで縫合し、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0043】
(実施例2)
実施例1と同条件で、導電糸のみを変更して実施した。即ち、導電糸として、ポリエステル仮撚加工糸(33デシテックス−12フィラメント)と表面露出型導電糸(56デシテックス−6フィラメント)との合撚糸(89デシテックス−18フィラメント)を用いた。得られた織物をミシンで縫合し、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0044】
(実施例3)
地組織を形成する経糸にポリエステル仮撚加工糸(84デシテックス−36フィラメント)の2本双糸、緯糸にポリエステル仮撚加工糸(334デシテックス−96フィラメント)を用い、経糸導電糸および緯糸導電糸に(84デシテックス−9フィラメント)の表面露出型導電糸を使用した。地組織を平織(片マット)として、経糸導電糸をドビー織りで地経糸32本に1本の割合(ピッチ5mm)で配列させ、表3本飛ばし、裏1本飛ばしの組織とした。また、緯糸導電糸は緯二重組織で地緯糸15本に1本の割合(ピッチ5mm)で挿入して地緯糸の上に配置させ、表6本飛ばし、裏2本飛ばしの組織とした。このようにして、経密度が202本/2.54cm、緯密度が74本/2.54cmの生機を作製した。この生機を常法に従い精練、染色、仕上げを行い、仕上経密度が208本/2.54cm、緯密度が85本/2.54cmの織物を得た。得られた織物をミシンで縫合し、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0045】
(実施例4)
地組織を形成する経糸にポリエステル仮撚加工糸(84デシテックス−36フィラメント)の2本双糸、緯糸にポリエステル仮撚加工糸(334デシテックス−96フィラメント)を用い、経糸導電糸および緯糸導電糸に(84デシテックス−9フィラメント)の表面露出型導電糸を使用した。地組織を平織(片マット)として、経糸導電糸をドビー織りで地経糸32本に1本の割合(ピッチ5mm)で配列させ、表2本飛ばし、裏2本飛ばしの組織とした。また、緯糸導電糸は緯二重組織で地緯糸15本に1本の割合(ピッチ5mm)で挿入して地緯糸の上に配置させ、表2本飛ばし、裏2本飛ばしの組織とした。このようにして、経密度が202本/2.54cm、緯密度が74本/2.54cmの生機を作製した。この生機を常法に従い精練、染色、仕上げを行い、仕上経密度が208本/2.54cm、緯密度が85本/2.54cmの織物を得た。得られた織物をミシンで縫合し、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0046】
(実施例5)
地組織を形成する経糸にポリエステル融着糸(84デシテックス−36フィラメント)の2本双糸、緯糸にポリエステル仮撚加工糸(84デシテックス−36フィラメント)を用い、経糸導電糸および緯糸導電糸として表面露出型繊維からなる導電糸(56デシテックス−6フィラメント)を使用した。地組織を平織(片マット)として、経糸導電糸をドビー織りで地経糸24本に1本の割合(ピッチ5mm)で配列させ、表2本飛ばし、裏1本飛ばしの組織とした。また、緯糸導電糸は緯二重組織で地緯糸11本に1本の割合(ピッチ5mm)で挿入して地緯糸の上に配置させ、表3本飛ばし、裏1本飛ばしの組織とした。このようにして、経密度が141本/2.54cm、緯密度が152本/2.54cmの生機を作製した。この生機を常法に従い精練、染色、仕上げを行い、仕上経密度が150本/2.54cm、緯密度が159本/2.54cmの織物を得た。得られた織物をミシンで縫合し、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0047】
(実施例6)
地組織を形成する経糸にポリエステル融着糸(84デシテックス−36フィラメント)の2本双糸、緯糸にポリエステル仮撚加工糸(84デシテックス−36フィラメント)を用い、経糸導電糸および緯糸導電糸として表面露出型繊維からなる導電糸(56デシテックス−6フィラメント)を使用した。地組織を平織(片マット)として、経糸導電糸をドビー織りで地経糸72本に1本の割合(ピッチ15mm)で配列させ、表2本飛ばし、裏1本飛ばしの組織とした。また、緯糸導電糸は緯二重組織で地緯糸33本に1本の割合(ピッチ15mm)で挿入して地緯糸の上に配置させ、表3本飛ばし、裏1本飛ばしの組織とした。このようにして、経密度が140本/2.54cm、緯密度が153本/2.54cmの生機を作製した。この生機を常法に従い精練、染色、仕上げを行い、仕上経密度が150本/2.54cm、緯密度が160本/2.54cmの織物を得た。得られた織物をミシンで縫合し、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0048】
(実施例7)
地組織を形成する経糸にポリエステル融着糸(84デシテックス−36フィラメント)の2本双糸、緯糸にポリエステル仮撚加工糸(84デシテックス−36フィラメント)を用い、経糸導電糸および緯糸導電糸として表面露出型繊維からなる導電糸(56デシテックス−6フィラメント)を使用した。地組織を平織(片マット)として、経糸導電糸をドビー織りで地経糸120本に1本の割合(ピッチ25mm)で配列させ、表2本飛ばし、裏1本飛ばしの組織とした。また、緯糸導電糸は緯二重組織で地緯糸55本に1本の割合(ピッチ25mm)で挿入して地緯糸の上に配置させ、表3本飛ばし、裏1本飛ばしの組織とした。このようにして、経密度が141本/2.54cm、緯密度が152本/2.54cmの生機を作製した。この生機を常法に従い精練、染色、仕上げを行い、仕上経密度が149本/2.54cm、緯密度が162本/2.54cmの織物を得た。得られた織物をミシンで縫合し、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0049】
(実施例8)
実施例1と同条件で、導電糸のみを変更して実施した。即ち、導電糸として、ポリエステル仮撚加工糸(56デシテックス−36フィラメント)と表面露出型導電糸(84デシテックス−9フィラメント)との合撚糸(140デシテックス−45フィラメント)を用いた。得られた織物をミシンで縫合し、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0050】
(比較例1)
地組織を形成する経糸にポリエステル仮撚加工糸(167デシテックス−48フィラメント)、緯糸にポリエステル仮撚加工糸(334デシテックス−96フィラメント)を用い、経糸導電糸および緯糸導電糸に、ポリエステル仮撚加工糸(33デシテックス−12フィラメント)と表面露出型導電糸(56デシテックス−6フィラメント)との合撚糸(89デシテックス−18フィラメント)を用いた。地組織を平織として、経糸導電糸をドビー織りで地経糸16本に1本の割合(ピッチ5mm)で配列させ、表2本飛ばし、裏1本飛ばしの組織とした。また、緯糸導電糸もドビー織りで地緯糸10本に1本の割合(ピッチ5mm)で配列させ、表2本飛ばし、裏1本飛ばしの組織とした。このようにして、経密度が85本/2.54cm、緯密度が54本/2.54cmの生機を作製した。この生機を常法に従い精練、染色、仕上げを行い、仕上経密度が92本/2.54cm、緯密度が58本/2.54cmの織物を得た。得られた織物をミシンで縫合し、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0051】
(比較例2)
地組織を形成する経糸にポリエステル仮撚加工糸(84デシテックス−36フィラメント)の2本双糸、緯糸にポリエステル仮撚加工糸(334デシテックス−96フィラメント)を用い、経糸導電糸および緯糸導電糸に表面露出型繊維からなる導電糸(84デシテックス−9フィラメント)を使用した。地組織を平織(片マット)として、経糸導電糸をドビー織りで地経糸32本に1本の割合(ピッチ5mm)で配列させ、表1本飛ばし、裏3本飛ばしの組織とした。また、緯糸導電糸は緯二重組織で地緯糸15本に1本の割合(ピッチ5mm)で挿入して地緯糸の上に配置させ、表6本飛ばし、裏2本飛ばしの組織とした。このようにして、経密度が202本/2.54cm、緯密度が74本/2.54cmの生機を作製した。この生機を常法に従い精練、染色、仕上げを行い、仕上経密度が208本/2.54cm、緯密度が85本/2.54cmの織物を得た。得られた織物をミシンで縫合し、縫合部表面抵抗値を測定した。得られた織物をミシンで縫合し、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0052】
(比較例3)
地組織を形成する経糸にポリエステル仮撚加工糸(84デシテックス−36フィラメント)の2本双糸、緯糸にポリエステル仮撚加工糸(84デシテックス−96フィラメント)を用い、経糸導電糸および緯糸導電糸にポリエステル仮撚加工糸(33デシテックス−12フィラメント)と表面露出型導電糸(56デシテックス−6フィラメント)の合撚糸(89デシテックス−18フィラメント)を使用した。地組織を平織(片マット)として、経糸導電糸をドビー織りで地経糸32本に1本の割合(ピッチ5mm)で配列させ、表2本飛ばし、裏1本飛ばしの組織とした。また、緯糸導電糸は緯二重組織で地緯糸28本に1本の割合(ピッチ5mm)で挿入して地緯糸の上に配置させ、表6本飛ばし、裏2本飛ばしの組織とした。このようにして、経密度が202本/2.54cm、緯密度が152本/2.54cmの生機を作製した。この生機を常法に従い精練、染色、仕上げを行い、仕上経密度が212本/2.54cm、緯密度が164本/2.54cmの織物を得た。
【0053】
しかし、緯二重組織で挿入した導電糸は、総繊度が緯地糸の総繊度よりも大きい(D1>D2)ため、部分的に導電糸が地糸に埋もれた形態(浮糸となっていない形態)をとり、導電糸表面露出率は30%であった。得られた織物をミシンで縫合し、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0054】
(比較例4)
地組織を形成する経糸にポリエステル融着糸(84デシテックス−36フィラメント)の2本双糸、緯糸にポリエステル仮撚加工糸(84デシテックス−36フィラメント)を用い、経糸導電糸および緯糸導電糸としてポリエステル仮撚加工糸(56デシテックス−36フィラメント)と表面露出型導電糸(28デシテックス−3フィラメント)の合撚糸(84デシテックス−39フィラメント)を使用した。地組織を平織(片マット)として、経糸導電糸をドビー織りで地経糸24本に1本の割合(ピッチ5mm)で配列させ、表2本飛ばし、裏1本飛ばしの組織とした。また、緯糸導電糸は緯二重組織で地緯糸11本に1本の割合(ピッチ5mm)で挿入して地緯糸の上に配置させ、表3本飛ばし、裏1本飛ばしの組織とした。このようにし、経密度が141本/2.54cm、緯密度が152本/2.54cmの生機を作製した。この生機を常法に従い精練、染色、仕上げを行い、仕上経密度が150本/2.54cm、緯密度が158本/2.54cmの織物を得た。得られた織物をミシンで縫合し、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の織物によれば、制電性の耐久性にも優れたた縫製品を提供することができる。その結果、かかる織物は、ユニフォーム、帽子、防塵衣などの衣服やその他防帯電用途に好適に利用できる。
【0056】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例で作製した織物の織物組織図である。(ただし、導電糸間の地糸本数は便宜上の理由で一致しない。)
【図2】本発明における表面露出型導電繊維の一例の断面図である。
【図3】表面抵抗値の測定のために二枚の織物を縫合する際の織物の重ね合わせ方の一例である。
【図4】縫い目を挟む表面抵抗値の測定方法の概略図である。
【符号の説明】
【0058】
1:二重組織で組み込んだ導電糸
2:ドビーで挿入した導電糸
3:非導電性成分ベースポリマー
4:表面の一部にカーボンを含むマトリックスが露出したポリマー部
5:本縫いミシンによる縫合の目
6:布帛の重ね合わせ部
7:測定プローブ(プローブ間直線距離:30cm)
8:折り伏せ縫い部
9:表面抵抗値検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電糸が経方向および緯方向のそれぞれに挿入され格子状に間隔をあけて配列された織物であって、経方向および緯方向の導電糸の少なくとも一方が二重組織として挿入され浮糸となっており、二重組織で導電糸が浮糸となっている面において、二重組織として挿入された導電糸の、直交する非導電糸に被覆されずに露出している割合(二重組織部の導電糸露出率)の相加平均が50%以上、かつ経方向および緯方向の導電糸が互いに交差して接触する割合(導電糸交差接触率)の相加平均が40%以上である織物。
【請求項2】
地組織が非導電糸であり、二重組織として挿入された導電糸の糸条総繊度D1と、同方向の地組織を形成している非導電糸の糸条総繊度D2とが、以下の関係を満たす、請求項1に記載の織物。
D1<D2 [D1:二重組織として挿入された導電糸の糸条総繊度(dtex)、
D2:二重組織として挿入された導電糸と同方向の地組織を形成する非導電糸の糸条総繊度(dtex)]
【請求項3】
格子状に間隔をあけて配列された導電糸のピッチが経方向、緯方向ともに1〜20mmの範囲内である、請求項1または2に記載の織物。
【請求項4】
IEC(国際電気標準会議)61340−5−1,5−2に記載の方法(、23℃・25%RH環境下)で測定した、少なくとも縫い目を1つ挟む30cm離れた2点間の表面抵抗値(R)が、以下の式を満たす、請求項1〜3のいずれかに記載の織物。
R≦1.0×1012Ω
【請求項5】
導電糸を構成する単繊維は、円形断面または凸部を有する異形断面を有するとともに、導電性成分が外周面の周方向に3カ所以上かつ長手方向に連続して露出している、請求項1〜4のいずれかに記載の織物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の織物を用いてなる衣服であって、導電糸が二重組織として挿入され浮糸となっている面を衣服表側とした衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−185439(P2009−185439A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331974(P2008−331974)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】