織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置
【課題】織物を製品形状に加工した場合にどのように変形するかをシミュレーションすることができる織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置を提供する。
【解決手段】与えられた織物規格に対して予め可能な範囲のすべての変形条件を与えて2軸変形挙動のデータベースを作成し、読み込んだ製品形状のCADデータから対象曲面をベジェ曲面に変換し、織物組織1循環のサイズ毎にベジェ曲面の分割法則に従い分割を行い、分割した微小領域に対して、各領域の境界線の経路長および領域中心点における曲率を計算し、前方による計算手法を用いて3次元モデルを作成し、各微小部分の変形状態を計算する。この結果を積算して、曲面全体の歪み量分布を求める。
【解決手段】与えられた織物規格に対して予め可能な範囲のすべての変形条件を与えて2軸変形挙動のデータベースを作成し、読み込んだ製品形状のCADデータから対象曲面をベジェ曲面に変換し、織物組織1循環のサイズ毎にベジェ曲面の分割法則に従い分割を行い、分割した微小領域に対して、各領域の境界線の経路長および領域中心点における曲率を計算し、前方による計算手法を用いて3次元モデルを作成し、各微小部分の変形状態を計算する。この結果を積算して、曲面全体の歪み量分布を求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物の3次元モデルを構築するための方法、及び織物の3次元モデルを構築するための装置に係り、詳しくは、織物を経糸方向と緯糸方向を同時に伸張した場合、あるいは織物を経糸方向と緯糸方向に同時に曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることが可能であり、織物を製品形状に加工した場合にどのように変形するかをシミュレーションすることが可能である織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の発明者らは、3次元コンピュータグラフィックスなどの特殊な知識を必要とせずに、織物限界密度の判定及びそれに基づいた製織の可能性を予測するための織物構造のモデル化方法及び織物構造のモデル化装置を開発し(特許文献1参照)、特許出願している。
また、3次元モデリングされた織物が、例えば指定した伸張率まで変形された場合に、織物構造の再計算を行ない、再計算された織物の3次元モデルを出力するための織物構造の3次元モデル化方法及び織物構造の3次元モデル化装置を開発し(特許文献2参照)、特許出願している。
【0003】
上記特許文献2の織物構造の3次元モデル化方法及び織物構造の3次元モデル化装置は、織物を2軸方向同時に伸張した場合、あるいは織物を2軸方向同時に曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションする領域に至っていない。しかしながら、例えば自動車のシートや内装材などを設計する場合の最近の織物設計分野では、品質向上のために織物の変形特性を予測することが強く求められている。
【特許文献1】特開2006−209706号公報
【特許文献2】特開2006−274521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明では、上記特許文献1の織物構造のモデル化方法及び織物構造のモデル化装置により3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、あるいは2方向同時に曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることが可能であり、織物を製品形状に加工した場合にどのように変形するかをシミュレーションすることが可能である織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、特許請求の範囲の欄に記載した織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置により解決することができ、その請求項1の織物の3次元モデル構築方法は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う工程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する工程と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の伸張率ε1および緯糸方向の伸張率ε2まで2軸伸張させた場合の織物構造を再計算する工程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する工程と、を有することである。
【0006】
また、請求項2は、前記2軸伸張させた場合の織物構造を再計算する工程は、変形前の前記織物の3次元モデルから各伸張方向の糸の織込率を計算し、各方向の伸張率が織込率以下の場合の第1の再計算処理と、各方向の伸張率が織込率以上の場合の第2の再計算処理とのいずれかを自動的に選択して再計算することである。
【0007】
また、請求項3は、前記第1の再計算処理は、織物の各方向の伸張率の増加に伴い織物中の各方向の伸張方向の糸が、屈曲構造から直線構造に移行するとともにクリンプ高さが低くなることから、各伸張方向に対して直交する糸が引っ張られ横方向に縮んでいく現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することである。
【0008】
また、請求項4は、前記第2の再計算処理は、予め測定された糸の応力−ひずみ曲線を基に、織物の伸張率の増加に伴って各方向の糸の伸張率が増加する現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することである。
【0009】
また、請求項5の織物の3次元モデル構築方法は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う工程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する工程と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2まで屈曲させた場合の織物構造を再計算する工程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する工程と、を有することである。
【0010】
また、請求項6の織物の3次元モデル構築方法は、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として、経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割する工程と、分割した各領域に対して請求項1または5に記載の織物構造のモデル化により変形させた状態を計算する工程と、これらを重ね合わせることにより前記指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算する工程と、前記計算された織物の任意の曲面形状全体の3次元モデル、応力分布、歪み量分布を出力する工程と、を有することである。
【0011】
また、請求項7の織物の3次元モデル構築方法は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、任意の間隔で複数の経糸方向の伸張率ε1および複数の緯糸方向の伸張率ε2の組み合わせ時における2軸引張変形下、かつ、複数の経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および複数の緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2の組み合わせ時における2軸純曲げ変形下にある織物の3次元モデルを複数生成し、これらの3次元モデルから応力および歪み量を計算し、これらの値をデータベースに蓄積するとともに、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割し、分割した各領域に対して前記データベースから変形させた状態を計算し、これらを全領域について重ね合わせることにより指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算することである。
【0012】
また、請求項8の織物の3次元モデル構築装置は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の伸張率ε1および緯糸方向の伸張率ε2まで2軸伸張させた場合の織物構造を再計算したうえ、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する再計算3次元モデル出力手段と、を有することである。
【0013】
また、請求項9の織物の3次元モデル構築装置は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2まで屈曲させた場合の織物構造を再計算したうえ、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する屈曲変形3次元モデル出力手段と、を有することである。
【0014】
また、請求項10の織物の3次元モデル構築装置は、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として、経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割する分割手段と、分割した各領域に対して請求項1または5に記載の織物構造のモデル化により変形させた状態を計算する変形状態計算手段と、これらを重ね合わせることにより前記指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算したうえ、前記計算された織物の任意の曲面形状全体の3次元モデル、応力分布、歪み量分布を出力する全域3次元モデル出力手段と、を有することである。
【0015】
また、請求項11の記録媒体は、請求項8に記載した3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、再計算3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録したものである。
【0016】
また、請求項12の記録媒体は、請求項9に記載した3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、屈曲変形3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の織物の3次元モデル構築方法は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う工程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する工程と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の伸張率ε1および緯糸方向の伸張率ε2まで2軸伸張させた場合の織物構造を再計算する工程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する工程と、を有することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0018】
また、前記2軸伸張させた場合の織物構造を再計算する工程は、変形前の前記織物の3次元モデルから各伸張方向の糸の織込率を計算し、各方向の伸張率が織込率以下の場合の第1の再計算処理と、各方向の伸張率が織込率以上の場合の第2の再計算処理とのいずれかを自動的に選択して再計算することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、織物がどのように変形するかを良好に再計算することができる。
【0019】
また、前記第1の再計算処理は、織物の各方向の伸張率の増加に伴い織物中の各方向の伸張方向の糸が、屈曲構造から直線構造に移行するとともにクリンプ高さが低くなることから、各伸張方向に対して直交する糸が引っ張られ横方向に縮んでいく現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、織物がどのように変形するかを良好に再計算することができる。
【0020】
また、前記第2の再計算処理は、予め測定された糸の応力−ひずみ曲線を基に、織物の伸張率の増加に伴って各方向の糸の伸張率が増加する現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、織物がどのように変形するかを良好に再計算することができる。
【0021】
また、本発明の織物の3次元モデル構築方法は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う工程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する工程と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向曲率半径1/κ2まで屈曲させた場合の織物構造を再計算する工程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する工程と、を有することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0022】
また、本発明の織物の3次元モデル構築方法は、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として、経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割する工程と、分割した各領域に対して請求項1または5に記載の織物構造のモデル化により変形させた状態を計算する工程と、これらを重ね合わせることにより前記指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算する工程と、前記計算された織物の任意の曲面形状全体の3次元モデル、応力分布、歪み量分布を出力する工程と、を有することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、あるいは2方向同時に曲げた場合に、任意の曲面形状全体の織物がどのように変形するかをシミュレーションすることが可能であり、織物を製品形状に加工した場合にどのように変形するかをシミュレーションすることが可能である。
【0023】
また、本発明の織物の3次元モデル構築方法は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、任意の間隔で複数の経糸方向の伸張率ε1および複数の緯糸方向の伸張率ε2の組み合わせ時における2軸引張変形下、かつ、複数の経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および複数の緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2の組み合わせ時における2軸純曲げ変形下にある織物の3次元モデルを複数生成し、これらの3次元モデルから応力および歪み量を計算し、これらの値をデータベースに蓄積するとともに、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割し、分割した各領域に対して前記データベースから変形させた状態を計算し、これらを全領域について重ね合わせることにより指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、あるいは2方向同時に曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることが可能であり、織物を製品形状に加工した場合の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布をシミュレーションすることが可能である。
【0024】
また、本発明の織物の3次元モデル構築装置は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の伸張率ε1および緯糸方向の伸張率ε2まで2軸伸張させた場合の織物構造を再計算したうえ、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する再計算3次元モデル出力手段と、を有することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0025】
また、本発明の織物の3次元モデル構築装置は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2まで屈曲させた場合の織物構造を再計算したうえ、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する屈曲変形3次元モデル出力手段と、を有することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0026】
また、本発明の織物の3次元モデル構築装置は、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として、経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割する分割手段と、分割した各領域に対して請求項1または5に記載の織物構造のモデル化により変形させた状態を計算する変形状態計算手段と、これらを重ね合わせることにより前記指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算したうえ、前記計算された織物の任意の曲面形状全体の3次元モデル、応力分布、歪み量分布を出力する全域3次元モデル出力手段と、を有することにより、織物を製品形状に加工した場合の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布をシミュレーションすることができる。
【0027】
また、3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、再計算3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録した記録媒体によれば、3次元モデリングにより集成された織物が2方向同時に伸張された場合、織物がどのように変形するかを汎用コンピュータ等でシミュレーションすることができる。
【0028】
また、3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、屈曲変形3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録した記録媒体によれば、3次元モデリングにより集成された織物が2方向同時に屈曲された場合、織物がどのように変形するかを汎用コンピュータ等でシミュレーションすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
まず、本発明の織物の3次元モデル構築装置の構成について図1を参照して説明する。
図1に示すように、コンピュータ1は、周知のコンピュータであり、コンピュータ1の制御を司るCPU50が設けられている。このCPU50には、バス55を介し、CPU50が実行するBIOS等のプログラムを記憶したROM51と、データを一時的に記憶するRAM52と、データの記憶媒体であるCD−ROM54を挿入し、データの読み込みを行うCD−ROMドライブ53と、データの記憶装置であるHDD60とが接続されている。HDD60には、モデリングプログラムを始めとするコンピュータ1で実行される各種のプログラムを記憶するプログラム記憶エリア61、プログラムを実行する際に入力される各種データ等の情報を記憶したデータベース記憶エリア62などが設けられている。
【0030】
さらに、CPU50には、バス55を介して、利用者に操作画面やプログラムの実行結果を表示するためのモニタ31の画面表示処理を行う表示制御部30と、利用者が操作の入力を行うキーボード41やマウス42に接続され、それらの入力の検知を行う入力検知部40とが接続されている。
なお、コンピュータ1には、図示外のフレキシブルディスクドライブ、音声等の入出力部、各種インタフェースなどが設けられていても良い。
【0031】
なお、CD−ROM54には、必要なプログラムが組み込まれたソフトウェアや、このプログラムの実行時に使用される設定やデータ等が記憶されており、導入時には、CD−ROM54からHDD60に設けられたプログラム記憶エリア61などに記憶されるようになっている。
なお、コンピュータ1のプログラム及びその使用データ等の取得方法はCD−ROM54によるものに限らず、フレキシブルディスクやMOといった他の記録媒体であっても良く、また、コンピュータ1をネットワークに接続させ、ネットワーク上の他の端末から取得しても良い。
【0032】
次に、以上の構成を有するコンピュータ1において、織物立体構造を表示させるための3次元モデル化処理について、図を参照しながら説明する。
なお、図2は、織物構造の3次元モデル化処理の流れを示すフローチャートであり、図3は、Peirceモデルにおける交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【0033】
一般に、3次元コンピュータグラフィックスで物体の立体形状を表現するには、第1段階として、対象となる物体を点や線、多角形(ポリゴン)などの幾何学的基本要素群に分割し、それぞれの基本要素の3次元空間における座標群を決定する処理が必要となる。その後、第2段階として、この3次元空間の座標群を2次元空間上に変換して表現する処理を行う。前者の処理をモデリングと呼び、後者の処理をレンダリングと呼ぶ。
【0034】
織物組織図から織物を構成している経緯糸の形状を立体的に表現するには、図2に示すように、織物組織図101と糸の太さ102、織密度103、縞104などの織物規格105に関する情報を元に、構成する経緯糸1本ごとに対して織物中での座標を確定しモデリング処理106を行い、織物の3次元形状モデル107を得る。その後、3次元形状モデルを表示する視点121やモデルの回転角度122、光源123などの表示に関する座標情報124を与え、レンダリング処理125を行うことで、立体形状画像130として表現が可能となる。
【0035】
3次元コンピュータグラフィックスでモデリング処理106を行う場合、複数の多角形の組み合わせでモデルを表現するポリゴンモデルの他、スプライン曲線によってモデルを表現する方法、ベジェ曲線やベジェ曲面によりモデルを表現する方法など、様々な方法が存在する。ここでは、比較的少ないパラメータで表現することができる3次ベジェ曲面によるモデル化手法を採用した。
【0036】
この際、モデル構造を表す座標系は、組織図の左下の組織点を座標の原点として考え、緯糸方向がx軸、経糸方向がy軸、厚さ方向がz軸方向となる右手系の座標系として取り扱い、織物の厚さhに対して中間面となる平面がx−y平面となるように考える。経糸は左から右に、緯糸は下から上に順番に整列しているものとし、左端の経糸および下端の緯糸はそれぞれ0番目の経糸および緯糸と考え、それぞれの糸の位置をiおよびjで表す。組織図の情報を表す行列をW (i, j)と定義する。モデリングの対象となる組織として、経糸m本、緯糸n本で一循環組織となる組織図を用いる場合、行列の添字の範囲は0≦i<m, 0≦j<nとなる。また、行列の値には、経浮きの場合には1の値を、経沈みの場合は0の値をとる。
【0037】
モデリング処理106の前提条件として、織物中の糸の構造は、Peirceモデル(Peirce F.T.; "The Geometry of Cloth Structure", J. Text. Inst., 28, T45 (1937))の構造を取るものと仮定する。ここで、Peirceは織物中の経糸および緯糸の太さは、それぞれすべて同じであるとして取り扱っているが、本実施の形態では、図3に示すように、織物の設計条件に従い任意の太さの糸が用いられているものとして考え、左からi番目の経糸の半径をr1(i)、下からj番目の緯糸の半径をr2(j)で表すものとする。同様に経糸および緯糸の直径は、それぞれd1(i)、d2(j)で表す。また、経糸の間隔および緯糸の間隔は、それぞれP1およびP2と表すものとする。
【0038】
さて、織物中の糸をベジェ曲面で表現する場合、糸の断面はベジェ曲線で表すことになる。媒介変数tを用いた n次ベジェ曲線r0(t;n)は、次式(1)で表現することができる。
ここで、Cn・iは2項係数であり、n!/{i!(n-i)!}に等しい。また、piはベジェ曲線の制御点座標を示すベクトルであり、3次元空間ではpi(x,y,z)であり、r0の添字0は最初の制御点がp0であることを示している。最も用いられることの多い3次のベジェ曲線r0(t;3)は、
と表現され、1つの曲線を表現するためにp0、p1、p2、p3の4点の制御点を与える必要がある。
【0039】
一方、媒介変数uおよびvを用いた3×3次のベジェ曲面s00(u,v;3,3)は、次式で表現される。
ここで、pi,jはベジェ曲線の場合と同様、ベジェ曲面の制御点座標であり、s00の添字00は最初の制御点がp0,0であることを示している。4辺よりなる1つの曲面を表現するためには4×4の制御点群が必要となる。従って、Peirceモデルにおける単位格子内の糸の屈曲を表現するには、12枚のベジェ曲面が必要となり、120点の座標点を用い192点の制御点の座標を指定しベジェ曲面を作成することで、織物中での糸の立体形状を決定することが可能となる。
【0040】
以上を前提として、3次ベジェ曲面によりモデリング処理106を実行する処理の詳細について図4および図5を参照して説明する。
図4は、図2のモデリング処理106の詳細を示すフローチャートであり、図5は、交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【0041】
まず、ベジェ曲面を用いて糸の屈曲状態を示すには、組織点(i, j)における糸の座標をあらかじめ求め、この座標からベジェ曲面の制御点座標群を求める必要がある。特に、組織点(i, j)における糸のz座標については、組織図の情報に従い糸の上下関係を決めなければならない。そこで、まず、経糸のx座標x1 (i, j)、y座標y1 (i, j)、緯糸のx座標x2 (i, j)およびy座標y2 (i, j)を求める(S201)。ここで、i番目の経糸とi-1番目の経糸との間隔をP1(i)、j番目の緯糸とj-1番目の緯糸との間隔をP2(j)とおく。組織点(i, j)における経糸のx座標x1 (i, j)、y座標y1 (i, j)、緯糸のx座標x2 (i, j)およびy座標y2 (i, j)は、それぞれ次式で表すことができる。
【0042】
一方、組織点(i, j)における糸のz座標については、三原組織などの平面的な織物であるか、二重織などの多層構造組織や、蜂巣織のような立体的な構造を持つ組織であるかにより異なる。後者の場合には、浮き糸組織数の大小が糸の高さに影響を及ぼしているためである。そこで、z座標を求める前に、まず、浮き糸組織数から相対高さの計算を行い(S202)、この算出結果に従って組織点における制御点座標を算出する。
【0043】
i番目の経糸の浮き糸組織数F1(i)は次式で求められ、F1は各要素が0からnの間の整数値をとる数列となる。
【0044】
一方、織物中の相対高さをH1(i)とすると、H1(i)は数列F1より次式で求められる。
ここで、min(s)は数列sの最小値、max(s)は最大値を返す関数である。式(7)はmax(F1) ≠min(F1)の場合で有効であるが、max(F1)=min(F1)の場合は織物中の全経糸の相対高さが同じであると考えることができるので、
と考えることができる。求められる相対高さH1(i)の範囲は-0.5≦H1(i) ≦0.5となり、織物の厚さhから次式で織物中の糸の高さh1(i)を求めることができる。
【0045】
また、緯糸の場合も経糸と同様に、j番目の緯糸の浮き糸組織数をF2(j)は、
となり、織物中の緯糸の相対高さH2(j)は、max(F2)≠min(F2)の場合、
max(F2)=min(F2)の場合、
となる。また、織物中の緯糸の高さh2(j)は、次式のように求められる。
【0046】
以上のようにして求められた糸の高さに基づき、織物中のすべての糸が同じ高さであるか、すなわち平面的な織物であるか否かを判断する(S203)。すべての糸が同じ高さである場合は(S203:YES)、組織点(i, j)における経糸のz座標z1 (i, j)および緯糸のz座標z2 (i, j)は、図5に示すように、織物の厚さhに対して中間面となるx−y平面から経糸の糸軸中心までの距離は緯糸の半径r2に相当するので、次の式(14)および式(15)から組織点(i, j)における糸のz座標を求めることが可能である(S204)。
ここで、sgn(x)はsgn(x) = {1 (x>0)} , {-1 (x<0)} で定義される符号関数である。
【0047】
一方、織物中で糸の高さが異なる場合は(S203:NO)、上記式(14)および式(15)からは糸のz座標を求めることができなくなる。そこで、S202で求めた織物中の経糸の高さh1(i)および緯糸の高さh2(j)を用いて糸のz座標を求める必要がある。
【0048】
まず、組織点(i, j)において、交錯するi番目の経糸とj番目の緯糸の高さが同じであるか否かを判断する(S205)。i番目の経糸とj番目の緯糸の高さが同じである場合、すなわち、h1(i)=h2(j)の場合には(S205:YES)、経糸のz座標z1 (i, j)および緯糸のz座標z2 (i, j)は式(14)および式(15)より、以下の式(16)及び(17)のようになる。
【0049】
また、交錯するi番目の経糸とj番目の緯糸の高さが異なる場合、すなわち、h1(i)≠h2(j)の場合には(S205:NO)、まず、S202で求めた糸の相対高さと、当該経糸及び緯糸の半径との間の関係を調べることにより、糸の干渉が発生している可能性をチェックする(S207)。ここでは、次式が成り立つ場合、経糸と緯糸は干渉していないと考えることができる(S207:YES)。
【0050】
式(18)が成り立つ場合には(S207:YES)、次に、組織図上の経糸と緯糸の上下関係と、S202で求めた糸の相対高さとが一致しているかどうかを、行列W (i, j)の値と相対高さの値の差との関係を調べることにより判断する(S208,S209,S210)。
【0051】
式(18)が成り立つ場合において、経浮き、すなわちW (i, j)=1(S208:YES)かつ、経糸の高さが緯糸より高い、すなわちh1(i)>h2(j)の場合(S209:YES)、または、緯浮き、すなわちW (i, j)=0(S208:NO)、かつ、緯糸の高さが経糸より高い、すなわちh1(i)<h2(j)の場合(S210:YES)には、組織図で指定された糸の上下関係とh1(i)とh2(j)の大小関係が一致しているといえる。従って、h1(i)およびh2(j)をそれぞれ経糸および緯糸のz座標とすれば良く(S211)、次式で表すことができる。
【0052】
上記の条件以外では(S208:NO,S210:NO、または、S208:YES,S209:NO)、経糸と緯糸は干渉しているか、組織図で指定された上下関係とは逆の位置関係となっているので、干渉が発生しているかどうかの判定と、発生していた場合は、干渉回避処理を実行する干渉判定・回避処理(S212、S213)に進む。
なお、干渉判定・回避処理の詳細については、既に出願済みの特許(特願2005−24609)で詳しく説明しているので、ここではその説明を省略する。そして、モデリング処理を完了して図2の処理に戻る。
【0053】
次に、3次元モデリングされた織物を引張り及び曲げた場合の変形シミュレーションの説明に移る前に、織物を構成する糸の変形特性について検討する。
引張りなど織物の変形特性には、それを構成する糸の引張および圧縮挙動が大きく影響することは多くの研究者が報告している。従って、織物変形のシミュレーションを実施するには糸の外力による形状の変形特性を知る必要があるので、ポリエステルマルチフィラメント糸の引張変形および圧縮変形の測定を行った。
図6に示すような引張変形試験装置301を用い、チャック間距離200mm、引張速度 20cm/minで糸の引張試験を行い、この時の外径の変化を図7に示したレーザー式外径変位センサ302で測定するとともに、圧縮変形試験装置303で圧縮変形試験をした。圧縮変形については、ガラス板に挟んだ糸に対し上方向から荷重を加え、糸の上方向から観測した太さ変化をビデオマイクロスコープで、側面方向から観測した太さ変化をレーザー変位計を用いて測定した。この時の荷重は電子天秤で測定した。上記の引張試験結果を図8および図9に示す。
【0054】
図8は、撚係数が同じ(33.8)で線密度が異なるときの試験結果である。また図9は、線密度が同じ(300D)で撚係数が異なるときの試験結果である。
張力の増加により外径は小さくなっていくが、あるところから張力を大きくしても外径はそれほど変化しなくなる。これは、低張力状態では繊維間の空隙が大きく、空隙が限界に近づくと外径の変化が見られなくなるためであると考えられる。また、撚係数が大きくなれば低張力状態ですでに空隙が小さくなっているため、外径変化も小さいものと考えられる。
【0055】
次に、前述の圧縮試験結果を図10〜図12に示す。
横軸は糸の単位長さあたりの圧縮荷重(cN/mm)、縦軸は初期の糸断面を円形と仮定しその直径d0に対する圧縮時の太さd1との比を示す。図10は、撚係数を33.8と共通とし、番手が異なる糸の実験結果である。また図11は、番手を300Dと共通とした場合の撚係数が異なる場合の実験結果である。いずれも初期張力は9.8cNとした。また図12は、番手(300D)、撚係数(33.8)とも同じで初期張力が異なる糸の実験結果である。図10、11、12とも低圧縮荷重では圧縮荷重の増加により、太さ、厚みとも大きく変化するが、高圧縮荷重では太さ、厚みとも変化が小さい。図10から番手が異なっても太さ、厚みとも変化の割合はほぼ同じなので、番手は圧縮特性に影響を与えないことがわかる。図11から撚係数が大きい糸の方が撚係数の小さい糸に比べて太さ、厚みとも変化の割合が小さいので、撚係数は圧縮特性に影響を与えている。また図12では初期張力が大きくなると太さ、厚みとも変化の割合は小さくなっていき、高張力状態では太さ、厚みとも変化の割合がほとんど変わらない事が確認された。
以上より、伸長張力の変化や撚係数の違いにより糸中の繊維空隙が変化し、この構造の違いにより圧縮特性が異なるものと考えられる。
【0056】
本試験では上方からの圧縮を行ったため、圧縮時の断面を試料糸を切断し観測したところ、断面形状は上下非対称な結果が得られた。このことは、糸が連続体ではなく繊維の集合体である事に起因すると考えられ、圧縮に伴う糸中の繊維の移動をシミュレートするソフトを作成し、糸断面の変形挙動を再現した結果、図13に示すように、実際の圧縮時の断面形状に近い形状を得ることができた。この糸変形シミュレーション手法を用いることで、織物の非変形時における織物中の糸の形状をシミュレートすることが可能になる。
【0057】
次に、外力に伴い、糸形状を変化させた織物変形のシミュレーションを実現するために糸形状を反映させた衝突・変形判定を加えた変形処理アルゴリズムを構築した。
既に出願済みの特許(特開2006−274521号公報)では経糸方向及び緯糸方向についての1軸伸張変形をモデル化していた。この変形については、以下の2段階の挙動をモデル化した。
フェーズ1:織物の伸長に伴い、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになる。このとき、引張方向の糸のクリンプ高さが低くなるため、直交する糸が引っ張られ、横方向に縮んでいく。
フェーズ2:引張方向の糸のクリンプがまっすぐになった後は、引張方向の糸自身の伸張特性に従い織物が伸張される。
【0058】
これに対し本発明は2軸伸張の場合を想定しており、この場合でも同様に経糸方向、緯糸方向それぞれ2段階の変形挙動を示すものと考えられ、変形挙動は以下の4種のモードが考えられる。
モード1:経糸方向、緯糸方向共にフェーズ1の変形挙動
モード2:経糸方向がフェーズ1、緯糸方向がフェーズ2の変形挙動
モード3:経糸方向がフェーズ2、緯糸方向がフェーズ1の変形挙動
モード4:経糸方向、緯糸方向共にフェーズ2の変形挙動
この時、モード1は経緯曲がり構造、モード2は経曲がり構造、モード3は緯曲がり構造をとる。また、モード4は織物構造と矛盾するため、モード1〜モード3の変形挙動のみ考え、モード4の変形は構造限界を超えた領域として取り扱う。
【0059】
図14(a)は、織物の伸張前の正面図であり、図14(b)は、織物を経糸方向、緯糸方向について同時に25%伸張した場合の正面図である。また、曲げの場合、曲げについては従来手法では曲面に接する円から曲率半径を取り扱っていたが、曲面に接する球として曲率半径を取り扱い、曲げ方向に対し、曲げの外側では引張応力が、曲げの内側では圧縮応力が加わるので、曲げ方向に直交する糸の断面に対して変形させる処理を加え、2軸方向の曲げに対応した。
図15に織物の2軸曲げの変形計算例を示す。
【0060】
本発明の出願に際して、前述のように織物変形の基礎パラメータとなる糸の引張変形および圧縮変形特性の検討を行い、糸の番手や撚係数などの糸の構造パラメータが糸の引張時及び圧縮時における形状変化に及ぼす影響について解析を行った。
その結果、伸長張力の変化や撚係数の違いにより糸中の繊維空隙が変化し、この構造の違いにより圧縮特性が異なることが確認された。上記で測定した糸の変形挙動を元に、引張および曲げ変形時の織物構造の変化に従い3次元モデルの再構築を行う3次元モデリングアルゴリズムを新たに構築した。この結果、変形時における織物の、内部構造の3次元モデル化が可能となり、糸の変形特性と変形時における織物の3次元シミュレーション手法を応用することで、織物設計におけるCAEの実現ができ、資材用織物など最終用途で必要とされる高機能な特性を実現するための高度な織物設計が可能になると考えられる。
【0061】
織物変形のシミュレーションを実現するために、図2の織物構造の3次元モデル化処理を改良し、変形処理アルゴリズムを構築した。アルゴリズムのフローチャートを図16に示す。
織物組織図101と与えられた織物の設計情報105から、モデリング処理106により織物の3次元単位構造モデル107を生成する。生成した織物の3次元単位構造モデル107に対して、あらかじめ伸張率ε1およびε2(141)、曲率κ1およびκ2(142)について条件分割数neおよびnr(143)で指定した個数の変形条件を与えて織物単位構造変形計算145によりne×ne個の引張モデルデータおよびnr×nr個の曲げモデルデータを蓄積した織物単位構造変形データベース150を作成する。
続いて、製品形成後の曲面情報を汎用3次元CADなどで作成した3次元CADデータ161として準備する。読み込んだ製品形状のCADデータ161から対象曲面をベジェ曲面に変換し、織物組織1循環のサイズ毎にベジェ曲面の分割法則に従い曲面分割処理162を行い、経糸方向s1個、緯糸方向s2個の計s1×s2個の領域に分割する。ベジェ曲面の分割法則にはde Casteljauのアルゴリズムを使用する。分割した計s1×s2個の微小領域に対して、各領域の境界線の経路長および領域中心点における曲率を計算し、曲面変形予測計算163により3次元CADデータ161の形状に形成した場合の織物の変形形状を求める。曲面変形予測計算163では織物単位構造変形データベース150から各領域の境界線の経路長および領域中心点における曲率の3次元単位構造モデル107を検索し出力。これらを全領域について重ね合わせることにより、曲面全体の変形形状を求めることができる。
【0062】
曲面変形予測計算163で行う各領域の境界線の経路長の計算について説明する。
一般に、媒介変数表示 となる空間曲線の区間 の長さは、
で表すことができる。また、本発明では各領域をベジェ曲面として取り扱っているので、各領域の境界線は3次ベジェ曲線を用いて、
として表すことができるので、(22)式を(21)式に適用した常微分方程式を求めることで曲線部の長さを求めることが可能となる。実際の算出では常微分方程式の解を求めることは難しいので、前進オイラー法による数値演算で求めた。
図17に経路計算処理のフローチャートを示す。
【0063】
次に、織物単位構造変形計算145について説明する。
図18に織物単位構造変形計算145のフローチャートを示す。m×nサイズの組織図W(i,j) {0≦i<m, 0≦j<n}から従来手法(S501)により作成した織物3次元モデルMo (i,j)について、変形処理を行い、変形後の織物3次元モデルM(i,j) (S514)を出力する。この時、指定された変形モードが純曲げ変形モードの場合は曲げ変形計算を、引張変形モードの場合は引張変形計算を実行する(S502)。曲げ変形については経糸方向の純曲げ変形処理(S503)と緯糸方向の純曲げ変形処理(S504)を順次計算する。
【0064】
次に(S502)で指定された変形モードが引張変形の場合の処理について説明する。
変形前の経糸方向および緯糸方向の織物長さをそれぞれLw0およびLf0、変形後の経糸方向および緯糸方向の織物長さをLw1およびLf1、変形前の経糸方向および緯糸方向の糸長さをそれぞれLwy0およびLfy0とおく。
まず、従来手法(S501)により作成した織物3次元モデルMo (i,j)について、各糸の糸長を算出する(S505)。続いて、変形後における経糸方向の織物長さLw1と変形前における経糸方向の糸長さをLwy0を比較(S506)した後、変形後における緯糸方向の織物長さLf1と変形前における緯糸方向の糸長さをLfy0を比較する(S507およびS508)。
【0065】
Lw1≦Lwy0かつLf1≦Lfy0の場合は、モード1の変形挙動、すなわち、経糸方向、緯糸方向共にフェーズ1の変形挙動を示すものと考え、経糸方向について引張変形処理手順1(S509)を実施した後、緯糸方向について引張変形処理手順1(S510)を実施し、変形後の織物3次元モデルとして出力する(S514)。
一方、Lw1≦Lwy0かつLf1>Lfy0の場合は、モード2の変形挙動、すなわち、経糸方向がフェーズ1、緯糸方向がフェーズ2の変形挙動を示すものと考え、経糸方向について引張変形処理手順1(S509)を実施した後、緯糸方向について引張変形処理手順2(S511)を実施し、変形後の織物3次元モデルとして出力する(S514)。
さらに、Lw1>Lwy0かつLf1≦Lfy0の場合は、モード3の変形挙動、すなわち、経糸方向がフェーズ2、緯糸方向がフェーズ1の変形挙動を示すものと考え、経糸方向について引張変形処理手順2(S512)を実施した後、緯糸方向について引張変形処理手順1(S510)を実施し、変形後の織物3次元モデルとして出力する(S514)。
なお、Lw1>Lwy0かつLf1>Lfy0の場合は、モード4の変形挙動、経糸方向、緯糸方向共にフェーズ2の変形挙動と見なすが、この状態は織物構造と矛盾するため、構造限界を超えた領域として取り扱い、親ルーチンへ計算不可であることを通知する(S513)。
【0066】
次に、糸長計算アルゴリズムについて説明する。
上記いずれの処理手順においても、織物中の糸長計算を行っている。糸長計算においては、図19に示すように、糸のクリンプを直線近似して糸長を算出する手法と、図20に示すように、糸のクリンプを直線近似せずに糸長を算出する手法が考えられる。前者では引張変形処理手順1(S509およびS510)において変形後のモデルに誤差が生じるため、後者の糸のクリンプを直線近似せずに糸長を算出する手法を用いる。
本発明では織物中の糸の屈曲を3次ベジェ曲線を用いてモデル化しているので、曲面変形予測計算163で行う各領域の境界線の経路長の計算と同様、図17に示すフローチャートに従い糸長を計算することが可能になる。
【0067】
次に、経糸方向の引張変形処理手順2(S512)および緯糸方向の引張変形処理手順2(S511)のアルゴリズムについて説明する。
経糸方向の引張変形時においてLw1>Lwy0の場合(S512)、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになった後は、引張方向の糸自身の伸張特性に従い織物が伸張される。Lw1>Lwy0の条件下において、経糸方向に織物を伸張率ε1だけ伸張変形を行った場合、組織点W(i, j)における経糸の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}、緯糸の座標を{x2(i, j), y2(i, j), z2(i, j)}とおくと、変形後の経糸座標{x''1(i, j), y''1(i, j), z''1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x''2(i, j), y''2(i, j), z''2(i, j)}は、それぞれ
x''1 (i, j) = x1 (i, j) (23)
y''1 (i, j) = y1 (i, j)・{1 +ε1} (24)
z''1 (i, j) = 0 (25)
x''2 (i, j) = x2 (i, j)・ (26)
y''2 (i, j) = y2 (i, j)・{1 +ε1} (27)
z''2 (i, j) = sgn{W (i, j)-1/2}・{ r1(i) + r2(j) } /2 (28)
となる。
【0068】
図21に引張変形処理手順2のフローチャートを示す。
式(24)と式(26)が図21の(S603)に、式(25)が(S604)に、式(28)が(S605)に相当する。
なお、緯糸方向の引張変形処理手順2(S511)についても、Lf1>Lfy0の条件下において、緯糸方向に織物を伸張率ε2だけ伸張変形を行った場合として取り扱い、組織点W(i, j)における経糸の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}、緯糸の座標を{x2(i, j), y2(i, j), z2(i, j)}とおくと、変形後の経糸座標{x''1(i, j), y''1(i, j), z''1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x''2(i, j), y''2(i, j), z''2(i, j)}は、それぞれ
x''1 (i, j) = x1 (i, j)・{1 +ε2} (29)
y''1 (i, j) = y1 (i, j) (30)
z''1 (i, j) = 0 (31)
x''2 (i, j) = x2 (i, j)・{1 +ε2} (32)
y''2 (i, j) = y2 (i, j) (33)
z''2 (i, j) = sgn{W (i, j)-1/2}・{ r1(i) + r2(j) } /2 (34)
となる。
この場合、式(30)と式(32)が図21の(S603)に、式(31)が(S604)に、式(34)が(S605)に相当する。
【0069】
次に、経糸方向の引張変形処理手順1(S509)および緯糸方向の引張変形処理手順1(S510)のアルゴリズムについて説明する。
図22に引張変形処理手順1のフローチャートを示す。
経糸方向の引張変形時においてLw1≦Lwy0の場合、織物の伸長に伴い、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになる。このとき、引張方向の糸のクリンプ高さが低くなるため、直交する糸が引っ張られる。Lw1≦Lwy0の条件下において、経糸方向に織物を伸張率ε1だけ伸張変形を行った場合、組織点W(i, j)における経糸の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}、緯糸の座標を{x2(i, j), y2(i, j), z2(i, j)}、変形後の経糸座標{x'1(i, j), y'1(i, j), z'1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x'2(i, j), y'2(i, j), z'2(i, j)}とおく。引張変形処理手順1では、引張方向の糸のクリンプ高さhを、引張変形処理手順2の状態における高さh1と単純に伸張率分だけ座標変換を行った状態における高さh2とを極値として考え、その中間状態における変形モデルを順次作成し、最適になる糸高さhを数値演算によって求めるものとする。ここでの数値演算による求解はBrentのアルゴリズムを用いた。
【0070】
まず、変形前の状態における織物3次元モデルMo(i,j)を作成し、Mo(i,j)について図17の処理フローに従い式(24)〜(34)を用いて座標変換を行い、引張変形処理手順2の変換処理を行った織物3次元モデルM1(i,j)を生成(S701)。各経糸の糸長L0(i)を図17に示した手順により計算する(S702)。また、この時の各経糸の高さをh0(i)とおく(S703)。この場合、引張変形処理手順2の処理を行った場合はすべての経糸についてh0(i)= z''1 (i, j)=0となることは明らかである。
【0071】
続いて織物3次元モデルMo(i,j)から図23の処理フローに従い式(35)〜(41)を用いて座標変換を行い、単純に伸張率分だけ座標変換を行った状態の織物3次元モデルM2(i,j)を生成(S704)した後、各経糸の糸長L2(i)を図17に示した手順により計算する(S705)。また、この時の各経糸の高さをh2(i)とおく(S706)。
x''1 (i, j) = x1 (i, j) (35)
y''1 (i, j) = y1 (i, j)・{1 +ε1} (36)
z''1 (i, j) = z1 (i, j) (37)
x''2 (i, j) = x2 (i, j) (38)
y''2 (i, j) = y2 (i, j)・{1 +ε1} (39)
z''2 (i, j) = z2 (i, j) (40)
h2 = |z''1 (i, j)| (41)
この時、最適になる糸クリンプ高さhを数値演算により求めるが、数値演算の境界条件としてはh1<h<h 2が適応される。また、任意のhとなる織物3次元モデルをMh(i,j)とし、この時の糸長さをLy(h)とする。任意のhとなったときの経糸座標{x'''1(i, j), y'''1(i, j), z'''1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x'''2(i, j), y'''2(i, j), z'''2(i, j)}は、それぞれ
x'''1 (i, j) = x1 (i, j) (42)
y'''1 (i, j) = y1 (i, j)・{1 + ε} (43)
z'''1 (i, j) = sgn {W (i, j)-1/2}・h (44)
x'''2 (i, j) = x2 (i, j) (45)
y'''2 (i, j) = y2 (i, j) {1 + ε} (46)
z'''2 (i, j) = z2 (i, j)−sgn {W (i, j)-1/2}・h (47)
となる。
【0072】
変換後、各経糸の糸長Ly(i,h)を図17に示した手順により計算する。任意のhとなる織物3次元モデルを生成する手順を図24に示す。
引張変形処理手順1では織物の伸長に伴い引張方向の糸のクリンプがまっすぐになることから、変形前の糸長はほとんど変化しないと考えることができる。したがって、変形前の糸長と座標変換後の糸長Ly(i,h)との間には
g(i,h) = Ly(i,h)− Ly0 =0 (48)
となる必要があるので、式(42)を満たすhを数値演算によって求める。最適となるhを算出する処理フローを図25に示す。求めたhを用いMo(i,j)から式(42)〜(47)を用いて座標変換を行い、変形後の織物3次元モデルM(i,j)を得る(708)。
Lw1≦Lwy0の条件下において、緯糸方向に織物を伸張率ε2だけ伸張変形を行った場合を元にしている緯糸方向の引張変形処理手順1(S510)についても、経糸方向の引張変形処理手順1(S509)同様の考え方を適用することができる。
【0073】
次に、経糸方向の曲げ変形計算処理(S503)および緯糸方向の曲げ変形計算処理(S504)について説明する。
経糸方向の曲げ変形計算処理(S503)については、織物を経糸方向に曲率半径r1だけ純曲げを行う場合を考える。曲率κ1は定義よりκ1=1/r1となる。この場合、組織点W(i, j)におけるi番目の経糸における変形前の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}とおくと、変形後の座標{xb1(i, j), yb1(i, j), zb1(i, j)}は、それぞれ
θ1=κy1(i, j) (49)
xb1 (i, j)= x1(i, j) (50)
yb1 (i, j)= ( z1(i, j)+ r1 ) sin(θ1) (51)
zb1 (i, j)= −(r1 - ( z1(i, j)+ r1 )) cos(θ1) (52)
となり、組織点W(i, j)におけるj番目の緯糸における変形後の座標{xb2(i, j), yb2(i, j), zb2(i, j)}は、それぞれ
θ2=κy2(i, j) (53)
xb2 (i, j)= x2(i, j) (54)
yb2 (i, j)= ( z2(i, j)+ r1 ) sin(θ2) (55)
zb2 (i, j)= −(r1 - ( z2(i, j)+ r1 )) cos(θ2) (56)
となる。
【0074】
同様に、緯糸方向の曲げ変形計算処理(S504)については、緯糸方向に織物を曲率半径r2だけ純曲げを行う場合を考える。曲率κ2は定義よりκ2=1/r2となる。この場合、組織点W(i, j)におけるi番目の経糸における変形後の座標{xb1(i, j), yb1(i, j), zb1(i, j)}は、それぞれ
θ1=κy1(i, j) (57)
xb1 (i, j)= ( z1(i, j)+ r2 ) sin(θ1) (58)
yb1 (i, j)= y1(i, j) (59)
zb1 (i, j)= −(r2 - ( z1(i, j)+ r2 )) cos(θ1) (60)
となり、組織点W(i, j)におけるj番目の緯糸における変形後の座標{xb2(i, j), yb2(i, j), zb2(i, j)}は、それぞれ
θ2=κy2(i, j) (61)
xb2 (i, j)= ( z2(i, j)+ r2 ) sin(θ2) (62)
yb2 (i, j)= y2(i, j) (63)
zb2 (i, j)= −(r2 - ( z2(i, j)+ r2 )) cos(θ2) (64)
となる。Mo(i,j)から式(49)〜(64)を用いて座標変換を行い、曲げ変形後の織物3次元モデルMb(i,j)を得る(S514)。
【0075】
次に、アプリケーションの作成について説明する。
上記で改良を加えた引張変形計算を行うアルゴリズムを元に変形時の織物3次元モデルを出力するソフトウェアを作成した。なお、ソフトウェアの開発にはMicrosoft(登録商標)VisualBASIC.NET(モデラ部)およびVisualC++.NET(ビュワー部)を使用し、Windows (登録商標)XP上で動作を前提としたソフトウェアとして構築した。
実際に曲面形状の3次元形状データを与えて、指定曲面に変形させた場合の織物の歪み量分布を計算した。計算条件は、経緯とも1/30Nmのポリエステルを使用した織密度経緯とも50本/inchの平織織物とし、図26に示す曲率半径16.7mm(曲率0.06mm-1)の半球面に押し当てた状態の織物形状及び歪み量分布を計算した。
変形後の織物形状を図27に、この時の歪み量分布を図28に示す。これにより、指定曲面に変形したときの織物について、歪み量分布が計算できることが確認された。なお、有限要素法など既存の変形解析手法と併用することで、計算精度の向上や計算処理の高速化が可能であると考えられる。
【0076】
このように、本発明では、織物を曲面形状に加工した時に発生する歪み量を予測するため、織物を複数の微小領域に分割し、各微小領域毎に糸の物性と織物の設計条件から織物内部の3次元構造および微小変形特性を計算し、この結果をマルチスケール解析を応用して重ね合わせ、最終製品の形状に加工した織物全体の歪み量を予測計算することにより、他種類の織物を試行錯誤的に試作することなく、あらゆる素材や太さの糸や設計条件の織物の中から最終製品の形状にした時に、しわや過度の緊張が発生しない最適な織物を設計することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置として機能するコンピュータの電気的構成を示すブロック図である。
【図2】織物の3次元モデル化処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】Peirceモデルにおける交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【図4】図2のモデリング処理の詳細を示すフローチャートである。
【図5】交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【図6】引張変形試験装置で糸の変形特性を試験するための説明図である。
【図7】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験するための説明図である。
【図8】引張変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図9】引張変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図10】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図11】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図12】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図13】糸の圧縮に伴う断面形状のシミュレーション図である。
【図14】(a)は織物を伸張させる前の糸の正面状態図であり、(b)は織物を経糸、緯糸方向同時に25%伸張させた場合の糸の正面状態図である。
【図15】織物を経糸、緯糸方向同時に曲げた場合のシミュレーション図である。
【図16】織物の2軸変形シミュレーションのメインフローチャートである。
【図17】糸長計算のフローチャートである。
【図18】織物の2軸変形シミュレーションのメインフローチャートである。
【図19】Peirceモデルの糸長計算説明図である。
【図20】Peirceモデルの糸長計算説明図である。
【図21】図18のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図22】図18のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図23】図22のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図24】図22のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図25】図22のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図26】織物を押し当てる半球面の斜視図である。
【図27】織物の3次元モデル生成結果を示した出力表示図である。
【図28】織物の歪み量分布を示した出力表示図である。
【符号の説明】
【0078】
1 コンピュータ
30 表示制御部
31 モニタ
40 入力検知部
41 キーボード
42 マウス
50 CPU
60 HDD
61 プログラム記憶エリア
62 データベース記憶エリア
106 モデリング処理
130 立体形状画像
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物の3次元モデルを構築するための方法、及び織物の3次元モデルを構築するための装置に係り、詳しくは、織物を経糸方向と緯糸方向を同時に伸張した場合、あるいは織物を経糸方向と緯糸方向に同時に曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることが可能であり、織物を製品形状に加工した場合にどのように変形するかをシミュレーションすることが可能である織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の発明者らは、3次元コンピュータグラフィックスなどの特殊な知識を必要とせずに、織物限界密度の判定及びそれに基づいた製織の可能性を予測するための織物構造のモデル化方法及び織物構造のモデル化装置を開発し(特許文献1参照)、特許出願している。
また、3次元モデリングされた織物が、例えば指定した伸張率まで変形された場合に、織物構造の再計算を行ない、再計算された織物の3次元モデルを出力するための織物構造の3次元モデル化方法及び織物構造の3次元モデル化装置を開発し(特許文献2参照)、特許出願している。
【0003】
上記特許文献2の織物構造の3次元モデル化方法及び織物構造の3次元モデル化装置は、織物を2軸方向同時に伸張した場合、あるいは織物を2軸方向同時に曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションする領域に至っていない。しかしながら、例えば自動車のシートや内装材などを設計する場合の最近の織物設計分野では、品質向上のために織物の変形特性を予測することが強く求められている。
【特許文献1】特開2006−209706号公報
【特許文献2】特開2006−274521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明では、上記特許文献1の織物構造のモデル化方法及び織物構造のモデル化装置により3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、あるいは2方向同時に曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることが可能であり、織物を製品形状に加工した場合にどのように変形するかをシミュレーションすることが可能である織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、特許請求の範囲の欄に記載した織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置により解決することができ、その請求項1の織物の3次元モデル構築方法は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う工程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する工程と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の伸張率ε1および緯糸方向の伸張率ε2まで2軸伸張させた場合の織物構造を再計算する工程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する工程と、を有することである。
【0006】
また、請求項2は、前記2軸伸張させた場合の織物構造を再計算する工程は、変形前の前記織物の3次元モデルから各伸張方向の糸の織込率を計算し、各方向の伸張率が織込率以下の場合の第1の再計算処理と、各方向の伸張率が織込率以上の場合の第2の再計算処理とのいずれかを自動的に選択して再計算することである。
【0007】
また、請求項3は、前記第1の再計算処理は、織物の各方向の伸張率の増加に伴い織物中の各方向の伸張方向の糸が、屈曲構造から直線構造に移行するとともにクリンプ高さが低くなることから、各伸張方向に対して直交する糸が引っ張られ横方向に縮んでいく現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することである。
【0008】
また、請求項4は、前記第2の再計算処理は、予め測定された糸の応力−ひずみ曲線を基に、織物の伸張率の増加に伴って各方向の糸の伸張率が増加する現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することである。
【0009】
また、請求項5の織物の3次元モデル構築方法は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う工程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する工程と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2まで屈曲させた場合の織物構造を再計算する工程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する工程と、を有することである。
【0010】
また、請求項6の織物の3次元モデル構築方法は、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として、経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割する工程と、分割した各領域に対して請求項1または5に記載の織物構造のモデル化により変形させた状態を計算する工程と、これらを重ね合わせることにより前記指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算する工程と、前記計算された織物の任意の曲面形状全体の3次元モデル、応力分布、歪み量分布を出力する工程と、を有することである。
【0011】
また、請求項7の織物の3次元モデル構築方法は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、任意の間隔で複数の経糸方向の伸張率ε1および複数の緯糸方向の伸張率ε2の組み合わせ時における2軸引張変形下、かつ、複数の経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および複数の緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2の組み合わせ時における2軸純曲げ変形下にある織物の3次元モデルを複数生成し、これらの3次元モデルから応力および歪み量を計算し、これらの値をデータベースに蓄積するとともに、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割し、分割した各領域に対して前記データベースから変形させた状態を計算し、これらを全領域について重ね合わせることにより指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算することである。
【0012】
また、請求項8の織物の3次元モデル構築装置は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の伸張率ε1および緯糸方向の伸張率ε2まで2軸伸張させた場合の織物構造を再計算したうえ、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する再計算3次元モデル出力手段と、を有することである。
【0013】
また、請求項9の織物の3次元モデル構築装置は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2まで屈曲させた場合の織物構造を再計算したうえ、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する屈曲変形3次元モデル出力手段と、を有することである。
【0014】
また、請求項10の織物の3次元モデル構築装置は、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として、経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割する分割手段と、分割した各領域に対して請求項1または5に記載の織物構造のモデル化により変形させた状態を計算する変形状態計算手段と、これらを重ね合わせることにより前記指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算したうえ、前記計算された織物の任意の曲面形状全体の3次元モデル、応力分布、歪み量分布を出力する全域3次元モデル出力手段と、を有することである。
【0015】
また、請求項11の記録媒体は、請求項8に記載した3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、再計算3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録したものである。
【0016】
また、請求項12の記録媒体は、請求項9に記載した3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、屈曲変形3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の織物の3次元モデル構築方法は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う工程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する工程と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の伸張率ε1および緯糸方向の伸張率ε2まで2軸伸張させた場合の織物構造を再計算する工程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する工程と、を有することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0018】
また、前記2軸伸張させた場合の織物構造を再計算する工程は、変形前の前記織物の3次元モデルから各伸張方向の糸の織込率を計算し、各方向の伸張率が織込率以下の場合の第1の再計算処理と、各方向の伸張率が織込率以上の場合の第2の再計算処理とのいずれかを自動的に選択して再計算することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、織物がどのように変形するかを良好に再計算することができる。
【0019】
また、前記第1の再計算処理は、織物の各方向の伸張率の増加に伴い織物中の各方向の伸張方向の糸が、屈曲構造から直線構造に移行するとともにクリンプ高さが低くなることから、各伸張方向に対して直交する糸が引っ張られ横方向に縮んでいく現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、織物がどのように変形するかを良好に再計算することができる。
【0020】
また、前記第2の再計算処理は、予め測定された糸の応力−ひずみ曲線を基に、織物の伸張率の増加に伴って各方向の糸の伸張率が増加する現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、織物がどのように変形するかを良好に再計算することができる。
【0021】
また、本発明の織物の3次元モデル構築方法は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う工程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する工程と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向曲率半径1/κ2まで屈曲させた場合の織物構造を再計算する工程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する工程と、を有することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0022】
また、本発明の織物の3次元モデル構築方法は、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として、経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割する工程と、分割した各領域に対して請求項1または5に記載の織物構造のモデル化により変形させた状態を計算する工程と、これらを重ね合わせることにより前記指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算する工程と、前記計算された織物の任意の曲面形状全体の3次元モデル、応力分布、歪み量分布を出力する工程と、を有することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、あるいは2方向同時に曲げた場合に、任意の曲面形状全体の織物がどのように変形するかをシミュレーションすることが可能であり、織物を製品形状に加工した場合にどのように変形するかをシミュレーションすることが可能である。
【0023】
また、本発明の織物の3次元モデル構築方法は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、任意の間隔で複数の経糸方向の伸張率ε1および複数の緯糸方向の伸張率ε2の組み合わせ時における2軸引張変形下、かつ、複数の経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および複数の緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2の組み合わせ時における2軸純曲げ変形下にある織物の3次元モデルを複数生成し、これらの3次元モデルから応力および歪み量を計算し、これらの値をデータベースに蓄積するとともに、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割し、分割した各領域に対して前記データベースから変形させた状態を計算し、これらを全領域について重ね合わせることにより指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、あるいは2方向同時に曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることが可能であり、織物を製品形状に加工した場合の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布をシミュレーションすることが可能である。
【0024】
また、本発明の織物の3次元モデル構築装置は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の伸張率ε1および緯糸方向の伸張率ε2まで2軸伸張させた場合の織物構造を再計算したうえ、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する再計算3次元モデル出力手段と、を有することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に伸張した場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0025】
また、本発明の織物の3次元モデル構築装置は、織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2まで屈曲させた場合の織物構造を再計算したうえ、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する屈曲変形3次元モデル出力手段と、を有することにより、3次元モデリングされた織物を2方向同時に曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0026】
また、本発明の織物の3次元モデル構築装置は、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として、経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割する分割手段と、分割した各領域に対して請求項1または5に記載の織物構造のモデル化により変形させた状態を計算する変形状態計算手段と、これらを重ね合わせることにより前記指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算したうえ、前記計算された織物の任意の曲面形状全体の3次元モデル、応力分布、歪み量分布を出力する全域3次元モデル出力手段と、を有することにより、織物を製品形状に加工した場合の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布をシミュレーションすることができる。
【0027】
また、3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、再計算3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録した記録媒体によれば、3次元モデリングにより集成された織物が2方向同時に伸張された場合、織物がどのように変形するかを汎用コンピュータ等でシミュレーションすることができる。
【0028】
また、3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、屈曲変形3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録した記録媒体によれば、3次元モデリングにより集成された織物が2方向同時に屈曲された場合、織物がどのように変形するかを汎用コンピュータ等でシミュレーションすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
まず、本発明の織物の3次元モデル構築装置の構成について図1を参照して説明する。
図1に示すように、コンピュータ1は、周知のコンピュータであり、コンピュータ1の制御を司るCPU50が設けられている。このCPU50には、バス55を介し、CPU50が実行するBIOS等のプログラムを記憶したROM51と、データを一時的に記憶するRAM52と、データの記憶媒体であるCD−ROM54を挿入し、データの読み込みを行うCD−ROMドライブ53と、データの記憶装置であるHDD60とが接続されている。HDD60には、モデリングプログラムを始めとするコンピュータ1で実行される各種のプログラムを記憶するプログラム記憶エリア61、プログラムを実行する際に入力される各種データ等の情報を記憶したデータベース記憶エリア62などが設けられている。
【0030】
さらに、CPU50には、バス55を介して、利用者に操作画面やプログラムの実行結果を表示するためのモニタ31の画面表示処理を行う表示制御部30と、利用者が操作の入力を行うキーボード41やマウス42に接続され、それらの入力の検知を行う入力検知部40とが接続されている。
なお、コンピュータ1には、図示外のフレキシブルディスクドライブ、音声等の入出力部、各種インタフェースなどが設けられていても良い。
【0031】
なお、CD−ROM54には、必要なプログラムが組み込まれたソフトウェアや、このプログラムの実行時に使用される設定やデータ等が記憶されており、導入時には、CD−ROM54からHDD60に設けられたプログラム記憶エリア61などに記憶されるようになっている。
なお、コンピュータ1のプログラム及びその使用データ等の取得方法はCD−ROM54によるものに限らず、フレキシブルディスクやMOといった他の記録媒体であっても良く、また、コンピュータ1をネットワークに接続させ、ネットワーク上の他の端末から取得しても良い。
【0032】
次に、以上の構成を有するコンピュータ1において、織物立体構造を表示させるための3次元モデル化処理について、図を参照しながら説明する。
なお、図2は、織物構造の3次元モデル化処理の流れを示すフローチャートであり、図3は、Peirceモデルにおける交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【0033】
一般に、3次元コンピュータグラフィックスで物体の立体形状を表現するには、第1段階として、対象となる物体を点や線、多角形(ポリゴン)などの幾何学的基本要素群に分割し、それぞれの基本要素の3次元空間における座標群を決定する処理が必要となる。その後、第2段階として、この3次元空間の座標群を2次元空間上に変換して表現する処理を行う。前者の処理をモデリングと呼び、後者の処理をレンダリングと呼ぶ。
【0034】
織物組織図から織物を構成している経緯糸の形状を立体的に表現するには、図2に示すように、織物組織図101と糸の太さ102、織密度103、縞104などの織物規格105に関する情報を元に、構成する経緯糸1本ごとに対して織物中での座標を確定しモデリング処理106を行い、織物の3次元形状モデル107を得る。その後、3次元形状モデルを表示する視点121やモデルの回転角度122、光源123などの表示に関する座標情報124を与え、レンダリング処理125を行うことで、立体形状画像130として表現が可能となる。
【0035】
3次元コンピュータグラフィックスでモデリング処理106を行う場合、複数の多角形の組み合わせでモデルを表現するポリゴンモデルの他、スプライン曲線によってモデルを表現する方法、ベジェ曲線やベジェ曲面によりモデルを表現する方法など、様々な方法が存在する。ここでは、比較的少ないパラメータで表現することができる3次ベジェ曲面によるモデル化手法を採用した。
【0036】
この際、モデル構造を表す座標系は、組織図の左下の組織点を座標の原点として考え、緯糸方向がx軸、経糸方向がy軸、厚さ方向がz軸方向となる右手系の座標系として取り扱い、織物の厚さhに対して中間面となる平面がx−y平面となるように考える。経糸は左から右に、緯糸は下から上に順番に整列しているものとし、左端の経糸および下端の緯糸はそれぞれ0番目の経糸および緯糸と考え、それぞれの糸の位置をiおよびjで表す。組織図の情報を表す行列をW (i, j)と定義する。モデリングの対象となる組織として、経糸m本、緯糸n本で一循環組織となる組織図を用いる場合、行列の添字の範囲は0≦i<m, 0≦j<nとなる。また、行列の値には、経浮きの場合には1の値を、経沈みの場合は0の値をとる。
【0037】
モデリング処理106の前提条件として、織物中の糸の構造は、Peirceモデル(Peirce F.T.; "The Geometry of Cloth Structure", J. Text. Inst., 28, T45 (1937))の構造を取るものと仮定する。ここで、Peirceは織物中の経糸および緯糸の太さは、それぞれすべて同じであるとして取り扱っているが、本実施の形態では、図3に示すように、織物の設計条件に従い任意の太さの糸が用いられているものとして考え、左からi番目の経糸の半径をr1(i)、下からj番目の緯糸の半径をr2(j)で表すものとする。同様に経糸および緯糸の直径は、それぞれd1(i)、d2(j)で表す。また、経糸の間隔および緯糸の間隔は、それぞれP1およびP2と表すものとする。
【0038】
さて、織物中の糸をベジェ曲面で表現する場合、糸の断面はベジェ曲線で表すことになる。媒介変数tを用いた n次ベジェ曲線r0(t;n)は、次式(1)で表現することができる。
ここで、Cn・iは2項係数であり、n!/{i!(n-i)!}に等しい。また、piはベジェ曲線の制御点座標を示すベクトルであり、3次元空間ではpi(x,y,z)であり、r0の添字0は最初の制御点がp0であることを示している。最も用いられることの多い3次のベジェ曲線r0(t;3)は、
と表現され、1つの曲線を表現するためにp0、p1、p2、p3の4点の制御点を与える必要がある。
【0039】
一方、媒介変数uおよびvを用いた3×3次のベジェ曲面s00(u,v;3,3)は、次式で表現される。
ここで、pi,jはベジェ曲線の場合と同様、ベジェ曲面の制御点座標であり、s00の添字00は最初の制御点がp0,0であることを示している。4辺よりなる1つの曲面を表現するためには4×4の制御点群が必要となる。従って、Peirceモデルにおける単位格子内の糸の屈曲を表現するには、12枚のベジェ曲面が必要となり、120点の座標点を用い192点の制御点の座標を指定しベジェ曲面を作成することで、織物中での糸の立体形状を決定することが可能となる。
【0040】
以上を前提として、3次ベジェ曲面によりモデリング処理106を実行する処理の詳細について図4および図5を参照して説明する。
図4は、図2のモデリング処理106の詳細を示すフローチャートであり、図5は、交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【0041】
まず、ベジェ曲面を用いて糸の屈曲状態を示すには、組織点(i, j)における糸の座標をあらかじめ求め、この座標からベジェ曲面の制御点座標群を求める必要がある。特に、組織点(i, j)における糸のz座標については、組織図の情報に従い糸の上下関係を決めなければならない。そこで、まず、経糸のx座標x1 (i, j)、y座標y1 (i, j)、緯糸のx座標x2 (i, j)およびy座標y2 (i, j)を求める(S201)。ここで、i番目の経糸とi-1番目の経糸との間隔をP1(i)、j番目の緯糸とj-1番目の緯糸との間隔をP2(j)とおく。組織点(i, j)における経糸のx座標x1 (i, j)、y座標y1 (i, j)、緯糸のx座標x2 (i, j)およびy座標y2 (i, j)は、それぞれ次式で表すことができる。
【0042】
一方、組織点(i, j)における糸のz座標については、三原組織などの平面的な織物であるか、二重織などの多層構造組織や、蜂巣織のような立体的な構造を持つ組織であるかにより異なる。後者の場合には、浮き糸組織数の大小が糸の高さに影響を及ぼしているためである。そこで、z座標を求める前に、まず、浮き糸組織数から相対高さの計算を行い(S202)、この算出結果に従って組織点における制御点座標を算出する。
【0043】
i番目の経糸の浮き糸組織数F1(i)は次式で求められ、F1は各要素が0からnの間の整数値をとる数列となる。
【0044】
一方、織物中の相対高さをH1(i)とすると、H1(i)は数列F1より次式で求められる。
ここで、min(s)は数列sの最小値、max(s)は最大値を返す関数である。式(7)はmax(F1) ≠min(F1)の場合で有効であるが、max(F1)=min(F1)の場合は織物中の全経糸の相対高さが同じであると考えることができるので、
と考えることができる。求められる相対高さH1(i)の範囲は-0.5≦H1(i) ≦0.5となり、織物の厚さhから次式で織物中の糸の高さh1(i)を求めることができる。
【0045】
また、緯糸の場合も経糸と同様に、j番目の緯糸の浮き糸組織数をF2(j)は、
となり、織物中の緯糸の相対高さH2(j)は、max(F2)≠min(F2)の場合、
max(F2)=min(F2)の場合、
となる。また、織物中の緯糸の高さh2(j)は、次式のように求められる。
【0046】
以上のようにして求められた糸の高さに基づき、織物中のすべての糸が同じ高さであるか、すなわち平面的な織物であるか否かを判断する(S203)。すべての糸が同じ高さである場合は(S203:YES)、組織点(i, j)における経糸のz座標z1 (i, j)および緯糸のz座標z2 (i, j)は、図5に示すように、織物の厚さhに対して中間面となるx−y平面から経糸の糸軸中心までの距離は緯糸の半径r2に相当するので、次の式(14)および式(15)から組織点(i, j)における糸のz座標を求めることが可能である(S204)。
ここで、sgn(x)はsgn(x) = {1 (x>0)} , {-1 (x<0)} で定義される符号関数である。
【0047】
一方、織物中で糸の高さが異なる場合は(S203:NO)、上記式(14)および式(15)からは糸のz座標を求めることができなくなる。そこで、S202で求めた織物中の経糸の高さh1(i)および緯糸の高さh2(j)を用いて糸のz座標を求める必要がある。
【0048】
まず、組織点(i, j)において、交錯するi番目の経糸とj番目の緯糸の高さが同じであるか否かを判断する(S205)。i番目の経糸とj番目の緯糸の高さが同じである場合、すなわち、h1(i)=h2(j)の場合には(S205:YES)、経糸のz座標z1 (i, j)および緯糸のz座標z2 (i, j)は式(14)および式(15)より、以下の式(16)及び(17)のようになる。
【0049】
また、交錯するi番目の経糸とj番目の緯糸の高さが異なる場合、すなわち、h1(i)≠h2(j)の場合には(S205:NO)、まず、S202で求めた糸の相対高さと、当該経糸及び緯糸の半径との間の関係を調べることにより、糸の干渉が発生している可能性をチェックする(S207)。ここでは、次式が成り立つ場合、経糸と緯糸は干渉していないと考えることができる(S207:YES)。
【0050】
式(18)が成り立つ場合には(S207:YES)、次に、組織図上の経糸と緯糸の上下関係と、S202で求めた糸の相対高さとが一致しているかどうかを、行列W (i, j)の値と相対高さの値の差との関係を調べることにより判断する(S208,S209,S210)。
【0051】
式(18)が成り立つ場合において、経浮き、すなわちW (i, j)=1(S208:YES)かつ、経糸の高さが緯糸より高い、すなわちh1(i)>h2(j)の場合(S209:YES)、または、緯浮き、すなわちW (i, j)=0(S208:NO)、かつ、緯糸の高さが経糸より高い、すなわちh1(i)<h2(j)の場合(S210:YES)には、組織図で指定された糸の上下関係とh1(i)とh2(j)の大小関係が一致しているといえる。従って、h1(i)およびh2(j)をそれぞれ経糸および緯糸のz座標とすれば良く(S211)、次式で表すことができる。
【0052】
上記の条件以外では(S208:NO,S210:NO、または、S208:YES,S209:NO)、経糸と緯糸は干渉しているか、組織図で指定された上下関係とは逆の位置関係となっているので、干渉が発生しているかどうかの判定と、発生していた場合は、干渉回避処理を実行する干渉判定・回避処理(S212、S213)に進む。
なお、干渉判定・回避処理の詳細については、既に出願済みの特許(特願2005−24609)で詳しく説明しているので、ここではその説明を省略する。そして、モデリング処理を完了して図2の処理に戻る。
【0053】
次に、3次元モデリングされた織物を引張り及び曲げた場合の変形シミュレーションの説明に移る前に、織物を構成する糸の変形特性について検討する。
引張りなど織物の変形特性には、それを構成する糸の引張および圧縮挙動が大きく影響することは多くの研究者が報告している。従って、織物変形のシミュレーションを実施するには糸の外力による形状の変形特性を知る必要があるので、ポリエステルマルチフィラメント糸の引張変形および圧縮変形の測定を行った。
図6に示すような引張変形試験装置301を用い、チャック間距離200mm、引張速度 20cm/minで糸の引張試験を行い、この時の外径の変化を図7に示したレーザー式外径変位センサ302で測定するとともに、圧縮変形試験装置303で圧縮変形試験をした。圧縮変形については、ガラス板に挟んだ糸に対し上方向から荷重を加え、糸の上方向から観測した太さ変化をビデオマイクロスコープで、側面方向から観測した太さ変化をレーザー変位計を用いて測定した。この時の荷重は電子天秤で測定した。上記の引張試験結果を図8および図9に示す。
【0054】
図8は、撚係数が同じ(33.8)で線密度が異なるときの試験結果である。また図9は、線密度が同じ(300D)で撚係数が異なるときの試験結果である。
張力の増加により外径は小さくなっていくが、あるところから張力を大きくしても外径はそれほど変化しなくなる。これは、低張力状態では繊維間の空隙が大きく、空隙が限界に近づくと外径の変化が見られなくなるためであると考えられる。また、撚係数が大きくなれば低張力状態ですでに空隙が小さくなっているため、外径変化も小さいものと考えられる。
【0055】
次に、前述の圧縮試験結果を図10〜図12に示す。
横軸は糸の単位長さあたりの圧縮荷重(cN/mm)、縦軸は初期の糸断面を円形と仮定しその直径d0に対する圧縮時の太さd1との比を示す。図10は、撚係数を33.8と共通とし、番手が異なる糸の実験結果である。また図11は、番手を300Dと共通とした場合の撚係数が異なる場合の実験結果である。いずれも初期張力は9.8cNとした。また図12は、番手(300D)、撚係数(33.8)とも同じで初期張力が異なる糸の実験結果である。図10、11、12とも低圧縮荷重では圧縮荷重の増加により、太さ、厚みとも大きく変化するが、高圧縮荷重では太さ、厚みとも変化が小さい。図10から番手が異なっても太さ、厚みとも変化の割合はほぼ同じなので、番手は圧縮特性に影響を与えないことがわかる。図11から撚係数が大きい糸の方が撚係数の小さい糸に比べて太さ、厚みとも変化の割合が小さいので、撚係数は圧縮特性に影響を与えている。また図12では初期張力が大きくなると太さ、厚みとも変化の割合は小さくなっていき、高張力状態では太さ、厚みとも変化の割合がほとんど変わらない事が確認された。
以上より、伸長張力の変化や撚係数の違いにより糸中の繊維空隙が変化し、この構造の違いにより圧縮特性が異なるものと考えられる。
【0056】
本試験では上方からの圧縮を行ったため、圧縮時の断面を試料糸を切断し観測したところ、断面形状は上下非対称な結果が得られた。このことは、糸が連続体ではなく繊維の集合体である事に起因すると考えられ、圧縮に伴う糸中の繊維の移動をシミュレートするソフトを作成し、糸断面の変形挙動を再現した結果、図13に示すように、実際の圧縮時の断面形状に近い形状を得ることができた。この糸変形シミュレーション手法を用いることで、織物の非変形時における織物中の糸の形状をシミュレートすることが可能になる。
【0057】
次に、外力に伴い、糸形状を変化させた織物変形のシミュレーションを実現するために糸形状を反映させた衝突・変形判定を加えた変形処理アルゴリズムを構築した。
既に出願済みの特許(特開2006−274521号公報)では経糸方向及び緯糸方向についての1軸伸張変形をモデル化していた。この変形については、以下の2段階の挙動をモデル化した。
フェーズ1:織物の伸長に伴い、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになる。このとき、引張方向の糸のクリンプ高さが低くなるため、直交する糸が引っ張られ、横方向に縮んでいく。
フェーズ2:引張方向の糸のクリンプがまっすぐになった後は、引張方向の糸自身の伸張特性に従い織物が伸張される。
【0058】
これに対し本発明は2軸伸張の場合を想定しており、この場合でも同様に経糸方向、緯糸方向それぞれ2段階の変形挙動を示すものと考えられ、変形挙動は以下の4種のモードが考えられる。
モード1:経糸方向、緯糸方向共にフェーズ1の変形挙動
モード2:経糸方向がフェーズ1、緯糸方向がフェーズ2の変形挙動
モード3:経糸方向がフェーズ2、緯糸方向がフェーズ1の変形挙動
モード4:経糸方向、緯糸方向共にフェーズ2の変形挙動
この時、モード1は経緯曲がり構造、モード2は経曲がり構造、モード3は緯曲がり構造をとる。また、モード4は織物構造と矛盾するため、モード1〜モード3の変形挙動のみ考え、モード4の変形は構造限界を超えた領域として取り扱う。
【0059】
図14(a)は、織物の伸張前の正面図であり、図14(b)は、織物を経糸方向、緯糸方向について同時に25%伸張した場合の正面図である。また、曲げの場合、曲げについては従来手法では曲面に接する円から曲率半径を取り扱っていたが、曲面に接する球として曲率半径を取り扱い、曲げ方向に対し、曲げの外側では引張応力が、曲げの内側では圧縮応力が加わるので、曲げ方向に直交する糸の断面に対して変形させる処理を加え、2軸方向の曲げに対応した。
図15に織物の2軸曲げの変形計算例を示す。
【0060】
本発明の出願に際して、前述のように織物変形の基礎パラメータとなる糸の引張変形および圧縮変形特性の検討を行い、糸の番手や撚係数などの糸の構造パラメータが糸の引張時及び圧縮時における形状変化に及ぼす影響について解析を行った。
その結果、伸長張力の変化や撚係数の違いにより糸中の繊維空隙が変化し、この構造の違いにより圧縮特性が異なることが確認された。上記で測定した糸の変形挙動を元に、引張および曲げ変形時の織物構造の変化に従い3次元モデルの再構築を行う3次元モデリングアルゴリズムを新たに構築した。この結果、変形時における織物の、内部構造の3次元モデル化が可能となり、糸の変形特性と変形時における織物の3次元シミュレーション手法を応用することで、織物設計におけるCAEの実現ができ、資材用織物など最終用途で必要とされる高機能な特性を実現するための高度な織物設計が可能になると考えられる。
【0061】
織物変形のシミュレーションを実現するために、図2の織物構造の3次元モデル化処理を改良し、変形処理アルゴリズムを構築した。アルゴリズムのフローチャートを図16に示す。
織物組織図101と与えられた織物の設計情報105から、モデリング処理106により織物の3次元単位構造モデル107を生成する。生成した織物の3次元単位構造モデル107に対して、あらかじめ伸張率ε1およびε2(141)、曲率κ1およびκ2(142)について条件分割数neおよびnr(143)で指定した個数の変形条件を与えて織物単位構造変形計算145によりne×ne個の引張モデルデータおよびnr×nr個の曲げモデルデータを蓄積した織物単位構造変形データベース150を作成する。
続いて、製品形成後の曲面情報を汎用3次元CADなどで作成した3次元CADデータ161として準備する。読み込んだ製品形状のCADデータ161から対象曲面をベジェ曲面に変換し、織物組織1循環のサイズ毎にベジェ曲面の分割法則に従い曲面分割処理162を行い、経糸方向s1個、緯糸方向s2個の計s1×s2個の領域に分割する。ベジェ曲面の分割法則にはde Casteljauのアルゴリズムを使用する。分割した計s1×s2個の微小領域に対して、各領域の境界線の経路長および領域中心点における曲率を計算し、曲面変形予測計算163により3次元CADデータ161の形状に形成した場合の織物の変形形状を求める。曲面変形予測計算163では織物単位構造変形データベース150から各領域の境界線の経路長および領域中心点における曲率の3次元単位構造モデル107を検索し出力。これらを全領域について重ね合わせることにより、曲面全体の変形形状を求めることができる。
【0062】
曲面変形予測計算163で行う各領域の境界線の経路長の計算について説明する。
一般に、媒介変数表示 となる空間曲線の区間 の長さは、
で表すことができる。また、本発明では各領域をベジェ曲面として取り扱っているので、各領域の境界線は3次ベジェ曲線を用いて、
として表すことができるので、(22)式を(21)式に適用した常微分方程式を求めることで曲線部の長さを求めることが可能となる。実際の算出では常微分方程式の解を求めることは難しいので、前進オイラー法による数値演算で求めた。
図17に経路計算処理のフローチャートを示す。
【0063】
次に、織物単位構造変形計算145について説明する。
図18に織物単位構造変形計算145のフローチャートを示す。m×nサイズの組織図W(i,j) {0≦i<m, 0≦j<n}から従来手法(S501)により作成した織物3次元モデルMo (i,j)について、変形処理を行い、変形後の織物3次元モデルM(i,j) (S514)を出力する。この時、指定された変形モードが純曲げ変形モードの場合は曲げ変形計算を、引張変形モードの場合は引張変形計算を実行する(S502)。曲げ変形については経糸方向の純曲げ変形処理(S503)と緯糸方向の純曲げ変形処理(S504)を順次計算する。
【0064】
次に(S502)で指定された変形モードが引張変形の場合の処理について説明する。
変形前の経糸方向および緯糸方向の織物長さをそれぞれLw0およびLf0、変形後の経糸方向および緯糸方向の織物長さをLw1およびLf1、変形前の経糸方向および緯糸方向の糸長さをそれぞれLwy0およびLfy0とおく。
まず、従来手法(S501)により作成した織物3次元モデルMo (i,j)について、各糸の糸長を算出する(S505)。続いて、変形後における経糸方向の織物長さLw1と変形前における経糸方向の糸長さをLwy0を比較(S506)した後、変形後における緯糸方向の織物長さLf1と変形前における緯糸方向の糸長さをLfy0を比較する(S507およびS508)。
【0065】
Lw1≦Lwy0かつLf1≦Lfy0の場合は、モード1の変形挙動、すなわち、経糸方向、緯糸方向共にフェーズ1の変形挙動を示すものと考え、経糸方向について引張変形処理手順1(S509)を実施した後、緯糸方向について引張変形処理手順1(S510)を実施し、変形後の織物3次元モデルとして出力する(S514)。
一方、Lw1≦Lwy0かつLf1>Lfy0の場合は、モード2の変形挙動、すなわち、経糸方向がフェーズ1、緯糸方向がフェーズ2の変形挙動を示すものと考え、経糸方向について引張変形処理手順1(S509)を実施した後、緯糸方向について引張変形処理手順2(S511)を実施し、変形後の織物3次元モデルとして出力する(S514)。
さらに、Lw1>Lwy0かつLf1≦Lfy0の場合は、モード3の変形挙動、すなわち、経糸方向がフェーズ2、緯糸方向がフェーズ1の変形挙動を示すものと考え、経糸方向について引張変形処理手順2(S512)を実施した後、緯糸方向について引張変形処理手順1(S510)を実施し、変形後の織物3次元モデルとして出力する(S514)。
なお、Lw1>Lwy0かつLf1>Lfy0の場合は、モード4の変形挙動、経糸方向、緯糸方向共にフェーズ2の変形挙動と見なすが、この状態は織物構造と矛盾するため、構造限界を超えた領域として取り扱い、親ルーチンへ計算不可であることを通知する(S513)。
【0066】
次に、糸長計算アルゴリズムについて説明する。
上記いずれの処理手順においても、織物中の糸長計算を行っている。糸長計算においては、図19に示すように、糸のクリンプを直線近似して糸長を算出する手法と、図20に示すように、糸のクリンプを直線近似せずに糸長を算出する手法が考えられる。前者では引張変形処理手順1(S509およびS510)において変形後のモデルに誤差が生じるため、後者の糸のクリンプを直線近似せずに糸長を算出する手法を用いる。
本発明では織物中の糸の屈曲を3次ベジェ曲線を用いてモデル化しているので、曲面変形予測計算163で行う各領域の境界線の経路長の計算と同様、図17に示すフローチャートに従い糸長を計算することが可能になる。
【0067】
次に、経糸方向の引張変形処理手順2(S512)および緯糸方向の引張変形処理手順2(S511)のアルゴリズムについて説明する。
経糸方向の引張変形時においてLw1>Lwy0の場合(S512)、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになった後は、引張方向の糸自身の伸張特性に従い織物が伸張される。Lw1>Lwy0の条件下において、経糸方向に織物を伸張率ε1だけ伸張変形を行った場合、組織点W(i, j)における経糸の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}、緯糸の座標を{x2(i, j), y2(i, j), z2(i, j)}とおくと、変形後の経糸座標{x''1(i, j), y''1(i, j), z''1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x''2(i, j), y''2(i, j), z''2(i, j)}は、それぞれ
x''1 (i, j) = x1 (i, j) (23)
y''1 (i, j) = y1 (i, j)・{1 +ε1} (24)
z''1 (i, j) = 0 (25)
x''2 (i, j) = x2 (i, j)・ (26)
y''2 (i, j) = y2 (i, j)・{1 +ε1} (27)
z''2 (i, j) = sgn{W (i, j)-1/2}・{ r1(i) + r2(j) } /2 (28)
となる。
【0068】
図21に引張変形処理手順2のフローチャートを示す。
式(24)と式(26)が図21の(S603)に、式(25)が(S604)に、式(28)が(S605)に相当する。
なお、緯糸方向の引張変形処理手順2(S511)についても、Lf1>Lfy0の条件下において、緯糸方向に織物を伸張率ε2だけ伸張変形を行った場合として取り扱い、組織点W(i, j)における経糸の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}、緯糸の座標を{x2(i, j), y2(i, j), z2(i, j)}とおくと、変形後の経糸座標{x''1(i, j), y''1(i, j), z''1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x''2(i, j), y''2(i, j), z''2(i, j)}は、それぞれ
x''1 (i, j) = x1 (i, j)・{1 +ε2} (29)
y''1 (i, j) = y1 (i, j) (30)
z''1 (i, j) = 0 (31)
x''2 (i, j) = x2 (i, j)・{1 +ε2} (32)
y''2 (i, j) = y2 (i, j) (33)
z''2 (i, j) = sgn{W (i, j)-1/2}・{ r1(i) + r2(j) } /2 (34)
となる。
この場合、式(30)と式(32)が図21の(S603)に、式(31)が(S604)に、式(34)が(S605)に相当する。
【0069】
次に、経糸方向の引張変形処理手順1(S509)および緯糸方向の引張変形処理手順1(S510)のアルゴリズムについて説明する。
図22に引張変形処理手順1のフローチャートを示す。
経糸方向の引張変形時においてLw1≦Lwy0の場合、織物の伸長に伴い、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになる。このとき、引張方向の糸のクリンプ高さが低くなるため、直交する糸が引っ張られる。Lw1≦Lwy0の条件下において、経糸方向に織物を伸張率ε1だけ伸張変形を行った場合、組織点W(i, j)における経糸の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}、緯糸の座標を{x2(i, j), y2(i, j), z2(i, j)}、変形後の経糸座標{x'1(i, j), y'1(i, j), z'1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x'2(i, j), y'2(i, j), z'2(i, j)}とおく。引張変形処理手順1では、引張方向の糸のクリンプ高さhを、引張変形処理手順2の状態における高さh1と単純に伸張率分だけ座標変換を行った状態における高さh2とを極値として考え、その中間状態における変形モデルを順次作成し、最適になる糸高さhを数値演算によって求めるものとする。ここでの数値演算による求解はBrentのアルゴリズムを用いた。
【0070】
まず、変形前の状態における織物3次元モデルMo(i,j)を作成し、Mo(i,j)について図17の処理フローに従い式(24)〜(34)を用いて座標変換を行い、引張変形処理手順2の変換処理を行った織物3次元モデルM1(i,j)を生成(S701)。各経糸の糸長L0(i)を図17に示した手順により計算する(S702)。また、この時の各経糸の高さをh0(i)とおく(S703)。この場合、引張変形処理手順2の処理を行った場合はすべての経糸についてh0(i)= z''1 (i, j)=0となることは明らかである。
【0071】
続いて織物3次元モデルMo(i,j)から図23の処理フローに従い式(35)〜(41)を用いて座標変換を行い、単純に伸張率分だけ座標変換を行った状態の織物3次元モデルM2(i,j)を生成(S704)した後、各経糸の糸長L2(i)を図17に示した手順により計算する(S705)。また、この時の各経糸の高さをh2(i)とおく(S706)。
x''1 (i, j) = x1 (i, j) (35)
y''1 (i, j) = y1 (i, j)・{1 +ε1} (36)
z''1 (i, j) = z1 (i, j) (37)
x''2 (i, j) = x2 (i, j) (38)
y''2 (i, j) = y2 (i, j)・{1 +ε1} (39)
z''2 (i, j) = z2 (i, j) (40)
h2 = |z''1 (i, j)| (41)
この時、最適になる糸クリンプ高さhを数値演算により求めるが、数値演算の境界条件としてはh1<h<h 2が適応される。また、任意のhとなる織物3次元モデルをMh(i,j)とし、この時の糸長さをLy(h)とする。任意のhとなったときの経糸座標{x'''1(i, j), y'''1(i, j), z'''1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x'''2(i, j), y'''2(i, j), z'''2(i, j)}は、それぞれ
x'''1 (i, j) = x1 (i, j) (42)
y'''1 (i, j) = y1 (i, j)・{1 + ε} (43)
z'''1 (i, j) = sgn {W (i, j)-1/2}・h (44)
x'''2 (i, j) = x2 (i, j) (45)
y'''2 (i, j) = y2 (i, j) {1 + ε} (46)
z'''2 (i, j) = z2 (i, j)−sgn {W (i, j)-1/2}・h (47)
となる。
【0072】
変換後、各経糸の糸長Ly(i,h)を図17に示した手順により計算する。任意のhとなる織物3次元モデルを生成する手順を図24に示す。
引張変形処理手順1では織物の伸長に伴い引張方向の糸のクリンプがまっすぐになることから、変形前の糸長はほとんど変化しないと考えることができる。したがって、変形前の糸長と座標変換後の糸長Ly(i,h)との間には
g(i,h) = Ly(i,h)− Ly0 =0 (48)
となる必要があるので、式(42)を満たすhを数値演算によって求める。最適となるhを算出する処理フローを図25に示す。求めたhを用いMo(i,j)から式(42)〜(47)を用いて座標変換を行い、変形後の織物3次元モデルM(i,j)を得る(708)。
Lw1≦Lwy0の条件下において、緯糸方向に織物を伸張率ε2だけ伸張変形を行った場合を元にしている緯糸方向の引張変形処理手順1(S510)についても、経糸方向の引張変形処理手順1(S509)同様の考え方を適用することができる。
【0073】
次に、経糸方向の曲げ変形計算処理(S503)および緯糸方向の曲げ変形計算処理(S504)について説明する。
経糸方向の曲げ変形計算処理(S503)については、織物を経糸方向に曲率半径r1だけ純曲げを行う場合を考える。曲率κ1は定義よりκ1=1/r1となる。この場合、組織点W(i, j)におけるi番目の経糸における変形前の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}とおくと、変形後の座標{xb1(i, j), yb1(i, j), zb1(i, j)}は、それぞれ
θ1=κy1(i, j) (49)
xb1 (i, j)= x1(i, j) (50)
yb1 (i, j)= ( z1(i, j)+ r1 ) sin(θ1) (51)
zb1 (i, j)= −(r1 - ( z1(i, j)+ r1 )) cos(θ1) (52)
となり、組織点W(i, j)におけるj番目の緯糸における変形後の座標{xb2(i, j), yb2(i, j), zb2(i, j)}は、それぞれ
θ2=κy2(i, j) (53)
xb2 (i, j)= x2(i, j) (54)
yb2 (i, j)= ( z2(i, j)+ r1 ) sin(θ2) (55)
zb2 (i, j)= −(r1 - ( z2(i, j)+ r1 )) cos(θ2) (56)
となる。
【0074】
同様に、緯糸方向の曲げ変形計算処理(S504)については、緯糸方向に織物を曲率半径r2だけ純曲げを行う場合を考える。曲率κ2は定義よりκ2=1/r2となる。この場合、組織点W(i, j)におけるi番目の経糸における変形後の座標{xb1(i, j), yb1(i, j), zb1(i, j)}は、それぞれ
θ1=κy1(i, j) (57)
xb1 (i, j)= ( z1(i, j)+ r2 ) sin(θ1) (58)
yb1 (i, j)= y1(i, j) (59)
zb1 (i, j)= −(r2 - ( z1(i, j)+ r2 )) cos(θ1) (60)
となり、組織点W(i, j)におけるj番目の緯糸における変形後の座標{xb2(i, j), yb2(i, j), zb2(i, j)}は、それぞれ
θ2=κy2(i, j) (61)
xb2 (i, j)= ( z2(i, j)+ r2 ) sin(θ2) (62)
yb2 (i, j)= y2(i, j) (63)
zb2 (i, j)= −(r2 - ( z2(i, j)+ r2 )) cos(θ2) (64)
となる。Mo(i,j)から式(49)〜(64)を用いて座標変換を行い、曲げ変形後の織物3次元モデルMb(i,j)を得る(S514)。
【0075】
次に、アプリケーションの作成について説明する。
上記で改良を加えた引張変形計算を行うアルゴリズムを元に変形時の織物3次元モデルを出力するソフトウェアを作成した。なお、ソフトウェアの開発にはMicrosoft(登録商標)VisualBASIC.NET(モデラ部)およびVisualC++.NET(ビュワー部)を使用し、Windows (登録商標)XP上で動作を前提としたソフトウェアとして構築した。
実際に曲面形状の3次元形状データを与えて、指定曲面に変形させた場合の織物の歪み量分布を計算した。計算条件は、経緯とも1/30Nmのポリエステルを使用した織密度経緯とも50本/inchの平織織物とし、図26に示す曲率半径16.7mm(曲率0.06mm-1)の半球面に押し当てた状態の織物形状及び歪み量分布を計算した。
変形後の織物形状を図27に、この時の歪み量分布を図28に示す。これにより、指定曲面に変形したときの織物について、歪み量分布が計算できることが確認された。なお、有限要素法など既存の変形解析手法と併用することで、計算精度の向上や計算処理の高速化が可能であると考えられる。
【0076】
このように、本発明では、織物を曲面形状に加工した時に発生する歪み量を予測するため、織物を複数の微小領域に分割し、各微小領域毎に糸の物性と織物の設計条件から織物内部の3次元構造および微小変形特性を計算し、この結果をマルチスケール解析を応用して重ね合わせ、最終製品の形状に加工した織物全体の歪み量を予測計算することにより、他種類の織物を試行錯誤的に試作することなく、あらゆる素材や太さの糸や設計条件の織物の中から最終製品の形状にした時に、しわや過度の緊張が発生しない最適な織物を設計することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置として機能するコンピュータの電気的構成を示すブロック図である。
【図2】織物の3次元モデル化処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】Peirceモデルにおける交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【図4】図2のモデリング処理の詳細を示すフローチャートである。
【図5】交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【図6】引張変形試験装置で糸の変形特性を試験するための説明図である。
【図7】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験するための説明図である。
【図8】引張変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図9】引張変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図10】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図11】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図12】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図13】糸の圧縮に伴う断面形状のシミュレーション図である。
【図14】(a)は織物を伸張させる前の糸の正面状態図であり、(b)は織物を経糸、緯糸方向同時に25%伸張させた場合の糸の正面状態図である。
【図15】織物を経糸、緯糸方向同時に曲げた場合のシミュレーション図である。
【図16】織物の2軸変形シミュレーションのメインフローチャートである。
【図17】糸長計算のフローチャートである。
【図18】織物の2軸変形シミュレーションのメインフローチャートである。
【図19】Peirceモデルの糸長計算説明図である。
【図20】Peirceモデルの糸長計算説明図である。
【図21】図18のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図22】図18のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図23】図22のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図24】図22のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図25】図22のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図26】織物を押し当てる半球面の斜視図である。
【図27】織物の3次元モデル生成結果を示した出力表示図である。
【図28】織物の歪み量分布を示した出力表示図である。
【符号の説明】
【0078】
1 コンピュータ
30 表示制御部
31 モニタ
40 入力検知部
41 キーボード
42 マウス
50 CPU
60 HDD
61 プログラム記憶エリア
62 データベース記憶エリア
106 モデリング処理
130 立体形状画像
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う工程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する工程と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の伸張率ε1および緯糸方向の伸張率ε2まで2軸伸張させた場合の織物構造を再計算する工程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する工程と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築方法。
【請求項2】
前記2軸伸張させた場合の織物構造を再計算する工程は、変形前の前記織物の3次元モデルから各伸張方向の糸の織込率を計算し、各方向の伸張率が織込率以下の場合の第1の再計算処理と、各方向の伸張率が織込率以上の場合の第2の再計算処理とのいずれかを自動的に選択して再計算することを特徴とする請求項1に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項3】
前記第1の再計算処理は、織物の各方向の伸張率の増加に伴い織物中の各方向の伸張方向の糸が、屈曲構造から直線構造に移行するとともにクリンプ高さが低くなることから、各伸張方向に対して直交する糸が引っ張られ横方向に縮んでいく現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することを特徴とする請求項2に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項4】
前記第2の再計算処理は、予め測定された糸の応力−ひずみ曲線を基に、織物の伸張率の増加に伴って各方向の糸の伸張率が増加する現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することを特徴とする請求項2に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項5】
織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う工程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する工程と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2まで屈曲させた場合の織物構造を再計算する工程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する工程と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築方法。
【請求項6】
指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として、経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割する工程と、分割した各領域に対して請求項1または5に記載の織物構造のモデル化により変形させた状態を計算する工程と、これらを重ね合わせることにより前記指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算する工程と、前記計算された織物の任意の曲面形状全体の3次元モデル、応力分布、歪み量分布を出力する工程と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築方法。
【請求項7】
織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、任意の間隔で複数の経糸方向の伸張率ε1および複数の緯糸方向の伸張率ε2の組み合わせ時における2軸引張変形下、かつ、複数の経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および複数の緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2の組み合わせ時における2軸純曲げ変形下にある織物の3次元モデルを複数生成し、これらの3次元モデルから応力および歪み量を計算し、これらの値をデータベースに蓄積するとともに、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割し、分割した各領域に対して前記データベースから変形させた状態を計算し、これらを全領域について重ね合わせることにより指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算することを特徴とする請求項6に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項8】
織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の伸張率ε1および緯糸方向の伸張率ε2まで2軸伸張させた場合の織物構造を再計算したうえ、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する再計算3次元モデル出力手段と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築装置。
【請求項9】
織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2まで屈曲させた場合の織物構造を再計算したうえ、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する屈曲変形3次元モデル出力手段と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築装置。
【請求項10】
指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として、経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割する分割手段と、分割した各領域に対して請求項1または5に記載の織物構造のモデル化により変形させた状態を計算する変形状態計算手段と、これらを重ね合わせることにより前記指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算したうえ、前記計算された織物の任意の曲面形状全体の3次元モデル、応力分布、歪み量分布を出力する全域3次元モデル出力手段と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築装置。
【請求項11】
請求項8に記載した3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、再計算3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録した記録媒体。
【請求項12】
請求項9に記載した3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、屈曲変形3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録した記録媒体。
【請求項1】
織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う工程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する工程と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の伸張率ε1および緯糸方向の伸張率ε2まで2軸伸張させた場合の織物構造を再計算する工程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する工程と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築方法。
【請求項2】
前記2軸伸張させた場合の織物構造を再計算する工程は、変形前の前記織物の3次元モデルから各伸張方向の糸の織込率を計算し、各方向の伸張率が織込率以下の場合の第1の再計算処理と、各方向の伸張率が織込率以上の場合の第2の再計算処理とのいずれかを自動的に選択して再計算することを特徴とする請求項1に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項3】
前記第1の再計算処理は、織物の各方向の伸張率の増加に伴い織物中の各方向の伸張方向の糸が、屈曲構造から直線構造に移行するとともにクリンプ高さが低くなることから、各伸張方向に対して直交する糸が引っ張られ横方向に縮んでいく現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することを特徴とする請求項2に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項4】
前記第2の再計算処理は、予め測定された糸の応力−ひずみ曲線を基に、織物の伸張率の増加に伴って各方向の糸の伸張率が増加する現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することを特徴とする請求項2に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項5】
織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う工程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する工程と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2まで屈曲させた場合の織物構造を再計算する工程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する工程と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築方法。
【請求項6】
指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として、経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割する工程と、分割した各領域に対して請求項1または5に記載の織物構造のモデル化により変形させた状態を計算する工程と、これらを重ね合わせることにより前記指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算する工程と、前記計算された織物の任意の曲面形状全体の3次元モデル、応力分布、歪み量分布を出力する工程と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築方法。
【請求項7】
織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、任意の間隔で複数の経糸方向の伸張率ε1および複数の緯糸方向の伸張率ε2の組み合わせ時における2軸引張変形下、かつ、複数の経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および複数の緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2の組み合わせ時における2軸純曲げ変形下にある織物の3次元モデルを複数生成し、これらの3次元モデルから応力および歪み量を計算し、これらの値をデータベースに蓄積するとともに、指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割し、分割した各領域に対して前記データベースから変形させた状態を計算し、これらを全領域について重ね合わせることにより指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算することを特徴とする請求項6に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項8】
織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の伸張率ε1および緯糸方向の伸張率ε2まで2軸伸張させた場合の織物構造を再計算したうえ、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する再計算3次元モデル出力手段と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築装置。
【請求項9】
織物組織図、織物の織密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む糸の物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行う3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した経糸方向の曲率κ1または経糸方向の曲率半径1/κ1、および緯糸方向の曲率κ2または緯糸方向の曲率半径1/κ2まで屈曲させた場合の織物構造を再計算したうえ、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する屈曲変形3次元モデル出力手段と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築装置。
【請求項10】
指定された任意の曲面形状について、織物組織の基本単位構造を1単位として、経糸方向s1個、緯糸方向s2個からなる計s1×s2個の領域に分割する分割手段と、分割した各領域に対して請求項1または5に記載の織物構造のモデル化により変形させた状態を計算する変形状態計算手段と、これらを重ね合わせることにより前記指定された任意の曲面形状全体の変形状態、応力分布、歪み量分布を計算したうえ、前記計算された織物の任意の曲面形状全体の3次元モデル、応力分布、歪み量分布を出力する全域3次元モデル出力手段と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築装置。
【請求項11】
請求項8に記載した3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、再計算3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録した記録媒体。
【請求項12】
請求項9に記載した3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、屈曲変形3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録した記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図7】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図7】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2008−242516(P2008−242516A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77669(P2007−77669)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【Fターム(参考)】
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