説明

繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具および筆記方法

【課題】 熱により繰り返し使用可能な記録媒体の表面上に良好に加筆でき、かつ良好に消去することができる筆記具であって、さらに、部分的または全体を冷却することにより加筆事項の履歴表示ができ、条件によっては該記録媒体のリライト記録はそのままに、加筆記録だけを消すこともでき、完全消去を所望する際にも、目立たず、周囲を汚染しにくい加筆用筆記具等を提案すること。
【解決手段】 常温で発色状態と消色状態を維持可能なヒステリシス性により、常温で発色状態を維持しつつ、記録媒体の発消色温度以上の温度域で消色状態をとる色材を含有する、繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱により繰り返し使用可能な記録媒体の表面に筆記する筆記具等に関し、さらに詳しくは、常温より高い温度の加熱により発色および消色の双方を制御する、繰り返し使用可能な記録媒体の表面に筆記する、常温で発色状態と消色状態を維持可能なヒステリシス性を有し、常温で発色状態を維持しつつ、前記記録媒体の発消色温度以上の温度域で消色状態をとる色材を含有する、前記繰り返し使用可能な記録媒体用の筆記具等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱により記録可能な記録媒体、いわゆるリユースペーパーや感熱紙に筆記するものとしては、熱ペンが知られている(特許文献1、特許文献2)。この熱ペンは、加熱したペン先を用い、その熱によりリユースペーパーや感熱紙上に筆記するものであるが、筆記具自体が熱いといった使いにくさがある上、危険であったり、特別な装置が必要になったりして問題を有するものであった。
【0003】
熱により繰り返し使用可能な記録媒体は、一般的にリユースペーパーやサーモリライトシート等と称され、それ自体は公知であり(例えば特許文献3)、近年、環境問題等から市場が拡大しつつある。また、リユースペーパー等の利用としては、出力機器による記録だけでなく、その表面上に加筆することを求められてきている。
従来から、リユースペーパー等への筆記に関する提案として、上記熱ペンのほかにも種々の試みが為されているが、未だ要求を完全に満たすものとは到っていない。
例えば、いわゆるホワイトボード用マーカー等を使用するものでは、表面に付着したインキを乾式除去するので、インキの粉ふきが生じたり、洗浄がしにくい、等の不具合が生ずることがあった。また、特殊化学繊維等で拭き取るものや、大がかりな装置などが必要なものもあった(特許文献4)。
温度で軟化するインキを用い、消去時における加熱時にヘラなどで掻き取るタイプも提案があるが、同様に大がかりである上、完全な除去は望めないものであった(特許文献5)。
また、その点を改善すべく、水で消去可能なインキを使用したものも提案されている(特許文献6)。しかしながら、水による洗浄をする構造上、水が必須でドライタイプは不可能であった。
【0004】
一方、加筆用インキとして物理的消去ではなく、化学的消去を試みた提案もある。
リユースペーパー等の記録媒体と同様な熱特性を有するインキを用いて、筆記を行うといったもので、記録媒体の記録像と同条件で消去可能なので、簡易的な利用が可能である。しかしながら、発色現象も同条件なので、繰り返し利用する、次の記録のための加熱を行った際に、当該加筆したインキ部分も発色してしまい、その場合、微妙な色差やインキ厚み分による段差で発色した加筆インキの筆跡が光線の屈折率の変化等により見えてしまう等の不具合があった(特許文献7)。
【0005】
また、常温時は発色成分と隔離して配合しておいた消去成分を加熱により溶融混和させることにより消去するインキも提案されている。この場合、発色した加筆インキの筆跡が光線の屈折率の変化により見えてしまう等の不具合はないが、一度消去されたインキは二度と元には戻らず、加筆した筆跡を再度表示する、いわゆる履歴表示は出来ないものであった(特許文献8、特許文献9)。
【0006】
一方、熱変色性の筆記具としては、特許文献9に示したような、特定のヒステリシス特性を与える熱変色性インキを軸筒に収容させてなる筆記具の提案はある。しかしながら、該提案には、いわゆるリユースペーパーとしての用途の提案はなく、ましてや、常温より高い温度の加熱により発色および消色の双方を制御する、繰り返し使用可能な記録媒体の表面に筆記するといった用途の示唆およびその履歴表示に関する示唆などはないものであった(特許文献10)。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−9266号公報
【特許文献2】特開平11−151890号公報
【特許文献3】特開平9−175030号公報
【特許文献4】特開2004−130563号公報
【特許文献5】特開平7−70502号公報
【特許文献6】特開2003−1994号公報
【特許文献7】特開平1−138275号公報
【特許文献8】特開平9−165537号公報
【特許文献9】特開平7−113055号公報
【特許文献10】特開平7−186588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
常温より高い温度の加熱により発色および消色の双方を制御する、繰り返し使用可能な記録媒体の表面に筆記する筆記具等を提案することを本発明の目的とし、さらに詳しくは、繰り返し使用可能な記録媒体の発色および消色のいずれの制御の際においても、その筆跡が消色する方向に作用し、必要になった際には、常温より低い設定温度に冷却することにより筆跡の再発色が可能である筆記具等を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、記録媒体の発消色温度以上の温度域で消色する色材を含有することなどによって、本発明の繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具を完成した。
すなわち、本発明は、
「1.常温より高い温度の加熱により発色および消色の双方を制御する、繰り返し使用可能な記録媒体の表面に筆記する、常温で発色状態と消色状態を維持可能なヒステリシス性を有し、常温で発色状態を維持しつつ、前記記録媒体の発消色温度以上の温度域で消色状態をとる色材を含有する、繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具。
2.前記、記録媒体用筆記具の色材が、常温で発色状態を維持しつつ、少なくとも前記記録媒体の発色温度と消色温度のいずれか低い温度以上の温度域で消色状態をとる色材を含有する、第1項に記載の繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具。
3.前記、記録媒体用筆記具の色材が、5℃以下で発色し、常温でその発色状態を維持しつつ、少なくとも前記記録媒体の発色温度と消色温度のいずれか低い温度以上の温度域で消色状態をとる色材を含有する、第1項または第2項の何れかに記載の繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具。
4.前記、記録媒体用筆記具の色材が、−10℃以下で発色し、常温でその発色状態を維持しつつ、50℃以上の温度域で消色状態をとる色材を含有する、第1項または第2項の何れかに記載の繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具。
5.常温より高い温度の加熱により発色および消色の双方を制御する、繰り返し使用可能な記録媒体の表面に、常温で発色状態と消色状態を維持可能なヒステリシス性を有し、常温で発色状態を維持しつつ、前記記録媒体の発消色温度以上の温度域で消色状態をとる色材を含有する筆記具により、加筆・筆記する、熱により繰り返し使用可能な記録媒体の表面に、熱による繰り返し筆跡表示可能な筆記方法。」に関する。
【発明の効果】
【0010】
上記筆記具によれば、以下のような優れた効果を奏することができる。
熱により繰り返し使用可能な記録媒体の表面上に良好に加筆でき、かつ良好に消去することができる。消去にあたっては、温度による消去なら、部分的または全体を冷却することにより加筆事項の履歴表示ができる。さらに、色分けすれば日替わり等の履歴表示も可能である。
常温より高い温度の加熱により発色および消色の双方を制御する、繰り返し使用可能な記録媒体の発色または消色のいずれか低い方の温度以下での消去であれば、該記録媒体のリライト記録はそのままに、加筆記録だけを消すことができる。さらにその際、冷却による履歴表示も可能である。
必要なら、該記録媒体のリライト記録を書き替えた後に、部分的または全体を冷却すれば、リライト表示を書き替えた後であっても、リライト記録の書き替え前に表示していた加筆表示を再現できる。
加筆筆記具用のインキを水や擦過でも消去可能なインキにすれば、従来の熱により消去することができない加筆用筆記具と同様に完全消去ができるほか、加熱し、無色化したあとに消去すれば、物理的消去時に粉ふきなどが生じても、目立たず、周囲を汚染しにくいといった相乗効果も望める。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
無色または淡色の電子供与性呈色性化合物が、電子受容性化合物と反応して発色することはよく知られている。この原理を応用し、従来から、環境負荷への低減の観点から、あるいは利便性の観点から、発色と消色を熱的に、しかも可逆的に行わせる技術開発が精力的に行われている。例えば、電子供与性呈色性化合物であるロイコ染料と電子受容性化合物であるフェノールを用いた熱変色性組成物がある。
本発明に用いる、常温より高い温度の加熱により発色および消色の双方を制御する、繰り返し使用可能な記録媒体は、その応用技術として、種々、研究および商品化が行われており、以下のような構成、発色及び消色の制御を行っている。
例えば、特許2981558号公報等にあるような、電子供与性呈色性化合物と、長鎖脂肪族炭化水素基を有するホスホン酸化合物、脂肪族カルボン酸化合物、およびフェノール化合物から選ばれた電子受容性化合物を用い、電子供与性呈色性化合物との組合せにより、発色と消色を加熱と冷却の制御により、容易に可逆記録を行わせることができ、それらを室温において、安定に保持する記録媒体などである。
こういった記録媒体は、発色温度域に加熱されたとき両化合物が溶融し反応することにより呈色性化合物が開環して発色し、これを急冷することによって室温でも発色状態を保持できるとされている。そして、発色した組成物を発色温度域より低い温度の消色温度域に加熱したときに電子受容性化合物の長鎖アルキル基が凝集を起こし、電子受容性化合物が単独の結晶となり、発色体から分離し、その結果として消色すると推定されている。即ち、電子供与性呈色性化合物と電子受容性化合物との二者の関係において、両化合物が反応した状態で保持されたまま固化することにより発色状態が維持され、電子受容性化合物が熱的条件下で分離結晶化し、単独の結晶を作り、消色状態を維持すると述べられている。
つまり、消色制御も発色制御も常温より高い温度、すなわち「加熱」により制御されているのである。
【0012】
一方、本発明の繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具は、例えば、少なくとも(a)電子供与性呈色性化合物と(b)電子受容性化合物と(c)反応温度調節剤とからなる温度変化によるヒステリシス特性を有する混合物を粉砕したり、マイクロカプセルに収納したりした色材を含有する。おもに、(a)成分で色を選び、(b)成分で色の濃度を選び、(c)成分で呈色温度を決定する。
このような色材は、温度変化によるヒステリシス特性を有する色材で、温度履歴により、高温側から常温にするか、低温側から常温にするかにより、常温(20℃)で発色態様と消色態様の両態をとりうる色材である。
図1により説明するとt1への冷却により発色し、そのまま常温に戻せば、そのヒステリシス性により、常温でも発色状態を維持することができる色材である。すなわち、事前に筆記具全体をt1へ冷却しておけば、その色材を含有する筆記具にて筆記した場合、熱により繰り返し使用可能な記録媒体の表面上に着色された筆跡を得ることができる。
その筆跡は、色材の種類により、様々な色調にすることが可能である。
そしてその筆跡中の色材は、加熱され、t4に達すると、消色状態となる。そしてそのヒステリシス性により、常温でも消色状態を維持することができるのである。
【0013】
ここで、上記熱により繰り返し使用可能な記録媒体は、上述のように、常温より高い温度(図2参照)で発色し(t8)、消色する(t6〜t7)。つまり、筆跡消色温度(図1のt4)より媒体の消去温度(図2のt6)が高ければ媒体の表示を消去する際に、同時に筆跡消去することができるのである。
さらに特筆すべきは、該記録媒体は「加熱」により発色並びに消色の両方を制御するが、本発明の筆記用具に使用する色材は、「加熱」により消去される。つまり、記録媒体の発色および消色のどちらの制御操作においても筆記用インキとしては消色する方向にしか作用しないので、より一層の好適な消去性を得ることができるのである。
【0014】
また、t4が常温より高く、記録媒体の消去開始温度t5より低い場合は、媒体に記録された表示はそのままに、加筆した筆跡のみ、何度も消すことができ、加筆用途で筆記したものだけ消したいという用途に繰り返し用いることができる。この場合であっても、記録媒体の表示を消去する際の加熱(t6〜t7)により、同時に、筆跡は好適に消去される。
【0015】
ところで、上述したように、従来用いられているようなヒステリシス性がない不可逆的反応を行う消去可能な色材であっても、上記消去方法を実行することは可能である。むしろ、該色材を含有した筆記具は、そのような消去方法にのみ用いることに特化した筆記具である。
しかしながら、不可逆反応による消去可能な色材を含有した筆記具では、一度消去してしまうと、その文字を再現することはできない。
可逆反応をする色材を含有した筆記具であっても、記録媒体に用いる色材と同じ反応性色材を筆記具に詰めたものによる筆跡においても同様に、記録媒体上の記録と加筆筆跡が加熱制御により同時に消え、同時に発色するので、加筆筆跡のみを元どおりに再現することはできない。
発消色の温度条件を記録媒体と筆記具の間に差を持たせたものであれば、それらの発消色性に差を生ずることは可能であるが、同様な発消色制御思想を有するもの同士であるので、同様に加筆インキのみの発消色制御は不可能である。
したがって、記録媒体上への再記録により記録媒体上の色材と加筆筆跡上の色材とが同時に発色した場合には、同じ色調のインキに構成されているので、一見して加筆インキが消去されているように見えるものの、その塗布厚や筆記具として必須な第三成分などの影響で微妙な屈折率の差を生じ、また、同じ色調に構成しているとはいえ不可避的に発生する色差により、加筆筆跡が浮き出ることが予想され、2回目以降の記録媒体への表示に余分な濃淡を作り出す不具合が生じていた。
この現象は、本発明の履歴表示の効果とは異なり、積極的に筆跡を再現させることができるという本発明の主旨とは異なるものである。
【0016】
本発明の繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具によれば、一度加熱消去された筆跡は、その後の記録媒体への加熱発色、加熱消色のいずれのプロセスにおいても、さらに筆跡が消色される方向へのエネルギー付与にあたるので、記録媒体の再記録表示性に影響を与えるこことがないのである。
【0017】
ここで、本発明の繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具により筆記された筆跡はt4への加熱により、消去されることを述べた。しかしながら、一度消去した筆跡を再現させたい用途もあり、その場合は、媒体自体をt1まで冷却してやると、筆跡が再現でき、さらに、ヒステリシス性により、常温に戻しても、その再現筆跡は維持される。この際、記録媒体自体に記録された記録像は何ら影響を受けない。なぜなら、該記録媒体は、常温より高い温度(t5〜t8)で発色と消色の両方のプロセスを制御するものであるからである。
【0018】
筆跡の冷却による再現には、媒体自体を全体的に冷蔵庫に入れ、全体の筆跡を再現したり、コールドスプレーなどを一部分、または全体的にかけ、筆跡を再現することが容易に達成できる。
【0019】
t1の好適な温度としては、誤って容易に筆跡が再現されないよう、5℃以下がよく、0℃以下がより好ましい。冬季の室内環境温度と筆跡再現の容易性とのバランスから−10℃以下、さらに−20℃以下であればより好ましい。
t4の好適な温度としては、誤って容易に筆跡が消去されないよう、40℃以上が好ましい。夏期の室内環境温度と筆跡消去の容易性、並びに繰り返し使用可能な記録媒体の消去温度設定から考えると、50℃以上、さらに60℃以上がより好ましい。
本発明に用いる常温とは、繰り返し使用可能な記録媒体を使用する際の環境温度を指し、夏期と冬季、室内と屋外、工場と事務所などによって変化するが、おおむね20℃を想定するのでよい。
【0020】
本発明の色材を含有した筆記具においては、加筆筆記後、加温にて、消色可能で、所望により、冷却することで、消去した筆跡を再現することができるのは上述の通りである。
ここで、一度目に筆記した色調と異なる色で、二度目の筆記をし、n回目まで異なる色にて筆記と消去を繰り返せば、筆記の履歴効果を得ることができ、さらに好ましい。
例えば、第1のインキで1日目に赤字の筆跡を得た後、加熱により筆跡を消去し、2日目にピンクの筆跡を、3日目にオレンジの筆跡を、という具合にn日目までn個の色調の筆跡を得れば、加熱によりそれぞれの色調はすべてなくなるが、冷却することによりすべての色調を同時に表示させることができ、何日目にどのような内容を記載したのか、の履歴効果を得ることができるのである。
さらに、それぞれのインキ中の色材のt1〜t4の温度設定に差を設ければ、用途はさらに広がる可能性を有する。
また、各色調は、有色から無色(消色)への変化のみならず、通常の色材を併用したり、2種の熱変色性色材を併用したりして有色から有色(呈色)への変化によるものも本発明に含まれる。着色された記録媒体に用いる際には有効であるからである。
【0021】
以下に本発明の実施の形態を述べる。
【0022】
本発明の熱により繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具は、例えば、少なくとも(a)電子供与性呈色性化合物と(b)電子受容性化合物と(c)反応温度調節剤とからなる色材を含有する。
このような色材としては、特公平4−17154号公報、特開平7−33997号、特開平7−179777号等に記載の組成物を応用することができる。このような色材は、温度−色濃度の関係においてヒステリシス特性を示して変色する、即ち変色温度域より低温側から温度を上昇させていく場合と、逆に変色温度域より高温側から温度を下降させていく場合とでは異なる経路をたどって変色する現象を呈するものである。この点を再度図1において説明する。
【0023】
図1において、温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。グラフ中のA 点(温度t1)はこれ以下の温度では完全に呈色している状態になる点であり、B点(温度t3)は温度が上昇する過程で実質的な変色(消色)が始まる点であり、C点(温度t4)はこれ以上の温度では完全に消色している状態になる点であり、前記t1とt4の間の温度域が変色温度域であり、第1色相と第2色相の両相が経路により共存でき、色濃度の差の大きい領域であるt2とt3の間の温度域が実質変色温度域、即ち、第1色相又は第2色相が保持される2色保持温度域である。本発明においては、常温域がt1とt4の間の変色温度域ないし、好ましくはt2とt3の間の実質変色温度域に含まれるような色材を使用する。
【0024】
前記色材は、必須成分を内包したマイクロカプセル顔料とすることが好ましい。マイクロカプセル化は、公知の方法、即ち、界面重合法、界面重縮合法、インサイチュー重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、スプレードライング法等、或いはこれらを組合わせて調製される。マイクロカプセル顔料の系では、粒子径の増大につれて筆記具としてのペン体への目詰まりや経時による分散不安定等を起こさせるおそれがあり、粒子径10μm以下、より好ましくは、5μm以下、最も好ましくは3μm以下が好ましい。
【0025】
t1の好適な温度としては、誤って容易に筆跡が再現されないよう、5℃以下がよく、0℃以下がより好ましい。冬季の室内環境温度と筆跡再現の容易性とのバランスから−10℃以下、さらに−20℃以下であればより好ましい。
t4の好適な温度としては、誤って容易に筆跡が消去されないよう、40℃以上が好ましい。夏期の室内環境温度と筆跡消去の容易性、並びに繰り返し使用可能な記録媒体の消去温度設定から考えると、50℃以上、さらに60℃以上がより好ましい。
このようなより好ましい温度域の色材としては、特願2003−319039号、特願2004−21611号、特願2004−119869号等に記載の色材を使用することができる。
【0026】
本発明において使用する筆記具用インキとしては、上記色材が適当量配合されていれば、用いる筆記具の形態に応じて適宜設計可能である。各種水系・油系の溶媒中に色材を分散等し、必要に応じて、筆記面への固着剤、その他、粘度調整剤や剪断減粘性付与剤、防腐剤、防錆剤、潤滑剤などを配合したインキとすることができる。
【0027】
筆記具としては、該インキを収容したボールペン、フェルトペン等の毛管インキ路を有する筆記具等、各種筆記具が使用可能である。その他、ワックスなどの賦形材により固めた固形芯などが挙げられる。
【0028】
繰り返し使用可能な記録媒体の表面保護の観点からは、表面を傷つけない筆記先端を有する、フェルトペンや固形芯が好ましい。
【0029】
さらに、FA用途などにおいてリユースペーパーの需要が増加しているが、ライン作業員の工程数の観点からは、筆記時のキャップの取り外しと取り付けは工程が多く、ノック式の筆記具においてもノックする工程が入るため、何の操作もなくそのまま使える筆記具が望まれる。そこで、そのような用途には、筆記先端の乾燥性などの問題がなく、そのまま使用できる固形芯が好適である。
固形芯の場合、賦形材の選択によるが、厚く塗ることができ、発色性がよいので好ましい。また、水性ゲルなどの水溶性材料を用いれば、水による完全除去を試みる際にも良好な洗浄性能を有する。
ただし、固形芯の場合、筆跡は、乾燥、固化しにくい、または、しないという性質を有するので、2度目以降の熱記録時には注意が必要である。例えば、サーマルヘッドによるものでは、予めクリヤーシートをかぶせるなど、ヘッド通過の際に直接接しないようなサーマルヘッド保護の工夫が必要である。
【0030】
定型フォーマットの記録をリユースペーパー上にサーマルプリンタにて行い、その後、本発明の筆記具で加筆し、筆跡消去はローラー、温風などで行うような、1回目と2回目のサーマル記録の間に、何度か筆記と筆跡消去するような用途には良好に使用しうる。
【0031】
筆記具がインキとして、高耐擦性の筆跡を得られる、いわゆるパーマネントタイプであれば、サーマルヘッドを傷めにくく、良好である。その場合のインキ構成は、溶剤系が主流となり、筆記先端の乾燥性の問題などからキャップ式になると思われるが、用途はあると思われる。
【0032】
筆記用色材の消去時の色調は透明であることが好ましい。また、記録媒体の下地色と同系色であれば、着色タイプも使用可能である。真っ白の繰り返し使用可能な記録媒体は少なく、下地と同系色であれば、完全に消色しないインキでも目立ちにくいと思われるからである。
【0033】
本発明に用いる熱により繰り返し使用可能な記録媒体は、上述したようなものが使用できる。マトリックスポリマー中にいわゆるロイコ染料などの色材を配した有色タイプ、結晶構造の相違を利用した屈折率の違いによる透明白濁タイプなどがある。
【0034】
本発明に用いられる熱により繰り返し使用可能な記録媒体としては、普通紙ベースであっても、加熱消去性または可逆性のトナー等によりレーザープリンター、コピーマシンなどによって、普通紙上に電子写真印刷を施したリユース可能な媒体への加筆も可能である。インクジェット記録方法になどにより記録されたものにおいても同様に使用可能である。
【0035】
さらに、本発明における筆記には、インクジェット記録方法などの機械による筆記も含まれる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例を挙げるが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0037】
実施例1
(筆記具)
色材として、感温変色性色彩記憶性組成物をマイクロカプセルに内包した可逆熱変色性顔料(t1:2℃、t2:6℃、t3:37℃、t4:44℃、平均粒子径:2.5μm、暗緑色から無色に色変化する)30部、保湿剤5部、防菌材0.7部、水64.3部からなる可逆熱変色性インキを調製した。
その後、前記インキを、予め2℃以下に冷却して可逆熱変色性顔料を発色させた後、室温(20℃)下にて、合成樹脂フィルムで被覆した繊維集束インキ吸蔵体中に含浸させ、先端部にポリエステル繊維の樹脂加工ペン体を備えた筆記具の軸筒に格納し、該繊維集束インキ吸蔵体とペン体とを接触状態に組み立て、繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具として水性マーカーを完成した。
(記録媒体)
繰り返し使用可能な記録媒体としては、常温より高い温度の加熱により発色および消色の双方を制御するロイコ染料等をマトリックスポリマー中に保持した感熱可逆性記録層をプラスチックシート上に設けた記録媒体が用いられ、該記録媒体は、約110℃/急冷、にて発色記録を行い、約60℃/徐冷、にて消色記録を行うものを用いた。
(筆記)
上記記録媒体上に、前記筆記具を用いて加筆・筆記したところ、良好に筆記できた。また、その筆跡は、2℃以下に冷却すると暗緑色を示し、44℃以上で無色となり、ヒステリシス性により6℃〜37℃の温度域では、前記暗緑色の筆跡を記憶保持させて視覚させることができると共に、無色の筆跡、即ち、不可視状態の筆跡も記憶保持させることができた。尚、前記実施例中の部は質量部を示し、以下の実施例も同様である。
【0038】
実施例2
(筆記具)
実施例1における可逆熱変色性インキを、色材として、感温変色性色彩記憶性組成物をマイクロカプセルに内包した可逆熱変色性顔料(t1:3℃、t2:6℃、t3:38℃、t4:45℃、平均粒子径:2.5μm、青色から無色に色変化する)20部、保湿剤5部、防菌材0.7部、水74.3部からなる可逆熱変色性インキとしたほかは実施例1と同様にして、繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具としての水性マーカーを完成した。
(筆記)
実施例1で用いた記録媒体上に、前記筆記具を用いて加筆・筆記したところ、良好に筆記できた。また、その筆跡は、3℃以下に冷却すると暗緑色を示し、45℃以上で無色となり、ヒステリシス性により6℃〜38℃の温度域では、前記暗緑色の筆跡を記憶保持させて視覚させることができると共に、無色の筆跡、即ち、不可視状態の筆跡も記憶保持させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の筆記具および筆記方法は、以下のような産業上の利用性を有する。
熱により繰り返し使用可能な記録媒体の表面上に良好に加筆でき、かつ良好に消去することができる加筆用筆記具等に利用可能である。
消去にあたっては、温度による消去なら、部分的または全体を冷却することにより加筆事項の履歴表示ができる。さらに、色分けすれば日替わり等の履歴表示も可能である。
常温より高い温度の加熱により発色および消色の双方を制御する、繰り返し使用可能な記録媒体の発色または消色のいずれか低い方の温度以下での消去であれば、該記録媒体のリライト記録はそのままに、加筆記録だけを消すことができる。さらにその際、冷却による履歴表示も可能である。
必要なら、該記録媒体のリライト記録を書き替えた後に、部分的または全体を冷却すれば、リライト表示を書き替えた後であっても、リライト記録の書き替え前に表示していた加筆表示を再現できる。
加筆筆記具用のインキを水や擦過でも消去可能なインキにすれば、従来の熱により消去することができない加筆用筆記具と同様に完全消去ができるほか、加熱し、無色化したあとに消去すれば、物理的消去時に粉ふきなどが生じても、目立たず、周囲を汚染しにくいといった相乗効果も望める。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に用いる色材の熱変色挙動を示す説明図である。
【図2】熱により記録可能な記録媒体の熱変色挙動を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温より高い温度の加熱により発色および消色の双方を制御する、繰り返し使用可能な記録媒体の表面に筆記する、常温で発色状態と消色状態を維持可能なヒステリシス性を有し、常温で発色状態を維持しつつ、前記記録媒体の発消色温度以上の温度域で消色状態をとる色材を含有する、繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具。
【請求項2】
前記、記録媒体用筆記具の色材が、常温で発色状態を維持しつつ、少なくとも前記記録媒体の発色温度と消色温度のいずれか低い温度以上の温度域で消色状態をとる色材を含有する、請求項1に記載の繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具。
【請求項3】
前記、記録媒体用筆記具の色材が、5℃以下で発色し、常温でその発色状態を維持しつつ、少なくとも前記記録媒体の発色温度と消色温度のいずれか低い温度以上の温度域で消色状態をとる色材を含有する、請求項1または2の何れかに記載の繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具。
【請求項4】
前記、記録媒体用筆記具の色材が、−10℃以下で発色し、常温でその発色状態を維持しつつ、50℃以上の温度域で消色状態をとる色材を含有する、請求項1または2の何れかに記載の繰り返し使用可能な記録媒体用筆記具。
【請求項5】
常温より高い温度の加熱により発色および消色の双方を制御する、繰り返し使用可能な記録媒体の表面に、常温で発色状態と消色状態を維持可能なヒステリシス性を有し、常温で発色状態を維持しつつ、前記記録媒体の発消色温度以上の温度域で消色状態をとる色材を含有する筆記具により、加筆・筆記する、熱により繰り返し使用可能な記録媒体の表面に、熱による繰り返し筆跡表示可能な筆記方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−193638(P2006−193638A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7348(P2005−7348)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】