説明

缶の製造方法及び缶の製造装置。

【課題】缶体の表面の溶融くずが溶着するのを防止した缶の製造方法。
【解決手段】
DI加工、インパクト加工等により製造される缶体の開口部に、種々の加工を施す場合、缶体に軸方向又は軸方向に垂直な荷重がかかる加工工程、缶体に印刷を施す印刷工程、又は缶体を乾燥する乾燥工程等において、缶体を保持する缶体保持具の全部又は一部を、耐摩耗性樹脂材料で構成することを特徴とする缶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶体保持装置に関し、さらに詳しくは缶体保持装置の缶体保持具に、缶体の表面の溶融くずが金属溶着(以下単に「溶着」という)するのを防止した缶の製造方法及び缶の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属容器の口部にネッキング加工、ねじ加工、トリミング加工等を施す場合、ネッキングマシンに設けられた複数の缶体保持装置に缶体が保持され、この缶体保持装置によって保持された容器が、金型・工具取付テーブルの各加工ステーションを間欠的に回転しながら回り、口部に種々の加工が施されるものである。このような従来のネッキングマシンを、図5及び図6に示す。ネッキングマシン50には、間欠的に回転運動する回転円板51が設けられ、この回転円板51上には、缶体を保持する複数の缶体保持装置52が環状に設けられている。一方、この缶体保持装置52に相対する位置には、金型・工具取付テーブル53が設けられ、この金型・工具取付テーブル53は、回転円板51及び缶体保持装置52に対して、接近又は離隔する往復運動をなすことにより、缶体54の口部に、各種の加工を順次施すものである。図6に示すように、金型・工具取付テーブル53には環状に、缶体54の口部にネッキング加工を施す金型55、56、57が設けられ、続いてねじ加工装置58、トリミング装置59及びカール加工装置60等が設けられている。
【0003】
次に、図7は、従来の缶体保持装置52の缶体保持具60を示す断面図である。缶体保持装置52は、缶体保持具60、缶体54の胴部を、エアーで保持する缶ホルダー61、缶ホルダー61を固定する缶ホルダー固定具62、及び一連の加工が終了した後、缶体54の底部を押圧して、缶体54を缶体保持装置52から外へ押し出す、缶体押具63から構成されている。そして、従来の缶体保持具60及びホルダー固定具62は、アルミニウム合金等の金属材料で構成されいる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−19731号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の缶体保持装置52の缶体保持具60及びホルダー固定具62は、焼き入れ鋼や、アルミニウム合金等の金属材料で製造されているため、図7及び図8に示すように、缶体保持具60の缶底受部64の表面に、摩擦によって缶体54の表面から発生する無数の溶融くずが、溶着する欠点があった。すなわち、缶体54が缶体保持具60に挿入され、缶体54の口部に加工が施される際に、缶体54に大きな軸方向の荷重がかかり、又加工を終了すると軸方向の荷重が解除され、缶体54が軸方向に往復運動する。そして、この繰り返しに起因して、缶体54と缶底受部64との間に軸方向の摩擦熱が発生し、この摩擦熱によって、缶体54の表面から出た無数の溶融くずが溶融し、缶体保持具60の表面に溶着するためである。
【0005】
そして、この溶融くずが溶着した缶体保持具60に、次の加工の缶体54が挿入された場合、缶体保持具60表面に付着した、溶融くずによって、缶体54の表面が凹んだり、缶体の表面に傷がつくので、生産工程において不良缶が発生するという問題があった。そこで、従来は、この缶体保持具60の缶底受部64表面を、磨くことにより溶融くずを取去っていたが、この作業は頗る手数と時間を要するという欠点があった。この発明は、このような問題点を解決したものであり、缶体保持装置の少なくとも缶体保持具に、缶体の表面の溶融くずが溶着するのを防止した缶の製造方法、この製造方法で製造される缶体及び缶の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するため、請求項1記載の発明の解決手段は、 DI加工、
インパクト加工等により製造される缶体の開口部に、種々の加工を施す加工工程、缶体に印刷を施す印刷工程、又は缶体を乾燥する乾燥工程等において、缶体に軸方向の荷重又は軸方向に垂直な荷重がかかる加工工程において、缶体を保持する缶体保持具の全部又は一部を、耐摩耗性樹脂材料で構成することを特徴とする缶の製造方法である。
【0007】
請求項2記載の発明の解決手段は、(a)中心軸回りに間欠的に回転する回転円板上に、一連の缶体が複数の缶体保持装置により保持され、(b)一連の絞り金型又は加工工具を取付けた金型・工具取付テーブルを、前記回転円板に軸方向の往復運動により相対的に近づけ、(c)缶体の口部に順次複数の加工を施すネッキングマシンによる缶の製造方法において、(d)前記缶体保持装置の少なくとも缶体保持具の全部又は一部を、耐摩耗性樹脂材料で構成することを特徴とする缶の製造方法である。缶体保持装置の少なくとも缶体保持具の全部又は一部に、耐熱性、成形性、耐摩耗性、衛生面に優れる耐摩耗性樹脂材料を、使用したから、金属の溶融くずが缶体保持具の表面に溶着するのを防止することができる。
【0008】
請求項3記載の発明の解決手段は、缶体保持具の耐摩耗性樹脂材料が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリオキシメチレン樹脂又はポリベンゾイシダゾル樹脂から選ばれる1つの材料であることを特徴とする製造方法である。これらは耐熱性、成形性、耐摩耗性、衛生面に特に優れる耐摩耗性樹脂材料である。
【0009】
請求項4記載の発明の解決手段は、上記の製造方法で製造されることを特徴とする缶体である。従来のアルミニウム等の金属製の缶体保持具と同様の保持機能を有し、かつ缶体の表面に損傷等を与えない。
【0010】
請求項5記載の発明の解決手段は、(a)缶供給ステーションにおいて有底筒状の缶体が供給され、中心軸回りに間欠的に回転する回転円板上に、一連の缶体が複数の缶体保持装置により保持され、(b)一連の絞り金型又は加工工具を取付けた金型・工具取付テーブルを、前記回転円板に軸方向の往復運動により相対的に近づけ、(c)缶体を缶体保持装置で保持した状態で、缶体の口部にネッキング加工、ねじ加工、カール加工等の複数の加工を施し、(d)前記缶体の加工の終了後、回転円板の缶排出ステーションにおいて、缶を排出させるネッキングマシンの缶製造装置において、(e)前記缶体保持装置の少なくとも缶体保持具の全部又は一部を、耐摩耗性樹脂材料で構成することを特徴とする缶の製造装置である。
【0011】
請求項6記載の発明の解決手段は、缶体保持具の耐摩耗性樹脂材料が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリオキシメチレン樹脂又はポリベンゾイシダゾル樹脂から選ばれる1つの材料であることを特徴とする缶の製造装置である。これらは耐熱性、成形性、耐摩耗性、衛生面に特に優れる耐摩耗性樹脂材料である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果がある。
(1)缶体保持装置の少なくとも缶体保持具に、缶体の表面の溶融くずが溶着し、この溶融くずによって、缶体の表面が、凹んだり傷が着くことを防止でき、かつ不良品の生産を防止できる。
(2)缶体の首丈が長いため、開口部のネッキング加工時の際に、軸方向に大きな荷重がかかる缶体を保持する場合にも適する。
(3)この装置によれば、少なくとも缶体保持具の全体又は一部である表面を耐摩耗性樹脂材料に変更するだけでよいから、製造コストが安価である等の効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施例を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
実施例1は、この発明に係る製造方法を示すものであり、図1において、ネッキングマシンの回転板1には、環状に複数の缶体保持装置2が固設され、この缶体保持装置2には、加工時に缶体8を保持し、固定するための缶体保持具3が設けられている。そして、一連の絞り金型及び加工工具9を取付けた金型・工具取付テーブル10を、回転円板1に対して軸方向の往復運動し、相対的に近づけることにより、缶体保持具2に保持された缶体8の口部に、所望する加工が施される。
【0015】
この発明に係る製造方法の発明の特徴は、図1〜図3に示すように、缶体保持装置2の缶体保持具3が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリオキシメチレン樹脂又はポリベンゾルイシダゾル樹脂から選ばれる1つの材料で構成される缶の製造方法である。特に、ポリエーテルエーテルケトン樹脂であれば、図3に示すように、缶体保持具3の缶底受部3a表面に、溶融くずが溶着しない。したがって、缶体保持具3の表面に付着した溶融くずによって、缶体8の表面が、内側に凹んだり傷がつくのを、防止することができる。
【実施例2】
【0016】
図4は、この発明の実施例2を示す図面である。実施例1と異なる点は、缶体保持具13は、アルミニウム材料等の金属材料を芯材とし、その表面である一部に、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリオキシメチレン樹脂又はポリベンゾルイシダゾル樹脂から選ばれる1つの材料13aを、焼付け等の方法で表面処理を施す実施例である。ポリエーテルエーテルケトン樹脂を例にあげると、静電粉体塗装又は水性ディスパージョン塗料を用いて、プラスト処理を施した表面に、約380℃で焼き付けることにより生成する。表面処理の肉厚は、5〜200μmであり、好ましくは50〜100μmが適する。その他樹脂を容射処理することによっても達成できる。
【0017】
この発明に係る製造方法の発明においては、缶体保持具3に耐摩耗性樹脂を使用する以外に、ホルダー固定具5及び缶体押具6についても、耐摩耗性樹脂材料を用いることも任意である。すなわち、缶体8に接触する部位の保持具、すべてについてポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリオキシメチレン樹脂又はポリベンゾイシダゾル樹脂から選ばれる1つの材料で構成することもできる。特に、発明者は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、耐熱性、成形性、耐摩耗性、衛生面に特に優れる点に注目したのである。
【実施例3】
【0018】
次に実施例3は、この発明に係る製造装置を示すものであり、ネッキングマシンの回転板1には、環状に複数の缶体保持装置2が固設されている。この缶体保持装置2は、枠体7に固定される缶体保持具3、缶体8の胴部を、エアーの供給により挟着する缶ホルダー4、缶ホルダー4を固定する缶ホルダー固定具5から構成されている。缶体8の口部の加工の開始は、ネッキングマシンの回転板1の缶体保持装置2に、缶体供給ステーション(図示せず)から、有底筒状の缶体8が供給されることにより開始される。一方、缶体保持装置2の軸方向反対側には、回転円板1に相対して往復運動することにより、回転板1に接近又は離隔して往復運動する金型・工具取付テーブル9が設けられている。金型及び工具10は、この金型・工具取付テーブル9に環状に設けられ、間欠的に回転する缶体8の口部に、ネッキング加工、ねじ加工、トリミング加工及びカール加工等の各種加工が個々の加工ステーションにおいて施される。そして、加工終了時において、缶体押具6により缶体8の底部が押圧され、缶体8が缶体保持装置2から外部へ押出される。加工が終了した缶体8は、缶体8排出ステーション(図示せず)から次の2次洗浄、乾燥工程へと移動される。
【0019】
この発明に係る缶の製造装置において、少なくとも缶体保持装置2の缶体保持具3の全部又は一部が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリオキシメチレン樹脂又はポリベンゾルイシダゾル樹脂から選ばれる1つの材料で構成されており、少なくとも缶体保持具3を耐摩耗性樹脂材料に変更するだけでよいから、製造コストが安価である。そして、本発明に係る耐摩耗性樹脂材料を用いた、缶体保持具は、数多くの缶体を保持して加工を繰り返しても、缶体8と缶体保持具3との間で、溶着が発生しない。実験結果から5000万缶以上の缶体8を繰り返し保持した後であっても、缶体8と缶体保持具3との間において、溶着は生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明に係る缶体保持装置は、缶体の軸方向に大きな荷重がかかるダイ方式のネッキングマシンの缶体保持具の他、同様に缶体の軸方向に大きな荷重がかかるスピン方式のネッキングマシンの缶体保持具にも適用することもできる。又、ネッキングマシン以外の缶体の他の製造工程、例えば缶体を印刷する場合の印刷工程におけるマンドレルや、印刷された缶体を乾燥する乾燥工程において、缶体を保持するピン等にも、必要に応じて本発明に係るポリエーテルエーテルケトン樹脂等の耐摩耗性樹脂材料を用いることができ、缶体と缶体保持具との間で発生する溶着を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る缶の製造方法において、回転円板上に缶体が保持された複数の缶体保持装置、及び金型・工具取付テーブルに金型又は加工工具を取付けた状態を示す断面図。
【図2】本発明に係る缶の製造方法において、回転円板上に缶体が保持された缶体保持装置を示す拡大断面図。
【図3】本発明に係る缶の製造方法において、缶体保持措置の缶体保持具を示す実施例1を示す断面図。
【図4】本発明に係る缶の製造方法において、缶体保持措置の缶体保持具を示す実施例2を示す断面図。
【図5】従来のネッキングマシンの回転板及び金型・工具取付テーブルを示す側面図。
【図6】従来のネッキングマシンにおける図5のX−X線断面図。
【図7】従来のネッキングマシンにおける、缶体保持措置の缶体保持具を示す拡大断面図。
【図8】従来のネッキングマシンにおける、缶体保持措置の缶体保持具を示す正面図。
【符号の説明】
【0022】
1回転円板
2缶体保持装置
3缶体保持具
8缶体
9金型・工具取付テーブル
10絞り金型又は加工工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DI加工、インパクト加工等により製造される缶体の開口部に、種々の加工を施す加工工程、缶体に印刷を施す印刷工程、又は缶体を乾燥する乾燥工程等において、缶体を保持する缶体保持具の全部又は一部を、耐摩耗性樹脂材料で構成することを特徴とする缶の製造方法。
【請求項2】
(a)中心軸回りに間欠的に回転する回転円板上に、一連の缶体が複数の缶体保持装置により保持され、
(b)一連の絞り金型又は加工工具を取付けた金型・工具取付テーブルを、前記回転円板に軸方向の往復運動により相対的に近づけ、
(c)缶体の口部に順次複数の加工を施すネッキングマシンによる缶の製造方法において、
(d)前記缶体保持装置の少なくとも缶体保持具の全部又は一部を、耐摩耗性樹脂材料で構成することを特徴とする缶の製造方法。
【請求項3】
前記缶体保持具の耐摩耗性樹脂材料が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリオキシメチレン樹脂又はポリベンゾイシダゾル樹脂から選ばれる1つの材料であることを特徴とする請求項1又は2記載の缶の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3記載の製造方法で製造されることを特徴とする缶体。
【請求項5】
(a)缶供給ステーションにおいて有底筒状の缶体が供給され、中心軸回りに間欠的に回転する回転円板上に、一連の缶体が複数の缶体保持装置により保持され、
(b)一連の絞り金型又は加工工具を取付けた金型・工具取付テーブルを、前記回転円板に軸方向の往復運動により相対的に近づけ、
(c)缶体を缶体保持装置で保持した状態で、缶体の口部にネッキング加工、ねじ加工、カール加工等の複数の加工を施し、
(d)前記缶体の加工の終了後、回転円板の缶排出ステーションにおいて、缶を排出させるネッキングマシンの缶製造装置において、
(e)前記缶体保持装置の少なくとも缶体保持具の全部又は一部を、耐摩耗性樹脂材料で構成することを特徴とする缶の製造装置。
【請求項6】
前記缶体保持具の耐摩耗性樹脂材料が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリオキシメチレン樹脂又はポリベンゾイシダゾル樹脂から選ばれる1つの材料であることを特徴とする請求項5記載の缶の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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