説明

置換されたポルフィリン類

【課題】 生理学的および病理学的過程を調節する方法、特に、酸化剤の細胞内レベルを調節し、それによりそのような酸化剤が関係する過程を調節する方法、およびそのような方法における使用に適切な化合物と組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明は、式I若しくはIIの化合物またはその薬学的に許容される塩[ここで、各Rは独立してC1−C8アルキル基であり、および各々のPは独立して電子離脱基または水素であり、ここで、各Rはメチルであり、且つPが水素であるとき、前記化合物は、マンガン、鉄、銅、コバルト、ニッケルまたは亜鉛からなる群より選択された金属との複合体である]である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、生理学的および病理学的過程を調節する方法、特に、酸化剤の細胞内レベルを調節し、およびそれによりそのような酸化剤が関係する過程を調節する方法に関する。本発明は、また、そのような方法における使用に適切な化合物と組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化剤は、全細胞の正常な代謝の部分として産生されるが、しかしまた、多くの疾患の過程の病因の重要な要素でもある。例えば、反応性酸素種は、肺、中枢神経系および骨格筋の疾患の病因の臨界要素である。酸素フリーラジカルは、また、一酸化窒素(NO・)の作用の調節においても重要な働きを担う。この状況において、それらは血管障害、炎症性疾患および加齢の進行の病因に寄与する。
【0003】
酸化剤に対する防御酵素の臨界のバランスは、正常な細胞と器官の機能を維持するために必要である。スーパーオシドジスムターゼ(SODs)は、細胞内および細胞外でのO2-からH22およびO2への変換を触媒する金属結合酵素(メタロエンザイム)のファミリーであり、スーパーオキシドラジカルの損傷効果に対する防御の第一線を代表する。哺乳類は、3種類の異なるSODsを産生する。1つは、全ての細胞のサイトゾルで発見された二量体の銅および亜鉛含有酵素(CuZn SOD)である。2つ目は、ミトコンドリア内で発見された三量体のマンガン含有SOD(Mn SOD)であり、更に3つ目は、細胞外流体で発見され、且つ細胞外マトリックスに結合した三量体のグリコシル化された銅および亜鉛含有酵素(EC-SOD)である。幾つかの他の重要な抗酸化酵素が細胞内にあることが知られ、これらは、カタラーゼおよびグルタチオンペルオキシダーゼを含む。細胞外流体および細胞外マトリックスは、これらの酵素を少量で含有するのみであるが含有し、また同時に、例えば、アスコルビン酸、尿酸、およびα−トコフェノール等のラジカルスカベンジャーおよび脂質過酸化阻害剤を含む他の細胞外抗酸化剤も存在することが知られている(Halliwell et al, Arch. Biochem. Biophys. 280:1(1990))。
【0004】
本発明は、一般的に、そこにおいてスーパーオキシドラジカルまたは過酸化水素若しくはペルオキシナイトライト等の他の酸化剤が関係する細胞内および細胞外過程の調節において使用するのに適切な低分子量ポルフィリン化合物に関する。本発明の化合物および方法は、酸化的ストレスが重要な役割をする種々の生理学的および病理学的過程における適用を明らかにする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Halliwell et al, Arch. Biochem. Biophys. 280:1(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スーパーオキシドラジカル、過酸化水素、ペルオキシナイトライト、脂質過酸化、ヒドロキシラジカルおよびチイルラジカル(thiyl radicals)等の酸化剤の細胞内または細胞外レベル調節する方法に関する。より詳細には、本発明は、スーパーオキシドラジカル、過酸化水素、一酸化窒素またはペルオキシナイトライトに関連する正常または異常過程を、低分子量の抗酸化剤を使用して調節する方法、およびそのような方法において使用ために適切なメチン(即ち、メソ)置換ポルフィリンに関する。該置換ポルフィリンは、また、抗菌剤および抗ウイルス剤としての活性、並びにイオノフォアおよび化学療法剤としての活性も有することが期待できる。本発明の目的および利点は以下の記載から明確になるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、式I若しくはIIの化合物またはその薬学的に許容される塩[ここで、各Rは独立してC1−C8アルキル基であり、および各々のPは独立して電子離脱基または水素であり、ここで、各Rはメチルであり、且つPが水素であるとき、前記化合物は、マンガン、鉄、銅、コバルト、ニッケルまたは亜鉛からなる群より選択された金属との複合体である]である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】メカニズム。
【図2】メソ-テトラキス-N-アルキル-ピリジニウムベースポルフィリンマンガン類。
【図3】最小培地中での1、2、3*および4*(20μM)(アトロプ異性体の混合物、JI=SOD欠損株、AB=親株)のインビボ(大腸菌)におけるSOD活性。
【図4】MnClxTE-2-PyP5+の構造(x=1から4)。
【図5】CDCl3(δ=7.24ppm)におけるH2Cl2aT-2-PyPの1H−NMRスペクトル(ポルフィリン環)。4つのピリジル窒素のアルファ位における4つのプロトンは積分座標として得た。
【図6】MnClxTE-2-PyP5+レドックスに関する基底状態フリーエネルギー変化(ΔG0)の関数としてのMnClxTE-2-PyP5+により触媒されるO2-ジスムテーション反応のための活性化のフリーエネルギー(ΔG#)のプロット。表4において報告されたΔG#およびΔG0がkcatおよびE01/2値から算出された(夫々、F、R、hおよびkBは、ファラデー、モル気体、プランクおよびボルツマン定数である)。0−4の数が、MnClxTE-2-PyP5+におけるxに相当する。Cu,Zu-SODの1の活性部位の位応するデータ(Ellerby et al,J.Am.Chem.Soc.118:6556,1996)。
【図7】示されたデータは3種類の抗酸化剤の化学構造である。A)メソ-ポルフィリン種類は、以下を示す:R1は、ピリジル(テトラキス-(N-メチルピリジニウム-2-(4)イル))ポルフィリンの2若しくは4位における安息香酸(テトラキス-(4-安息香酸)ポルフィリン(TBAP))[benzoic acid(tetrakis-(4-benzoic acid)porphyrin(TBAP)]またはN-メチル基の何れかである(TM-2-PyP、TM-4-PyP);R2は、水素(H)または臭素(Br、OBTM-4-PyP)の何れかであり、且つ該ポルフィリンはマンガン(Mn)、コバルト(Co)、鉄(Fe)または亜鉛(Zn)金属の何れかと結合する。B)該ビタミンE類似体種類は、トロロックスにより代表される。C)該フラボノイド種類はルチンにより代表される。
【図8】鉄/アスコルベートを介したラット脳ホモジネートの酸化のタイムコース。ラット脳ホモジネートは種々の時間で0.25μMのFeCl2と1μMのアスコルベートと共にインキュベートし、脂質過酸化はチオバルビツール酸反応種(TBARS)としてに535nmで分光光度法により測定した(n=3)。
【図9】鉄/アスコルベートを介したラット脳ホモジネートの酸化阻害能におけるトロロックス(■)、ルチン(▲)、ウシCuZnSOD(●)、MnOBTM-4-PyP(▲)およびMnOBTM-2-PyP(◆)の比較。ラット脳ホモジネートは、30分間、0.25μMのFeCl2と1μMのアスコルベートと共にインキュベートし、脂質過酸化はチオバルビツール酸反応種(TBARS)として測定した。30分間に形成されたTBARS量を100%過酸化脂質として表した(n=3-6)。シグモイド用量反応曲線は、非線形回帰プログラムに対するデータの適合から誘導した。
【図10】ラット脳ホモジネートの鉄/アスコルベート媒介酸化の阻害能におけるTBAPのマンガン(▲)、コバルト(●)、鉄(▲)および亜鉛(■)類似体の比較。ラット脳ホモジネートは、30分間、0.25μMのFeCl2と1μMのアスコルベートと共にインキュベートし、脂質過酸化はチオバルビツール酸反応種(TBARS)として測定した。30分間に形成されたTBARS量を100%過酸化脂質として表した(n=3-6)。シグモイド用量反応曲線は、非線形回帰プログラムに対するデータの適合から誘導した。
【図11】TM-4-PyP(四角形)およびTM-2-PyP(三角形)のマンガン(ソリッド)および亜鉛(オープン)類似体のラット脳ホモジネートの鉄/アスコルベート媒介酸化の阻害能における比較。ラット脳ホモジネートは、30分間、0.25μMのFeCl2と1μMのアスコルベートと共にインキュベートし、脂質過酸化はチオバルビツール酸反応種(TBARS)として測定した。30分間に形成されたTBARS量を100%過酸化脂質として表した(n=3-6)。シグモイド用量反応曲線は、非線形回帰プログラムに対するデータの適合から誘導した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、酸化剤、特に、スーパーオキシドラジカル、過酸化水素およびペルオキシナイトライトの有毒作用から保護する方法、並びに酸化剤ストレスに関与するまたは酸化剤により生ずる疾患または障害を予防および治療する方法に関する。また、本発明は、スーパーオキシドラジカル、過酸化水素、一酸化窒素およびペルオキシナイトライトを含む酸化剤に関与する生物学的過程を調節する方法に関する。本発明は、更に、そのような方法に使用するのに適切な、低分子量抗酸化剤(例えば、SODs、カタラーゼおよびペルオキシダーゼ等の擬似体等を含む反応性酸素種のスカベンジャーの擬似体)を含む化合物および組成物、並びにその製剤に関する。
【0010】
本発明の方法における使用に適切な反応性酸素種のスカベンジャーの擬似体は、メチン(即ち、メソ)置換ポルフィリンまたは薬学的に許容されるその塩を含む。本発明は、金属非含有および金属結合ポルフィン類の両方を含む。金属結合ポルフィン類の場合、メチン(メソ)置換ポルフィン類のマンガン誘導体が好ましいが、しかしながら、マンガン以外の金属、例えば、鉄(IIまたはIII)、銅(IまたはII)、コバルト(IIまたはIII)、ニッケル(IまたはII)等も、また、使用することが可能である。選択された金属は、種々の原子価状態を有してもよく、例えば、マンガンII、IIIまたはVが使用可能であることは高く評価されるであろう。原子価変化を受けず、そのため直接にスーパーオキシドをスカベンジしないにも関わらず、亜鉛(II)を使用することも可能である。該金属の選択は、スカベンジされる酸素種の選択性に影響する。例えば、鉄結合ポルフィン類は、NO・をスカベンジするために使用されるが、マンガン結合ポルフィリンでは不可能である。これらの金属結合ポルフィリンはペルオキシナイトライトをスカベンジし、;鉄、ニッケルおよびコバルト結合ポルフィン類は、ペルオキシナイトライトと最も高い反応性を有する傾向がある。
【0011】
本発明の好ましい擬似体は、式I若しくはII、またはその薬学的に許容される塩である:
【化6】

【0012】
ここで、各RはC1−C8アルキル基、好ましくはC1−C4アルキル基、より好ましくはメチル、エチルまたはイソプロピル、最も好ましくはメチルである。また、この擬似体は、金属非含有またはマンガン以外の金属と結合して存在してもよい。上記の全てのアトロプ異性体は本発明の範囲内であり、単離された形態にあってもよく、また、少なくとも2の混合物として存在してもよい。少なくとも3、好ましくは4のR基が該ポルフィリン環平面の上にあるアトロプ異性体が、特に有利である。
【0013】
式IまたはIIのポルフィリンのピロール環の1以上は、何れかまたは全てのβ炭素で;即ち、2、3、7、8、12、13、17または18で置換されてもよい。そのような置換基は、Pとして示され、電子離脱基、例えば、夫々のPは、独立して、NO2基、ハロゲン(例えば、Cl、BrまたはF)、ニトリル、ビニル基またはホルミル基でよい。例えば、1、2、3、4、5、6、7または8ハロゲン(例えば、Br)置換基(8未満のハロゲン置換基があるとき、残りのPの置換基は、水素であることが有利である)であってよい。そのような置換基は、該ポルフィリンのレドックスポテンシャルを変化させ、それにより酸素ラジカルのスカベンジ能を強化する。各Pは、独立して水素であってもよい。Pがホルミル基であるとき、好ましくは、2以下(非隣接炭素において)、より好ましくは1であり、残りのPは水素である。PがNO2であるとき、4以下(非隣接炭素において)、より好ましくは1または2であり、残りのPは水素であることが好ましい。
【0014】
本発明方法の使用に適切な擬似体は、SOD、カタラーゼおよび/またはペルオキシダーゼ活性および安定性をアッセイすることにより選択することが可能である。また、擬似体は、脂質過酸化を開始するために鉄およびアスコルベートを使用して、組織ホモジネートにおける脂質過酸化の阻害能を、チオバルビツール酸反応性種(TBARS)の形成を測定することによりスクリーニングすることが可能である(Ohkawaら、Anal.Biochem.95:315,1979,およびYueら、J.Pharmacol.Exp.Ther.263:92,1992)。公知のO2-発生剤によるアコニターゼの選択的、可逆的且つSOD感受性の不活性化が、細胞内O2-発生のマーカーとして使用されてもよい。従って、適切な擬似体は、アコニターゼ活性の保護能のアッセイにより選択することが可能である。
【0015】
SOD活性は、マックコードとフリードビッヒ(McCord and Fridovich)の方法を使用しEDTAの存在および不在においてモニターすることが可能である(J.Biol.Chem.244:6049,1969)。擬似体の効力は、また、特異的な突然変異を欠く親株に対するSODヌル大腸菌株の有酸素性の成長における擬似体の効果を測定することにより決定することが可能である。特に、親大腸菌(AB1157)とSODヌル大腸菌(JI132)は0.2%のカザミノ酸および0.2%のグルコースを含有するpH7.0且つ37℃のM9培地で成長する;成長は、700nmでの濁度に関してモニターされる。このアッセイは、該培地(5つの必須アミノ酸を添加したグルコース最小培地;M9)からアミノ酸を含む枝分れ鎖、芳香族および硫黄を省くことによるSOD擬似体に対してより選択的にすることが可能である(例Vを参照されたい)。
【0016】
また、活性擬似体の効力は、メチルビオロゲン(パラコート)誘導毒性に対する哺乳動物細胞の保護能を決定することによりアッセイできる。特に、後述する通りに24穴皿に播種して培養したラットL2細胞を、種々の濃度のSOD擬似体でプレインキュベーションし、次に、予めコントロールのL2細胞におけるLC75を導くことが示された濃度のメチルビオロゲンでインキュベーションした。該擬似体の効果は、メチルビオロゲン誘導LDH放出の減少に相当する(St.Clair 等、FEBS Lett.293:199,1991)。
【0017】
SOD擬似体の効力は、マウスおよび/またはラットモデルによる噴霧投与および非経口的注射の両方を使用したインビボにおいて試験することが可能である。例えば、雄性Balb/cマウスを、無作為に各8匹のマウスからなる4群に分け、標準2X2偶然性統計モデルを形成する。動物は、パラコート(40mg/kg、ip)または生理食塩水の何れかで処理し、且つSOD擬似体またはベヒクルコントロールで処理した。肺障害を、パラコート処理の48時間後に気管支肺胞潅注液体(BALF)の損傷パラメータ(LDH、タンパクおよび% PMN)を以前に記載した通りに分析することにより評価した(Hampson等、Tox.Appl.Pharm.98:206,1989; Day等、J.Pharm.Methods 24:1,1990)。各群毎に2匹のマウスからの肺を、4%のパラホルムアルデヒドを用いて潅注固定し、光学顕微鏡レベルで組織病理学的に処理する。
【0018】
カタラーゼ活性は、過酸化水素の存在下での240nmの吸収を測定すること(Beers および Sizer,J.Biol.Chem.195:133,1952)、またはクラーク酸素電極(Clark oxygen electrode)を用いた酸素変化を測定すること(Del Rio等、Anal.Biochem.80:409,1977)によりモニターできる。ペルオキシダーゼ活性は、以前に記載された通りに分光測光器により測定することが可能である(PutterおよびBecker: Peroxidases. In:Methods of Enzymatic Analysis, H.U. Bergmeyer(ed.),Verlag Chemie, Weinheim,pp.286-292,1983)。アコニターゼ活性は、ガードナーとフリードビッヒにより記載された通りに測定される(Gardner and Fridovich, J.Biol.Chem.266:19328,1991)。擬似体の脂質過酸化に対する活性は、オオカワ等(Ohkawa等、 Anal.Biochem.95:351,1979)およびユウ等(Yue 等、J.Pharmacol.Exp.Ther.263:92,1992)により記載された通りに評価される。
【0019】
活性擬似体は、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出の測定により哺乳細胞培養における毒性を試験することが可能である。特に、ラットL2細胞(a lung Type II like cell;KaighnおよびDouglas, J.Cell Biol.59:160a,1973)は、10%のウシ胎児血清を補ったハムのF-12培地(Ham’s F-12 medium)において、pH7.4且つ37℃で成長する;細胞は、等密度で24穴培養皿に播種され、略90%コンフルエンスまで増殖させる;SOD擬似体は、該細胞に対数用量(例えば、ミニマル・エッセンシャル・メディウム;MEM中でマイクロモーラー用量)で添加し、24時間、インキュベーションする。毒性は、形態学により、且つサイトソル障害マーカーであるLDHの放出を(例えば、サーモキネティックプレートリーダーにおいて)、バッサルト (Vassault, In:Methods of Enzymatic Analysis, Bergmeyer(ed)pp.118-26,1983; NADHの酸化は340nmで測定する)の記載の通りに測定することにより評価することが可能である。
【0020】
本発明の方法で使用するのに適切な擬似体の合成は、当該分野で公知のプロトコールを使用して達成することが可能である(また、例I、II、IIIおよび IV並びにSastry等、Anal.Chem.41:857,1969, Pasternack等,Biochem.22:2406,1983; Richards等, Inrg.Chem.35:1940, 1996および U.S.Appln.No.08/663,028, 特に、ここでは、詳細は合成について述べられている)。アトロプ異性体の分離は、種々の技術を使用して達成される。
【0021】
本発明の1つの具体的な態様を、戦略的位置に対する上述のポルフィン類を目的とすることによりNO・レベルを調節する方法に関する。NO・は、細胞内シグナルであり、例えば、NO・は細胞外マトリックスを超えてその効果を発揮する。しかしながら、NO・は、細胞外空間に存在するO2-により介在される不活性化に対して感受性が高い。本発明のメチン(メソ)置換ポルフィリン類は、O2-によるその分解を防ぐことによりNOの生物学的利用能を増加できる。
【0022】
更なる態様において、本発明の擬似体は、反応性酸素種の触媒的スカベンジャーとして、梗塞形成、発作、急性頭部外傷、臓器移植後の器官再潅流、腸管虚血、出血性ショック、肺梗塞形成、血流の外科的閉塞、および軟性組織障害に関連する虚血再潅流障害から保護するために使用される。該擬似体は、更に、骨格筋再潅流障害に対する保護に使用することが可能である。また、該擬似体は、日光を原因とする眼(および皮膚)の損傷、同時に緑内障および眼における横斑変性から保護するために使用される。また、該擬似体は、白内障に対する保護および/または治療のために使用される。また、該擬似体は、皮膚の炎症性疾患(例えば、乾癬等)に対する保護および/または治療のために使用される。また、骨の疾患も、該擬似体を用いての治療に応ずる。更に、一般化された加齢による欠陥である、コラーゲン合成または分解における欠陥に関連する結合組織障害も、本発明の疑似体による治療に感受性があると期待される。
【0023】
更なるもう1つの態様において、本発明の擬似体は、反応性酸素種の触媒的スカベンジャーとして使用され、移植された心臓、腎臓、皮膚および他の器官並びに組織の非常に限られた貯蔵生存能力を増加する。また、本発明は、食品、薬品、保存血液等に含まれるO2-の形成により生じる物質の自動酸化による損傷を阻害する方法を提供する。この結果を達成するために、酸化的損傷を阻害または防止するのに十分な量で、本発明の擬似体は、食品、薬品、保存血液等に添加され、それにより自動酸化による分解を阻害または防止する(本発明の疑似体の他の使用には、USP 5,227,405を参照されたい)。特に治療において使用されるべき、または具体的な物質に関連するべき擬似体の量は、当業者により決定される。
【0024】
更なるもう1つの態様において、本発明の擬似体は、過酸化水素をスカベンジするために使用することが可能であり、従って、フェントン化学反応を阻害することによって、高い反応性を有するヒドロキシラジカルの形成から保護することが可能である(Aruoma and Halliwell, Biochem. J. 241:273,1987;Mello filho等、Biochem.J.218:273,1984;Rush and Bielski,J.Phys.Chem.89:5062,1985)。本発明の擬似体は、また、ペルオキシナイトライトをスカベンジするのに使用してもよく、これは、ジヒドロローダミン123のローダミン123への酸化の阻害により間接的に示され、並びにストップフロー分析(stop flow analysis)によるペルオキシナイトライト分解の促進により直接的に示される通りである。
【0025】
本発明の該擬似体を使用する治療に適切な特異的な更なる疾患/障害の例は、中枢神経系の疾患[AIDS痴呆、脳卒中、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病およびハンティングトン病を含む]並びに筋系の疾患[横隔膜障害(例えば、気腫における呼吸性疲労、気管支炎および嚢包性繊維症を含む)、鬱血性心不全の心疲労、ミオパシーに関連する筋虚弱症候群、ALSおよび多発性硬化症を含む]を含む。多くの神経障害(脳卒中、ハンティングトン病、パーキンソン病、ALS、アルツハイマー病およびAIDS痴呆を含む)は、グルタミン酸レセプターの主なサブタイプ、即ち、NMDA(またはN-メチル-D-アスパラギン酸)サブタイプの過剰刺激に関連する。NMDAレセプターの刺激において、過剰なニューロンカルシウム濃度は、オキシジェンフリーラジカルおよび一酸化窒素(NO・)の産生を誘導する一連の膜および細胞質の事象に寄与する。オキシジェンフリーラジカルとNO・との間の相互作用が、ニューロン細胞死に寄与することが示されている。良好に確立されたNMDA毒性のニューロン皮質培養モデルが開発され、薬物開発のための基礎として使用されている。これらの同じ系において、本発明の疑似体はNMDA誘導障害を阻害する。O2-ラジカルの形成は、皮質ニューロンの興奮性毒性死を完成する細胞内事象における絶対的ステップであり、また更に、本発明の該擬似体はO2-ラジカルをスカベンジするために使用することが可能であり、それにより興奮性毒性障害に対して保護剤として供給される。
【0026】
また、本発明は、AIDSの治療方法に関する。該NfカッパBプロモーターは、複製のためにHIVウイルスにより使用される。このプロモーターは、レドックス感受性であり、そのため、抗酸化剤がこの過程を調節することが可能である。これは、以前、本発明のそれらから2つのメタロポルフィリンを識別するために示している(Song等、Antiviral Chem. And Chemother.8:85,1997)。本発明は、また、関節炎、全身性高血圧、粥状動脈硬化、浮腫、敗血症ショック、原発性肺性高血圧を含む肺性高血圧、MED、不妊症、子宮内膜症、早発性子宮収縮、微生物感染、通風の治療法、並びにI型およびII型真性糖尿病の治療に関する。本発明の擬似体は、例えば、血管の正常な緊張(vascular tone)を維持すること、および多器官系損傷を防止することにより、エンドトキシンに関連する毒性作用を改善するために使用することが可能である。
【0027】
炎症、特に、肺の炎症は、本発明を使用する治療を受けることが可能である[特に、喘息、酸素毒性を含むARDS、肺炎(特に、AIDSに関連する肺炎)、嚢包性繊維症、慢性静脈洞炎および自己免疫疾患(慢性関節リウマチ等)をの疾患を基礎にする炎症に注目されたい]。EC−SODは、気道および血管平滑筋細胞を囲む間隙性空隙に位置する。EC−SODおよびO2-は、肺胞間中隔における抗炎症性−前炎症性バランスを媒介する。肺胞間中核細胞により放出されたNO・は、それがO2-と反応してONOO-を形成しない限り、炎症を抑制するために作用する。O2-をスカベンジすることにより、EC−SODは、炎症に対して肺胞間中核におけるバランスを傾ける。顕著な量のONOO-は、EC−SODが不足する場合またはO2-の放出が甚だしく増加した場合のみに形成するであろう。ここで記載された擬似体は、高酸素症により引き起こされた破壊に対して保護するために使用できる。
【0028】
更に、本発明は、記憶障害の治療方法に関する。一酸化窒素は、長期間の記憶の強力化に関係する神経伝達物質であると考えられている。EC−SODノックアウトマウスモデル(Carlsson等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:6264,1995)を使用しし、学習障害が、脳の細胞外空隙における減少したスーパーオキシドスカベンジに相関することが示される。減少したスカベンジは、より高い細胞外O2-レベルを引き起こす。O2-は、一酸化窒素と反応し、それにより、一酸化窒素を介する神経伝達を防止または阻害し、それにより、長期間の記憶の強力化を防止または阻害する。本発明の該擬似体は、痴呆および記憶/学習障害の治療に使用することが可能である。
【0029】
また、本発明の擬似体の生物学的利用能は、O2-、過酸化水素、一酸化窒素およびペルオキシナイトライトにより媒介される過程の研究を可能にする。
【0030】
上述の擬似体は、本方法において使用するのに適切な薬学的組成物に配合される。そのような組成物は、薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤と共に活性剤(擬似体)を含む。該組成物は、例えば、錠剤、カプセルまたは坐剤等の投与量単位形態で存在し得る。また、該組成物は、注射または噴霧に適した滅菌溶液の形態にあってもよい。また、組成物は、眼科用に適切な形態であってもよい。また、本発明は、局所的投与のために配合された組成物も含み、そのような組成物は、例えば、ローション、クリーム、ゲルまたは軟膏等の形態をとる。該組成物に含有されるべき活性剤の濃度は、該薬剤の性質、投与量計画および診察の結果を基に選択される。
【0031】
投与されるべき本発明の組成物の投与量は、過度の実験をすることなく決定することが可能であり、該活性剤、投与経路、患者および到達すべき診察結果の性質を含む種々の因子に依存するであろう。例えば、IVまたは局所的に投与されるべき擬似体の適切な投与量は、約0.01から100mg/kg/day、好ましくは0.1から10mg/kg/dayの範囲である。噴霧投与に対しては、投与量は、0.01から10mg/kg/dayの範囲であることが予想される。擬似体の適切な投与量は、例えば、該擬似体と診察結果によって変更してよい。フォークナーら(Faulkner等、J.Biol.Chem.269:23471,1994)の結果は、インビボにおける該擬似体のオキシドレダクターゼ活性は、薬学的に有効な投与量が毒性の問題を避けるために十分に低ものであることを示す。使用され得る投与量は、1から50mg/kgの範囲の投与量を含む。
【実施例】
【0032】
本発明の幾つかの側面を以下の例において更に詳しく説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0033】

以下の薬品を続く例I−Vにおいて使用した。
【0034】
オルトおよびメタ−金属非含有リガンド(H2TM-2-PyPCl5およびH2TM-3-PyPCl5)の塩化物塩は、ミッドセンチュリー・ケミカルズ(MidCentury Chemicals)から購入し、並びにパラ金属非含有リガンド[2TM-4-PyP(CH5PhSO3)5]のトシラート塩はポルフィリン・プロダクツ(Porphyrin Products)から購入した。その純度は、元素分析と分光特性、即ち、モル吸光係数およびのソレー帯の対応波長の点から確認した。金属非含有リガンドのソレー帯特性は、E413.3nm=2.16×105M-1cm-1(H2TM-2-PyPCl4)、E416.6nm=3.18×105M-1cm-1(H2TM-3-PyPCl4)、E422.0nm=2.35×105M-1cm-1(H2TM-4-PyPCl4)である。非メチル化オルト金属非含有リガンド(H2T-2-PyP)は、ミッドセンチュリー・ケミカルズから購入し、その純度は元素分析の点から確認した(以下を参照されたい)。ヨードエタン、1−ヨードブタン、無水塩化マンガン(MnCl2)、MnCl2・4H2O、塩化テトラブチルアンモニウム(TBA)およびへキサフルオロリン酸アンモニウム(PF6NH4)はアルドリッチ(Aldrich)から購入した。
【0035】
例I
メソ-テトラキス-(N-メチルピリジニウム-2-イル)ポルフィリンおよびメソ-テトラキス-(N-メチルピリジニウム-3-イル)ポルフィリンの合成
金属非含有ポルフィリンメソ-テトラキス-(2-ピリジル)ポルフィリン(H2T-2-PyP)およびメソ-テトラキス-(3-ピリジル)ポルフィリン(H2T-3-PyP)は、ロートムント凝縮(Rothmund condensation)を介して変更したアドラー法を使用して合成した(Kalyanasundaram,Inorg.Chem.23:2353,1984;Torrens et al,J.Am.Chem.Soc.94:4160,1972)。100mLのプロピオン酸の還流溶液に、等モル量の新しく蒸留したピロールおよびピリジン-2-またはピリジン-3-カルボキシルアデヒド(carboxyadehyde)をゆっくりと注入し、該溶液を約45分間還流し、その後、該プロピオン酸を蒸留して除いた。黒色残渣をNaOHにより中性化し、メタノールで洗浄し、CH2Cl2(ジクロロメタン)に溶解し、アセトンで調製した中性ウォーレンアルミナカラム(Woelm alumina column)上でクロマトグラフィを行った。淡青色画分の溶離の後、H2TPyPを5−10%のピリジンを含有するCH2Cl2を使用して溶離した。ロータエバポレーターで溶媒を除去した後で、光沢のある暗紫色結晶を暗赤色溶離液から回収した。H2TPyPのメチル化は、還流クロロホルム中の過剰のメチル-p-トルエンスルホネートを使用して実施した(Kalyanasundaram,Inorg.Chem.23:2453,194;Hambright et al,Inorg.Chem.15:2314,1976)。両方のアルキル化したポルフィリンを、高温のクロロホルム溶液から自然に沈殿し、エーテルで洗浄し空気乾燥した。
【0036】
例II
2TMPyP4+のオルト、メタおよびパラ異性体のマンガン複合体の製造
メタレーションは、室温で水中において実施した。メタおよびオルト異性体の場合、金属に対する該ポルフィリンの割合は1:5であり、パラ異性体の場合では、1:14である。該溶液のpHを〜pH=10.2にまで調整した後、該固体MnCl2×4H2O(アルドリッチ)を、該水性金属非含有ポルフィリンに対して添加した。該メタレーションは、3つの異性体全ての場合において、1時間以内で完了した。オルトおよびメタ化合物の製造のために、MnTM−2−PyP5+とMnTM−3−PyP5+、300mgの金属非含有リガンド、H2TM−2−PyP4+またはH2TM−3−PyP4+の何れかを100mLの水に溶解し、数滴のNaOHによりpHを10.2まで調整し、続いてMnCl2の340mgを添加した。該メタレーションは、夫々、413.3nmまたは416.6nmでのH2TM−2−PyP4+またはH2TM−3−PyP4+のソレー帯の吸光、および454.1nmと459.8nmでのマンガン複合体のソレー帯の出現を介して分光的に追跡した。
【0037】
過剰の金属は、MnTMPyP5+の3つ全ての異性体(オルト、メタおよびパラ)に対して次の通りに消去した。MnTMPyP5+は、50倍過剰なNH4PF6を添加することにより、PF6−塩として沈殿した。該沈殿物を2-プロパノール:ジエチルエテール=1:1で洗浄し、真空において室温で乾燥した。乾燥したMnTMPyP5+のPF6-塩を、次に、アセトンに溶解し(100mLアセトン中に370mg)、1gの塩化テトラブチルアンモニウムを添加した。該沈殿物はアセトンで洗浄し、室温で真空において一晩乾燥した。純粋な化合物を得るために、該方法を繰り返した。元素分析をメタレートした全異性体について行った。該化合物は分光的に分析し、以下のデータを得た:メタレートした化合物のソレー帯特性:E454.1nm=12.3×104M-1cm-1(MnTM-2-PyPCl5)、E459.8nm=13.3×104M-1cm-1(MnTM-3-PyPCl5)、E462.2nm=13.9×104M-1cm-1(MnTM-4-PyPCl5)。
【0038】
メタレーションは、同様にメタノール中で行った。加えて、水中で行った場合、該金属:リガンド比は、1:5から1:14から1:100までで変更することが可能である。全ての条件下で、問題のモル吸光係数が得られた。計算値は、メタレーション前に分析された金属非含有リガンドを基本とした。該金属非含有リガンドのモル吸光係数は、それらの元素分析と同様に文献と一致した。
【0039】
MnTM2−PyPCl5の元素分析およびMnTM−3−PyPCl5を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
例III
メソ-テトラキス(N-エチルピリジニウム-2-イル)ポルフィリン第二マンガンの合成
50mgのH2T−2−PyPを、30mLの無水ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、該溶液を攪拌および100℃に加熱した。20mgの無水MnCl2(20eq)を添加し、該溶液を3日間攪拌した。該メタレーションの完了は、UV分光分析法により確認した。メタレーションにおいて、温度を60℃まで低下し、0.65mLのヨードエタン(100eq)を添加し、更に該溶液を7日間攪拌した(Perree-Fauvet et al,Tetrahedron 52:13569,1996)。DMFを蒸発し、10mLのアセトンを添加し、その生成物をアセトン中のTBA溶液(0.45M)の20mLを添加して沈殿した;実際、沃化物塩に対して、塩化物塩はアセトン中で沈殿する。該生成物を上述の「二重沈殿」法を使用して精製した。該生成物は、真空中、P25上、70℃で、一晩乾燥し、125mg(95%)の暗紫色固体を得た。UV(H2),E454.0nm=1.41×105M-1cm-1。元素分析、MnC48N8H44Cl5・5H2Oの計算値:C(54.64), H(5.16), N(10.62); 実測値: C(54.55), H(5.36), N(10.88)。
【0042】
例IV
メソ-テトラキス-(N-ブチルピリジニウム-2-イル)ポルフィリン第二マンガンの合成
上述と同じ方法を使用した。0.92mLの1-ヨードブタン(100eq)を添加し、その混合物を100℃で7日間混合した。該塩化物塩を乾燥し、70mg(50%)の暗紫色粘性生成物を得た。元素分析は、このようにヘキサフルオロリン酸塩(非粘性)において実施した。該塩化物塩は水可溶性である(ミセルは観察されなかった)。塩化物塩のUV(H2O)は、E454.0nm=1.21×105M-1cm-1。元素分析、MnC56H6H8P5F30・H2Oの計算値:C(40.94), H(3.80), N(6.82); 実測値: C(41.15), H(4.35), N(6.52)。
【0043】
例V
オルト効果がメソ-テトラキス-(N-アルキルピリジニウム-2-イル)-ポルフィリン第二マンガンを強力なスーパーオキシドジスムターゼ擬態させる
本発明の擬似体のスーパーオキシドジスムターゼ活性は、熱力学的因子(例えば、金属中心レドックスポテンシャル、図1を参照されたい)および動態因子(例えば、静電気促進)を含む多くの因子に依存する。インビトロでのSOD活性の酵素アッセイ(McCord and Fridovich,J.Biol.Chem.244:5049,1969を参照されたい)において、オルト化合物“3”は、パラ化合物“1”よりもより活性の大きな程度であるように証明される(図2を参照されたい。また、表2に注目されたい。ここで、“2”は、メタ化合物であり“4”および“5”はオルト化合物であり、夫々、4エチルまたは4ブチル基を有する)。
【0044】
本発明の擬似体のインビボにおける活性は、MnSODおよびFeSODの両方のコードする遺伝子を欠損した大腸菌株において試験することが可能である。このアッセイでは、親株に対するSODヌル大腸菌株の好気性増殖における該擬似体の効果を測定することにより、擬似体の効果が決定される。特に、親大腸菌(AB1157)とSODヌル大腸菌(JI132)は、0.2%のカザミノ酸および0.2%のグルコースを含有するM9培地においてpH7.0且つ37℃で増殖する;増殖は、700nmの結果として生じる濁度の点からモニターされる。このアッセイは、枝分かれ鎖、芳香族および硫黄含有アミノ酸を該培地(5つの必須アミノ酸を加えたグルコース最小培地;M9)から除くことにより、SOD擬似体に対してより選択的にできる。図3において示された通り、「オルト効果」による活性における増加が確認され、そこにおいて、これらの増殖条件において、化合物“1”の存在において培養されたSODヌル細胞は、A700における増殖を示さなかったのに対して、化合物“3”および“4”の存在下で培養された前記細胞では示した(“2”も同様)。
【0045】
「オルト効果」は、また、毒性を低下する。ポルフィリン類、特に陽イオンのポルフィリン類がDNAと相互作用し、且つDNAクリーバー(DNA cleavers)として作用することは周知である。この事実は、抗腫瘍薬としてのメタロ-ポルフィリン類の使用において噴出した。本擬似体は、この相互作用を回避する。活性の増加に加えて、メタ“2”およびオルト“3”化合物のDNAとの相互作用は、大きく増加する。これは、DNAの存在下でのインビトロにおいてSOD活性の測定により(表2を参照されたい)、およびインビボ(大腸菌)における低下した毒性により(表3を参照されたい)明確に証明された。
【0046】
DNAとの相互作用による毒性の減少を最大化するために、オルト化合物の2つの誘導体を4のエチルまたは4のブチル基を有するように製造した(夫々、“4”および“5”)。該エチル誘導体“4”は、メチル誘導体“3”よりも顕著に毒性が低い(表2および図3を参照されたい)。しかしながら、該エチル化誘導体“4”に比較してブチル化誘導体は、更なる毒性の減少は見られなかった(表2を参照されたい)。これらのデータは、オルトエチル基がDNAに対する該ポルフィリンの結合を阻害するのに十分であることを示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表:1、2、3並びにそのアトロポ異性体である4および5のUVパラメター、レドックスポテンシャル(対NHE)、SOD様活性およびDNA相互作用パラメーター(*アトロプ異性体の混合物、δs8=ソレー帯波長、ε=ソレー帯のモル吸光係数、Et/2=1電子金属中心レドックスポテンシャル、kcat=スーパーオキシドジスムテーション反応の速度定数、DNA-IC50=スーパーオキシドジスムテーション反応の50%阻害のためのDNA濃度)。
【0049】
例VI
メソ-テトラキス-(N-エチルピリジニウム-2-イル)-ポルフィリンマンガン(II)の部分的な(1から4)β塩素化誘導体の合成とスーパーオキシドジスムテート活性
材料および方法
材料:5,19,15,20-テトラキス-(2-ピリジル)-ポルフィリン(H2T-2-PyP)は、ミッド-センチュリー・ケミカルズ(Posen,IL)(Torrens等、J.Am.Chem.Soc.94:4160,1972)から購入した。N-クロロスクシンイミド(NCS)、エチル-p-トルエンスルホネート(ETS)、塩化テトラブチルアンモニウム(98%)(TBAC)、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(NH4PF6)、塩化マンガン、L-アスコルビン酸ナトリウム(99%)、シトクロムc、キサンチン、エチレンジニトリロテトラ酢酸(EDTA)、N,N-ジメチルホルムアミド(98.8%、無水)および2-プロパノール(99.5%)はシグマ-アルドリッチから。エタノール(無水)、アセトン、エチルエーテル(無水)、クロロホルムおよびジクロロメタン(HPLC等級)は、マリンクロッド(Mallinckrodt)から、更なる精製を行わずに使用する。キサンチンオキシダーゼは、R.D.ウェレイ(R.D.Wiley)により供給された(Waud等、Arch.Biochem.Biophys.19:695,1975)。薄層クロマトグラフィ(TLC)板(Baker-flex silica gel IB)は、J.T.ベーカー(J.T.Baker,Phillipsburg,VA)から。ワコーゲル(Wakogel)C-300は和光純薬工業化学株式会社(Richmond,VA)。
【0050】
器具使用:プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルはバリアン・イノヴァ400スペクトロメーター(Varian Inova 400 spectrometer)に記録した。紫外部/可紫部(UV/VIS)スペクトルは、シマズ・スペクトロフォトメーター・モデル・UV−260(Shiomadzu spectrophotometer Model UV-260)で記録した。マトリックス補助レーザー溶解/イオン化−フライトの時間−(MALDI-TOFMS)およびエレクトロスプレー/イオン化(ESMS)質量分析は、ブルッカー・プロフレックスIIITMおよびフィソンズ・VG・Bio-Q・トリプル・クアドロポール・スペクトロメーターズを夫々使用した。
【0051】
2ClT−2−PyP:H2T−2−PyPの50mg(8.1×10-5モル)をクロロホルム中でNCS(Ochsenbein等、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:348,1994)の43mg(3.22×10-1モル)と還流した。該反応は、次に、通常相シリカTLCを、混合物EtOH/CH2Cl2(5:95)を溶離液として使用して行った。反応の6時間後、該溶液を1度蒸留水により洗浄した。クロロホルムを蒸発し、該反応の生成物を2.5×50cmカラム中の100gのワコーゲルC300上で同じ溶離液を使用してクロマトグラフィを行った。H2Cl1T−2−PyPに相当する画分を同じ系を使用して再び精製し、16mgの暗紫色固体(30%)を得た。TLC:Rf=0.47.UV/VIS(CHCl3):λnm(logε)419.6(5.44),515.2(4.21), 590.0(3.72),645.8(3.25).MALDI-TOFMS:m/z=654(M+H+). 1H-NMR(CDCl3):δppm -2.91(2H, NH);7.66-7.74(m, 4H);7.99-8.21(m, 8H);7.68(s, 2H);8.74(d, 1H, J 6Hz);8.76(d,1H,J6Hz);8.76(d,1H,J6Hz);8.88(d,1H,J6Hz;8.90(d,1H,J6Hz);8.94(d, 1H, J 6Hz);9.04-9.14(m, 4H)。
【0052】
2Cl2aT−2−PyP:上述と同じ方法により、5.3mgの暗紫色固体(10%)を得る。TLC:Rf=0.50. UV/VIS(CHCl3):λnm(logε) 421.4(5.38), 517.8(4.21), 591.4(3.78), 647.26(3.51);MALDI-TOFMS;m/z:=688(M+H+). 1H-NMR(CDCl3):δppm -2.98(2H, NH);7.66-7.74(m, 4H);8.00-8.20(m, 8H);8.70(s, 2H);8.82(d, 2H, J 6Hz);8.91(d, 2H, J 6Hz);9.06-9.14(m, 4H)。 H2Cl2b+2cT−2−PyP:同じ方法により、11mgの暗紫色固体(20%)を得る。TLC:Rf=0.53. UV/VIS(CHCl3):λnm(logε) 421.4(5.42), 516.8(4.25), 593.2(3.74), 646.2(3.31);MALDI-TOFMS, m/z:=688(M+H+). 1H-NMR(CDCl3):δppm -3.04(2H, NH);-2.84(1H, NH);-2.87(1H, NH);7.66-7.74(m, 8H);7.98-8.20(m, 16H);8.59(s, 1H);8.61(s, 1H);8.73(d, 2H, J<2Hz);8.73(d, 2H, J 6Hz);8.87(d, 2H, J 6Hz);8.93(d, 2H, J<2Hz);9.02-9.14(m, 8H)。
【0053】
2Cl3T−2−PyP:65mg(4.87×10-4モル)のNCSを使用した同様の方法により、8.4mgの暗紫色固体(14%)を得る。TLC:Rf=0.55. UV/VIS(CHCl3):λnm(logε) 422.8(5.37), 519.4(4.21), 593.8(3.71), 651.4(3.37). MALDI-TOFMS:m/z=723(M+H+). 1H-NMR(CDCl3):δppm -3.08(1H, NH);-3.15(1H, NH);7.66-7.74(m, 4H);8.00-8.18(m, 8H);8.56(s, 1H);8.72(d, 1H, J 6Hz);8.76(d, 1H, J 6Hz);8.82(d, 1H, J 6Hz);8.88(d, 1H, J 6Hz);9.04-9.14(m, 4H)。
【0054】
2Cl4T−2−PyP;65mg(4.87×10-4モル)のNCSを使用した同じ方法により、7.3mgの暗紫色固体(12%)を得る。TLC:Rf=0.58. UV/VIS(CHCl3):λnm(logε) 423.4(5.33), 520.0(4.19), 595.6(3.66), 651.0(3.33). MALDI-TQFMS:m/z=758(M+H+) 1H-NMR(CDCl3):δppm -3.14(2H, NH);7.66-7.74(m, 4H);7.98-8.16(m, 8H);8.74(d, 4H, J<2Hz);9.06-9.12(m, 4H)。
【0055】
MnTE−2−PyP5+:H2T−2−PyPの100mg(1.62×10-4モル)を5mlの温かいDMF(無水)に溶解し、5.5mL(322×10-2モル)のエチル-p-トルエンスルホネート(ETS)を攪拌下で90℃で添加し、24−48時間反応した。テトラ-N-エチル化の完了後、混合物KNO3sat/H2O/CH3CN(1:1:8)を溶離液として使用した通常の相シリカTLCを行った(Batinic-Haberle等、J.Biol.Chem.273:23521,1998)。該反応の完了において、DMFを真空下で取り除き、次に、5mLのアセトンを添加した。この溶液に対して、アセトン中の塩化テトラブチルアンモニウム(TBAC)の濃縮溶液(〜1g/10ml)を、攪拌しながら滴下により、該沈殿物の塩化物が完了するまで添加した。得られた紫色固体を10mLの水に溶解し該溶液のpHを12までNaOHで調節し、640mgのMnCl・4H2O(3.23×10-3モル)を添加した(Batinic-Haberle等、J.Biol.Chem.273:24521,1998)。メタレーションの完了時、該pHを4から7の間に下げ、Mn(II)のMn(III)への自動酸化を促進し、過剰量の金属を以下の通り除去した。該溶液を濾過し、NH4PF6の濃縮溶液を添加して、PF6-塩として該メタロポルフィリンを沈殿した(Batinic-Haverle等、Arch.Biochem.Biophy.343:225,1997;Richards等、Inorg.Chem.35:1940,1996)。該沈殿物を2-プロパノール/エチルエーテル(1:1)の混合物により十分に洗浄し、真空下、室温で乾燥した。得られた固体を次にアセトンに溶解し、TBACの濃縮溶液を添加し、メタロポルフィリンをその塩化物塩の形態で単離した。該沈殿物をアセトンで十分に洗浄し、真空下で、室温で乾燥し、150mgの黒赤色固体(95%)を得た。
TLC:Rf=0.18. UV/VIS(H2O):λnm(logε) 364.0(4.64), 453.8(5.14), 558.6(4.05). ESMS:m/z=157.4(M5+/5). MnC48N8H44Cl5・5H2O の元素分析:計算値:C. 54.64;H. 5.16;N. 10.62.実測値:C. 54.55;H. 5.40;N. 10.39.(化合物の構造を示す表4を参照されたい)。
【0056】
MnClTE-2-PyP5+:上述の通り、1mLのDMF中の10mL(1.53×10-5モル)のH2Cl1T-2-PyPおよび0.5mL(2.94×10-3モル)のETSから出発した。TLC:Rf=0.20. UV/VIS(H2O):λnm(logε) 365.6(4.63), 455.6(5.13), 560.6(4.02). ESMS:m/z=164.3(M5+/5). MnC48N8H43Cl6・5H2O の元素分析:計算値:C. 52.91;H. 4.90;N. 10.28.実測値:C. 52.59;H. 5.28;N.10.14。
【0057】
MnC2aTE-2-PyP5+:5mg(7.28×10-6モル)のH2Cl2aT-2-Pypと0.25mL(1.47×10-3モル)のETSから出発する同様な方法で、7.5mgの黒赤色固体(95%)を得た。TLC::Rf=0.21. UV/VIS(H2O):λnm(logε) 365.8(4.58), 456.4(5.05), 562.2(4.00). ESMS:m/z=171.1(M5+/5). MnC48N8H42Cl7・6H2Oの元素分析:計算値:C. 50.48;H. 4.77;N. 9.81.実測値:C. 50.08;H. 4.60;N. 10.01。
【0058】
MnCl2b+2cTE-PyP5+:5mg(7.28×10-6モル)のH2Cl2b+2cT-2-Pypから出発する同様な方法で、7.5mgの黒赤色固体(95%)を得た。TLC::Rf=0.22. UV/VIS(H2O):λnm(logε) 365.2(4.63), 457.4(5.08), 462.2(4.06). ESMS:m/z=171.1(M5+/5). MnC48N3H42Cl7・5H2O の元素分析:計算値:C. 51.29;H. 4.66;N. 9.97.実測値:C. 51.31;H. 5.19;N. 9.68。
【0059】
MnCl3TE-2-PyP5+:5mg(7.28×10-6モル)のH2Cl2b+2cT-2-Pypから出発する同様な方法で、7.5mgの黒赤色固体(95%)を得た。TLC:Rf=0.23. UV/VIS(H2O):λnm(logε) 364.8(4.58), 458.0(4.98), 466.4(4.00). ESMS:m/z=178.1(M5+/5). MnC43N3H41Cl3・6H2Oの元素分析:計算値:C. 49.00;H. 4.54;N. 9.52.実測値:C. 48.40;H. 4.26;N. 9.59。
【0060】
MnCl4TE-2-PyP5+:5mg(6.61×10-6モル)のH2Cl4TE-2-PyPから出発する同様な方法で、7.5mgの黒茶色固体(95%)を得た。TLC:Rf=0.24. UV/VIS(H2O):λnm(logε) 365.8(4.52), 459.2(4.90), 567.0(3.96). ESMS:m/z=184.9(M5+/5). MnC48N3H40Cl9・5H2O の元素分析:計算値:C. 48.33;H. 4.22;N. 9.39.実測値:C. 48.38;H. 4.45;N. 9.53。
【0061】
電気化学:電気化学的特長は以前記述された通りにボルタンメトリー分析モデル600(CH器)によりガラス質炭素棒電極(Ag/AgCl基準電極および Pt補助電極)を0.5mMのポルフィリン、pH7.8(0.05Mのリン酸緩衝液)、0.1MのNaClで使用して行った。該電位は、フェリシアン酸カリウム/フェロシアン酸カリウム対に対して標準化した(Batinic-Haberle等 Arch.Biochem.Biophys.343:225,1997;Kolthof等,J.Phys.Chem.39:945,1974)。
【0062】
スーパーオキシドジスムテーション活性:SOD様活性は、O2-源としてキサンチン/キサンチンオキシダーゼを使用し、それを表示するスカベンジャーとしてフェリシトクロムcを使用した(McCord等,J.Biol.Chem.244:6049,1969)。O2-は分当たり1.2μMの速度で産生され、フェリシトクロムcの減少は550nmで追跡した。アッセイは、0.05Mのリン酸緩衝液(pH7.8)中の0.1mMのEDTAの存在下で行った。該化合物の反応の速度定数は、10μMシトクロムc、との競合に基づく、Kcytc=2.6×105-1-1(Butler等,J.Biol.Chem.257:10747,1982)。全ての測定は25℃で行った。シトクロムcの濃度は、SOD擬似体の濃度の少なくとも103倍は高く、該速度は少なくとも2分で直線となり、その間、該化合物は、O2-の〜100等量を補足され、それにより、該擬似体の存在下におけるO2-ジスムテーションの触媒特性が確認される。
【0063】
結果
水可溶性ポルフィリンの精製における情報が増えたにも関わらず、N-アルキル化およびメタレーションに続く、ハロゲン化非荷電ポリフィリンの分離の方が、MnClxTE-2-PyP5+の十分な割合という点でやはり容易であるようである(スキームA)(Richards等,Inorg.Chem.35:1940,1996;Kaufman等,Inorg.Chem.34:5073,1995):
【化7】

【0064】
2T-2-PyPβ塩素化誘導体:H2T-2-PyPのβ塩素化は、H2TPP類似体についての文献に記載された通りに、還流条件下でクロロホルム中でのN-クロロスクシンイミド(NCS)を使用して行った(Ochsenbein等,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:348,1994)。使用したNCSの等量数は、所望する置換の程度に応じて4または6である(表3)。反応後、溶離液としてエタノール/ジクロロメタン(5:95)を使用したTLC(シリカゲル)を行った(表3およびスキームB)。
【0065】
【表3】

【0066】
aシリカ上での溶離液としてEtOH/CH2Cl2(5:95)を使用したTLC。bCHCl3中(εの推定エラーは、10%以内である)。c6時間の還流CHCl3中(c〜2μM)。
【0067】
【化8】

【0068】
各化合物は、同じ溶離液を使用したシリカゲル(Wakogel C-300)上でのクロマトグラフィにより精製した。主な異性体の構造は、質量分析、UV/VISおよび1H-NMR分光法により同定した(表3およびスキームB)。H2T-2-PyPにおける塩素当たりのソレー帯の深色団のシフトは、以前、H2T-2-PyPに対して報告された3.5nmに対して1.3nmだけであった(表3)(Hoffmann等,Bull.Soc.Chem.Fr.129:85,1992;Chorghade等,Synthesis 1320,1996;Wijesekera等,Bull.Chem.Fr.133:765,1996)。3つうちの1つだけが二塩素化されたレジオ異性体(regioisomers)(β-Cl2a誘導体)をシリカゲル上でのクロマトフラフィにより精製した。その2つの他のレジオ異性体(β-Cl2bおよびβ-Cl2c誘導体)は、同じRfを示した。予備の結果は、H2BrxT-4-PyP(x=1から4)の精製がより困難であることを示した。実際、TLC系を使用した場合、β-Br1およびβ-Br2誘導体は、共に、同じRfを有し、β-Br2b、β-Br2c、β-Br3およびβ-Br4R誘導体の間にRfの相違は観察されず、これは、この場合のRfは、置換されたピロールの数に依存し、置換されたβ-プロトンの数には依存しないことを明確に示している。
【0069】
β塩素化誘導体H2T-2-PyPの1H−NMR同定:1H−NMRは、置換反応の生成物の同定を可能にする(表4および図5)。H2TPP類似体の文献に記載される通り、H2Cl4T-2-PyPの主なレジオ異性体は、7、8、17、18位に塩素を有する。実際、その1H−NMRスペクトルは、その局在性を失った2つのピロールのプロトンと結合した化学的に等量の4つのβ-プロトンに相当する明白な一重項(2Hzよりも低いJを有する二重項)を示す(Crossley等,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.1564.1991)。それにも関わらず、その質量分析に従って、他のテトラクロロ-レジオ異性体の混合物(1H-NMRスペクトルでは解釈されなかった)としてもう1つの低極性画分(Rf=0.60)が同定され、これは、両方のβ-Cl4画分の重量の約50%を示し、且つ該β置換は部分的なレジオ選択性であるのみである。H2Cl3T-2-PyP5+画分に相当する1H−NMRスペクトルに従うと、他のレジオ異性体は見られない。該スペクトルは、一置換されたピロールのβ-プロトンに相当する1つの一重項と、2つの非置換ピロールのβ-プロトンに相当する4つの二重項を示す。更に、この化合物の不斉が、2つのNHプロトンの差異化を導く。H2Cl2a-2-PyP(図5)およびH2Cl2b+2cT-2-PyPの収率と1H−NMRスペクトルに従うと、優位なβ-Cl2レジオ異性体は観察されない。最終的に、H2Cl1T-2-PyPスペクトルは、1つの一重項と6つの二重項を示すが,NHシグナルは1つのみであり、これにより、この場合には、2つのNH位を差異化するには該不斉が非常に弱すぎることが示される。
【0070】
【表4】

【0071】
aCDCl3=7.24ppmに設定したことによるTMSに相対するppm表示の化学シフト。b2つのレジオ異性体の混合物のための1つのスペクトル(〜1:1の割合)。
【0072】
N-エチル化およびメタレーション:H2T-2-PyPのN-エチル化は、試薬としてエチル-p-トルエンスルホネート、ジエチルスルフェートまたはヨードエタンを使用することで効率よく行えるが、ジエチルスルフェートの高毒性およびヨードエタンの低反応性により、エチル-p-トルエンスルホネート(ETS)が最良の最良の選択とされる(Chen等,J.Electroanal.Chem.280:189,1990;Kalyamasundaram.Inorg.Chem.23:2453,1984;Hambright等,Inorg.Chem.15:1314,1976;Alder等,Chem.Brit.14:324.1978;Perree-Fauvet等,52:13569,1996)。何人かの著者は、ピロール窒素を保護するためにメタレーションの後でN-アルキル化を行うことを好む(Perree-Fauvet等,Tetrahedron 52:13569,1996)。しかしながら、遊離したリガンドの存在における直接的な処置では、該ピロール窒素のN-エチル化は観察されなかった(続いて生じる水性溶液でのメタレーションは完了した)。エチル化とメタレーションの完了は、高極性溶離液、即ち、硝酸カリウム飽和水溶液とアセトニトリルとの混合液を使用したTLC(通常のシリカ)により追跡される(Batinic-Haberle等,L.Biol.Chem.273:23521,1998)。このステップ(N-エチル化およびメタレーション)の収率は、略100%(精製工程において約5%の損失)であった。N-エチル化(N-メチル化)は該ピリジニウム環の自由な回転を制限し、実際、各化合物は、4つのアトロプ異性体の混合物であり、各アトロプ異性体の更なる精製が検討され得る(Kaufmann等,Inorg.Chem.34:5073,1995)。製造された全ポルフィリン第二マンガンは、アスコルビン酸による金属中央の還元におけるソレー帯の20nmの浅色団シフト(スプリッティングの消失により伴われる)により示されるように3+の状態の金属を有する。
【0073】
電気化学:全てのメタロポルフィリン生成物の金属中央のレドックス反応は可逆的であった。半波長電位(E01/2)は陰極および陽極ピークの平均値として算出し、NHEに対するmVで示す(表5)。塩素当たりの平均シフトは、+55mVあり(表5)、これはH2TPP誘導体に関する以前の報告(+50と+70の間)を肯定する(Sen等,Chem.Soc.Faraday Trans.93:4281,1997;Autret等,J.Chem.Soc.Dalton Trans.2793,1996;Hariprasad等,J.Chem.Soc.Dalton Trans.3429,1996:Tagliatesta等,Inorg.Chem.35:5570.1996;Ghosh,J.Am.Chem.Soc.117:4691,1995;Takeuchi等,J.Am.Chem.Soc.116:9730,1994;Binstead等,Inorg.Chem.30:1259,1991;Giraudeau等,J.Am.Chem.Soc.101:3857,1979)。このシフトは、0と1との間および2と3との間の塩素でより高い(〜+65mV)ようである(表5)。β-Cl2aおよびβ−C2b+2cの混合物のE01/2値に顕著な差はない。MnCl4TE-2-PyP5+(E01/2=+448mV)とMnOBTMPyP4+(E01/2=+480mV)のマンガンのレドックス状態は、夫々、3+と2+である。この相違は、それらのレドックスポテンシャルに関する相違(〜30mV)によりにより説明されるが、しかしまた、例えば、MnOBTMPyP4+の場合のポリフィリン環の歪みの増加等の構造的考慮からも説明される(Batinic-Haberle等,Arch.Biochem.Biophys.343:225,1997;Ochesenbein等,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:348,1994)。
【0074】
【表5】

【0075】
a水中(εで推定されるエラーは10%以下)。b5mV(Δ=ピーク分離に対するピーク)の推定エラーを伴い、且つ以下の条件下でのNHEに対するmV:0.5mMのポリフィリン、0.1MのNaCl、0.05Mのリン酸緩衝液(pH7.8)。c2-によるシトクロムc還元の50%阻害を生じる濃度(推定エラーは10%以下である)。
【0076】
スーパーオキシドジスムテーション活性:SOD様活性は、以前記載した通りに、シトクロムcとの競合を基に測定した(McCord等,J.Biol.Chem.244:6049)。MnClxTE-2-PyP5+SOD様活性は表5に報告し、IC50(M)は、活性の1ユニットの濃度を示し(またはO2-によるシトクロムcの50%阻害を生じる濃度)、且つkcat(M-1s-1)は、スーパーオキシドジスムテーション反応の速度定数を示す。MnCl4TE-2-PyP5+のモル当たりのSOD様活性は、MnOBTMPyP4+、MnTM-2-PyP5+およびMnTM-4-PyP5+よりも、夫々、約2、7および100倍高い(Faulkner等,J.Biol.Chem.369:23471,1994;Batinic-Haberle等,Arch.Biochem.Biophys.343:225,1997;Batinic-Haverle等,J.Biol.Chem.273:24521,1998)。MnCl4TE-2-PyP5+のSOD様活性は、モル基準でCu,Zn−SOD酵素の活性の20%を示す(該酵素は2つの活性部位を有することを考慮して活性部位当たりでは40%)(Klug-Roth等,J.Am.Chem.Soc.95:2786,1973)。
【0077】
安定性試験:塩素化の各々の更なる程度がレドックスポテンシャルを増加し、これは、一連のメソ-フェニルおよびメソ-ピリジル置換ポルフィリンとβ置換ポルフィリンに見られるような、ピロール窒素のpKa値における減少に続くことが期待される(Worthington等,Inorg.Nucl.Chem.Lett.16:441,1980;Kadish等,Inorg.Chem.15:980,1976)。リガンド-プロトン安定性の測定値としてのpKaは、同様に、金属-リガンド安定性の測定値である。従って、テトラクロロ化合物は、より少なく塩素化された類似体と比較して安定性が低いことが予測される。MnCl4TE-2-PyP5+の安定性は、過剰なEDTAの存在におけるそのSOD様活性を測定することにより試験した。102倍の過剰なEDTAの存在下において、MnCl4TE-2-PyP5+(c=5×10-6M)は、その活性を16時間(25℃)維持した。活性の低下(25%)は、40時間後に観察され、これにより、幾つかのマンガン-EDTA複合体(K=1014.05)の形成が示される。これらの結果は、MnOBTMPyP4+(K=108.08)(Batinic-Haberle等,Arch.Biochem.Biophys.343:225,1997)に比較した場合に、MnCl4TE-2-PyP5+の比較的良好な安定性を裏付けるものである。
【0078】
レドックス特性とSOD様活性の間の関係:Cu,Zu-SOD酵素は、2つの等しいサブユニットの二量体であり、それにより2つの活性部位を有し、2つの半反応値の中間点に近いレドックスポテンシャルと、および各半反応の同様な速度定数を示す(スキームCおよび表5)(Ellerby等,J.am.Chem.Soc.118:6556,1996;Klug-Roth.J.Am.Chem.Soc.95:2786,1973)。
【0079】
【化9】

【0080】
他方、以前のパルス放射線分解とストップド・フロー・テクニック(stopped flow techniques)を使用した、MnTM-4-PyP5+(E01/2=+60mV)により触媒されるO2-ジスムテーションの試験は、O2-による金属の還元速度が、該金属の再酸化の速度よりも102倍から103倍低いことを示した(Faragg,Oxygen Radicals in Chemistry and Biology.Bors等(Eds):Walter de Gruyter and Co.;;Berlin.Germany 1984.p.419;Lee等.J.Am.Chem.Soc.120:6053,1998)。略+200と+450mVの間のSOD様活性のピークが最初に予想されたのに対して、MnClxTE-2-PyP5+のE01/2に対するKcatのプロッティングは、SOD様活性の急激な増加が示され、制限因子が依然として該金属の還元であることを強く示唆している。しかしながら、この仮定は、各MnClxTE-2-PyP5+化合物により触媒される各半分の反応の速度を測定することにより確認される。スーパーオキシドジスムテーションの活性化自由エネルギー(ΔG#)とMnClxTE-2-PyP5+レドックスの自由エネルギー変化(ΔG0)との間の関係は、直線(傾き〜+0.2)であり、理論的に最適なレドックスポテンシャル領域における熱力学因子に対する速動性の優位を明白に示す(図6)。この作用に従って、Cu,Zu-SOD酵素の活性(活性部位当たりkcat=109M-1s-1)は、約E01/2=+570mVで達成される(図3)。しかしながら、両方の立体的(ポリフィリン環の歪み)および熱力学的因子のために、β塩素化のより高い程度の導入により、該2+のレドックスでマンガンを安定化することが期待され、従って、MnOBTMPyP4+の場合のように、該金属の再酸化の速度を制限し、同時にMn(II)解離を含む(Batinic-Haberle等,Arch.Biochem.Biophys.343:225,1997;Ochsenbein等,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:348,1994)。
【0081】
例VII
マンガン(III)5,10,15,20-テトラキス(N-メチルピリジル)ポルフィリン、MnTM-2-PyP5+、MnTM-3-PyP5+およびMnTM-4-PyP5+のオルト、メタおよびパラ異性体は、夫々,それらのスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性に関してインビトロとインビボで分析した。また、インビボおよびインビトロでのそれらとDNAおよびRNAとの相互作用のSOD活性における影響も分析した。インビトロにおける触媒作用は、それらのレドックスポテンシャルに対して密接に関連する。その半波長ポテンシャル(E1/2)は、通常の水素電極(NHE)に対して+0.220mV、+0.052mVおよび+0.060Vであり、同時にジスムテーション(kcat)の速度は、オルト、メタおよびパラ異性体に関して、夫々、6.0×107-1-1、4.1×106-1-1および3.8×106-1-1である。
【0082】
しかしながら、インビトロ活性は、インビボの有効性の十分な予測子ではない。インビトロでのSOD活性は顕著に異なるが、オルトおよびメタ異性体は、同様に弱いそれらのDNAとの相互作用のために、相当に近いインビボのSOD有効性を有する。これに対して、DNAとの相互作用のより高い程度のために、パラ異性体は、SOD欠損大腸菌の成長を阻害する。詳細は、バティニック-ヘイバール等(Batinic-Haberle et al.J.Biol.Chem.273(38):23521-8,September 18,1998)を参照されたい。
【0083】
例VIII
メタロポルフィリン類は脂質過酸化を強力に阻害される
材料および方法
L-アスコルビン酸、n-ブタノール、ブチル化ヒドロキシトルエン、塩化コバルト、塩化鉄(II)、リン酸(85%)、水酸化ナトリウム、リン酸カリウム、塩化テトラブチルアンモニウム、および1,1,3,3-テトラメトキシプロパンはシグマ(St.Louis,MO)から購入した。アセトン、濃塩酸、4,6-ジヒドロキシ-2-メルカプトピリミジン(チオバルビツール酸)、NH4PF6、塩化亜鉛、5,10,15,20-テトラキス(4-安息香酸)ポリフィリン(H2TBAP)*[*また、5,10,15,20-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン(H2TCPP)としても知られる]、5,10,15,20-テトラキス(N-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィリン(H2TM-4-PyP)およびトロロックスは、アルドリッチ(Milwaukee,WI)から購入した。5,10,15,20-テトラキス(4-安息香酸)ポリフィリン第二鉄(FeTBAP)はポルフィリン・プロダクツ(Logan,UT)から購入した。5,10,15,20-テトラキス(N-メチルピリジニウム-2-イル)ポルフィリン(H2TM-2-PyP)はミッドセンチュリー・ケミカルズ(Posen,IL)から購入した。(+)-ルチンは、カルビオケム(Calbiochem,La Jolla,CA)から購入した。塩化マンガンはフィッシャー(Fisher,Fair Lawn,NJ)から、およびエタノールUSPは、AAPERアルコール・アンド・ケミカル・Co.(Shelbville.KY)から購入した。全ての溶液はミリ-QプラスPF水(Mili-Q Plus PF water)で調製した。
【0084】
メタロポルフィリンの調製および分析
メタロポルフィリンMnTBAP、CoTBAPおよびZnTBAPは以前記載された方法を使用して製造した(Day等、J.Pharmacol.Exp.Ther.275:1227,1995)。MnTM-4-PyP、CoTBAPおよびZnTBAPは以下の方法により合成した。1.5モーラーの過剰塩化マンガン、コバルトまたは亜鉛を、脱イオン水に溶解したH2TM-4-PyPと混合した。該反応混合物を80℃に加熱し、金属リガンドを分光測光器により追跡した(UV-2401PC、Shimadzu,Columbia,MD)。過剰の金属をバイオ・ゲルP-2(BioRad,Richmond,CA)を含有するカラムに該混合物を通すことにより除去した。MnTM-4-PyPは0.01NのHClで、水による該カラムの十分な洗浄の後に溶離した。MnTM-4-PyP、CoTM-4-PyPおよびZnTM-4-PyPは、それらの報告されたソレー帯に関して特徴づけした。MnTM-4-PyPのソレー帯は、463nmで(ε)=1.3×105-1-1の吸光係数を伴い、ZnTM-4-PyPのソレー帯は374nmで(ε)=2.0×105-1-1の吸光係数を伴い(Pasternack et al.Inorg.Chem.12:2606,1973)、CoTM-4-PyPのソレー帯は、434nmで(ε)=2.15×105-1-1の吸光係数を伴う(Pasternack et al.Biochemistry 22:2406,1983)。マンガンβ-オクタブロモ-メソ-テトラキス-(N-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィリン(MnOBTM-4-PyP)は、以前に記載された通りに合成され(Batinic-Haberle et al.Arch.Biochem.Biphy.343:225,1997)、490nmで(ε)=8.56×104-1-1の吸光係数を伴うソレー帯を有している。H2TM-2-PyPは、1:20のポルフィリン対マンガンの割合で、水中(pH>11)で、室温でメタレートした。メタレーションの完了時に、MnTM-2-PyPは、NH4PF6の濃水溶液の添加により沈殿した。その沈殿物を2-プロパノール:ジエチルエーテル(1:1)で洗浄し、真空で室温で乾燥した。MnTM-2-PyPのPF6−塩は、アセトンに溶解し、濾過し、ポルフィリンがその塩化物塩として沈殿するまで塩化テトラブチルアンモニウムの濃アセトン溶液を添加した。その沈殿物をアセトンで洗浄し、真空で室温で乾燥した。MnTM-2-PyPのソレー帯は453nmで(ε)=1.29×105-1-1の吸光係数を有することが明らかになった。
【0085】
ラット脳ホモジネートの調製
凍結成熟SD(Sprague-Dawley)ラット脳(Pel-Freez,Rogers,AR)は、ポリトロン(Turrax T25,Germany)で氷冷した50mMのリン酸カリウムのpH7.4で5体積においてホモジナイズした。ホモジネートタンパク濃縮物は、クマッシー・プラス・タンパクアッセイ(Coomassie Plus protein assay;Pierce,Rockford,IL)を用いて、標準品としてウシ血清アルブミンを使用して決定した。該ホモジネート量は緩衝液で調製し、最終タンパク濃度を10mg/mLとし、−80℃でアリコートで凍結した。
【0086】
ラット脳ホモジネートの酸化
ラット脳ホモジネート(2mgタンパク)を種々の濃度の抗酸化剤と共に37℃で15分間インキュベートした。ラット脳ホモジネートの酸化は、以前、報告された通りに塩化鉄(II)(0.25mM)およびアスコルベート(1mM)を含有する新たに調製した0.1mLを添加することにより開始した(Braughler et al,J.Biol.Chem.262:10438,1987)。サンプル(最終容量1mL)を37℃で30分間、振盪水浴中においた。該反応は、0.1mLのストック用ブチル化ヒドロキシトルエン(60mM)のエタノール溶液を添加することにより停止した。
【0087】
脂質過酸化の測定
ラット脳ホモジネートにおけるチオバルビタール酸反応種(TBARS)の濃度を、脂質過酸化の指標として使用した(Bernhem et al,J.Biol.Chem.174:257,1948;Witz et al,J.Free Rad.Biol.Med.2:33,1986;Kikugawa et al,Anal.Biochem.202:249,1992;Jentzsch et al.Free Rad.Biol.Med.20P251,1996)。マロンジアルデヒド標準品は、0.01Mの10mLのHCl中で8.2μLの1,1,3,3-テトラメトキシプロパンを添加することにより得て、室温で10分間混合する。このストックを更に水で希釈し、0.25から25μMの範囲の標準品を得た。サンプルまたは標準品(200μL)を、1.5mLのロッキング・マイクロヒュージ・チューブ(locking microfuge tubes)中で200μLの0.2Mのリン酸で酸性化した。呈色反応は、25μLの0.11Mのチオバルビツール酸溶液の添加により開始し、サンプルは90℃のヒーティングブロック(heating block)内に45分間配置した。TBARSは、0.5mLのn-ブタノールを用いてサンプルを3分間ボルテックスミキサーにかけることにより抽出し、1分間、氷上にて冷却した。次にサンプルを12,000×gで3分間遠心し、150μLのアリコートのn-ブタノール相を96ウェルプレートの各ウェルに添加し、25℃でサーモマックス・プレートリーダー(Thermomax platereader;Molecular Devices,Sunnyvale,CA)において535nmで読み取った。サンプルの吸収性は、MDA標準曲線から推定することによりMDA等量(μM)に変換した。これらの試験において使用される濃度での抗酸化剤の何れもが、MDA標準品とチオバルビツール酸との反応に影響し、TBAなしの反応は、控除用ブランクとして使用した。
【0088】
統計学的解析
データは、それらの平均値±SEで示した。脂質過酸化の程度を50%だけ減少する抗酸化剤の阻害濃度(IC50)および夫々95%の信頼限界(CI)を、データに対する種々の傾きを有したシグモイド曲線に適合することにより決定した(GraphPad Prizm,San Diego,CA)。
【0089】
結果
鉄/アスコルベート媒介脂質過酸化におけるメタロポルフィリン類と他の抗酸化剤との比較
これらの試験の目的は、メタロポルフィリンが脂質過酸化を阻害できるかということと、並びにそれらのポテンシーと、酵素的抗酸化剤(SODおよびカタラーゼ)および非酵素的抗酸化剤(水可溶性ビタミンE類似体、トロロックスおよび植物性ポリフェノールフラボノイド、ルチン)を含む前もって特徴付けた抗酸化剤のポテンシーとを比較することである(図7)。脂質過酸化のタイムコースは、鉄およびアスコルベートを脂質過酸化の開始剤として、チオバルビツール反応種(TBARS)の形成を脂質過酸化の指標として使用し、ラット脳ホモジネートにおいて測定した。TBARSの形成における直線的な増加は、37℃でのインキュベーションの15から90分の間に生じた(図8)。この結果を基に、30分のインキュベーション時間を選択し、メタロポルフィリンと他の抗酸化剤の脂質過酸化の阻害能を試験した(図9)。試験された試薬のうち、最も高いSOD活性を有するマンガンポルフィリン、即ち、MnOBTM-4-PyPとMnTM-2-PyPが、夫々、1.3と1.0μMと算出されたIC50を有する最も強力な脂質過酸化阻害剤であることが明らかになった(表6)。ウシCuZnSODは、15μMの算出CI50値を有する穏やかな活性を有し、一方、トロロックスおよびルチンは夫々算出IC50が204と112μMである更に低い活性である。この系において、カタラーゼ (1mg/mLの濃度まで)は、鉄/アスコルベートにより生じた脂質過酸化を阻害しなかった。
【0090】
【表6】

【0091】
aシトクロムcの還元またはNBTの光還元を半分に阻害する化合物の量として定義されたSOD活性のユニット。b金属中央レドックスポテンシャル対NHE(Mn+3/Mn+2;Co+3/Co2+;Fe+3/Fe+2)。仮に別の条件がなければ、E1/2はpH7.8で得た。c鉄およびアスコルベートの30分のインキュベーションによりラット脳ホモジネートにおいて生成されたチオバルビツール酸反応物質の量。
【0092】
ポルフィリンの脂質過酸化の阻害能における異なる金属キレートの効果
広範な金属がポリフィリンにより共有結合され、異なるレドックスポテンシャルおよびSOD活性が与えられる(表6)。異なる金属キレートのポルフィリンの脂質過酸化の阻害能に対する影響を試験した。TBAPの幾つかの異なる金属類似体を、鉄/アスコルベートにより生じた脂質過酸化モデルにおいて試験した(図10)。マンガンおよびコバルトTBAP類似体の両方は、夫々、算出された29および21μMのIC50の同様な効果を有した。FeTBAP類似体は、212μMの算出されたIC50を有する、より低い活性値の種類である。ZnTBAP類似体は、946μMの算出されたIC50を有し、他の金属類似体よりも更に低い活性である。亜鉛は、その電子価が容易に変化しないので、この亜鉛と他の金属の間の効力の相違は、金属中心連環構造レドックス化学の重要性に影響する。IC50を基にした試験されたメタロポルフィリンの分類された効果は以下の通りである:MnTM-2-PyP=MnOBTM-4-PyP>MnTM-4-PyP=CoTM-4-PyP>CoTBAP=MnTBAP>FeTABP=ZnTM-4-PyP>ZnTM-2-PyP>ZnTBAP。
【0093】
脂質過酸化の阻害剤としての一連のテトラキスN-メチルピリジルポリフィリン(TMPyP)類似体の比較
近年、N-メチルピリジルポルフィリンの幾つかのマンガン類似体が、SOD活性に大きな相違を有することが明らかとなった(表6)。MnTM-2-PyPとMnTM-4-PyPは、ポルフィリン環に対するN-メチルピリジル基の位置に関して構造的に異なり(オルト対パラ)、同様に6つの因子によりSOD活性においても異なる。これらのポルフィリン類似体における亜鉛の置換はSOD活性の低下を招く。これらのTMPyP類似体を、それらの脂質過酸化阻害能について比較した(図11)。マンガンポルフィリンにおけるパラ位からオルト位へのN-メチルピリジル基の移動は、効力に15倍の増加を生じる。MnTM-2-PyPは、MnTM-4-PyPに比較してより強力なレドックスポテンシャル(夫々、+0.22対+0.06)を有していることから、このデータは、そのレドックスポテンシャルおよび関連するSOD活性が、共に、MnTM-2-PyP類似体の増加した効果に寄与することを示唆している。
【0094】
例IX
MnTE-2-PyPが酸化剤ストレスにより惹起される組織障害を減弱するために有効に使用できることの証明
60分の広域な虚血とその後の90分の再灌流に関連する障害を減弱するMnTE-2-PyPの能力を、摘出灌流するマウス肝モデルにおいて評価した。切除された肝臓は、緩衝化塩溶液で15分間還流し、その後、メタロポルフィリンを該灌流液に導入し、該肝臓を再循環系で15分間灌流した。次に、該肝臓を通常の温度条件で60分間、広域に虚血を実施した。虚血期間に続き、該肝臓を90分間、10μmのMnTM-2-PyPを加えた灌流液により還流した。このモデルでは、該虚血/再灌流肝は、再灌流の初めの2.5分の間に、肝細胞酵素類、アスパルテートトランスアミナーゼ、アラニントランスアミナーゼおよび乳酸脱水素酵素の著しい放出を有する。これは90分間を超えての肝細胞障害を示す肝細胞酵素の連続した放出に続く。MnTE-2-PyPの投与は、肝障害の減弱に高い有効性を示し、実質的に全ての急性肝細胞酵素の放出を阻害し、且つ90分の灌流期間を超えての持続的な肝細胞酵素の放出を阻害する。実験の最後に、肝をメタロポルフィリンで処理した。これは優れた酸素消費と正常な灌流パターンを示した。それらは依然として安定し、且つ肉眼での形態学的試験に対して正常な構造を有する。薬物処理のない肝臓は、正常な酸素消費を行わず、浮腫、軟化を生じ、且つ乏しい灌流と一致したまだらのある外観を有していた。
【0095】
例X
血管トーン(vascular tone)におけるTM-2-PyPの効果
ラットを麻酔し、大腿静脈と頚動脈をカニュレーションした。血圧を頚動脈によりモニターしながら、MnTM-2-PyPをi.v.で0.1から3.0mg/kgの範囲の用量で注射した。平均動脈圧は、5から10分以内に100−125mmHgから50−60mmHgに低下した。この作用は一次的なものであり、0.1から0.25mg/kgの用量で30分間持続する。1−3mg/kgの用量ではこの作用は延長され、2時間持続する。この作用は一酸化窒素生成酵素の阻害剤の投与により阻害されるため、MnTM-2-PyPの役割は一酸化窒素により調節されていることが示される。血管床におけるスーパーオキサイドの消去剤は一酸化窒素による低血圧の作用を助長する。
【0096】
例XI
MnTM-2-PyP使用による気管反応性の調節
マウスにオバアルブミンを14日間に分けて腹腔内に2回注射し感作させた。2回のi.p.注射の14日後、マウスにオバアルブミンを1日1回3日間噴霧し免疫させた。3回目のオバアルブミン噴霧の48時間後、マウスに1分間のメタコリン免疫を与え、気道過反応はブキシコン・ボディー・プレチスモグラフ(Buxcon body plethysmograph)使用して行った。PENHインデックスにより測定した気道抵抗の有意な増加はメタコリンの20、30、40mg/mLの用量で生じた。メタコリンの全用量において、予め、4日間、2μgのMnTM-2-PyPを気道内点滴により与えると統計的に有意な気道過反応の減少が生じた。この用量のMnTM-2PyPは全体用量で0.8mg/kgに相当する。
【0097】
例XII
MnTE-2-PyPの使用による気管支肺の形成異常の処置
新生児ヒヒはカエサリアン(Caesarian)地区において未熟児として出産され、十続いて、十分な動脈血酸素を維持するため100%酸素もしくは十分なPRNFIO2のどちらかを処置した。モデル確立のため、13匹の100%酸素処置動物と12匹のPRN対照動物を試験した。100%酸素処置は、気泡化を遅延し、肺実質性炎症および低酸素への暴露され、特徴付けられる第9日または第10日により明示される肺障害の延長を引き起こす。これはヒトの疾患の特徴である、気管支肺の形成異常の特徴を有しており、且つ、これは成長途上における胎児肺においては少なくとも部分的な酸化ストレスによって生じると考えられる。MnTE-2-PyPの最初の試験においては、胎児ヒヒは140日間の妊娠で生まれ、その後100%酸素下に置かれた。動物は10日間の試験期間に渡って0.5mg/kg/24時間のMnTE-2-PyPを静脈内に持続投与された。この動物は酸素供給インデックスの著明な改善が見られた。9および10日目で肺の臨床的な代償機能喪失の兆候はなかった。肺の病理学的所見においては同一の状況下において炎症の不在と、先の100%酸素処置の動物で見られた肺障害において著明な減少が認められた。これはMnTE-2-PyPが未熟新生児における酸化ストレスの処置に使用することが可能であることを示唆している。
【0098】
上記で引用した全ての文献は、引用によりその全体が組み込まれる。1997年11月3日に出願された出願番号60/064,116も、引用によりここにその全体が組み込まれる。
【0099】
当業者は、この開示を読むことにより、形態および詳細について種々の変更が本発明の範囲を逸脱することなく行われることを理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I若しくはIIの化合物またはその薬学的に許容される塩;
【化1】

[ここで、各Rは独立してC1−C8アルキル基であり、および
各々のPは独立して電子離脱基または水素であり、
ここで、各Rはメチルであり、且つPが水素であるとき、前記化合物は、マンガン、鉄、銅、コバルト、ニッケルまたは亜鉛からなる群より選択された金属との複合体である]。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物であって、各Rが独立してC1−C4アルキル基である化合物。
【請求項3】
請求項2に記載の化合物であって、各Rが独立してメチル、エチルまたはイソプロピル基である化合物。
【請求項4】
請求項3に記載の化合物であって、各Rが独立してメチルまたはエチル基である化合物。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物であって、各Pが独立して水素、または−NO2、ハロゲン、ニトリル、ビニル基およびホルミル基からなる群より選択たれた電子離脱基である化合物。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物であって、少なくとも1つのPはハロゲンである化合物。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物であって、1または2のPはホルミル基であり、残りのPは水素である化合物。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物であって、1つのPがホルミル基であり、残りのPのは水素である化合物。
【請求項9】
請求項1に記載の化合物であって、1または2のPは−NO2であり、残りのPは水素である化合物。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1項に記載の化合物であって、前記化合物が、マンガン、鉄、銅、コバルト、ニッケルまたは亜鉛からなる群より選択される金属と複合している化合物。
【請求項11】
請求項10に記載の化合物であって、前記化合物がマンガンと複合している化合物。
【請求項12】
請求項1に記載の化合物であって、各Rがメチルまたはエチル基であり、各Pが水素であり、および前記化合物がマンガンと複合している化合物。
【請求項13】
請求項1に記載の化合物であって、各Rがメチルまたはエチル基であり、少なくとも1のPがBrであり、および残りのPが水素であり、並びに、前記化合物がマンガンと複合している化合物。
【請求項14】
請求項1に記載の化合物であって、前記化合物がアトロプ異性体αααα、αααβ、ααββおよびαβαβの混合物である化合物。
【請求項15】
請求項1に記載の化合物であって、前記化合物がαααβおよびααααのアトロプ異性体の混合物である化合物。
【請求項16】
式I若しくはIIの化合物またはその薬学的に許容される塩の保護量と細胞とを接触することを具備する細胞を酸化剤で誘導される毒性から保護する方法;
【化2】

[ここで、各Rは、独立してC1−C8アルキル基であり、および
各Pは、独立して電子離脱基または水素である]。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、前記化合物がマンガン、鉄、銅、コバルト、ニッケルまたは亜鉛からなる群より選択される金属と複合している方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法であって、前記細胞が哺乳動物細胞である方法。
【請求項19】
式I若しくはIIの化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量を患者に投与することを具備する酸化剤で誘導される毒性から生じる患者の病態を治療する方法;
【化3】

[ここで、各Rは、独立してC1−C8アルキル基であり、および
各Pは、独立して電子離脱基または水素である]。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、前記化合物がマンガン、鉄、銅、コバルト、ニッケルまたは亜鉛からなる群より選択される金属と複合している方法。
【請求項21】
式I若しくはIIの化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量を患者に投与することを具備する、NO・またはその生物学的活性形態の分解から生じる患者の病態を治療する方法;
【化4】

[ここで、各Rは、独立してC1−C8アルキル基であり、および
各Pは、独立して電子離脱基または水素である]。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、前記化合物がマンガン、鉄、銅、コバルト、ニッケルまたは亜鉛からなる群より選択される金属と複合している方法。
【請求項23】
式I若しくはIIの化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量を患者に投与することを具備する前記患者の炎症性肺疾患を治療する方法:
【化5】

[ここで、各Rは、独立してC1−C8アルキル基であり、および
各Pは、独立して電子離脱基または水素である]。
【請求項24】
請求項23に記載の方法であって、前記化合物が、マンガン、鉄、銅、コバルト、ニッケルまたは亜鉛からなる群より選択された金属と複合している方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、前記金属がマンガンである方法。
【請求項26】
請求項23に記載の方法であって、前記炎症性肺疾患が過反応性気道疾患である方法。
【請求項27】
請求項23に記載の方法であって、前記炎症性肺疾患が喘息である方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−229145(P2010−229145A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−131845(P2010−131845)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【分割の表示】特願2000−518967(P2000−518967)の分割
【原出願日】平成10年11月3日(1998.11.3)
【出願人】(507189666)デューク ユニバーシティ (25)
【出願人】(501292854)ナショナル ジュウィッシュ ヘルス (5)
【Fターム(参考)】