説明

置換アリールカルボン酸塩化物の製造方法

〜C20アルキル及び/又はハロゲンで一箇所以上で置換されたアリールカルボン酸塩化物(I)の製造方法において、第1段階において、C〜C20アルキル及び/又はハロゲンで一箇所以上で置換された芳香族化合物(II)とCClとをフリーデル−クラフツ触媒の存在下で反応させて、相応のC〜C20アルキル及び/又はハロゲンで一箇所以上で置換されたトリクロロメチル化芳香族化合物(III)を得て、そして第2段階において、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を触媒存在下で水処理又はプロトン酸処理して、アリールカルボン酸塩化物(I)を得る方法である。特に好ましい一実施形態は、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を中間生成物として単離することなく、かつ第1段階の溶剤中に溶解させて、第2段階において使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換アリールカルボン酸塩化物の製造方法に関する。
【0002】
2,4,6−トリメチル塩化ベンゾイル(TMBC)は、アシルホスフィンオキシド型の光開始剤、例えばTPO(トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド)を製造するための重要な原料である。
【0003】
TMBCは、EP−A0554679号に記載されているように、4段階合成において製造できる。この場合、第1段階において、メシチレンとクロロ酢酸塩化物とを反応させて、クロロトリメチルアセトフェノンを得る。第2段階において、クロロアセトフェノンから、次亜塩素酸ナトリウムと反応させることによって、トリクロロトリメチルアセトフェノンを得る。第3段階において、トリクロロアセトフェノンと水酸化ナトリウム溶液とを反応させて、トリメチル安息香酸ナトリウム塩を得て、そしてこれから塩酸で酸性化することによってトリメチル安息香酸を得る。最後に、第4段階において、トリメチル安息香酸から、塩化チオニルと反応させることによって、トリメチル安息香酸塩化物を得る。
【0004】
この合成は、多くの合成段階のために費用がかさみ、かつ収率が低いことが特徴である。特に、中間生成物であるトリメチル安息香酸を、塩化チオニルとの反応の前に、固体として単離し、そして乾燥させなければならない。
【0005】
同様に、一箇所以上でアルキル化された別の塩化ベンゾイルを製造することもできる。
【0006】
TMBCを製造する別の方法は、EP−A0706987号に記載されている。この場合、メシチレンをAlClの存在下でカルボキシル化してトリメチル安息香酸を得て、次いでそれを塩化チオニルで塩素化してTMBCを得る。この合成も、収率が低いことが特徴である。カルボキシル化段階の収率は、71%ほどであるにすぎない。
【0007】
本発明の課題は、特に改善された収率を特徴とする、簡易かつ経済的な置換塩化ベンゾイルの製造方法を提供することである。本発明の課題は、特に改善された収率を特徴とする、簡易かつ経済的なTMBCの製造方法を提供することである。
【0008】
前記課題は、C〜C20アルキル及び/又はハロゲンで一箇所以上で置換されたアリールカルボン酸塩化物(I)の製造方法において、第1段階において、C〜C20アルキル及び/又はハロゲンで一箇所以上で置換された芳香族化合物(II)とCClとをフリーデル−クラフツ触媒の存在下で反応させて、相応のC〜C20アルキル及び/又はハロゲンで一箇所以上で置換されたトリクロロメチル化芳香族化合物(III)を得て、
そして第2段階において、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を触媒存在下で水処理又はプロトン酸処理して、アリールカルボン酸塩化物(I)を得る方法によって解決される。
【0009】
本発明にかかる方法の出発物である好適なC〜C20アルキル及び/又はハロゲン(F、Cl、Br、I)で一箇所以上で置換された芳香族化合物は、例えば前記の基で1〜5箇所で置換されたベンゼン、1〜7箇所で置換されたナフタリン若しくは1〜9箇所で置換されたアントラセン又はフェナントレンである。その芳香族化合物は、ハロゲンで置換されているのであれば、それは塩素で置換されていることが好ましい。アルキルで置換されているのであれば、それはC〜Cアルキルで置換されていることが好ましい。
【0010】
本発明にかかる方法は、一般式(IIa)の1〜5箇所で置換されたベンゼンが出発物であることが好ましい。
【0011】
従って、一般式(Ia)
【0012】
【化1】

[式中、Rは、それぞれ互いに無関係に、ハロゲン(F、Cl、Br、I)又はC〜C20アルキル基を意味する]の1〜5箇所で置換された塩化ベンゾイルの製造方法において、
第1段階において、一般式(IIa)
【0013】
【化2】

[式中、Rは、前記の意味を有する]の1〜5箇所で置換されたベンゼンとCClとをフリーデル−クラフツ触媒の存在下で反応させて、一般式(IIIa)
【0014】
【化3】

[式中、Rは、前記の意味を有する]の置換ベンゾトリクロリドを得て、
そして第2段階において、ベンゾトリクロリド(IIIa)を触媒存在下で水処理又はプロトン酸処理して、塩化ベンゾイル(Ia)を得る方法が好適である。
【0015】
従って、本発明にかかる方法によって、公知の4段階合成は、全収率が高いことを特徴とする2段階合成によって代替される。
【0016】
置換されたベンゼンがハロゲン置換であれば、塩素で置換されていることが好ましい。置換されたベンゼンがアルキル置換であれば、C〜Cアルキルで置換されていることが好ましい。
【0017】
本発明にかかる方法の第1段階は、1、2、3、4又は5つの、C〜Cアルキル基(すなわち、メチル、エチル、プロプ−1−イル、プロプ−2−イル、ブト−1−イル、ブト−2−イル、2−メチルプロプ−1−イル及びt−ブチル)を有していてよい置換されたベンゼン(IIa)から行うことが好ましい。この置換されたベンゼンは、アルキル置換基及びハロゲン置換基(好ましくは塩素)を同時に有するか又はハロゲンでのみ置換されていてもよい。その例は、クロロベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン及びp−キシレン、メシチレン、プソイドクメン、ヘミメリトール(hemellithol)、エチルベンゼン並びにクメンである。
【0018】
特に、本発明にかかる方法は、2,4,6−トリメチル塩化ベンゾイル(Ib)
【0019】
【化4】

を、置換された芳香族化合物(II)としてのメシチレン(1,3,5−トリメチルベンゼン)から製造するために使用する。
【0020】
第1段階において、置換された芳香族化合物(II)とCClとをフリーデル−クラフツ触媒の存在下で反応させる。芳香族化合物をクロロアルカンでアルキル化するのに好適なフリーデル−クラフツ触媒は、当業者に知られている。好適な触媒は、例えばAlCl、FeCl、AlBr、CoCl、LiCl、LiClO、SnCl、TiCl、ZrCl、SbCl、CoCl、BF、BCl及びZnCl並びに、ジョージ・オラー著「フリーデル−クラフツ反応及びその関連反応」第1巻201頁、284頁〜290頁(1963年)(George Olah, "Friedel Crafts and related reactions" , Vol. 1, 201 und 284-290 (1963))に記載された全種のフリーデル−クラフツ触媒である。更に、フリーデル−クラフツ触媒として、ブレーンステッド酸を使用してもよい。例えば、硫酸、リン酸、ポリリン酸、ピロ硫酸、フルオロ硫酸、クロロ硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トルフルオロ酢酸及びトリフルオロメタン酸(Trifluormethansaeure)が好適である。本発明にかかる方法においては、AlClをフリーデル−クラフツ触媒として使用することが好ましい。
【0021】
CClとアルキル芳香族化合物とのモル比は、一般的には、1:1〜15:1、好ましくは1.5:1〜7:1である。
【0022】
H・ハート及びR・フィッシュ著、米国化学協会紀要(1961年)4460〜4466頁(H. Hart und R. Fisch, J. Am. Chem. Soc. (1996),S.4460-4466)及びA・シシリアーノ、K・ニーフォース著、医化学紀要(1971年)645〜646頁(A. Siciliano, K. Nieforth, J. Med. Chem. (1971), S. 645-646)から、アルキル芳香族化合物のCClでのフリーデル−クラフツ−アルキル化は、CClとアルキル芳香族化合物とのモル比4:1〜13:1で実施されることが公知である。この場合、その反応後にCClを生成物から分離して、そして適宜再循環させる。しかし、大量のCClの分離には費用がかさむので、可能な限り小過剰のCClを用いて作業することが望ましい。しかし驚くべきことに、このフリーデル−クラフツ反応は、CClとアルキル芳香族化合物とのモル比をわずか1:1〜3.5:1、好ましくは1.5:1〜2:1に減らすと、より良好な収率で進行することを見出した。本発明の一実施形態によれば、この場合、置換された芳香族化合物(II)、好ましくは置換されたベンゼン(IIa)、特に好ましくはメシチレンのフリーデル−クラフツ−アルキル化は、CClと芳香族化合物とのモル比1:1〜3.5:1、好ましくは1.5:1〜2:1で実施する。
【0023】
1当量の置換された芳香族化合物(II)、好ましくは置換されたベンゼン(IIa)、特に好ましくはメシチレン当たりに、一般的には、1〜3当量、例えば約2当量のAlClを使用する。本発明にかかる方法の一実施形態においては、この比(AlClの当量と置換された芳香族化合物の当量)は、わずか1〜1.5、特に1〜1.3、殊に1.1〜1.2である。TMBTをメシチレンから製造する際には、TMBTの収率を顕著に低下させることなく、極めて小過剰のAlCl量にまで低減させることができることを見出した。このことにより、本方法は、必要な触媒が少ないので、廉価に運転することができる。
【0024】
本発明にかかる方法の第1段階は、通例、溶剤としてのCCl中で実施する。しかしながら、CClの他に、更なる溶剤が存在していてよい。好適な更なる溶剤は、ハロゲンアルカン、例えばジクロロメタン、ジクロロエタン、ジブロモメタン及びブロモホルム、ハロゲン化芳香族化合物、例えばクロロベンゼン、炭化水素、例えば異性体のペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン並びに8個より多いC原子を有する高級炭化水素、シクロヘキサン及び炭化水素混合物、例えば石油エーテル及びホワイトスピリットである。小過剰のAlClだけを用いて作業する場合、すなわち、例えば本発明にかかる方法の実施形態によるAlCl量が、わずか1〜1.5当量である場合には、更なる溶剤の存在は好ましい。小過剰のAlClを用いる方法の場合、更なる溶剤の存在によって、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)のAlCl又は他のルイス酸との錯体、例えばTMBT/AlCl錯体の固体としての沈殿を防ぐことができる。更なる溶剤とCClとの反応開始時のモル比は、0.2:1〜10:1、好ましくは0.5:1〜3:1であってよい。
【0025】
本発明にかかる方法の第1段階は、通例、0〜120℃、好ましくは20〜60℃の温度で実施する。この場合、フリーデル−クラフツ触媒を、CCl中、若しくはCClと更なる溶剤との混合物中に懸濁して装入し、そして置換された芳香族化合物(II)を所定の時間、例えば0.1〜10時間、好ましくは0.5〜5時間にわたって添加することを行ってよい。
【0026】
フリーデル−クラフツ−アルキル化(第1段階)を触媒としてのAlClを用いて実施すると、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)が、一般的にはAlCl錯体として得られる。このフリーデル−クラフツ−アルキル化に引き続いて、一般的に、このAlCl錯体の加水分解を行う。この加水分解は、通例、氷又は水/氷の混合物を用いて、例えば0〜10℃の温度で実施できる。この加水分解は、例えば不連続的に実施でき、その際、フリーデル−クラフツ−アルキル化の反応排出物を、不連続的に運転される撹拌装置(撹拌槽)中で氷に添加する。
【0027】
本発明の一実施形態においては、水を用いるAlCl錯体の加水分解は、10〜100℃、好ましくは20〜100℃、特に好ましくは35〜80℃の温度で実施する。驚くべきことに、このAlCl錯体の加水分解は、20℃を上回る温度又は更に35℃を上回る高温の場合でも実施でき、その際、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)のカルボン酸への分解を惹起しないことを見出した。
【0028】
加水分解をより高温で実施すると、一連の利点を示す。氷を取扱うということは、工業的基準に照らすと、高コストを意味する。加水分解を25℃より低い温度で実施しても、なおも高コストを意味する。それというのも、その場合、一般的には、河水での冷却ではもはや十分ではなく、適切に高度な冷却性能を有する装置(冷却装置、ブライン冷却)が不可欠になる。加水分解を極めて低い温度で実施すると、加水分解反応は停止し、加熱すると急激に始まり、そして加水分解の際に生ずる大量のHClガスを遊離させるという危険をはらみ、このことは工業的基準に照らすと取扱困難であり、かつ安全性の問題を意味する。従って、加水分解を20℃を上回る温度、好ましくは35℃を上回る温度で実施することが望ましい。高温では加水分解の反応速度がより高いことによって、相応して滞留時間の短縮が可能になり、こうして加水分解を、連続的に運転される廉価で小型の装置、例えばミキサーセトラー装置内で連続的に実施できる。この連続的な実施によって、反応制御も改善される。
【0029】
加水分解の際に、有機相及び水相が得られる。この有機相は、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)、場合により既に少量のアリールカルボン酸塩化物(I)、未反応のCCl並びに場合により1種以上の更なる溶剤を含有する。
【0030】
この有機相から、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を、純粋な形で中間生成物として、好ましくは蒸留によって単離してよい。
【0031】
本発明にかかる方法の第2段階において、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を触媒存在下で水処理又は(無機又は有機)プロトン酸処理して、アリールカルボン酸塩化物(I)を得る。有機プロトン酸、例えばカルボン酸及びスルホン酸が好ましく、特にカルボン酸が好ましい。この場合、通例、これらは反応して相応の酸塩化物が得られる。
【0032】
この第2段階においては、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を純粋な形で使用するか、又はCCl及び場合により更なる溶剤中のトリクロロメチル化芳香族化合物(III)溶液の形で使用してよく、その際、それらはAlCl錯体の加水分解の際に有機相として生ずる。
【0033】
好ましい実施形態においては、CCl及び場合により更なる溶剤中のトリクロロメチル化芳香族化合物(III)溶液を使用する。それによって、費用がかさむ中間生成物(III)の単離が省かれる。驚くべきことに、AlCl錯体の加水分解からの有機相を本発明にかかる方法の第2段階において使用すると、収率損失が生じないことを見出した。
【0034】
この方法は、一連の利点をもたらす。トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を、過剰のCCl及び場合により更なる溶剤中のその溶液から単離することは、付加的に方法技術的費用がかさむことを意味する。過剰な水によるAlCl錯体の加水分解後のこの有機相は水を含有しており、かつこの水は留去の際にCClと一緒にCCl/水の共沸物として共に混ざり合うので、留去されたCClは、更なる乾燥を行わなければ、新たに第1段階のフリーデル−クラフツ−アルキル化に再循環させることができない。この問題は、本発明にかかる方法の第2段階において、AlCl錯体の加水分解からの含水有機相を使用することによって円滑に回避される。それというのも、この第2段階において有機相中に含まれる水が消費されるからである。この有機相は、このように第2段階において「化学的に」乾燥する。次いで、完全に乾燥したCClを留去でき、そして第1段階に再循環させることができる。
【0035】
本発明にかかる方法の一実施形態においては、この第2段階において、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を水処理、すなわち加水分解する。この場合、水とトリクロロメチル化芳香族化合物(III)との比は、一般的に0.8:1〜1.2:1、好ましくは0.9:1〜1.1:1、特に好ましくは約1:1である。好適な触媒は、ルイス酸、例えばAlCl、FeCl、AlBr、CoCl、LiCl、LiClO、SnCl、TiCl、ZrCl、SbCl、CoCl、BF、BCl及びZnCl並びに、ジョージ・オラー著「フリーデル−クラフツ反応及びその関連反応」第1巻201頁、284頁〜290頁(1963年)(George Olah, "Friedel Crafts and related reactions" , Vol. 1, 201 und 284-290 (1963))に記載された全種のフリーデル−クラフツ触媒である。更に、触媒として、ブレーンステッド酸を使用してもよい。例えば、硫酸、リン酸、ポリリン酸、ピロ硫酸、フルオロ硫酸、クロロ硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸及びトリフルオロメタン酸が好適である。好ましい触媒は、FeClである。この場合、このルイス酸は、一般的に、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)に対して0.05〜5モル%、好ましくは0.1〜3モル%の量で存在する。FeClをルイス酸として使用するのであれば、これを水溶液、例えば30質量%の水溶液として添加してもよい。この反応は、有機溶媒の不存在下で実施してよい。しかし、このことは、本発明にかかる方法の第1(アルキル化)段階からのCCl中、若しくはCClと更なる溶剤との混合物中でも実施できる。加水分解(第2段階)の際の反応温度は、一般的に、20〜100℃、好ましくは50〜75℃である。TMBCをTMBTから製造する場合には、加水分解の際の温度は、一般的に20〜100℃、好ましくは50〜75℃である。
【0036】
更なる一実施形態においては、本発明にかかる方法の第2段階において、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を、触媒存在下で有機酸処理、すなわち酸分解する。好適な有機酸は、例えばクロロ酢酸又はピバル酸である。本発明にかかる方法の一変形例においては、クロロ酢酸を使用する。このことは、共生成物として有用な生成物であるクロロ酢酸塩化物が形成されるという付加的な利点を有する。好適な触媒は、ルイス酸、例えばAlCl、FeCl、AlBr、CoCl、LiCl、LiClO、SnCl、TiCl、ZrCl、SbCl、CoCl、BF、BCl及びZnCl並びに、ジョージ・オラー著「フリーデル−クラフツ反応及びその関連反応」第1巻201頁、284頁〜290頁(1963年)(George Olah, "Friedel Crafts and related reactions" Vol. 1, 201 und 284-290 (1963))に記載された全種のフリーデル−クラフツ触媒である。更に、触媒として、ブレーンステッド酸を使用してもよい。例えば硫酸、リン酸、ポリリン酸、ピロ硫酸、フルオロ硫酸、クロロスルホン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸及びトリフルオロメタン酸が好適である。好ましい触媒は、FeClである。ルイス酸の量は、通例、アルキルベンゾトリクロリド(III)に対して0.01〜5モル%、好ましくは0.1〜3モル%である。酸分解の際の反応温度は、一般的に20〜100℃、好ましくは50〜75℃である。TMBCをTMBTから製造する場合には、その反応温度は、一般的に20〜100℃、好ましくは50〜75℃である。
【0037】
加水分解若しくは酸分解の際に得られる有機相から、アルキル塩化ベンゾイル(I)を、蒸留によって、純粋な形で得ることができる。
【0038】
本発明にかかる方法によって、公知の4段階合成は2段階合成によって代替される。この場合、両段階にわたる全収率は、後処理を含めて、使用された置換された芳香族化合物(II)に対して、>80%、好ましくは>85%、特に好ましくは90%にまで至りうる。公知の4段階合成後の全収率は81.7%であるのに対して、このTMBCの製造の際には、例えば91%の全収率が達成される。
【0039】
本発明を以下の実施例により、詳細に説明する。
【0040】
実施例
実施例1
TMBTを製造する
183.3gのAlCl(1.375モル;1.1当量)を、1153.5gのCCl(7.5モル)中に、40℃で懸濁した。83分以内に、150gのメシチレン(1.25モル)を40℃で滴加する。この第1滴後には既にその混合物は暗赤色を呈しており、かつHClの発生を観察できる。メシチレンを90%だけ添加した後に、固形物が沈殿する。この懸濁液は、良好に撹拌できる。メシチレンを完全に添加した後に、更に90分にわたって40℃で撹拌する。この反応混合物を、1500gの氷/185gの濃縮HClに注ぎ、そして加水分解する。この反応混合物の添加を、温度が3℃を上回らないように行う。上方の水相を廃棄する。下方の有機相を、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ(次いで、CClで洗浄)、そして蒸留する。蒸留には、1705.6gの有機相を使用する。大気圧下76℃で、1413.4gのCClが留去される。次いで、約1.6ミリバールかつ約98℃で、268.2gのTMBTが蒸留され、これはGC分析によれば93.7面積%の純度を有する。このTMBTは更に、約2.5面積%のTMBCを含有する。TMBT及びTMBCの単離収率は、合計87.6%である。
【0041】
実施例2
TMBTを加水分解する
実施例2からのTMBT268.2g(93.7面積%のTMBT=1.053モル+2.5面積%のTMBC)と、0.3gのFeCl(0.0019モル)(水不含)とを室温で混合する。赤色の呈色を観察できる。60℃で、44分間で19.0gの完全脱塩水(1.053モル)を滴加し、その際、ガスが発生する。それを完全に添加した後に、更に105分にわたって60℃で撹拌する。反応の完了のために0.25gの水を、GC分析によるTMBT存在がもはやなくなるまで更に添加する。この反応排出物を、蒸留塔に通すことなく、1.8ミリバールかつ72℃で蒸留し、その際、196.4gのTMBC(96.0面積%)が得られる。収率は、95.8%である。更なる精製のために、このTMBCを蒸留塔に通して再び蒸留し、その際、147.8gのTMBCが得られ、それは99.5面積%の純度を有する。単離されたTMBCの全収率は、メシチレンに対して83.9%である。
【0042】
実施例3
TMBTを製造する
216.7gのAlCl(1.625モル;1.3当量)を、1153.5gのCCl(7.5モル)中に、40℃で懸濁した。35分以内に、150gのメシチレン(1.25モル)を40℃で滴加する。この第1滴後には既にその混合物は暗赤色を呈しており、かつHClの発生を観察できる。メシチレンを完全に添加した後に、次いで更に90分にわたって40℃で撹拌する。この反応混合物を、2000gの氷/300gの濃縮HClに注ぎ、そして加水分解する。この反応排出物の添加を、温度が3℃を上回らないように行う。上方の水相を廃棄する。下方の有機相を、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ(次いで、CClで洗浄)、そして蒸留する。大気圧下、78℃で1331.4gのCClが留去される。次いで、約1.1ミリバールかつ約106℃で、272.2gのTMBTが蒸留され、これはGC分析によれば91.9面積%の純度を有する。このTMBTは更に、約4.7面積%のTMBCを含有する。TMBT及びTMBCの単離収率は、合計89.8%である。
【0043】
実施例4
TMBTを酸分解する
実施例3からのTMBT258.5g(91.9面積%TMBT=1.0モル;4.7面積%TMBC)と、0.2gのFeCl(0.0013モル)(水不含)とを室温で混合する。赤色の呈色を観察できる。70℃で、約2時間で95.5gのクロロ酢酸(CES)(1.0モル)を滴加し、その際、ガスが発生する。それを完全に添加した後に、更に60分にわたって70℃で撹拌する。この反応排出物を蒸留する。180ミリバールかつ58℃で、最初に105.5gのクロロ酢酸塩化物(CEC)が留去される。この分画は、96.4面積%までがCECから構成されており、3.5面積%までがTMBCから構成されている。これは、90%のCEC収率に相当する。次いで、4.2ミリバールかつ86℃で、196gのTMBCが留去される。単離されたTMBCの収率は、99.3%である。単離されたTMBCの全収率は、メシチレンに対して89.2%である。
【0044】
実施例5
TMBTを単離することなくTMBCを製造する
250.0gのAlCl(1.875モル;メシチレンに対して1.5当量)を、288.4gのCCl(1.875モル;メシチレンに対して1.5当量)中に、24℃で懸濁する。40分以内に、150gのメシチレン(1.25モル)を、24〜55℃で滴加する。この第1滴後には既にその混合物は暗赤色を呈しており、そしてHClガス発生を観察できる。メシチレン添加後に、良好に撹拌及び圧送可能な希釈懸濁液が存在する。次いでこの懸濁液を、更に90分にわたって43℃で撹拌する。この反応混合物を、20分の時間にわたって、685gの完全脱塩水と115gの濃縮HClとの混合物中に滴加する。加水分解を室温で開始し、そして更なる過程で冷却によって45℃を下回る温度に保つ。加水分解反応が直ちに始まる。この反応混合物を完全に添加した後に、2つの液相が形成される。下方の褐色の有機相を分離して、そして更なる処理を行うことなく、ガラス製フラスコに新たに装入する。50℃まで加熱して、そしてFeClの30質量%溶液1.0g(0.00188モル)を、水中に添加する。約5分後に、ガスが軽く発生する。温度を60℃に高めた後に、33分間で15gの完全脱塩水を滴加する。全体的に、なおも更に4.5gの完全脱塩水(0.25モル)を滴加する。この添加完了後に、次いで60分にわたって撹拌する。次いで、得られた反応混合物を蒸留する。最初に、120ミリバールで過剰のCClを留去する。次いで、TMBCを0.25〜0.4ミリバールかつ62〜68℃の温度で留去する。全体として、208.1gのTMBC(1.14モル)が得られ、これは91.2%の収率に相当する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
〜C20アルキル及び/又はハロゲンで一箇所以上で置換されたアリールカルボン酸塩化物(I)の製造方法において、第1段階において、C〜C20アルキル及び/又はハロゲンで一箇所以上で置換された芳香族化合物(II)とCClとをフリーデル−クラフツ触媒の存在下で反応させて、相応のC〜C20アルキル及び/又はハロゲンで一箇所以上で置換されたトリクロロメチル化芳香族化合物(III)を得て、
そして第2段階において、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を触媒存在下で水処理又はプロトン酸処理して、アリールカルボン酸塩化物(I)を得る方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、一般式(Ia)
【化1】

[式中、Rは、それぞれ互いに無関係に、ハロゲン又はC〜C20アルキル基を意味する]の1〜5箇所で置換された塩化ベンゾイルを製造するにあたり、
第1段階において、置換された芳香族化合物(II)としての一般式(IIa)
【化2】

[式中、Rは、前記の意味を有する]の1〜5箇所で置換されたベンゼンとCClとをフリーデル−クラフツ触媒の存在下で反応させて、一般式(IIIa)
【化3】

[式中、Rは、前記の意味を有する]の1〜5箇所で置換されたベンゾトリクロリドを得て、
そして第2段階において、ベンゾトリクロリド(IIIa)を触媒存在下で水処理又はプロトン酸処理して、塩化ベンゾイル(Ia)を得る方法。
【請求項3】
一般式(Ib)
【化4】

のトリメチル塩化ベンゾイルを、置換された芳香族化合物(II)としてのメシチレンから製造することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
CClと置換された芳香族化合物(II)とのモル比が、1:1〜3.5:1であることを特徴とする、請求項1から3までの何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
フリーデル−クラフツ触媒としてAlClを使用し、その際、第1段階において、トリクロロメチル化芳香族化合物(III)及びAlClからの錯体を形成させることを特徴とする、請求項1から4までの何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
1当量の置換された芳香族化合物(II)当たりに、1〜1.5当量のAlClを使用することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
トリクロロメチル化芳香族化合物(III)及びAlClからの錯体を、水を用いて20〜100℃で加水分解することを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
トリクロロメチル化芳香族化合物(III)及びAlClからの錯体の加水分解を、連続的に実施することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を、第2段階において、プロトン酸としてのクロロ酢酸を用いて処理することを特徴とする、請求項1から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を、第2段階において、水処理することを特徴とする、請求項1から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
第2段階において、触媒としてFeClを使用することを特徴とする、請求項1から10までの何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を、中間生成物として単離することを特徴とする、請求項1から11までの何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
トリクロロメチル化芳香族化合物(III)を、中間生成物として単離せずに、それを第1段階の溶剤中に溶解させて、第2段階において使用することを特徴とする、請求項1から11までの何れか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−513547(P2009−513547A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519866(P2006−519866)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007768
【国際公開番号】WO2005/012219
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】