説明

美容方法の評価方法

【課題】本発明は、ラマン分光法により測定できる、皮膚の水分量の深さ分布を用いて得られる指標に基づく美容方法の評価方法を提供する。
【解決手段】美容方法で使用する化粧品の塗布前後で皮膚内の水分量の深さ分布をラマン分光法によって測定し、該測定した値から導かれる指標に基づいて、該化粧品の塗布前後で皮膚内の水分量の深さ分布を比較することによって評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は美容方法の評価方法に係り、より詳細には、ラマン分光法により測定された皮膚内の水分量の深さ分布により導かれる指標に基づいて、化粧水を使用する際の美容方法の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康や美容に関心が高まっており、特に、女性の肌の健康や美容に対する関心が非常に高くなってきている。しかしながら、美容方法は多種多様であり、さらに美容方法は人によって千差万別である。このような状況において、美容方法の効果を何らかの指標を用いて評価することができれば、効果的な美容をすることが期待できる。
【0003】
特に、化粧水を使用する美容方法において、化粧水の提供側は、例えば、化粧水のコットン使用による皮膚への塗布を推奨しているが、論理的な根拠に裏付けられたものではなく、ヒトの官能評価によるものであり、その効果は明確ではなかった。さらに、使用する化粧水の推奨量や、皮膚への接触時間などは定まっておらず、使用後の皮膚の水分含有量を表すうるおい感は化粧水の使用者によってばらつきがあった。
【0004】
一方、従来から、皮膚内の水分量の深さ分布を測定する方法が知られており、例えば、ラマン分光法を用いて測定する方法が用いられている。(例えば、非特許文献1参照。)また、ラマン分光法は周知の技術であるため、皮膚内の水分量の深さ分布だけでなく、生物の細胞の組織内の成分を分析するためにも多様に活用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、化粧水を使用する美容方法と、皮膚の水分量の深さ分布との関係は、いまだかつて関連付けされておらず、ましてや、ラマン分光法により測定できる、水分量の深さ分布で美容方法を評価する方法はなかった。
【特許文献1】特表2006−508358号公報
【非特許文献1】Caspers PJ, Lucassen GW, Bruining HA, Puppels GJ. Automateddepth-scanning confocal Raman microspectrometer for rapid in vivo determinationof water concentration profiles in human skin. J Raman Spectrosc 2000; 31:813-818
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は上述に鑑みてなされたものであり、ラマン分光法により測定できる、皮膚の水分量の深さ分布を用いて得られる指標に基づく美容方法の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ラマン分光法により測定される皮膚内の水分量の深さ分布を用いることで、美容方法を評価することができるという考えに基づき本発明を開発するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は、美容方法で使用する化粧品の塗布前後で皮膚内の水分量の深さ分布をラマン分光法によって測定し、該測定した値から導かれる指標に基づいて、該化粧品の塗布前後で皮膚内の水分量の深さ分布を比較することによって評価することを特徴とする美容方法の評価方法である。
【0009】
また、本発明の美容方法の評価方法において、前記指標は、角層相当厚、上部積算/角層相当厚又は表面3点平均水分量から選択される一つであることを特徴とする。
【0010】
さらにまた、本発明の美容方法の評価方法において、前記美容方法は、化粧水を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ラマン分光法により、皮膚の水分深さ分布及び水分量を測定することによって導かれる指標、例えば、角層相当厚に基づいて、化粧水を使用する美容方法の効果を評価することができる。より具体的には、ラマン分光法により測定した、皮膚の水分量の深さ分布及び水分量を用いることによって、塗布前と塗布後において、例えば、化粧水マスク、パッティング、すべらせなど化粧水の塗布時間、塗布量などの美容法による、皮膚への効果を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明にしたがって実施した具体例を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明の趣旨及び範囲を逸脱しない限り、その細部については様々な態様が可能である。
【0013】
以下に添付図を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の好ましい態様では、美容方法で使用する化粧品の塗布前後で皮膚内の水分量の深さ分布をラマン分光法によって測定し、その測定した値から導かれる指標に基づいて、化粧品の塗布前後で皮膚内の水分量の深さ分布を比較することによって美容方法の効果を評価する。
【0015】
まず、ラマン分光法による皮膚内の水分量の深さ分布を測定する手法を説明する。
【0016】
本発明で使用するラマン分光法による皮膚内の水分量の深さ分布の測定は、例えば、特許文献1に開示されているような機器及び方法を用いて行う。例えば、レーザー、ラマン・シグナルを測定するためのシグナル検出ユニット、および光ファイバー・プローブを含む機器を使用する。また、上記機器による測定方法は、ラマン・シグナルを生成し、光ファイバーを介してレーザー光を送り、光ファイバーを介してラマン・シグナルを受け、シグナル検出ユニットによってラマン・シグナルを検出することを含み、例えば、実質的に2500〜3700cm−1スペクトル領域にラマン・シグナルを有さないための光ファイバーを使用して、ラマン・シグナルを受けるものと同じ光ファイバーによってレーザー光を送り、シグナル検出ユニットで、上記スペクトル領域のラマン・シグナルを測定する。
【0017】
つまり、解析したい部位に対して光ファイバーを介してレーザー光を送り、そこから光ファイバーを通って散乱されたラマン・シグナルを受け、シグナル検出ユニットによってラマン・シグナルを検出する。
【0018】
本発明では、上述した機器及び方法を用いて、皮膚内の水分量の深さ分布を測定するために、美容方法で使用する化粧品の塗布前後で皮膚表面から2μmごとに測定する。
【0019】
なお、ラマン分光法による測定は、周知の測定技術であるため、ここではこれ以上の詳細な説明はしない(ラマン分光法による測定の詳細は、特許文献1を参照。)。
【0020】
次に、本発明において、上述したラマン分光法による測定を用いた、美容方法の評価方法を具体的に説明する。
【0021】
本発明では、化粧品として、化粧水を用いる美容方法を評価する。より詳細には、化粧水の塗布前と塗布後で水分量の深さ分布をラマン分光法で測定して導かれる指標に基づき、皮膚内の水分量の深さ分布を比較することによって、化粧水の塗布の手法、化粧水の皮膚への接触時間、化粧水の使用量などを効果を評価する。
【0022】
図1は、本発明において、化粧水を用いる美容方法の一連の流れを説明する図である。
【0023】
まず、皮膚を石鹸で十分洗浄する。次いで、60分間放置した後で、洗浄後の皮膚の任意の部位で水分量の深さ分布を上述のラマン分光法によって測定した。その後、化粧水を皮膚に対して塗布するが、マスク、パッティング又はすべらせによって塗布した。なお、各塗布条件は、実施例によって異なり、それらの条件は下記の各実施例に詳述する。次に、化粧水を塗布した30秒後、ティッシュで当該部位の化粧水を軽く拭き取り、さらにその30秒後(つまり、化粧水を塗布した1分後)に、塗布前の測定部位と同じ部位の水分量の深さ分布をラマン分光法によって同様に測定した。さらにまた、化粧水を塗布した10分後において、同じ部位の水分量の深さ分布をラマン分光法によって測定した。
【0024】
本発明は、ラマン分光法によって測定した水分量の深さ分布を用いて得られる指標によって評価することを特徴とするが、例えば、本発明の美容方法の評価に用いる指標の一つに角層相当厚がある。図2のグラフに示すように、角層相当厚とは、上述のようにしてラマン分光法によって測定した、深さ2μmごとの数値をプロットして、曲線が「深さ」を示す横軸と平行になる時点での皮膚からの厚さとして定義する。具体的には、この角層相当厚に基づいて、皮膚内の水分量の深さ分布を化粧水の塗布前後で比較することによって、つまり、角層相当厚を塗布前後で比較することによって美容方法の効果を評価する。
【0025】
また、角層相当厚とは別の指標として、例えば、上部積算/角層相当厚を用いることもできる。上部積算/角層相当厚とは、単位角層厚あたりの角層相当厚の皮膚表面から1/3までの積算水分量を示す。また、別の指標として、表面3点平均水分量を用いることもできる。これは、ラマン分光法によって測定した水分量の深さ分布は、2μmごとにグラフにプロットされるため、皮膚表面から6μmまでの3点の水分量を平均したものである。
【0026】
実施例
以下の実施例では、化粧水を用いた美容方法で、化粧水の塗布の手法、化粧水の皮膚への接触時間、および化粧水の使用量を変化させて、化粧水の塗布前と塗布後で皮膚内の水分量の深さ分布をラマン分光法によって測定し、上部積算/角層相当厚に基づいて評価した。
【0027】
実施例1
実施例1では、日常的に行っている4種類の化粧水の使用法を比較した。化粧水は、10%エタノール、5%1,3ブチレングリコールを含有するモデル化粧水を使用した。通常塗布としては、10.9μl/6cmの化粧水を手で30秒間塗布した。コットンを使用したすべらせにおいて、3ml/コットンで30秒間行った。コットンを使用したパッティングにおいて、3ml/コットンで2分間行った。コットンを使用したマスクにおいて、3ml/コットンで10分間行った。これらの条件で行った、化粧水の塗布前と化粧水の塗布後1分及び10分における皮膚内の水分量の深さ分布をラマン分光法によって測定した。その結果を図3に示す。
【0028】
ここでは、化粧水の皮膚に対する接触時間・塗布量などの美容方法の条件は異なるが、日常的に行っている美容方法の評価を目的として、上記の結果を図3のグラフとしてプロットした。日常の使用条件における美容方法では、上部積算/角層相当厚において、化粧水の塗布前後で水分量に差異が生じ、塗布後1分の場合、皮膚との接触時間が長い手法の効果が大きいことが評価できる。具体的には、肌にうるおい感をもたらすために、コットンマスクが最も効果が高く、次いで、コットンパッティング、コットンすべらせ、手の順に効果が高い評価となる。
【0029】
さらに、以下の実施例では、最も効果が高かった、コットンマスクにおいて、化粧水の接触時間及び接触量を変えることによって評価した。
【0030】
実施例2
実施例2では、化粧水の塗布方法をマスク、塗布量を3ml/コットンとして、接触時間を変えることで比較した。化粧水は、2%エタノール、3%グリセリンを含有するモデル化粧水を使用した。接触時間は、1、3、5、10、15及び20分として行い、化粧水の塗布前と化粧水の塗布後1分及び10分における皮膚内の水分量の深さ分布をラマン分光法によって測定した。
【0031】
図4は、実施例2の結果を示すものであり、ラマン分光法によって測定した皮膚内の水分量の深さ分布の値をグラフにプロットした。このグラフから、上述した上部積算/角層相当厚の定義にしたがって導かれる上部積算/角層相当厚において、化粧水の塗布前後における皮膚内の水分量の深さ分布を比較することによって評価することができる。化粧水の塗布前と塗布後を比べて、特に、塗布後1分では、図4のグラフから得られる上部積算/角層相当厚は、塗布前の水分量の深さ分布よりも大きく、その中でも、接触時間が長い方が水分の浸透量が増加している。これによって、化粧水を用いる美容方法の皮膚への効果を評価することができ、皮膚との接触時間が長い方が化粧水の肌への効果が高く、肌のうるおい感が高まったものと評価することができる。
【0032】
実施例3
実施例3では、化粧水の塗布方法をコットンマスク、接触時間を20分として、化粧水の接触量を変えることで比較した。化粧水は、実施例1と同様、2%エタノール、3%グリセリンを含有するモデル化粧水を使用した。化粧水の接触量は、1、3及び5mlとして行い、化粧水の塗布前と化粧水の塗布後1分及び10分における皮膚内の水分量の深さ分布をラマン分光法によって測定した。その結果を図5に示し、ラマン分光法によって測定した水分量の深さ分布の値をグラフにプロットした。
【0033】
図5から分かるように、上述した上部積算/角層相当厚の定義にしたがって導かれる上部積算/角層相当厚において、接触時間が20分の場合、化粧水の塗布前後で水分量に多大な差異が生じたが、塗布後の結果から、化粧水の使用量によっては、角層上部の水分増加量は変化しない傾向にあった。また、水分の浸透深さは増加傾向にあった。
【0034】
よって、上述した実施例1乃至3の結果から、化粧水を用いる美容方法において、皮膚との接触時間が長いほど、浸透効果が高く、肌の奥までうるおい感があることが評価できる。また、マスクの同一時間の比較では、角層上部の水分増加量の違いは少ないが、マスク時間が長いときは、浸透深さは若干上昇することが分かる。
【0035】
したがって、本発明は、美容方法で使用する化粧品の塗布前後で皮膚内の水分量の深さ分布をラマン分光法によって測定し、その測定した値から導かれる指標に基づき、化粧品の塗布前後の皮膚内の水分量の深さ分布を比較することによって美容方法を評価することができる。
【0036】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明における、化粧水を用いる美容方法の一連の流れを説明する図である。
【図2】本発明において、ラマン分光法によって測定した皮膚内の水分量の深さ分布を用いて得られる指標の一例を示す図である。
【図3】日常の使用条件における美容方法によって、本発明の美容方法の評価方法を説明する図である。
【図4】実施例2における本発明の美容方法の評価方法を説明する図である。
【図5】実施例3における本発明の美容方法の評価方法を説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
美容方法の評価方法であって、
該美容方法で使用する水を含有する化粧品の塗布前後で皮膚内の水分量の深さ分布をラマン分光法によって測定し、
該測定した値から導かれる指標に基づいて、該化粧品の塗布前後で皮膚内の水分量の深さ分布を比較することによって評価することを特徴とする美容方法の評価方法。
【請求項2】
前記指標は、角層相当厚、上部積算/角層相当厚又は表面3点平均水分量から選択される一つであることを特徴とする請求項1に記載の美容方法の評価方法。
【請求項3】
前記美容方法は、化粧水を使用する美容方法であることを特徴とする請求項1又は2に記載の美容方法の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−188302(P2008−188302A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27253(P2007−27253)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】