説明

義指装置

【課題】 物品を確実に把持することが可能な義指装置を安価に提供する。
【解決手段】 指骨格12を第1アクチュエータ71で屈曲・伸長し、指骨格12を覆う袋体52〜55内部に粉体を充填し、指骨格12の屈曲後に袋体52〜55の内部を第2アクチュエータ73で真空引きして固化するので、袋体52〜55が固化していない状態で指骨格12を屈曲させて義指を物品の表面に当接させ、柔軟な袋体52〜55の形状を物品の形状に沿うように馴染ませた後に袋体52〜55を固化することで、特別に強い把持力を必要とせずに物品を確実に把持することができる。しかも第1アクチュエータ71は指骨格を屈曲・伸長させることが可能であれば、センサ等を用いて義指の把持力や屈曲量を制御する等の複雑な制御を行う必要はなく、また第2アクチュエータ72は袋体52〜55の内部を真空引できるものであれば良いため、極めて低価格で実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義手に用いられる義指装置に関し、特にアクチュエータにより屈曲して物品を把持することが可能な義指装置に関する。
【背景技術】
【0002】
義手用の義指の心金の関節部を、複数の金属薄板の端部どうしを重ね合わせて屈曲自在に枢支して構成したものにおいて、一方の金属薄板を切り起こして形成した舌状部を他方に金属薄板に弾発的に押し付けて摩擦力を発生させ、関節部の屈曲角度を任意に変更可能したものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
また可撓性および気密性を有する袋体の内部に粉体を収納し、袋体の内部を真空にすることで任意の形状を保ったまま剛体化する任意形状保持装置が、下記特許文献2により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第111162号公報
【特許文献2】特表平5−503653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、アクチュエータで屈曲して物品を把持する義指を備えた義手として種々のものが実用化されているが、義指が物品の形状に馴染み難いために物品が滑って落下し易く、これを防止するために把持力を強くすると物品を損傷させる可能性があった。また義指の把持力や屈曲角度をセンサで検出してアクチュエータの作動を制御するものや、筋肉や脊髄に流れる電気信号から使用者の意思を読み取ってアクチュエータを作動させるものが知られているが、これらのものは非常に高価であるという問題があった。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、物品を確実に把持することが可能な義指装置を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、指骨格と、前記指骨格を屈曲・伸長する第1アクチュエータと、前記指骨格を覆う複数の袋体と、前記袋体に充填された粉体と、前記指骨格の屈曲後に前記袋体の内部を真空引きして固化させる第2アクチュエータとを備えることを特徴とする義指装置が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記指骨格は、複数のリンクを複数のヒンジで直列に連結して構成されることを特徴とする義指装置が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記ヒンジはリターンスプリングで伸長方向に付勢され、前記第1アクチュエータは、前記ヒンジよりも先端側のリンクをケーブルで牽引して前記ヒンジよりも基端側のリンクに対して屈曲させることを特徴とする義指装置が提案される。
【0010】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記第1アクチュエータは、前記複数のヒンジの屈曲を基端側のヒンジから先端側のヒンジに向かって順番に完了させることを特徴とする義指装置が提案される。
【0011】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1〜請求項4の構成に加えて、前記複数のリンクの各々に対応して前記袋体を備えることを特徴とする義指装置が提案される。
【0012】
また請求項6に記載された発明によれば、請求項5の構成に加えて、前記第2アクチュエータは、複数の袋体を前記指骨格の基端側の袋体から先端側の袋体に向かって順番に固化させることを特徴とする義指装置が提案される。
【0013】
また請求項7に記載された発明によれば、請求項6の構成に加えて、隣接する前記袋体どうしがオリフィスを介して接続され、前記指骨格の最も基端側の袋体が前記第2アクチュエータに接続されて真空引きされることを特徴とする義指装置が提案される。
【0014】
尚、実施の形態の末節リンク13、中節リンク14、基節リンク15および中手リンク16は本発明のリンクに対応し、実施の形態の第1ヒンジピン17、第2ヒンジピン18および第3ヒンジピン19は本発明のヒンジに対応し、実施の形態の第1リターンスプリング36、第2リターンスプリング38および第3リターンスプリング40は本発明のリターンスプリングに対応し、実施の形態の第1ケーブル43、第2ケーブル46および第3ケーブル49は本発明のケーブルに対応し、実施の形態の末節袋体52、中節袋体53、基節袋体54および中手袋体55は本発明の袋体に対応し、実施の形態の第1チューブ58、第2チューブ59および第3チューブ60は本発明のオリフィスに対応する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の構成によれば、指骨格を第1アクチュエータで屈曲・伸長し、指骨格を覆う袋体内部に粉体を充填し、指骨格の屈曲後に袋体の内部を第2アクチュエータで真空引きして固化するので、袋体が固化していない状態で指骨格を屈曲させて義指を物品の表面に当接させ、柔軟な袋体の形状を物品の形状に沿うように馴染ませた後に袋体を固化することで、特別に強い把持力を必要とせずに物品を確実に把持することができる。しかも第1アクチュエータは指骨格を屈曲・伸長させることが可能であれば良く、センサ等を用いて義指の把持力や屈曲量を制御する必要がないため、また第2アクチュエータは袋体の内部を真空引できるものであれば良いため、極めて低価格で実現することができる。
【0016】
また請求項2の構成によれば、指骨格は複数のリンクを複数のヒンジで直列に連結して構成されるので、義指全体の形状を正しく維持しながら確実に屈曲・伸長させることができる。
【0017】
また請求項3の構成によれば、ヒンジはリターンスプリングで伸長方向に付勢されており、第1アクチュエータはヒンジよりも先端側のリンクをケーブルで牽引してヒンジよりも基端側のリンクに対して屈曲させるので、ケーブルを牽引して義指で物品を把持し、ケーブルを緩めて把持を解除することができる。
【0018】
また請求項4の構成によれば、第1アクチュエータは複数のヒンジの屈曲を基端側のヒンジから先端側のヒンジに向かって順番に完了させるので、義指を物品にしっかりと巻き付けて確実に把持することができる。
【0019】
また請求項5の構成によれば、複数のリンクの各々に対応して袋体を備えるので、粉体が義指の一部に片寄って形状が崩れるのを防止することができる。
【0020】
また請求項6の構成によれば、第2アクチュエータが複数の袋体を指骨格の基端側の袋体から先端側の袋体に向かって順番に固化させるので、物体を一層確実に把持することができる。
【0021】
また請求項7の構成によれば、隣接する袋体どうしをオリフィスを介して接続し、指骨格の最も基端側の袋体を第2アクチュエータに接続して真空引きするので、簡単な構造で義指の基端側の袋体から先端側の袋体に向かって順番に固化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】義指を備えた義手の斜視図。
【図2】図1の2−2線拡大断面図。
【図3】図2の3−3線断面図。
【図4】図2の4−4線断面図。
【図5】図2の5−5線断面図。
【図6】義指の指骨格の部品図。
【図7】義指の分解斜視図。
【図8】第1〜第4袋体および表皮膜の斜視図。
【図9】図2の9部拡大図。
【図10】図9の10方向矢視図。
【図11】図9に対応する作用説明図。
【図12】義指が屈曲したときの状態を示す、前記図2に対応する図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1〜図12に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
図1に示すように、義手Hは本発明が適用された5本の義指11…を備えている。5本の義指11…の構造は親指を除いて基本的に同じであるため、以下、代表として人指し指の義指11について説明する。
【0025】
図2に示すように、義指11の指骨格12は、先端側から基端側に向かって人体の末節骨、中節骨、基節骨および中手骨にそれぞれ対応する末節リンク13、中節リンク14、基節リンク15および中手リンク16を備えており、末節リンク13および中節リンク14は第1関節に相当する第1ヒンジピン17で屈曲可能に連結され、中節リンク14および基節リンク15は第2関節に相当する第2ヒンジピン18で屈曲可能に連結され、基節リンク15および中手リンク16は中手指節関節に相当する第3ヒンジピン19で屈曲可能に連結される。
【0026】
図2〜図7に示すように、末節リンク13は、1枚の内板20の両側に2枚の中板21,21を積層し、その両側に2枚の外板22,22を積層した5層構造であり、それを円形の第1連通孔23が左右に貫通する。内板20の後部には切欠き20aが形成され、切欠き20aと第1連通孔23とが前後方向に延びるチューブ収納孔20bで連結され、切欠き20aからスプリング収納孔20cが前方に延出する。中板21の後部には、内板20の切欠き20aよりも僅かに大きい切欠き21aと、ガイドピン孔21bとが形成される。外板22の後部には、第1ヒンジピン17が嵌合するヒンジピン孔22aと、ガイドピン孔22bとが形成される。
【0027】
中節リンク14は、1枚の内板24の両側に2枚の中板25,25を積層し、その両側に2枚の外板26,26を積層した5層構造であり、それを円形の第2連通孔27が左右に貫通する。内板24の後部には切欠き24aが形成され、切欠き24aと内板24の前端とが第2連通孔27を貫通して前後方向に延びるチューブ収納孔24bで連結され、切欠き24aからスプリング収納孔24cが前方に延出する。更に内板24の下部が、前後方向に延びるケーブル収納孔24dで上下に2分割される。中板25の後部には、内板24の切欠き24aよりも僅かに大きい切欠き25aと、ガイドピン孔25bとが形成され、中板25の前部には、第1ヒンジピン17が嵌合するヒンジピン孔25cと、スプリング支持ピン孔25dと、ガイドピン孔25eとが形成される。外板26の後部には、第2ヒンジピン18が嵌合するヒンジピン孔26aと、ガイドピン孔26bとが形成され、外板26の前部には、末節リンク13の外板22の後端が嵌合する切欠き26cと、ガイドピン孔26dとが形成される。
【0028】
基節リンク15は、1枚の内板28の両側に2枚の中板29,29を積層し、その両側に2枚の外板30,30を積層した5層構造であり、それを円形の第3連通孔31が左右に貫通する。内板28の後部には切欠き28aが形成され、切欠き28aと内板24の前端とが第3連通孔31を貫通して前後方向に延びるチューブ収納孔28bで連結され、切欠き28aからスプリング収納孔28cが前方に延出する。更に内板28の下部が、前後方向に延びるケーブル収納孔28dで上下に2分割される。中板29の後部には、内板28の切欠き28aよりも僅かに大きい切欠き29aと、ガイドピン孔29bとが形成され、中板29の前部には、第2ヒンジピン18が嵌合するヒンジピン孔29cと、スプリング支持ピン孔29dと、ガイドピン孔29eとが形成される。外板30の後部には、第2ヒンジピン18が嵌合するヒンジピン孔30aと、ガイドピン孔30bとが形成され、外板26の前部には、中節リンク14の外板24の後端が嵌合する切欠き30cと、ガイドピン孔30dとが形成される。
【0029】
中手リンク16は、1枚の内板32の両側に2枚の中板33,33を積層し、その両側に2枚の外板34,34を積層した5層構造であり、それを円形の第4連通孔35が左右に貫通する。内板32には第4連通孔35を貫通して前後方向に延びるチューブ収納孔32aが形成され、内板32の下部が、前後方向に延びるケーブル収納孔32bで上下に2分割される。中板33の前部には、第3ヒンジピン19が嵌合するヒンジピン孔33aと、スプリング支持ピン孔33bと、ガイドピン孔33cとが形成される。外板34の前部には、基節リンク15の外板30の後端が嵌合する切欠き34aと、ガイドピン孔34bとが形成される。
【0030】
末節リンク13と中節リンク14とを枢支する第1ヒンジピン17に第1リターンスプリング36が嵌合しており、第1リターンスプリング36の一端が末節リンク13の中板20のスプリング収納孔20cに嵌合するとともに、他端が中節リンク14のスプリング支持ピン孔25d,25dに圧入されたスプリング支持ピン37に係合し、これにより末節リンク13は中節リンク14に対して真っ直ぐに延びる方向に付勢される。中節リンク14に対する末節リンク13の屈曲可能範囲は、末節リンク13の中板21,21および外板22,22が中節リンク14の中板25,25および外板26,26に当接することで規制される。
【0031】
中節リンク14と基節リンク15とを枢支する第2ヒンジピン18に第2リターンスプリング38が嵌合しており、第2リターンスプリング38の一端が中節リンク14の中板24のスプリング収納孔24cに嵌合するとともに、他端が基節リンク15のスプリング支持ピン孔29d,29dに圧入されたスプリング支持ピン39に係合し、これにより中節リンク14は基節リンク15に対して真っ直ぐに延びる方向に付勢される。基節リンク15に対する中節リンク14の屈曲可能範囲は、中節リンク14の中板25,25および外板26,26が基節リンク15の中板29,29および外板30,30に当接することで規制される。
【0032】
基節リンク15と中手リンク16とを枢支する第3ヒンジピン19に第3リターンスプリング40が嵌合しており、第3リターンスプリング40の一端が基節リンク15の中板28のスプリング収納孔28cに嵌合するとともに、他端が中手リンク16のスプリング支持ピン孔33b,33bに圧入されたスプリング支持ピン41に係合し、これにより基節リンク15は中手リンク16に対して真っ直ぐに延びる方向に付勢される。中手リンク16に対する基節リンク15の屈曲可能範囲は、基節リンク15の中板29,29および外板30,30が中手リンク16の中板33,33および外板34,34に当接することで規制される。
【0033】
中節リンク14の中板25,25および外板26,26のガイドピン孔25e,25e;26d,26dに圧入されたガイドピン42に一端を固定した第1ケーブル43(実線参照)は、末節リンク13の中板21,21および外板22,22のガイドピン孔21b,21b;22b,22bに圧入されたガイドピン44に摺動自在に巻き付けられた後、中節リンク14の内板24のケーブル収納孔24dと、基節リンク15の内板28のケーブル収納孔28dと、中手リンク16の内板32のケーブル収納孔32bを通過して引き出される。
【0034】
基節リンク15の中板29,29および外板30,30のガイドピン孔29e,29e;30d,30dに圧入されたガイドピン45に一端を固定した第2ケーブル46(一点鎖線参照)は、中節リンク14の中板25,25および外板26,26のガイドピン孔25e,25e;26d,26dに圧入されたガイドピン47に摺動自在に巻き付けられた後、基節リンク15の内板28のケーブル収納孔溝28dと、中手リンク16の内板32のケーブル収納孔32bを通過して引き出される。
【0035】
中手リンク16の中板33,33および外板34,34のガイドピン孔33c,33c;34b,34bに圧入されたガイドピン48に一端を固定した第3ケーブル49(二点鎖線参照)は、基節リンク15の中板29,29および外板30,30のガイドピン孔29e,29e;30d,30dに圧入されたガイドピン50に摺動自在に巻き付けられた後、中手リンク16の内板32のケーブル収納溝32bを通過して引き出される。
【0036】
図2〜図5および図8に示すように、末節リンク13、中節リンク14、基節リンク15および中手リンク16の各々の周囲が、断面U字状に形成されて内部に細かい粉体51が収納された柔軟なゴム製の末節袋体52、中節袋体53、基節袋体54および中手袋体55で覆われる。末節袋体52、中節袋体53、基節袋体54および中手袋体55は相互の接触部において接着により連結されており、末節袋体52だけが末節リンク13の先端を覆い、かつ腹部の容積が大きくなっている。通常状態において、末節袋体52、中節袋体53、基節袋体54および中手袋体55は柔軟であり、末節リンク13、中節リンク14、基節リンク15および中手リンク16の屈曲運動を妨げることはない。
【0037】
末節袋体52のU字溝の内面に2個の開口52a,52aが形成されており、これらの開口52a,52a(図4参照)がグロメット56,56を介して末節リンク13の外板22,22の第1連通孔23,23に接着により固定される。グロメット56,56の内部にはフィルタ57,57が設けられており、末節袋体52の粉体51が第1連通孔23,23に漏れ出すのが防止される。同様の構造により、中節袋体53、基節袋体54および中手袋体55の内部空間が、それぞれ中節リンク14、基節リンク15および中手リンク16の第2〜第4連通孔27,31,35にグロメット56…を介して連通する。
【0038】
末節リンク13の第1連通孔23と中節リンク14の第2連通孔27とが、末節リンク13の内板20のチューブ収納孔20bおよび中節リンク14の内板24のチューブ収納孔24bに収納されたゴム製の第1チューブ58を介して連通する。中節リンク14の第2連通孔27と基節リンク15の第3連通孔31とが、中節リンク14の内板24のチューブ収納孔24bおよび基節リンク15の内板28のチューブ収納孔28bに収納されたゴム製の第2チューブ59を介して連通する。基節リンク15の第3連通孔31と中手リンク16の第4連通孔35とが、基節リンク15の内板28のチューブ収納孔28bおよび中手リンク16の内板32のチューブ収納孔32aに収納されたゴム製の第3チューブ60を介して連通する。中手リンク16の第4連通孔35は内板32のチューブ収納孔32aに収納されたゴム製の第4チューブ61を介して指骨格12の外部に導かれる。
【0039】
従って、第4チューブ61を真空引きすると、第3チューブ60、第2チューブ59および第1チューブ58を介して中手袋体55、基節袋体54、中節袋体53および末節袋体52の内部が負圧になり、粉体51が相互に結合することで変形し易い状態から変形し難い状態へと剛体化する。その際に小径の第3チューブ60、第2チューブ59および第1チューブ58はオリフィスとして機能し、中手袋体55、基節袋体54、中節袋体53および末節袋体52の内部を、その順番に真空引きする。
【0040】
次に、図9および図10に基づいて、義指11を作動させるアクチュエータの構造を説明する。本実施の形態では、前記第1ケーブル43、第2ケーブル46および第3ケーブル49を牽引する第1アクチュエータ71と、前記第1チューブ58、第2チューブ59、第3チューブ60および第4チューブ61を真空引きする第2アクチュエータ72とが一体に設けられる。第1、第2アクチュエータ71,72は義指11に連なる掌部分あるいは下腕部分の内部に収納される。
【0041】
第1、第2アクチュエータ71,72は、平行に配置された2本のガイドロッド74,74と、そのガイドロッド74,74に摺動自在に嵌合する2本の前部ガイドパイプ75,75と、前記ガイドロッド74,74に摺動自在に嵌合する2本の後部ガイドパイプ76,76とを備える。ガイドロッド74,74の前端に第1プレート77が固定され、前部ガイドパイプ75,75の前端に第2プレート78が固定され、前部ガイドパイプ75,75の中間部に第3プレート79が摺動自在に嵌合し、前部ガイドパイプ75,75の後端に第4プレート80が固定され、第4プレート80の後方のガイドロッド74,74に第5プレート81が固定され、後部ガイドロッド76,76に第6プレート82が固定される。第6プレート82は義手Hの掌あるいは下腕に固定される。
【0042】
第3プレート79および第4プレート80に第1ベローズ83の前後端が結合され、第4プレート80および第5プレート81に第2ベローズ84の前後端が結合され、第5プレート81および第6プレート82に第3ベローズ85の前後端が結合される。第1プレート77に固定したガイドパイプ86に、第2プレート78に固定したガイドパイプ87が摺動自在に嵌合するとともに、第2プレート78に固定したガイドパイプ87に、第3プレート79に固定されて第1ベローズ83の内部に連通するガイドパイプ88が摺動自在に嵌合する。ガイドパイプ88の前端に前記第4チューブ61の後端が接続される。
【0043】
第3プレート79には第1ケーブル43が結合され、第4プレート80には第2ケーブル46が結合され、第5プレート81には第3ケーブル49が結合される。
【0044】
第6プレート82に固定されて第3ベローズ85の内部に連通する第4チューブ89が、使用者の腹部や脇の下に設けられた負圧ポンプ90に接続される。負圧ポンプ90は、腹筋を使用して腹部を膨らましたり凹ましたりすることで、あるいは上腕を上下動させたりすることで作動し、第1、第2アクチュエータ71,72を作動させる負圧を発生する。第5チューブ89には、使用者の操作により大気に開放する大気開放弁91が設けられる。
【0045】
第3プレート79には、第1ベローズ83およびガイドパイプ88を連通させるオリフィス92およびチェックバルブ93が設けられており、チェックバルブ93は第1ベローズ83側からガイドパイプ88側への空気の流入のみを許容し、逆方向の空気の移動を禁止する。第4プレート80には、第2ベローズ84および第1ベローズ83を連通させるオリフィス94およびチェックバルブ95が設けられており、チェックバルブ95は第2ベローズ84側から第1ベローズ83側への空気の流入のみを許容し、逆方向の空気の移動を禁止する。第5プレート81には、第3ベローズ85および第2ベローズ84を連通させるオリフィス96およびチェックバルブ97が設けられており、チェックバルブ97は第3ベローズ85側から第2ベローズ84側への空気の流入のみを許容し、逆方向の空気の移動を禁止する。
【0046】
上記構成を備えた義手Hの掌から先の部分はゴム製の表皮膜98(図8参照)で覆われており、末節袋体52、中節袋体53、基節袋体54および中手袋体55に接触する表皮膜98の内面には滑りを良くするためのグリスが塗布される。また表皮膜98が末節袋体52を覆う部分には硬い爪99が設けられており、この爪99により末節袋体52の背側の形状が維持される。
【0047】
次に、上記構成を備えた実施の形態の作用を説明する。
【0048】
通常時、義手Hの義指11は指骨格12が第1〜第3リターンスプリング36,38,40の弾発力で真っ直ぐに延びた状態にあり、かつ末節袋体52、中節袋体53、基節袋体54および中手袋体55の内部は大気圧であって柔軟な状態に維持される(図2参照)。
【0049】
この状態から物品を把持すべく負圧ポンプ90を作動させると、第5チューブ89を介して第3ベローズ85の内部の空気が吸引される。このとき、第3ベローズ85と第2ベローズ84との間にオリフィス96が配置されているため、第3ベローズ85の負圧は第4ベローズ84に伝達し難くなっている。従って、図11(B)に示すように、最初は第3ベローズ85だけが収縮し、固定された第6プレート82に対して第5プレート81が後方に移動することで、第5プレート81にガイドロッド74,74を介して接続された第1プレート77も後方に移動する。そして第5プレート81に第2ベローズ84を介して接続された第4プレート80と、第4プレート80に前部ガイドパイプ75,75を介して接続された第2プレート78とが一体になって後方に移動し、かつ第4プレート80に第1ベローズ83を介して接続された第3プレート79が一体になって後方に移動する。その結果、第3プレート79に接続された第1ケーブル43と、第4プレート80に接続された第2ケーブル46と、第5プレート81に接続された第3ケーブル49とが後方に牽引される。
【0050】
第1ケーブル43が後方に牽引されると、ガイドピン44が後方に引かれることで末節リンク20が第1ヒンジピン17まわりに内側に屈曲し、第2ケーブル46が後方に牽引されると、ガイドピン47が後方に引かれることで中節リンク24が第2ヒンジピン18まわりに内側に屈曲し、第3ケーブル49が後方に牽引されると、ガイドピン50が後方に引かれることで基節リンク28が第3ヒンジピン19まわりに内側に屈曲する。
【0051】
第3ベローズ85が完全に収縮すると、図11(C)に示すように、今度は第2ベローズ84の内部の空気が吸引される。このとき、第2ベローズ84と第1ベローズ83との間にオリフィス92が配置されているため、第2ベローズ84の負圧は第1ベローズ83に伝達し難くなっている。従って、今度は第2ベローズ84だけが収縮し、第5プレート81に対して第4プレート80が後方に移動することで、第4プレート80に第1ベローズ83を介して接続された第3プレート79が一体になって後方に移動する。その結果、第3プレート79に接続された第1ケーブル43と、第4プレート80に接続された第2ケーブル46とが後方に牽引される。
【0052】
第1ケーブル43が後方に牽引されると、ガイドピン44が後方に引かれることで末節リンク20が第1ヒンジピン17まわりに内側に更に屈曲し、第2ケーブル46が後方に牽引されると、ガイドピン47が後方に引かれることで中節リンク24が第2ヒンジピン18まわりに内側に更に屈曲する。
【0053】
第2ベローズ84が完全に収縮すると、図11(D)に示すように、今度は第1ベローズ83の内部の空気が吸引される。このとき、第4チューブ61に連なるガイドパイプ88との間にオリフィス93が配置されているため、第1ベローズ83の負圧は第4チューブ61に伝達し難くなっている。従って、今度は第1ベローズ83だけが収縮し、第4プレート80に対して第3プレート79が後方に移動する。その結果、第3プレート79に接続された第1ケーブル43が後方に牽引される。
【0054】
第1ケーブル43が後方に牽引されると、ガイドピン44が後方に引かれることで末節リンク20が第1ヒンジピン17まわりに内側に更に屈曲する。
【0055】
以上のように、第3ベローズ85が収縮したときには第1〜第3ケーブル43,46,49が同時に牽引されて末節リンク20、中節リンク21および基節リンク22が同時に屈曲し、続いて第2ベローズ84が収縮したときには第1、第2ケーブル43,46が同時に牽引されて末節リンク20および中節リンク21が同時に屈曲し、続いて第1ベローズ83が収縮したときには第1ケーブル43が牽引されて末節リンク20が屈曲する。つまり、第3ヒンジピン19における基節リンク28の屈曲が最初に終了し、次に第2ヒンジピン18における中節リンク24の屈曲が終了し、最後に第1ヒンジピン17における末節リンク20の屈曲が終了する。これにより、図12に示すように、指骨格12は物品に巻き付くように屈曲し、物品を確実に把持することができる。
【0056】
上述のようにして義指11が物品を把持したとき、末節袋体52、中節袋体53、基節袋体54および中手袋体55は柔軟な状態であるため、その形状が物品の表面形状に倣うように変形し、物品が落下し難くなる。
【0057】
第1〜第3ベローズ83,84,85が完全に収縮すると、第1ベローズ83に連なる第4チューブ61、第3チューブ60、第2チューブ59および第1チューブ58を介して末節袋体52、中節袋体53、基節袋体54および中手袋体55の内部が減圧され、その内部の粉体が相互に結合して固化することで、義指11は物品を確実に把持することができる。このとき、小径の第1チューブ58、第2チューブ59および第3チューブ60がオリフィスとして機能することで、中手袋体55、基節袋体54、中節袋体53および末節袋体52の順番で減圧されて固化するため、物品を一層確実に把持することができる。
【0058】
大気開放弁91を開放して第5チューブ89に大気を導入すると、チェックバルブ97,95,93が開弁してオリフィス96,94,92が無効になり、第3ベローズ85、第2ベローズ84および第1ベローズ83に空気が速やかに流入する。このとき、末節リンク20、中節リンク24および基節リンク28は第1〜第3リターンスプリング36,38,40の弾発力で伸長方向に付勢されているため、第1〜第3ケーブル43,46,49に引かれて第3ベローズ85、第2ベローズ84および第1ベローズ83が膨張し、義指11は元の伸長状態に復帰して物品の把持が開放される。
【0059】
また開放した大気開放弁91からの空気は、第3ベローズ85、第2ベローズ84および第1ベローズ83を経由して中手袋体53、基節袋体54、中節袋体53および末節袋体52の内部にも流入するため、それらの固化が解除されて柔軟な状態に復帰する。
【0060】
以上のように、本実施の形態によれば、第1アクチュエータ71で屈曲・伸長する指骨格12を覆う複数の袋体52〜55の内部に粉体51を充填し、指骨格12を屈曲させて物品の表面に当接させた後に袋体52〜55の内部を第2アクチュエータ72で真空引きして固化するので、柔軟な袋体52〜55の形状を物品の形状に沿うように馴染ませてから固化することで、特別に強い把持力を必要とせずに物品を確実に把持することができる。しかもセンサ等を用いて義指11の把持力や屈曲量を制御する必要がないため、極めて低価格で実現することができる。
【0061】
また指骨格12は複数のリンク13〜16を複数のヒンジ17〜19で直列に連結して構成されるので、義指11全体の形状を正しく維持しながら確実に屈曲・伸長させることができ、しかも袋体52〜55を複数に分割したので、内部の粉体51が偏って義指11の形状が崩れるのを防止することができる。
【0062】
またヒンジ17〜19はリターンスプリング36,38,40で伸長方向に付勢されており、第1アクチュエータ71はヒンジ17〜19よりも先端側のリンク13〜15をケーブル43,46,49で牽引してヒンジ17〜19よりも基端側のリンク14〜16に対して屈曲させるので、ケーブル43,46,49を牽引して物品を把持し、ケーブル43,46,49を緩めて把持を解除することができる。このとき、第1アクチュエータ71は複数のヒンジ17〜19の屈曲を基端側のヒンジ17〜19から先端側のヒンジ17〜19に向かって順番に完了させるので、義指11を物品にしっかりと巻き付けて確実に把持することができる。
【0063】
また隣接する袋体52〜55どうしをオリフィスとして機能する小径のチューブ58〜60を介して接続し、指骨格12の最も基端側の袋体55を第2アクチュエータ72に接続して真空引きするので、簡単な構造で義指11の基端側の袋体55から先端側の袋体52に向かって順番に固化させることで、物体を一層確実に把持することができる。
【0064】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0065】
例えば、実施の形態では人指し指の義指11について説明したが、本発明は人指し指以外の指にも適用することが可能であり、5本の指のうちの1本ないし4本の指だけに本発明を適用することができる。尚、親指は中節および中節骨を備えていないため、中節袋体53および中節リンク14を廃止して構造を簡素化することができる。もちろん、全ての指について袋体およびリンクの数を減少させて構造を簡素化しても良い。
【0066】
また実施の形態では第1アクチュエータ71および第2アクチュエータ72を一体形成しているが、それらを別体に形成することができる。
【符号の説明】
【0067】
12 指骨格
13 末節リンク(リンク)
14 中節リンク(リンク)
15 基節リンク(リンク)
16 中手リンク(リンク)
17 第1ヒンジピン(ヒンジ)
18 第2ヒンジピン(ヒンジ)
19 第3ヒンジピン(ヒンジ)
36 第1リターンスプリング(リターンスプリング)
38 第2リターンスプリング(リターンスプリング)
40 第3リターンスプリング(リターンスプリング)
43 第1ケーブル(ケーブル)
46 第2ケーブル(ケーブル)
49 第3ケーブル(ケーブル)
51 粉体
52 末節袋体(袋体)
53 中節袋体(袋体)
54 基節袋体(袋体)
55 中手袋体(袋体)
58 第1チューブ(オリフィス)
59 第2チューブ(オリフィス)
60 第3チューブ(オリフィス)
71 第1アクチュエータ
72 第2アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指骨格(12)と、
前記指骨格(12)を屈曲・伸長する第1アクチュエータ(71)と、
前記指骨格(12)を覆う複数の袋体(52,53,54,55)と、
前記袋体(52,53,54,55)に充填された粉体(51)と、
前記指骨格(12)の屈曲後に前記袋体(52,53,54,55)の内部を真空引きして固化させる第2アクチュエータ(72)と、
を備えることを特徴とする義指装置。
【請求項2】
前記指骨格(12)は、複数のリンク(13,14,15,16)を複数のヒンジ(17,18,19)で直列に連結して構成されることを特徴とする、請求項1に記載の義指装置。
【請求項3】
前記ヒンジ(17,18,19)はリターンスプリング(36,38,40)で伸長方向に付勢され、前記第1アクチュエータ(71)は、前記ヒンジ(17,18,19)よりも先端側のリンク(13,14,15)をケーブル(43,46,49)で牽引して前記ヒンジ(17,18,19)よりも基端側のリンク(14,15,16)に対して屈曲させることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の義指装置。
【請求項4】
前記第1アクチュエータ(71)は、前記複数のヒンジ(17,18,19)の屈曲を基端側のヒンジ(19)から先端側のヒンジ(17)に向かって順番に完了させることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の義指装置。
【請求項5】
前記複数のリンク(13,14,15,16)の各々に対応して前記袋体(52,53,54,55)を備えることを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の義指装置。
【請求項6】
前記第2アクチュエータ(72)は、複数の袋体(52,53,54,55)を前記指骨格(12)の基端側の袋体(55)から先端側の袋体(52)に向かって順番に固化させることを特徴とする、請求項5に記載の義指装置。
【請求項7】
隣接する前記袋体(52,53,54,55)どうしがオリフィス(58,59,60)を介して接続され、前記指骨格(12)の最も基端側の袋体(55)が前記第2アクチュエータ(72)に接続されて真空引きされることを特徴とする、請求項6に記載の義指装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−50529(P2011−50529A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201281(P2009−201281)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】