説明

翻訳エンハンサー

【課題】遺伝子発現の制御における翻訳エンハンサーを提供する。
【解決手段】翻訳エンハンサー活性を有する塩基配列からなる下記(a)から(g)のいずれか1つのDNA:(a)特定な配列の塩基配列からなるDNA、(b)前記(a)と異なる特定な配列の塩基配列からなるDNA、(c)前記(a)及び(b)と異なる特定な配列の塩基配列からなるDNA、(d)前記(a)及び(b)、(c)と異なる特定な配列の塩基配列からなるDNA、(e)前記(a)の塩基配列の連続する一部であって、前記(d)の塩基配列を含む200塩基長から400塩基長の塩基配列からなるDNA、(f)上記(a)から(e)のいずれか1つのDNAにおいて1個又は数個の塩基が欠失、置換又は付加されたDNA、(g)上記(a)から(e)のいずれか1つのDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、翻訳エンハンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子の発現の制御は、転写、転写後、翻訳、翻訳後の4つの段階において行われている。近年、翻訳の段階での制御(翻訳制御)についての研究が進み、構造遺伝子の翻訳効率を高める翻訳エンハンサーとして、5’非翻訳領域に由来する塩基配列が植物から単離されている(例えば、特許文献1及び2参照)。そして、遺伝子組換え技術を用いて細菌、培養細胞、及び植物などに有用物質を生産させる技術が注目を浴び、有用物質の発現効率を向上させる技術の開発が待たれるなか、翻訳エンハンサー活性を有する塩基配列からなるDNAを搭載したベクターが植物形質転換用ベクターとして上市されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−256777号公報
【特許文献2】特開2003−79372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、翻訳エンハンサーの単離例はまだわずかである。翻訳エンハンサーは、生物種、細胞種、及び遺伝子の種類によって翻訳効率が異なることが予想されるため、翻訳エンハンサーに対する需要に充分に応じきれていないのが現状である。したがって、翻訳エンハンサーとして使用可能な候補塩基配列、及び当該塩基配列からなるDNAを数多く開発することは重要である。
よって、本発明は、新規の翻訳エンハンサーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
[1]翻訳エンハンサー活性を有する塩基配列からなる下記(a)から(g)のいずれか1つのDNAである:(a)配列番号1の塩基配列からなるDNA、(b)配列番号2の塩基配列からなるDNA、(c)配列番号3の塩基配列からなるDNA、(d)配列番号4の塩基配列からなるDNA、(e)配列番号1の塩基配列の連続する一部であって、配列番号4の塩基配列を含む200塩基長から400塩基長の塩基配列からなるDNA、(f)上記(a)から(e)のいずれか1つのDNAにおいて1個又は数個の塩基が欠失、置換又は付加されたDNA、(g)上記(a)から(e)のいずれか1つのDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
[2][1]に記載のDNAを含む組換えベクターである。
[3][1]に記載のDNAがプロモーターと構造遺伝子との間に挿入されている[2]に記載の組換えベクターである。
[4][2]又は[3]に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体である。
[5]前記形質転換体は、植物細胞、植物組織、植物器官、植物体及び種子から選択されるいずれか1つである[4]に記載の形質転換体である。
[6][1]に記載のDNAに対応するRNAとタンパク質をコードするRNAとを含む翻訳用RNAを用いて、前記タンパク質を合成するタンパク質合成方法である。
[7][1]に記載のDNAと構造遺伝子とを含む組換えベクターを用いて形質転換体を得ること、前記形質転換体を培養すること、を含む[6]に記載のタンパク質合成方法である。
[8]前記翻訳用RNAとインビトロ無細胞系タンパク質合成用反応液とを接触させること、を含む[6]に記載のタンパク質合成方法である。
[9]更に、[1]に記載のDNAと構造遺伝子とを含む鋳型DNAから前記翻訳用RNAを合成すること、を含む[8]に記載のタンパク質合成方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、新規の翻訳エンハンサーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施例3で用いた形質転換用プラスミドの構築図である。
【図2】本発明の実施例3で用いた形質転換用プラスミドの構築図である。
【図3】本発明の実施例3で用いた形質転換用プラスミドの構築図である。
【図4】本発明の実施例3で用いた形質転換用プラスミドの構築図である。
【図5】本発明の実施例3で用いた形質転換用プラスミドの構築図である。
【図6】本発明の実施例3で得られた形質転換体の翻訳効率を示す図である。
【図7】本発明の実施例4で用いた形質転換用プラスミドの構築図である。
【図8】本発明の実施例4で用いた形質転換用プラスミドの構築図である。
【図9】本発明の実施例4で用いた形質転換用プラスミドの構築図である。
【図10】本発明の実施例4で得られた形質転換体の翻訳効率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
≪DNA≫
本発明のDNAは、翻訳エンハンサー活性を有する塩基配列からなる下記(a)から(g)のいずれか1つのDNAである:(a)配列番号1の塩基配列からなるDNA、(b)配列番号2の塩基配列からなるDNA、(c)配列番号3の塩基配列からなるDNA、(d)配列番号4の塩基配列からなるDNA、(e)配列番号1の塩基配列の連続する一部であって、配列番号4の塩基配列を含む200塩基長から400塩基長の塩基配列からなるDNA、(f)上記(a)から(e)のいずれか1つのDNAにおいて1個又は数個の塩基が欠失、置換又は付加されたDNA、(g)上記(a)から(e)のいずれか1つのDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
本発明において、塩基配列が有する「翻訳エンハンサー活性」とは、当該塩基配列からなるポリヌクレオチドが構造遺伝子の発現系に存在した場合、この構造遺伝子の転写産物からタンパク質が翻訳される際に、翻訳により形成されるタンパク質の量を増大させる活性をいう。翻訳エンハンサー活性を有する塩基配列は、構造遺伝子の発現系において、転写産物の塩基配列の中に存在し、タンパク質には翻訳されない塩基配列であり、例えば翻訳開始コドンより上流に存在する。
【0009】
本発明における配列番号1〜4の塩基配列(表1参照)からなるDNAは、いずれもイネ(Oryza sativa)の第6染色体に座乗するOsMac1遺伝子(accession no. AK111844)の5’非翻訳領域(5’UTR)から見出された。表1中の下線部は、配列番号4の塩基配列を示す。
【0010】
【表1】



【0011】
配列番号1の塩基配列は最も長く、配列番号2〜4の塩基配列をその一部として有している。配列番号2は、配列番号1の100番目の塩基以降に相当する配列であり、配列番号3は、配列番号1の200番目の塩基以降に相当する配列である。配列番号4は、配列番号1〜3のいずれにも共通して含まれる54塩基長の配列である。
【0012】
本発明のDNAは、前記(a)から(e)のいずれでもよい。
前記(e)のDNAの塩基配列中、配列番号4の塩基配列の位置は、特に制限されないが、転写産物が適切な立体構造を形成できる観点、及び翻訳エンハンサー活性の強さの観点からは、全長の真ん中よりも5’末端側にあることが好ましく、5’末端側の領域であって全長の3分の1の領域内にあることがより好ましい。また、前記(e)のDNAは200塩基長から400塩基長の塩基配列からなり、取扱い性の点では、塩基長は短いことが好ましく、200〜350塩基長が好ましく、200〜300塩基長がより好ましい。転写産物が適切な立体構造を形成できる観点、及び翻訳エンハンサー活性の強さの観点からは、250塩基長から400塩基長が好ましく、300塩基長から400塩基長がより好ましく、350塩基長から400塩基長が更に好ましい。前記(e)のDNAとしては、取扱い性の観点、転写産物が適切な立体構造を形成できる観点、及び翻訳エンハンサー活性の強さの観点から、配列番号3の塩基配列の連続する一部であって、配列番号4の塩基配列を含む200塩基長から300塩基長の塩基配列からなるDNAが好ましい。
【0013】
また本発明のDNAは、前記(f)又は(g)として記載された等価物であってもよい。
本発明で「1個又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された」というときの欠失等される塩基の個数は、その塩基配列が翻訳エンハンサー活性を有する範囲であればよく、例えば、1〜9個程度であり、翻訳エンハンサー活性の観点からは少ない方がよく、好ましくは1〜6個程度、より好ましくは1〜4個程度である。
【0014】
本発明における「ストリンジェントな条件下」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高いDNA同士、すなわち60%以上、好ましくは80%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム濃度が150〜900mM、好ましくは600〜900mMであり、温度が60〜65℃、好ましくは65℃での条件をいう。
本発明において「相同性」を具体的な数値として示す場合、例えば、汎用されている相同性検索アルゴリズムであるBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(NCBI、又はAltschul, S. F. et al. J. Mol. Biol., 215:403-410(1990))を用いた配列比較で決定することができる。
【0015】
本発明のDNAが、前記(f)又は(g)として記載された等価物である場合には、配列番号4に相当する領域の塩基配列、その5’末端側の領域の塩基配列、及びその3’末端側の領域の塩基配列とで、配列番号1の塩基配列中の対応する領域との相同性に差があってもよい。転写産物が適切な立体構造を形成できる観点、及び翻訳エンハンサー活性の強さの観点からは、配列番号4に相当する領域の塩基配列の相同性が、その5’末端側の領域の塩基配列の相同性、及びその3’末端側の領域の塩基配列の相同性に比し、高いことが好ましく、その3’末端側の領域の塩基配列の相同性が、その5’末端側の領域の塩基配列の相同性に比し、高いことが好ましい。
【0016】
本発明のDNAが、前記(f)又は(g)として記載された等価物である場合には、DNAの長さは、例えば50〜600塩基長程度であり、取扱い性の観点からは短いことが好ましく、例えば50〜400塩基長が好ましく、例えば50〜300塩基長がより好ましい。転写産物が適切な立体構造を形成できる観点、及び翻訳エンハンサー活性の強さの観点からは、DNAの長さは、100塩基長から400塩基長が好ましく、150塩基長から400塩基長がより好ましく、200塩基長から400塩基長がより好ましく、250塩基長から400塩基長がより好ましく、300塩基長から400塩基長がより好ましく、350塩基長から400塩基長が更に好ましい。
【0017】
本発明のDNAは、通常のDNA合成の方法に従ってDNA鎖を化学合成することで得ることができる。また、本発明のDNAは、本発明のDNAを有する生物のcDNAライブラリーから単離することで得ることができる。前記生物としては、特に制限されないが、例えば、イネ科植物が挙げられ、その中でもイネが挙げられる。
【0018】
塩基配列が翻訳エンハンサー活性を有するか否かを確認する方法は、特に制限されず、当該塩基配列が構造遺伝子の発現系に共存する場合と共存しない場合とについて、当該構造遺伝子にコードされるタンパク質の合成量を比較できる方法であればよい。例えば、任意のプロモーターとレポーター遺伝子との間に当該塩基配列からなるDNAを挿入したトランジェントアッセイにより確認することができる。プロモーター及びレポーター遺伝子の具体例としては、後述する組換えベクターの構築に用いられるものと同様のものが挙げられる。
【0019】
≪組換えベクター≫
本発明の組換えベクターは、本発明のDNAを含むものである。本発明の組換えベクターは、任意のベクターに本発明のDNAを連結(挿入)することにより得ることができる。
【0020】
本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19等)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えば、YEp13、YEp24、YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージDNA(例えば、Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルス等の動物ウイルス由来のベクター、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルス由来のベクターを用いることもできる。植物形質転換用ベクターとしては、例えば、pCAMBIA1301等のpCAMBIAベクター(オーストラリアCAMBIA)、pGWB2等のpGWBベクター(島根大学総合科学研究支援センター中川研究室)、MATベクター(日本製紙)、pBI121等が挙げられる。
【0021】
ベクターに本発明のDNAを挿入するには、まず、精製された前記DNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。本発明において前記DNAは、その塩基配列が有する翻訳エンハンサー活性が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、本発明の組換えベクターは、前記DNAが、任意のプロモーターと発現の目的となる構造遺伝子の翻訳開始コドンとの間に挿入されていることが好ましい。
【0022】
ここで、プロモーター及び発現の目的となる構造遺伝子はそれぞれ、本発明では特に限定されず、構造遺伝子としては、例えば、各種生物に由来する遺伝子、あるいは一部又は全部を化学合成した遺伝子など、任意の構造遺伝子が挙げられる。なお、構造遺伝子は、通常のクローニング手法(例えば、J. Sambrook, et al., Molecular cloning, Cold spring Harbor Laboratory Press, 1989)を用いて調製することができる。
【0023】
発現の目的となる構造遺伝子の例としては、遺伝子機能などの解析を目的として用いられるレポーター遺伝子が挙げられる。ベクターに、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、GFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子等のレポーター遺伝子と共に本発明のDNAを搭載することで、遺伝子機能などの解析用の組換えベクターを構築することができる。当該組換えベクターは、従来の解析用組換えベクターに比し、レポーター遺伝子の発現量が増強される。
【0024】
プロモーターとしては、本発明の組換えベクターを植物に適用する場合には、恒常的な発現をするものとして、例えばカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、NOSプロモーター、ユビキチンプロモーター等が挙げられる。また、緑葉特異的な発現をするものとして、例えばRuBisCOのSmall Subunit遺伝子のプロモーター、LHCP(集光タンパク質)等の光合成関連遺伝子のプロモーター等が挙げられ、貯蔵器官特異的な発現をするものとして、例えば貯蔵デンプンや貯蔵タンパク質の生合成に関わる遺伝子のプロモーター等が挙げられる。
本発明の組換えベクターを大腸菌に適用する場合には、例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の、大腸菌やファージに由来するプロモーター、又はtacプロモーター等のように、人為的に設計改変されたプロモーターを用いることができる。本発明の組換えベクターを酵母に適用する場合には、例えば、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等を用いることができる。
【0025】
また、本発明の組換えベクターは、必要に応じて、転写のエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)、NOSなどのターミネーター、等を連結することができる。選択マーカーとしては、例えば、抗生物質耐性遺伝子(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、ハイグロマイシンの各耐性遺伝子)、除草剤耐性遺伝子(例えば、ビアラホス耐性遺伝子)、突然変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子などが挙げられる。
【0026】
本発明の組換えベクターは、植物の形質転換に用いられる場合、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、本発明のDNA、発現の目的となる構造遺伝子、及びNOSターミネーターを適切な配向で搭載しているものが好ましい。
【0027】
≪形質転換体≫
本発明の形質転換体は、本発明の組換えベクターで形質転換されたものである。本発明の形質転換体は、本発明の組換えベクターを、目的の構造遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。
【0028】
宿主としては、本発明の組換えベクターに搭載された構造遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌が挙げられる。またサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母も挙げられる。また、COS細胞、CHO細胞等の動物細胞や、Sf9等の昆虫細胞、タバコのBY2細胞、イネのOC細胞などの植物の株化細胞も挙げられる。更に、宿主として、ラン藻類、クラミドモナス、ユーグレナ等の藻類、キノコ類も挙げられる。
【0029】
宿主が植物である場合、宿主とは、植物体全体、果実、種子、植物器官(例えば、葉、花弁、茎、根、根茎、等)、植物組織(例えば、表皮、師部、柔組織、木部、維管束、等)、培養細胞を含む植物細胞のいずれをも意味するものである。本発明の組換えベクターは、植物を宿主として好適に用いられる。
【0030】
宿主として用いられる植物としては、特に制限されず、例えば、被子植物及び裸子植物のいずれでもよく、被子植物の場合、単子葉植物及び双子葉植物のいずれでもよい。
裸子植物としては、具体的には、ソテツ科のソテツ等、イチョウ科のイチョウ、マツ科のアカマツ、クロマツ、モミ、トウヒ等、スギ科のスギ等、イチイ科のイチイ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
単子葉植物としては、具体的には、イネ科のイネ、コムギ、オオムギ、カラスムギ、ライムギ、キビ、アワ、ヒエ、トウモロコシ、シコクビエ、モロコシ、タケ、ヨシ、ススキ、アマランサス、ミスカンサス、スイッチグラス、ソルガム等、サトイモ科のサトイモ等、ヤシ科のヤシ、ナツメヤシ等、バショウ科のバナナ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
双子葉植物としては、具体的には、アブラナ科のシロイヌナズナ、ナタネ等、ナス科のタバコ、トマト、ジャガイモ等、ウリ科のメロン、カボチャ等、マメ科のダイズ等、アオイ科のワタ等、キク科のキク等、ツバキ科のチャ等、ブドウ科のブドウ等、トウダイグサ科のナンヨウアブラギリ、タイワンアブラギリ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。宿主としては、単子葉植物がより好適であり、イネ科の植物がさらに好適である。
【0031】
宿主への組換えベクターの導入方法は、特に限定されるものではない。細菌を宿主として用いる場合の組換えベクターの導入方法としては、例えば、カルシウムイオンを用いる方法(Cohen, S.N.et al.:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69:2110(1972))、エレクトロポレーション法等が挙げられる。酵母を宿主として用いる場合の組換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法(Becker, D.M. et al. Methods. Enzymol., 194:182(1990))、スフェロプラスト法(Hinnen, A. et al. Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 75:1929(1978))、酢酸リチウム法(Itoh, H. J.Bacteriol., 153:163(1983))等が挙げられる。
【0032】
植物細胞を宿主として用いる場合の組換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウムのバイナリーベクター法、パーティクルガン法等が挙げられる。植物体、植物器官又は植物組織を宿主とする場合は、採取した植物切片にアグロバクテリウムのバイナリーベクター法又はパーティクルボンバードメント法で、あるいはプロトプラストにエレクトロポレーション法で、組換えベクターを導入することができる。
【0033】
植物細胞、植物体、植物器官又はカルスを宿主として用いる場合、組換えベクターを導入し、形質転換の結果得られたカルスやシュート、毛状根などを分離することにより、形質転換を実施する。得られたカルスやシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモンの投与などにより植物体に再生させることができる。例えば、イネではHieiらの方法(Hiei, Y. et al., Plant J., 6, 271-282 (1994))、Fujimuraらの方法(Fujimura, T. et al., Plant Tissue Culture Letter, 2, 74-75 (1985))、及びShimamotoらの方法(Shimamoto, K. et al., Nature 338:274-276(1989))、トウモロコシではShillitoらの方法(Shillito, R. D. et al. Bio/Technology, 7:581(1989))、ジャガイモではVisserらの方法(Visser, et al. Theor. Appl. Genet., 78:589(1989))、シロイヌナズナではAkamaらの方法(Akama, K. et al. Plant Cell Rep., 12:7(1992))等が挙げられる。これらの方法により作出された形質転換体またはその繁殖媒体(例えば、種子、塊茎、切穂、等)から得た形質転換体は本発明の対象である。
【0034】
目的DNAが宿主に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、通常用いられる条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する方法も採用することができる。
【0035】
≪タンパク質合成方法≫
本発明のタンパク質合成方法は、本発明のDNAに対応するRNAと目的とするタンパク質をコードするRNAとを含む翻訳用RNAを用いて、当該タンパク質を合成するタンパク質合成方法である。
本発明のタンパク質合成方法によれば、前記翻訳用RNAから目的とするタンパク質への翻訳が促進されるので、本発明のDNAに対応するRNAを目的とするタンパク質をコードするRNAと共存させない場合に比し、目的とするタンパク質の合成量を増加させることができる。
【0036】
本発明において、「本発明のDNAに対応するRNA」とは、本発明のDNAの塩基配列においてT(チミン)をU(ウラシル)に置き換えた塩基配列からなるRNAをいう。本発明のDNAに対応するRNAの具体例としては、例えば、本発明のDNAに基づくmRNAが挙げられる。
【0037】
目的とするタンパク質は、特に限定されず、例えば、各種生物に由来する構造遺伝子にコードされるタンパク質、あるいは一部又は全部を化学合成した遺伝子にコードされるタンパク質など、任意のタンパク質が挙げられる。具体例は、後述する通りである。
【0038】
本発明のタンパク質合成方法は、前記翻訳用RNAからタンパク質の翻訳反応が行われる系を用いるものであれば特に制限されず、従来公知のタンパク質の合成方法を採用することができる。具体的には例えば、形質転換体におけるタンパク質合成方法、及びインビトロ無細胞系におけるタンパク質合成方法が挙げられる。
【0039】
<形質転換体におけるタンパク質合成方法>
本発明のタンパク質合成方法は、本発明のDNAと発現の目的となる構造遺伝子とを含む組換えベクターを用いて形質転換体を得ること、前記形質転換体を培養すること、を含むタンパク質合成方法とすることができる。
【0040】
前記形質転換体を得ることは、特に制限されず、前記組換えベクターを、発現の目的となる構造遺伝子が発現し得るように宿主に導入することからなる。前記形質転換体は、具体的には例えば、既述の本発明の形質転換体を得る方法と同様の方法により得ることができ、宿主、組換えベクターの導入方法などの好ましい態様も同様である。
【0041】
前記組換えベクターは、本発明のDNAと発現の目的となる構造遺伝子とを連結することで得ることができる。この連結は、本発明のDNAの塩基配列が有する翻訳エンハンサー活性が発揮されるように連結されればよく、例えば、構造遺伝子の5’上流側に本発明のDNAが位置するように連結する。
上記の連結は、具体的には例えば、適当なベクターを選択し、そこに本発明のDNA及び発現の目的となる構造遺伝子を、適切な配向で挿入して組換えベクターを作製することにより容易に行うことができる。この組換えベクターは、本発明のDNAの5’上流側に転写を促進させるためのプロモーター配列を有することが好ましく、構造遺伝子の3’下流側に転写を終結させるためのターミネーターを有することが好ましい。上記の連結に用いることができるベクター、プロモーター及びターミネーター、並びにベタクーへのDNAの挿入の仕方は、既述の本発明の組換えベクターと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0042】
前記形質転換体を培養することは、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。本発明において「培養」とは、前記形質転換体を育てることをいい、前記形質転換体が少なくとも維持されればよく、前記形質転換体が植物体全体、種子、植物器官、植物組織の場合、栽培をも含む概念である。前記形質転換体を培養すれば、その培養物(前記形質転換体が植物体全体、種子、植物器官、植物組織の場合、「栽培物」ともいう。)から、発現の目的となる構造遺伝子の発現産物であるタンパク質を得ることができる。本発明において「培養物」又は「栽培物」とは、培養上清、培養細胞、培養菌体、植物体全体、種子、植物器官、植物組織、及びこれらの破砕物のいずれをも意味するものである。
【0043】
更に、前記タンパク質が酵素の場合には、当該酵素によって触媒される反応の産物、又は当該反応に続く一連の生合成反応経路上の中間体及び/又は最終生産物についても、前記形質転換体の培養物又は栽培物から得ることができる。これらの産物を、以下単に「代謝産物」という。
【0044】
前記形質転換体が例えば大腸菌や動物培養細胞の場合、発現の目的となる構造遺伝子としては、具体的には、バイオ医薬品として用いられるインスリン、成長ホルモン、造血因子、抗体の各遺伝子、等が挙げられる。
前記形質転換体が植物の場合、発現の目的となる構造遺伝子としては、除草剤耐性遺伝子、ビタミン合成に関わる遺伝子、ポリフェノール(カテキン等)の合成に関わる遺伝子、花の色素の遺伝子、抗菌ペプチドの合成に関わる遺伝子、抗原ペプチド(アレルゲン、毒素)の低減に関わる遺伝子、等が挙げられる。
前記形質転換体が例えばイネ科植物(イネ、コムギ、オオムギ、カラスムギ、ライムギ、キビ、アワ、ヒエ、トウモロコシ、シコクビエ、モロコシ等)や果実をつける植物などの食用植物の場合、前記形質転換体を栽培することで、種子(穀物)や果実、その他の可食部における、発現の目的となる構造遺伝子でコードされるタンパク質の含有量を増加させることができる。前記タンパク質が酵素の場合には、その酵素に関する代謝産物についても、種子(穀物)や果実、その他の可食部における含有量を増加させることができる。
【0045】
前記形質転換体を培養する方法は、特に制限されず、宿主の培養に用いられる通常の方法を採用することができる。
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた前記形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、前記形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
前記微生物の培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、37℃で行う。なお、培地のpHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0046】
前記形質転換体が植物細胞又は植物組織である場合は、培養は、通常の植物培養用培地、例えば、MS基本培地(Murashige, T. & Skoog, F. Physiol. Plant. 15:473(1962))、LS基本培地(Linsmaier, E. M. & Skoog,F. Physiol. Plant. 18:100(1965))、プロトプラスト培養培地(LS培地を改変したもの)等を用いることにより行うことができる。培養方法は、通常の固体培養法でもよいが、液体培養法を採用することが好ましい。より具体的には、例えば、上記培地に細胞、組織又は器官を10〜100g新鮮重/l接種し、必要によりNAA、2,4−D、BA、カイネチン等を適宜添加して培養する。培養開始時の培地のpHは5〜7に調節し、培養は通常20〜30℃、好ましくは25℃前後で、また、0.2〜1vvm通気、50〜200rpm攪拌で1〜6週間培養することができる。
前記形質転換体が植物体である場合は、圃場やガラスハウスなどで栽培又は水耕培養することができる。
【0047】
前記形質転換体の培養の終了後、培養物又は栽培物から目的とするタンパク質及び/又は代謝産物を採取するには、各物質の通常の精製手段を適用することができる。なお、培養物又は栽培物から目的とするタンパク質及び/又は代謝産物を採取することは、培地、圃場などから培養物又は栽培物自体を採取することであってもよい。
【0048】
大腸菌や酵母菌等の微生物又は培養細胞を宿主として得られた前記形質転換体の場合、タンパク質が微生物内又は培養細胞内に生産される場合には、微生物又は培養細胞を破砕することにより、タンパク質を抽出することができる。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、培養物中からタンパク質を単離精製することができる。
【0049】
前記形質転換体が植物細胞又は植物組織の場合、培養の終了後、例えば、以下のようにして目的のタンパク質及び/又は代謝産物を単離精製することができる。
まず、セルラーゼ、ペクチナーゼ等の酵素を用いた細胞溶解処理、超音波破砕処理、液体窒素で凍結させた後、液体窒素中で乳鉢等を用いて磨り潰す処理、等により細胞を破壊する。その後、適宜、抽出用溶液を加えて目的のタンパク質及び/又は代謝産物を含む溶液を抽出し、次いで、濾過又は遠心分離等を用いて不溶物を除去し、粗タンパク質溶液又は代謝産物を含む溶液を得る。上記粗タンパク質溶液からタンパク質をさらに精製するには、通常のタンパク質精製法を使用することができる。例えば、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法等を、単独又は適宜組み合わせることにより行う。また、代謝産物を含む溶液から代謝産物をさらに精製するには、従来から知られている精製手法を使用することができる。例えば、溶媒抽出、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を、単独又は適宜組み合わせることにより行う。
【0050】
植物器官又は植物体からタンパク質及び/又は代謝産物を採取するには、超音波破砕処理、磨砕処理等を行って上記粗タンパク質溶液又は代謝産物を含む溶液の抽出液を調製し、その後は上記の精製手法と同様にして行うことができる。
【0051】
<インビトロ無細胞系におけるタンパク質合成方法>
本発明のタンパク質合成方法は、前記翻訳用RNAとインビトロ無細胞系タンパク質合成用反応液とを接触させること、を含むタンパク質合成方法(以下、「インビトロ無細胞系タンパク質合成方法」ともいう。)とすることができる。
前記インビトロ無細胞系タンパク質合成方法は、インビトロで、前記翻訳用RNAとインビトロ無細胞系タンパク質合成用反応液(以下、単に「反応液」ともいう。)とを接触させることで、前記翻訳用RNAからタンパク質の翻訳反応を行い、目的とするタンパク質を合成することができる。
【0052】
前記インビトロ無細胞系タンパク質合成方法は、特に制限されず、例えば、特開2009−165426号公報、特開2007−143435号公報、特開2004−344014号公報、特開2003−245094号公報、等に記載の方法を適用することができる。具体的には、例えば、下記の構成とすることができる。
【0053】
前記反応液としては、例えば、Wheat Germ Extract Plus(プロメガ社製)やPROTEIOS(東洋紡績社製)、RTSシステム(ロシュ)等の試薬キットを利用することができる。
前記翻訳用RNAと前記反応液とを接触させる方法としては、任意の方法で行えばよく、例えば、前記反応液に前記翻訳用RNAを添加してもよく、前記翻訳用RNAを含む溶液に前記反応液を投入してもよい。また、前記反応液に前記翻訳用RNAを連続的に添加してもよく、定期的に添加してもよい。
前記翻訳反応の終了後は、目的とするタンパク質を、常法により精製すればよい。具体的には、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、タンパク質を単離精製することができる。
【0054】
前記翻訳用RNAを得る方法は特に制限されないが、本発明のDNAと発現の目的となる構造遺伝子とを含む鋳型DNAを用いて、インビトロで転写反応を行うことで転写産物として合成することができる。この転写反応は、例えば、T7 RNAポリメラーゼやSP6 RNAポリメラーゼを利用する市販の試薬キット(ロシュ、ニッポンジーン等)等を利用して容易に行うことができる。転写反応により合成された前記翻訳用RNAは、常法により精製して前記の翻訳反応に用いてもよく、また、転写反応の処理に用いた溶液ごと前記の翻訳反応に用いてもよい。
【0055】
前記鋳型DNAは、本発明のDNAと発現の目的となる構造遺伝子とを連結することで得ることができる。この連結は、本発明のDNAの塩基配列が有する翻訳エンハンサー活性が発揮されるように連結されればよく、例えば、構造遺伝子の5’上流側に本発明のDNAが位置するように連結する。
上記の連結は、具体的には例えば、適当なベクターを選択し、そこに本発明のDNA及び発現の目的となる構造遺伝子を、適切な配向で挿入して組換えベクターを作製することにより容易に行うことができる。この組換えベクターは、本発明のDNAの5’上流側に転写を促進させるためのプロモーター配列を有することが好ましく、構造遺伝子の3’下流側に転写を終結させるためのターミネーターを有することが好ましい。上記の連結に用いることができるベクター、プロモーター及びターミネーター、並びにベタクーへのDNAの挿入の仕方は、既述の本発明の組換えベクターと同様であり、好ましい態様も同様である。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。実施例に用いたプライマーの塩基配列を以下の表2及び表3に示す。
【0057】
【表2】



【0058】
【表3】



【0059】
(実施例1)
<イネOsMac1遺伝子の構造解析>
イネ(Oryza sativa)の第6染色体に座乗するデンプン枝つけ酵素の遺伝子(Sbe1)(accession no. D10838)の近傍の塩基配列を調べる過程で、Sbe1遺伝子の上流近傍に別個の遺伝子が存在し、当該遺伝子の転写が行われていることがわかった。この転写産物に対応する遺伝子を検索したところ、イネMap kinase activating proteinと相同性を有する機能未知のタンパク質をコードする遺伝子であることがわかった。
【0060】
そこで、上記の遺伝子を、OsMac1遺伝子と名付け、その構造を詳細に解析した。OsMac1遺伝子は、イネの第6染色体に由来するBACクローン(AP004685)にクローニングされており、翻訳領域には9個のイントロンが含まれ、10個のエクソンに分断されていることがわかった。
OsMac1遺伝子の転写産物にあたる約2.4キロ塩基対のcDNAはデータベースに既に登録されていた(accession no. AK111844)。このcDNAには、479個のアミノ酸残基からなるタンパク質をコードする主たるORF(open reading frame)の上流に、約580塩基長の非常に長い5’非翻訳領域(5’UTR)が存在し、さらに、この5’UTR内には3個のuORF(upstream ORF)が存在することがわかった。これらuORFは、主たるORFの翻訳に影響を与えていることが推測された。
【0061】
OsMac1遺伝子と相同性を示す遺伝子をBLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi) を用いて検索したところ、イネゲノムには、OsMac1遺伝子と相同性を示す2つの遺伝子が存在することがわかった。これらを、OsMac2遺伝子(Accession no. AK073148)及びOsMac3遺伝子(Accession no. AK069607)と名付けた。これらの遺伝子から予測される転写産物にも、OsMac1遺伝子と同様に長い5’UTRがあり、この中に複数のuORFが存在することがわかった。
【0062】
(実施例2)
<イネOsMac1遺伝子のcDNAの単離とその構造解析>
開花後5日目のイネの未熟種子から以下の方法で全RNAの抽出を行った。
3粒の未熟種子を液体窒素で凍結した後、液体窒素を加えて冷却しながら冷却した乳鉢と乳棒を用いて破砕した。破砕した未熟種子サンプルは2ml用容のチューブに移し自動SKミル (トッケンInc.) を用いて粉砕した。粉砕物にSepasol RNA I Super (ナカライテスク) を1ml加え、転倒混和した後、室温で5分間静置することで細胞を破壊した。これに200μlのクロロホルムを加えて転倒混和した後、室温で10分間静置し、これを遠心分離 (15,000rpm、4℃、10分間) して500μlの上清を得た。これを新しいチューブに移し、等量のイソプロパノールを加えて転倒混和した後、室温で10分間静置してRNA画分を沈殿させた。沈殿物を遠心分離 (15,000rpm、4℃、10分間) して回収し、乾燥後、50μlのDEPC treated water(和光純薬)を加えて溶解した。これに50μlのDNase反応液を加えて最終濃度で40mM Tris−HCl(pH7.5)、8mM MgCl、5mM DTT、0.01Unit RNase Inhibitor(TOYOBO)、0.1Unit DNase(TaKaRa)とし、37℃で45分間反応させて混入するDNAを分解した。反応終了後、反応液と等量のフェノール−クロロホルム−イソアミルアルコール (25:24:1) 混合物 〔フェノールにTE緩衝液(10mM Tris−HCl(pH8.0)−1mM EDTA)を加えて飽和させたもの:クロロホルム:イソアミルアルコールを25:24:1の割合で混合したもの 〕を加えてよく攪拌した。これを遠心分離 (15,000rpm、室温、5分間) して、生じた上層から90μlを取り新しいチューブに入れた。これに9μlの3M酢酸ナトリウム水溶液 (pH4.8) と250μlのエタノールを加えて転倒混和し、さらに−20℃で30分間静置してRNA画分を沈殿させた。これを遠心分離 (15,000rpm、4℃、20分間) し上清を捨てた後、沈殿に70%エタノール水溶液を加えて遠心分離 (15,000rpm、4℃、5分間) して、沈殿を洗浄した。沈殿を乾燥させた後、50μlのDEPC treated waterを加えて沈殿を溶解した。これをRNA溶液とした。RNA溶液のRNA濃度を定量した後、1μg相当量のRNA溶液を取り、これにDEPC treated waterを加えて全量を24μlになるように調整した。このRNA溶液にOligo(dT)20プライマー(TOYOBO)と逆転写酵素(ReverTraAce(TOYOBO))及び反応バッファーを加えてcDNAの合成を行った。逆転写酵素の反応は、ReverTraAce(TOYOBO)に付属する説明書に従った。
【0063】
上記で得られたcDNAからOsMac1遺伝子に対応するcDNAの単離を行った。OsMac1遺伝子のcDNAの単離には、OsMac1遺伝子の塩基配列をもとに合成したPCRプライマー(配列番号7:Mac_c_1F、及び配列番号8:Mac_2422R)を用いた。PCRにはKOD plus DNA polymemrase(TOYOBO)を用いた。反応液の組成はKOD plus DNA polymemraseに付属する説明書に従った。PCRの反応条件は、94℃で2分間保持した後、94℃で30秒間、55℃で30秒間、68℃で3分間の繰返しを30サイクル行った後、68℃で10分間保持した。得られた増幅断片はアガロースゲル電気泳動で分離し、目的の増幅断片を抽出、精製した。断片の精製にはWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いた。精製した断片はpENTR/D-TOPO cloning kit(Invitrogen)を用いてpENTR/D-TOPO(Invitrogen)にクローニングした。
【0064】
上記で得られた挿入断片の塩基配列を調べたところ、増幅した断片はOsMac1遺伝子の転写産物に相当するcDNAであった。また、このcDNA断片には長さの異なる3種類のcDNAが存在していた。この長さの相違は、OsMac1遺伝子の転写産物の5’UTRにおいて、選択的スプライシングが生じていることに由来することがわかった。塩基配列が異なる3種類の5’UTRを、UTRa、UTRb、UTRcと命名した。UTRcの塩基配列は前記表1の配列番号1の通りであり、UTRbの塩基配列は下記表4の配列番号5の通りであり、UTRaの塩基配列は下記表4の配列番号6の通りである。
【0065】
【表4】



【0066】
UTRcは最も長く580塩基長あり、UTRa及びUTRbをその一部として有している。UTRa(526塩基長)の塩基配列は、UTRcにおいて配列番号4の塩基配列が無いものである。UTRb(542塩基長)の塩基配列は、UTRcにおいて配列番号4の塩基配列のうち5’末端側 の38塩基長に相当する塩基配列が無く、3’末端側 の16塩基長に相当する塩基配列を有している(表4の配列番号5の下線部分)。
【0067】
配列番号4の塩基配列に関し、公開されている遺伝子データベースを用いて相同性検索を行った。データベースはNCBI(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を用い、相同性検索にはBLASTプログラムを用いた。当該プログラムのデフォルトの条件で植物のゲノム配列を探索した結果、この塩基配列と相同性を示す塩基配列は見つからなかった。
【0068】
(実施例3)
<イネOsMac1遺伝子の5’UTRの塩基配列の差異がORFの翻訳に及ぼす影響の解析>
前記UTRa、UTRb及びUTRcの塩基配列の違いが、主たるORFの翻訳に対してどのような影響を与えているのかを調べた。そのために、上記の3種類の5’UTRの各下流にGUS(β-グルクロニダーゼ)遺伝子を連結したプラスミドを構築し、イネ培養細胞に導入し形質転換体を作製して翻訳効率の測定を行った。
【0069】
[形質転換用プラスミドの構築]
プラスミドは、GUS遺伝子が含まれるプラスミドpBI221(Jefferson, R. A., EMBO J., 6, 3901-3907(1987))から調製した。このプラスミドDNAに含まれるカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの5’末端領域とNosターミネーターの3’末端領域の配列を基に作製したPCRプライマー(配列番号9:35s-Fw、及び配列番号10:Nos-Rv)を用いてPCRを行い、35S promoter-GUS-Nos terminator領域のDNA断片を増幅した。得られた断片はpENTR/D-TOPO cloning kit(Invitrogen)を用いてpENTR/D-TOPO(Invitrogen)にクローニングし、EntryプラスミドであるpENTR-35S promoter-GUS-Nos terminatorを得た。
【0070】
次に、UTRa、UTRb及びUTRcのそれぞれをテンプレートとし、5’末端に制限酵素 Xba Iによる切断部位を付加したPCRプライマー(配列番号11:Xba I-UTR-Fw、及び配列番号12:Xba I-UTR-Rv)を用いて、OsMac1遺伝子の5’UTRとORF領域の末端部分(12塩基対)とを含むDNA断片を増幅した。
得られた各DNA断片をXba Iで切断した後、これをXba Iで切断したpENTR-35S promoter-GUS-Nos terminatorとLigation high (TOYOBO)を用いてライゲーションし、各DNA断片を挿入したEntryプラスミド、pENTR-35S promoter-UTRa-GUS-Nos terminator、pENTR-35S promoter-UTRb-GUS-Nos terminator、及びpENTR-35S promoter-UTRc-GUS-Nos terminatorを得た。ライゲーション用反応液の組成は、付属の説明書に従った。反応条件は、16℃、30分間で行った。
【0071】
また、pENTR-35S promoter-UTRc-GUS-Nos terminatorをテンプレートとし、PCRプライマーとして配列番号11のXba I-UTR-Fw、及び配列番号13のMac-I deletiom(267-289)-Rvを用いてPCR を行い、得られたDNA断片を精製した。
次に、このDNA断片を巨大なプライマーと見立て、pENTR-35S promoter-UTRc-GUS-Nos terminatorをテンプレートとし、PCRプライマーとして配列番号12のXba I-UTR-Rvを用いてPCRを行った。この結果、両末端にXba Iサイトが付加され、UTRcの一部(UTRcの5’末端から数えて267〜289番目)を欠損させたUTRc(Idel)とORF領域の末端部分(12塩基対)とを含むDNA断片が得られた。このDNA断片をXba Iで切断した。これをXba Iで切断した pENTR-35S promoter-GUS-Nos terminator とLigation high (TOYOBO)を用いてライゲーションし、Entryプラスミド、ENTR-35S promoter-UTRc(Idel)-GUS-Nos terminatorを作製した。ライゲーション用反応液の組成は、付属の説明書に従った。反応条件は、16℃、30分間で行った。
【0072】
続いて、上記で得られたEntryプラスミドをGatewayプラスミドであるpGWB1(Accession No. AB289764)と混合し、LR Clonas(Invitrogen)を用いて組換え反応(LR反応)を行い、形質転換用プラスミド、pGWB1-35S promoter-GUS-Nos terminator、pGWB1-35S promoter-UTRa-GUS-Nos terminator、pGWB1-35S promoter-UTRb-GUS-Nos terminator、pGWB1-35S promoter-UTRc-GUS-Nos terminator、及びpGWB1-35S promoter-UTRc(Idel)-GUS-Nos terminatorを得た。LR反応は付属の説明書に従って行った。
【0073】
上記の形質転換用プラスミドの構築図を図1〜5に示す。四角で囲んだ塩基配列はTATAボックスであり、記載されている塩基配列の3’末端に位置する「Met」はGUS遺伝子の翻訳開始点であり、それよりも上流に位置する「Met」はOsMac1遺伝子のORF領域の翻訳開始点であり、大文字で示した塩基配列は配列番号4の塩基配列の全部又は一部である。
【0074】
[イネ培養細胞の形質転換]
上記で得られた形質転換用プラスミドを用いて、アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens EHA105)を用いてイネの形質転換を行った。形質転換は以下のHieiらの方法(Hiei, Y. et al., Plant J., 6, 271-282 (1994))に従った。形質転換用プラスミドを導入したアグロバクテリウムの菌体を懸濁し、これに30μlのアセトシリンゴン溶液 (10mg/ml)を加え、この懸濁液を用いてイネの培養細胞に感染させた。感染後の培養細胞は28℃、暗所で3日間の共存培養を行った。共存培養後の培養細胞は滅菌水で洗浄後、N6D (+Cla)プレート培地(Hiei, Y. et al., Plant J., 6, 271-282 (1994))に置床し、28℃、明条件で3〜7日間培養した。N6D (+Cla) プレート培地で培養した培養細胞を、N6D (+Cla、Hm) プレート培地(同)に移植し、28℃、明条件で3〜4週間培養した。その後、MSR (+Hm) プレート培地(同)に移植した。この培養細胞を28℃、明条件で培養し、ハイグロマイシン耐性により培養細胞を選抜した。
【0075】
[翻訳効率の測定]
上記で得られた培養細胞を40mlのR2液体培地(Fujimura, T. et al., Plant Tissue Culture Letter, 2, 74-75 (1985))(250mg/l Claforan(Sanafi Aventis)と50mg/l ハイグロマイシン (和光純薬)を含む)に投入して28℃で2週間の振とう培養を行った。R2液体培地を用いて培養した細胞(100mg)を取り出し、100μlのGUS抽出緩衝液(50mM リン酸緩衝役(pH7.0)、10mM EDTA(pH8.0)、0.1% TritonX-100、0.1% Salcosyl、5mM DTT、20% メタノール)を加え、自動SKミル(トッケンInc.)を用いて破砕した。これに900μlのGUS抽出緩衝液を加えて転倒混和した。これを遠心分離(15,000rpm、4℃、5分間) して上清を集め、これを酵素粗抽出液とした。
【0076】
上記で得られた酵素粗抽出液を用いて、Jeffersonらの方法(Jefferson, R. A., EMBO J., 6, 3901-3907 (1987))に従って以下の方法でGUS活性を測定した。80μlの酵素粗抽出液に、170μlのGUS抽出緩衝液と250μlの1mM 4−メチル−ウンベリフェニル−D−グルクロニド (4−MUG)(和光純薬)を含むGUS抽出緩衝液を順次加えた後、37℃で30分間反応を行った。その後、反応液のうちの100μlを取り、4mlの0.2M NaCO溶液に加えてよく混合し(反応停止)、蛍光分光光度計を用いて、反応によって生じた365nmの励起光によって発する450nmの4−メチル−ウンベリフェロン(4−MU)による蛍光量を定量した。酵素粗抽出液に含まれるタンパク質はBradford の方法(Bradford, M. M., Anal. Biochem. 72, 248-254 (1976))で定量した。定量した4−MUの濃度とタンパク質の濃度からGUS比活性(pmol/min/mg protein)を算出した。
【0077】
次に転写産物あたりのGUS活性を調べるために、培養細胞での導入遺伝子(GUS遺伝子)の発現量をrealtime PCRにより定量した。mRNA量の定量は既述の方法で培養細胞から全RNAを抽出し、逆転写により調製したcDNAを用いた。GUS転写産物の定量にはGUS検出用プライマー(配列番号17:GUS(167-185)-Fw、及び配列番号18:GUS(296-316)-Rv)を用いた。また、realtime PCRを行う際の内部標準にはイネActin1転写産物を用いた。Actin1転写産物の検出には、Actin検出用プライマー(配列番号19:RAc1RT-for4、及び配列番号20:RAc1RT-rev3)を用いた。realtime PCRはABI7000システム(Applied Biosystems Inc.)を用い、転写産物の検出にはSybrGreen Realtime PCR master mix(TOYOBO)を使用した。GUS遺伝子の発現量は内部標準として定量したActin1転写産物量との相対値(GUS転写産物のコピー数/Actin1転写産物のコピー数)を算出し、これをGUS遺伝子の発現量とした。GUS遺伝子の発現量と前述のGUS比活性から翻訳効率(GUS比活性/GUS遺伝子の発現量)を算出した。
なお、上記の翻訳効率の測定は3回行った。結果を表5及び図6に示す。表5及び図6における35S-GUS、UTRa、UTRb、UTRc、Idelは、それぞれpGWB1-35S promoter-GUS-Nos terminator、pGWB1-35S promoter-UTRa-GUS-Nos terminator、pGWB1-35S promoter-UTRb-GUS-Nos terminator、pGWB1-35S promoter-UTRc-GUS-Nos terminator、pGWB1-35S promoter-UTRc(Idel)-GUS-Nos terminatorの各プラスミドで形質転換したイネ培養細胞を示す。
【0078】
【表5】



【0079】
表5及び図6に示す通り、pGWB1-35S promoter-UTRa-GUS-Nos terminator、又はpGWB1-35S promoter-UTRb-GUS-Nos terminatorを導入して形質転換したイネ培養細胞では、pGWB1-35S promoter-GUS-Nos terminator(対照)を導入して形質転換したイネ培養細胞と同程度の翻訳効率が観察された。一方、pGWB1-35S promoter-UTRc-GUS-Nos terminatorを導入して形質転換したイネ培養細胞では、対照に比べて15倍以上の翻訳効率が観察された。
UTRcとUTRaとの違いは、配列番号4の塩基配列の存在の有無だけである。また、UTRcとUTRbとの違いは、配列番号4の塩基配列が全部保存されているか、約70%が欠損しているかである。このことから、配列番号4の塩基配列が翻訳エンハンサー活性に重要な配列であることがわかった。
さらに、UTRcの塩基配列の一部を欠損させたpGWB1-35S promoter-UTRc(Idel)-GUS-Nos terminatorを導入して形質転換したイネ培養細胞では、pGWB1-35S promoter-UTRc-GUS-Nos terminatorを導入して形質転換したイネ培養細胞に比べて約2分の1の翻訳効率が観察された。欠損させた塩基配列は、配列番号4の塩基配列の5’末端から数えて14〜36番目にあたる。このことから、配列番号4の塩基配列が保存されていることで、配列番号4の塩基配列を含む塩基配列が、より強い翻訳エンハンサー活性を示すことがわかった。
【0080】
(実施例4)
<UTRcを5’末端から欠損させたときのORFの翻訳に及ぼす影響の解析>
UTRcの5’末端から段階的に塩基対を欠損させた(99塩基対、199塩基対、299塩基対を欠損させた)段階的欠損型の5’UTRであるUTRc(d99)、UTRc(d199)、及びUTRc(d299)を作製し、その下流にGUS遺伝子を連結させた形質転換用プラスミド、pGWB1-35S promoter-UTRc(d99)-GUS-Nos terminator、pGWB1-35S promoter-UTRc(d199)-GUS-Nos terminator、及びpGWB1-35S promoter-UTRc(d299)-GUS-Nos terminatorを構築し、イネ培養細胞に導入し形質転換体を作製して翻訳量(翻訳効率)の測定を行った。
形質転換用プラスミドの構築、及びイネ培養細胞の形質転換は、実施例3に準じて行った。形質転換用プラスミドの構築に際しては、表2に示した配列番号12、14〜16のプライマーを用いた。
【0081】
形質転換用プラスミドの構築図を図7〜9に示す。四角で囲んだ塩基配列はTATAボックスであり、記載されている塩基配列の3’末端に位置する「Met」はGUS遺伝子の翻訳開始点であり、それよりも上流に位置する「Met」はOsMac1遺伝子のORF領域の翻訳開始点であり、大文字で示した塩基配列は配列番号4の塩基配列の全部又は一部である。
【0082】
翻訳効率は、GUS比活性(pmol/min/mg protein)で評価し、その算定方法は実施例3におけるGUS比活性の算定方法と同様である。翻訳効率の測定は3回行った。
翻訳効率の評価結果を表6及び図10に示す。表6及び図10におけるUTRc、d99、d199、d299は、それぞれpGWB1-35S promoter-UTRc-GUS-Nos terminator、pGWB1-35S promoter-UTRc(d99)-GUS-Nos terminator、pGWB1-35S promoter-UTRc(d199)-GUS-Nos terminator、pGWB1-35S promoter-UTRc(d299)-GUS-Nos terminatorの各プラスミドで形質転換したイネ培養細胞を示す。
【0083】
【表6】



【0084】
表6及び図10に示す通り、UTRc(d99)及びUTRc(d199)では、UTRcと同程度の翻訳効率が観察された。一方、UTRc(d299)では、非常に低い翻訳効率が観察された。UTRc(d99)及びUTRc(d199)においては、配列番号4の塩基配列が保存されているが、UTRc(d299)においては、配列番号4の塩基配列の3’末端側の約15%しか保存されていない。このことから、配列番号4の塩基配列が翻訳エンハンサー活性に重要な配列であることが確認された。
また、UTRc(d199)で、UTRcと同程度の翻訳効率が観察されたことから、配列番号4の塩基配列を含む400塩基長以下の長さの塩基配列であっても、翻訳エンハンサー活性を有することがわかった。
【0085】
したがって、本発明のDNAと構造遺伝子とを含む組換えベクターで形質転換された形質転換体を用いることで、前記構造遺伝子にコードされるタンパク質の合成量を、本発明のDNAを含まない組換えベクターで形質転換された形質転換体を用いる場合に比して、増加させることができる。
【0086】
また、本発明のDNAと構造遺伝子とを含む鋳型DNAから翻訳用RNAを合成し、前記翻訳用RNAとインビトロ無細胞系タンパク質合成用反応液とを接触させることにより、前記構造遺伝子にコードされるタンパク質を合成することができ、前記タンパク質の合成量を、本発明のDNAを含まない鋳型DNAから翻訳用RNAを合成した場合に比して、増加させることができる。
【0087】
したがって、本発明のDNAに対応するRNAとタンパク質をコードするRNAとを含む翻訳用RNAを用いることで、本発明のDNAに対応するRNAを含まない翻訳用RNAを用いる場合に比して、前記タンパク質の合成量を増加させることができる。
【0088】
よって、本発明によれば、新規の翻訳エンハンサー及びその利用方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
翻訳エンハンサー活性を有する塩基配列からなる下記(a)から(g)のいずれか1つのDNA:
(a)配列番号1の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号2の塩基配列からなるDNA、
(c)配列番号3の塩基配列からなるDNA、
(d)配列番号4の塩基配列からなるDNA、
(e)配列番号1の塩基配列の連続する一部であって、配列番号4の塩基配列を含む200塩基長から400塩基長の塩基配列からなるDNA、
(f)上記(a)から(e)のいずれか1つのDNAにおいて1個又は数個の塩基が欠失、置換又は付加されたDNA、
(g)上記(a)から(e)のいずれか1つのDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項3】
請求項1に記載のDNAがプロモーターと構造遺伝子との間に挿入されている請求項2に記載の組換えベクター。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項5】
前記形質転換体は、植物細胞、植物組織、植物器官、植物体及び種子から選択されるいずれか1つである請求項4に記載の形質転換体。
【請求項6】
請求項1に記載のDNAに対応するRNAとタンパク質をコードするRNAとを含む翻訳用RNAを用いて、前記タンパク質を合成するタンパク質合成方法。
【請求項7】
請求項1に記載のDNAと構造遺伝子とを含む組換えベクターを用いて形質転換体を得ること、前記形質転換体を培養すること、を含む請求項6に記載のタンパク質合成方法。
【請求項8】
前記翻訳用RNAとインビトロ無細胞系タンパク質合成用反応液とを接触させること、を含む請求項6に記載のタンパク質合成方法。
【請求項9】
更に、請求項1に記載のDNAと構造遺伝子とを含む鋳型DNAから前記翻訳用RNAを合成すること、を含む請求項8に記載のタンパク質合成方法。

【図6】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−103833(P2011−103833A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264125(P2009−264125)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】