説明

耐スケール性部材とその施工方法及び施工具

【課題】 炉壁を構成するセラミックファイバーモジュールのスケールによる損傷を防ぐことができ、耐久性に優れた耐スケール性部材と、その施工方法を提供する。
【解決手段】 アルミナファイバー成形体3を母材とし、その高温雰囲気側となる表面に耐スケール性コーチング材の塗布層4を有すると共に、裏面にアルミナファイバーブランケット5が貼り付けてある耐スケール性部材2を用いる。この耐スケール性部材2の裏面のアルミナファイバーブランケット5をセラミックファイバーモジュール1の高温雰囲気側に当接させ、アルミナファイバー質ロープ7で固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉、熱処理炉、鍛造炉等の工業炉の炉壁を構成しているセラミックファイバーモジュールに施工する耐スケール性部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種工業炉の側壁や天井を含めた炉壁の構成には、一般にセラミックファイバーモジュールが使われている。しかし、セラミックファイバーモジュールは、炉の操業に伴って炉内に発生するスケールとの反応によって損傷し、厚みが減少したり目地開きが生じたりするという問題があった。
【0003】
このスケールによる損傷を防ぐ方法の一つとして、例えば特公昭60−108295号公報に記載されるように、セラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に耐スケール性コーチング材を塗布するが行われてきた。しかしながら、塗布されるセラミックファイバーモジュールの表面はセラミックファイバー同士が絡みあった状態であるため、耐スケール性コーチング材との接着強度が小さく、剥離が起こりやすいという問題があった。
【0004】
また、炉壁を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に、接着剤を用いてセラミックファイバー成形体を貼り付ける方法も行われている。しかし、高温下で長時間使用すると接合部分が劣化して、セラミックファイバー成形体が剥がれるなどの欠点があった。特に、既に使用されたセラミックファイバーモジュールでは、高温雰囲気側の表面はスケールの付着等によって起伏があるため一層剥離が起こりやすかった。
【0005】
尚、炉壁をセラミックファイバー部材等で構成し、その高温雰囲気側にかさ密度を大きくして強度を高めたセラミックファイバー成形体を施工し、その表面に耐スケール性コーチング材を塗布する方法も行われている。この方法によれば耐スケール性コーチング材の剥離を防止できるが、セラミックファイバー成形体などを固定するセラミック支持具が耐スポーリング性に劣るため、耐久性に欠ける欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭60−108295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、各種工業炉の炉壁を構成するセラミックファイバーモジュールに施工することで、スケールによるセラミックファイバーモジュールの損傷を防ぐことができ、耐久性にも優れた耐スケール性部材を提供すること、並びにその施工方法及び施工に用いる施工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明が提供する耐スケール性部材は、炉壁を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に施工される耐スケール性部材であって、アルミナファイバー成形体を母材とし、その高温雰囲気側となる表面に耐スケール性コーチング材の塗布層を有すると共に、裏面にアルミナファイバーブランケットが貼り付けてあることを特徴とする。
【0009】
また、上記した本発明による耐スケール性部材の施工方法は、上記耐スケール性部材の裏面のアルミナファイバーブランケットを、炉壁を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に当接させ、アルミナファイバー質ロープで固定することを特徴とするものである。
【0010】
更に、上記した本発明による耐スケール性部材の他の施工方法は、上記耐スケール性部材の裏面のアルミナファイバーブランケットをセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に当接させ、アルミナファイバー成形体からなる取付具をセラミックファイバーモジュールに差し込むと同時に耐スケール性部材を係止して固定することを特徴とする。
【0011】
本発明は、また、上記本発明による耐スケール性部材の施工時に、アルミナファイバー質ロープで固定するため、セラミックファイバーモジュールに両端が高温雰囲気側に開口したアルミナファイバー質ロープ挿通用の円弧状の連通孔を形成するために用いる施工具を提供する。
【0012】
即ち、上記本発明による耐スケール性部材の施工具は、一本の細長い固定軸と、固定軸の外周に該固定軸に沿って摺動可能に装着した押棒と、一端が固定軸の下端に回転可能に支持された第1連接片と、一端が押棒の下端部に且つ他端が第1連接片の他端に回転可能に支持された第2連接片と、第1連接片の他端又は第2連接片の他端に固定された1/4円弧状の挿入棒とを有し、第1連接片と第2連接片と挿入棒とが前記固定軸を中心として対称な位置に各一対設けてあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、各種工業炉の炉壁を構成するセラミックファイバーモジュールに施工することでスケールよる損傷を防ぐことができ、アルミナファイバー成形体及びその表面に塗布した耐スケール性コーチング材の剥離が起こらず、耐久性に優れた耐スケール性部材及びその施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるボード状の耐スケール性部材のロープを用いて施工した状態を示す概略の斜視図である。
【図2】本発明による耐スケール性部材のロープによる施工例を示す概略の斜視図である。
【図3】本発明の耐スケール性部材の施工具を示す概略の側面図であり、左側半分は円弧状の挿入棒が開いた状態、及び右側半分は挿入棒が閉じた状態を示す。
【図4】本発明による耐スケール性部材の固定用差込片を用いる施工方法を示す概略の斜視図である。
【図5】本発明による固定用差込片を一体化した耐スケール性部材の施工方法を示す概略の斜視図である。
【図6】本発明による耐スケール性部材の他の固定用差込片を用いる施工方法を示す概略の斜視図である。
【図7】本発明による耐スケール性部材の固定用差込ピンを用いる施工方法を示す概略の斜視図である。
【図8】本発明による耐スケール性部材を水冷管に取り付けた状態を示す概略の斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の耐スケール性部材について、ボード状の耐スケール性部材を示す図1を参照して具体的に説明する。炉壁を構成するセラミックファイバーモジュール1の高温雰囲気側に施工するための耐スケール性部材2は、加熱炉の高温に耐えうるように耐熱性に優れたアルミナファイバー成形体3を母材とし、その表面(炉内で高温雰囲気側となる面)に耐スケール性コーチング材の塗布層4を、及び反対側の裏面にはアルミナファイバーブランケット5を一体的に設けたものである。
【0016】
上記アルミナファイバー成形体は、アルミナを主成分とし、約35重量%以下のシリカを含んでいる。アルミナファイバー成形体を製造するには、通常の方法によれば、まずアルミナファイバーを水に分散させ、バインダーを加えて混合した後、得られたスラリーを吸引脱水成形して乾燥し、必要に応じて加熱焼成する。バインダーとしてはシリカゾルなどの無機バインダーが好ましく、無機バインダー単独でも又は有機バインダーと組み合わせて使用してもよい。
【0017】
また、母材となるアルミナファイバー成形体は、かさ密度が200〜400kg/mのものが好ましい。かさ密度が200kg/m未満では、強度が低下するうえ、表面に設けた耐スケール性コーチング材の塗布層が剥がれやすくなるからである。また、かさ密度が400kg/mを超えると、全体の重量が重くなるため簡単な施工が難しくなる。
【0018】
上記アルミナファイバー成形体3の高温雰囲気側となる表面には、耐スケール性コーチング材を塗布・乾燥・焼成することにより、耐スケール性コーチング材の塗布層4を形成する。耐スケール性コーチング材としては、炉内のスケールに対する耐性を向上させうるものであれば良く、一般的にアルミナ、シリカ、マグネシアなどを含んでいる。好ましい耐スケール性コーチング材としては、イソライト工業(株)から市販されている、低温度域の強度が高くて剥離のないイソライトネオコートK改(商品名)等がある。
【0019】
上記耐スケール性コーチング材の塗布層の付着性を高めるために、アルミナファイバー成形体の高温雰囲気側となる表面に複数の溝を設けることが好ましい。溝の大きさや形状は限定されないが、例えば深さ1mm及び縦横5mm程度の格子状の溝を設けることによって、耐スケール性コーチング材の塗布層の付着面積を増やして剥がれ難くすることができる。このような溝の形成は、成形体の製造過程でスラリーを吸引脱水成形して乾燥する際に、金網などの上で乾燥することで簡単に形成することができる。
【0020】
一方、上記アルミナファイバー成形体3の裏面(高温雰囲気側と反対側の面)には、アルミナファイバーブランケット5を無機接着剤6で貼り付けてある。炉内に既設されたセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側は表面に起伏ないし凹凸があるが、アルミナファイバー成形体の裏面に柔らかなアルミナファイバーブランケットを取り付けることで、施工時に接合面の起伏ないし凹凸を吸収緩和でき、耐スケール性部材の施工が簡単になる。
【0021】
使用するアルミナファイバーブランケットは、アルミナを主成分とし、シリカなどを含む通常のものでよく、層剥離し難いようにニードリングしたものが好ましい。また、アルミナファイバーブランケットを貼り付ける接着剤は、耐熱性を有する無機接着剤であればよく、従来から炉壁の施工などに使用されているものを好適に用いることができる。
【0022】
上記したように本発明の耐スケール性部材は、母材である耐熱性に優れたアルミナファイバー成形体の高温雰囲気側に耐スケール性コーチング材の塗布層を設け、裏面側にはアルミナファイバーブランケットを接着して一体化してあるので、耐熱性及び強度の向上と共に施工性にも優れており、炉内に発生するスケールに対して長期にわたって高い耐久性を発揮することができる。
【0023】
尚、本発明の耐スケール性部材は、炉壁を構成するセラミックファイバーモジュールを覆うように施工できればよく、その形状や大きさ等は限定されない。形状としては矩形のボードが一般的であるが、炉に設けたポスト(セラミックファイバーモジュールで被覆された水冷管)を覆う場合には半円筒形の部材を使用すればよい。また、耐スケール性部材の厚みについても制限はなく、所望の耐スケール性を付与することができればよい。
【0024】
次に、本発明による耐スケール性部材の施工方法について、ボード状の耐スケール性部材の場合を例に説明する。まず、アルミナファイバー質ロープを用いて固定する方法を、図1〜2に基づいて説明する。炉壁を構成するセラミックファイバーモジュール1の高温雰囲気側に、本発明によるボード状の耐スケール性部材2の裏面、即ちアルミナファイバーブランケット5を当接させ、この状態で耐スケール性部材2とアルミナファイバーブランケット5とをアルミナファイバー質ロープ7を用いて固定する。
【0025】
アルミナファイバー質ロープによる固定方法は、如何なる方法であってもよい。例えば図1に示すように、耐スケール性部材2に予め複数の貫通孔2aを設けると共に、セラミックファイバーモジュール1にも両端が高温雰囲気側に開口した円弧状の連通孔1aを設け、この円弧状の連通孔1aと貫通孔2aに通した1本のアルミナファイバー質ロープ7の両端を結んで固定する方法は、簡単であり且つ確実に固定できることから好ましい。
【0026】
アルミナファイバー質ロープは柔軟性があるため、耐スポーリング性に優れており、高温下でも引っ張り強度があり、耐スケール部材の重量に充分耐えることができ、長期の使用に耐えることができる。また、アルミナファイバー質ロープの高温雰囲気側に露出した部分には、耐スケール性部材の貫通孔を埋めるように、上記した耐スケール性コーチング材を塗布して覆うことにより、耐久性を高めることができる。
【0027】
更に、耐スケール性部材の上下端部を重ね合わせ、例えば図2のごとく、下段の耐スケール性部材2の上端部に上段の耐スケール性部材2の下端部を重ね、上段の耐スケール性部材2を固定しているアルミナファイバー質ロープ7を覆って保護することができる。また、左右の耐スケール性部材の両端部を重ね合わせることにより、隙間をなくして耐スケール性を一層高めることもできる。
【0028】
本発明の耐スケール性部材をアルミナファイバー質ロープで固定する場合、少なくとも炉壁として既設のアルミナファイバーブランケットに貫通孔を設けてロープを通す必要がある。そのためには、例えば円弧状の棒材を作製し、その一端にロープを結んだ後、棒材の他端側をアルミナファイバーブランケットに突き刺し、円弧状に押し込んで貫通させることによりロープを通すことが可能である。また、図3に示すような本発明の施工具を使用すれば、アルミナファイバーブランケットの適正な位置に、正確の円弧状の連通孔を極めて簡単に形成することができる。
【0029】
即ち、図3に示すように、本発明の施工具10は、一本の細長い固定軸11と、固定軸11の外周に固定軸11に沿って摺動可能に装着した押棒12と、一端が固定軸11の下端に回転可能に支持された第1連接片13、13と、一端が押棒12の下端部に且つ他端が第1連接片13、13の他端に回転可能に支持された第2連接片14、14と、第1連接片13、13の他端又は第2連接片14、14の他端に固定された1/4円弧状の挿入棒15、15とを有し、第1連接片13、13と第2連接片14、14と挿入棒15、15とは前記固定軸11を中心として対称な位置に各一対設けてある。
【0030】
この施工具10を用いてアルミナファイバーブランケットに円弧状の連通孔を形成する場合、まず、押棒12を上方に引き上げて一対の円弧状の挿入棒15、15の先端15a、15aを全開させる。この状態で、固定軸11の下端をアルミナファイバーブランケットに押し当て、図3の左半分に示すように、第1連接片13、13と第2連接片14、14の連接部を外側に若干開き、押棒12の押し下げによって第1連接片13、13と第2連接片14、14が連動して作動可能な状態とする。
【0031】
次に、図3の右半分に示すように、押棒12を押し下げると、第1連接片13、13と第2連接片14、14が連動して両者の連接部が外側に開き、これに伴って一対の円弧状の挿入棒15、15の先端15a、15aが閉じて、アルミナファイバーブランケットに刺し込まれる。その後、再び押棒12を上方に引き上げて一対の円弧状の挿入棒15、15を全開させることで、高温雰囲気側表面に両端が開口した円弧状の連通孔をアルミナファイバーブランケットに形成することができる。
【0032】
また、本発明による耐スケール性部材の別の施工方法として、炉壁を構成するブロック状のセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に、ボード状の耐スケール性部材の裏面であるアルミナファイバーブランケットを当接させ、アルミナファイバー成形体からなる取付具をブロック状のセラミックファイバーモジュールに差し込むことによって、その取付具により耐スケール性部材2を係止して固定することもできる。上記取付具としては、例えば、図4〜6に示す固定用差込片16、17や図7に示す固定用差込ピン18などがある。
【0033】
具体的には、図4に示す固定用差込片16の場合、ブロック状のセラミックファイバーモジュール1の高温雰囲気側に耐スケール性部材2の裏面のアルミナファイバーブランケットを当接させた状態で、その耐スケール性部材2の両側縁に沿って固定用差込片16をセラミックファイバーモジュール1のブロック間に差し込むことにより、2個の固定用差込片16、16で1枚の耐スケール性部材2をセラミックファイバーモジュール1に係止して固定することができる。
【0034】
即ち、ブロック状のセラミックファイバーモジュール1に差し込まれた固定用差込片16は、その本体部の一端に片側に突き出るように設けた係止部16aにより耐スケール性部材2を押さえて係止すると共に、少なくとも他端に設けた抜け止め防止用の突起部16bによりセラミックファイバーモジュール1に固定されるので、セラミックファイバーモジュール1に耐スケール性部材2を係止して固定することができる。
【0035】
尚、上記固定用差込片16の抜け止め防止用の突起部16bは、本体部の他端だけでなく、セラミックファイバーモジュール1に差し込まれる部分に複数設けることもでき、例えば図4に示すように本体部の両側面にそれぞれ設けてもよい。また、上記固定用差込片16の係止部16aは、本体部の一端において両側に突き出るように設けてもよい。更に、図5に示すように、固定用差込片16の一端を耐スケール性部材2の両側縁に接続させ、一体的に形成することも可能である。
【0036】
また、図6に示す固定用差込片17は、その本体部の少なくとも他端に抜け止め防止用の突起部17bを有すると供に、一端に設けた係止部17aが本体部の両側に突き出ている形成されている。従って、この固定用差込片17によれば、1個の固定用差込片17で2枚の耐スケール性部材2の対向する側縁を係止固定することができるので、図4〜5の固定用差込片16と比較して、セラミックファイバーモジュール1に同じ枚数の耐スケール性部材2を係止固定する場合、少ない数で耐スケール性部材2を係止固定することが可能である。
【0037】
更に、図7に示す固定用差込ピン18は、予め耐スケール性部材2に形成した複数の貫通孔2aを通して、ブロック状のセラミックファイバーモジュール1に差し込むものである。即ち、固定用差込ピン18は、その本体部の一端に円板状に突き出して設けた係止部18aにより耐スケール性部材2を係止すると共に、少なくとも他端に設けた抜け止め防止用の突起部18bによりセラミックファイバーモジュール1に固定される。従って、例えば4本の固定用差込ピン18を耐スケール性部材2の4隅に設けた貫通孔2aを通してセラミックファイバーモジュール1に差し込むことにより、耐スケール性部材2を係止固定することができる。
【0038】
尚、上記図7に示す固定用差込ピン18の係止部18aは、本体部の一端に、片側又は両側に突き出るように設けることもできる。また、図6に示す固定用差込片17の抜け止め防止用の突起部17b、及び図7に示す固定用差込ピン18の突起部18bも、その本体部の他端だけでなく、セラミックファイバーモジュール1に差し込まれる部分に複数、例えば本体部の両側面に設けることもできる。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
アルミナファイバー(Al:70%、SiO:30%)を水に投入して解繊し、バインダーとしてシリカゾルと澱粉を加えて混合し、箱状の成形型を用いて吸引脱水成形した。得られた湿潤状態のアルミナファイバー成形体を、太さ1mmの金属線を縦横5mmの格子状に編んだ金網上で乾燥した。乾燥後のアルミナファイバー成形体は、縦40cm×横34cm、厚み15mmのボード状であり、金網に接した面に格子状の溝を有している。
【0040】
このボード状のアルミナファイバー成形体に対して、格子状の溝を形成した面(高温雰囲気側となる)に、スプレー塗布又はコテ塗りにより耐スケール性コーチング材を厚さ1〜2mmとなるように塗布して、耐スケール性コーチング材の塗布層を設けた。使用した耐スケール性コーチング材はイソライト工業(株)製のネオコートK改(商品名)であり、アルミナ80%−シリカ5%−マグネシア15%を含み、粒径800μm以下、含水率40%である。
【0041】
また、アルミナファイバー成形体の反対側の面(低温雰囲気側となる)には、無機接着剤(テルニック工業(株)製、商品名ベタック1600)をコテ塗りで厚さ1〜2mmとなるように塗布した後、アルミナファイバーブランケット(三菱化学(株)製、商品名マフテック、厚さ12.5mm、8P品)を貼り付けた。
【0042】
次に、図1〜2に示すように、上記により得られたボード状の耐スケール性部材を加熱炉に既設されたセラミックファイバーモジュールに施工した。即ち、まずボード状の耐スケール性部材を十分に乾燥し、所定の位置に直径7mmの貫通孔を2個開けた。一方、既設のセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に、図3の施工具を使用して、円弧状の連通孔(直径7mm、深さ100mm、半径200mm)を形成した。
【0043】
このセラミックファイバーモジュールに設けた連通孔の片方の開口から、直径6mm、半径200mmの半円状の金属棒を挿入し、その金属棒の終端に直径6mmのアルミナファイバー質ロープ(ニチビ(株)製、ニチビアルフ スリーブ)を固定した。この金属棒を連通孔の他方の開口から引き抜き、アルミナファイバー質ロープを連通孔に挿通させた。
【0044】
セラミックファイバーモジュールの連通孔に挿通させたアルミナファイバー質ロープを、耐スケール性部材に設けた2個の貫通孔に通して両端を結び、ボード状の耐スケール性部材をセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に固定した。その際、ロープ部分が高温雰囲気に直接晒されないように、図2に示すように部材を重ね合わせて施工すると共に、重ね合わせ施工できない部分のロープ部分には上記と同じ耐スケール性コーチング材を塗布して被覆した。
【0045】
このようにして本発明のボード状の耐スケール性部材をセラミックファイバーモジュールに施工した加熱炉は、通常のごとく1200〜1300℃で鋼材を加熱処理した場合でも、炉壁を構成するセラミックファイバーモジュールのスケールによる損傷を抑えることができた。また、直径6mmのアルミナファイバー質ロープは、耐スケール性部材をセラミックファイバーモジュールに固定するために充分な強度であることが確認された。
【0046】
[実施例2]
上記実施例1と同様にして、ただし使用する成形型を代えることにより、半割り状の耐スケール性部材を作製した。この半割り状の耐スケール性部材は、母材のアルミナファイバー成形体と、その高温雰囲気側となる表面(外周側)に設けた耐スケール性コーチング材の塗布層と、その反対側の裏面(内周側)に貼り付けたアルミナファイバーブランケットとからなっている。
【0047】
この半割り状の耐スケール性部材を、図8に示すように、加熱炉の水冷管8に既設されたセラミックファイバーモジュール1(ポスト)に施工した。即ち、半割り状の耐スケール性部材9の所定位置に直径7mmの貫通孔9aを2個開けると共に、既設のセラミックファイバーモジュール1の高温雰囲気側に、図3の施工具を用いて円弧状の連通孔1a(直径7mm、深さ100mm、半径200mm)を形成した。この貫通孔9aと連通孔1aにアルミナファイバー質ロープ7を通し、半割り状の耐スケール性部材9をセラミックファイバーモジュール1の高温雰囲気側に固定した。
【0048】
その際、ロープ部分が高温雰囲気に直接晒されないように、上記実施例1の場合と同様に、半割り状の耐スケール性部材9を重ね合わせて施工すると共に、重ね合わせ施工できない部分のロープ部分には上記と同じ耐スケール性コーチング材を塗布して被覆した。
【符号の説明】
【0049】
1 セラミックファイバーモジュール
2 ボード状の耐スケール性部材
3 アルミナファイバー成形体
4 耐スケール性コーチング材の塗布層
5 アルミナファイバーブランケット
6 無機接着剤
7 アルミナファイバー質ロープ
8 水冷管
9 半割り状の耐スケール性部材
10 施工具
11 固定軸
12 押棒
13 第1連接片
14 第2連接片
15 挿入棒
16、17 固定用差込片
18 固定用差込ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に施工される耐スケール性部材であって、アルミナファイバー成形体を母材とし、その高温雰囲気側となる表面に耐スケール性コーチング材の塗布層を有すると共に、裏面にアルミナファイバーブランケットが貼り付けてあることを特徴とする耐スケール性部材。
【請求項2】
前記アルミナファイバー成形体のかさ密度が200〜400kg/mの範囲内にあることを特徴とする、請求項1に記載の耐スケール性部材。
【請求項3】
前記アルミナファイバー成形体の表面に複数の溝が設けてあることを特徴とする、請求項1又は2に記載の耐スケール性部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の耐スケール性部材を、炉壁を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に施工する方法であって、耐スケール性部材の裏面のアルミナファイバーブランケットをセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に当接させ、アルミナファイバー質ロープで固定することを特徴とする耐スケール性部材の施工方法。
【請求項5】
前記耐スケール性部材に予め複数の貫通孔を設けると共に、前記セラミックファイバーモジュールに高温雰囲気側に両端が開口した円弧状の連通孔を設け、該円弧状の連通孔に通したアルミナファイバー質ロープを耐スケール性部材に設けた複数の貫通孔に通して固定することを特徴とする、請求項4に記載の耐スケール性部材の施工方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の耐スケール性部材を、炉壁を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に施工する方法であって、耐スケール性部材の裏面のアルミナファイバーブランケットをセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に当接させ、アルミナファイバー成形体からなる取付具をセラミックファイバーモジュールに差し込むと同時に耐スケール性部材を係止して固定することを特徴とする耐スケール性部材の施工方法。
【請求項7】
前記取付具は、セラミックファイバーモジュールに差し込まれる本体部と、本体部の一端に設けた耐スケール性部材の係止部と、他端に設けたセラミックファイバーモジュールからの抜け止め防止用の突起部とを有することを特徴とする、請求項6に記載の耐スケール性部材の施工方法。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の耐スケール性部材の施工時に、セラミックファイバーモジュールに両端が高温雰囲気側に開口した円弧状の連通孔を形成するために用いる施工具であって、一本の細長い固定軸と、固定軸の外周に該固定軸に沿って摺動可能に装着した押棒と、一端が固定軸の下端に回転可能に支持された第1連接片と、一端が押棒の下端部に且つ他端が第1連接片の他端に回転可能に支持された第2連接片と、第1連接片の他端又は第2連接片の他端に固定された1/4円弧状の挿入棒とを有し、第1連接片と第2連接片と挿入棒とが前記固定軸を中心として対称な位置に各一対設けてあることを特徴とする施工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−175159(P2010−175159A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19119(P2009−19119)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(391029509)イソライト工業株式会社 (24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】