説明

耐スケール性部材とその製造方法及び施工方法

【課題】 炉壁や炉内高温部に既設されたセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に、簡単に隙間なく施工することができ、耐久性に優れた耐スケール性部材と、その製造方法及び施工方法を提供する。
【解決手段】 耐スケール性部材1は、耐熱性に優れたアルミナ質ファイバーブランケット2を母材とし、その母材の高温雰囲気側となる表面に耐スケール性コーチング材の塗布層3を設けたものである。耐スケール性コーチング材の塗布層3はマグネシア粉末とアクリレート系ラテックス樹脂を含有し、柔軟で可撓性を具えているため、セラミックファイバーモジュール4の高温雰囲気側表面に目地部を重ねて隙間なく施工することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉、熱処理炉、鍛造炉等の工業炉の炉壁構成に用いられるセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に施工する耐スケール性部材と、その製造方法及び施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種加熱炉など工業炉の炉壁構成にセラミックファイバーモジュールが使われているが、炉内に存在するスケールによって浸食され、損傷するという問題が生じていた。このため、特開2000−283656号公報(特許文献1)に記載されているように、炉壁を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に、アルミナ粉末を含有する耐スケール性コーチング材を塗布することなどが行われてきた。
【0003】
しかし、セラミックファイバーモジュールに塗布された耐スケール性コーチング材は剥離しやすいという問題があった。セラミックファイバーモジュールから耐スケール性コーチング材が剥離するのは、高温加熱による耐スケール性コーチング材の収縮や熱衝撃により亀裂が生じることや、耐スケール性コーチング材とセラミックファイバーモジュールとの膨張及び収縮の大きさが異なるため接着面でずれが生じることなどが原因とされている。
【0004】
このような耐スケール性コーチング材の剥離を防ぐため、特開2004−168565号公報(特許文献2)には、耐スケール性コーチング材に無機繊維を加え、セラミックファイバーモジュールとの膨張及び収縮の差を少なくすることが提案されている。しかしながら、この方法によっても、耐スケール性コーチング材とセラミックファイバーモジュールとの接着は界面での繊維の絡み付きのみであるため、接着強度が小さく、耐スケール性コーチング材が剥離する問題は依然として残っていた。
【0005】
一方、セラミックファイバーモジュールの別の保護方法として、実開昭62−077797号公報(特許文献3)などには、セラミック焼結板を取り付けるライニング構造が記載されている。しかし、セラミックファイバーモジュールの表面には起伏があるため、セラミック焼結板との隙間に進入したスケールにより浸食が生じていた。また、セラミック焼結板を固定するセラミック焼結体製のロッドが熱衝撃によって損傷し、セラミック焼結板が脱落しやすかった。
【0006】
更に、特開平08−049980号公報(特許文献4)には、アルミナファイバークロスにアルミナ粉末等と無機バインダーを積層成形して一体化した板を、セラミックファイバーモジュールにピンで固定する構造が提案されている。しかしながら、セラミックファイバーモジュールの表面には起伏があるため、両者の隙間にスケールが進入して浸食が生じていた。また、曲面部等には、アルミナファイバークロスを固定ピンで固定後、アルミナ粉等と無機バインダーを塗布する方法も同時に提案されているが、施工が煩雑になるといった問題があった。
【0007】
また、特開平08−152277号公報(特許文献5)には、セラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に、高温下で強度が大きいアルミナファイバーブランケットを被覆して一体化したモジュールが提案されている。しかし、アルミナファイバーブランケットは繊維で構成され、多孔質であるためにスケールの侵入を防ぐことは不可能であった。
【0008】
また、特開平11−302723号公報(特許文献6)には、耐火物で被覆されたスキッド支持ビームの表面に、セラミックファイバー層を被覆した後、更に酸化物層を被覆する方法が提案されている。しかし、この方法では、セラミックファイバー層は吹付法によって被覆形成され、既存耐火物との支持具が存在しないため、被覆層であるセラミックファイバー層が脱落する危険があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−283656号公報
【特許文献2】特開2004−168565号公報
【特許文献3】実開昭62−077797号公報
【特許文献4】特開平08−049980号公報
【特許文献5】特開平08−152277号公報
【特許文献6】特開平11−302723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、各種加熱炉など工業炉の炉壁や高温部に既設されたセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側との間に隙間なく施工することができ、施工後高温にさらされることによって一部が剥離したり、収縮や亀裂が生じたりすることがなく、耐久性に優れた耐スケール性部材と、その製造方法及び施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明が提供する耐スケール性部材は、炉壁又は炉内高温部を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に施工される耐スケール性部材であって、アルミナ質ファイバーブランケットからなる母材と、その母材の少なくとも高温雰囲気となる表面側に設けた耐スケール性コーチング材の塗布層とを有し、該耐スケール性コーチング材の塗布層はアルミナ粉末及びアルミナ質ファイバーと共に、マグネシア粉末とアクリレート系ラテックス樹脂を含有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明が提供する耐スケール性部材の製造方法は、炉壁及び炉内高温部を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に施工される耐スケール性部材の製造方法であって、アルミナ粉末及びアルミナ質ファイバーと共に、マグネシア粉末とアクリレート系ラテックス樹脂を含有する耐スケールコーチング材を、母材となるアルミナ質ファイバーブランケットの片方の表面に、該片方の表面と反対側の表面から吸引しながら塗布することを特徴とする。
【0013】
更に、本発明が提供する耐スケール性部材の施工方法は、上記した本発明による耐スケール性部材を、炉壁又は炉内高温部を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に施工する方法であって、セラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に、前記耐スケール性部材の前記塗布層と反対側の面を当接させ、アルミナ質ファイバーとアルミナ粉末をバインダーで成形固化し且つ嵩密度が400〜800kg/mの固定用楔を、該耐スケール性部材に設けた楔挿入孔からセラミックファイバーモジュール内に押し込むことにより、耐スケール性部材を炉壁又は高温部に固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、母材であるアルミナ質ファイバーブランケットの高温雰囲気側に施工される表面に耐スケール性コーチング材の塗布層を有し、炉壁などへの常温での施工時に全体が柔軟で可撓性を有する耐スケール性部材を提供することができる。従って、セラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に隙間なく施工することが可能であり、隙間へのスケールの侵入を防ぎ、耐スケール性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明の耐スケール性部材は、施工後に一部が剥離したり、熱による収縮や亀裂が生じたりすることがないうえ、施工後の高温にさらされることによって、耐スケール性コーチング材の塗布層中のラテックス樹脂が消失すると共にマグネシアがスピネル化するため、従来よりも一層優れた耐スケール性及び耐久性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の耐スケール性部材の炉壁への具体的な施工例を示す概略の斜視図である。
【図2】本発明の耐スケール性部材を施工した炉壁の具体的を示す概略の斜視図である。
【図3】本発明の耐スケール性部材の炉内水冷パイプへの具体的な施工例を示す概略の斜視図である。
【図4】本発明の耐スケール性部材の施工に使用する固定用楔の具体例を示す概略の側面図である。
【図5】本発明の耐スケール性部材の施工に使用する抜け止め部を具えた固定用楔の具体例を示す概略の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の耐スケール性部材は、工業炉の炉壁などを構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に施工するためのものであり、炉内の高温に耐えうるように耐熱性に優れたアルミナ質ファイバーブランケットを母材とし、その母材の少なくとも片方の表面(炉内で高温雰囲気側となる表面)に耐スケール性コーチング材の塗布層を設けたものである。
【0018】
母材となるアルミナ質ファイバーブランケットは、アルミナ繊維及び/又はムライト繊維などのアルミナ質ファイバーからなり、アルミナを主成分とし、約35重量%以下のシリカを含んでいる。特にニードリングが多いアルミナ質ファイバーブランケットを使用すれば、表面の繊維剥離を抑制できるため好ましい。このようなアルミナ質ファイバーブランケットは市販されており、例えば、ITM社製のファイバーマックスLX(商品名)、三菱化学製のマフテックMLS−2(商品名)などを好適に使用することができる。
【0019】
耐スケール性コーチング材は、スケールに対する耐久性を向上させるものであり、一般にアルミナやアルミナシリカなどの繊維や粉末を含んでいるが、本発明では更にマグネシア粉末とアクリレート系ラテックス樹脂を含有している。マグネシア粉末はアルミナやアルミナシリカの繊維や粉末と高温下で反応してスピネル化し、耐スケール性及び耐久性を向上させる。また、アクリレート系ラテックス樹脂を混合することにより、耐スケール性コーチング材の塗布層が常温で柔軟な状態となり、施工時に可撓性を有する耐スケール性部材が得られる。アクリレート系ラテックスとしては、例えばLX812(商品名;日本ゼオン社製)などを好適に用いることができる。
【0020】
耐スケール性コーチング材の好ましい配合は、アルミナ粉末が60〜85重量%、マグネシア粉末が10〜30重量%、アルミナ質ファイバーが5〜10重量%であり、これらの合計に対しアクリレート系ラテックス樹脂を5〜30重量%含んでいる。アクリレート系ラテックス樹脂の含有量(外割り)が5重量%未満では耐スケール性コーチング材の塗布層が常温で柔軟な状態とならず、逆に30重量%を超えると消失後空隙が残り、耐スケール性コーチング材の緻密性が損なわれるため好ましくない。尚、上記アルミナ質ファイバーとしては、アルミナ質繊維、ムライト繊維、アルミナシリカ繊維などが好適である。
【0021】
上記耐スケール性部材を製造するには、母材となるアルミナ質ファイバーブランケットの片方の表面(高温雰囲気側となる表面)に、その表面とは反対側の面から吸引しながら、耐スケール性コーチング材のスラリーを塗布して塗布層を形成する。吸引しながら耐スケール性コーチング材のスラリーを塗布することによって、耐スケール性コーチング材のスラリーがアルミナ質ファイバーブランケットの高温雰囲気側表面から内部にまで入り込むので、塗布層の接着性を向上させることができる。尚、スラリーの塗布方法としては、刷毛塗り、スプレー塗布又は鏝塗り、浸漬などの一般的な方法を用いることができ、塗布の際に反対側の面から減圧又は真空にて吸引すれば良い。
【0022】
母材となるアルミナ質ファイバーブランケットに塗布するための耐スケール性コーチング材のスラリーは、上記した耐スケール性コーチング材に更に有機バインダーを添加し、混練して得ることができる。耐スケール性コーチング材をスラリー化するための有機バインダーとしては、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキサイドなどを好適に用いることができる。有機バインダーの好ましい添加割合は0.3〜1.0重量%である。
【0023】
上記のごとくアルミナ質ファイバーブランケットの片方の表面に耐スケール性コーチング材を塗布した後、得られた塗布層が乾燥する前に、耐スケール性部材の少なくとも塗布層を樹脂フィルムで覆うことが好ましい。耐スケール性コーチング材の塗布層を樹脂フィルムで覆った後、上方からローラーや鏝などで圧縮して、耐スケール性コーチング材の塗布層側表面を平滑に均せば、スケールの付着を一層抑制することができる。尚、塗布層を覆う樹脂フィルムには特に制限はないが、透明で軽く且つ薄くて比較的丈夫なものが好ましい。
【0024】
このようにして得られる本発明の耐スケール性部材は、母材のアルミナ質ファイバーブランケットが柔軟であるうえ、乾燥後の耐スケール性コーチング材の塗布層もラテックス樹脂を含むため常温で柔軟性があるから、全体が可撓性を具えている。そのため、炉壁や高温部を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に施工する際に、耐スケール性部材がセラミックファイバーモジュールの起伏あるいは凹凸に密着することができ、また隣接する耐スケール性部材の端部の目地部を重ねても隙間が生じることがない。
【0025】
尚、本発明の耐スケール性部材は、炉壁や高温部を構成するセラミックファイバーモジュールを覆うように施工できればよく、その形状や大きさ等は限定されない。形状としては矩形が一般的であり、加熱炉に設けたポスト(セラミックファイバーモジュールで被覆された水冷管)を覆う場合にも矩形のものを巻き付けることができる。また、耐スケール性部材の厚さ及び耐スケール性コーチング材の塗布層の厚みについても特に制限はなく、所望の耐スケール性を付与することができればよい。
【0026】
次に、本発明による耐スケール性部材の施工方法について、まず図1〜2に示す加熱炉の炉壁に施工する場合を説明する。耐スケール性部材1には、予め楔挿入孔1aを設けておく。この耐スケール性部材1の裏面、即ち塗布層3と反対側の面(アルミナ質ファイバーブランケット2が露出している)を、炉壁を構成するセラミックファイバーモジュール4の高温雰囲気側表面に当接させ、隙間が残らないように隣接する耐スケール性部材1、1の目地部を重ねて配置する。次に、耐スケール性部材1の楔挿入孔1aから固定用楔5をセラミックファイバーモジュール4内に押し込むことによって、耐スケール性部材1を炉壁に固定することができる。
【0027】
また、加熱炉内高温部への施工、例えば図3に示す炉内に設けた鋼材支持搬送用の水冷パイプ(ポスト)への施工の場合には、予め楔挿入孔1aを設けた耐スケール性部材1の裏面(塗布層3と反対側の面)を、水冷パイプ6の外側を構成するセラミックファイバーモジュール4の高温雰囲気側に当接させ、隙間が残らないように隣接する耐スケール性部材1、1の目地部を重ねて配置する。この状態で、耐スケール性部材1の楔挿入孔から固定用楔5をセラミックファイバーモジュール4内に押し込むことによって、耐スケール性部材1を水冷パイプ6に固定することができる。
【0028】
耐スケール性部材の固定に用いる固定用楔は、アルミナ質ファイバーとアルミナ粉末をバインダー(無機バインダー及び/又は有機バインダー)で成形固化することにより製造することができる。尚、上記無機バインダーとしては、シリカゾルやアルミナゾルなどが使用できる。また、有機バインダーとしては、でん粉、メチルセルロース、ポリビニルアルコールなどがある。
【0029】
上記固定用楔の嵩密度は、軽量であって且つ熱衝撃抵抗性の向上効果を得るために、400〜800kg/mの範囲とすることが好ましい。上記範囲の嵩密度を得るためには、アルミナ繊維15〜70重量%、アルミナ粉末20〜70重量%、及びバインダー(無機バインダーと有機バインダーの合計)5〜10重量%とすることが好ましい。
【0030】
また、固定用楔の形状は、施工時に耐スケール性部材に設けた楔挿入孔からセラミックファイバーモジュール内に押し込むことによって、耐スケール性部材を固定できれば如何なる形状であってもよい。例えば図4に示すように、固定用楔5は円柱状の本体5aからなり、セラミックファイバーモジュール内に挿入しやすいように円錐に尖った先端部5bを有すると共に、後端部5cは挿入時のストッパーとなるようにフランジ状になっている。
【0031】
固定用楔の寸法は、セラミックファイバーモジュールの厚さ等によって異なるが、施工が容易で且つ破損などが生じ難く、耐スケール性部材の施工時にセラミックファイバーモジュール内に挿入した後、引き抜きの抵抗が大きいほど好ましい。好ましい寸法の具体例としては、例えば図5において、全長Lは85〜135mm、本体部5aの直径Daは12〜16mm、先端部5bの角度θは25〜35°、後端部5cの直径Dbは25〜35mm、及び後端部5cの厚さhは4〜6mm程度である。
【0032】
固定用楔の特に好ましい形状として、図5(a)及び(b)に示すように本体部5aに円錐台形の抜け止め部(バーブとも称する)7を1ヶ所又は2ヶ所設ければ、セラミックファイバーモジュール内に押し込んだ固定用楔の引き抜き抵抗を一層大きくすることができる。但し、図5(c)に示すように、先端部5bに向かって逆円錐台形の抜け止め部8を有する固定用楔5は、セラミックファイバー内への挿入が難しくなるために好ましくない。
【0033】
上記した円錐台形の抜け止め部7を1〜2ヶ所に設けた固定用楔5の場合、抜け止め部7の位置は、1ヶ所の場合にはフランジ状の後端部5cから30mm以上離れていることが好ましく、2ヶ所の場合には互いに20mm以上離れ且つフランジ状の後端部5cから20mm以上離れて設けることが望ましい。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
アルミナ粉末80重量%、マグネシア粉末15重量%、アルミナ質ファイバー5重量%に、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース0.3重量%とポリエチレンオキサイド0.2重量%を混合し、粒径800μm以下に粉砕した。この粉砕物にアクリレート系ラテックス樹脂(LX812;日本ゼオン社製)を外割りで20重量%、水を20重量%加えて混練し、耐スケール性コーチング材のスラリーとした。
【0035】
次に、厚さ9mmのアルミナ質ファイバーブランケット(ファイバーマックスLX 10P;ITM社製)の片方の表面側から真空吸引しながら、他方の表面(高温雰囲気側となる表面)に上記耐スケール性コーチング材のスラリーを塗布した。アルミナ質ファイバーブランケット上でのスラリーの塗布厚さは2mmとし、乾燥させて塗布層とした。得られた耐スケール性部材の所定の位置に、直径13mmの楔挿入孔を穿設した。
【0036】
一方、アルミナ質ファイバー70重量%と、アルミナ粉末20重量%と、無機バインダーとしてシリカゾル10重量%を配合し、これに対し有機バインダーのでん粉を外割で8重量%加えて真空脱水加圧成形した。得られた成形体を乾燥固化させて嵩密度400kg/mとした後、更に直径14mm及び長さ100mmの楔状に加工して固定用楔とした。
【0037】
上記耐スケール性部材のアルミナ質ファイバーブランケット側(裏面)を、炉壁を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側表面に当接させ、上記固定用楔を耐スケール部材に設けた楔挿入孔に挿入し、更にセラミックファイバーモジュール内に押し込んで固定した。尚、隣接する耐スケール性部材の端部同士は、10mm程度重ね合わせて密着させた。
【0038】
その後、耐スケール試験として、直径が100mm及び厚さが3mmの鉄製円板を、セラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側表面に固定した耐スケール性部材表面の中央部や目地部に配置し、1420℃で3時間加熱した後急冷した。この試験後、鉄板は耐スケール性部材の表面で溶融していたが、耐スケール性部材や目地部へのスケールの侵入は認められなかった。また、溶融凝固したスケールは剥がれ難かった。更に、塗布層を含めて耐スケール性部材に損傷は発生せず、固定用楔にも損傷はなかった。
【0039】
[実施例2]
上記実施例1と同様に耐スケールコーチング材をアルミナ質ファイバーブランケットに塗布した後、その塗布面を厚さ18μmのポリエチレンフィルムで覆った。次に、ポリエチレンフィルムの上からローラーで平滑に均すと同時に、塗布厚さを上記実施例1と同じく2mmとした。
【0040】
得られた耐スケール性部材を、上記実施例1と同様にしてセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側表面に固定し、同様に耐スケール試験を実施した。その結果、鉄製円板は耐スケール性部材の表面で溶融していたが、耐スケール性部材や目地部へのスケールの侵入は認められなかった。また、溶融凝固したスケールは容易に剥がれた。更に、塗布層を含めて耐スケール性部材及び固定用楔に損傷はなかった。
【0041】
[実施例3]
固定用楔として、アルミナ質ファイバー25重量%と、アルミナ粉末70重量%と、無機バインダーのシリカゾル5重量%とに、有機バインダーのでん粉を外割で4重量%加え、真空脱水加圧成形した。得られた成形体を乾燥固化させた後、楔状に加工して嵩密度800kg/mの固定用楔を得た。
【0042】
この固定用楔を用いたこと以外は上記実施例1と同様にして、セラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側表面に耐スケール性部材を固定し、同様に耐スケール試験を実施した。その結果、鉄製円板は耐スケール性部材の表面で溶融していたが、耐スケール性部材や目地部へのスケールの侵入はなく、また耐スケール性部材及び固定用楔に損傷はなかった。
【0043】
[比較例1]
耐スケール性コーチング材の配合にアクリレート系ラテックス樹脂を加えない以外は上記実施例1と同様にして、耐スケール性部材を製造した。この耐スケール性部材を、上記実施例1と同様に施工して、セラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側表面に固定し、耐スケール試験を実施した。
【0044】
施工の際に隣接する耐スケール性部材の端部同士を10mm程度重ね合わせて曲げると、乾燥固化した耐スケール性コーチング材が剥離した。また、その状態で上記実施例1と同様に耐スケール試験を実施したところ、耐スケール性部材間の隙間からスケールが侵入し損傷が発生していた。
【0045】
[比較例2]
耐スケール性コーチング材の配合の際に、アクリレート系ラテックス樹脂の代わりにスチレン・ブタジエン共重合体系ラテックス樹脂を用いた以外は上記実施例1と同様にして、耐スケール性部材を製造した。この耐スケール性部材を、上記実施例1と同様に施工して、セラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側表面に固定し、耐スケール試験を実施した。
【0046】
施工の際に隣接する耐スケール性部材の端部同士を10mm程度重ね合わせて曲げると、乾燥固化した耐スケール性コーチング材が剥離した。また、その状態で上記実施例1と同様に耐スケール試験を実施したところ、耐スケール性部材間の隙間からスケールが侵入していた。
【0047】
[比較例3]
固定用楔の作製の際にアルミナ質ファイバーを5重量%及びアルミナ粉末を95重量%とした以外は上記実施例1と同様にして、嵩密度1000kg/mの固定用楔を得た。これをセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側表面に耐スケール性部材を固定し、同様に耐スケール試験を実施した。その結果、固定用楔は、熱衝撃で破損した。
【0048】
[比較例4]
固定用楔の作製の際にアルミナ質ファイバーを90重量%及びアルミナ粉末を5重量%とした以外は上記実施例1と同様にして、嵩密度380kg/mの固定用楔を得た。これをセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側表面に耐スケール性部材を固定し、同様に耐スケール試験を実施したが、強度が小さくて施工時に破損した。
【符号の説明】
【0049】
1 耐スケール性部材
1a 楔挿入孔
2 アルミナ質ファイバーブランケット
3 塗布層
4 セラミックファイバーモジュール
5 固定用楔
6 水冷パイプ
7 抜け止め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁又は炉内高温部を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に施工される耐スケール性部材であって、アルミナ質ファイバーブランケットからなる母材と、その母材の少なくとも高温雰囲気となる表面側に設けた耐スケール性コーチング材の塗布層とを有し、該耐スケール性コーチング材の塗布層はアルミナ粉末及びアルミナ質ファイバーと共に、マグネシア粉末とアクリレート系ラテックス樹脂を含有することを特徴とする耐スケール性部材。
【請求項2】
前記耐スケール性部材の少なくとも耐スケール性コーチング材の塗布層が樹脂フィルムで覆われ、該塗布層を有する耐スケール性コーチング材の高温雰囲気側表面が平滑に均されていることを特徴とする、請求項1に記載の耐スケール性部材。
【請求項3】
前記耐スケール性コーチング材は、アルミナ粉末が60〜85重量%、マグネシア粉末が10〜30重量%、アルミナ質ファイバーが5〜10重量%であり、これらの合計に対しアクリレート系ラテックス樹脂を5〜30重量%含んでいることを特徴とする、請求項1又は2に記載の耐スケール性部材。
【請求項4】
炉壁及び炉内高温部を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に施工される耐スケール性部材の製造方法であって、アルミナ粉末及びアルミナ質ファイバーと共に、マグネシア粉末とアクリレート系ラテックス樹脂を含有する耐スケールコーチング材を、母材となるアルミナ質ファイバーブランケットの片方の表面に、該片方の表面と反対側の表面から吸引しながら塗布することを特徴とする耐スケール性部材の製造方法。
【請求項5】
前記耐スケール性コーチング材を塗布した後、該塗布層が乾燥する前に、少なくとも該塗布層を樹脂フィルムで覆い、該樹脂フィルムを上方から圧縮して、耐スケール性コーチング材の塗布層側表面を平滑に均すことを特徴とする、請求項4に記載の耐スケール性部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかの耐スケール性部材を、炉壁又は炉内高温部を構成するセラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に施工する方法であって、セラミックファイバーモジュールの高温雰囲気側に、前記耐スケール性部材の前記塗布層と反対側の面を当接させ、アルミナ質ファイバーとアルミナ粉末をバインダーで成形固化し且つ嵩密度が400〜800kg/mの固定用楔を、該耐スケール性部材に設けた楔挿入孔からセラミックファイバーモジュール内に押し込むことにより、耐スケール性部材を炉壁又は高温部に固定することを特徴とする耐スケール性部材の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−76971(P2012−76971A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225515(P2010−225515)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(391029509)イソライト工業株式会社 (24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】