説明

耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布

【課題】保管状態に注意を払うことなく、また長期の使用において機械的特性の低下が小さく耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布を提供する。
【解決手段】スパンボンド法により形成されたスパンボンド不織布であり、スパンボンド不織布を構成する繊維が、耐加水分解剤によりカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されているポリ乳酸系重合体と、前記ポリ乳酸系重合体よりも低い融点を有するポリオレフィン系重合体とが複合してなる複合繊維であり、複合繊維の横断面においてポリオレフィン系重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成している耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維形成性を有するポリマーは、その殆どが石油を原料とするものであるが、石油資源を大量消費することにより、地質時代より地中に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に放出され、さらに地球温暖化が深刻化することが懸念されている。また、20世紀の高度成長期における石油を原料とする化学製品の大量生産、大量消費、大量廃棄社会は、これまで人類の生活を豊かにしてきた反面、環境への影響や化石資源枯渇等を提起するに至っている。
【0003】
これに対し、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料として繊維形成性ポリマーを合成することができれば、二酸化炭素循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるのみならず、資源枯渇の問題も同時に解決できる可能性がある。このため植物資源を原料とするポリマー、すなわちバイオマスポリマーに注目が集まっている。
【0004】
バイオマスポリマーとして、現在、最も注目されているのはポリ乳酸である。ポリ乳酸は生分解性を有するポリマーであり、生分解する機構の第1ステップとして加水分解が生じるものであることから、ポリ乳酸によって形成された繊維を高温多湿の雰囲気下に放置すると機械的特性の低下をおこし製品寿命が短くなるという問題点がある。したがって、ポリ乳酸繊維を適用する際には保管状態や用途が限定されることとなる。
【0005】
この問題を解決するため、耐加水分解剤たとえばカルボジイミド化合物を添加して耐加水分解性を向上させたポリ乳酸繊維が開示されている(特許文献1〜6)。しかしながら、カルボジイミド化合物は耐熱性が悪く、これに起因して、カルボジイミド化合物を添加したポリマーを溶融紡糸すると、ポリ乳酸中の反応活性末端と反応していない、いわゆる未反応のカルボジイミド化合物が、ポリ乳酸の溶融紡糸温度である200〜250℃で急激に熱分解する。これにより刺激性の熱分解ガスが発生して、作業環境が悪化するという問題がある(特許文献3[0009])。
【特許文献1】特開平11−80522号公報
【特許文献2】特開2002−180328号公報
【特許文献3】特開2004−332166号公報
【特許文献4】特開2007−63711号公報
【特許文献5】特開2007−23444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、バイオマスポリマーであるポリ乳酸を用いた不織布であって、保管状態に注意を払うことなく、また長期の使用において機械的特性の低下が小さく耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、スパンボンド法により形成されたスパンボンド不織布であり、スパンボンド不織布を構成する繊維が、耐加水分解剤によりカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されているポリ乳酸系重合体と、前記ポリ乳酸系重合体よりも低い融点を有するポリオレフィン系重合体とが複合してなる複合繊維であり、複合繊維の横断面においてポリオレフィン系重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成していることを特徴とする耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布を要旨とするものである。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明に用いるポリ乳酸系重合体としては、ポリ−D−乳酸と、ポリ−L−乳酸と、D−乳酸とL−乳酸との共重合体と、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との群から選ばれる重合体、あるいはこれらのブレンド体等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの中でも、特にヒドロキシカプロン酸やグリコール酸が、分解性能や低コストの点から好ましい。
【0011】
本発明においては、上記ポリ乳酸系重合体のうち、融点が150℃以上の重合体あるいはこれらのブレンド体を用いることが好ましい。融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体は、高い結晶性を有しているため、構成繊維同士を熱接着する際や得られた不織布をヒートシール加工する際等の熱処理加工時に収縮が発生しにくく、また、熱処理加工を安定して行うことができるからである。さらに、不織布の耐熱性が優れるため、輸送時や保管時において不織布性能や形態の変化が生じ難い。
【0012】
ポリ乳酸のホモポリマーであるポリ−L−乳酸やポリ−D−乳酸の融点は、約180℃である。ポリ乳酸系重合体として、ホモポリマーでなく、共重合体を用いる場合には、共重合体の融点が150℃以上となるように、モノマー成分の共重合比率を決定するとよい。例えば、L−乳酸とD−乳酸との共重合体の場合、L−乳酸とD−乳酸との共重合比が、モル比で、(L−乳酸)/(D−乳酸)=5/95〜0/100、あるいは(L−乳酸)/(D−乳酸)=95/5〜100/0のものは、融点が150℃以上である。共重合比率が前記範囲を外れると、共重合体の融点が150℃未満となり、非晶性が高くなる。
【0013】
本発明では、ポリ乳酸系重合体は、耐加水分解剤によりカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されている。ポリ乳酸系重合体に配合される耐加水分解剤について説明する。
【0014】
ポリ乳酸の分解は、その初期に加水分解が始まり、加水分解によって低分子量になった後に微生物により分解される。加水分解を抑えるために、耐加水分解剤を添加する。ポリ乳酸系重合体に配合される耐加水分解剤は、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物からなる群から選択される少なくとも一つのものであることが好適である。
【0015】
このような特定の耐加水分解剤を添加することにより、残存モノマーや分解により生じたカルボキシル基末端が封止され、加水分解の連鎖反応が十分に抑制されることにより、耐湿熱性および耐熱性が向上することとなる。なお、耐加水分解剤の中でもカルボジイミド化合物を用いることが好ましい。カルボジイミド化合物は、カルボキシル基の封鎖性に優れており、さらに脂肪族ポリエステルとの溶融混練性により優れており、少量の添加で効果的に加水分解を抑制できる。
【0016】
本発明において耐加水分解剤として使用されるカルボジイミド化合物としては、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物(モノカルボジイミド化合物およびポリカルボジイミド化合物など)が好ましく、一般的によく知られた方法で合成されたものを使用するとよい。
【0017】
モノカルボジイミド化合物としては、例えば、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジ−tert.−ブチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどが挙げられる。耐加水分解剤として用いられるモノカルボジイミド化合物は、1種の単独使用であっても複数種の混合物であってもよい。耐熱性および反応性や脂肪族ポリエステルとの親和性の点でN,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドを用いることが好ましい。
【0018】
ポリカルボジイミド化合物としては、例えば、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートの少なくとも1種に由来し、分子中に2以上のカルボジイミド基を有し、かつそのイソシアネート末端がカルボン酸で封止されてなるポリカルボジイミド化合物であることが好ましい。
【0019】
モノカルボジイミド化合物を使用するかポリカルボジイミド化合物を使用するかは、適宜選択すればよいが、ポリカルボジイミド化合物を使用すると、ポリ乳酸系重合体の溶融紡糸時の溶融粘度が上がり、紡糸時のノズル圧の昇圧、紡糸時の糸切れが発生しやすく操業性があまりよくない。モノカルボジイミド化合物は、ポリ乳酸系重合体に添加して溶融紡糸する際に、ポリ乳酸系重合体の溶融粘度の上昇等の変化がなく紡糸操業性が良好であるため、より好ましく用いることができる。
【0020】
ポリ乳酸系重合体に対する耐加水分解剤(カルボジイミド化合物)の添加量は、0.1〜3.0質量%であることが好適である。耐加水分解剤の添加量が0.1質量%より少ないと、耐加水分解性能に効果が見られない。また3.0質量%より多いと、耐加水分解性能としての効果は十分に奏するが、未反応カルボジイミド化合物が過多となり、溶融粘度の低下あるいは増加に伴って、製糸性が悪化する傾向となる。また、一般に耐加水分解剤は高価であり、コストの点からも必要以上に添加することは好ましくない。このため、添加量のより好ましい範囲は、1.0〜3.0質量%である。なお、耐加水分解剤の添加量とは、チップブレンド時および溶融押出機内での溶融混練前におけるポリ乳酸系重合体に対する質量比での含有濃度のことをいう。得られたスパンボンド不織布を構成するポリ乳酸系重合体中に、添加した量の耐加水分解剤が全て存在するわけではなく、添加した耐加水分解剤は、(1)反応成分、(2)未反応成分、(3)熱分解分として分けられる。
【0021】
カルボジイミド化合物などの耐加水分解剤をポリ乳酸系重合体チップに混合する方法としては、ポリ乳酸系重合体チップとカルボジイミド化合物とをそれぞれ別々に乾燥した後、混練機によりいったんマスターチップを作成しておき、マスターチップとポリ乳酸系重合体チップとをチップブレンド(マスターバッチ法)して溶融紡糸してもよいし、乾燥した粉末状のカルボジイミド化合物を直接、ポリ乳酸チップに添加して混合(ドライブレンド法)してから溶融紡糸してもよい。また、予めポリ乳酸系重合体チップとカルボジイミド化合物を溶融混練により混合しチップ化したものを用意してから、溶融してもよい(コンパウンド法)。
【0022】
次に、本発明に用いるポリオレフィン系重合体について説明する。本発明ではポリオレフィン系重合体として、ポリエチレンもしくはポリプロピレン、あるいはこれらの共重合体を好適に用いることができる。また、チーグラーナッタ触媒もしくはメタロセン触媒いずれの触媒を用いて重合されたポリオレフィンを用いることができる。メタロセン触媒を用いて重合されたポリオレフィンは、重合体の分子量をコントロールすることが容易であり、分子量分布をシャープにすることができるため、構成繊維同士を熱接着する際や得られた不織布をヒートシール加工する際等の熱処理加工において、熱処理温度を決定しやすいので好ましい。
【0023】
本発明に用いられるポリオレフィン系重合体として、バイオマス由来の成分を原料とする重合体を用いるとよい。このバイオマス由来の成分を原料とするポリオレフィンの製造法としては、例えばポリエチレンの場合、トウモロコシ、サトウキビ、サツマイモなどから得られる、ショ糖、澱粉、セルロース等のバイオマスを原料とし、発酵技術によってエタノールを製造し、これを脱水反応させることでバイオマス由来のポリエチレンを得ることができる。また、ポリプロピレンの場合、上記のバイオマス資源に対し発酵条件を変更することで1,3−プロピレングリコールを製造し、これを脱水反応させることでプロピレンとし、さらに重合させることでポリプロピレンを得ることができる。さらに、共重合体としては、エチレンとプロピレンの所定量の混合体を重合させることで得ることができる。なお、本発明においてバイオマス由来の成分を原料とするポリオレフィンとは、バイオマス由来炭素の存在割合が、ポリオレフィンを構成する全炭素に対し99%以上を占めるものをいう。
【0024】
バイオマス由来の成分を原料とするポリオレフィンとして、バイオマスを原料とした重合体かどうかは、放射性炭素を含んでいるか否かを測定することによって識別することができる。バイオマス素材には、極微量ではあるが炭素14が含まれ、石油を原料とした重合体にはこれが含まれない。測定方法は、ASTM−D−6866に記載の加速器質量分析(B法)による炭素14濃度測定法を用いるとよい。ここで、本発明におけるバイオマス由来成分の含有割合を特定するにあたって、放射性炭素(炭素14)の測定を行うことの意味について、以下に説明する。大気中の高層部においては、窒素原子に宇宙線(中性子)が衝突して炭素14原子が生成される反応が継続して起こっており、これが大気中全体へと循環しているため、大気中のニ酸化炭素には、炭素14が一定割合[平均として107pMC(percent modern carbon)]で含まれていることが測定されており、光合成を行う現存の植物にはこの比率で炭素14が取り込まれていることが知られている。一方、地中に閉じ込まれた炭素14原子は、上記の循環からは隔離されているため、放射線を出しながら半減期5,370年で窒素原子に戻っていく反応のみが起こり、現在の石油などの化石原料中には炭素14原子が殆ど残っていない。したがって、対象となる試料中における炭素14の濃度を測定し、大気中の炭素14の含有割合[107pMC]を指標として逆算することで、試料中に含まれる炭素のうちのバイオマス由来炭素の割合を求めることができる。
【0025】
また、放射性炭素(炭素14)の測定では、リサイクルされたポリオレフィンに対してもバイオマス由来の成分の含有割合を分析することができるため、バイオマス由来成分のリサイクル用途への循環利用の促進を図る上でも効果的な手法である。したがって、本発明のポリオレフィンとしては、バイオマス由来成分を重合して新たに得られたポリオレフィンのみならず、バイオマス由来のポリオレフィンが含有されてなるリサイクルポリオレフィンも包含するものである。
【0026】
本発明に用いるポリオレフィン系重合体としてバイオマスを原料とするものを用いると、ポリ乳酸系重合体もまたバイオマスを原料とするものであるため、複合繊維自体がバイオマスを原料とするものとなって環境に配慮した素材といえる。
【0027】
不織布を構成する複合繊維を形成するポリ乳酸系重合体あるいはポリオレフィン系重合体には、本発明の目的を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、艶消し剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離形剤、帯電防止剤、結晶核剤、充填剤等を添加してもよい。とりわけ、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の結晶核剤を、ポリ乳酸系重合体に配合することは、紡出・冷却工程での糸条間の融着(ブロッキング)を防止するために好ましい。この結晶核剤は、0.1〜3質量%の範囲で用いるのが好ましい。
【0028】
本発明のスパンボンド不織布は、前記した耐加水分解剤によりカルボキシル碁末端の少なくとも一部が封鎖されているポリ乳酸系重合体と、ポリ乳酸系重合体よりも低い融点を有するポリオレフィン系重合体とが複合してなる複合繊維によって構成され、複合繊維の横断面においてポリオレフィン系重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成している。
【0029】
複合繊維において、ポリ乳酸系重合体よりも低い融点を有するポリオレフィン系重合体と複合させることによって、ポリ乳酸系重合体よりも融点の低いポリオレフィン系重合体が熱接着成分として機能することができる。両者の融点差は5℃以上あればよい。融点差を設けることによって、熱処理加工時にポリ乳酸系重合体が熱の影響を受け難くなる。なお、本発明において、融点を有しない重合体については、軟化点を融点とみなす。
【0030】
また、ポリオレフィン系重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成することによって、繊維表面に存在するポリオレフィン系重合体が熱接着成分として機能することができる。ポリオレフィン系重合体が、複合繊維の表面の少なくとも一部を形成する複合形態(繊維横断面形態)としては、例えば、ポリ乳酸系重合体とポリオレフィン系重合体とが貼り合わされたサイドバイサイド型、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成しポリオレフィン系重合体が鞘部を形成してなる芯鞘型、ポリ乳酸系重合体とポリオレフィン系重合体とが繊維表面に交互に存在する分割型や多葉型等が挙げられる。ポリオレフィン系重合体は熱接着成分としての役割を担わせることを考慮すると、ポリオレフィン系重合体が繊維の全表面を形成している芯鞘型であることが好ましい。また、耐加水分解剤によりカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されているポリ乳酸系重合体を繊維横断面の芯部に配置し、このポリ乳酸系重合体をポリオレフィン系重合体にて取り囲むことにより、繊維製造工程にて高温で溶融紡糸した際に、ポリ乳酸系重合体に添加されたカルボジイミド化合物などの耐加水分解剤に由来して発生する刺激性の分解ガスが、繊維の外部、つまりポリオレフィン系重合体よりも外側の部分へは放出しにくい形態とすることができる。これによって、溶融紡糸ノズルの口金直下での紡出糸条からの刺激臭や、目への刺激や、熱圧接ロール付近での刺激臭などによって作業環境が悪化するという欠点をカバーすることができる。また、ポリ乳酸系重合体をポリオレフィン系重合体によって取り囲むことにより、ポリ乳酸系重合体が直接の水分を含む空気中の雰囲気に晒されることを避けることができるため、高温多湿下に長時間放置した場合であっても機械的強度の低下が少なく、耐久性により優れるものとなる。
【0031】
ポリ乳酸系重合体とポリオレフィン系重合体の複合比(質量比)は、ポリ乳酸系重合体/ポリオレフィン系重合体=3/1〜1/3であることが好ましい。ポリ乳酸系重合体の比率が3/1を超えると、繊維全体に占める耐加水分解剤(カルボジイミド化合物)の割合が高くなり、その結果、溶融紡糸工程において、カルボジイミド化合物などの耐加水分解剤に由来した刺激性の分解ガスが発生しやすい傾向となる。また、得られた繊維を用いて不織布を製造する際の熱接着工程においても刺激臭が発生しやすい傾向となる。一方、ポリ乳酸系重合体の比率が1/3未満となると、不織布の機械的強度(初期強度)が低下する傾向となり、適用できる用途が制限される傾向となる。
【0032】
本発明における不織布は、スパンボンド法により得られるスパンボンド不織布である。スパンボンド法によれば、生産性が良く不織布を得ることができる。不織布を構成するポリ乳酸系重合体およびポリオレフィン系重合体については、高速紡糸に適する粘度を選択する。ポリ乳酸系重合体の粘度は、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度210℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレート(以下、「MFR1」と略記する。)が10〜80g/10分であることが好ましく、20〜70g/10分であることがさらに好ましい。MFR1が10g/10分以上であると粘性が高過ぎることがないため、製造工程において溶融時のスクリューへの大きな負担がかかることなく製造することが可能である。また、MFR1が80g/10分以下であると粘性が小さくなり過ぎることがないため、紡糸工程において糸切れが発生しにくく、操業性が良好となる。
【0033】
ポリオレフィン系重合体のうちポリエチレンを選択する際は、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度190℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトインデックス(以下、「MI」と略記する。)が5〜90g/10分の範囲のものが好適に用いることができる。MIが5g/10分以上のポリエチレンを用いることにより、溶融紡糸の際に、溶融温度を極端に高くしなくとも高速にて溶融紡糸を行うことができる。なお、溶融温度を極端に高くして溶融紡糸を行うと、原料重合体の熱分解が促進し、紡糸口金面に汚れが付着しやすく、操業性が著しく損なわれることとなる。一方、MIが90g/10分以下のポリエチレンを用いることにより、強度の高い繊維を得ることができる。このような理由によって、20〜80g/10分のポリエチレンを用いることがさらに好ましい。
【0034】
ポリプロピレンを選択する際は、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度230℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレート(以下、「MFR2」と略記する。)が5〜90g/10分の範囲のものが好適に用いることができる。MFR2が5g/10分以上のポリプロピレンを用いることにより、上述したポリエチレンのMIが5g/10分以上の場合と同様で、溶融紡糸の際に、溶融温度を極端に高くしなくとも高速にて溶融紡糸を行うことができる。一方、MFR2が80g/10分以上とすることにより、上述したポリエチレンのMIが90g/10分以下の場合と同様で、強度の高い繊維を得ることができる。このような理由によって、MFR2が20〜80g/10分のポリプロピレンを用いることがさらに好ましい。
【0035】
本発明のスパンボンド不織布を構成する複合繊維の単糸繊度は、2〜11デシテックスであることが好ましい。単糸繊度が2デシテックス未満になると、紡糸工程において紡出糸条が延伸張力に耐えきれずに糸切れが頻繁に発生し、操業性が悪化しやすくなる。一方、単糸繊度が11デシテックスを超えると、紡出糸条の冷却性に劣る傾向となり、糸条が熱により密着した状態で開繊装置から出てくるようになり、得られる不織布の品位が非常に劣ることとなる。これらの理由により、単糸繊度は、3〜8デシテックスがより好ましい。
【0036】
本発明のスパンボンド不織布の目付は、その用途に応じて適宜選択すればよく、特に限定しないが、一般的には10〜300g/mの範囲が好ましい。より好ましくは15〜200g/mの範囲である。目付が10g/m未満では、地合および機械的強力に劣り、実用的ではない。逆に、目付が300g/mを超えると、コスト面で不利となる。
【0037】
特に、不織布にヒートシールを施すことにより不織布同士や不織布と他のシートとを接合したり、またヒートシールによって袋状物を構成したりする場合は、その不織布の目付は15〜150g/mの範囲にあることが好ましい。目付が15g/m未満であると、不織布を構成する繊維の本数が相対的に減るため、ヒートシール部の強力が劣る傾向となる。一方、目付が150g/mを超えると、不織布の厚みが大きくなり、ヒートシール部における内層においてヒートシール加工の際に熱が十分に伝わらず、優れたヒートシール強力を得にくい傾向となる。
【0038】
本発明のスパンボンド不織布は、複合繊維同士が熱接着により一体化していることが好ましく、特に熱エンボス加工による熱接着によって一体化していることが好ましい。熱エンボス加工により熱接着している不織布は、熱接着部(熱エンボス加工の際にエンボスロールの凸部が当接することによって形成される不織布における凹部)では熱と圧力が付与されているが、非熱接着部(熱エンボス加工の際にエンボスロールの凸部が当接しない箇所)は熱や圧力の影響をほとんど受けていないため、肌触りの良好な不織布となる。また、機械的特性も良好であり、形態安定性に優れる。
【0039】
本発明のポリ乳酸系スパンボンド不織布は、上記した構成であるので、高温多湿下で一定期間放置した際であっても機械的特性の変化が少ない。すなわち、温度60℃、湿度95%RHの恒温恒湿雰囲気下に1000時間曝露した後の引張強力保持率がタテ方向およびヨコ方向共に80%以上、破断伸度保持率がタテ方向およびヨコ方向共に80%以上である。
【0040】
本発明のポリ乳酸系スパンボンド不織布は、繊維表面の少なくとも一部をポリオレフィン系重合体によって形成しているため、肌触りが良好で柔軟性を有する。また、不織布同士、あるいは不織布と他の部材と貼り合せることができるヒートシール性を有する。したがって、本発明のポリ乳酸系スパンボンド不織布は、オムツや生理用品等の衛生用品を構成する部材として好ましく用いることができる。
【0041】
本発明のポリ乳酸系スパンボンド不織布を衛生用品の部材として適用する場合、その目付は、用いられる部位に応じて適宜選択すればよいため特に限定しないが、一般的には15〜30g/mの範囲が好ましい。目付が15g/m未満であると、単位面積あたりに存在する繊維の本数が相対的に少なくなるため、孔が開いたような状態となり、例えば、衛生用品のトップシートに用いた場合、着用時に濡れ戻りが生じやすく、不快感が発生する恐れがある。一方、目付が30g/mを超えると、単位面積あたりに存在する繊維の本数が相対的に多くなるため、柔軟性や透水性に劣る傾向となり、衛生用品において用いる部位が限定される傾向となる。
【0042】
衛生用品におけるポリ乳酸系スパンボンド不織布は、柔軟性の指標である圧縮剛軟度が40cN以下であることが好ましい。圧縮剛軟度が40cNを超えると不織布の風合いが硬くなるため、衛生用品において用いる箇所が限定される傾向となる。圧縮剛軟度の値が小さい方が柔らかく好ましいが、現実的な値として、その下限は3cN程度となる。
【0043】
本発明のポリ乳酸系スパンボンド不織布は、衛生用品に用いた場合、他の部材との熱シールによる貼り合わせやヒートシール加工等の熱処理加工の際に熱収縮が発生しにくく、熱処理加工性に優れるという特徴を有する。例えば、120℃の雰囲気に5分間放置したときのタテ方向の熱収縮率を5%以下とすることができる。
【0044】
次いで、本発明のポリ乳酸系スパンボンド不織布の製造方法について説明する。
【0045】
まず、上記したポリ乳酸系重合体とポリオレフィン系重合体とを用意する。カルボジイミド化合物などの耐加水分解剤をポリ乳酸系重合体に添加するにあたっては、上記したマスターバッチ法、ドライブレンド法、コンパウンド法のいずれかを採用することによって、耐加水分解剤によりカルボキシル基末端の封鎖がされているポリ乳酸系重合体を得る。そして、ポリ乳酸系重合体を溶融するとともに、これとは別に、ポリオレフィン系重合体を計量混合してエクストルーダー内で溶融混合する。
【0046】
溶融する際の温度は、ポリオレフィン系重合体の融点をTmとして、(Tm+50)℃〜(Tm+100)℃の範囲であることが好ましい。(Tm+50)℃未満の溶融温度であると、ポリ乳酸系重合体の融点が150℃以上であった場合に十分に溶融することができず、高速紡糸をするには不十分な温度範囲となる。また、(Tm+100)℃を超える溶融温度であると、ポリ乳酸系重合体が溶融する際に熱分解を起こしてしまうために好ましくない。
【0047】
そして、繊維横断面において、ポリオレフィン系重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成することが可能な複合紡糸口金を用いて紡糸し、この紡糸口金より紡出した紡出糸条を従来公知の横吹付けや環状吹付け等の冷却装置を用いて冷却せしめた後、吸引装置を用いて牽引細化して引き取る。
【0048】
牽引細化の際の牽引速度は、3000〜6000m/分に設定することが好ましい。牽引速度が3000m/分未満であると、糸条において十分に分子配向が促進されず、得られる繊維の寸法安定性が劣りやすくなる。一方、牽引速度が高すぎると紡糸安定性に劣りやすくなる。そして、牽引細化した連続繊維は、公知の開繊器具にて開繊した後、スクリーンコンベアなどの移動式捕集面上に開繊堆積させて、構成繊維がランダムに分布した不織ウエブとする。
【0049】
次いで、得られたウエブに熱処理を施し、少なくとも繊維表面のポリオレフィン系重合体を溶融または軟化させることにより、繊維同士を熱接着して、本発明の耐久性を有するポリ乳酸系長繊維不織布を得る。
【0050】
熱処理方法としては、熱風を吹き付けによる方法、熱エンボス装置に通す方法等が挙げられるが、機械的強力と柔軟性との両方に優れた不織布を得ることが可能である点において、熱エンボス装置に通す熱エンボス加工を採用することが好ましい。すなわち、加熱されたエンボスロールと表面が平滑な金属ロールとを用いて不織ウエブを部分的に熱圧着し、構成繊維同士を一体化して不織布とする方法が好ましい。
【0051】
熱処理時の温度は、少なくとも繊維表面のポリオレフィン系重合体が溶融、または軟化する温度に設定するとよいが、処理時間等に応じて適宜選択する。例えば、ウエブを熱エンボス装置に通すことにより形成される部分的な熱接着部において、ポリオレフィン系重合体が溶融または軟化することで不織布として形態保持させるものの場合は、熱エンボス装置に通すときのロールの表面温度は、ポリオレフィン系重合体の融点よりも5〜20℃低い温度に設定することが好ましい。ポリオレフィン系重合体の融点よりも20℃低い温度からさらに低い温度に設定すると、ポリオレフィン系重合体が十分に溶融または軟化しにくいため、構成繊維同士が十分に一体化されにくく、得られる不織布の機械的性能が劣り、毛羽立ちやすいものとなる。一方、ポリオレフィン系重合体の融点よりも5℃低い温度よりも高い温度に設定すると、重合体が溶融した溶融物がロールに固着して、操業性を損ないやすくなる。
【発明の効果】
【0052】
本発明のポリ乳酸系スパンボンド不織布は、製造工程時に不快な刺激臭の発生を伴わず、かつ実用に供することのできる耐加水分解性を有し、高温多湿下での一定期間経過後の強度保持率に優れている。このため、衣料用や産業資材用途等の様々な用途に適用することが可能となる。また、本発明のポリ乳酸系スパンボンド不織布を保管中や輸送中に強度低下の恐れがなく、高品質を保持することが可能である。
【実施例】
【0053】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例における各種物性値の測定は、下記の方法により実施した。
【0054】
(1)融点(℃):示差走査型熱量計(パーキンエルマ社製、DSC−2型)を用いて、試料質量を5mgとし、昇温速度を10℃/分として測定し、得られた融解吸熱曲線の最大値を与える温度を融点(℃)とした。
【0055】
(2)繊度(デシテックス):ウエブ状態における50本の繊維の繊維径を光学顕微鏡にて測定し、密度補正して求めた平均値を繊度とした。
【0056】
(3)引張強力(N/5cm幅)および破断伸度(%):試料長20cm、試料幅5cmの試料片10点を作成し、各試料について、定速伸張型引張試験機(オリエンテック社製のテンシロンUTM−4−1−100)を用い、つかみ間隔10cm、引張速度20cm/分で伸張し、得られた切断時破断荷重(N/5cm幅)の平均値を引張強力(N/5cm幅)とした。また、上記の切断時の伸度(%)の平均値を破断伸度とした。
【0057】
(4)圧縮剛軟度(cN):長さ10cm、幅5cmの試料片5点を作成し、各試料片ごとにその長さ方向が周方向となるように曲げて円筒状物とし、各々その端部を接合したものを圧縮剛軟度測定試料とした。定速伸長型引張試験機(東洋ボールドウィン社製、テンシロンUTM−4−1−100)を用い、各測定試料ごとに、その軸方向に圧縮速度5cm/分で圧縮し、得られた最大荷重の平均値を圧縮剛軟度(cN)とした。この圧縮剛軟度は、値が小さいほど柔軟性が優れることを意味する。
【0058】
(5)肌ざわり性:不織布を手で触れた際の肌ざわり性につき、下記の3段階に官能評価した。
◎:軟らかく、肌ざわりがよい
△:ふつう
×:硬い
【0059】
(6)熱収縮率(%):20cm(縦方向)×20cm(横方向)の試料を用意し、120℃の雰囲気下に試料を5分間放置した後、縦横各辺(4辺)の長さL(cm)を測定し、下式によって熱収縮率を算出し、4辺の熱収縮率の平均値を熱収縮率とした。
熱収縮率={(20−L)/20}×100
【0060】
(7)耐加水分解性:試料となる不織布を、1000hrにわたって、温度60℃、湿度95%に設定した恒温恒湿器内に入れ、曝露時間として1000hr時間後に取り出し、上記(3)引張強力(N/5cm幅)および破断伸度(%)の測定方法によって、引張強度および破断伸度を求め、得られた引張強力および破断伸度の値から、次式によりそれぞれの保持率を算出した。
強力保持率(%)=(耐加水分解性試験後の引張強力/初期引張強力)×100
伸度保持率(%)=(耐加水分解試験後の破断伸度/初期破断伸度)×100
【0061】
実施例1
芯部を形成するためのポリ乳酸系重合体として、融点168℃、MFR20g/10分、L−乳酸/D−乳酸=98.6/1.4モル%の、L−乳酸/D−乳酸共重合体(以下、P1と略記する。)を用意した。
【0062】
P1をベースとして、耐加水分解剤としての粉末状のカルボジイミド化合物(松本油脂社製、品番EN−160)を、20質量%錬り込み含有したマスターバッチを用意した。
【0063】
さらに、P1をベースとして、結晶核剤としてのタルク(TA)を20質量%錬り込み含有したマスターバッチを用意した。
【0064】
鞘部を形成するための成分として、融点130℃、MI25g/10分、密度0.95g/m3で、チグラーナッタ触媒を用いて重合された高密度ポリエチレン(以下、P2と略記する。)を用意した。
【0065】
前記重合体をP1/P2の複合比率(質量比)が55/45となるよう個別に計量した後、P1の溶融重合体中に耐加水分解剤が1.75質量%含まれることになるように、さらにTAが0.5質量%含まれることになるように、個別のエクストルーダー型溶融押し出し機を用いて、温度210℃で溶融し、芯鞘型複合断面となる紡糸口金を用い、単孔吐出量1.3g/分で溶融紡糸した。この紡出糸条を公知の冷却装置を用いて冷却した後、口金の下方に設置されたエアーサッカーを用いて、牽引速度が4100m/分で牽引細化し、公知の開繊装置にて開繊した。次に、開繊せしめた糸条を移動するスクリーンコンベア上に単糸繊度3.1デシテックスの芯鞘型複合繊維として開繊堆積させて不織ウエブを得た。
【0066】
次いで、この不織ウエブをエンボスロールと表面平滑な金属ロールとからなる熱エンボス装置に通して熱処理を施し、目付20g/mのポリ乳酸系スパンボンド不織布を得た。熱エンボス条件としては、両ロールの表面温度を120℃とし、エンボスロールは、個々の面積が0.6mmの円形の彫刻模様で、圧接点密度が20個/cm、圧接面積率が15%のものを用いた。
【0067】
実施例2
実施例1において、ポリ乳酸系重合体中にタルクを添加しないポリ乳酸系重合体(P1)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系スパンボンド不織布を得た。
【0068】
実施例3
実施例1において、芯部を形成するポリ乳酸系重合体として、融点176℃、MFR22g/10分、L−乳酸/D−乳酸=99.9/0.1モル%の、L−乳酸/D−乳酸共重合体(以下、P3と略記する。)を用意したこと、耐加水分解剤が1.50質量%含まれることになるようにしたこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系スパンボンド不織布を得た。
【0069】
実施例4
実施例1において、耐加水分解剤が2.00質量%含まれることになるようにしたこと、芯鞘比率をP1/P2の複合比率(質量比)が70/30としたこと、牽引速度が4200m/分としたこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系スパンボンド不織布を得た。
【0070】
実施例5
実施例1において、鞘成分として、MFR2が35g/10分、融点160℃、密度0.91g/m3のポリプロピレン(以下、P4と略記する。)を用いたこと、紡糸温度を220℃としたこと、熱エンボス条件として両ロールの表面温度を135℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系スパンボンド不織布を得た。
【0071】
実施例6、7、8
実施例1において、目付を30g/m(実施例6)、目付を50g/m(実施例7)、目付を100g/m(実施例8)としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系スパンボンド不織布を得た。
【0072】
実施例9
実施例1において、鞘成分として、融点130℃、MI20g/10分、密度0.95g/m3で、バイオマス由来炭素のみを有する高密度ポリエチレン(以下、P5と略記する) を用いたこと、牽引速度が4300m/分で牽引細化し、単糸繊度3.0デシテックスの芯鞘型複合繊維としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系スパンボンド不織布を得た。
【0073】
比較例1
耐加水分解剤を添加しないポリ乳酸系重合体のみを用いて溶融紡糸を行い、ポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。すなわち、実施例1で用いたポリ乳酸系重合体(P1)を用い、また、P1をベースとして、結晶核剤としてのタルク(TA)を20質量%錬り込み含有したマスターバッチを用いて、ポリ乳酸系重合体中にTAが0.5質量%含まれることになるように計量した重合体を、エクストルーダー型溶融押し出し機を用いて、温度210℃で溶融し、単相型の円形断面となる紡糸口金を用い、単孔吐出量1.7g/分で溶融紡糸した。この紡出糸条を公知の冷却装置を用いて冷却した後、口金の下方に設置されたエアーサッカーを用いて、牽引速度が5000m/分で牽引細化し、公知の開繊装置にて開繊した。次に、開繊せしめた糸条を移動するスクリーンコンベア上に単糸繊度3.3デシテックスの繊維として開繊堆積させて不織ウエブを得た。
【0074】
次いで、この不織ウエブをエンボスロールと表面平滑な金属ロールとからなる熱エンボス装置に通して熱処理を施し、目付20g/mのポリ乳酸系スパンボンド不織布を得た。熱エンボス条件としては、両ロールの表面温度を130℃とし、エンボスロールは、個々の面積が0.6mmの円形の彫刻模様で、圧接点密度が20個/cm、圧接面積率が15%のものを用いた。
【0075】
比較例2
実施例1において、芯成分におけるポリ乳酸系重合体に耐加水分解剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系スパンボンド不織布を得た。
【0076】
得られた実施例1〜9、比較例1,2で得られたスパンボンド不織布の測定結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

表1からも明らかなように、本発明の実施例1〜9のポリ乳酸系スパンボンド不織布は、柔軟性に優れ、初期の機械的特性に優れたものであった。また、一定期間、高温多湿の雰囲気下に放置した後の強度変化は少なく、耐久性に優れることがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパンボンド法により形成されたスパンボンド不織布であり、スパンボンド不織布を構成する繊維が、耐加水分解剤によりカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されているポリ乳酸系重合体と、前記ポリ乳酸系重合体よりも低い融点を有するポリオレフィン系重合体とが複合してなる複合繊維であり、複合繊維の横断面においてポリオレフィン系重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成していることを特徴とする耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布。
【請求項2】
複合繊維が、耐加水分解剤によりカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されているポリ乳酸系重合体が芯部を形成し、ポリオレフィン系重合体が鞘部を形成してなる芯鞘型複合繊維であることを特徴とする請求項1記載の耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布。
【請求項3】
温度60℃、湿度95%RHの恒温恒湿雰囲気下に1000時間曝露した後の引張強力保持率が80%以上、破断伸度保持率が80%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布。
【請求項4】
ポリ乳酸系重合体とポリオレフィン系重合体との複合比が、質量比でポリ乳酸系重合体/ポリオレフィン系重合体=3/1〜1/3であることを特徴とする請求項1〜3記載の耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布。
【請求項5】
ポリオレフィン系重合体がバイオマス由来の成分を原料とする重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布。
【請求項6】
耐加水分解剤がモノカルボジイミド化合物であることを特徴とする請求項1〜5記載のいずれか1項に記載の耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布。
【請求項7】
複合繊維同士が熱接着により一体化していることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布。
【請求項8】
請求項1〜7までのいずれか1項記載の耐久性を有するポリ乳酸系スパンボンド不織布によって形成されていることを特徴とする衛生用品。
【請求項9】
ポリ乳酸系スパンボンド不織布の目付が15〜30g/mであり、ポリ乳酸系スパンボンド不織布の圧縮剛軟度が40cN以下であることを特徴とする請求項8記載の衛生用品。


【公開番号】特開2010−144302(P2010−144302A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325124(P2008−325124)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】