説明

耐候性試験装置

【課題】 従来の紫外線照射を利用した試験装置よりも格段に短時間で耐候性評価試験が実施可能であり、従来のリモートプラズマにより生成したラジカルの照射を用いた方法よりも屋外自然曝露との相関性が高い耐候性評価試験結果を与える耐候性試験装置を提供する。
【解決手段】 耐候性試験装置は、内部が大気圧以下の圧力に排気、保持可能に構成された試験室を有し、前記試験室は原子状または分子状ラジカル放射束を生成するリモートプラズマ源と、紫外放射束を生成する光源とを備えると共に、該試験室内部に配置する被試験基材を、前記ラジカル放射束と前記紫外放射束とを同時に照射可能な位置に配置して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック、塗膜、紙、といった有機系、若しくは、有機/無機複合材質の基材を短時間で促進劣化させて、評価試験を行う耐候性試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチックや塗膜のような有機物を主成分として含む材料を屋外曝露よりも短時間で促進劣化させて、材料の耐久性や寿命などの評価試験を行う耐候性試験装置が存在する。
【0003】
このような装置としては、例えば、各種のランプ光源から発する紫外放射束を含むような擬似太陽光を基材へ照射して、数ヶ月から数十年間に亘る長い時間を要する屋外自然曝露試験を1000時間以内の時間で評価が可能な促進劣化試験装置が一般的に知られている。
【0004】
さらには、別の手法として、減圧下、プラズマ発生部とプラズマ照射部(被試験基材)とが距離を置いて設置され、プラズマから生成される酸素ラジカル(原子状酸素)を基材に照射するリモートプラズマ装置を用いることで、劣化促進を数時間以内に評価可能な促進試験方法が提案され、特許文献1、2などに開示されている。
【特許文献1】特開2003−322607号公報
【特許文献2】特開2004−212380号公報
【0005】
しかしながら、前者の方法では、屋外曝露との相関性はあるものの、依然として評価に要する時間が数100時間以上と長いため、有機系、特にプラスチックや塗料材料の開発期間短縮や開発コスト低減につながらないという欠点があった。
【0006】
また、後者の特許文献1、2に開示されている方法においては、発明者らが、文献等から類推して作製した装置により各種条件で実施した詳細な追試によると、リモートプラズマ源からの輻射熱による被試験基材の熱劣化を避けるために、リモートプラズマ源と被試験基材との距離をおよそ20cm以上離す必要性があり、その結果、折角、上流域で高密度なプラズマ、及びラジカルを生成しても、被試験基材を配置した下流域でその量が半減してしまうためプラズマの利用効率が悪く、さらに装置自体が大型化してしまい、プラズマ源、及び減圧装置に要するコストを考えると、費用対効果という面で未だ改善する余地があった。
【0007】
さらに、後者の方法においては、発明者らの追試によれば、自然環境に存在する重要な劣化因子である紫外放射(UV光)の影響がほとんど考慮されていないため、酸素ラジカル(原子状酸素)による基材のごく表面層の酸化のみが優先的に促進されてしまい、実際の屋外自然曝露で発生する劣化、例えば、表面荒れ、チョーキング、黄変といった複合的な劣化を再現できず、屋外自然曝露との相関性を得難いという欠点が存在することが判明した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような問題点を鑑み、まず、第一の側面では、従来手法であるランプ光源からの紫外線の照射を利用した試験装置よりも非常に短時間で評価試験が可能な耐候性試験装置の提供を目的とする。さらに、第二の側面では、従来手法のリモートプラズマにより生成したラジカルの照射を用いた方法よりも屋外自然曝露との相関性が高い耐候性試験装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、耐候性試験において、被試験基材に対して、ランプ光源からの紫外線照射とリモートプラズマによるラジカル照射とを同時に行なうと、屋外自然曝露試験はもちろん、従来の紫外線照射による方法よりも格段に短い時間で、屋外自然曝露との相関性が高い試験結果が得られることを発見し、本発明を構築したものである。
【0010】
すなわち、上記の課題を解決するため、本発明の耐候性試験装置においては、内部が大気圧以下の圧力に排気、保持可能に構成された試験室を有し、前記試験室は原子状または分子状ラジカル放射束を生成するリモートプラズマ源と、紫外放射束を生成する光源とを備えると共に、該試験室内部に配置する被試験基材が、前記ラジカル放射束と前記紫外放射束とを同時に照射可能な位置に配置されるようにする。
【0011】
また、本発明の装置では、前記紫外放射束が400nm以下の波長域の紫外線を含むようにする。
【0012】
また、前記試験室内に配置される前記被試験基材と前記リモートプラズマ源との距離、及び前記被試験基材と前記光源との距離をいずれも15cm以内とする。
【0013】
また、前記リモートプラズマ源に供給される原料ガスが、酸素、水蒸気の何れか単体、又はこれらの混合ガスが用いられるようにする。
【0014】
また、前記被試験基材を載置する試料台が、温度測定手段と温度調節機構を具備し、前記被試験基材の温度が10℃から70℃の範囲内に保持されるようにする。
【0015】
さらに本発明の装置では、前記光源からの紫外放射束を測定する照度計が具備されるようにする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の紫外線照射単独による耐候性試験装置、又は酸素ラジカルのみを照射するリモートプラズマによる耐候性試験装置よりも、短時間に、且つ屋外自然曝露との高い相関性を有する促進劣化評価試験が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明を行う。
【0018】
図1、2は本発明の実施の態様に係わる耐候性試験装置を示す概略模式図である。本発明の耐候性試験装置1は、被試験基材4がラジカル放射束11と紫外放射束12とを同時に照射可能な位置に配置される特徴を有している。まず試験室10内の試料台5の所定位置に被試験基材4を載置し、ここでは図示されない排気手段によって、試験室10内部を所定の圧力まで排気した後、後述するリモートプラズマ源2から生成されるラジカル放射束11を被試験基材4に対して照射し、それと同時に、光源3から放射される紫外放射束12を被試験基材4に対して照射する。
【0019】
このときの試験室10内部の圧力は、所望の試験条件によって適宜決定されるが、プラズマ生成が困難とならない圧力、概ね、大気圧から10−2Pa程度の範囲内の圧力に排気、保持される。
【0020】
本発明で用いるリモートプラズマ源は、減圧装置に装備された公知の技術であるラジカル源等の内部に、酸素、水蒸気を原料ガスとして導入された後に、プラズマが励起される様式のものである。
【0021】
リモートプラズマ源2は、図3に例示したように、石英ガラスやアルミナ製の筒状誘電体30の周囲に誘導コイル31を密着配置し、高周波の外部空間への漏洩防止のため、誘導コイル31の外周をさらに金属カバー32で覆って構成し、筒状誘電体30内部に原料ガス8を導入した後、誘導コイル31へ高周波を印加することで所望のプラズマを生成するように構成されている。
【0022】
尚、リモートプラズマ源の構成としては、ここでは図示されていないが、例えば、平板や円筒状の形状で、各々、一定の間隙を隔てた一対の金属製対向電極に電界を印加することによって電極間間隙にプラズマを生成する構成や、誘電体の窓材を介した減圧放電室内へのマイクロ波供給によってプラズマ生成を行う構成を常套手段として用いることができる。
【0023】
また、ここで用いられる放電プラズマ生成用の電源としては、例えば、直流(DC)やkHz、MHz、GHzの周波数帯を出力可能なものが挙げられ、圧力条件、電極構成、形状などに応じて適宜選択が可能である。
【0024】
図3に例示したリモートプラズマ源2の構成についてさらに詳細を説明する。放電室21の減圧空間側、即ち、出射口には、複数のオリフィスを有する金属製若しくは誘電体製のオリフィスプレート33が密着配置される。ここで、これらのオリフィスの孔径を、プラズマ20のイオンシースの厚みよりも十分小さい寸法、例えば0.5mm以下とすることによって、プラズマ20で生成されるイオン種は放電室21内部に補足され、減圧空間へ拡散するのが阻止される。一方、プラズマ20から生成する電荷を持たないラジカルは放射束11として減圧空間へ出射され、被試験基材3へ照射されることとなるため、イオン種による基材表面の不要な物理変化(スパッタリング)やそれに起因する不要な基材温度の上昇を大幅に低減することが可能である。
【0025】
さらに、ここでは詳しく図示されていないが、イオンや電子による影響を完全になくすために、ラジカル放射束11の出射口であるプレート33の下側に、所定のバイアス電圧を印加した金属製メッシュを配置し、イオンや電子を被試験基材4まで到達させないように、金属製メッシュ部分で誘引、除去する構成としても良い。被試験基材4の酸化劣化の観点からは、イオン種や電子よりも非常に活性な原子状酸素(・O)や、さらに強い酸化力を有する水酸基ラジカル(・OH)が好適に用いられ、各々単独、若しくは混合して被試験基材4に対して照射される構成となっている。
【0026】
尚、本発明でいうラジカルとは、不対電子を持つ活性化学種の総称であり、非常に反応力が強いという性質を持つ。また、ラジカルの観測には、ここでは特に図示されていないが、プラズマからの発光励起種をモニター可能な発光分光分析法(OES)や、銀薄膜をコーティングした水晶素子の周波数変動を利用した水晶振動子微小天秤法(QCM)による計測が好適に用いられる。
【0027】
次に、本発明の装置において、光源3として、波長400nm以下の紫外放射束(図中点線矢印で表示)を発生可能なランプ光源、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、キセノンエキシマランプなどが好適に用いられる。上記波長以下の放射光を含む必要がある理由としては、特にプラスチック樹脂やインク塗料など有機物の酸化劣化の40%以上が290〜345nm、30%程度が300〜400nmの紫外放射光照射によって起こり、この範囲以上の波長400nmを超える可視放射光はほとんど劣化に寄与しないことが検証されている(参考文献;「高分子材料の物性評価技術」、橋本著、工業調査会)ためである。
【0028】
このため、本発明では、上記範囲の紫外放射であれば、特定の単一波長でも連続スペクトルでも構わず、例えば単一波長光源として、UV−LED等を用いても良い。さらに、上記範囲の紫外放射に混じって、可視放射や赤外放射を含んでいても構わない。また、上記範囲外の放射束によって被試験基材の不要な温度上昇等を招く恐れがある場合は、ランプ光源のガラス表面に400nm以下の波長放射束のみを透過するバンドパスフィルター(光学多層薄膜等)を被覆して用いても良い。
【0029】
紫外放射束としては、具体的には、水銀発光線365nm、254nm、185nm、キセノン二量体の発光線172nmの波長光などが好適に用いられる。これら紫外放射は、上述の酸化劣化以外にも、E(eV)=λ(nm)/1240の関係式から、放射波長λ(nm)が短い光ほどそのエネルギーE(eV)が高いため、基材表面の各種化学結合を切断し易く、さらに劣化促進性が得られ易い。各波長の放射束については、試験室10に具備された各波長対応の照度計によって、その照度が常に測定、監視される。
【0030】
光源3の配置箇所としては、直接、真空内へ配置する図1に示すような構成の他、図2に示したように、波長400nm以下の紫外放射を透過可能であり大気と真空を隔てる光学窓40を介して、大気側に配置した光源3から被試験基材4に対して紫外放射束12を照射するような構成としても良い。
【0031】
さらに本発明では、前記リモートプラズマ源2から生成されるラジカル放射束11と光源3からの紫外放射束12を同時に被試験基材へ照射可能な位置に配置することで、各々単独で照射する構成の従来手法の装置と比較して、屋外曝露に非常に近い状態の劣化を再現することができる。すなわち、屋外自然曝露では頻繁に発生する複合的な劣化、例えば、紫外放射束12の照射によって起こる基材表面の化学結合基の切断に起因する基材表面の色変化(色差)といった劣化、及びラジカル束11照射によって起こる基材表面の酸化に起因するチョーキングといった劣化は従来手法の装置では同時に複合して再現することが難しかったが、上述のような装置構成とすることで、これらを同時に発生させることが可能である。
【0032】
また、本発明によれば、被試験基材の種類によっては、水酸基ラジカル(・OH)を用いることで、屋外自然曝露の加湿状態に近い環境を擬似的に再現でき、劣化促進に加え、屋外自然曝露との高い相関性を得ることができる。尚、本発明装置による促進劣化の相乗効果については、後の実施例で詳述する。
【0033】
本発明装置では屋外自然曝露との相関性を確保するために、被試験基材4とそれを載置する試料台5とに、それぞれ温度測定手段6及び温度調節機構7を具備し、被試験基材4を10〜70℃の範囲内の所定温度に保持することが可能である。
【0034】
基材温度を上記範囲内とする理由は、10℃未満では、被試験基材4に結露が生じる場合があり、70℃を超える温度では、劣化促進性は得られ易い傾向にあるものの、有機系の被処理基材の場合、熱劣化により、溶融、変質を起し、屋外自然曝露との相関性がなくなるためである。尚、ここでは被試験基材4を直接温度測定した場合を示したが、本発明ではこの限りではなく、例えば試料台5の温度を間接的に測定する構成でも良い。
【0035】
尚、図1では、被試験基材4の温度測定手段6として一般的な熱電対を、温度調節機構7として試料台5への循環式水冷機構を用いる場合を示したが、この他に例えば、図2に示したように温度測定手段6として放射温度計70のような間接的温度計測器を用いても良く、また、温度調節機構7には、冷却手段としてペルチェ素子やヒートパイプ等を、結露防止の加熱手段として電熱ヒーター、ハロゲンランプ等をそれぞれ単独、若しくは複合して用い、温度測定手段6に連動させて、温度調節ができる機構としても良い。これにより、処理の促進性を図るため被試験基材4の温度を室温以上に保持することや、リモートプラズマ源2、光源3からの輻射熱による被試験基材4の不要な温度上昇を防ぐことが可能となる。
【0036】
温度測定手段6、温度調節機構7によって被試験基材4が10〜70℃の温度範囲に保持されることによって、従来手法で問題となっていたリモートプラズマ源2からの輻射熱による被試験基材4の熱劣化は皆無となるため、被試験基材4とリモートプラズマ源2、及び被試験基材4と光源3との距離を十分近づけることができる。具体的には、被試験基材4とリモートプラズマ源2、被試験基材4と光源3の各距離を15cm以内とすることができ、発生するラジカル放射束11、紫外放射束12の有効利用に加え、試験装置自体の小型化が図れるため、経済的に有利となる。
【0037】
さらに本発明の装置としては、ラジカル放射束11と紫外放射束12とを同時に被試験基材4に対して照射できる構成であれば、図1、図2に例示したようなリモートプラズマ源2、光源3を各々1基ずつ具備する構成に限ったものではなく、図4に例示したように、リモートプラズマ源を2基(2A、2B)、光源を複数基(3A、3B、3C)具備する構成とすることが可能であり、試験目的によっては例えば、1つのリモートプラズマ源2Aからは酸素ラジカル(・O)を、他のリモートプラズマ源2Bからは水酸基ラジカル(・OH)を生成させた状態として、一方、光源3A、3B、3Cからはそれぞれ365nm、254nm、185nm各波長の紫外放射を光学窓40越しに、各々、照度計50によって適宜、照度をモニターしながら、被処理基材4に照射する構成としても良い。
【0038】
以下、本発明の具体的態様の例を示す。
【実施例1】
【0039】
図1に示した構成の試験室10に、図3で示した構造のリモートプラズマ源2をセットして用いた。まず試験室10のステンレス製チャンバー内部をロータリーポンプ(図示せず)によって10−1Pa台まで排気後、リモートプラズマ源2から原料ガス8として酸素ガスを圧力2×10Pa台まで導入し、図3に示した誘導コイル31へ13.56MHzの高周波100Wを印加することで、放電室21内に酸素プラズマを生成させた。
【0040】
酸素ラジカルの生成有無を調べるため、試験室10に附属の光学窓(図示せず)を通して発光分光分析を行った結果、φ0.5mm複数孔を有するアルミナ製誘電体プレート33から約50mmの距離の空間において、原子状酸素(O)に帰属される波長777nmの発光ピークのみが観測され、酸素ラジカルが選択的に試験室10内に出射されていることを確認した。その時の発光分光分析結果の一例を図5に示す。
【0041】
尚、上記説明では酸素のラジカルを使用した場合のみを例示したが、上述の通り、酸素ラジカルよりも酸化力の強い水酸基ラジカル(・OH)を用いることも可能である。水酸基ラジカル(・OH)を生成するには、原料ガスに水蒸気を用いると良い。但し、原料ガスとして、水蒸気のみを導入すると、プラズマが生成しづらくなる場合があるため、例えば、加湿した酸素ガスや、キャリアガスとしての窒素やアルゴン等の不活性ガスを水蒸気と混合し、これらの混合ガスを原料ガスとして用いることも可能である。
【0042】
次に、試験室10内部に予め、紫外放射波長365nm、放射照度60mW/cmの高圧水銀ランプ(100W)を光源3としてセットし、ここでは図示されない専用の安定器に接続、電源を投入することで点灯状態にし、リモートプラズマ源2と光源3の各中心軸(図中では1点鎖線で示す)が試料台5上で交差する付近(各照射源の端面から距離15cmの位置)に、液晶パネル用バックライト反射材である硫酸バリウム含有ポリエチレンテレフタレートシート(以下、PETシート)を被試験基材4として配置し、リモートプラズマ源2から生成された酸素のラジカル束11、及び光源3から放射された紫外放射束12を同時に基材4に対して30分間照射した。
【0043】
このとき使用したランプ光源3の分光分布の一例を図6に示す。尚、被試験基材4を支持しているアルミ製の試料台5の内部(点線)には、内部を冷却水が流通し、図示されない冷却水循環装置と接続している温度調節手段7が配備され、試験中、熱電対(温度測定手段6)による温度計測との連動によって、被試験基材4の表面温度が35〜40℃の範囲内に維持されるようにした。
【実施例2】
【0044】
被試験基材4として、SPCC鋼板にリン酸塩化成処理を施した後、溶剤アクリル系樹脂塗料を片面に膜厚約20μmスプレー吹付けし、105℃、3時間で焼付け塗装した白色塗装板(以下、アクリル系白色塗装板)を用いた以外、実施例1と同じ条件にて試験を実施した。
【実施例3】
【0045】
被試験基材4として、SPCC鋼板にリン酸塩化成処理を施した後、溶剤ウレタン系樹脂塗料を膜厚約40μm吹付け後、1時間自然乾燥した白色塗装板(以下、ウレタン系白色塗装板)を用いた以外、実施例1、2と同一条件にて試験を実施した。
【0046】
<比較例1>
被処理基材4として、実施例1から3で使用したPETシート、アクリル系白色塗装板、ウレタン系白色塗装板をそれぞれ、屋外自然曝露との相関性が高いとされているメタルハライドランプ式耐候性促進試験機、岩崎電気製アイスーパーUVテスター(SUV−W151)にセットし、温度63℃、湿度60%、紫外線照度150mW/cmの条件下、PETシートについては100時間、アクリル系白色塗装板、ウレタン系白色塗装板については1000時間、各々、曝露試験を実施した。尚、本曝露試験の100時間は屋外自然曝露の約1年間に、1000時間は約10年間に相当することが知られている。
【0047】
<比較例2>
図1に示す構成の装置を用い、酸素導入圧力2×10Pa台、13.56MHz高周波100Wの条件で酸素ラジカルを生成させ、光源3を点灯させずに、リモートプラズマ源2から15cmの距離に配置したPETシートに対して、酸素ラジカル束11のみを30分間照射することで試験を実施した。尚、実施例1同様、試験中、被試験基材4の表面温度が35〜40℃の範囲内に維持されるようにした。
【0048】
<比較例3>
比較例2と同様の装置を用い、酸素導入圧力2×10Pa台で、紫外放射波長365nm、放射照度60mW/cmの光源3のみを点灯させ、光源3の端面から15cmの距離に配置したPETシートに対して、紫外放射束12のみを減圧酸素雰囲気下で30分間照射することで試験を実施した。尚、実施例1同様、試験中、被試験基材4の表面温度が35〜40℃の範囲内に維持されるようにした。
【0049】
<測定1>
試験後のPET基材の色変化を調べるため、日本電色工業製分光色差計(SE2000)にて未処理品に対する色差(ΔE*a*b)測定した。結果を表1に示す。
【0050】
<測定2>
試験後のアクリル系白色塗装板、ウレタン系白色塗装板の色変化を調べるため、測定1同様、日本電色工業製分光色差計(SE2000)にて未処理品に対する色差(ΔE*a*b)を測定した。結果を表2に示す。
【0051】
<測定3>
さらに、試験後のアクリル系白色塗装板、ウレタン系白色塗装板の表面粗化による反射状況の変化を調べるため、村上色彩製反射率計(HR100)にて拡散反射率を測定した。結果を表3に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
被試験基材である液晶パネル用バックライト光反射材のPETシートは、初期状態で白色を呈し、高い反射率を有していたが、表1に示した通り、比較例1の方法で試験を行った後は、目視で顕著に黄変して、光沢感がなくなり、測定の結果、その色差は6.1であった。一方、実施例1の方法で試験を行った後は、色差7.5となり、目視観察では、黄変に加え、チョーキング劣化(白亜化)が認められ、表面を軽く擦ると粉が落ちる状態となった。
【0054】
これに対して、比較例2による酸素ラジカルのみの照射では、目視でほとんど色変化はなく色差は0.9であったが、チョーキング劣化を起していた。比較例3による紫外放射光のみの照射では、目視でうっすら黄変(色差2.8)しているのみであった。
【0055】
そして、本発明の装置による試験方法(実施例1)と、従来の手法に対応する比較例2及び3の試験方法とでは、同一試験時間(30分間)で、色差で評価される色調変化に顕著な相違があり、本発明の装置による試験方法の方が、屋外自然曝露による試験結果に格段に近い色差を与えることを示していた。
【0056】
以上の結果から、本発明の装置による30分間の試験(実施例1)で、比較例1のUVテスター100時間の試験、即ち、屋外自然曝露の約1年間以上に相当する試験結果が得られ、評価試験の時間を大幅に短縮可能であることが明らかとなった。
【0057】
さらに、有機系材料において色差変化と等しく重要な劣化現象であり、長期間の屋外自然曝露で頻繁に発生するチョーキング(白亜化)が、酸素ラジカルと紫外放射との同時照射の複合効果によって、短時間のうちに再現可能であることが明らかとなった。このことは、本発明の装置を用いた耐候性試験を行なえば、実際に屋外自然暴露で生じる試料表面の変化との相関性を確保できることを示している。
【0058】
【表2】

【0059】
表2から、実施例2、3による酸素ラジカルと紫外放射の同時照射により、アクリル系、ウレタン系の各白色塗装板の色差が30分間で5.7〜6.8に変化した。一方、従来の手法である比較例1(UVテスター曝露試験)では、試験時間1000時間(屋外自然暴露の約10年間に相当)で色差5.1以下であり、本発明の装置を用いて非常に短時間で劣化促進試験が実施可能であることが判明した。
【0060】
【表3】

【0061】
表3から、アクリル系白色塗装板、ウレタン系白色塗装板の表面粗化状態を示す拡散反射率測定の結果、従来手法の比較例1、UVテスターによる1000時間試験(屋外自然暴露10年間相当)ではほとんど拡散反射率に増加が認められなかったが、実施例2、3、酸素ラジカルと紫外放射の同時照射によって、30分間の短時間で3%以上の拡散反射率の増加が認められ、本発明の装置によってチョーキング劣化による表面粗化が発生させることができることが判明した。
【0062】
以上説明したように、本発明の装置によって、従来手法による装置よりも屋外自然曝露との相関性が非常に高い促進劣化試験が格段に短い時間で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施態様の一例を示す装置の概略模式図である。
【図2】本発明の実施態様の別の一例を示す装置の概略模式図である。
【図3】本発明で使用するリモートプラズマ源の一例を示す概略模式図である。
【図4】本発明の実施態様の別の一例を示す装置の概略模式図である。
【図5】本発明で用いたリモートプラズマの発光分光分析結果の一例を示す図である。
【図6】本発明で用いたランプ光源の分光分布の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1… 耐候性試験装置
2、2A、2B… リモートプラズマ源
3、3A、3B、3C… 光源
4… 被試験基材
5… 試料台
6… 温度測定手段
7… 温度調節機構
8… 導入ガス
10…試験室
11…ラジカル放射束
12…紫外放射束
20…プラズマ
21…放電室
30…筒状誘電体
31…誘導コイル
32…金属カバー
33…オリフィスプレート
40…光学窓
50…照度計
70…放射温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を大気圧以下の圧力に排気、保持可能に構成された試験室を有する耐候性試験装置において、前記試験室は原子状若しくは分子状ラジカル放射束を生成するリモートプラズマ源と、紫外放射束を生成する光源とを備えると共に、前記試験室内部に配置する被試験基材は、前記ラジカル放射束と前記紫外放射束とを同時に照射可能な位置に配置したことを特徴とする耐候性試験装置。
【請求項2】
前記紫外放射束は400nm以下の波長域の紫外線を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の耐候性試験装置。
【請求項3】
前記試験室内に配置する被試験基材と前記リモートプラズマ源との距離、及び被試験基材と前記光源との距離が各々15cm以内であることを特徴とする請求項1又は2記載の耐候性試験装置。
【請求項4】
前記リモートプラズマ源に供給される原料ガスが、酸素又は水蒸気の何れか単体、あるいはこれらの混合ガスであることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の耐候性試験装置。
【請求項5】
前記被試験基材を載置する試料台が、温度測定手段と温度調節機構を具備し、前記被試験基材の温度が10℃から70℃の範囲内に保持されることを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の耐候性試験装置。
【請求項6】
前記光源からの紫外放射束を測定する照度計が具備されていることを特徴とする請求項1から5までのいずれかに記載の耐候性試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−216001(P2008−216001A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52903(P2007−52903)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】