説明

耐光性に優れた共重合ポリエステル、その繊維及び繊維製品

【課題】吸湿性・吸水性及び速乾性に優れ、従来にない著しく優れた熱伝導性と透湿性を兼ね備える新規な共重合ポリエステル及びその繊維を提供する。
【解決手段】アルキレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステルであって、ポリエーテル成分が側鎖に共重合されていると共に、特定の有機スルホン酸のNi塩、Mn塩及び/又はBa塩が共重合されている新規な共重合ポリエステルは耐光性に優れ、木綿や麻等の天然繊維を凌駕する清涼感、冷涼感を発現することができ、しかも日光暴露に伴う吸湿性、吸水性、熱伝導性、透湿性等の機能性の低下が少ない、耐光性に優れた繊維及び繊維製品を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐光性に優れた新規な共重合ポリエステル、該共重合ポリエステルからなる繊維及び繊維製品に関するものである。さらに詳細には、吸湿性、吸水性及び速乾性に優れ、かつ従来にない著しく優れた熱伝導性と透湿性を有し、特に木綿や麻等の天然繊維を凌駕する清涼感、冷涼感を発現することができ、しかも日光暴露に伴う吸湿性、吸水性、熱伝導性、透湿性等の機能性の低下が少ない、耐光性に優れた繊維となし得る新規な共重合ポリエステル、該共重合ポリエステルからなる繊維及び繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは多くの優れた特性を有するがゆえに合成繊維等の素材として広く用いられている。しかしながら、ポリエステルは疎水性であるため、木綿や麻等の天然繊維に比較して吸水性・吸湿性が著しく劣る欠点があり、吸水性や吸湿性が要求される分野での使用が制限されている。なかでも、布帛が直接肌に接する衣料用途におけるポリエステル繊維の使用は、蒸れ感やべとつき感等の著しい不快感を招来するため極度に制限されているのが実状であり、特に盛夏用衣料用途での使用は実質上皆無に近い。
【0003】
従来から、この問題を解決しようとして、ポリエステル繊維に吸水性・吸湿性を付与しようとする試みが多数なされている。例えば、ポリエステル繊維に吸水性(液体状態の水を吸収する性質)を付与する方法として、繊維表面を変性して吸水性を付与する方法と繊維内部まで吸水性を高める方法とがある。前者では原糸改質や後加工によって、繊維表面を親水性の化合物で覆う方法が主に採用されており、この他に放電処理、光グラフト、薬品によるエッチング、親水性化合物の低温プラズマ重合加工等がある。後者の方法としてはポリエステル繊維を多孔質化することによって毛細管現象を利用して吸水性を高めることが行われている。
【0004】
しかしながら、これらの方法では、感知蒸泄つまり発汗状態においては相応の効果が認められ、特に多孔質の吸水性ポリエステル繊維においては、抱水率や湿潤知覚限界(湿ったと感じ得る抱水率)を顕著に高める効果が得られると共に速乾性を有するため、汗を多量にかくスポーツ用途等で快適な汗処理機能を発揮できるものの、吸湿性(気相状態の水、即ち水蒸気を吸収する性能)を殆んど有しないためか、人間の感覚にはのぼらずに常に体外に蒸発している不感蒸泄に対しては特別の効果が認められず、蒸れ感や蒸し暑さを解消する効果は少ない。このため、木綿や麻等の天然繊維のもつ清涼感、冷涼感を呈するのには程遠い。その上、繊維の表面に親水性樹脂の皮膜を形成させる方法では、疎水性繊維の表面のみに親水性皮膜を形成させるものであり、両者の親和性が不良であるため、洗濯耐久性に劣る欠点がある。
【0005】
一方、ポリエステル繊維に吸湿性を付与する方法として、親水性化合物のグラフト重合による後加工方法が提案されている。この方法によれば、例えばポリエチレンテレフタレート繊維にアクリル酸やメタクリル酸を15重量%程度グラフト重合した後でナトリウム塩化処理を施すことによって木綿と同等の吸湿率が得られる。しかしながら、かかるグラフト重合で改質した吸湿性ポリエステル繊維は、確かに木綿並みの平衡吸湿率は有するものの、平衡吸湿率に至るまでの吸湿速度が木綿に比較して著しく小さい。このことも関係してか、着用した際の蒸れ感やべとつき感を解消する効果は少なく、清涼感は得られない。その上、この方法では染色堅牢度が低下したり、風合が硬化する等の欠点があり実用に耐えない。
【0006】
他方、ポリマー自身を吸湿性にしたポリエステルとしては、従来から知られているポリオキシエチレングリコールを共重合したポリエステル以外には注目すべきものがないのが現状である。かかるポリオキシエチレングリコール成分を含むポリエステルは、吸湿性向上効果は呈するものの、その向上効果は比較的小さく、そのため多量のポリオキシエチレングリコール成分の使用を必要とし、その結果最終的に得られる変性ポリエステル繊維の物性低下や耐熱性の低下が著しく、実用的価値は低い。
【0007】
また、ポリオキシエチレングリコール共重合ポリエステルの欠点を改良する別の提案として、ポリエステル重合体主鎖に対してポリオキシエチレングリコール成分を側鎖に有する共重合ポリエステルの製造法が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。この方法によれば、比較的少量のポリオキシエチレングリコール成分をポリエステルへ導入すうことによって、繊維になした際に吸湿性、吸水性及び速乾性に優れると共に、熱伝導性と透湿性が良好であり、優れた清涼感、冷涼感を呈する共重合ポリエステルが得られる。しかしながら、該ポリエステル重合体主鎖に対してポリオキシエチレングリコール成分を側鎖に有する共重合ポリエステルからなる繊維は、日光に長時間暴露されるような屋外で使用する用途分野にあっては、上記したような優れた吸湿性、吸水性等の機能性が低下する問題が発生する場合のあることが判明した。
【0008】
【特許文献1】特公平6−84426号公報
【特許文献2】特公平6−84427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記背景技術に鑑みなされたもので、その目的は、上述した共重合ポリエステル繊維が日光に暴露することによって機能性が低下する問題点を解消し、吸湿性・吸水性及び速乾性に優れ、従来にない著しく優れた熱伝導性と透湿性を有し、特に木綿や麻等の天然繊維を凌駕する清涼感・冷涼感を発現することができ、その上日光暴露に伴う上記機能性の低下が少ない、耐光性に優れた共重合ポリエステル並びにその繊維及び繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく、種々検討を行った結果、ポリエーテル成分が側鎖に共重合されたポリエステルに特定の有機スルホン酸のニッケル、マンガン及びバリウムから選ばれる金属塩を共重合することによって、最終的に得られる共重合ポリエステルが優れた吸湿性、吸水性、熱伝導性、透湿性等の機能性を呈すると共に、それらの機能性の日光暴露に伴う低下が著しく防止され、上述の課題が達成できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいてさらに検討した結果、完成したものである。
かくして、本発明によれば、以下の如き新規な共重合ポリエステル、その繊維及び繊維製品が提供される。
【0011】
〔1〕アルキレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステルであって、ポリエーテル成分が側鎖に共重合されていると共に下記一般式(1)で表わされる有機スルホン酸金属塩が共重合されてなる共重合ポリエステルよりなることを特徴とする耐光性に優れた共重合ポリエステル。
【化1】

〔2〕側鎖に共重合されるポリエーテル成分が、下記一般式(2)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(3)で表わされるエポキシ化合物であることを特徴とする上記〔1〕記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル。
【化2】

【化3】

〔3〕側鎖に共重合されるポリエーテル成分の共重合量が共重合ポリエステルに対して0.5〜50重量%であることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル。
〔4〕有機スルホン酸金属塩の共重合量が共重合ポリエステルを構成する二官能性カルボン酸成分に対して0.5〜5モル%であることを特徴とする上記〔l〕〜〔3〕のいずれかに記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル。
〔5〕有機スルホン酸金属塩がポリエステルの分子鎖中にランダムに共重合されていることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル。
〔6〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の共重合ポリエステルからなる耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維。
〔7〕上記〔6〕に記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維を少なくとも一部に含んでなる繊維製品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の共重合ポリエステルからなる繊維は吸湿性・吸水性及び速乾性に優れ、従来にない著しく優れた熱伝導性と透湿性を有し、特に木綿や麻等の天然繊維を凌駕する清涼感、冷涼感を発現することができ、しかも日光暴露に伴う上記機能性の低下が少ない。したがって、本発明の共重合ポリエステル繊維を含む織編物、不織布等の繊維構造物及び繊維製品は、特に屋外で使用するスポーツウェア分野や盛夏用ウェア分野等の衣料用途において極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の共重合ポリエステル繊維を構成する基体ポリエステルは、テレフタル酸を主たる二官能性カルボン酸成分とし、少なくとも1種のグリコール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ばれる少なくとも1種のアルキレングリコールをグリコール成分とするポリエステル、すなわちアルキレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル(アルキレンテレフタレート系ポリエステル)を主たる対象とする。
【0014】
かかるポリエステルにおいて、テレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置換えたポリエステル及び/又はグリコール成分の一部を主成分以外の上記グリコール若しくは他のジオール成分で置換えたポリエステルであってもよい。
【0015】
ここで使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β―ヒドロキシエトキシ安息香酸、p―オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4―シクロヘキサンジカルボン酸の如き芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸を挙げることができる。
【0016】
また、上記グリコール以外のジオール化合物としては、例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSの如き脂肪族、脂環族、芳香族ジオール化合物等を挙げることができる。
【0017】
更に、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸の如きポリカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如きポリオールを使用することができる。
【0018】
かかるポリエステルは任意の方法によって合成される。例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、通常テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させる第一段階の反応と、第一段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第二段階の反応によって製造される。
【0019】
本発明の共重合ポリエステルでは、上記基体ポリエステルの側鎖にポリエーテル成分が共重合されている。該ポリエーテル成分としてはポリオキシアルキレン成分が好ましく、具体的には、上記基体ポリエステルに、下記一般式(2)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(3)で表わされるエポキシ化合物が共重合された共重合ポリエステルを好ましいポリオキシアルキレン成分の例として挙げることができる。
【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
これらの式中、R及びRはそれぞれ炭化水素基を示し、なかでもアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアルキルアリール基が好ましい。R及びRはそれぞれアルキレン基であり、炭素原子数2〜4のアルキレン基が好ましい。具体的にはエチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基が例示される。また、2種以上の混合、例えばエチレン基とプロピレン基、若しくはエチレン基とテトラメチレン基とを持ったランダム共重合体やブロック共重合体であってもよい。m、m’はともに重合度を示す正の整数であり、30〜140の範囲であるのが好ましい。重合度が30未満では、充分な吸湿性,透湿性や木綿,麻等の天然繊維が有する清涼感・冷涼感が呈されず、本発明の目的が達成され難い。また、重合度が140を越えて大きくなると、もはや共重合が困難になり、充分な吸湿性・透湿性や清涼感・冷涼感が呈されなくなる。なかでも40〜100の範囲において特に優れた吸湿性・透湿性が発現すると共に清涼感・冷涼感が特に顕著に奏されるので好ましい。なお、上記のRとR、RとR、mとm’とは、相互に同一であっても相異なっていてもよい。
【0023】
上記一般式(2)で示されるジオール化合物の好ましい具体例としては、ポリオキシエチレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテ、ポリオキシエチレングリコールイソプロピル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールn−ブチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールノニルフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールセチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールn−ブチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールオクチルフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールノニルフェルニ1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシテトラメチレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチルグリコール/ポリオキシプロピレングリコール共重合体のメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル等を挙げることができ、これらのなかでもポリオキシエチレングリコール誘導体が特に好ましい。上記ジオール化合物は1種を単独で使用しても、また2種以上を併用してもよい。
【0024】
また、上記式(3)で示されるエポキシ化合物の好ましい具体例としては、ポリオキシエチレングリコールメチルグリシジエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールイソプロピルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールn−ブチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールノニルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールセチルグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールメチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールn−ブチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールノニルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシテトラメチレングリコールメチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコール/ポリオキシプロピレングリコール共重合体のメチルグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらのなかでもポリオキシエチレングリコール誘導体が特に好ましい。上記エポキシ化合物は1種を単独で使用しても、また2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記のジオール化合物及び/又はエポキシ化合物を上記基体ポリエステルに共重合するには、前述したポリエステルの合成が完了するまでの任意の段階、例えば第1段階の反応開始前、反応中、反応終了後、第2段階の反応中等の任意の段階で添加し、添加後重縮合反応を完結すればよい。この際その使用量は、あまりに少ないと最終的に得られる共重合ポリエステル繊維の吸湿性・透湿性や清涼感・冷涼感の性能が不充分になり、逆にあまりに多いと最早著しい吸湿性・透湿性や清涼感・冷涼感性能の向上が見られず、かえって最終的に得られる共重合ポリエステル繊維の強度等の糸物性が悪化すると共に耐熱性や耐光性が悪化するようになるので、共重合ポリエステルに対して0.5〜50重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜40重量%の範囲であり、なかでも15〜30重量%の範囲が特に好ましい。
【0026】
本発明においては、上記共重合ポリエステルに下記一般式(1)で表される有機スルホン酸金属塩が共重合されていなければならない。該有機スルホン酸金属塩が共重合されていることによって最終的に得られる共重合ポリエステル繊維の屋外日光暴露に伴う吸湿性、吸水性、熱伝導性、透湿性、清涼感、冷涼感等の機能性の低下が抑制される。
【0027】
【化6】

【0028】
上記一般式(1)式において、Rは芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基であり、好ましくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基または炭素数10以下の脂肪族炭化水素基である。特に好ましいRは、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、とりわけベンゼン環である。また、Xはエステル形成性官能基を示し、XはXと同一もしくは異なるエステル形成性官能基を示すかあるいは水素原子を示すが、エステル形成性官能基であるのが好ましい。これらのエステル形成性官能基としては、側鎖共重合型ポリエステルの主鎖または末端に反応して結合する基であればよく具体的には下記の基を挙げることができる。
【0029】
【化7】

また、上記一般式(1)におけるMはNi、Mn及びBaよりなる群から選ばれた少なくとも一種の金属である。
【0030】
かかる一般式(1)で表わされる有機スルホン酸金属塩の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ニッケル、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸マンガン、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸バリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ニッケル、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸マンガン、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸バリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ニッケル、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸マンガン、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸バリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸ニッケル、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸マンガン、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸バリウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸ニッケル、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−1−スルホン酸ニッケル、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−3−スルホン酸ニッケル、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ニッケル、2,6−ジカルボキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ニッケル、2,5−ビス(ヒドロエトキシ)ベンゼンスルホン酸ニッケル等を挙げることができる。これらの有機スルホン酸金属塩は1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0031】
上記有機スルホン酸金属塩の共重合量は、該共重合ポリエステルを構成する二官能性カルボン酸成分全量に対して0.2〜5モル%の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜4.5モル%の範囲、さらに好ましくは1.0〜3.5モル%の範囲である。この有機スルホン酸金属塩の共重合量があまりに少ないと得られる繊維の耐光性改善効果が不充分なものとなる。一方、有機スルホン酸金属塩の共重合量が多すぎると、かえって共重合ポリエステル繊維の融点が低下して耐熱性、耐加水分解性等が悪化するようになる。
【0032】
上記有機スルホン酸金属塩は、上記共重合ポリエステルのポリエステル分子鎖(主鎖)中にランダムに共重合されていることが好ましい。
上記有機スルホン酸金属塩を共重合するには、上記したジオール化合物及び/又はエポキシ化合物式を共重合する場合と同様に、前述したポリエステルの合成が完了するまでの任意の段階、例えば第1段階の反応開始前、反応中、反応終了後、第2段階の反応中等の任意の段階で添加し、添加後重縮合反応を完結すればよい。
【0033】
本発明の共重合ポリエステルを製造するにあたって、安定剤として従来公知のヒンダードフェノール系酸化防止剤やヒンダードアミン系光安定剤や紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾトリアジン系、ベンゾフェノン系等)を添加することは、共重合ポリエステル繊維の使用時における熱劣化、酸化劣化、光劣化等を抑制する効果があるだけでなく、溶融紡糸時のポリマーの固有粘度の低下をも抑制する効果があるのでむしろ好ましいことである。
【0034】
本発明の共重合ポリエステルの好適な分子量はその用途によって異なるが、繊維製造に用いる場合は、O−クロロフェノール中35℃で測定される固有粘度にして0.55〜0.85の範囲が好適である。
【0035】
本発明の共重合ポリエステルには、上記安定剤のほか、必要に応じて任意の添加剤、例えば着色防止剤、耐熱剤、難燃剤、艶消剤、着色剤、無機微粒子等が含まれていて差し支えない。
【0036】
このようにして得られた共重合ポリエステルを繊維にするには、格別の方法をとる必要はなく、通常のポリエステル繊維の製造方法が任意に適用される。例えば、上記共重合ポリエステルを溶融紡糸して巻き取った後、必要に応じて延伸や熱処理を施す方法等によって製造される。紡出される繊維は、中空部を有しない中実繊維であっても、中空部を有する中空繊維であってもよい。また、紡出される繊維の横断面における外形や中空部の形状は円形であっても異形(非円形)であってもよい。さらには、異形断面でかつ1個又は複数個の中空部を有する異形中空繊維としてもよい。
【0037】
製糸方法としては、500〜2500m/分の速度で溶融紡糸し、延伸・熱処理する方法、2500〜5000m/分の速度で紡糸し、延伸・仮撚加工を同時に又は逐次的に行う方法、5000/分以上の高速で紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法等を任意に採用することができる。
【0038】
かくして得られる共重合ポリエステル繊維は長繊維であっても短繊維であってもよく、その単糸繊度や総繊度は用途に応じて任意に選択することができる。
なお、本発明の共重合ポリエステル繊維には、必要に応じて任意の添加剤、例えば着色防止剤、耐熱剤、難燃剤、艶消剤、無機微粒子等が含まれていてもよい。
【0039】
本発明の耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維製品は、特に屋外で使用するスポーツウェア分野や盛夏用ウェア分野等の衣料用途において極めて有用である。本発明で言う繊維製品の具体例としては、次のようなものを挙げることができる。
【0040】
(1)衣料用途
ファッション用途として、シャツ、ブラウス、パンツ、ブルゾン、コート、和装品等、インナー・レッグ用途として、肌着、ブラジャー、ガードル、ボディーファー、キャミソール、ショーツ、パンティーストッキング、ストッキング、靴下、ハイソックス、ショートソックス等、スポーツ用途として、競技用のゲームシャツやゲームパンツ(テニス、バスケット、卓球、バレーボール、陸上、ゴルフ、サッカー、ラグビー等)、スェットスーツ、ウィンドブレーカー、アスレチックウェア、トレーニングウェア、ショーツ、水着、プールサイドウェア、アンダーウェア、タイツ、スパッツ、レオタード、レッグ衣料、ウェットスーツ、ドライスーツ等、寝衣用途、ユニフォーム用途、学生服用途、帽子、ショール等の衣料付帯品、裏地、カップ、パッド等の衣料資材、スポーツシューズ等
(2)インテリア・寝具用途
カーテン(ドレープカーテン、レースカーテン、シャワーカーテン、ロールカーテン、ブラインド等)、カーペット、テーブルクロス、椅子張り、間仕切り、壁紙、寝装品(掛けふとん、敷き布団、布団用側地、布団用詰め物、毛布、毛布用側地、タオルケット、シーツ等)、スリッパ、マット等
(3)自動車内装材用途
カーシート、カーマット、天井材、トリム等
(4)産業資材用途
テント類(レジャー用、イベント用等)
【0041】
以上は、繊維について詳述したが、本発明の共重合ポリエステルをフィルム、テープあるいはその他の成形体にした場合にも同様の効果が期待できる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の部及び%は、特に断らない限り、それぞれ重量部及び重量%を示す。なお、実施例中の吸湿率の測定は下記の方法により実施し、また紫外線照射は下記の方法によった。さらに、共重合ポリエステル繊維中の金属はICP発光分光分析法により定量した。
【0043】
<吸湿率>
試料を35℃、95%RHに調節された恒温恒湿器内で24時間調湿し、絶乾試料の重量と調湿試料の重量から次式により吸湿率を求めた。
【数1】

【0044】
<紫外線照射>
スガ試験機(株)製の紫外線オートフェードメーターを用い、編地試料を大型ホルダーにセットしてブラックパネル温度設定63℃、試験槽湿球温度設定33℃の条件下で20時間、紫外線カーボンアークによる紫外線照射を施した。
【0045】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ニッケル4部(テレフタル酸ジメチルに対して1.3モル%)、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.066モル%)及び整色剤として酢酸コバルト4水塩0.009部(テレフタル酸ジメチルに対して0.007モル%)をエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下4時間かけて140℃から220℃まで昇温して生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後、安定剤としてリン酸トリメチル0.058部(テレフタル酸ジメチルに対して0.080モル%)を加えた。次いで10分後に三酸化アンチモン0.04部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加し、同時に過剰のエチレングリコールを追出しながら240℃まで昇温した後重合缶に移した。
【0046】
重合缶に平均の分子量が3000(m=66)のポリオキシエチレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル20部(共重合ボリエステルに対して16%)を添加した後、1時間かけて760Torrから1Torrまで減圧し、同時に1時間30分かけて240℃から280℃まで昇温した。1Torr以下の減圧下、重合温度280℃で更に2時間重合した時点で酸化防止剤としてイルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.8部を真空添加し、その後更に30分間重合した。得られたポリマーを常法に従ってチップ化した。このポリマーの固有粘度は0.68であった。
【0047】
このチップを常法に従って乾燥後、孔径0.3mmの円形紡糸孔を24個穿設した紡糸口金を使用して285℃で溶融紡糸した。次いで得られた未延伸糸を、最終的に得られる延伸糸の伸度が30%になるような延伸倍率にて84℃の加熱ローラーと180℃のプレートヒーターを使って延伸熱処理して84デシテックス/24フィラメントの延伸糸を得た。得られた延伸糸を常法に従って製編、精錬、プリセットを行った。このようにして作製した編地を試験試料として用い、金属の定量分析を行うと共に、所定の紫外線照射を施し、紫外線照射前後で吸湿率を測定した。紫外線照射試料は充分に水洗した後に吸湿率測定に供した。紫外線照射前後の吸湿率測定値を使って保持率を次式により算出した。
【0048】
【数2】

それらの結果は表1に示す通りであった。
【0049】
[比較例1]
実施例1で有機スルホン酸金属塩として使用した3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ニッケル4部を使用しない以外は実施例1と同様にして、エステル交換反応、重合反応、チップ化、チップ乾燥、紡糸、延伸、熱セット、製編、精錬、プリセットを行った。得られた編地の測定結果は表1に示す通りであった。
を表1に示す。
【0050】
[実施例2〜5]
実施例1で有機スルホン酸金属塩として用いた3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ニッケルの使用量を表1に記載した量とする以外は実施例1と同様に行った。結果は表1に示す通りであった。
【0051】
[実施例6〜9]
実施例1で有機スルホン酸金属塩として使用した3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ニッケル4部に代えて、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸マンガンを表1に記載した量用いる以外は実施例1と同様に行った。結果は表1に示す通りであった。
【0052】
[実施例10〜13]
実施例1で有機スルホン酸金属塩として使用した3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ニッケル4部に代えて、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸バリウムを表1に記載した量用いる以外は実施例1と同様に行った。結果は表1に示す通りであった。
【0053】
[比較例2]
実施例1で有機スルホン酸金属塩として使用した3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ニッケル4部に代えて、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム4部(テレフタル酸ジメチルに対して2.6モル%)及びエーテル副生防止剤として酢酸ナトリウム3水塩0.11部(テレフタル酸ジメチルに対して0.16モル%)を表1に記載した量用いる以外は実施例1と同様に行った。結果は表1に示す通りであった。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の共重合ポリエステルからなる繊維は吸湿性、吸水性及び速乾性に優れ、従来にない著しく優れた熱伝導性と透湿性を有し、特に木綿や麻等の天然繊維を凌駕する清涼感・冷涼感を発現することができ、しかも日光暴露に伴う吸湿性、吸水性、熱伝導性、透湿性等の特性の低下が少ない。したがって、本発明の共重合ポリエステルからなる繊維を含む織編物、不織布等の繊維構造物及び繊維製品は、特に屋外で使用するスポーツウェア分野や盛夏用ウェア分野等の衣料用途において極めて有用である。
また、本発明の共重合ポリエステルは繊維のほか、上記と同様の特性・機能が要求されるフィルム、テープ等の分野でも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステルであって、ポリエーテル成分が側鎖に共重合されていると共に下記一般式(1)で表わされる有機スルホン酸金属塩が共重合されてなる共重合ポリエステルよりなることを特徴とする耐光性に優れた共重合ポリエステル。
【化1】

【請求項2】
側鎖に共重合されるポリエーテル成分が、下記一般式(2)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(3)で表わされるエポキシ化合物であることを特徴とする請求項1記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル。
【化2】

【化3】

【請求項3】
側鎖に共重合されるポリエーテル成分の共重合量が共重合ポリエステルに対して0.5〜50重量%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル。
【請求項4】
有機スルホン酸金属塩の共重合量が共重合ポリエステルを構成する二官能性カルボン酸成分に対して0.5〜5モル%であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル。
【請求項5】
有機スルホン酸金属塩がポリエステルの分子鎖中にランダムに共重合されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の共重合ポリエステルからなる耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維。
【請求項7】
請求項6に記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維を少なくとも一部に含んでなる繊維製品。

【公開番号】特開2008−231187(P2008−231187A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70381(P2007−70381)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】