説明

耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維の製造方法

【課題】吸湿性・吸水性及び速乾性等の機能性に優れ、しかも日光暴露に伴う上記機能性(特に吸湿性)の低下が少ないポリエステル繊維を製造する方法を提供する。
【解決手段】ポリアルキレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステルであって、該ポリエステルの側鎖にポリエーテル成分が共重合されていると共に、該ポリエステル中に特定の有機スルホン酸金属塩が共重合されている共重合ポリエステルよりなる繊維を、ニッケル、マンガン及びバリウムから選ばれる金属の水溶性金属塩で処理し、有機スルホン酸金属塩に金属に少なくとも一部をニッケル、マンガン及びバリウムで置換することにより上記の特性を持つ繊維を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維の製造方法に関するものである。さらに詳細には、吸湿性・吸水性及び速乾性に優れ、従来にない著しく優れた熱伝導性と透湿性を有し、特に木綿や麻等の天然繊維を凌駕する清涼感・冷涼感を発現することができ、しかも日光暴露に伴う吸湿性、吸水性、熱伝導性、透湿性等の機能性の低下が少ない、耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維を工業的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは多くの優れた特性を有するがゆえに、従来より合成繊維として広く用いられている。しかしながら、ポリエステル繊維は、疎水性であるため、木綿や麻等の天然繊維に比較して吸水性・吸湿性が著しく劣る欠点があり、吸水性や吸湿性が要求される分野での使用が制限されている。なかでも、布帛が直接肌に接する衣料用途におけるポリエステル繊維の使用は、蒸れ感やべとつき感等の著しい不快感を招来するため極度に制限されているのが実状であり、特に盛夏用衣料用途での使用は実質上皆無に近い。
【0003】
従来より、この問題を解決しようとして、ポリエステル繊維に吸水性・吸湿性を付与しようとする試みが数多くなされている。例えば、ポリエステル繊維に吸水性(液体状態の水を吸収する性質)を付与する方法として、繊維表面を変性して吸水性を付与する方法と繊維内部まで吸水性を高める方法とがある。前者の方法としては、原糸改質や後加工によって繊維表面を親水性の化合物で覆う方法が主に採用されており、この他に放電処理・光グラフト・薬品によるエッチング・親水性化合物の低温プラズマ重合加工等がある。後者の方法としては、ポリエステル繊維を多孔質化することによって毛細管現象を利用して吸水性を高めることが行われている。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、感知蒸泄つまり発汗状態においては相応の効果が認められ、特に多孔質の吸水性ポリエステル繊維においては、抱水率や湿潤知覚限界(湿ったと感じ得る抱水率)を顕著に高める効果が得られると共に速乾性を有するため、汗を多量にかくスポーツ用途等で快適な汗処理機能を発揮できるものの、吸湿性(気相状態の水、即ち水蒸気を吸収する性能)を殆んど有しないためか、人間の感覚にはのぼらずに常に体外に蒸発している不感蒸泄に対しては特別の効果が認められず、蒸れ感や蒸し暑さを解消する効果は少ないので、木綿や麻等の天然繊維のもつ清涼感・冷涼感を呈するのには程遠い。その上、繊維の表面に親水性樹脂の皮膜を形成させる方法では、疎水性繊維の表面のみに親水性皮膜を形成させるものであり、両者の親和性が不良であるため、洗濯耐久性に劣る欠点がある。
【0005】
一方、ポリエステル繊維に吸湿性を付与する方法として、親水性化合物のグラフト重合による後加工方法が提案されている。この方法によれば、例えばポリエチレンテレフタレート繊維にアクリル酸やメタクリル酸を15重量%程度グラフト重合した後でナトリウム塩化処理を施すことによって木綿と同等の吸湿率が得られる。しかしながら、かかるグラフト重合で改質した吸湿性ポリエステル繊維は、確かに木綿並みの平衡吸湿率は有するものの、平衡吸湿率に至るまでの吸湿速度が木綿に比較して著しく小さい。このことも関係してか、着用した際の蒸れ感やべとつき感を解消する効果は少なく、清涼感を得ることができない。その上、この方法では繊維の染色堅牢度が低下したり、風合が硬化する等の欠点があるため、実用に耐えない。
【0006】
他方、ポリマー自身を吸湿性にしたポリエステルとしては、従来から知られているポリオキシエチレングリコールを共重合したポリエステル以外には注目すべきものがないのが現状である。かかるポリオキシエチレングリコール成分を含むポリエステルは吸湿性向上効果は呈するものの、その向上効果は比較的小さく、そのため多量のポリオキシエチレングリコール成分の使用を必要とし、その結果最終的に得られる変性ポリエステル繊維の物性低下や耐熱性の低下が著しく、実用的価値は低い。
【0007】
ポリオキシエチレングリコール共重合ポリエステルの欠点を改良しようとする別の手段として、ポリエステル重合体主鎖に対してポリオキシエチレングリコール成分を側鎖に有する共重合ポリエステルの製造方法が提案されている(下記特許文献1及び特許文献2参照)。この方法によれば、比較的少量のポリオキシエチレングリコール成分の導入によって、繊維になした際に吸湿性・吸水性及び速乾性に優れると共に、熱伝導性と透湿性が良好であり、優れた清涼感、冷涼感を呈する共重合ポリエステルが得られるため有用であるとされている。しかしながら、該ポリエステル重合体主鎖に対してポリオキシエチレングリコール成分を側鎖に有する共重合ポリエステルからなる繊維は、日光に長時間暴露されるような屋外で使用する用途分野においては上記したような優れた吸湿性、吸水性等の機能性が低下する問題が発生する場合のあることが判明した。
【0008】
【特許文献1】特公平6−84426号公報
【特許文献2】特公平6−84427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記背景技術に鑑みなされたもので、その目的は、上述した共重合ポリエステル繊維が日光に暴露することによって機能性が低下する問題点を解消し、吸湿性・吸水性及び速乾性に優れ、従来にない著しく優れた熱伝導性と透湿性を有し、特に木綿や麻等の天然繊維を凌駕する清涼感・冷涼感を発現することができ、その上日光暴露に伴う上記機能性の低下が少ない、耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく、上記共重合ポリエステル繊維について種々検討を行った結果、ポリエーテル成分が側鎖に共重合されたポリエステルに対し特定の有機スルホン酸金属塩を共重合した共重合ポリエステルの繊維を特定の水溶性金属塩で処理することにより、最終的に得られる共重合ポリエステル繊維が優れた吸湿性、吸水性、熱伝導性、透湿性等の機能性を呈すると共に、それらの機能性の日光暴露に伴う低下が著しく防止され、上述の課題が達成できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づきさらに検討した結果、完成したものである。
【0011】
すなわち、上述の本発明の目的は、以下の如き本発明の共重合ポリエステル繊維の製造方法によって達成される。
【0012】
〔1〕ポリアルキレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステルであって、該ポリエステルの側鎖にポリエーテル成分が共重合されていると共に、該ポリエステル中に下記一般式(1)で表わされる有機スルホン酸金属塩が共重合されている共重合ポリエステルよりなる繊維を、ニッケル、マンガン及びバリウムから選ばれる金属の水溶性金属塩で処理することを特徴とする耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維の製造方法。
【化1】

【0013】
〔2〕側鎖に共重合されるポリエーテル成分が、下記一般式(2)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(3)で表わされるエポキシ化合物であることを特徴とする上記〔1〕記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維の製造方法。
【化2】

【化3】

【0014】
〔3〕側鎖に共重合されるポリエーテル成分の共重合量が、共重合ポリエステルに対して0.5〜50重量%である上記〔1〕又は〔2〕に記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維の製造方法。
【0015】
〔4〕有機スルホン酸金属塩の共重合量が、共重合ポリエステルを構成する二官能性カルボン酸成分に対して0.5〜20モル%であることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、吸湿性・吸水性及び速乾性に優れ、従来にない著しく優れた熱伝導性と透湿性を有し、特に木綿や麻等の天然繊維を凌駕する清涼感・冷涼感を発現することができ、しかも日光暴露に伴う上記機能性の低下が少ないポリエステル繊維が製造される。したがって、本発明により得られる共重合ポリエステル繊維を含む織編物、不織布等の繊維構造物及び繊維製品は、特に屋外で使用するスポーツウェア分野や盛夏用ウェア分野等の衣料用途において極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の共重合ポリエステル繊維を構成する基体ポリエステルは、テレフタル酸を主たる二官能性カルボン酸成分とし、少なくとも1種のグリコール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ばれる少なくとも1種のアルキレングリコールをグリコール成分とするポリエステル(アルキレンテレフタレート系ポリエステル)を主たる対象とする。
【0018】
上記ポリエステルは、テレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置換えたポリエステル及び/又はグリコール成分の一部を主成分以外の上記グリコールもしくは他のジオール成分で置換えたポリエステルであってもよい。
【0019】
ここで使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の如き芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸を挙げることができる。
【0020】
また、上記グリコール以外のジオール化合物としては、例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSの如き脂肪族、脂環族、芳香族ジオール化合物等を挙げることができる。
【0021】
さらに、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸の如きポリカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如きポリオールを使用することができる。
【0022】
かかるポリエステルは任意の方法によって合成される。例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、通常テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させる第一段階の反応と、第一段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第二段階の反応によって製造される。
【0023】
本発明で用いる共重合ポリエステルは上記に基体ポリエステルの側鎖にポリエーテル成分が共重合されてなる。該ポリエーテル成分としてはポリオキシアルキレン成分が好ましく、例えば上記基体ポリエステルに、下記一般式(2)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(3)で表わされるエポキシ化合物が共重合された共重合ポリエステルを好ましい具体例として挙げることができる。
【0024】
【化4】

【化5】

【0025】
これらの式中、R、Rはそれぞれ炭化水素基を示し、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数6〜12のシクロアルキル基、炭素原子数6〜12のアリール基又は炭素原子数8〜16のアルキルアリール基が好ましい。R、Rはアルキレン基であり、炭素原子数2〜4のアルキレン基が好ましい。具体的にはエチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基が例示される。また、2種以上のアルキレン基が混在する、例えばエチレン基とプロピレン基、もしくはエチレン基とテトラメチレン基とを持ったランダム共重合体やブロック共重合体であってもよい。m、m’は重合度を示す正の整数であり、30〜140の範囲であるのが好ましい。重合度が30未満では、充分な吸湿性、透湿性や木綿、麻等の天然繊維が有する清涼感・冷涼感が呈されず、本発明の目的が達成されない。一方、重合度が140を越えて大きくなると、もはや共重合が困難になり、充分な吸湿性・湿性や清涼感・冷涼感が呈されなくなる。なかでも、重合度40〜100の範囲において特に優れた吸湿性・透湿性が発現すると共に、清涼感・冷涼感が特に顕著に奏されるので好ましい。なお、上記各式におけるRとR、RとR、mとm’とは相互に同一であってもよく異なっていてもよい。
【0026】
かかるポリエーテル成分となる化合物の好ましい具体例としては、上記式(2)で示されるジオール化合物として、ポリオキシエチレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールイソプロピル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールn−ブチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールノニルフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールセチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールn−ブチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールオクチルフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールノニルフェルニ1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシテトラメチレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチルグリコール/ポリオキシプロピレングリコール共重合体のメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル等を挙げることができ、これらのなかでもポリオキシエチレングリコール誘導体が特に好ましい。上記ジオール化合物は1種を単独で使用しても、また2種以上を併用してもよい。
【0027】
また、上記式(3)で示されるエポキシ化合物の好ましい具体例として、ポリオキシエチレングリコールメチルグリシジエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールイソプロピルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールn−ブチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールノニルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールセチルグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールメチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールn−ブチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールノニルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシテトラメチレングリコールメチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコール/ポリオキシプロピレングリコール共重合体のメチルグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらのなかでもポリオキシエチレングリコール誘導体が特に好ましい。上記エポキシ化合物は1種を単独で使用しても、また2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記のジオール化合物及び/又はエポキシ化合物を上記に基体ポリエステルに共重合するには、前述したポリエステルの合成が完了するまでの任意の段階、例えば第1段階の反応開始前、反応中、反応終了後、第2段階の反応中等の任意の段階で添加し、添加後重縮合反応を完結すればよい。この際、その使用量があまりに少ないと最終的に得られる共重合ポリエステル繊維の吸湿性・透湿性や清涼感・冷涼感の性能が不充分になり、逆にあまりに多いと最早著しい吸湿性・透湿性や清涼感・冷涼感性能の向上が見られず、かえって最終的に得られる共重合ポリエステル繊維の強度等の糸物性が悪化すると共に耐熱性や耐光性が悪化するようになるので、生成共重合ポリエステルに対して0.5〜50重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜40重量%の範囲であり、なかでも15〜30重量%の範囲が特に好ましい。
【0029】
本発明においては、上記共重合ポリエステルに下記一般式(1)で表される有機スルホン酸金属塩が共重合されていなければならない。該有機スルホン酸金属塩が共重合されていることによって、最終的に得られる共重合ポリエステル繊維の屋外日光暴露に伴う吸湿性、吸水性、熱伝導性、透湿性、清涼感、冷涼感等の機能性の低下が抑制される。
【0030】
【化6】

上記一般式(1)式において、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基であり、好ましくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基又は炭素数10以下の脂肪族炭化水素基である。特に好ましいRは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、とりわけベンゼン環である。また、Xはエステル形成性官能基を示し、XはXと同一もしくは異なるエステル形成性官能基あるいは水素原子を示すが、エステル形成性官能基であるのが好ましい。エステル形成性官能基としては、側鎖共重合型ポリエステルの主鎖又は末端に反応して結合する基であればよく、具体的には下記の基を挙げることができる。
【0031】
【化7】

【0032】
また、上記一般式(1)式中のMはアルカリ金属及びバリウム以外のアルカリ土類金属よりなる群から選ばれた少なくとも一種の金属である。なお、Mがアルカリ金属のとき式中のnは1であり、アルカリ土類金属(ただしバリウムを除く)のときnは2である。
【0033】
かかる一般式(1)で表わされる有機スルホン酸金属塩の好ましい具体例としては、上記一般式(1)で表わされる有機スルホン酸金属塩の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸リチウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸ナトウリム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸カリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸リチウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシスフタレン−1−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−3−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,5−ビス(ヒドロエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、α−ナトリウムスルホコハク酸等を挙げることができる。上記有機スルホン酸金属塩は、1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0034】
有機スルホン酸金属塩の共重合量は、共重合ポリエステルを構成する二官能性カルボン酸成分に対して0.5〜20モル%の範囲が好ましく、より好ましくは1.0〜10モル%の範囲、さらに好ましくは1.5〜7モル%の範囲である。この有機スルホン酸金属塩の共重合量があまりに少ないと得られる繊維の耐光性改善効果が不充分なものとなる。一方有機スルホン酸金属塩の共重合量が多すぎると、かえって共重合ポリエステル繊維の融点が低下して耐熱性、耐加水分解性が悪化するようになる。
【0035】
上記共重合ポリエステルの固有粘度(オルソクロロフェノール中35℃で測定)は特に限定されないが、製糸性や繊維物性の観点から、0.55〜0.85が好ましい。
上記有機スルホン酸金属塩を共重合するには、上記したジオール化合物及び/又はエポキシ化合物式を共重合する場合と同様に、前述したポリエステルの合成が完了するまでの任意の段階、例えば第1段階の反応開始前、反応中、反応終了後、第2段階の反応中等の任意の段階で添加し、添加後重縮合反応を完結すればよい。
【0036】
本発明の共重合ポリエステルを製造するにあたって、安定剤として従来公知のヒンダードフェノール系酸化防止剤やヒンダードアミン系光安定剤や紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾトリアジン系、ベンゾフェノン系等)を添加することは、側鎖共重合型ポリエステル繊維の使用時における熱劣化、酸化劣化、光劣化等を抑制する効果があるだけでなく、溶融紡糸時のポリマーの固有粘度の低下をも抑制する効果があるのでむしろ好ましいことである。
【0037】
このようにして得られた共重合ポリエステルを繊維にするには、格別の方法を採る必要はなく、通常のポリエステル繊維の製糸方法が任意に適用される。例えば、共重合ポリエステルを溶融して紡糸口金から吐出して巻き取った後、必要に応じて延伸や熱処理を施す方法等によって製造される。紡出される繊維は中空部を有しない中実繊維であっても、中空部を有する中空繊維であってもよく異形であってもよい。また、紡出される繊維の横断面における外形や中空部の形状は円形であっても異形であってもよい。
【0038】
具体的な製糸方法としては、500〜2500m/分の速度で溶融紡糸し、延伸・熱処理する方法、2500〜5000m/分の速度で溶融紡糸し、延伸・仮撚加工を同時に又逐次的に行う方法、5000/分以上の高速で溶融紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法等の製糸条件を任意に採用すればよい。
【0039】
本発明の方法における共重合ポリエステル繊維には、必要に応じて任意の添加剤、例えば着色防止剤、耐熱剤、難燃剤、艶消剤、着色剤、無機微粒子等が含まれていてもよい。
かくして得られる共重合ポリエステル繊維は、長繊維であっても、短繊維であってもよく、その総繊度及び単糸繊度は任意に選択することができる。
【0040】
本発明の方法によれば、上記共重合ポリエステル繊維はニッケル、マンガン及びバリウムから選ばれる金属の水溶性金属塩で処理される。その際、該水溶性金属塩は水溶液等の水性溶液の状態で使用されることが好ましい。この処理によって共重合ポリエステル繊維を構成するポリエステルに共重合された前記有機スルホン酸金属塩の金属(アルカリ金属又はバリウム以外のアルカリ土類金属)の少なくとも一部が、ニッケル、マンガン及びバリウムから選ばれる金属に置換されて耐光性改善効果が発現するようになる。
【0041】
かかる水溶性金属塩としては処理温度において水溶性を示す上記金属塩であればすべて使用することができ、好ましくは、ニッケル、マンガン及びバリウムの無機塩、有機カルボン酸塩を挙げることができる。具体的には、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケル〔Ni(NHSO)〕、硫酸マンガン、塩化マンガン、塩化バリウム、酢酸バリウム等があげられる。これらの水溶性金属塩は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0042】
この処理により、上記共重合ポリエステル繊維を構成するポリマー中に共重合されている有機スルホン酸金属塩の金属をニッケル、マンガン及びバリウムから選ばれる金属に置換する処理条件としては、水溶性金属塩濃度が0.1g/L〜10g/Lの範囲、処理温度が共重合ポリエステル繊維のガラス転移温度以上、130℃未満の範囲、処理時間が30分〜180分間の範囲で好ましく行うことができる。
【0043】
かかる処理によって共重合ポリエステル繊維中に含有させるッケル、マンガン及びバリウムから選ばれる金属の量は繊維重量を基準にして500ppm〜30000ppmの範囲であることが好ましい。このニッケル、マンガン及びバリウムから選ばれる金属の含有量があまりに少なすぎると耐光性改善効果が不充分になり、逆にあまりに多すぎると耐光性は最早著しい向上を示さずかえって繊維強度等の物性が低下する傾向がある。より好ましい含有量は1000ppm〜8000ppm、さらに好ましくは2000ppm〜6000ppmの範囲である。
【0044】
上記処理を行う際の共重合ポリエステル繊維の形態は、糸カセ状、チーズ巻き状、綿状、織編物の状態のいずれであってもよく、一般的な後加工法、例えば染色工程において上記水溶性金属塩を染浴中に溶解させることにより、染色しながら金属置換することもできる。また、染色後の仕上工程において上記水溶性金属塩を含有する水浴中で処理して置換させることもできる。その他、パッドスチーム法等も適用することができる。
【0045】
本発明の方法によって得られる耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維は、単独で使用してもよいが、必要に応じて綿、羊毛等の天然繊維、レーヨン、アセテート等の再生繊維あるいは本発明の共重合ポリエステル繊維以外の合成繊維と混紡、交織してもよい。
かくして、本発明により製造される耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いた繊維製品は、特に屋外で使用するスポーツウェア分野や盛夏用ウェア分野等の衣料用途において極めて有用である。
【0046】
本発明の方法により得られる繊維の使用が適する繊維製品の具体例としては、次のようなものを挙げることができる。
(1)衣料用途
ファッション用途としてシャツ、ブラウス、パンツ、ブルゾン、コート、和装品等、インナー・レッグ用途として肌着、ブラジャー、ガードル、ボディーファー、キャミソール、ショーツ、パンティーストッキング、ストッキング、靴下、ハイソックス、ショートソックス等、スポーツ用途として競技用のゲームシャツやゲームパンツ(テニス、バスケット、卓球、バレーボール、陸上、ゴルフ、サッカー、ラグビー等)、スェットスーツ、ウィンドブレーカー、アスレチックウェア、トレーニングウェア、ショーツ、水着、プールサイドウェア、アンダーウェア、タイツ、スパッツ、レオタード、レッグ衣料、ウェットスーツ、ドライスーツ等、寝衣用途、ユニフォーム用途、学生服用途、帽子、ショール等の衣料付帯品、裏地、カップ、パッド等の衣料資材、スポーツシューズ等
(2)インテリア・寝具用途
カーテン(ドレープカーテン、レースカーテン、シャワーカーテン、ロールカーテン、ブラインド等)、カーペット、テーブルクロス、椅子張り、間仕切り、壁紙、寝装品(掛けふとん、敷き布団、布団用側地、布団用詰め物、毛布、毛布用側地、タオルケット、シーツ等)、スリッパ、マット等
(3)自動車内装材用途
カーシート、カーマット、天井材、トリム等
(4)産業資材用途
テント類(レジャー用、イベント用等)
これらの用途の中でも、スポーツウエアや盛夏用ウエア等の分野において特に好適に使用される。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明を具体的に説明する、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、各例中の部及び%は、特に断らない限り、それぞれ重量部及び重量%を示す。なお、実施例中の吸湿率の測定は下記の方法により実施し、また紫外線照射は下記の方法によった。さらに、共重合ポリエステル繊維中の金属はICP発光分光分析法により定量した。
【0048】
<吸湿率>
試料を35℃、95%RHに調節された恒温恒湿器内で24時間調湿し、絶乾試料の重量と調湿試料の重量から次式により吸湿率を求めた。
【数1】

【0049】
<紫外線照射>
スガ試験機(株)製の紫外線フェードメーターを用い、編地試料を大型ホルダーにセットしてブラックパネル温度設定63℃、試験槽湿球温度設定33℃の条件下で20時間、紫外線カーボンアークによる紫外線照射を施した。
【0050】
<吸湿率の保持率>
後述の編地を試料として用い、金属の定量分析を行うとともに、所定の紫外線照射を実施し、紫外線照射前後で吸湿率を測定した。紫外線照射試料は十分に水洗した後に、吸湿率測定に供した。紫外線照射前後の吸湿率測定値を用いて、その保持率を次式により算出した。
【数2】

【0051】
[参考例1]
<共重合ポリエステルポリマー、繊維及び編地(編地1)の製造>
テレフタル酸ジメチル100部、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム4部(テレフタル酸ジメチルに対して2.6モル%)、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.066モル%)、整色剤として酢酸コバルト4水塩0.009部(テレフタル酸ジメチルに対して0.007モル%)及びエーテル副生防止剤として酢酸ナトリウム3水塩0.11部(テレフタル酸ジメチルに対して0.16モル%)をエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下4時間かけて140℃から220℃まで昇温して生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後、安定剤としてリン酸トリメチル0.058部(テレフタル酸ジメチルに対して0.080モル%)を加えた。次いで10分後に三酸化アンチモン0.04部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加し、同時に過剰のエチレングリコールを追出しながら240℃まで昇温した後重合缶に移した。
【0052】
重合缶に平均の分子量が3000(m=66)のポリオキシエチレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル20部(共重合ボリエステルに対して16%)を添加した後、1時間かけて760Torrから1Torrまで減圧し、同時に1時間30分かけて240℃から280℃まで昇温した。1Torr以下の減圧下、重合温度280℃で更に2時間重合した時点で酸化防止剤として「イルガノックス1010」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、登録商法)0.8部を真空添加し、その後更に30分間重合した。得られたポリマーを常法に従ってチップ化した。
【0053】
このチップを常法に従って乾燥後、孔径0.3mmの円形紡糸孔を24個穿設した紡糸口金を使用して285℃で溶融紡糸した。次いで得られた未延伸糸を、最終的に得られる延伸糸の伸度が30%になるような延伸倍率にて84℃の加熱ローラーと180℃のプレートヒーターを使って延伸熱処理して84デシテックス/24フィラメントの延伸糸を得た。得られた延伸糸を常法に従って製編し、精錬、プリセットを行い、編地を作製した(これを「編地1」とする。)
【0054】
[参考例2]
<共重合ポリエステルポリマー、繊維及び編地(編地2)の製造>
参考例1で有機スルホン酸金属塩として用いた3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム4部(テレフタル酸ジメチルに対して2.6モル%)及びエーテル副生防止剤として用いた酢酸ナトリウム3水塩0.11部(テレフタル酸ジメチルに対して0.16モル%)を使用しない以外は参考例1と同様に行い、編地を作製した(これを「編地2」とする)。
【0055】
[実施例1]
参考例1で作製した「編地1」を常法に従って、精錬、プリセットを行った後、硫酸ニッケル(II)六水和物の1g/L、浴比1/100の水溶液中にて沸騰条件下に1時間処理した。処理した布帛は充分に水洗した後、風乾した。得られた布帛について、金属定量分析を行うと共に、所定の紫外線照射を施し、紫外線照射前後の吸湿率を測定した。紫外線照射を施した試料は充分に水洗した後に吸湿率測定に供した。その結果は後掲の表1に示す通りであった。
【0056】
[比較例1]
実施例1で水溶性金属塩として使用した硫酸ニッケル(II)六水和物を用いない以外は実施例1と同様にして沸騰条件下の処理、水洗、風乾を行った。紫外線照射前後の吸湿率の測定結果及び保持率は後掲の表1に示す通りであった。
【0057】
[実施例2〜3]
実施例1で水溶性金属塩として使用した硫酸ニッケル(II)六水和物の使用量を表1に記載した濃度とする以外は実施例1と同様に行った。その結果は後掲の表1に示す通りであった。
【0058】
[実施例4〜6]
実施例1で水溶性金属塩として使用した硫酸ニッケル(II)六水和物に代えて硫酸マンガン(II)五水和物を用い、かつその使用量を表1に記載した濃度とする以外は実施例1と同様に行った。その結果は後掲の表1に示す通りであった。
【0059】
[実施例7〜9]
実施例1で水溶性金属塩として使用した硫酸ニッケル(II)六水和物に代えて酢酸バリウム無水塩を用い、かつその使用量を表1に記載した濃度とする以外は実施例1と同様に行った。その結果は後掲の表1に示す通りであった。
【0060】
[比較例2〜4]
参考例2で作製した編地2を常法に従って、精錬、プリセットを行った後、表1記載の水溶性金属塩を表1記載の濃度に溶解した水溶液中で浴比1/100にて沸騰条件下で1時間処理した。それ以後は、実施例1と同様に行った。その結果は後掲の表1に示す通りであった。
【0061】
[比較例5]
比較例2〜4で水溶性金属塩として使用した水溶性金属塩を用いない以外は比較例2〜4と同様にして沸騰条件で処理を行った。紫外線照射前後の吸湿率の測定結果及び保持率は表1に示す通りであった。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の方法で製造される共重合ポリエステル繊維は、吸湿性、吸水性及び速乾性に優れ、従来にない著しく優れた熱伝導性と透湿性を有し、特に木綿や麻等の天然繊維を凌駕する清涼感,冷涼感を発現することができる。しかも日光暴露に伴う吸湿性、吸水性、熱伝導性、透湿性等の特性の低下が少ないという利点を有する。したがって、本発明による共重合ポリエステル繊維を含む織編物、不織布等の繊維構造物及び繊維製品は、特に屋外で使用するスポーツウェア分野や盛夏用ウェア分野等の衣料用途において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステルであって、該ポリエステルの側鎖にポリエーテル成分が共重合されていると共に、該ポリエステル中に下記一般式(1)で表わされる有機スルホン酸金属塩が共重合されている共重合ポリエステルよりなる繊維を、ニッケル、マンガン及びバリウムから選ばれる金属の水溶性金属塩で処理することを特徴とする耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維の製造方法。
【化1】

【請求項2】
側鎖に共重合されるポリエーテル成分が、下記一般式(2)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(3)で表わされるエポキシ化合物であることを特徴とする請求項1記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維の製造方法。
【化2】

【化3】

【請求項3】
側鎖に共重合されるポリエーテル成分の共重合量が共重合ポリエステルに対して0.5〜50重量%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項4】
有機スルホン酸金属塩の共重合量が共重合ポリエステルを構成する二官能性カルボン酸成分に対して0.5〜20モル%であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の耐光性に優れた共重合ポリエステル繊維の製造方法。

【公開番号】特開2008−240201(P2008−240201A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83614(P2007−83614)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】