説明

耐弾性織物の製造方法

【課題】優れた耐弾性を有する軽量な耐弾性織物の製造方法を提供する。
【解決手段】総繊度が200〜950dtex、引張強度が17cN/dtex以上の無撚高強度マルチフィラメントを経糸及び緯糸に用い、かつカバーファクターが1150〜1950となるように、エアージェットルームにて製織することを特徴とする耐弾性織物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐弾性を有する耐弾性織物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
警察官、警備員、ガードマン、兵士などは、犯罪者、テロリスト、敵兵や不審者などからの銃器による攻撃、爆発物の炸裂により飛来する破片から身の安全を守るため、必要に応じ耐弾性織物を使用した耐弾防護衣を着用して職務に従事する。そのため、従来から優れた耐弾性を有し、軽量な耐弾性織物及びその製造方法を提供することが当技術分野において必要とされている。
【0003】
飛来物を止める性能の高い耐弾性織物としては、従来から、高強度繊維、例えば、パラ系アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などの織物が知られている。
【0004】
また、これらの繊維を用い、織物の形態や製造方法により性能を向上させる技術が開示されている。例えば、特許文献1には、打込密度及び総繊度と通気度を所定の関係を満足するように設計することで高い耐弾性能を得た耐弾性織物が開示されている。また、特許文献2には、繊度が200〜15000dtexである撚りのない高強度有機繊維を製織した扁平織物であって、たて糸とよこ糸の少なくとも一方の糸幅と糸厚みとの比を10〜100とし、開口率を0〜5%とすることで、軽量であり、高速飛来物に対して優れた耐衝撃性を得られることが開示されている。
【0005】
しかしながら、かかる耐弾性織物では、織密度が低いため製織後のハンドリング、精練加工、撥水加工などを施す際に目ずれが発生しやすいという問題があった。また、製造する際に、糸条を扁平化させた状態で製織するために前処理として糊剤を付与する必要があるが、精練時に処理液により繊維がダメージを受ける問題があった。また、製織後に物理的作用により扁平化させる場合も繊維にダメージを与える可能性があった。
【特許文献1】特開平10−195729号公報
【特許文献2】特開2004−292992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた耐弾性を有する軽量な耐弾性織物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は主として次の手段を採用する。すなわち、本発明の耐弾性織物の製造方法は、総繊度が200〜950dtex、引張強度が17cN/dtex以上の無撚高強度マルチフィラメントを経糸及び緯糸に用い、かつカバーファクターが1150〜1950となるように、エアージェットルームにて製織することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に説明するとおり、耐弾性に優れ、より軽量な耐弾性織物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の最良の実施形態を具体例を示しながら説明する。
【0010】
本発明で用いる高強度マルチフィラメントの総繊度は、200〜950dtexでなければならない。総繊度が950dtexよりも大きくなると耐弾性能が低くなり、また、200dtexを下回ると高強度マルチフィラメントの生産時に糸切れや毛羽が多く発生してしまう。また、生産スピードが遅くなり、すなわちコストが高くなってしまう。総繊度は200〜500dtexであるとさらに好ましく、高品質で耐弾性能の高い耐弾性織物を得ることができる。
また、単糸繊度は、0.1デシテックス〜10デシテックスの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.4デシテックス〜5デシテックスの範囲である。0.1デシテックス未満では、製糸効率が低くコストアップとなり、10デシテックスを超えると剛性が高く、柔軟性の求められる布帛には向かなくなる。
【0011】
本発明の耐弾性織物には、経糸と緯糸に同一の総繊度の高強度マルチフィラメントを用いても良いし、異なる総繊度の高強度マルチフィラメントを用いても良い。
【0012】
ここでいう高強度マルチフィラメントとは、芳香族ポリアミド(パラ系アラミド)、芳香族ポリエーテルアミド、全芳香族ポリエステル、超高分子量ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ノボロイド、ポリピリドビスイミダゾール、ポリアリレート、ポリケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトンなどからなるマルチフィラメントを言い、かつ引張強度が17cN/dtex以上のものを言う。これらの中でも耐衝撃性、生産性、価格などからパラ系アラミド繊維が特に好ましく使用できる。引張強度は17cN/dtex以上でなければ本発明の効果は達成できない。更に好ましくは19cN/dtex以上である。
【0013】
本発明で用いる高強度フィラメントの形態はマルチフィラメントでなければならない。マルチフィラメントはモノフィラメントに比べて、経糸と緯糸の交差点において扁平化しやすく、フィラメントの屈曲が小さくなる。すなわち、フィラメントの直線性が増すことで着弾時の衝撃を繊維方向に伝播させやすい構成となる。
【0014】
本発明で用いる高強度マルチフィラメントは、無撚でなければならない。無撚であることで製織時に開繊されやすく、製織後の高強度マルチフィラメントの状態が扁平化となりやすい構成となる。高強度マルチフィラメントは扁平化されることで、経糸と緯糸の交差点における高強度マルチフィラメントの屈曲を小さくすることができる。すなわち直線性を増すことで、着弾時に高強度マルチフィラメントの強度を効率的に活用することが可能となる。また、扁平化により、経糸と緯糸の交差点における経糸と緯糸の接触面積が増え、着弾エネルギーをより効率的に織物面方向へ伝播させることが可能な構成となる。
【0015】
なお、本発明で言う無撚とは、JIS L 1013:1999 8.13.1によるより数が20以下程度であれば良く、必ずしも全くゼロである必要はない。
一般に、整経時、経糸は撚りあるいは糊付けにより糸条を収束させておく必要があるが、上述した理由により本発明における耐弾性織物では、経糸は無撚で糊付けしなければならない。
【0016】
本発明において、耐弾性織物はエアージェットルームで製織しなければならない。ウォータージェットルームで製織する場合には、耐水性のある糊剤、例えばアクリル酸エステル系合成糊剤(アンモニウム塩)などを用いて経糸を整経するため、精練時には、ノニオン活性剤やアニオン活性剤に加えて苛性ソーダ(NaOH)などを用いなければ糊剤を取り除くことができない。その結果、高強度マルチフィラメントは強アルカリ性の精練剤によりダメージを受け、耐弾性が低下してしまう。高強度マルチフィラメントはpH9以下の処理浴で精練することが好ましいが、エアージェットルームでは、水溶性の糊剤、例えばポリビニルアルコールなどを使うことができるため、ウォータージェットルームよりも中性な精練剤、例えばノニオン活性剤、アニオン活性剤、ソーダ灰(NaCO)などを使用できる。そのため、精練による耐弾性能低下を低く抑えることができる。より好ましい本発明の耐弾性織物を精練する方法は、ノニオン系界面活性剤を含有するpH9以下かつ100℃以下の処理液に浸漬した後、180℃で5分以下程度の間乾燥させることである。
【0017】
また、ウォータージェットルームで製織すると、エアージェットルームに比べて緯糸の最大張力が高く、マルチフィラメントへのダメージが大きくなってしまう。また、製織後に乾燥工程が必要となり生産性が劣るものとなってしまう。特に芳香族ポリアミド(パラ系アラミド)など吸水性の高い高強度繊維を用いる場合には、更に生産性が劣るものとなってしまう。一方、レピア織機の場合には、エアージェットルームよりも製織速度が遅く、生産性が劣るものとなってしまう。
【0018】
エアージェットルームで製織する場合には、回転数が300RPM以上が好ましく、400RPM〜800RPMであることがより好ましい。回転数が300RPMより遅い場合には生産性が劣り、回転数が800RPMを超える場合には速過ぎて緯糸がばらけて製織することが困難となる。また、織り幅は、1m〜2mであることが好ましい。織り幅が1mより小さいと生産性が劣り、2mを超えると製織時に緯糸を飛ばすことが困難な距離となる。
【0019】
本発明の耐弾性織物の製造方法においては、前記の高強度マルチフィラメントを経糸及び緯糸に用いて製織するが、耐弾性織物のカバーファクターが1150〜1950の範囲となるよう製織しなければならない。なお、本発明で言うカバーファクターは下記(数式1)で表される値をいう。カバーファクターが1150よりも小さいと耐弾性織物がルーズで製織後のハンドリング、撥水加工や樹脂コーティング加工などを施す場合に目ずれを生じやすい構成となる。また、カバーファクターが1950より大きい耐弾性織物は、耐弾性能の劣る構成となる。
【0020】
【数1】

【0021】
さらにカバーファクターを1150〜1550の範囲となるように製織することで、より耐弾性に優れた耐弾性織物を得ることができる。
【0022】
以上により、本発明の耐弾性織物の織り密度としては、200dtexの場合には41本/2.54cm〜69本/2.54cmの範囲でなければならず、より好ましくは41本/2.54cm〜5本/2.54cmの範囲である。また、950dtexの場合には、19本/2.54cm〜32本/2.54cmの範囲でなければならず、より好ましくは19本/2.54cm〜5本/2.54cmの範囲である。更に500dtexの場合には、26本/2.54cm〜44本/2.54cmの範囲でなければならず、より好ましくは26本/2.54cm〜35本/2.54cmの範囲である。
【0023】
本発明の耐弾性織物の織組織としては、平織、綾織、朱子織、畝織、斜子織、杉綾、二重織などを用いることができる。なかでも、平織が耐弾性、寸法安定性、取り扱い性の点から好ましい。
【0024】
また、耐弾性織物には、撥水剤、平滑剤、帯電防止剤、難燃剤などを付着させてもよい。撥水剤としては、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂など一般的な撥水剤を使用することができる。耐弾性織物が水分を含むと、マルチフィラメントが膨潤し、経糸−緯糸間の摩擦力が変化することで、乾燥状態に比べて耐弾性能が変化してしまう。撥水剤を付着させることで、耐弾性能の変化を押さえることが可能となる。
【0025】
本発明の耐弾性織物の製造方法で得られた耐弾性織物は次のように適宜加工することで耐弾防護衣となる。本耐弾性織物の形状を人体の胸服部、背部、脇部、肩部、下腹部などを覆う形状に裁断し所望の枚数積層することで、人体用耐弾防護衣に用いることができる。
【0026】
さらに、本発明の耐弾性織物の製造方法で得られた耐弾性織物は、車輌、船舶、航空機のドア部、シート・荷台周辺部などに、サイズ立体形状を合わせて裁断、積層し、取り付けることで、防爆シートとして用いることもできる。
【実施例】
【0027】
[測定方法]
(1)マルチフィラメントの総繊度
JIS L 1013:1999 8.3.1 A法に基づき、112.5m分の小かせをサンプル数5で採取し、それぞれの質量を測定し、その値(g)に10000/112.5をかけ、見掛け繊度(dtex)を求めた。見かけ繊度から、次の式によって正量繊度を求め、算術平均値を算出した。
正量繊度(dtex)=D'×(100+Rc)/(100+Re)
ここに、D':見かけ繊度(dtex)
Rc:公定水分率(%)
Re:平衡水分率(%)。
【0028】
(2)マルチフィラメントの引張強度
JIS L 1013:1999 8.5.1に拠って測定した。試料を緩く張った状態で、引張試験機(株式会社製島津製作所製AGS−J 5kN)のつかみにつかみ間隔20cmで取り付け、引張速度20cm/分の定速伸長にて試験を行った。試料を引っ張り、試料が切断したときの荷重を測定し、次の式によって引張強度を算出した。試験回数は10回とし、その算術平均値を算出した。
=SD/F
ここに、T:引張強度
SD:切断時の強さ
:試料の正量繊度。
【0029】
(3)より数
JIS L 1013:1999 8.13.1により、より数を測定した。検ねん機を用いて、つかみ間隔を50cmとして所定荷重の下で試料を取り付け、より数を測定し、2倍して1m当たりのより数を求めた。試料数は10とし、その平均値で表した。
【0030】
(4)織密度
JIS L 1096:1999 8.6.1「織物の密度」に拠って測定した。
織物の異なる5か所のタテ方向2.54cm×ヨコ方向2.54cmにおける経糸および緯糸の本数を数え、それぞれについて算術平均値を算出した。
【0031】
(5)耐弾性織物の耐弾性
小口径発射装置(豊和工業製)にて、MIL−STD−662Fに準拠し、1.1gの高速飛翔体(MIL−P−26593A)を用いて、Ballistic Limit(V50)を評価した。また、V50(m/s)は、最高不貫通速度から順に速度の低い方へ5点と、最低貫通速度から順に速度の高い方へ5点の合計10点の平均値で算出した。ただし、10点の速度の最大値と最小値の差が46m/s以内に入るまで測定した。
【0032】
実施例1〜7、比較例1〜9
アラミド繊維(東レ・デュポン製、“ケブラー”)を経糸及び緯糸に用いて、表1の通り平織り織物を製織した。ただし、比較例9は、ポリエステル繊維を用いて平織り織物を製織した。実施例1〜7、比較例1〜7、9の織り幅は130cm、比較例8の織り幅は105cmで製織した。
【0033】
ウォータージェットルームでは整経時の糊剤にアクリル酸エステル系合成糊剤(アンモニウム塩)を、エアージェットルームおよびレピア織機では整経時の糊剤にポリビニルアルコール(PVA)を用いて製織した。また、精練にはウォータージェットルームではノニオン活性剤とカセイソーダ(NaOH)を用いた。乾燥条件は180℃で2分間乾燥した。pHは9.8であった。エアージェットルームおよびレピア織機ではノニオン活性剤とソーダ灰(NaCO)を混合したものを用いた。乾燥条件は180℃で2分間乾燥した。また、pHは8.2であった。
【0034】
出来上がった織物を40cm×40cmに裁断し、面積密度が6.0kg/mになるように所定の枚数積層し、周辺をロック縫いして耐弾性評価サンプルを作製した。耐弾性評価は、NIJ Standard 0101.04の5.9.3項および5.9.4項に従って、乾燥条件で実施した。
【0035】
実施例1〜7および比較例1〜9の構成と耐弾性評価結果は表1の通りであった。いずれの実施例も比較例よりも高い耐弾性を示した。また、レピア織機を用いた場合には回転数を150RPMまでしか上げられず、生産性が悪かった。ウォータージェットルームを用いた場合には製織後の乾燥工程が必要なため生産性が悪かった。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る耐弾性織物は、上述したような警察官、ガードマン等が着用する耐弾防護衣に限らず、車輌、船舶、航空機のドア部、シート・荷台周辺部などに、サイズ立体形状を合わせて裁断、積層し、取り付けることで、防爆シートとして用いることもできるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総繊度が200〜950dtex、引張強度が17cN/dtex以上の無撚高強度マルチフィラメントを経糸及び緯糸に用い、かつカバーファクターが1150〜1950となるように、エアージェットルームにて製織することを特徴とする耐弾性織物の製造方法。
【請求項2】
織物の総繊度が200〜500dtexであることを特徴とする請求項1記載の耐弾性織物の製造方法。
【請求項3】
カバーファクターが1150〜1550であることを特徴とする請求項1または2に記載の耐弾性織物の製造方法。
【請求項4】
エアージェットルームにて製織した織物を、ノニオン系界面活性剤を含有するpH9以下の処理液に浸漬した後、乾燥せしめることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの記載の耐弾性織物の製造方法。

【公開番号】特開2009−275331(P2009−275331A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130456(P2008−130456)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】