説明

耐打鍵強度および透明性に優れた携帯情報端末用キートップ。

【構成】ポリカーボネート樹脂(A)およびポリエステルエラストマー(B)を必須成分とする樹脂組成物を成形してなる携帯情報端末用キートップであって、ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が17000〜20500であり、ポリエステルエラストマー(B)がそのハード成分が芳香族ポリエステルであり、かつソフト成分が脂肪族ポリエーテルから構成されるコポリマーであって、かつ、ポリエステルエラストマー(B)の配合量がポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.3〜2.5重量部である、ことを特徴とする携帯情報端末用キートップ。
【効果】本発明の携帯情報端末用キートップは、優れた透明性、耐衝撃性、打鍵強度および生産性を有している。そのため、薄肉化・軽量化が求められる携帯電話用のキートップとして好適に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等の携帯情報端末用キートップに関する。さらに詳しくは、ポリカーボネート樹脂および特定のポリエルテルエラストマーからなる組成物を成形してなる、耐打鍵強度および透明性に優れた携帯情報端末用キートップに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性などに優れた熱可塑性樹脂であり、電気、電子、機械、自動車などの分野に広く用いられている。中でも透明性と耐衝撃性を活かして、携帯電話の数字等が表示されているキーの被押圧部(キートップ)をなす部材の樹脂材料として用いられている。
【0003】
しかしながら、最近の携帯電話は薄肉化および軽量化がすすんでおり、これに伴い携帯電話用キートップの薄肉化が強く求められている。かかる要求を満足するためには、薄肉化されたキートップを射出成形で製造する際の良好な流動性とキートップの打鍵強度を薄肉化されても維持する必要がある。
【0004】
ポリカーボネート樹脂の流動性を上げる方法としては、分子量を低くすることにより流動性を向上させることは可能であるが、打鍵強度の低下を招き課題を残す。
また、打鍵強度を向上させるには分子量を高くすることで打鍵強度を向上することは可能であるが、流動性が劣るために薄肉化されたキートップの成形品を得るには困難を伴い、著しい生産性の悪化を招くという問題があった。
【0005】
また、ポリカーボネート樹脂とポリエステルエラストマーからなる樹脂組成物は既に知られている(特許文献1)ところである。しかしながら、薄肉化されたキートップの製造において、ポリエステルエラストマーが2.5重量部以下(ポリカーボネート樹脂100重量部あたり)のポリカーボネート樹脂組成物を用いることで当該キートップの打鍵強度が著しく改良されることは知られていない。
【0006】
【特許文献1】特公昭57−26538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、透明性、耐衝撃性、打鍵強度および生産性に優れた携帯情報端末用キートップの開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂の分子量を特定範囲に調節し、さらにキートップの打鍵強度を改良するために特定のポリエステルエラストマーを当該ポリカーボネート樹脂に配合することにより、透明性および流動性を維持し打鍵強度を飛躍的に向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)およびポリエステルエラストマー(B)を必須成分とする樹脂組成物を成形してなる携帯情報端末用キートップであって、
(1)ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が、17000〜20500
であり、かつ
(2)ポリエステルエラストマー(B)が、そのハード成分が芳香族ポリエステルで
あり、かつソフト成分が脂肪族ポリエーテルから構成されるコポリマーであっ
て、かつ
(3)ポリエステルエラストマー(B)の配合量が、ポリカーボネート樹脂(A)
100重量部あたり、0.3〜2.5重量部である、
ことを特徴とする携帯情報端末用キートップを提供するものである。
【0010】
なお、携帯情報端末用キートップの打鍵強度の評価方法に関しては、各種の実用的な評価方法が用いられている。しかしながら、実用性能を代表する比較的簡便な評価方法は一般的に知られていなかった。本発明者は、打鍵強度の評価方法についても検討を行った結果、キートップの片面に塗装処理を施し、これを試験片として用いて特定条件下で曲げ試験に行ない当該試験片の破折の有無結果とキートップの打鍵強度とが極めてよく対応することも見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の携帯情報端末用キートップは、優れた透明性、耐衝撃性、打鍵強度および生産性を有している。そのため、薄肉化・軽量化が求められる携帯電話用のキートップとして好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0013】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0014】
これらは、単独または2種類以上混合して使用される。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0015】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−[4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
【0016】
かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0017】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、17000〜20500である。粘度平均分子量が17000未満の場合には、流動性は良好であるが打鍵強度に劣り、また粘度平均分子量が20500を超えると打鍵強度は良好であるが流動性に劣るので好ましくない。より好ましくは、18000〜20000の範囲である。
【0018】
粘度平均分子量は、塩化メチレンを溶媒として0.5重量%のポリカーボネート樹脂(A)溶液とし、キャノンフェンスケ型粘度管を用い温度20℃で比粘度(ηsp)を測定し、濃度換算により極限粘度〔η〕を求め下記のSCHNELLの式から算出した。
〔η〕=1.23×10−40.83
【0019】
本発明にて使用されるポリエステルエラストマー(B)は、そのハード成分が芳香族ポリエステルでソフト成分が脂肪族ポリエーテルで構成されるコポリマーである。
【0020】
ハード成分として用いられる芳香族ポリエステルは、例えばポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート等およびこれらの混合物が挙げられる。また、テレフタレートの一部がイソフタレートに置換されたものでも、p―ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−カルボキシナフタレンなどが共重合された共重合ポリエステルでもよい。好ましくは、ポリブチレンナフタレートである。
【0021】
ソフト成分として用いられる脂肪族ポリエーテルは、主骨格が炭素数3〜15のアルキル基である化合物、ポリテトラメチレンエーテルグリコールを使用したマルチブロックポリマー等が挙げられ、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコールが好適に使用できる。
【0022】
ハード成分とソフト成分の比率は、硬度と相関しハード成分の増加に伴い硬くなり、ポリカーボネート樹脂(A)とのブレンドにおいて、ソフト成分は多い場合には透明性が悪化する。ポリエステルエラストマー(B)の硬度は、好ましくはASTM D2240 ショアーD試験において40〜80、より好ましくは50〜80である。
【0023】
ポリエステルエラストマー(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.3〜2.5重量部である。配合量が0.3重量部未満では打鍵強度に劣り、また2.5重量部を超えると打鍵強度が悪化するので好ましくない。より好適な配合量は0.5〜2.0重量部の範囲である。
【0024】
本発明にて使用される各種配合成分(A)および(B)の配合方法は特に制限はなく、任意の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等によりこれらを混合し、通常の一軸または二軸押出機で容易に溶融混練することができる。また、これらの配合順序についても特に制限はない。
【0025】
更に、本発明の効果を損なわない範囲で、前記(A)および(B)からなる樹脂組成物に各種の熱安定剤、酸化防止剤、離型剤等の添加剤を配合しても良い。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、実施例中の「%」、「部」はそれぞれ重量基準に基づく。
【0027】
なお、使用した原材料は以下のものである。
ポリカーボネート樹脂:
住友ダウ社製カリバー301−22
(粘度平均分子量:18800、以下、PC−1と略記)
住友ダウ社製カリバー301−40
(粘度平均分子量:16500、以下、PC−2と略記)
住友ダウ社製カリバー301−10
(粘度平均分子量:22000、以下、PC−3と略記)
ポリエステルエラストマー:
東洋紡績社製 ペルプレン P30B (以下、PEST−1と略記)
東洋紡績社製 ペルプレン P70B (以下、PEST−2と略記)
東洋紡績社製 ペルプレン EN1000(以下、PEST−3と略記)
東洋紡績社製 ペルプレン EN500 (以下、PEST−4と略記)
東レ・デュポン社製 ハイトレル 4767(以下、PEST−5と略記)
【0028】
本発明における各種評価項目の測定方法等については、以下のとおり。
(樹脂組成物ペレットの作成)
表1〜表3に示す配合成分におよび配合比率にて、各種配合成分をタンブラーで混合し、37mm径の二軸押出機(神戸製鋼社製KTX37)を用いて、シリンダー温度260度にて溶融混練し、各種ペレットを得た。
【0029】
(透明性)
得られたペレットを125℃で4時間乾燥後、射出成形機(日本製鋼所製J100E−5)を用いて300℃、射出圧力1600kg/cm2の条件下、光学測定用試験片(幅50mm、長さ40mm、厚み1mm)を成形した。前述の試験片を23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間放置し、ヘーズ値をヘーズメーター(村上色彩研究所製HM−150型)により測定した。ヘーズ値が5%未満となるものを合格(○)、5%以上を不合格(×)とした。
【0030】
(流動性)
得られたペレットを125℃で4時間乾燥後、射出成形機(FUNAC社製S2000i))を用いて320℃、射出圧力1600kg/cm2の条件下、アルキメデススパイラルフロー金型(幅10mm、厚み1.0mm)を用い流動長を測定した。スパイラル流動長が140mm以上を合格(○)、140mm未満を不合格(×)とした。
【0031】
(耐曲げ特性)
得られたペレットを125℃で4時間乾燥後、射出成形機(日本製鋼所製J100E−5)を用いて280℃、射出圧力1600kg/cm2の条件下、強度測定用試験片(3.2mm厚みx127mmx12.7mm)を成形した。
試験片の片面にソフト99コーポレーション社製タッチアップチョイ塗りペイントを塗布して、この試験片をISO179−2に準拠し23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間状態調整後、塗装面を下面として曲げ試験を行い、試験片の破折の有無を測定した。 曲げ試験の条件は、支点間距離を40mmとして曲げ試験速度を500mm/分の条件で東洋精機社製ストログラフVE−10−D機を用いた。
曲げ試験の非破折本数が10本の試験片中5本以上を合格(○)、5本未満を不合格(×)とした。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
表1および表2に示すとおり、本発明の構成を満足する場合(実施例1〜8)には、全ての評価項目において十分な性能を有していた。
【0036】
一方、表3に示すとおり、本発明の構成を満足しない場合には、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。
比較例1は、ポリエステルエラストマーが配合されていない場合で、流動性および透明性は合格するものの、耐曲げ特性(打鍵強度)が劣っていた。
比較例2は、ポリエステルエラストマーの配合量が規定量よりも少ない場合で、流動性および透明性は合格するものの、耐曲げ特性(打鍵強度)が劣っていた。
比較例3は、ポリエステルエラストマーの配合量が規定量よりも多い場合で、流動性は合格するものの、透明性および曲げ特性(打鍵強度)が劣っていた。このことはポリエステルエラストマーの配合量が多い場合には、射出成形加工時にエステル交換反応によりポリカーボネート樹脂の分子量が低下したためと思われる。
比較例4は、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が規定値よりも低い場合で、流動性および透明性は合格するものの、耐曲げ特性(打鍵強度)が劣っていた。
比較例5は、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が規定値よりも高い場合で、耐曲げ特性(打鍵強度)および透明性は合格するものの、流動性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)およびポリエステルエラストマー(B)を必須成分とする樹脂組成物を成形してなる携帯情報端末用キートップであって、
(1)ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が、17000〜20500
であり、かつ
(2)ポリエステルエラストマー(B)が、そのハード成分が芳香族ポリエステルで
あり、かつソフト成分が脂肪族ポリエーテルから構成されるコポリマーであっ
て、かつ
(3)ポリエステルエラストマー(B)の配合量が、ポリカーボネート樹脂(A)
100重量部あたり、0.3〜2.5重量部である、
ことを特徴とする携帯情報端末用キートップ。
【請求項2】
ポリエステルエラストマー(B)のハード成分の芳香族ポリエステルが、ポリブチレンナフタレートであることを特徴とする請求項1に記載の携帯情報端末用キートップ。
【請求項3】
ポリエステルエラストマー(B)の配合量が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、0.5〜2.0重量部であることを特徴とする請求項1に記載の携帯情報端末用キートップ。

【公開番号】特開2010−140865(P2010−140865A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318558(P2008−318558)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(396001175)住友ダウ株式会社 (215)
【Fターム(参考)】