説明

耐捻回性ケーブル

【課題】ケーブルの外径を大きくすることなく、ケーブルの耐捻回性を向上させることができ、これによりケーブルの断線を抑制してケーブルの寿命を向上させることができる耐捻回性ケーブルを提供すること。
【解決手段】複数の素線を撚り合わせて構成した導体9を用いて、中心層を構成する導体9の周りに複数の導体9を全層同方向に撚り合わせるか、或いは、中心層を構成する導体9と共に複数の導体9を全て同方向に撚り合わせることにより構成した可とう性導体1と、可とう性導体1の上方において複数の金属素線と非金属素線を交織編組することにより構成した遮蔽層5とを備えてなる、耐捻回性ケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば風力発電設備や旋回クレーンなど捻回部を有する施設において配線して使用して好適な耐捻回性ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
風力発電設備や旋回クレーンなど捻回部を有する施設において配線して使用されるケーブルにおいては、使用中に外力として張力や繰り返し曲げ応力などと共に捻回が加わることから、所定の引張強度、耐屈曲性と共に耐捻回性が要求される。
【0003】
これに関連するケーブルとしては、例えば特許文献1にみられるように、ケーブルコアの周上に形成される遮蔽層を、複数の金属素線を撚り合わせて構成した撚り線と綿糸を交織編組することにより構成した、移動用ケーブルがある。
【0004】
この移動用ケーブルによれば、上記のように遮蔽層を構成する複数の金属素線を撚り線とすることにより、それまでの複数の金属素線を束ねて集合した集合線を用いる場合と比較して、上記応力が特定の金属素線に加わることを緩和し、ケーブルの断線を抑制することができるという効果を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−326525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の移動用ケーブルによれば、上記効果を有する一方、遮蔽層を構成する複数の金属素線を撚り線とすることにより遮蔽層の厚さが厚くなり、ケーブルの外径が大きくなるので、配線スペースを広くしなければならないという問題がある。また、この移動用ケーブルによれば、ケーブルの捻回についての対策が不十分である。すなわち、特許文献1には、ケーブルコアの導体構成について何も言及されていないが、ケーブルの捻回に対して有利な可とう性導体を採用する場合には、この可とう性導体として、中心層を構成する導体の周りに複数の導体を何層も撚り合わせて構成した撚り線を採用するのが一般的である。この場合、前記可とう性導体は、例えば中心層を構成する導体の周りの第1層を構成する複数の導体を(中心層に対し)左方向に撚り合わせたとき、その上の第2層を構成する複数の導体を反対の右方向に撚り合わせるというように、第1層及び第2層の各層を構成する複数の導体を交互に反対方向に撚り合わせて構成する。第3層以降も同様に反対方向に撚り合わせて構成する。この導体構成だと、使用中の外力によりケーブルが右方向に捻回したときは、前記第1層を構成する複数の導体が「撚りが緩む方向」に動作し、前記第2層を構成する複数の導体が「撚りが絞まる方向」に動作する。また、ケーブルが左方向に捻回したときは、夫々逆方向に動作する。この動作がケーブルの捻回とともに繰り返し行われると、互いに反対方向に撚り合わせられた前記第1層及び前記第2層を構成する複数の導体が干渉して強く擦れ合うようになり、これにより主として内側の第1層を構成する複数の導体が早く断線する可能性がある。そして、これが原因となって、ケーブルが断線する可能性がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、ケーブルの外径を大きくすることなくケーブルの耐捻回性を向上させることができ、これによりケーブルの断線を抑制してケーブルの寿命を向上させることができる耐捻回性ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、複数の素線を撚り合わせて構成した導体を用いて、中心層を構成する前記導体の周りに複数の前記導体を全層同方向に撚り合わせるか、或いは、中心層を構成する前記導体と共に複数の前記導体を全て同方向に撚り合わせることにより構成した可とう性導体と、前記可とう性導体の上方において複数の金属素線と非金属素線を交織編組することにより構成した遮蔽層とを備えてなることを特徴とする耐捻回性ケーブルを提供する。
【0009】
この耐捻回性ケーブルによれば、上記構成を採用することにより、特に、複数の素線を撚り合わせて構成した導体を用いて、中心層を構成する前記導体の周りに複数の前記導体を全層同方向に撚り合わせるか、或いは、中心層を構成する前記導体と共に複数の前記導体を全て同方向に撚り合わせることにより構成した可とう性導体を採用することにより、ケーブルが捻回したときは、そのように撚り合わせられた複数の導体が、ケーブルの捻回方向により「撚りが緩む方向」に動作するか「撚りが絞まる方向」に動作するかどちらか一方の動作となり、従来技術のところで述べたように「撚りが緩む方向」と「撚りが絞まる方向」の両方に動作とならないため、これら複数の導体が干渉して強く擦れ合うことが緩和され、この結果、これらの導体の断線を抑制することができるので、ケーブルの外径を構造的に大きくすることなくケーブルの耐捻回性を向上させることができる。そして、これによりケーブルの断線を抑制してケーブルの寿命を向上させることができる。
【0010】
また、複数の金属素線と非金属素線を交織編組することにより構成した遮蔽層を採用することにより、金属素線のみ編組した場合と比較して、遮蔽層を構成する金属素線の金属素線同士の擦れによる断線を抑制することができる。これは、ケーブルの耐捻回性の向上効果を補完するものである。
【0011】
請求項2の発明は、前記素線の撚り合わせ方向が、前記導体の撚り合わせ方向と同一方向であることを特徴とする請求項1に記載の耐捻回性ケーブルを提供する。
【0012】
この耐捻回性ケーブルによれば、上記効果に加えて、上記構成を採用することにより、すなわち、素線の撚り合わせ方向が、導体の撚り合わせ方向と同一方向である構成を採用することにより、要するに、導体を構成する素線の撚り合わせから導体の撚り合わせまで全て同方向に撚り合わせることにより、上記効果をより確実に向上させることができる。
【0013】
請求項3の発明は、前記遮蔽層を構成する前記複数の金属素線の編組時の打ち出し角度が、60°以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐捻回性ケーブルを提供する。
【0014】
上記において、複数の金属素線の編組時の打ち出し角度が、60°以上であるとする理由は、この打ち出し角度が60°未満だと、複数の金属素線を十分に移動性に富む状態で編組することができないからである。この打ち出し角度は、大きくするほど複数の金属素線を移動性に富む状態で編組することができ、これらの複数の金属素線の断線を抑制してケーブルの耐捻回性を向上させることができるので好ましいが、その分編組量が増加してコストアップとなるため、ケーブルの捻回角度や期待する効果等を考慮して適宜調整することが望ましい。
【0015】
この耐捻回性ケーブルによれば、上記効果に加えて、上記構成を採用することにより、すなわち、遮蔽層を構成する複数の金属素線の編組時の打ち出し角度が60°以上である構成を採用することにより、従来のように遮蔽層を構成する複数の金属素線を撚り線とする代わりに、その打ち出し角度をもって複数の金属素線を移動性に富む状態で編組することができ、これによりこれら複数の金属素線の断線を抑制することができるので、従来のように遮蔽層の厚さを厚くすることなく、したがってケーブルの外径を大きくすることなく、ケーブルの耐捻回性を向上させることができる。そして、これによりケーブルの断線を抑制してケーブルの寿命を向上させることができる。また、ケーブルの細径化を図ることも可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の耐捻回性ケーブルによれば、ケーブルの外径を大きくすることなく、ケーブルの耐捻回性を向上させることができ、これによりケーブルの断線を抑制してケーブルの寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係る耐捻回性ケーブルの概略構造を示す斜視図である。
【図2】本発明に関し、耐捻回性ケーブルを構成する可とう性導体の概略構造を示す説明図である。
【図3】本発明の効果を検証するための試験用ケーブルの概略構造を示す斜視図である。
【図4】本発明に関し、耐捻回性ケーブルの繰り返し捻回試験方法を示す説明図である。
【図5】本発明に関し、耐捻回性ケーブルを構成する遮蔽層の概略構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態を図1〜5に基づいて詳述する。
上記したように、図1は、本発明の一実施の形態に係る耐捻回性ケーブルの概略構造を示す斜視図である。この図1において、1は可とう性導体、2は内部電界緩和層、3は絶縁層、4は外部電界緩和層、5は遮蔽層、6は押さえテープ巻き層、7はシース、8は耐捻回性ケーブルを夫々示す。
【0019】
ここで、前記可とう性導体1は、図2に示すように、複数の素線(図示せず)を撚り合わせて構成した導体9を用いて、中心層を構成する1本の導体9の周りに6本の導体9を同方向(図中⇒の太い矢印方向)に撚り合わせる(同心撚り)か、或いは、中心層を構成する1本の導体9と共に6本の導体9を全て同方向(図中→の細い矢印方向)に撚り合わせて(集合撚り)構成する。この導体構造は、要するに、複数の素線を撚り合わせて構成した導体9の複数を更に同方向に撚り合わせて構成した、いわゆる複合撚りと呼ばれる構造である。しかも、図示しない素線の撚り合わせ方向と、導体9の撚り合わせ方向を、同一方向として構成する。
【0020】
なお、同心撚りでは、中心層を構成する1本の導体9は、これを積極的に撚り合わせなくても、その周りに撚り合わせられた6本の導体9と共に同方向に撚り合わせた場合と同じように扱うことができる。また、この同心撚りでは、中心層を構成する1本の導体9の周りに、複数の導体9を撚り合わせて構成した撚り合わせ層を何層も設けて、全層同方向に撚り合わせるように構成しても良い。
【0021】
この耐捻回性ケーブル8によれば、既に述べた通り、複数の素線(図示せず)を撚り合わせて構成した導体9を用いて、中心層を構成する1本の導体9の周りに6本の導体9を同方向に撚り合わせるか、或いは、中心層を構成する導体9と共に6本の導体を全て同方向に撚り合わせることにより構成した可とう性導体1を採用することにより、ケーブル8が捻回したときは、そのように撚り合わせられた複数の導体9が、ケーブル8の捻回方向により「撚りが緩む方向」に動作するか「撚りが絞まる方向」に動作するかどちらか一方の動作となり、従来技術のところで述べたように「撚りが緩む方向」と「撚りが絞まる方向」の両方の動作とならないため、これら複数の導体9が干渉して強く擦れ合うことが緩和され、この結果、これらの導体9の断線を抑制することができるので、ケーブルの外径を構造的に大きくすることなくケーブルの耐捻回性を向上させることができる。そして、これによりケーブルの断線を抑制してケーブルの寿命を向上させることができる。
【0022】
一方、前記可とう性導体1の上方において、前記外部電界緩和層4の周りに形成された前記遮蔽層5は、図5に示すように、複数の金属素線10と非金属素線11を交織編組することにより構成する。すなわち、編組機を用いて外部電界緩和層4の周りに複数の金属素線10と非金属素線11を交互に反対方向に編み込んで、遮蔽層5を構成する。また、遮蔽層5を構成する複数の金属素線10の編組時の打ち出し角度θを60°以上とする。なお、ここで、金属素線10としては、例えば錫めっき軟銅線を用い、非金属素線11としては、例えば綿糸を用いる。
【0023】
この耐捻回性ケーブル8によれば、既に述べた通り、遮蔽層5を構成する複数の金属素線10の編組時の打ち出し角度を60°以上とすることにより、従来のように遮蔽層を構成する複数の金属素線を撚り線とする代わりに、その打ち出し角度をもって複数の金属素線10を移動性に富む状態で編組することができ、これにより複数の金属素線10の断線を抑制することができるので、従来のように遮蔽層の厚さを厚くすることなく、したがってケーブルの外径を大きくすることなく、ケーブルの耐捻回性を向上させることができる。そして、これによりケーブルの断線を抑制してケーブルの寿命を向上させることができる。また、ケーブルの細径化を図ることも可能になる。
【0024】
また、本発明においては、この耐捻回性ケーブル8を3本撚り合わせてトリプレックス構造の耐捻回性ケーブルとして用いることができ、これによりケーブルとして電気的な不平衡を生じないようにすることができる。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
図3に示すように、図1の耐捻回性ケーブル8を模擬した試験用ケーブル12を作製した。この試験用ケーブル12は、可とう性導体13の上に順次セパレータ14、絶縁層15、シース16を設けて構成したものである。前記可とう性導体13としては、複数の錫めっき軟銅線を撚り合わせて構成した導体を用いて、中心層を構成する前記導体の周りに複数の前記導体を全層同方向に撚り合わせることにより構成した。また、前記導体を構成する複数の錫めっき軟銅線の撚り合わせ方向と、複数の前記導体の撚り合わせ方向を、いずれも同一方向とした。
【0026】
次いで、この試験用ケーブル12を用いて、図4に示すように、ケーブルの繰り返し捻回試験方法を行った。すなわち、長さ3mの試験用ケーブル12の一端を上方に設けた固定金具17で固定して、試験用ケーブル12を吊り下げると共に、試験用ケーブル12の他端に重り18を吊るし、試験用ケーブル12に10kgの垂直荷重を掛けた。この状態で試験用ケーブル12を±120°/mの範囲で図中矢印方向に繰り返し捻回した。
【0027】
この結果、5万回の繰り返し捻回試験では錫めっき軟銅線に断線は発生せず、10万回の繰り返し捻回試験でようやく可とう性導体13の中心部分の錫めっき軟銅線に断線が見られるようになった。このとき、断線率は錫めっき軟銅線全体の2.7%であった。
【0028】
(実施例2)
図1の耐捻回性ケーブル8において、遮蔽層5を構成する複数の金属素線10の編組時の打ち出し角度θを60°とすると共に、金属素線10として錫めっき軟銅線を用いた耐捻回性ケーブルを用意し、この耐捻回性ケーブルを3本撚り合わせてトリプレックス構造の耐捻回性ケーブルを作製した。なお、金属素線10と共に遮蔽層5を構成する非金属素線11としては、綿糸を用いた。
【0029】
この耐捻回性ケーブルを用いて、上記同様の繰り返し捻回試験方法を行った。但し、耐捻回性ケーブルの他端に吊るした重りにより、耐捻回性ケーブルに120kgの垂直荷重を掛けると共に、耐捻回性ケーブルを±45°/mの範囲で、10000回繰り返し捻回した。
【0030】
この結果、トリプレックス構造を構成する耐捻回性ケーブルの3本(3線芯)共、遮蔽層を構成する錫めっき軟銅線に編組の乱れやキンクは発生せず、断線も見られなかった。
【0031】
(比較例1)
実施例1で用いた試験用ケーブル12について、可とう性導体を構成する各層の、複数の導体を反対方向に撚り合わせて構成した以外は実施例1と同様の試験用ケーブルを作製した。
【0032】
この試験用ケーブルを用いて、実施例1と同様に繰り返し捻回試験方法を行った。
【0033】
この結果、5万回の繰り返し捻回試験で可とう性導体内層部の錫めっき軟銅線がほぼ全て断線した。また、このとき、断線率は錫めっき軟銅線全体の30%であった。
【0034】
(比較例2)
実施例2で用いたトリプレックス構造の耐捻回性ケーブルについて、遮蔽層を構成する錫めっき軟銅線の編組時の打ち出し角度θを30°とした以外は実施例2と同様の耐捻回性ケーブルを作製した。
【0035】
この耐捻回性ケーブルを用いて、実施例2と同様に繰り返し捻回試験方法を行った。但し、耐捻回性ケーブルの他端に吊るした重りを変えることにより、耐捻回性ケーブルに90kgの垂直荷重を掛けると共に、耐捻回性ケーブルを±45°/mの範囲で、5000回繰り返し捻回した。
【0036】
この結果、トリプレックス構造を構成する耐捻回性ケーブルの3本(3線芯)共、遮蔽層を構成する錫めっき軟銅線に編組の乱れやキンクが発生し、部分的に断線も見られた。
【0037】
上記実施例、比較例より、本発明による耐捻回性ケーブルによれば、中心層を構成する導体の周りに複数の導体を全層同方向に撚り合わせて可とう性導体を構成することにより、また、複数の金属素線と非金属素線を交織編組して遮蔽層を構成することにより、ケーブルの外径を大きくすることなく、ケーブルの耐捻回性を向上させることができることが分かる。また、前記遮蔽層を構成する複数の金属素線の編組時の打ち出し角度θを60°以上とすることにより、複数の金属素線を移動性に富む状態で編組することができ、これによりケーブルの外径を大きくすることなく、ケーブルの耐捻回性を向上させることができることが分かる。
【0038】
本発明は、以上の実施の形態の限定されることなく、その発明の範囲において種々の改変が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0039】
1、13 可とう性導体
2 内部電界緩和層
3、15 絶縁層
4 外部電界緩和層
5 遮蔽層
6 押さえテープ巻き層
7、16 シース
8 耐捻回性ケーブル
9 導体
10 金属素線
11 非金属素線
12 試験用ケーブル
14 セパレータ
17 固定金具
18 重り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線を撚り合わせて構成した導体を用いて、中心層を構成する前記導体の周りに複数の前記導体を全層同方向に撚り合わせるか、或いは、中心層を構成する前記導体と共に複数の前記導体を全て同方向に撚り合わせることにより構成した可とう性導体と、前記可とう性導体の上方において複数の金属素線と非金属素線を交織編組することにより構成した遮蔽層とを備えてなることを特徴とする耐捻回性ケーブル。
【請求項2】
前記素線の撚り合わせ方向が、前記導体の撚り合わせ方向と同一方向であることを特徴とする請求項1に記載の耐捻回性ケーブル。
【請求項3】
前記遮蔽層を構成する前記複数の金属素線の編組時の打ち出し角度が、60°以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐捻回性ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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