説明

耐摩耗性生地

本発明は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)フィラメントおよびサーモトロピック液晶ポリマー(LCP)を含む耐摩耗性生地、保護手段としてのその使用、ならびに前記生地を含む保護カバーに関する。特に、本発明は、保護カバーを含むロープおよびラウンドスリングに関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)フィラメントを含む耐摩耗性生地、保護手段としてのその使用、および前記生地を含む保護カバーに関する。特に、本発明は、保護カバーを含むロープおよびラウンドスリングに関する。
【0002】
UHMwPEフィラメントを含む生地は公知である。例えば、かかる生地およびラウンドスリング用の保護カバーとしてのその使用は、国際公開第2007/071310号パンフレットに開示されている。その生地は、保護カバーに、摩擦または機械的衝撃に対する耐性などの優れた機械的性質および物理的性質を付与する。外的影響、例えば紫外線、汚れの進入等に対する耐性も前記カバーに付与する。したがって、保護カバーを含むラウンドスリングの耐用年数が長くなる。
【0003】
UHMwPEフィラメントを含む公知の生地は有利な特性を有するが、更なる改善が常に必要とされている。特に、さらに向上した摩耗抵抗を有する生地が必要とされている。
【0004】
本発明の目的は、UHMwPEフィラメントを含むさらに改善された生地を提供すること、特に今まで実現されていない摩耗抵抗を有するかかる生地を提供することである。
【0005】
驚くべきことに、本発明の目的は、UHMwPEフィラメントとサーモトロピック液晶ポリマー(LCP)フィラメントを含む生地で達成される。
【0006】
驚くべきことに、本発明の生地は、発明者の知識によって今まで実現されなかった、予想外に改善された摩耗抵抗を示すことが分かった。
【0007】
UHMwPEフィラメントのみからなる生地またはサーモトロピックLCPフィラメントのみからなる生地の摩耗抵抗は、本発明の生地の摩耗抵抗よりもかなり低いため、本発明の生地の摩耗抵抗のこの予想外の向上は、より一層驚くべきことである。したがって、本発明の生地に向上した摩耗抵抗を付与するのは明らかに、UHMwPEフィラメントとサーモトロピックLCPフィラメントの相乗効果である。
【0008】
本発明の生地の更なる利点は、高価なUHMwPEフィラメントの一部が、安価なサーモトロピックLCPフィラメントで置き換えられることから、前記生地を低い費用で製造することができることである。
【0009】
上記の国際公開第2007/071310号パンフレットには、UHMwPE、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステルまたはポリビスオキサゾールから製造されたフィラメントを含む保護カバーが開示されている。しかしながら、この特許公開には、UHMwPEとサーモトロピックLCPフィラメントの具体的な組み合わせを含む生地も、その相乗効果も開示されていない。
【0010】
本明細書においてフィラメントとは、その縦寸法が幅および厚さの横寸法よりもかなり長い、連続長を有する細長い本体と理解される。フィラメントの断面は様々であり;その断面は円形、平形または長円形、規則的または不規則的である。フィラメントの断面が円形である場合、良い結果が得られる。フィラメントは、ステープルフィラメントであってもよい;しかしながら、フィラメントが連続長を有する場合には、摩耗抵抗に関して良い結果が得られる。
【0011】
本明細書において、当技術分野で織物または布とも呼ばれる生地は、インターレース加工フィラメントを含むシート状構造体と理解され、前記生地は、他の2つの寸法、すなわち軸方向寸法および横断寸法よりもかなり薄い厚さを有する。生地はそれ自体が、例えば、シート状ではなく、円筒形を有し、両方の横断寸法がその長さよりもかなり短いヤーンまたはロープなどのインターレース加工フィラメントを含む他の構造と明確に区別される。更なる顕著な特徴は、例えばロープにおいては、フィラメントの大部分はロープの内側に位置し、表面にさらされておらず、したがってロープの表面特性、例えば摩耗抵抗に寄与しないことである。
【0012】
本明細書において、生地の摩耗抵抗とは、例えば、他の物体との摩擦による擦り取り、擦り減り、侵食、研磨または摩滅のプロセスに対する抵抗力と理解される。したがって、摩耗は、動的プロセス、すなわち摩擦を生じさせる運動が関与するプロセスにおいて生地の使用中に起こるプロセスであり、応力が一定にかけられ、かつ例えば生地の疲労を生じさせる静的プロセスにおいては起こらないプロセスである。
【0013】
本発明の生地は、当技術分野で公知の構造体、例えば織り布、メリヤス生地、編組布、ブレイド生地または不織布またはその組み合わせであることができる。織布としては、平織、リブ織、斜子織およびあや織生地等が挙げられる。メリヤス生地は、よこ編生地、例えばシングルまたはダブルジャージー生地、またはたて編生地であることができる。不織布の一例はフェルト生地である。織布、メリヤス生地または不織布の更なる例ならびにその製造方法は、「Handbook of Technical Textiles」の4、5および6章のISBN 978−1−59124−651−0に記載されており、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。ブレイド生地の説明および例は、同じHandbookの11章、さらに具体的にはパラグラフ11.4.1に記載されており、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0014】
本発明の生地は、好ましくはメリヤス生地であり、さらに好ましくは、かかる生地としての織布は、向上した摩耗抵抗を示す。
【0015】
更なる好ましい実施形態において、本発明の生地はブレイド生地であり;さらに好ましくは、本発明の生地は、UHMwPEおよびサーモトロピックLCPフィラメントを含むテープ状またはバンド状構造体からブレイドされる。かかる生地はさらに向上した摩耗抵抗を有することが確認された。本発明の目的に適したテープ状またはバンド状構造体の良い例は、ウェビングまたは平らに編まれた中空筒状ブレイドである。少なくとも2、さらに好ましくは少なくとも3.5、最も好ましくは少なくとも5の幅/厚さ比を有するウェビングを使用した場合、良い結果が得られる。前記の幅/厚さ比は、好ましくは最大で20、さらに好ましくは最大で15、最も好ましくは最大で10である。
【0016】
本発明の生地は立体(3D)の生地であってもよい;すなわち、生地は、互いに3方向に走り、かつ横切るフィラメントを含むストランドを含む。3D生地は当技術分野で公知であり、編成、スティッチング、ブレイディングおよび/または製織などの様々な紡織技術で製造することができる。さらに好ましくは、生地は、たて糸、よこ糸およびバインダーストランドまたはスレッドを含む3D織布であり;さらに好ましくは、本発明の生地は3D中空織布(中空筒状)である。かかる中空生地は、例えば20環状(または円形)織り技術を用いて、または層を端で連結して筒状構造の壁が形成される、多層平織り技術を用いて製造することができる。本発明の更なる好ましい実施形態において、生地は、接結糸によって互いに連結された少なくとも2つの織物層、さらに好ましくは3〜9つの互いに連結された層を含む多層織物構造体であり、任意に中空の筒状で製造される。たて糸、よこ糸および接結糸は、一本で撚られるが、複数本で撚ることもできる。
【0017】
本発明の生地はコーティングされるか、または難燃剤、付着性を低減するためのコーティング、着色剤、艶消剤等を含み得る。
【0018】
本発明の生地の厚さは、大きく異なり、前記生地を用いた製品の用途によって決定される。一般に、摩耗抵抗は、生地の厚さを増加するにしたがって増加するが、厚さの増加に伴って、製造コストも増加する。要求を考慮して、生地の最適な厚さをどのように選択するかは、当業者には公知である。
【0019】
好ましくは、本発明の生地におけるUHMwPEフィラメントの量は、UHMwPEフィラメントとサーモトロピックLCPフィラメントからなる質量に対して20〜98質量%、さらに好ましくは50〜95質量%、またさらに好ましくは60〜90質量%、最も好ましくは65〜85質量%である。前記質量の残りの質量%(100質量%まで)は、サーモトロピックLCPフィラメントからなる。
【0020】
サーモトロピック液晶ポリマーは、Handbook of fibre rope technology,ISBN 1 85573 6063の50および51ページに記載されている。サーモトロピックLCPフィラメントを製造するために使用されるサーモトロピック液晶ポリマーとは、融解され、液晶で会合される芳香族ポリエステルを意味する。好ましくは、そのポリマーは、ナフタレンベースのサーモトロピックベースLCPである。最も好ましくは、サーモトロピックLCPは、p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸との共重合によって生成される。これらのサーモトロピックLCPフィラメントを含むヤーンは、セラニーズ社(Celanese Corporation)によってベクトラン(Vectran)(登録商標)の商標で市販されている。
【0021】
好ましくは、UHMwPEフィラメントを製造するために使用されるUHMwPEは、好ましくは少なくとも3dl/g、さらに好ましくは少なくとも4dl/g、最も好ましくは少なくとも5dl/gの固有粘度(IV)を有する。好ましくは、IVは最大で40dl/g、さらに好ましくは最大で25dl/g、さらに好ましくは最大で15dl/gである。好ましくは、UHMwPEは、C原子100個につき1側鎖未満、さらに好ましくはC原子300個につき1側鎖未満を有する。
【0022】
UHMwPEフィラメントは、当技術分野で公知の技術に従って、例えば溶融紡糸、溶液紡糸またはゲル紡糸によって製造することができる。好ましくは、UHMWPEフィラメントは、欧州特許出願公開第0205960A号明細書、欧州特許出願公開第0213208A1号明細書、米国特許第4413110号明細書、英国特許出願公開第2042414A号明細書、英国特許出願公開第A−2051667号明細書、欧州特許第0200547 B1号明細書、欧州特許出願公開第0472114B1号明細書、国際公開第01/73173A1号パンフレット、欧州特許第1,699,954号明細書などの多くの特許公開およびAdvanced Fibre Spinning Technology,Ed.T.Nakajima,Woodhead Publ.Ltd(1994),ISBN 185573 182 7に記載のゲル紡糸法に従って製造される。
【0023】
UHMwPEフィラメントはさらに、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、流動促進剤等の通例の添加剤を少量、一般に5質量%未満、好ましくは3質量%未満含み得る。UHMwPEは単一ポリマーグレードであることができるが、例えば、IVまたはモル質量分布、かつ/またはコモノマーもしくは側鎖の種類および数が異なる2種類以上の異なるポリエチレングレードの混合物であることもできる。
【0024】
好ましくは、サーモトロピックLCPフィラメントは、少なくとも1GPa、好ましくは少なくとも1.5GPa、さらに好ましくは少なくとも2GPa、またさらに好ましくは少なくとも2.5GPa、最も好ましくは少なくとも3GPaの引張り強さを有する。好ましくは、UHMWPEフィラメントは、少なくとも1GPa、好ましくは少なくとも1.5GPa、さらに好ましくは少なくとも2GPa、またさらに好ましくは少なくとも3GPa、さらに好ましくは少なくとも4GPa、最も好ましくは少なくとも5GPaの引張り強さを有する。
【0025】
本発明の生地は、他のフィラメント、例えば天然フィラメントまたは合成ポリマーのフィラメントも含み得る。天然フィラメントの例としては、綿、麻、羊毛、絹、ジュート、リネン等のフィラメントが挙げられる。合成ポリマーのフィラメントの例としては、例えば、ポリアミドおよびポリアラミドから製造されるフィラメント、例えばポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)(ケブラー(Kevlar)(登録商標)として知られる);ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE);ポリ{2,6−ジイミダゾ−[4,5b−4’,5’e]ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン}(M5として知られる);ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(ナイロン6,6として知られる)、ポリ(4−アミノ酪酸)(ナイロン6として知られる);ポリエステル、例えばポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、およびポリ(1,4シクロへキシリデンジメチレンテレフタレート);ポリビニルアルコール;から製造されるフィラメントが挙げられるが、UHMwPE以外のポリオレフィン、例えばポリプロピレンのホモポリマーおよびコポリマーから製造されるフィラメントもまた挙げられる。本発明の生地における他のフィラメントの質量%は、生地におけるフィラメントの総質量から計算され、好ましくは2質量%未満、さらに好ましくは1質量%未満、最も好ましくは0.5質量%未満である。生地におけるフィラメントの総質量は、UHMWPEとサーモトロピックLCPフィラメントとからなる質量に他のフィラメントからなる質量を加えることによって得られる。最も好ましい実施形態において、本発明の生地におけるフィラメントの総質量は、UHMwPEフィラメントとサーモトロピックLCPフィラメントからなる。
【0026】
本発明の生地におけるUHMwPEまたはサーモトロピックLCPフィラメントの質量%を変化させる最も簡単明瞭な方法は、前記生地の製造プロセスにおいて、UHMwPEフィラメントを含むヤーン(以下、UHMwPEヤーン)、サーモトロピックLCPフィラメントを含むヤーン(以下、LCPヤーン)を使用し、かつ所望のように前記ヤーンの量を変えることである。本明細書においてヤーンとは、その断面よりもかなり大きな長さを有し、かつ複数の連続および/または不連続フィラメントを含む細長い本体であると理解され、前記フィラメントは好ましくは、実質的に互いに平行に並ぶ。
【0027】
他の可能性は、所望の質量%でUHMwPEnとサーモトロピックLCPの連続および/または不連続フィラメントを混合して、次に本発明の生地を製造するために使用されるハイブリッドヤーンを形成することである。別個のUHMwPEおよびLCPヤーンの代わりにハイブリッドヤーンを使用する利点は、得られる製品の特性、例えば摩耗抵抗、剛性および強度をより正確に調整することができ、その製造法が簡略化されていることである。好ましくは、ハイブリッドヤーンは、少なくとも1種類のUHMwPEヤーンと少なくとも1種類のLCPヤーンとを混合してハイブリッドヤーンを形成することによって製造される。本明細書において、フィラメントまたはヤーンを混合するとは、フィラメントまたはヤーンを合わせて単糸を形成することである。ハイブリッドヤーンは、その混合後に撚ることもできる。好ましくは、各種類を少なくとも2本のヤーン、さらに好ましくは少なくとも4本のヤーンを使用して、ハイブリッドヤーンが形成され;最も好ましくは、ヤーンの数は、本発明の生地が対象とされる用途に応じて選択される。好ましくは、前記ヤーンのタイターは、少なくとも100デニール、さらに好ましくは少なくとも1.000デニール、またさらに好ましくは少なくとも5.000デニール、最も好ましくは少なくとも10.000デニールである。
【0028】
本発明は、連続および/または不連続UHMwPEフィラメントおよびサーモトロピックLCPフィラメントを含むハイブリッドヤーンにも関する。好ましくは、ヤーンにおけるUHMwPEフィラメントの量は、UHMwPEフィラメントとサーモトロピックLCPフィラメントからなるフィラメントの質量に対して30〜98質量%、さらに好ましくは50〜95質量%、またさらに好ましくは60〜90質量%、最も好ましくは65〜85質量%である。本発明のハイブリッドヤーンは、本明細書において上記で列挙されたような他のフィラメントも含むことができ、少なくとも5回/m、さらに好ましくは少なくとも10回/m、最も好ましくは少なくとも15回/m、好ましくは最大50回/mで撚られる。本発明のハイブリッドヤーンの利点は、それから製造された生地または製品が今まで全く実現されていない摩耗抵抗を有することである。
【0029】
本発明はさらに、連続および/または不連続UHMwPEおよびサーモトロピックLCPフィラメントを含む、テープ状またはバンド状構造体、特にウェビングに関する。かかるウェビングは好ましくは、参照により本明細書に含まれる欧州特許第1,456,462号明細書に開示される方法で製造される。好ましくは、前記構造体は、本発明のハイブリッドヤーンから製造される。本発明のテープ状またはバンド状構造体は、上記で挙げられたような他のフィラメントも含み得る。
【0030】
本発明は、例えば摩耗力または他の機械的力によって生じる損傷に対する保護手段としての本発明の生地の使用に関する。
【0031】
本発明はさらに、本発明の生地を含む保護カバーに関する。
【0032】
本発明の生地の向上した摩耗抵抗により、前記生地を含む保護カバーは、同じレベルの摩耗抵抗を有しながら、公知のカバーよりも薄い厚さで設計することができる。このようにして、本発明の保護カバーを含む製品、例えば、ロープまたはラウンドスリングの全重量が低減される。意外なことに、特に製品がロープまたはラウンドスリングである場合には、製品の剛性へのカバーの寄与が低減されることも分かった。
【0033】
保護カバーは、損傷から品物を保護すること、または衣料品の場合には、その物品を着用している人を怪我から保護することが意図されるカバーリングである。保護カバーの例としては、物を見えないように、または視界を妨げることが意図されるスクリーンまたはブラインド;機械的衝撃から手首または腕を保護することが意図されるアームガードまたはブレイサー;帽子;家具を保護するコースター;例えば、建物の外側または上部を保護することが意図される外装、表面仕上材または屋根;内面を保護するライニング;太陽光から保護するシェード;航空機カバー;カモフラージュカバー等が挙げられる。本発明は、本発明の生地を含む保護カバーの上記で挙げられた例にも関する。
【0034】
摩擦抵抗の向上の他に、その利点は、本発明の保護カバーは、他のその特性を失うことなく、内面および外面を色あせさせる太陽の有害な紫外線を遮断するのに有効であることである。更なる利点は、前記カバーは、酸性雨、鳥の糞、樹液および環境汚染の他の形態に対する優れた耐性を有することである。さらに、その他の利点は、前記カバーが、埃および塵粒子を寄せ付けないようにするのに有効であり、かつ水分を逃すと同時に優れた耐水性を提供することである。
【0035】
本発明の最も好ましい実施形態において、摩耗および他の機械的衝撃からロープまたはラウンドスリングを保護するために、保護カバーが使用される。この実施形態に従って、本発明の保護カバーは、中空筒状形態を有し、保護する必要があるロープまたはラウンドスリングのコアを囲む。好ましくは、中空筒状カバーの内径は、ロープまたはラウンドスリングのコア直径とおよそ等しい。その利点は、ロープまたはラウンドスリング上でカバーの良好な固定が達成されることである。
【0036】
中空筒状形態は、例えば、適切なサイズの1枚の生地を折り畳み、続いて生地の端を連結することによって得ることができる。連結を容易にするために、生地の端を部分的に重なり合わせる。端を連結するために、適切な連結手段、例えば接着剤、ステッチ、ベルクロ(Velcro)、ジッパー等が用いられる。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、カバーは、適切な紡織技術、例えば製織、編成またはブレイディングによって中空筒状形態へと直接製造されている。さらに好ましくは、カバーは、中空筒状ブレイドである。またさらに好ましくは、中空筒状ブレイドは、フィラメントを含むテープ状またはバンド状構造体からブレイドされる。かかるカバーは向上した摩耗抵抗を提供することが確認された。
【0038】
続いて、ロープまたはラウンドスリングのコアが筒状カバーに導入される。保護されるべきロープまたはラウンドスリングのコア周囲に直接カバーを作ることも可能である。
【0039】
本発明のさらに好ましい実施形態において、中空筒状カバーは、ロープまたはラウンドスリングのコア周囲に直接ブレイドすることによって作製される。例えばHerzog SENG 1/24−‘40ブレイダー機として必要な能力を有するブレイディング機を使用することによって、かかる製品をいかに製造するかは、当業者には公知である。その利点は、ロープまたはラウンドスリング上でよくフィットするカバーを製造することができることである。
【0040】
本発明はさらに、本発明の保護カバーを含むロープ、および本発明の保護カバーを含むラウンドスリングに関する。
【0041】
本発明によるロープまたはラウンドスリングは、非常に向上した耐摩耗性を示す。金属物の切断または鋸引き作用によって起こる外部摩擦に対する耐性は、非常に向上している。ラウンドスリングの場合には、これは例えば、通常鋭い縁端を有する金属コイルの巻き上げに重要である。ロープの場合には、これは例えば、本発明のロープが特に係留ドッキング船に係船索として使用される場合または深海係船索として使用される場合に重要である。ドッキング船は、水面波のために連続的な上下動下にあり、係船索と、それと接触する船の金属部分との間に連続的な摩擦が生じる。本発明のロープは、係船索として使用された場合に、向上した耐摩耗性を示す。例えば石油産出プラットフォームの係留のために深海係船索として使用される場合、本発明のロープは、偶発的にスライドし、かつその鋸引き作用を及ぼす魚網のスチールケーブルに耐えることができる。
【0042】
本発明のロープまたはラウンドスリングは、向上した耐用年数を示し、破壊も受けにくいことがさらに分かった。切断などの破損は、例えばロープまたはラウンドスリングが巻上げ作業で使用される場合に危険な状況を引き起こし得る。耐用年数の増加は、例えば係船索、強力ラウンドスリング等にとって重要である。というのは、かかる製品は一度取り付けると、メンテナンスおよび点検をあまり必要とせず、したがってかかる作業に関係する総費用が低減されるからである。耐用年数の増加は、例えば鋼線に代わって、より要求の厳しい用途における本発明のロープまたはラウンドスリングの使用も可能にする。
【0043】
本発明のロープまたはラウンドスリングは好ましくは、カバーによって完全に囲まれる。カバーは、開放、ネット状構造を有し得る。好ましくは、カバーは、向上した摩耗抵抗を提供するために閉鎖構造を有する。
【0044】
ロープは、単芯または多芯ロープである。多芯ロープにおいて、ロープは、複数の平行なまたは本質的に平行なストランドを含むコアを含み、そのコアはカバーによって囲まれている。このようにして、非常に強く、重量が少なく、かつ耐摩耗性が高いロープが得られる。好ましい一実施形態において、ロープは、少なくとも5mm、さらに好ましくは少なくとも15mm、最も好ましくは少なくとも50mmの直径を有する。それより細いロープは、ヨット等の小さい船の係留に、またはボートおよびヨットで動索として使用するのに、非常に適している。それより太いロープは、巻上げライン、牽引用ライン、港の船用の係船索、オイル生産設備用の係船索等であることができる。
【0045】
ラウンドスリングは、継目なしの耐力芯を含み、その芯は好ましくは、多数回巻いてあるロープまたはストランド材料を含む。好ましくは、ラウンドスリングは、10メートルトンを超える範囲の垂直使用荷重限界(WLL線形)を有する強力ラウンドスリングである(mt;NEN EN1492−2によるWLL;欧州では、米国での5/1およびアジアでの6/1に対して、7/1の安全係数または設計係数が使用されることに留意されたい)。
【0046】
このロープおよびラウンドスリングは、ロープおよびラウンドスリング製造に通常使用される公知の材料から製造することができる。かかる材料の例としては、上記に示す天然材料または合成ポリマーなどが挙げられる。好ましくは、本発明のロープまたは本発明のラウンドスリングの耐力芯は、最も好ましくは、上記で説明したゲル紡糸プロセスによって製造されるUHMwPEフィラメントを含む。最も好ましくは、本発明のロープまたは本発明のラウンドスリングの耐力芯は、ゲル紡糸UHMwPEフィラメントから本質的になる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1a)は、本発明の生地の摩耗抵抗を定量化するために使用されるセットアップを概略的に表し、b)は使用されるセットアップの写真画像である。
【0048】
本発明は、それに制限されることなく、実施例においてさらに説明される。
【0049】
[方法]
・UHMWPEのIVは、ASTM D4020に従って135℃にて、前記ASTM標準によるUHMWPEの溶媒としてデカリンを使用して決定される。
・引張り強さ(または強度)および引張弾性率(または弾性率)は、ASTM D 885Mに従った手順を用いて、ヤーンの公称ゲージ長500mm、クロスヘッド速度50%/分およびインストロン(lnstron)2714クランプ(Fibre Grip D5618C型)を使用して、マルチフィラメント糸で定義および決定される。測定された応力−歪み曲線に基づき、弾性率を歪み0.3〜1%の勾配として決定する。弾性率および強度を計算するために、測定された引張力をタイターで除算する;UHMwPEヤーンに関しては、ポリエチレンの密度0.97g/cmを想定して、GPaでの値が計算される。LCPヤーンに関しては、サーモトロピックLCPの密度1.4g/cmを想定して、GPaでの値が計算される。
・ヤーンのタイターは、ヤーン10メートルを計量し、デニール(グラム/9000メートル)またはデシテックス(グラム/10000メートル)での得られた値を変換することによって決定される。
・中空筒状形態を有し、かつロープ上に直接ブレイドされた生地(101)でカバーされた、この特別な試験のためのロープ(100)である耐力部材(load bearing element)を使用し、金属ワイヤー(200)からの反復の摩耗鋸引き様運動(矢印901によって示される)にそれをかけることによって、生地の摩耗抵抗を図1に示すように測定した。生地を完全に露出または破断する必要なく、前記ワイヤーからの摩耗を受ける位置で、カバーされた耐力部材をさらすことが必要な前後サイクルの回数として、摩耗抵抗を定義した。
【0050】
中空筒状生地は、Herzog Flechtmaschinen,Oldenburg,Deから市販の24 strand Herzog(登録商標)SENG1/24−140ブレイダー機でロープ周囲に直接ブレイドされた単一壁であり;ブレイディング周期は40mm(30ステッチ/100mm)であり、ブレイディング速度は100cm/分であった。カバーの壁厚は約1mmであり、中空筒状生地の内径は、ロープの直径に合うように選択された。
【0051】
カバーをブレイドした後直接、カバーされたロープを巻くことなく、またはスプーリングすることなく、ブレイド生地でカバーされたロープから3mmの試験片(300)を切断した。カバーされたロープの端をBison(登録商標)contact glue(例えば、Bison glueコード6301167/01)に数ミリメートルにわたって約2秒間浸漬し、ロープの端および生地の端のほつれを防ぐためににかわを放置して固化させた。にかわが固化した後、端を約500mmの長さにわたってLAGO−45、I−Coats社から市販の公知のビチューメンベースのコーティング液に浸漬した。次いで、試料を約3日間乾燥させた。
【0052】
乾燥後、その端の一方を固定支点(400)に取り付け、滑車(500)によってもう一方の端を引き、重り(600)1000kgを取り付けることによって、試料(300)を取り付けた。固定支点と滑車の間の試料部分(301)は実質的に水平であり、滑車の中央(501)は、固定支点から約1.20mの距離にあった。次いで、反復鋸引き運動で直径10mmのステンレス鋼ケーブル(200)を操作することによって、水平部分(301)を室温で研磨した。ステンレス鋼ケーブルは未処理であり、芯としてのナイロン(Nylon)(登録商標)ストランドと、それを囲む6本のステンレス鋼ストランドの7本のストランドを有し、そのストランドは直径3mmであり、撚り数1回/7.0cmで撚られていた。ケーブルは垂直面(800)に対して角度(700)120度であり、試料の水平部分(301)のおよそ中央に位置した。ストローク長さ、すなわち、試料表面を運動するスチールケーブルの長さ200mmで、ケーブル運動の周波数は1,0Hzであった。40kgの力(900)でその端を引っ張ることによって、スチールケーブルを定荷重にさらした。
【0053】
[実施例1]
直径10mm、破壊強さ85kNの市販のロープ(12ストランドDynaone,Gleistein製)を方法セクションにおいて上記で説明されるようにブレイドされた生地で覆った。
【0054】
その生地をブレイドするために、24本のヤーンをブレイディング機で使用し、前記ハイブリッドヤーンは、ダイニーマ(Dyneema)(登録商標)SK75(DSMダイニーマ社(DSM Dyneema),NL)として知られる1760デシテックスの市販の2本のUHMwPEヤーンをベクトラン(登録商標)HT1500(クラレ株式会社(Kuraray Co.Ltd.))として知られる1500デニールの市販の1本のサーモトロピックLCPヤーンと混合することによって得られる。それらのヤーンを互いにねじり合わせることなく、混合してハイブリッドヤーンが形成されたが、それを個々のボビンから解くと個々のヤーンのわずかなねじれが生じることもあった。
【0055】
生地におけるUHMwPEおよびサーモトロピックLCPフィラメントの質量%はそれぞれ、約67%および33%であった。
【0056】
カバーされたロープの摩耗抵抗は、方法セクションで詳述される方法に従って試験した。その結果を表1に示す。
【0057】
[実施例2]
実施例1を繰り返したが、ハイブリッドヤーンは1本のダイニーマ(登録商標)SK75ヤーンと2本のベクトラン(登録商標)HT1500ヤーンを含んでいた。生地におけるUHMwPEおよびサーモトロピックLCPフィラメントの質量%はそれぞれ、約34%および66%であった。
【0058】
カバーされたロープの摩耗抵抗を試験した。その結果を表1に示す。
【0059】
[実施例3]
実施例1を繰り返したが、ハイブリッドヤーンは1本のダイニーマ(登録商標)SK75ヤーンと3本のベクトラン(登録商標)HT1500ヤーンを含んでいた。生地におけるUHMwPEおよびサーモトロピックLCPフィラメントの質量%はそれぞれ、約26%および74%であった。
【0060】
カバーされたロープの摩耗抵抗を方法セクションで詳述される方法に従って試験した。その結果を表1に示す。
【0061】
[実施例4]
直径20mm、破壊強さ400kNの市販のロープ(12ストランドDynaone,Gleistein製)を方法セクションにおいて詳述されるようにブレイドされた生地で覆った。
【0062】
その生地をブレイドするために、厚さ約1.8mm、幅9.5mmのウェビングテープ状構造体を使用した。そのウェビングは、ダイニーマ(登録商標)SK75ヤーン5本とベクトラン(登録商標)HT1500ヤーン2本からなるハイブリッドヤーンから作製された。ウェビングのたて糸として使用されたハイブリッドヤーンを15回/mの撚り数(Z撚り)で撚り合わせたのに対して、ウェビングのよこ糸として使用されたハイブリッドヤーンは撚り数20回/m(Z撚り)を有した。そのウェビングは、6本のたて糸ハイブリッドヤーンを有し、それは平織りの1:1構造体(オランダのKBF Geldrop製)であった。ウェビングの構造は、参照により本明細書に包含されるHandbook of Technical Textiles,ISBN 978−1−59124−651−0の4章、図4.1に図示されている。
【0063】
ウェビングの構造体は、Offshore & Trawl Supplies(www.otsas.no/products/protective.htm)より製造かつ販売されている、市販のOTS Protective Jacketと同一であった。
【0064】
生地は、上記のような24本のウェビングテープ状構造体をブレイディング機において使用することによってブレイドされた。
【0065】
生地におけるUHMwPEおよびサーモトロピックLCPフィラメントの質量%はそれぞれ、約72%および28%であった。
【0066】
カバーされたロープの摩耗抵抗は、方法セクションで詳述される方法に従って試験した。その結果を表2に示す。
【0067】
[実施例5]
実施例4のウェビングはダイニーマ(登録商標)SK75ヤーン5本とベクトラン(登録商標)HT1500ヤーン3本から作製されているが、実施例4を繰り返した。
【0068】
生地におけるUHMwPEおよびサーモトロピックLCPフィラメントの質量%はそれぞれ、約64%および36%であった。
【0069】
カバーされたロープの摩耗抵抗は、方法セクションで詳述される方法に従って試験した。その結果を表2に示す。
【0070】
[比較実験A]
実施例1を繰り返したが、ハイブリッドヤーンの代わりに、生地をブレイドするために24本のストランドを使用し、各ストランドはダイニーマ(登録商標)SK75ヤーン3本からなる。カバーされたロープの摩耗抵抗は、方法セクションで詳述される方法に従って試験した。その結果を表1に示す。
【0071】
[比較実験B]
実施例4を繰り返したが、ダイニーマ(登録商標)SK75ヤーンのみを使用して、ウェビングを製造した。その結果を表2に示す。
【0072】
上記の実施例および比較実験から、本発明の生地は、実施例3の場合には約6%、実施例1に関しては印象的な115%と著しく向上した摩耗抵抗を示すことがはっきりと分かる。本発明の生地を実施例4によるウェビングから製造した場合には、約90%の大きな増加も得られた。したがって、本発明の実施例によって、本発明の生地の摩耗抵抗に対するUHMwPEとサーモトロピックLCPフィラメントの相乗効果がはっきりと示されている。
【0073】
【表1】



【0074】
【表2】

【図1a)】

【図1b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)フィラメントおよびサーモトロピック液晶ポリマー(LCP)フィラメントを含む耐摩耗性生地。
【請求項2】
前記UHMwPEフィラメントが、ゲル紡糸によって製造される、請求項1に記載の生地。
【請求項3】
前記サーモトロピックLCPが、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を共重合することによって製造される、請求項1または2に記載の生地。
【請求項4】
UHMwPEおよびサーモトロピックLCPフィラメントを含むテープ状またはバンド状構造体からブレイドされた、請求項1から3のいずれか一項に記載の生地。
【請求項5】
前記生地が、組み合わせられたハイブリッドヤーンを含み、前記ハイブリッドヤーンが、UHMwPEフィラメントおよびサーモトロピックLCPフィラメントを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の生地。
【請求項6】
UHMwPEフィラメントおよびサーモトロピックLCPフィラメントからなる質量に対して20〜98質量%のUHMwPEフィラメントの量を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の生地。
【請求項7】
連続および/または不連続UHMwPEフィラメントおよびサーモトロピックLCPフィラメントを含む、請求項1から6のいずれかに記載の生地を製造するために使用されるハイブリッドヤーン。
【請求項8】
連続および/または不連続UHMwPEフィラメントおよびサーモトロピックLCPフィラメントを含む、請求項1から6のいずれかに記載の生地を製造するために使用される、テープ状またはバンド状構造体。
【請求項9】
保護手段としての、請求項1から6のいずれかに記載の生地の使用。
【請求項10】
請求項1から6のいずれかに記載の生地を含む保護カバー。
【請求項11】
摩耗および他の機械的衝撃からロープまたはラウンドスリングを保護するための、請求項10に記載の保護カバーの使用。
【請求項12】
請求項10に記載の保護カバーを含む、ロープまたはラウンドスリング。

【公表番号】特表2011−518964(P2011−518964A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505421(P2011−505421)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002901
【国際公開番号】WO2009/130001
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】