説明

耐摩耗性触媒成形体

【課題】 本発明は、耐摩耗性に優れ、例えば、ダストを含む排ガスの脱硝処理に使用するのに好適な耐摩耗性触媒成形体を提供するものである。
【解決手段】 本発明は、ガス流れ方向に貫通口を有する多孔性触媒成形体において、細孔の閉塞率が1〜35%、かつ孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔の閉塞容積が全細孔閉塞容積の6〜50%となるようにシリカを担持させる。好ましくは、シリカを、成形体のガス入口端部から成形体全長の15%の長さまでの範囲内で、成形体に担持するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐摩耗性触媒成形体に関し、詳しくは耐摩耗性に優れ、例えば、ダストを含む排ガスの脱硝処理に使用するのに好適な触媒成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、事業用発電設備をはじめとする各種産業分野ではボイラーやエンジンなどが動力源として広く使用されており、これらを稼動させるため一般に石炭、石油、ガスなどが燃料として用いられている。しかし、化石燃料を燃焼した際に発生する多量の燃焼ガス中には大気汚染原因となる窒素酸化物が含まれており、燃焼後ガスを大気中に排出するためには環境への影響、周辺住人への健康被害を考慮し、排ガス中の窒素酸化物を排煙脱硝処理装置で除去し無害化した後、大気中に排出する必要がある。これら排ガス中の窒素酸化物の排煙脱硝処理装置としては、例えば、チタンとケイ素とからなる複合酸化物または二酸化チタンなどのチタン化合物を含む、板状またはハニカム状の脱硝用触媒を排ガス煙道に設置し、脱硝用触媒の上流煙道部から排ガス中にアンモニア、尿素などの還元性ガスを添加した後、脱硝用触媒に通過させ窒素酸化物を水と窒素とに無害化する脱硝処理装置が一般的に用いられている。また、廃棄物を焼却した排ガスなどの処理では、ダイオキシン類や有機化合物の除去や脱硝、脱臭のための触媒を用いる場合も多い。
【0003】
しかし、例えば燃料として石炭を使用する石炭焚きボイラでは、発生する排ガス中にフライアッシュなどのダスト成分が高濃度で含まれているため、この排ガスが触媒を通過する時にダスト成分と触媒とが接触して触媒が削られる、いわゆる摩耗現象が発生し、特にダストとの衝突が激しい排ガス入口側端面では触媒摩耗が大きいことが広く知られている。
【0004】
このような排ガス中のダストによる触媒摩耗の対応策として、水ガラスなどのガラス、あるいは釉による触媒表面の被覆方法が提案されている(特許文献1)。しかし、水ガラスなどのガラス質を用いて触媒表層を被覆する方法では、ガラス質被覆後の熱処理で発生する水蒸気などにより被覆層が破壊され、また強度向上のため被覆層を厚くすると加熱時に被覆層の熱収縮・膨張が起こり、歪が破壊してしまうなどの問題が発生する。さらに、これらガラス質被覆処理した触媒を高濃度ダスト条件で暴露した場合、しばらく暴露を継続するとダストによりガラス質被覆層が摩耗して未処理部分が露出し、その後露出部分を中心に局部的な摩耗が発生することから、十分な耐摩耗強度は得られなかった。
【0005】
また、上記方法の改良法として、触媒に予め金属酸化物を担持し、後から被覆するケイ酸ナトリウムなどのガラス質と触媒との反応を抑制する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、この方法は製造工程が更に複雑となり量産技術としては適当とはいえない。
【0006】
また、耐摩耗強度向上方法として、シリカゲルなどの水溶性コロイド溶液による被覆方法も提案されている。この方法はコロイド溶液中の無機微粒子が触媒細孔内部表面まで侵入して細孔表面を被覆するため、ガラス質被覆方法に比べ局部的な摩耗現象は発生しにくい。しかし、触媒細孔に侵入し細孔表面を被覆する無機微粒子量が少ないと目的とする効果が得られないため、無機微粒子を多くするためシリカなどの高濃度に含有されたコロイド溶液にて処理しても、一定量以上の無機微粒子は細孔表面に被覆できず触媒表面に残存し、これが被覆層の剥離や被覆層のムラなどの原因となりかえって耐摩耗強度が低下する。
【0007】
【特許文献1】特公昭57−26820号公報
【特許文献2】特開平11−57489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐摩耗性に優れ、例えば、ダストを含む排ガスの脱硝処理に使用するのに好適な耐摩耗性触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの研究によれば、上記課題は下記発明により解決できることがわかった。
(1)ガス流れ方向に貫通口を有する多孔性触媒成形体のガス入口側部に、細孔の閉塞率が1〜35%、かつ孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔の閉塞容積が全細孔閉塞容積の6〜50%となるようにシリカを担持させてなることを特徴とする耐摩耗性触媒成形体。
(2)シリカを、成形体のガス入口端部から成形体全長の15%の長さまでの範囲内で、成形体に担持する上記(1)の耐摩耗性触媒成形体。
(3)脱硝用触媒成形体である上記(1)または(2)の耐摩耗性触媒成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の耐摩耗性触媒成形体は、耐摩耗性に優れ、例えば、ダストを含む排ガスの脱硝処理に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の耐摩耗性触媒成形体とは、排ガスの脱硝処理、ダイオキシン類の酸化分解処理、脱臭処理、有機化合物分解処理などの各種処理に用いられる触媒成形体であって、その少なくともガス入口側部を耐摩耗性にしたものである。その代表例としては、排ガスの脱硝処理やダイオキシン類の酸化分解処理、特に排ガス中のダストによって摩耗現象が起こりやすい、排ガスの脱硝処理に用いる触媒成形体のガス入口側部を耐摩耗性にしたものを挙げることができる。
【0012】
上記触媒成形体については特に制限はなく、上記各種処理に一般に用いられている、ガス流れ方向に貫通孔を有する多孔性触媒成形体であればいずれも使用することができる。具体的には、例えば、排ガスの脱硝処理に一般に用いられている、チタン−ケイ素複合酸化物、または二酸化チタンなどのチタン酸化物を主成分とし、そのほかモリブデン、バナジウム、タングステンなどの酸化物を含有する触媒組成物を図1に示すハニカム状、あるいは図2に示す板状などに成形することにより上記触媒成形体が得られるが、本発明の耐摩耗性触媒成形体は、この触媒成形体の少なくともガス入口側部を耐摩耗化処理したものである。なお、上記多孔性触媒成形体は、通常、孔径が0.01〜100μmの範囲の細孔を有している。
【0013】
本発明の耐摩耗性触媒成形体は、ガス流れ方向に貫通口を有する多孔性触媒成形体のガス入口側部に、細孔の閉塞率が1〜35%、かつ孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔の閉塞容積が全細孔閉塞容積の6〜50%となるようにシリカを担持したものである。
【0014】
細孔の閉塞率は1〜35%であり、好ましくは3〜30%である。ここで、「閉塞率」とは次のとおり定義されるものである。なお、細孔容積は水銀圧入法によって測定したものである。
閉塞率(%)=(耐摩耗化処理前の全細孔容積−耐摩耗化処理後の全細孔容積)/(耐摩耗化処理前の全細孔容積)(×100)
上記閉塞率が1%未満では十分な耐摩耗強度が得られず、一方35%を超えると耐摩耗化処理に用いたシリカの担持ムラなどが発生し、かえって耐摩耗強度が低下する。
【0015】
本発明の耐摩耗性触媒成形体においては、触媒成形体の0.01〜100μmの範囲の孔径を有する細孔のうち、0.01〜0.1μmの範囲の孔径を有する細孔(本発明では孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔という。)の少なくとも一部を閉塞させて閉塞率が1〜35%の範囲となるようにするのが好ましい。すなわち、0.01〜0.1μmという微小な孔径を有する細孔の少なくとも一部を閉塞することにより、より効果的に耐摩耗性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の耐摩耗性触媒成形体においては、上記の孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔を、その閉塞容積が全細孔閉塞容積の6〜50%となるように閉塞させる。すなわち、下記式で算出される数値(以下、孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔閉塞率という。)が6〜50%となるようにする。
孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔閉塞率(%)=
(耐摩耗化処理前の孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔容積−耐摩耗化処理後の孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔容積)/(耐摩耗化処理前の全細孔容積−耐摩耗化処理後の全細孔容積)(×100)
なお、孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔容積は水銀圧入法により測定した。水銀圧入法による細孔容積測定では、水銀を低圧から高圧へ段階的に加圧しながら圧入し、大孔径から小孔径の細孔の順に測定が行われる。このとき、各測定圧力で測定される細孔の孔径は一定であることから、孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔の測定圧力から孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔容積を求めた。
【0017】
上記孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔閉塞率が6%未満では、触媒成形体の耐摩耗性を十分に向上させることができない。
【0018】
本発明の耐摩耗性触媒成形体は、その少なくともガス入口側部をケイ素化合物を含む溶液または分散液で処理し、その後乾燥、焼成することにより得られる。この溶液または分散液による処理は、元素化合物が細孔内部まで十分侵入するようにすればよく、例えば、触媒成形体の少なくともガス入口側部にケイ素化合物を含む溶液または分散液を含浸させればよい。例えば、シリカゾル(例えば、スノーテックス(商品名))を用いることができる。シリカゾルは、排ガス中に含まれるSOの酸化性能が低く実用的である(SO酸化性能が高いとSOを生成し、配管腐食や硫黄化合物による配管閉塞などの問題を起こす。)
分散液による処理は、シリカゾルを用いて行われるが、その際の孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔閉塞率は6〜50%である。なお、ゾルとしては、平均粒子径が5〜20μmの範囲のものが用いられる。
【0019】
触媒成形体全体を耐摩耗化処理してもよいが、通常、触媒成形体のガス入口側部(入口側端部)について耐摩耗化処理を行えばよい。具体的には、例えば、ガス入口側から触媒成形体の1〜15%の長さの範囲を処理すればよい。
【0020】
触媒成形体は、上記元素化合物溶液または分散液による処理の後、乾燥、焼成するが、この焼成は50〜650℃、好ましくは100〜500℃の範囲で行うのがよい。焼成温度が低すぎると耐摩耗強度の向上が十分でなく、一方高すぎると触媒が熱劣化を起こしたり、また結晶構造の変化により摩耗強度が低下することがある。なお、上記元素化合物は、焼成などにより、酸化物などの形態に変換されているものと考えられる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
触媒成形体として、チタニアとシリカとからなる複合酸化物を主成分とし、これにバナジウムおよびタングステンを加えてなる、壁厚1mm、長さ1mのハニカム状触媒成形体を用いた。
【0022】
この触媒成形体の端面から50mmの範囲の部分に、スノーテックス(商品名、日産化学(株)製)を用いて調製した、シリカ含有量が7質量%のコロイダル溶液を含浸させ、常温の室温で8時間放置した後、さらに450℃で2時間焼成した。これにより端面部(処理部)にシリカが被覆された触媒(1)が得られた。
【0023】
この触媒(1)の細孔容積を水銀圧入法により測定したところ、その細孔容積は、処理部で0.415cc/gであり、未処理部で0.42cc/gであった。また、孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔容積については、処理部で0.3245cc/gであり、未処理部で0.3250cc/gであった。閉塞率および孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔閉塞率を表1に示す。
(実施例2)
実施例1で用いたと同じ触媒成形体の端面から50mmの範囲の部分に、スノーテックス(商品名、日産化学(株)製)を用いて調製した、シリカ含有量が7質量%のコロイダル溶液を含浸させ、常温の室温で8時間放置した後(含浸−乾燥工程:4回)、さらに450℃で2時間焼成した。これにより端面部(処理部)にシリカが被覆された触媒(2)が得られた。
【0024】
この触媒(2)の細孔容積を水銀圧入法により測定したところ、その細孔容積は、処理部で0.402cc/gであり、未処理部で0.42cc/gであった。また、孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔容積については、処理部で0.3198cc/gであり、未処理部で0.3250cc/gであった。閉塞率および孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔閉塞率を表1に示す。
(比較例1)
実施例1で用いたと同じ触媒成形体をボックス型乾燥器内で120℃で3時間乾燥させた後、さらに450℃で2時間焼成した。
【0025】
このようにして得られた触媒(3)の細孔容積を水銀圧入法により測定したところ、その細孔容積は0.42cc/gであった。また、孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔容積は、0.3250cc/gであった。閉塞率および孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔閉塞率を表1に示す。
(比較例2)
実施例1で用いたと同じ触媒成形体の端面から50mmの範囲の部分に、スノーテックス(商品名、日産化学(株)製)を用いて調製した、シリカ含有量が1質量%のコロイダル溶液を含浸させ、常温の室温で8時間放置した後、さらに450℃で2時間焼成した。これにより端面部(処理部)にシリカが被覆された触媒(4)が得られた。
【0026】
この触媒(4)の細孔容積を水銀圧入法により測定したところ、その細孔容積は、処理部で0.418cc/gであり、未処理部で0.42cc/gであった。また、孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔容積については、処理部で0.3249cc/gであり、未処理部で0.3250cc/gであった。閉塞率および孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔閉塞率を表1に示す。
(実施例3)
触媒(1)〜(4)をそれぞれ端面から100mmのところで切断し、風洞内に触媒開口部がガス流れ方向に対し垂直になるように、また処理部がガス入口側となるように設置した。
【0027】
平均粒子径約40μmのケイ砂を50g/Nm相当含有したケイ砂含有空気を30m/秒の速度で60分間触媒内を通過させた。ケイ砂含有空気の通過前(試験前)の触媒の重量と通過後(試験後)の触媒の重量とを測定して、下記式にしたがって摩耗率を求めた。
摩耗率(%)=(試験前の触媒重量−試験後の触媒重量)/(試験前の触媒重量)(×100)
結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ハニカム状触媒の斜視図および横断面図である。
【図2】板状触媒の斜視図および横断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流れ方向に貫通口を有する多孔性触媒成形体のガス入口側部に、細孔の閉塞率が1〜35%、かつ孔径0.01〜0.1μm範囲の細孔の閉塞容積が全細孔閉塞容積の6〜50%となるようにシリカを担持させてなることを特徴とする耐摩耗性触媒成形体。
【請求項2】
シリカを、成形体のガス入口端部から成形体全長の15%の長さまでの範囲内で、成形体に担持する請求項1に記載の耐摩耗性触媒成形体。
【請求項3】
脱硝用触媒成形体である請求項1または2に記載の耐摩耗性触媒成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−231332(P2006−231332A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110548(P2006−110548)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【分割の表示】特願2001−9716(P2001−9716)の分割
【原出願日】平成13年1月18日(2001.1.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】