説明

耐摩耗継目無鋼管およびその製造方法

【課題】 加工性に優れた耐摩耗継目無鋼管を得る。
【解決手段】 重量%で、C:0.1〜0.2%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.5〜2.5%、Al:0.02〜0.05%、N:0.001〜0.01%、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなり、かつ不可避的不純物のP、Sが、P:≦0.015%、S:≦0.01%であり、組織がフェライト地に網目状のマルテンサイト相とベイナイト相を合計量で10〜30%含む耐摩耗継目無鋼管。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、石炭等のスラリ−輸送や、塵芥の空気輸送等に使用し、加工性にも優れた耐摩耗継目無鋼管およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】近年、土砂の輸送や石炭や鉱石等のスラリ−輸送、塵芥の空気輸送等に鋼管を使用したパイプラインが普及しつつあるが、このような用途に使用される鋼管の内面は、輸送する物体が固体やスラリ−であるため、絶えずこれらの物体により摩耗される状態に置かれている。
【0003】このような摩耗による鋼管の摩耗量は極めて大きいため、鋼管の寿命が短く、絶えず取り替えを必要とするので、輸送にかかるコストが高くなるだけでなく、稼働率を下げる原因ともなっている。
【0004】このような用途に使用する鋼管の耐摩耗性を向上させる方法の一つとして、鋼管の内面を合成樹脂等でコ−ティングする方法があるが、コ−ティング費用がかさむ上に、溶接部近傍の耐摩耗性を高める対策が必要であるという問題もある。
【0005】また、別の方法として、浸炭により硬化層を形成させたり、ステライト等の硬い合金を被覆して、鋼の表面の硬度を高くして、耐摩耗性を向上させる方法がある。
【0006】しかし、この方法も、処理できる鋼管の外形や長さが制約される上に、コストも高くなる。
【0007】そこで、耐摩耗性の向上にコストがかからず、対象とする鋼管の外径や長さが制約されることのない方法として、鋼の組成や熱処理といった冶金的面から耐摩耗性を改善するという方法が提案されている。
【0008】特開平9−184014号公報に開示された技術においては、重量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.5〜2.5%、Al:0.02〜0.05%、N:0.001〜0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ不可避的不純物のP、Sが、P:≦0.015%、S:≦0.01%であり、組織がフェライト地に網目状のマルテンサイト相とベイナイト相を合計量で40〜65%含む耐摩耗継目無鋼管が開示されている。
【0009】また、重量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.5〜2.5%、Al:0.02〜0.05%、N:0.001〜0.01%、かつ不可避的不純物のP、Sが、P:≦0.015%、S:≦0.01%に制限した組成を持つ継目無鋼管を(AC1)〜(AC1+100℃)の温度範囲に加熱し、加熱温度から600℃以上、(AC1+50℃)以下の温度まで徐冷し、以後急冷する耐摩耗継目無鋼管の製造方法が開示されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した特開平9−184014号公報に開示された技術には、次のような問題点がある。
【0011】特開平9−184014号公報に開示された製造方法で製造した継目無鋼管は、耐摩耗性は向上するが、冷間曲げ加工性が劣り(限界曲げRが大きい)、パイプラインの曲線部分に使用できない。また、この問題を解消するために、熱間曲げ加工により所定の曲管に成形しようとすると、曲げ加工後に再度熱処理を行う必要があるので、製造コストがかさむとともに、施工場所においては熱処理ができない場合が多く、実用的ではない。
【0012】この発明は、従来技術の上述のような問題点を解消するためになされたものであり、耐摩耗性に優れている上に、加工性も良好な耐摩耗継目無鋼管およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】この発明に係る耐摩耗継目無鋼管は、重量%で、C:0.1〜0.2%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.5〜2.5%、Al:0.02〜0.05%、N:0.001〜0.01%、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなり、かつ不可避的不純物のP、Sが、P:≦0.015%、S:≦0.01%であり、組織がフェライト地に網目状のマルテンサイト相とベイナイト相を合計量で10〜30%含むものである。
【0014】また、この発明に係る耐摩耗継目無鋼管の製造方法は、重量%で、C:0.1〜0.2%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.5〜2.5%、Al:0.02〜0.05%、N:0.001〜0.01%を含有し、かつ不可避的不純物のP、Sが、P:≦0.015%、S:≦0.01%に制限した組織を持つ継目無鋼管を(Ac1)〜(Ac1+100℃)の温度範囲に加熱し、加熱温度から500〜600℃の温度に徐冷し、以後急冷するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】本発明鋼は、フェライト相+網目状(マルテンサイト相+ベイナイト相)の組織とする。網目状とは、マルテンサイト相やベイナイト相が、フェライト粒を取り囲む形の組織をさすものとする。この網目状のマルテンサイト相やベイナイト相は、鋼を(Ac1)〜(Ac1+100℃)の温度範囲に加熱したときに生成したオ−ステナイト相が変態したものである。なお、以後のマルテンサイト相およびベイナイト相はいずれもこの網目状の相をさすものとし、網目状は省略する。
【0016】マルテンサイト相+ベイナイト相により耐摩耗性を確保し、フェライト相により靱性および延性を確保する。
【0017】通常のSS400の2倍の耐摩耗性(摩耗試験における摩耗量が1/2以下)を確保するためには、Cが濃化したマルテンサイト相+ベイナイト相の合計量10%以上であることが必要である。このため、Cの範囲を0.10から0.20とした。
【0018】一方、良好な冷間曲げ加工性(限界曲げR≧5D、Dは管の直径)を確保する上では、マルテンサイト+ベイナイト量の上限を30%にする必要がある。
【0019】次に、成分の限定理由を述べる。マルテンサイト相およびベイナイト相の硬度を確保するためには、C量は0.1%以上必要である。一方、溶接性や靱性の確保の点からは、その上限は0.2%以下にしなくてはならない。したがって、C量の範囲は0.1〜0.2%とする。
【0020】Siは冷却時にマルテンサイト変態、およびベイナイト変態を十分に起こさせるためには、0.5%以上が必要である。ただし、2.0%を超えると靱性、加工性に影響が出てくるため、その範囲は0.5〜2.0%とする。
【0021】Mnも冷却時にマルテンサイト変態、およびベイナイト変態を十分に起こさせるためには、0.5%以上が必要である。一方、2.5%を超えると靱性や溶接性に悪影響がでてくるため、その範囲は0.5〜2.5%とする。
【0022】以上の元素は、鋼に耐摩耗性を与える上から添加する。また、機械的特性を確保するために、それぞれの上限を定める。一方、継目無鋼管はその製造方法上の特性より、例えば熱延鋼板等の鋼板と比較して、加熱温度、加工温度が高く、また加工度が低いという特徴がある。すなわち、圧延終了時のオ−ステナイト結晶粒が大きい。
【0023】オ−ステナイト結晶粒が大きい場合は、冷却変態後の組織も粗くなり、靱性が劣化する。したがって、決められた圧延条件下で、いかに結晶粒を小さくするかが重要であるが、本発明においては、AlとNを適正量添加することにより、この問題を解決した。
【0024】すなわち、Alを0.02%以上、Nを0.001%以上とし、AlNを積極的に析出させ、オ−ステナイト粒の細粒化を計るものである。一方、Alが0.05%、Nが0.01%を超えると、介在物量が増加して、清浄度が下がり靱性が劣化するため、これを上限とする。
【0025】P、Sの制限も、本発明鋼の靱性を確保する上で重要である。本発明鋼は急冷後に焼き戻し処理を行なわない。通常、鋼は焼入れままの状態では、靭性が劣ることが知られているが、本発明鋼においては、P、S量の制限とC量の制限および上記の、Al、Nの適量添加により、この問題を解決した。具体的には、P量を0.015%以下に、S量を0.01%以下に制限することにより、vE+20の値を20J以上にすることができる。
【0026】次に、熱処理条件について述べる。上記したような組織の鋼管を得るためには、以上に示した成分の制限に加えて、特別な熱処理が必要である。本発明に係る成分の鋼は、AC3温度以上のオ−ステナイト1相域より急冷した場合は、マルテンサイト量(網目状ではない)が多くなりすぎ、延性および靭性が確保されない。
【0027】本発明においては、(Ac1)〜(Ac1+100℃)の温度範囲に加熱し、オ−ステナイト、フェライト2相域から冷却する。この場合の冷却においては、少なくとも500℃より下の温度域は急冷する必要がある。急冷の冷却速度は、10℃/秒以上である。なお、急冷の終了温度は200℃以下とする。
【0028】また、上記の加熱温度から500℃以上、600℃以下の温度範囲にまで徐冷して、以後急冷することにより、さらに優れた特性が得られる。
【0029】徐冷を600℃以下の温度範囲にまで行なうことにより、耐摩耗性を保持しつつ加工性が確保される。一方、500℃より低温にまで徐冷を行なうと、軟らかになりすぎ、十分な耐摩耗性が得られなくなる。なお、徐冷の冷却速度は1℃/秒以下である。
【0030】本発明鋼のAc1温度は710〜770℃(実施例は730〜770℃)程度と予想される。したがって、加熱温度は710〜870℃(実施例の場合は730〜870℃)の間であり、徐冷の終了温度は500〜600℃の間である。なお、徐冷の終了温度は、急冷の開始温度である。
【0031】上記の温度範囲を徐冷する場合に、徐冷の冷却速度を遅くすると、強度やマクロ硬度は下がり、また降伏比も下がり加工性が向上するが、これに加えて耐摩耗性も向上するという優れた効果が現れる。冷却速度をさらに遅くすると、耐摩耗性は極大値を示した後に低下する。優れた耐摩耗性が得られる下限の冷却速度は0.2℃/秒程度であり、最適範囲は0.3〜0.6℃/秒程度であるが、下限の規定は特に必要でない。
【0032】耐摩耗性に対する徐冷の効果および徐冷の条件に最適範囲がある理由は明らかでないが、ゆっくり徐冷されることにより、フェライト相が析出し、Cの固溶限はフェライト相よりもオ−ステナイト相の方が大きいため、Cを残っているオ−ステナイト相に排出し、結果的にマルテンサイト相やベイナイト相の硬度を上げることが考えられる。
【0033】C含有量が0.1%以下であると、オ−ステナイト相に排出されるC量が少なくなり、急冷による変態後のマルテンサイト相やベイナイト相の硬度が下がり、合計量が10〜30%でも耐摩耗性は劣る。徐冷の速度が遅すぎると、フェライト相の割合がさらに増加しすぎる結果、当然耐摩耗性は劣る。
【0034】徐冷を行なった場合の靭性は、P量が少ないほど高くなる。P量を0.010%以下にした鋼の靭性は、P量が多い鋼に比較して良好である。
【0035】なお、本発明鋼の溶解は転炉による。介在物はもちろん好ましくなく、清浄度は0.5%以下とする。鋳込み方法は連続鋳造とする。これは、AlNの分散は連続鋳造の場合に、より均一になることによる。
【0036】
【実施例】表1、表2に本発明の実施例を、また表3に比較例を示す。何れの鋼管も転炉による溶製、連続鋳造、鋼片圧延、マンネスマン穿孔、プラグミル圧延の工程を経て、外径267.4mm、肉厚12.7mmの継目無鋼管とし、一度常温まで冷却した後、再度表に示した熱処理を行なった。
【0037】耐摩耗性は、試験片をアルミナのスラリ−中で回転させ、SS400の摩耗減量との比により求めた。
【0038】靭性は、20℃におけるシャルピ−衝撃試験の吸収エネルギ−で20Jを境界値とした。吸収エネルギ−の境界値を20Jとしたのは、20J未満の場合は、破壊が起こる確率が急増するためである。
【0039】加工性は、曲げ半径Rが5D(Dは管の直径)の冷間曲げ加工を実施した際に、曲げ頂点部に割れが生じない場合を合格とした。
【0040】表1のNo.1〜No.16は、同一の鋼において、熱処理条件を変化させた実施例である。各温度とも10分である(以後も同様)。
【0041】No.1〜No.5は、800℃に加熱後の徐冷終了温度を変化させている。徐冷時の冷却速度は、0.5℃/秒である。急冷は水冷(20℃/秒)で、管の内面にノズルで水を吹き付ける方法で行なっている。冷却速度は管の肉厚中央部の値であり、ミクロ組織の観察位置も肉厚中央部である。
【0042】No.7〜No.13も、急冷は水冷ではあるが、冷却水の量が少なく、冷却速度は15℃/秒または10℃/秒である。No.14〜No.16は徐冷時の冷却速度を変化させている。
【0043】No.1〜No.16の実施例においては、いずれもSS400の2倍以上の耐摩耗性を示している。また、いずれも良好な曲げ加工性を示している。
【0044】
【表1】


【0045】表2は、成分を変化させた実施例である。いずれも本発明の成分範囲内にあり、耐摩耗性、靭性ともに優れた値を示している。Pが高いNo.21は靭性がやや低く、P量や、P量、S量ともに少ないNo.22、No.23の吸収エネルギ−はやや高くなっている。
【0046】
【表2】


【0047】表3のNo.31〜No.43は比較例である。No.31〜No.35は、No.1等と同一成分組成の鋼において、熱処理条件が本発明の熱処理条件から外れた場合の比較例である。
【0048】No.31、No.32は、加熱温度および急冷開始温度が高すぎるため、マルテンサイト相やベイナイト相が多くなりすぎて、耐摩耗性は十分であるが、靭性が劣っている。
【0049】No.33は、500℃より下の温度域を徐冷しており、靱性は十分であるが、耐摩耗性が低い。なお、この場合の冷却速度は、200℃まで3℃/minであった。
【0050】No.34は、450℃まで徐冷を行ったため、フェライト量が多くなり、靱性は十分であるが、耐摩耗性はSS400に近づいている。
【0051】No.35は、加熱温度がAc1温度以下のため、製管時のままのフェライトパ−ライト組織であり、やはり靱性は十分であるが、耐摩耗性はSS400と大差がない。
【0052】No.36は、C量が低すぎて、ベイナイト量とマルテンサイト量の割合は本発明鋼の範囲であるが、Cのフェライト相からの排出量が少なくて、十分な耐摩耗性が得られていない。
【0053】No.37は、C量が多く、耐摩耗性は十分であるが、靱性が低い。No.38は、Si量が多く、吸収エネルギ−が低い。No.39は、Mn量が多く、靱性が低い。No.40は、Al、Nが少なく、オ−ステナイト粒が大きく、靱性が低い。No.41は、Al、Nが多く、介在物が多くなり、靱性が低い。No.42は、Pが多く、靱性が低い。No.43は、Sが多く、靱性が低い。
【0054】
【表3】


【0055】
【発明の効果】本発明により、加工性に優れた耐摩耗継目無鋼管を得ることができ、耐摩耗継目無鋼管の適用範囲を拡大することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量%で、C:0.1〜0.2%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.5〜2.5%、Al:0.02〜0.05%、N:0.001〜0.01%、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなり、かつ不可避的不純物のP、Sが、P:≦0.015%、S:≦0.01%であり、組織がフェライト地に網目状のマルテンサイト相とベイナイト相を合計量で10〜30%含むことを特徴とする耐摩耗継目無鋼管。
【請求項2】 重量%で、C:0.1〜0.2%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.5〜2.5%、Al:0.02〜0.05%、N:0.001〜0.01%を含有し、かつ不可避的不純物のP、Sが、P:≦0.015%、S:≦0.01%に制限した組成を持つ継目無鋼管を(Ac1)〜(Ac1+100℃)の温度範囲に加熱し、加熱温度から500〜600℃の温度に徐冷し、以後急冷することを特徴とする耐摩耗継目無鋼管の製造方法。