説明

耐水性エマルジョン

【目的】 アセトアセチルPVAとヒドラジノ酸との反応生成物を保護コロイドとして、酢酸ビニル系モノマーを乳化重合させて得られる耐水性エマルジョン。
【構成】 PVAとジケテンとを反応させて得られる、平均重合度500〜2600、平均ケン化度85〜99モル%、アセトアセチル化度0.05〜20モル%のAA化PVAとヒドラジノ酸(例、ヒドラジノギ酸)との反応生成物を保護コロイドとする酢酸ビニル系樹脂エマルジョンを主成分とする耐水性エマルジョン。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は耐水性、耐熱性、耐溶剤性などの各種物性がより向上したエマルジョンに関する。
【0002】
【従来の技術】アセトアセチル化ポリビニルアルコール(以下、AA化PVAと略記する)を保護コロイドとする酢酸ビニル系樹脂エマルジョンは、低温安定性、凍結安定性、耐水性などの点で良好な性質を有することから、家具、合板の二次加工、薄葉板等の木材用接着剤として広く使用されている。
【0003】しかし、より高度の耐水性あるいは耐熱性が要求される分野での使用に当っては、該エマルジョンは耐水化剤の添加が必要とされ、耐水化剤としてイソシアネート化合物、エポキシ系化合物、ラジカル形成能を有する化合物、酸化剤、酸類から選ばれる少なくとも一種を添加したエマルジョン組成物も開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、本発明者らが更に研究を重ねたところによると、かかるエマルジョンであっても使用する環境、方法等により未だ耐水接着性、耐熱性が劣るため、化粧合板、楽器、高級家具、キャビネット等に使用する場合に実用上の支障があった。
【0005】また、AA化PVAを乳化剤あるいは増粘剤として使用したエマルジョンは粘度が経時的に上昇し、放置安定性に問題があった。
【0006】本発明の目的は、耐水性、耐熱性に優れ、かつ、経時増粘が少ない耐水性エマルジョンを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、アセトアセチル化ポリビニルアルコールと水あるいは温水に可溶なヒドラジノ酸との反応生成物を保護コロイドとする酢酸ビニル系樹脂エマルジョンを主成分とすることを特徴とする耐水性エマルジョンである。
【0008】本発明におけるAA化PVAとは、ポリビニルアルコール系樹脂にジケテン、アセト酢酸、アセト酢酸エステルなどを反応させて得られる変性ポリビニルアルコールである。使用されるAA化PVAを得る際に用いられるポリビニルアルコール(PVA)は特に限定されないが、保護コロイド性の点から、平均重合度500〜2600、平均ケン化度85〜99モル%の範囲が好ましい。AA化PVAのAA化度は0.05〜20モル%の範囲が適当である。0.05モル%未満ではエマルジョン組成物の耐水性、安定性が低下し、20モル%を越えると分散系が破壊されて、均質な乳濁状態が得られなかったり、あるいは得られたエマルジョンの安定性が劣ったものとなり、実用上は好ましくない。
【0009】ヒドラジノ酸とは、一般式NH2NH-R-COOHで、具体例としては、ヒドラジノギ酸、ヒドラジノ酢酸、2−ヒドラジノイソ酪酸、2−ヒドラジノプロピオン酸、O,P−ヒドラジノ安息香酸、ヒドラジノニ酢酸などがある。
【0010】AA化PVAとヒドラジノ酸との反応は、AA化PVAを水中に分散後に加温して溶解し、その後、ヒドラジノ酸を添加して温水中で反応させることにより得られる。
【0011】ヒドラジノ酸の使用量は、AA化PVAに対し、重量比で0.05〜0.3が好ましい。これより少ないと耐水性、耐熱性の向上の効果が出ない。また、これより多く使用するとエマルジョン重合後のエマルジョンの外観が良くない。
【0012】AA化PVAとヒドラジノ酸との反応生成物とは、AA化PVA中のアセトアセチル基に、ヒドラジノ酸が付加した生成物であり、AA化PVAに比べて付加したヒドラジノ酸の分量だけ分子量が大きくなり、耐水性、耐熱水性の向上に寄与するものと推察される。
【0013】本発明にいうAA化PVAとヒドラジノ酸との反応生成物を保護コロイドとする酢酸ビニル系樹脂エマルジョンとは、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体エマルジョン、酢酸ビニル−メタクリル酸エステル共重合体エマルジョン等、樹脂中に酢酸ビニル成分を含有するものを言う。
【0014】該エマルジョンを得るには、前記のAA化PVAとヒドラジノ酸との反応生成物(ヒドラジノ酸付加AA化PVA水溶液)を保護コロイドとして、酢酸ビニルの単量体及び必要に応じて他の共重合可能な単量体を共存させてエマルジョン重合する方法、ポリビニルアルコール、セルロース類、界面活性剤の存在下で乳化重合した酢酸ビニル系樹脂エマルジョンにAA化PVAを後添加する方法等の任意の方法が実施される。実用的にはAA化PVAを保護コロイドとして前記単量体を乳化重合するのが好ましい。重合に際しては、通常の乳化重合に用いられる乳化重合触媒を使用する。特にレドックス系触媒が好ましく、具体的に例示すると過酸化水素、過硫酸アンモニウム又は過硫酸カリウムとメタ重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、ジメチルアニリン、ホルムアルデヒド亜鉛スルホキシレート、或いはホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラートとの組合せが挙げられる。
【0015】かくして得られた酢酸ビニル系樹脂エマルジョンはそのまま、或いは必要に応じて他のエマルジョン、更に可塑剤、高沸点溶剤等の造膜助剤、クレー、炭酸カルシウム、カオリン等の体質顔料、酸化チタン等の有色顔料、防腐剤、防虫剤、消泡材、小麦粉、木粉等の増量剤等を適宜配合して使用され得る。更に、少量のホルマリン系縮合樹脂も配合できる。
【0016】本発明の耐水性エマルジョンは、紙、木材、プラスチックス、繊維などの接着剤、バインダー、コーティング剤として用いられ、特に高粘度である木工接着、紙接着の高速機械化に好適であり、更に耐熱水接着性、耐水性に優れているので、かかる耐水性の必要な耐水段ボール、合板などに最適である。
【0017】
【実施例】以下、実施例により説明するが、部または%とあるのは重量基準である。
実施例1○ヒドラジノ酸付加AA化PVA水溶液の製造アセトアセチル基7.8モル%及び残存酢酸基1モル%を含有する平均重合度1800のPVA(ゴーセファイマーZ−100、日本合成化学社製)90部を水900部に入れ、撹拌分散後に80℃にて1時間溶解した。その後、ヒドラジノ酸としてヒドラジノギ酸10部を添加し、80℃で1時間反応させて、濃度10%のヒドラジノ酸付加AA化PVA水溶液を得た。
【0018】上記のヒドラジノ酸付加AA化PVA10%水溶液400部をガラス製重合用容器にとり、80℃に昇温後、酢酸ビニルモノマー260部と過硫酸アンモンの0.5%水溶液40部を3時間で均一に滴下してエマルジョン重合を行い、重合終了後1時間熟成したのち、ジブチルフタレート(DBP)25部を添加、冷却して濃度40%、粘度30Pas/23℃、PH3.8の実施例1のエマルジョンを得た。
【0019】実施例2実施例1において、ヒドラジノ酸付加AA化PVA10%水溶液400部に、未変性のPVA(デンカB−17、電気化学社製)5部を添加した以外は、同様にして、濃度40%、粘度35Pas/23℃、PH3.9の実施例2のエマルジョンを得た。
【0020】実施例3実施例1において、酢酸ビニルモノマー260部の代りに、酢酸ビニルモノマー230部とアクリル酸ブチル30部に変えた以外は、同様にして、濃度42%、粘度26Pas/23℃、PH3.8の実施例3のエマルジョンを得た。
【0021】比較例1実施例1において、ヒドラジノ酸付加AA化PVA10%水溶液の代りに、未変性のPVA(デンカB−17)10%水溶液を使用した以外は、同様にして、不揮発分40%、粘度40Pas/23℃、PH3.8の比較例1のエマルジョンを得た。
【0022】比較例2実施例1において、ヒドラジノ酸付加AA化PVA10%水溶液の代りに、ヒドラジノ酸を反応させていない、AA化PVA(ゴーセファイマーZ−100)の10%水溶液を使用した以外は、同様にして、不揮発分40%、粘度25Pas/23℃、PH4.0の比較例2のエマルジョンを得た。
【0023】接着力試験実施例1〜3及び比較例1,2のエマルジョンの接着力試験を、JIS K6852(接着剤の圧縮せん断接着強さ試験法)に準拠して、カバ材を貼合わせ、24時間圧締後に解圧して48時間放置して試験片にして、次の条件下で圧縮せん断接着強さ(N/mm2)を測定し、測定値を表1に示す。
常態強度:試験片の23℃における接着強さ。
耐水強度:試験片を30℃の水中に3時間浸漬後の23℃におけるぬれた状態での接着強さ。
耐熱強度:試験片を60℃の恒温室中に3時間放置後の60℃における接着強さ。
【0024】
【表1】 単位 N/mm2

【0025】
【発明の効果】本発明の耐水性エマルジョンは、耐水強度、耐熱強度が大幅に向上している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アセトアセチル化ポリビニルアルコールとヒドラジノ酸との反応生成物を保護コロイドとする酢酸ビニル系樹脂エマルジョンを主成分とすることを特徴とする耐水性エマルジョン。