説明

耐水蒸気性多孔質膜、耐水蒸気性多孔質複合体及びこれらの製造方法

【課題】耐熱性及び耐水蒸気性に優れた、多孔質膜及びその製造方法並びに多孔質複合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の多孔質膜は、平均細孔径が10nm以下の細孔を有し、Al元素と、Ni元素と、O元素とを含む多孔質体からなる。上記Al元素及び上記Ni元素の含有割合は、これらの酸化物であるAl及びNiOを用いて換算したとき、これらの合計100モル%に対して、Alが60〜99モル%であり、NiOが1〜40モル%であることが好ましい。また、本発明の多孔質複合体3は、無機材料からなる多孔質基材1と、該多孔質基材1の表面に形成された、上記本発明の多孔質膜2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜及びその製造方法並びに多孔質複合体及びその製造方法に関する。更に詳しくは、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた、多孔質膜及びその製造方法並びに多孔質複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細な孔を有する多孔材料は、触媒用担体、ガス分離膜、ガス分離材の中間層等に利用されている。使用環境の多様化により、化学的及び構造的に安定であり、いろいろな条件で安定性能が得られる多孔材料の検討が進められている。
従来、多孔材料としては、シリカ、アルミナ等からなる酸化物が多用されており、特に、機械的強度が要求される場合には、アルミナ(γ−Al)が好ましく用いられてきた(例えば、特許文献1、2等)。
また、特許文献3には、アルミナ系多孔体、ジルコニア系多孔体、チタニア系多孔体等が開示されており、特許文献4には、Al元素と、Ce元素と、Zr元素とを含む酸化物固溶体からなる多孔質膜が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭58−190823号公報
【特許文献2】特開昭60−54917号公報
【特許文献3】特開2001−170500号公報
【特許文献4】特開2008−1553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
触媒用担体、ガス分離膜、ガス分離材等に利用される多孔材料については、特に、孔径及びその分布が、特性に影響を与えることが知られている。多孔材料として汎用なアルミナ(γ−Al)の場合、800℃以上に加熱されると、相転移が起こり始め、1,000℃以上になると結晶化する問題があった。また、メタンガスから水素ガスを製造し、これを回収する際に、水蒸気の存在下、あるいは、水蒸気が混在した状態で、例えば、500℃等の高温で分離膜を介して分離が行われるが、多孔質アルミナ(γ−Al)からなる分離膜を用いると、水蒸気の存在によって、細孔径及びその分布が大きく変化する問題があった。そのため、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた多孔材料が求められていた。
本発明の目的は、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた、多孔質膜及びその製造方法並びに多孔質複合体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、γ−アルミナの原料となるベーマイトを含むゾルに、ニッケル硝酸塩を添加し、焼成することにより、γ−アルミナの結晶構造を混合陽イオン状態として、焼結の駆動力となる陽イオンの拡散を抑制し、更に相転移の温度を引き上げて、メソポーラスな細孔構造を形成するとともに、優れた耐熱性及び耐水蒸気性が得られたことを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下に示される。
1.平均細孔径が10nm以下の細孔を有し、Al元素と、Ni元素と、O元素とを含む多孔質体からなることを特徴とする多孔質膜。
2.上記Al元素及び上記Ni元素の含有割合は、これらの酸化物であるAl及びNiOを用いて換算したとき、これらの合計100モル%に対して、Alが60〜99モル%であり、NiOが1〜40モル%である上記1に記載の多孔質膜。
3.上記Al元素及び上記Ni元素の含有割合は、これらの酸化物であるAl及びNiOを用いて換算したとき、これらの合計100モル%に対して、Alが88〜98モル%であり、NiOが2〜12モル%である上記2に記載の多孔質膜。
4.上記1乃至3のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法であって、
無機材料からなる基材の表面に、Al成分を含むゾルと、Ni化合物とを含む組成物からなる被膜を形成する被膜形成工程と、上記被膜を加熱する熱処理工程と、を備えることを特徴とする多孔質膜の製造方法。
5.上記熱処理工程における加熱温度が、450℃〜950℃の範囲にある上記4に記載の多孔質膜の製造方法。
6.無機材料からなる多孔質基材と、該多孔質基材の表面に形成された、上記1乃至3のいずれかに記載の多孔質膜と、を備えることを特徴とする多孔質複合体。
7.上記多孔質基材の平均細孔径が、1〜200nmの範囲にある上記6に記載の多孔質複合体。
8.上記無機材料が、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素から選ばれた少なくとも1種である上記6又は7に記載の多孔質複合体。
9.上記多孔質基材の平均細孔径が、上記多孔質膜の平均細孔径より大きい上記6乃至8のいずれかに記載の多孔質複合体。
10.上記6乃至9のいずれかに記載の多孔質複合体の製造方法であって、
無機材料からなる多孔質基材の表面に、Al成分を含むゾルと、Ni化合物とを含む組成物からなる被膜を形成する被膜形成工程と、上記被膜を加熱する熱処理工程と、を備えることを特徴とする多孔質複合体の製造方法。
11.上記熱処理工程における加熱温度が、450℃〜950℃の範囲にある上記10に記載の多孔質複合体の製造方法。
12.上記多孔質基材の平均細孔径が、1〜200nmの範囲にある上記10又は11に記載の多孔質複合体の製造方法。
13.上記無機材料が、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素から選ばれた少なくとも1種である上記10乃至12のいずれかに記載の多孔質複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の多孔質膜は、500℃以上の、好ましくは950℃までの高い温度において、化学的及び構造的に安定であり、耐熱性に優れる。また、水蒸気の存在下であっても、化学的及び構造的に安定であり、耐水蒸気性に優れる。従って、耐久性に優れ、触媒用担体、ガス分離膜、ガス分離材の中間層等に好適である。
また、本発明の多孔質膜の製造方法によると、上記性質を有し、平均細孔径が10nm以下と小さく、且つ、より狭い細孔分布を有する多孔質膜を効率よく製造することができる。
【0007】
本発明の多孔質複合体は、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた多孔質膜を備えることから、耐久性に優れ、特に、多孔質基材及び多孔質膜の積層方向を利用したガス分離材又はその中間層、触媒用担体等に好適である。
また、本発明の多孔質複合体の製造方法によると、多孔質基材及び多孔質膜が強固に接合され、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた多孔質複合体を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
1.多孔質膜
本発明の多孔質膜は、平均細孔径が10nm以下の細孔を有し、Al元素と、Ni元素と、O元素とを含む多孔質体からなることを特徴とする。
上記Al元素及び上記Ni元素の比は、これらの酸化物Al及びNiOを用いて換算したとき、これらの合計100モル%に対して、好ましくは、Alが60〜99モル%であり、NiOが1〜40モル%であり、より好ましくは、Alが80〜99モル%であり、NiOが1〜20モル%であり、更に好ましくは、Alが88〜98モル%であり、NiOが2〜12モル%である。換算したNiOの量が少なすぎると、耐熱性及び耐水蒸気性の改良効果が発現しない場合がある。また、多すぎると、耐熱性及び耐水蒸気性が低下する場合がある。
【0009】
上記多孔質体は、通常、NiAlが、結晶性の低いγ−Al相の中に分散した酸化物固溶体となっており、即ち、γ−Alの結晶構造の中にNiが含まれた混合陽イオン状態となっている。
尚、上記多孔質体が、上記酸化物固溶体からなるものであることは、X線回折(XRD)によるピークシフト及び格子定数の変化から確認することができる。
【0010】
上記細孔は、通常、多孔質膜の1面から他面に貫通しており、この細孔の平均細孔径は、10nm以下であり、好ましくは1〜8nm、より好ましくは1〜7nm、更に好ましくは1〜6nmである。尚、上記平均細孔径は、毛管凝縮法により測定することができ、市販の細孔径分布測定装置を用い、50%透過流束径における値とすることができる。
【0011】
上記多孔質体は、単層構造でよいし、多層構造でもよい。また、後述する「多孔質膜の製造方法」における説明のように、通常、基材の表面に形成されるため、膜の形状は、上記基材の外形線が描く表面形状に依存する。
本発明の多孔質膜の膜厚は、通常、0.5〜10μm、好ましくは0.8〜8μm、より好ましくは1〜5μmである。上記膜厚が小さすぎると、膜に欠陥が生じている場合がある。
【0012】
本発明の多孔質膜を構成する上記多孔質体が、上記酸化物固溶体からなることから、焼結の原動力となる陽イオンの拡散が抑制され、800℃以上に加熱されても、相転移することなく、また、更に加熱されて950℃程度であっても結晶化することもない。従って、800℃以上、好ましくは950℃までの温度においても、細孔の肥大化及び平均細孔径の分布の拡大化は、非晶質γ−Al多孔体の場合に比べて抑制される。
【0013】
2.多孔質複合体
本発明の多孔質複合体は、無機材料からなる多孔質基材と、該多孔質基材の表面に形成された、上記本発明の多孔質膜と、を備えることを特徴とする。概略断面図(図1)を用いて説明すると、本発明の多孔質複合体3は、多孔質基材1及び多孔質膜2からなる積層体である。尚、上記多孔質膜は、単層でよいし、2以上の層からなる多層でもよく、2層の場合は、図2に示される。本発明の多孔質複合体3において、多孔質基材1及び多孔質膜2は、強固に接合している。
また、本発明の多孔質複合体の表面層は、図1に示すように、多孔質基材1の表面のほとんどが、多孔質膜2に被覆されている。但し、図3に示すように、細孔の開口部に、多孔質膜2を有する場合(細孔4aの上方)、多孔質膜2を有さず細孔4がそのまま残っている場合等がある。この図3は一例であって、細孔径の小さい細孔の開口部のすべてが被覆される場合があれば、一部のみが被覆される場合もある。また、多孔質基材1の細孔径、及び、多孔質膜2の細孔径が同じ場合(図3)もあれば、後者が狭径の場合(図示せず)もある。
【0014】
上記多孔質基材は、無機材料からなるものである。この無機材料としては、1面から他面へと線状又は網目状に貫通する細孔を有する多孔質構造を形成できるものであれば、特に限定されないが、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、シリカ、サイアロン、酸化チタン、セピオライト、モンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイト、バーミキュライト、カネマイト等が挙げられる。これらのうち、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素が好ましい。また、上記化合物は単独で又は組み合わせて用いてもよい。
【0015】
上記多孔質基材の平均細孔径は、好ましくは1〜200nmであり、より好ましくは40〜180nm、更に好ましくは60〜150nmである。但し、各種用途への実用性を考慮すると、本発明の多孔質複合体において、多孔質基材の平均細孔径は、多孔質膜の平均細孔径より大きいことが好ましい。
従って、例えば、本発明の多孔質複合体を、触媒用担体として用いる場合、多孔質基材及び多孔質膜の各平均細孔径の好ましい組み合わせは、60〜150nm及び1〜20nmである。
また、本発明の多孔質複合体を、水素ガスを対象としたガス分離材として用いる場合、多孔質基材及び多孔質膜の各平均細孔径の好ましい組み合わせは、60〜150nm及び1〜6nmである。
更に、本発明の多孔質複合体を、ガス分離材の中間層として用いる場合、多孔質基材及び多孔質膜の各平均細孔径の好ましい組み合わせは、60〜150nm及び1〜10nmである。
【0016】
上記多孔質基材の形状は、目的、用途等に応じて選択されるが、塊状(多面体、球等)、板状(平板、曲板等)、筒状(円筒、角筒等)、半筒状、棒状等とすることができる。
また、大きさも、目的、用途等に応じて選択される。
【0017】
3.多孔質膜の製造方法及び多孔質複合体の製造方法
本発明の多孔質膜の製造方法は、無機材料からなる基材の表面に、Al成分を含むゾルと、Ni化合物とを含む組成物(以下、「ゾル組成物」という。)からなる被膜を形成する被膜形成工程と、上記被膜を加熱する熱処理工程と、を備えることを特徴とする。
本発明に係るゾル組成物を構成するAl元素及びNi元素の含有割合は、最終的に得られる多孔質膜を構成するAl元素及びNi元素の含有割合に反映される。
【0018】
上記被膜形成工程において用いる基材は、熱処理工程における加熱により変形、変質等しない無機材料からなるものであれば、特に限定されない。また、熱処理工程により形成される多孔質膜の構成材料の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有する無機材料が好ましい。この無機材料としては、通常、金属、合金、酸化物、窒化物及び炭化物から選択され、例えば、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、シリカ、サイアロン、酸化チタン、セピオライト、モンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイト、バーミキュライト、カネマイト等が挙げられる。これらのうち、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素が好ましい。また、上記化合物は、単独で又は組み合わせて用いてもよい。
尚、上記基材の形状は、塊状(多面体、球等)、板状(平板、曲板等)、筒状(円筒、角筒等)、半筒状、棒状等とすることができる。また、上記基材の形態は、中実体及び多孔体のいずれでもよいが、多孔体が好ましい。
【0019】
上記被膜形成工程において用いるゾル組成物は、Al成分を含むゾルと、Ni化合物とを含む組成物である。このゾル組成物は、更に、分散性、粘度調整等を向上するために、高分子量成分、水等を含有してもよい。
上記ゾル組成物に含まれるAl成分及びNi成分の比は、これらの酸化物Al及びNiOを用いて換算したとき、これらの合計100モル%に対して、好ましくは、Alが60〜99モル%であり、NiOが1〜40モル%であり、より好ましくは、Alが80〜99モル%であり、NiOが1〜20モル%であり、更に好ましくは、Alが88〜98モル%であり、NiOが2〜12モル%である。
また、上記ゾル組成物の固形分濃度は、好ましくは5〜7質量%であり、pHは、好ましくは0.5〜3.5である。
【0020】
上記ゾル組成物は、通常、上記のAl成分を含むゾル、Ni化合物等を用い、上記の各濃度なるように、これらを混合することにより調製される。
Al成分を含むゾルとしては、公知のアルミナゾル(コロイド粒子としてアルミナ水和物を含むゾル)、好ましくは、ベーマイトゾルが用いられる。このベーマイトゾルは、AlO(OH)の分子式で表される物質を含むゾルである。
上記ベーマイトゾルとしては、以下の方法で得られたゾルを用いることができる。即ち、まず、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムブトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド等のアルミニウムアルコキシドを、水に可溶な有機溶媒(イソプロパノール、エタノール、2−ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール等)に溶解させる。その後、この溶液を、塩酸、硝酸、過塩素酸等の一価の酸により酸性とし、80℃以上、好ましくは80℃〜95℃の熱水中に、撹拌しながら添加し、加水分解する。通常、上記温度で1〜20時間、攪拌が継続される。尚、この熱水の温度が低いと、無定形の水和物が生成してしまうことがある。
次いで、加水分解によりアルミニウムアルコキシドから生じた(遊離した)アルコールを蒸発させ、除去することにより、ベーマイトと、水とを含む混合物が得られる。その後、この混合物に、更に、上記酸を添加することによりベーマイトゾルが調製される。尚、加水分解前のアルミニウムアルコキシドが、水と反応しないようにするため、予め、無水酢酸、無水マレイン酸等のカルボン酸無水物;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル等のアセト酢酸エステル;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジプロピル等のジカルボン酸エステル等を配合しておいてもよい。
【0021】
上記のNi化合物としては、いずれも、Ni原子を含む水酸化物、硫酸塩、硝酸塩等を用いることができる。
また、上記高分子量成分としては、ポリビニルアルコール及びその変性物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、でんぷん及びその変性物等が挙げられる。
【0022】
上記ゾル組成物を、効率よく調製するためには、上記の方法により得られたベーマイトゾル、及び/又は、市販のベーマイトゾルと、Ni化合物と、を混合してもよいが、上記ベーマイトゾルとする直前の上記混合物と、上記Ni化合物として硝酸ニッケル等の水に溶解して酸性を呈する化合物等と、を混合することが好ましい。このように、水に溶解して酸性を呈する化合物を用いる場合には、上記各成分の混合によって、酸性になるため、ベーマイトゾルと、Ni成分とを含む組成物を得ることができる。尚、このゾル組成物の調製の際には、上記高分子量成分を配合してもよい。
上記Ni化合物は、それぞれ、固体で用いてよいし、いずれか一方を、又は、両方を、水、有機溶媒等に溶解させてなる溶液を用いてもよい。溶液を用いる場合は、調製されるゾル組成物のpHが、上記好ましい範囲になるように、酸等が用いられる。上記高分子量成分を配合する場合も同様に、好ましい含有量となるように、単独であるいは溶液として用いられる。この高分子量成分の含有量は、混合前のAl成分及びNi成分の固形分の合計量に対して、好ましくは8〜18質量%である。
【0023】
上記被膜形成工程において、ゾル組成物は、基材の表面に塗布され、基材の表面に沿って、被膜が形成される。塗布方法としては、ディッピング法、スプレー法、スピン法等が挙げられる。また、上記ゾル組成物を塗布する際の、ゾル組成物の温度は、好ましくは10℃〜35℃、より好ましくは15℃〜25℃であり、上記基材の温度は、好ましくは10℃〜35℃、より好ましくは15℃〜25℃である。
被膜の厚さは、用途に応じて選択され、通常、1〜6μmである。
尚、基材が多孔体である場合には、ゾル組成物が、細孔内部に侵入することがあるが、侵入しないように塗布し、被膜を形成することが好ましい。ゾル組成物が、一部の細孔内部に入った場合は、以下の熱処理工程によって生成される酸化物固溶体が充填した状態になる場合がある。
【0024】
上記熱処理工程における被膜の熱処理条件としては、大気、酸素ガス等の雰囲気中、大気圧下において、加熱温度が、好ましくは450℃〜950℃、より好ましくは550℃〜900℃、更に好ましくは600℃〜850℃である。熱処理は、この範囲の温度であれば、一定温度で熱処理を行ってよいし、温度を変化させながら熱処理を行ってもよい。尚、加熱温度が高すぎると、α−Alへの相転移が進行してしまう場合がある。
上記範囲の温度で熱処理することにより、組成が安定であり、均一である酸化物固溶体からなる多孔質膜を得ることができる。上記温度が低すぎると、細孔構造が熱的に不安定になる傾向がある。一方、温度が高すぎると、細孔径が大きくなる傾向がある。尚、加熱時間、昇温速度等は、基材の形状、大きさ等により、適宜、選択されるが、加熱時間は、通常、0.5〜10時間である。
上記熱処理工程の後、表面にクラックが生じないように、徐冷される。
【0025】
上記の被膜形成工程及び熱処理工程は、それぞれ、1回ずつ行って単層型の多孔質膜2としてよいし(図1)、繰り返し行って、積層型の多孔質膜2とすることもできる(図2)。
【0026】
上記ゾル組成物を用いて被膜を形成し、上記条件により熱処理を行うことにより、平均細孔径が10nm以下、好ましくは1〜8nm、より好ましくは1〜7nm、更に好ましくは1〜6nmの細孔を有する多孔質膜を効率よく形成することができる。
【0027】
また、本発明の多孔質複合体の製造方法は、無機材料からなる多孔質基材の表面に、Al成分を含むゾルと、Ni化合物とを含む組成物(以下、「ゾル組成物」という。)からなる被膜を形成する被膜形成工程と、上記被膜を加熱する熱処理工程と、を備えることを特徴とする。
本発明に係るゾル組成物を構成するAl元素及びNi元素の含有割合は、最終的に得られる多孔質複合体を構成するAl元素及びNi元素の含有割合に反映される。
【0028】
上記多孔質基材は、無機材料からなるものである。この無機材料としては、1面から他面へと線状又は網目状に貫通する細孔を有する多孔質構造を形成できるものであれば、特に限定されないが、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、シリカ、サイアロン、酸化チタン、セピオライト、モンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイト、バーミキュライト、カネマイト等が挙げられる。これらのうち、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素が好ましい。また、上記化合物は単独で又は組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記多孔質基材の平均細孔径は、好ましくは1〜200nm、より好ましくは40〜180nm、更に好ましくは60〜150nmである。
また、上記多孔質基材の形状は、塊状(多面体、球等)、板状(平板、曲板等)、筒状(円筒、角筒等)、半筒状、棒状等とすることができる。
【0030】
本発明の多孔質複合体の製造方法において、被膜形成工程及び熱処理工程については、上記本発明の多孔質膜の製造方法における被膜形成工程及び熱処理工程をそのまま適用することができる。
従って、本発明によって、図1及び図2に示す構造を備える多孔質複合体3を得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0032】
比較例1
α−Alからなり、内壁及び外壁の間に網目状に連通する、開気孔率46%の細孔(平均細孔径150nm)を有する多孔質の管状体111(内径2.4mm、外径3mm及び長さ90mm)の両端面を、α−Alからなり、同じ内径及び外径を有する中実体の管112、及び、α−Alからなり、同じ内径及び外径を有し、底面が凹面である中実体の有底管113の各端面によりガラスシールし、複合基材11を得た(図4参照)。即ち、この複合基材11は、中実体の管112と、多孔質管状体111と、中実体の有底管113とをこの順に備え、各管の端面どうしを密着させるためのガラス封止部1111を備える。
一方、Arガス雰囲気のグローブボックスの中で、0.05molのアルミニウムsec−ブトキシドに、水溶性有機溶媒として、0.1molのイソプロパノールを加え、十分混合した。その後、この混合液を、90℃に加熱した蒸留水90ミリリットル(5mol)の攪拌下に、添加し、1M−硝酸を滴下してpH3とし、固形分濃度6.4質量%のベーマイトゾルを得た。
【0033】
次に、上記複合基材11を、図5のように縦置きにして、中実体の管112の開口部に栓をし、上記ベーマイトゾルが多孔質管状体111の細孔内に入らないようにして、上記ベーマイトゾル6内に10秒間浸漬した。その後、取り出して、1時間乾燥させ、大気雰囲気中、800℃で2時間熱処理し、上記複合基材11の全表面に、γ−Alからなる多孔質膜を形成させた。この操作を再度繰り返し(合計2回成膜)、多孔質管状体111と、この管状体111の少なくとも外表面を被覆している多孔質膜(2層型)とを備える多層多孔質部を含む複合構造体(図示せず)を得た。上記多孔質膜の膜厚は、3μmであった。
上記多孔質膜のX線回折(XRD)像を図12に示すが、結晶性の低いγ−Al構造であることが分かる。
また、西華産業株式会社製細孔径分布測定装置「ナノパームポロメーター」を用い、上記複合構造体における多孔質膜の細孔径分布を測定したところ、図6において◇印を結んでなる曲線が示す分布を得た。細孔径は0.5〜10nmの範囲で分布しており、50%透過流束径は約5.3nmであった。
【0034】
上記複合構造体を、500℃に保持し、75%の水蒸気及び25%の窒素ガスからなる混合ガス(以下、「混合ガス」という。)中に50時間暴露する処理(以下、「水蒸気暴露」という。)した後、上記装置により多孔質膜の細孔径分布を測定したところ、図6において◆印を結んでなる曲線が示す分布を得た。細孔径は0.5〜12nmの範囲で分布しており、50%透過流束径は約6.8nmであった。図6から明らかなように、◆印を結んでなる曲線が示す分布は、◇印を結んでなる曲線が示す分布に比べて、大きく広がっていることが分かる。
【0035】
また、上記で得られた複合構造体をガス分離材とし、図11に示すガス透過試験装置により、定容積圧力変化法に基づき、500℃における水素ガス透過試験を行い、上記水蒸気暴露を合計で2時間、4時間及び20時間行った後における水素ガスの透過率を、以下の要領で測定した。
まず、減圧にした透過側ラインに設置したバッファタンク内の圧力変化によってガス分子の流量を定量する。1〜2気圧の水素ガスを、上記分離材を保持した透過セル内に2000cc/分にて流し、真空ポンプによりバッファタンク内を30Torrに減圧した後に、真空ポンプとバッファタンクとの間に設置したストップバルブを閉じ、圧力計P2によってタンク内が60Torrに昇圧するまでの時間を計測した。単位面積及び単位圧力差のもとで透過する水素ガスについて、透過率(単位:mol/(m・s・Pa))を測定した。その結果を図7に示した。
【0036】
実施例1
まず、Arガス雰囲気のグローブボックスの中で、0.05molのアルミニウムsec−ブトキシドに、水溶性有機溶媒として、0.1molのイソプロパノールを加え、十分混合した。その後、この混合液を、90℃に加熱した蒸留水90ミリリットル(5mol)の攪拌下に、添加した。次いで、液温を室温まで冷却し、5モル%のNi(NO・6HO及び1M−硝酸4.8ミリリットルを添加して撹拌し、固形分濃度6.4質量%のベーマイト系ゾル(Al及びNiO換算のモル比95:5)を得た。
その後、このベーマイト系ゾル24ミリリットルと、3.5質量%のポリビニルアルコール水溶液16ミリリットルとを混合し、ベーマイト系混合液(ゾル組成物)を調製した。
【0037】
次に、上記比較例1と同じ複合基材11を、図5のように縦置きにして、中実体の管112の開口部に栓をし、上記ベーマイト系混合液(ゾル組成物)が多孔質管状体111の細孔内に入らないようにして、上記ベーマイト系混合液(ゾル組成物)6内に10秒間浸漬した。その後、取り出して、1時間乾燥させ、大気雰囲気中、800℃で2時間熱処理し、上記複合基材11の全表面に、γ−Al及びNiを含む固溶体酸化物からなる多孔質膜を形成させた。この操作を再度繰り返し(合計2回成膜)、多孔質管状体111と、この管状体111の外表面を被覆している多孔質膜2(2層型)とを備える多孔質複合体3を含む複合構造体(図示せず)を得た。
上記多孔質膜2の膜厚は、2.0μmであった。
上記多孔質膜2のX線回折(XRD)像を図12に示すが、結晶性の低いγ−Al構造であることが分かる。
上記で得られた複合構造体において、比較例1と同様にして、水蒸気暴露の前後における、上記多孔質膜2の細孔径分布を測定したところ、図8における□印及び■印の分布を得た。水蒸気暴露前(□印)の細孔径は0.6〜10nmの範囲で分布しており、50%透過流束径は約5.9nmであった。一方、水蒸気暴露後(■印)の細孔径は0.5〜7.8nmの範囲で分布しており、50%透過流束径は約5.7nmであった。図8から明らかなように、水蒸気暴露後(■印)の細孔径分布が、水蒸気暴露前(□印)のそれより小さくなってしていることが分かる。
また、水蒸気暴露の前後における多孔質膜2のX線回折(XRD)像を図9に示すが、水蒸気暴露によって、結晶性の低いγ−Al構造が乱れることなく安定に維持されていることがわかる。
【0038】
更に、上記複合構造体をガス分離材とし、比較例1と同様にして、水素ガスの透過率を測定した。但し、水蒸気暴露を合計で2時間、4時間、20時間及び50時間行った後に測定した。その結果を、図10に示した。
【0039】
実施例2
上記ベーマイト系ゾルを、Al及びNiO換算のモル比で90:10とした以外は、実施例1と同様にして、複合構造体を製造した。この複合構造体における多孔質膜2(厚さ1.8μm)の細孔径分布を測定したところ、細孔径は0.5〜10nmの範囲で分布しており、50%透過流束径は約4.6nmであった。
上記多孔質膜2のX線回折(XRD)像(図12)によれば、結晶性の低いγ−Al構造を示し、わずかにNiOが生成していることが分かる。
また、この複合構造体をガス分離材とし、実施例1と同様にして、水素ガスの透過率を測定した。その結果を、図10に併記した。
【0040】
実施例3
上記ベーマイト系ゾルを、Al及びNiO換算のモル比で70:30とした以外は、実施例1と同様にして、複合構造体を製造した。この複合構造体における多孔質膜2(厚さ4.0μm)の細孔径分布を測定したところ、細孔径は0.5〜5.4nmの範囲で分布しており、50%透過流束径は約3.4nmであった。
上記多孔質膜2のX線回折(XRD)像(図12)によれば、結晶性の低いγ−Al構造を示し、NiOが生成していることが分かる。
また、この複合構造体をガス分離材とし、実施例1と同様にして、水素ガスの透過率を測定した。その結果を、図10に併記した。
【0041】
図10から明らかなように、実施例1〜3により作製した多孔質膜を含む複合構造体は、いずれも水蒸気暴露を行った後における水素ガス透過率の上昇の程度が小さく、耐熱性及び耐水蒸気性に優れることが分かる。特に、実施例1の複合構造体は、経時による透過率の変化が極めて微少であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の多孔質膜は、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた材料からなることから、水蒸気が存在する雰囲気において平均細孔径が大きく変化することがなく、長寿命を必要とするガス分離膜、及びガス分離材の中間層として好適である。また、多孔質膜の表面、及び/又は、細孔の内壁面に触媒成分を担持するための、触媒用担体としても好適である。
また、本発明の多孔質複合体は、多孔質膜が、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた材料からなることから、水蒸気が存在する雰囲気において平均細孔径が大きく変化することがなく、長寿命を必要とするガス分離材又はその中間層として好適である。また、多孔質膜の表面及び細孔の内壁面、多孔質基材の表面及び細孔の内壁面、の少なくとも一部位に触媒成分を担持するための、触媒用担体としても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の多孔質膜2及び本発明の多孔質複合体3の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の多孔質複合体3の他の例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の多孔質複合体の一面側の表面層を示す概略断面図である。
【図4】実施例1等で用いた複合基材11を示す概略斜視図である。
【図5】実施例1等においてベーマイト系混合液(ゾル組成物)を、比較例1においてベーマイトゾルを塗布する操作を示す概略図である。
【図6】比較例1において、水蒸気暴露の前後における多孔質膜の細孔径の分布を示すグラフである。
【図7】比較例1において得られた多孔質膜に対し、水蒸気暴露を行った後の水素ガスの透過量の変化を示すグラフである。
【図8】実施例1において、水蒸気暴露の前後における多孔質膜の細孔径の分布を示すグラフである。
【図9】実施例1において、水蒸気暴露の前後における多孔質膜の細孔径の分布を示すグラフである。
【図10】実施例1〜3において得られた多孔質膜に対し、水蒸気暴露を行った後の水素ガスの透過量の変化を示すグラフである。
【図11】定容積圧力変化法を原理とするガス透過性能評価装置の模式図である。
【図12】実施例1〜3及び比較例1における多孔質膜(水蒸気暴露前)のX線回折像である。
【符号の説明】
【0044】
1;(多孔質)基材
11;複合基材
111;α−Al多孔質管状体
112;α−Al
113;α−Al有底管
1111;ガラス封止部
2,21及び22;多孔質膜
3;多孔質複合体
4及び4a;細孔
6;ベーマイト系混合液(ゾル組成物)又はベーマイトゾル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均細孔径が10nm以下の細孔を有し、Al元素と、Ni元素と、O元素とを含む多孔質体からなることを特徴とする多孔質膜。
【請求項2】
上記Al元素及び上記Ni元素の含有割合は、これらの酸化物であるAl及びNiOを用いて換算したとき、これらの合計100モル%に対して、Alが60〜99モル%であり、NiOが1〜40モル%である請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
上記Al元素及び上記Ni元素の含有割合は、これらの酸化物であるAl及びNiOを用いて換算したとき、これらの合計100モル%に対して、Alが88〜98モル%であり、NiOが2〜12モル%である請求項2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法であって、
無機材料からなる基材の表面に、Al成分を含むゾルと、Ni化合物とを含む組成物からなる被膜を形成する被膜形成工程と、上記被膜を加熱する熱処理工程と、を備えることを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
上記熱処理工程における加熱温度が、450℃〜950℃の範囲にある請求項4に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
無機材料からなる多孔質基材と、該多孔質基材の表面に形成された、請求項1乃至3のいずれかに記載の多孔質膜と、を備えることを特徴とする多孔質複合体。
【請求項7】
上記多孔質基材の平均細孔径が、1〜200nmの範囲にある請求項6に記載の多孔質複合体。
【請求項8】
上記無機材料が、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素から選ばれた少なくとも1種である請求項6又は7に記載の多孔質複合体。
【請求項9】
上記多孔質基材の平均細孔径が、上記多孔質膜の平均細孔径より大きい請求項6乃至8のいずれかに記載の多孔質複合体。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれかに記載の多孔質複合体の製造方法であって、
無機材料からなる多孔質基材の表面に、Al成分を含むゾルと、Ni化合物とを含む組成物からなる被膜を形成する被膜形成工程と、上記被膜を加熱する熱処理工程と、を備えることを特徴とする多孔質複合体の製造方法。
【請求項11】
上記熱処理工程における加熱温度が、450℃〜950℃の範囲にある請求項10に記載の多孔質複合体の製造方法。
【請求項12】
上記多孔質基材の平均細孔径が、1〜200nmの範囲にある請求項10又は11に記載の多孔質複合体の製造方法。
【請求項13】
上記無機材料が、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素から選ばれた少なくとも1種である請求項10乃至12のいずれかに記載の多孔質複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−5602(P2010−5602A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171476(P2008−171476)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【Fターム(参考)】