説明

耐汚染性に優れたフッ素樹脂系熱硬化性粉体塗料組成物

【課題】本発明はフッ素樹脂系熱硬化性粉体塗料に関して、優れた耐汚染性を有する粉体塗料組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、(a)フッ素含有量が10〜30重量%であり、ガラス転移温度が30〜85℃である架橋性反応基を有するフッ素樹脂65〜95重量%及び(b)該フッ素樹脂が有する架橋性反応基と反応して架橋を形成しうる硬化剤5〜35重量%からなる樹脂組成物100重量部に対して、(c)アルキルポリシリケート化合物45〜79重量%、テトラアルコキシシラン化合物5〜20重量%、直鎖アルコール1〜50重量%からなる、親水化剤としてのアルキルシリケート混合物を0.1〜10.0重量部配合したことを特徴とする耐汚染性に優れたフッ素樹脂系熱硬化性粉体塗料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性反応基を有するフッ素樹脂系粉体塗料において、親水化剤(特定のアルキルシリケート混合物)を配合することにより塗膜の耐汚染性を向上させたフッ素樹脂系熱硬化性粉体塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素樹脂粉体を親水性化させるために、フッ素樹脂粉体の表面を、親水基を有する含フッ素化合物で被覆する技術(特許文献1参照)、フッ素樹脂等の水分散粉体塗料の耐水性を向上させるために、第1の有機溶媒に溶解し、更に第2の有機溶媒に分散させる製造方法(特許文献2参照)や、フッ素樹脂粉体塗料組成物の耐汚染性を向上させるために、フッ素含有樹脂に、有機系親水性化合物からなる帯電防止剤を配合する技術(特許文献3参照)が開示されているが、いずれも塗膜に十分な耐汚染性を付与できているとはいえなかった。
【0003】
一方、フッ素樹脂を塗料樹脂とする溶剤系塗料にシリケート化合物を添加することで、得られる塗膜に耐汚染性が付与できることは既知の技術である。これは成膜時に塗膜表面に浮上したシリケート化合物が加水分解することによって表面の親水性を高めていることによるものと考えられる。しかし、フッ素樹脂を塗料樹脂とする粉体塗料ではその成膜過程が溶剤系塗料とは異なるため、期待したような耐汚染性を有する塗膜ができなかった。特に塗料中に多量の水酸基が存在する場合にはシリケート化合物がこの水酸基と反応してしまうことにより、表面への浮上が困難となることによるものと考えられる。
【特許文献1】特開平5−39360号公報
【特許文献2】特開2001−49191号公報
【特許文献3】特開2003−96378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、フッ素樹脂系熱硬化性粉体塗料に関して、優れた耐汚染性を有する粉体塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、架橋性反応基を有するフッ素樹脂(a)及び硬化剤(b)からなる樹脂組成物と親水化剤(特定のアルキルシリケート混合物)(c)を特定の割合で配合することにより、優れた耐汚染性を発揮することを見い出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は(a)フッ素含有量が10〜30重量%であり、ガラス転移温度が30〜85℃である架橋性反応基を有するフッ素樹脂65〜95重量%及び(b)該フッ素樹脂が有する架橋性反応基と反応して架橋を形成しうる硬化剤5〜35重量%からなる樹脂組成物100重量部に対して、(c)アルキルポリシリケート化合物45〜79重量%、テトラアルコキシシラン化合物5〜20重量%、直鎖アルコール1〜50重量%からなる、親水化剤としてのアルキルシリケート混合物を0.1〜10.0重量部配合したことを特徴とする耐汚染性に優れたフッ素樹脂系熱硬化性粉体塗料組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のフッ素樹脂系熱硬化性粉体塗料組成物によって形成された塗膜は、耐候性、耐汚染性といった塗膜物性が良好で、品質的に安定した塗料及び外装金属建材の作製が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
本発明で使用されるフッ素樹脂は常温(15〜25℃)で固体状態である。軟化点は、好ましくは150℃以下である。下限は、通常、60℃である。このようなフッ素樹脂としては、従来からフッ素樹脂粉体塗料の製造に用いられている3F型熱硬化性固形フッ素樹脂を特に制限無く使用することが出来る。
【0009】
3F型熱硬化性固形フッ素樹脂としては、フッ素含有量が10〜30重量%であり、ガラス転移温度が30〜85℃である架橋性反応基を有するものである。また、該フッ素樹脂としては、水酸基価が10〜70mgKOH/gであり、酸価が0〜30mgKOH/gであることが好ましく、水酸基価が30〜50mgKOH/gであり、酸価が0〜20mgKOH/gである場合はさらに好ましい。水酸基価が10未満の場合は硬化剤中のイソシアネート基との反応点が少なすぎるため、硬度や耐衝撃性といった塗膜物性が劣り、70を超える場合は硬化剤中のイソシアネート基との反応点が多すぎるため貯蔵安定性といった塗料性能が劣る。また、酸価が30を超える場合は塗膜の光沢や外観といった性能が安定しなくなってしまう。
【0010】
本発明で使用される硬化剤としては該フッ素樹脂が有する架橋性反応基と反応して架橋を形成しうるものであれば特に制限なく、従来より使用されているブロックイソシアネート硬化剤を使用できる。好ましい硬化剤としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどのポリイソシアネート化合物や、これらの二量体、三量体やトリメチロールプロパンなどの多価アルコールで変性したポリイソシアネート化合物などのイソシアネート基をε−カプロラクタム、フェノール、ベンジルアルコール、メチルエチルケトキシムなどのブロック化剤でブロックした化合物が挙げられる。上記フッ素樹脂と硬化剤は、フッ素樹脂65〜95重量%、硬化剤5〜35重量%、好ましくはフッ素樹脂70〜90重量%、硬化剤10〜30重量%の割合で配合される。すなわち、硬化剤量が、5重量%よりも少ない場合は、各硬化剤の特徴を粉体塗料に反映することが難しくなる。一方、硬化剤量が、35重量%よりも多くなると、塗料製造時の熱により、反応が生じ、塗膜形成能に障害を来たすばかりか、塗料の貯蔵安定性が著しく低下することとなり、好ましくない。
【0011】
耐汚染性を付与する親水化剤(特定のアルキルシリケート混合物)は、アルキルポリシリケート化合物45〜79重量%、テトラアルコキシシラン化合物5〜20重量%、直鎖アルコール1〜50重量%からなり、アルキルポリシリケート化合物としては下記一般式(1)、テトラアルコキシシランとしては下記一般式(2)で示された構造のものである。
【0012】
【化1】

【0013】
上記一般式(1)および(2)において、Rはアルキル基を表し、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基およびヘキシル基が挙げられる。直鎖アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノールおよびn−ブタノールが挙げられる。
【0014】
以上のように、(a)フッ素樹脂及び(b)硬化剤からなる樹脂組成物100重量部に対して、(c)親水化剤(特定のアルキルシリケート混合物)を0.1〜10.0重量部配合することにより、耐候性、耐汚染性に優れたフッ素樹脂系熱硬化性粉体塗料組成物が得られる。本発明組成物に用いる親水化剤(特定のアルキルシリケート混合物)の配合量は、0.1重量部未満では十分な耐汚染性が得られず、また10.0重量部を超える場合には塗膜外観が著しく損なわれ光沢が低下する恐れがあり、耐候性が低下する恐れがある。
【0015】
このようにして得られる樹脂組成物には、必要に応じて、例えば、従来より粉体塗料に使用されている顔料や、その他の添加剤を使用することができる。顔料としては、具体的に挙げると、二酸化チタンや、ベンガラ、酸化鉄、亜鉛粉末、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン系顔料、アゾ系顔料、イソインドリノン系顔料、各種焼成顔料等の着色顔料、シリカ、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ガラスフレーク等の体質顔料がある。
【0016】
その他の添加剤としては、例えば、タレ防止剤、表面調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗酸化剤などが挙げられ、任意に必要に応じて配合することができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明について、以下の実施例及び比較例により、更に詳細に説明する。なお、実施例中、「部」、「%」は重量を基準とする。以下の実施例や比較例で使用した成分は以下の通りである。
(1)LF710F、旭硝子(株)製、商品名、フルオロエチレンビニルエーテル型熱硬化性固形フッ素樹脂、フッ素含有量20〜30重量%、ガラス転移温度55℃、水酸基価50mgKOH/g、酸価0mgKOH/g
(2)ベスタゴンB1530、デグサ・ヒュルス社製、商品名、ε−カプロラクタムブロックイソシアネート、NCO%15g/eq。
(3)クレランUI、住友バイエルウレタン社製、商品名、ε−カプロラクタムブロックイソシアネート、NCO%10.5g/eq。
(4)タイピュアR−960、デュポン社製、商品名、二酸化チタン
(5)エチルシリケート40、コルコート(株)製、商品名、エチルポリシリケート混合物エチルアルコール溶液。
【0018】
<実施例A−1の粉体塗料作製>
フルオロエチレンビニルエーテル型熱硬化性固形フッ素樹脂(LF710F)55部、硬化剤(ベスタゴンB1530)13部、表面調整剤1部、親水化剤(エチルシリケート40)3部、着色顔料(二酸化チタン)25部の成分を室温混合、溶融混練、粉砕、分級を行い、平均粒径35μmの粉体塗料を作製した。
【0019】
<実施例A−2の粉体塗料作製>
フルオロエチレンビニルエーテル型熱硬化性固形フッ素樹脂(LF710F)55部、硬化剤(クレランUI)19部、表面調整剤1部、親水化剤(エチルシリケート40)3部、着色顔料(二酸化チタン)25部の成分を室温混合、溶融混練、粉砕、分級を行い、平均粒径35μmの粉体塗料を作製した。
【0020】
<比較例a−1の粉体塗料作製>
フルオロエチレンビニルエーテル型熱硬化性固形フッ素樹脂(LF710F)55部、硬化剤(ベスタゴンB1530)13部、表面調整剤1部、着色顔料(二酸化チタン)25部の成分を室温混合、溶融混練、粉砕、分級を行い、平均粒径35μmの粉体塗料を作製した。
【0021】
上記実施例及び比較例で作製した全ての塗料において、板厚1.5mmのクロム酸クロメート処理アルミ板に静電粉体塗装機(旭サナック社 PG−1型)を用いて−60KVの電圧で膜厚60μmとなるように静電塗装し、電気炉にて180℃×20分の条件で焼き付けを行い、その後垂直方向に吊り下げ、そのまま室温になるまで放冷して試験板を作成した。
【0022】
その後下記に記載した各種試験を行い、その結果を表1に示す。
【0023】
<塗膜の状態>
塗膜の状態を目視にて判定する。
【0024】
○:良好
△:
×:不良
【0025】
<耐おもり落下性>
JIS K5600−5−3(デュポン式)に準拠
おもり落下に対する抵抗性について塗膜の割れ・剥離を生じない落下高さを評価する。
【0026】
<密着性>
JIS K 5600−5−6(クロスカット法)に準拠
塗膜を1mm間隔100マスで碁盤目にカットし、粘着テープ貼付後のテープ剥離によって塗膜の剥離が生じるかどうかを評価する。
【0027】
<耐沸騰水性>
塗板を95±5℃のイオン交換水に24時間浸漬し、水冷後、乾燥させ、JIS K 5600−5−6(クロスカット法)に準拠した方法で塗膜の密着性を評価する。
【0028】
<促進耐候性>
促進耐候性試験機はJIS B 7753(サンシャインウェザオメータ方式)に準拠したものを使用し、試験前は100%とする60°鏡面光沢値保持率が80%未満となり、未試験塗膜との色差(ΔE)が1.0を超えた試験時間。
【0029】
<耐汚染性>
塗膜の耐汚染性は2種類の評価方法すなわち(1)静的水接触角の測定および(2)水性カーボン汚染試験によって評価した。これらの評価方法は湿度95%以上および温度50℃に保った高温高湿環境下で24時間放置後に評価した。以下に、各試験方法を説明する。
【0030】
(1)静的水接触角の測定
上記実施例及び比較例で作製した全ての塗料を塗装し、各焼付条件で焼き付けた試験板を共和界面科学社製CBVP−A3型接触角測定装置を用いて、塗膜表面の水接触角を測定した。この水接触角が試験板作製直後での水接触角初期値に対して−35°以下の低下であれば、塗膜表面が十分に親水化されており、耐汚染性に優れていると評価できる。
【0031】
(2)水性カーボン汚染試験
デグサ社製顔料用カーボンブラックFW−200P[商品名]5部、イオン交換水95部からなる懸濁液を上半面にエアスプレー(エア圧0.4〜0.5Mpa)により、上記実施例及び比較例で作製した全ての塗料を塗装し、各焼付条件で焼き付けた試験板の上半面(汚染面)に汚れ物質で均一に隠蔽されるまで塗布し、熱風乾燥炉にて80℃×60分の条件で強制乾燥させ、流水下にて汚染面の汚れ物質をガーゼで落としながら洗浄し、室温で3時間乾燥させた後、汚染面の明度(L)をミノルタ(株)製色彩計CR−300[商品名]によって測定した。測定箇所は汚染面の上部、中央部、下部の3点とし、3点の平均を取る。汚れの程度は上記実施例及び比較例で作製した全ての塗料を塗装し、各焼付条件で焼き付けた試験板の下半面(標準面)との明度差(ΔL)を次式によって求めて評価した。
【0032】
明度差(ΔL)=汚染面の平均明度(L)−標準面の平均明度(L) (3)
この明度差(ΔL)が7.00以下であれば、耐汚染性に優れていると評価できる。
【0033】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)フッ素含有量が10〜30重量%であり、ガラス転移温度が30〜85℃である架橋性反応基を有するフッ素樹脂65〜95重量%及び(b)該フッ素樹脂が有する架橋性反応基と反応して架橋を形成しうる硬化剤5〜35重量%からなる樹脂組成物100重量部に対して、(c)アルキルポリシリケート化合物45〜79重量%、テトラアルコキシシラン化合物5〜20重量%、直鎖アルコール1〜50重量%からなる、親水化剤としてのアルキルシリケート混合物を0.1〜10.0重量部配合したことを特徴とする耐汚染性に優れたフッ素樹脂系熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項2】
成分(a)の水酸基価が10〜70mgKOH/gであり、酸価が0〜30mgKOH/gである請求項1記載の耐汚染性に優れたフッ素樹脂系熱硬化性粉体塗料組成物。

【公開番号】特開2008−266361(P2008−266361A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107017(P2007−107017)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】