説明

耐汚染性塗料

本発明は、耐汚染性塗料として有用なフルオロポリマー樹脂系組成物に関する。該塗料組成物は、有機シリケートと少なくとも1種の水除去剤とを含有し、且つ、長い可使時間を有する。該組成物で被覆された物品は、光沢に悪影響を及ぼすことなく、優れた耐候性、汚れ脱落性及び耐汚染性を示す。該塗料は、屋根材、壁材及び他の戸外の構造材料に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐汚染性塗料として有用なフルオロポリマー樹脂をベースとする組成物に関する。該塗料組成物は、有機シリケートと少なくとも1種の水除去剤とを含有し、且つ、長い可使時間を有する。該組成物で被覆された物品は、光沢に悪影響を及ぼすことなく、優れた耐候性、汚れ脱落性及び耐汚染性を示す。該塗料は、屋根材、壁材及び他の戸外の構造材料に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
塗面が長期間にわたる露出でも比較的明るい外観を保持することができることは、建築用塗料において性能上重要な点である。明色コイル被覆パネルについては、これらのものを戸外で使用すると、汚れによる問題が常に生じる。これは、高度公害地域では特に重要である。この地域では、最初は完全に明るい状態にあるパネルが、ちり又は汚れの作用によってすぐに光沢のないすすけた表面に一変する。このちり及び汚れは、雨水では除去されない。建物の外観は、劣悪な環境条件によってほぼ2ヶ月以内に深刻な影響を受け得ることが報告されている。汚れは、一般に、雨水が流れ落ちるときに塗膜の表面上に付着する。この水滴が流れ落ちると、その後には汚れ、水跡及び見苦しい筋が残る。
【0003】
親水性の表面が良好な汚れ脱落性を生じさせ得ることが示されている。この親水性塗料は、水が該表面を湿らせ且つさらに容易に流れ去り、そのため汚れを雨水によって容易に洗い落とすことができるため、吸塵に耐える。このプロセスは「自己洗浄」として知られている。
【0004】
シリケートを含有する塗料は、優れた耐汚染性を与えることが示されている。このような塗料は、例えば、欧州特許第0942052号、特開2002−294154号公報及び特開平01−172389公報に記載されている。また、有機シリケートは、特開平02−003775号公報、特開2003−020450号公報、米国特許第6635341号及び欧州特許第1035184号に記載されるように、所望の塗料組成物を製造するためにフルオロポリマー樹脂と共に使用されてきた。シリケート添加剤を添加すると、良好な防汚性及び耐汚染性に至るが、可使時間の短いペイントを生じさせるという問題がある。
【0005】
有機シリケートは、まず層形成、次いでその表面での雨水による加水分解という機構で作用する。シリケート添加剤をペイントに処方すると、該シリケートは、焼き付け中の溶媒蒸発と共に該塗料の表面に移動するであろう。
【0006】
雨が降ると、該表面のアルコキシシリル基が加水分解してシラノール基を形成し、親水性が増大する。この移動及び加水分解速度の両方は、良好な汚れ脱落性の性能に重要である。有機シリケート添加剤は加水分解に感受性のある材料であるため、ペイント中で生じる加水分解及び縮合架橋反応は、焼き付け中にシリケートが該表面に移動するのを妨げ、それ以上の加水分解性表面の生成を妨げるであろう。加水分解速度が低すぎる場合には、親水性の表面を得るのが難しくなる。これが速すぎると、ペイントの可使時間が非常に短くなる。
【0007】
現在のところ、ペイント又は塗料の可使時間は、有機シリケートが該処方物に添加されてから、わずか1〜2日に過ぎない。同じ日に使用しないものはいずれも廃棄しなければならず、そのプロセスが非常に高価なものになっている。さらに、塗布パネルの初期光沢は、シリケートの添加によって悪影響を受ける。また、添加剤間の架橋反応のため、亀裂の問題も生じ得る。
【0008】
驚くべきことに、選択された有機シリケート添加剤をフルオロポリマー塗料組成物に少なくとも1種の水除去剤と共に添加すると、塗料可使時間が延びることが分かった。有機シリケート添加剤の加水分解及び縮合反応は、最適な特性を生じさせるように制御される。該塗料組成物は、光沢又は他の塗料特性に悪影響を及ぼすことなく、優れた耐候性及び良好な汚れ脱落性能を有する塗料を形成させる。
【特許文献1】欧州特許第0942052号明細書
【特許文献2】特開2002−294154号公報
【特許文献3】特開平01−172389公報
【特許文献4】特開平02−003775号公報
【特許文献5】特開2003−020450号公報
【特許文献6】米国特許第6635341号明細書
【特許文献7】欧州特許第1035184号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の概要
フルオロポリマー及び有機シリケートを含有する塗料組成物の可使時間を増加させることが本発明の目的である。
【0010】
光沢に悪影響を及ぼすことなく良好な耐汚染性及び耐候性を有する塗料組成物を製造することが本発明の別の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明は、長い可使時間を有し且つ優れた耐候性及び耐汚染性を有する塗料を形成させることのできるフルオロポリマー樹脂をベースとする塗料組成物であって、
(a)少なくとも30重量%の少なくとも1種のフルオロポリマーと、
(b)0.1〜20重量%の少なくとも1種の有機シリケートと、
(c)0.1〜40重量%の少なくとも1種の水除去剤と
(全てのパーセンテージは該組成物の全樹脂固形分に基づく)
を含むものを開示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明の塗料組成物は、3種の必須成分:フルオロポリマー樹脂、選択された有機シリケート及び水除去剤を随意成分と共に含有する。
【0013】
該塗料組成物の原樹脂はフルオロポリマー樹脂である。該フルオロポリマーは、弗素官能基を有する任意の重合体であることができる。このような重合体の例としては、フルオルオレフィン、二弗化ビニリデン系重合体、フルオルエチレンビニルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。該フルオロポリマーは、熱可塑性又は熱硬化性重合体であることができる。
【0014】
好ましくは、該フルオロポリマー樹脂は二弗化ビニリデン系重合体であり、さらに好ましくはポリ弗化ビニリデン(PVDF)である。また、該組成物は、一般に、顔料を湿らせ且つ得られるフィルムの付着性を改善させるように設計された熱可塑性アクリル重合体又はヒドロキシル官能性重合体とメラミン、イソシアネートのような硬化剤との組み合わせを含む。フィルム形成用フルオロポリマー樹脂としては、典型的には、約150,000〜約450,000のMw及び約150〜170℃の融点を有するPVDFが挙げられる。本願の組成物に使用するのに特に好適な市販のPVDFの一例は、KYNAR(商標)500(アトフィナ・ケミカル社から入手できる)である。二弗化ビニリデン系重合体は、好ましくは、樹脂固形分の少なくとも約30重量%、さらに好ましくは少なくとも50重量%、最も好ましくは70〜80重量%を占める。
【0015】
好ましい具体例では、塗料組成物は、フルオロポリマー樹脂及び少なくとも1種のアクリル樹脂を含有する。該アクリル樹脂は、該フルオロポリマーと熱力学的に混和性がなければならない。有用なアクリル樹脂としては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチル単量体から得られる重合体及び共重合体が挙げられるが、これらに限定されない。該アクリル樹脂は、フルオロポリマーがポリ弗化ビニリデンであるときに、該塗料組成物にある程度の官能性、しかして湿潤性及び付着性を付与するために必要である。該アクリル樹脂は、全樹脂に基づき、10〜70重量%、好ましくは20〜30重量%で存在する。該アクリル樹脂は、斯界に知られている手段によってフルオロポリマーとブレンドされる。
【0016】
本発明に有用な有機シリケートは、良好な汚れ脱落性能と長い可使時間とのバランスを最適化するように選択される。該有機シリケートは有機シリケートの混合物であることができる。有機シリケートの分子量は、塗面の湿潤性を達成するために重要である。本発明に有用なシリケートは、該表面に移動できなければならないため、低い分子量を有する。該添加剤の分子量を正確な系(結合剤、焼き付け条件など)に適合させて該表面上に架橋シリコーンの薄層を生じさせるであろう相溶性を制御すべきである。有機シリケートのMwは、600〜20,000、好ましくは600〜5,000の範囲にある。これより分子量が低くても分子量が高くても良好な性能を示さない。Mwが低すぎる場合には、良好な相溶性によって移動が困難になるため、親水性の表面を得ることができない。Mwが高すぎる場合には、移動は緩やかであり且つ困難であろう。
【0017】
該有機シリケートの組成物は、ペイント可使時間と汚れ脱落性能とのバランスをとることことが重要である。一般的な汚損が最初の2、3ヶ月で迅速に生じるため、汚れ脱落性には迅速な加水分解が極めて重要である。しかしながら、加水分解及び縮合反応が急速に生じすぎる場合には、該シリケートは加水分解し、しかも塗布前のペイント中にゲルが形成するであろう。生じたこの高い粘度は塗布をさらに困難なものにし、しかも該架橋シリケートは移動が困難であるため、汚れ脱落性に悪影響を及ぼすであろう。有用な有機シリケートとしては、メチルシリケート、エチルシリケート、メチルエチルシリケート及びメチルプロピルシリケートが挙げられる。メチルシリケートは、親水性の表面を生じさせるが、比較的短い可使時間を有する。この可使時間を改善させるために、加水分解遅延剤を添加することができる。エチルシリケートは長い可使時間を有するが、加水分解はむしろ緩やかである。処方物におけるエチルシリケートの緩やかな加水分解を酸触媒の添加によって早めることができる。好ましい具体例では、エチルメチルハイブリッドシリケートは、所望の親水化効率と良好なペイント可使時間の両方を与える。本願の組成物に使用するのに特に好適な市販のエチルメチルシリケートの例は、EMS485(コルコート株式会社(日本国)から入手できる)である。
【0018】
該有機シリケートは、塗料組成物に、全樹脂固形分に基づき0.1〜20重量%、好ましくは2〜10重量%の範囲で使用される。0.1重量%未満を使用する場合には、生じる湿潤性は十分でない。20重量%を超えると、塗料の外観及び制作の容易さが悪化し、しかも亀裂が生じ得る。
【0019】
該塗料組成物に、少なくとも1種の水除去剤が、可使時間を長くし且つ高い初期光沢を維持するために含められる。該シリケート添加剤は加水分解に感受性のある材料であり、しかも該水除去剤は、保管中の加水分解及び水と有機シリケートとの縮合反応を減少させ、それによって可使時間を増加させる。保管中の加水分解及び縮合反応によるゲル化は水除去剤によって防止又は低減され、有機シリケートが焼き付け中に表面に移動して親水性の表面を生じさせることを可能にする。さらに、塗膜の光沢は、シリケート添加剤により低下し得るが、水除去剤の添加によってこの光沢の低下が減少することが分かった。本発明に有用な水除去剤の例としては、モレキュラーシーブ、トリオルガノホスフェート、トリオルガノアミン、複素環式芳香族窒素化合物、カルボジイミド、無水物、例えば、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸;石膏、ゼオライト、アルミナ、オルトエステル、イソシアネート、オルト硼酸エステル、合成クレー及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい具体例では、モレキュラーシーブが水除去剤として使用される。該モレキュラーシーブは、使用前に加熱によって活性化されなければならない。シリケートと水除去剤の併用は、優れた汚れ脱落性、さらに長い可使時間及び安定な光沢を同時にもたらす。該水除去剤は、塗料組成物に、全樹脂固形分に基づき0.1〜40重量%で使用される。水除去剤の使用量は、使用される水除去剤にある程度依存する。というのは、その有効性がそれぞれ異なるからである。
【0020】
該フルオロポリマー樹脂、有機シリケート及び水除去剤成分のほかに、該塗料組成物は、斯界に知られている他の添加剤を随意に含むことができる。
【0021】
随意成分としては、着色用顔料、増量剤、沈降防止剤、均展剤、増粘剤及び架橋剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
該塗料組成物は、上記のエチルシリケートのようないくらかの有機シリケートの加水分解を促進させるための酸触媒を含むことができる。該酸触媒は、限定されないが、希釈塩酸、オルト蟻酸トリアルキル、オルト酢酸トリアルキル及びオルト硼酸トリアルキルを含め、任意の酸から選択できる。該酸触媒は、存在するならば、シリケートの量に基づき、0.1〜10重量%の範囲にある。メチルシリケート又はエチルメチルハイブリッドシリケートを使用する場合には、該酸は必要ないが、エチルシリケートを使用する場合には、該シリケートの迅速な加水分解のために酸触媒が必要である。
【0023】
良好な汚れ脱落性能及び長いペイント可使時間を達成するために、いかなるアルコール溶媒もペイント組成物から除外しなければならない。
【0024】
該塗料組成物は、溶媒系組成物又は粉末塗料のいずれかであることができる。本発明の塗料組成物は、従来の方法によって製造できる。例えば、該塗料組成物は、各種成分を分分散剤と小型媒体ミル又はペイントシェーカーのような混練器具とを使用してブレンドすることによって製造できる。ビードモレキュラーシーブを含有するペイント組成物に関して、該ビードモレキュラーシーブは塗布前にろ過すべきである。
【0025】
フルオロポリマー樹脂、選択された有機シリケート及び少なくとも1種の水除去剤を含む本発明の塗料組成物は、シリケート添加剤の加水分解及び縮合反応が制御され、その結果としてシリケート添加剤の加水分解と塗料の可使時間との良好なバランスを生じさせる組成物を実現する。結果として、本発明におけるペイント組成物は、塗膜にさらに迅速な親水化、良好な汚れ脱落性能及びさらに高い光沢を与えることができる。
【0026】
有機シリケートを添加した後の該塗料組成物の可使時間は、現在の技術の一日限りの可使時間をはるかに超えて延びる。従って、同日に使用しなかったペイント混合物を廃棄する必要はない。得られた塗面に付着した汚れは、降雨によって迅速且つ直ちに洗い流されるため、従来技術よりも良好な汚れ脱落性能を与える。塗膜の光沢は、シリケート添加剤を含有するペイントであっても、長期間の保管後に悪影響を受けない。
【0027】
本発明の塗料組成物は、限定されないが、木材、金属、熱可塑性材料、ガラス及び金属基材を含め、建築用及び産業用基材を塗装するために使用できる。環境に露出する基材にはこのような塗装が特に有効である。一具体例では、該塗料組成物を、吹きつけ塗り、はけ塗り、静電塗装、浸し塗り、ロール塗布、コイル塗装及びバー塗布(これらに限定されない)のような斯界に知られている手段によって金属表面上に粉末又は液体の形で付着させる。次いで、このフルオロポリマーフィルムを硬化させて付着した重合体フィルムを有する被覆基材を形成させる。硬化は、空気乾燥、加熱、UV硬化、IR硬化及び斯界に知られている他の手段によって行うことができる。焼き付け温度は臨界的ではないが、分散液中に存在するフルオロポリマー粒子が合体して連続フィルムを生じさせる程度に高くなければならない。PVDF分散塗料については、約10分にわたって少なくとも約210℃の温度が一般に適当である。コイル塗装方法では、オーブン滞留時間は、多くの場合、約50秒を超えず、300℃程度に高いオーブン温度が使用できる。二弗化ビニリデン系フィルムは、好ましくは、金属基材が225℃〜260℃のピーク金属温度に達するように約30〜60秒の適時にわたる焼き付けによって硬化する。
【0028】
次の例は、本発明の様々な態様をさらに例示するものであるが、本発明の範囲をいかなる態様にも限定しようとするものではない。
【実施例】
【0029】

実施例1〜5及び比較例1〜3は、シリケートの選択によって良好な汚れ脱落性能及び長い可使時間の両方が得られることを実証するものである。実施例6〜7及び比較例4〜6は、光沢の問題及び水除去剤に対処している。選択されたシリケートと共に、水除去剤は、シリケートの添加によって生じた塗面光沢の損失を防ぎ、且つ、長い保存時間を与えるために必要である。選択されたシリケートと水除去剤との併用によって、優れた汚れ脱落性、長い可使時間及び安定な光沢が得られる。
【0030】
実施例1〜5及び比較例1〜3
PVDF(アトフィナ・ケミカル社によって提供された商品名「KYNAR500」)20.5g、アクリルB44(40重量%トルエン溶液として提供されたローム・アンド・ハース・ポラロイドB−44)21.9g、R960 TiO2(デュポン社により提供)15.8g及び各種シリケート3.0gを41.8gのイソホロンと共に混合した。随意に、場合によっては、0.3gの酸触媒の硼酸トリエチル(オールドリッチ社製)も添加した。各種シリケートの物理データを表1に載せた。
【0031】
これらの処方物をペイントシェーカーで1時間ガラスビーズを使用して振盪させた。次いで、このできたてのペイントを、クロメート処理されたアルミニウムAA3003基材上にワイヤラップドローダウンロッド(#52)を使用して流延させた。得られたフィルム及びパネルを585°Fの通気オーブン内で50秒間焼き付けた。このパネルを冷水浴中で冷却させた。可使時間を試験するために、全てのペイントを室温で1ヶ月間、次いで50℃で2週間保管し、その後フィルムをワイヤラップドローダウンロッド(#52)で流延させた。該フィルムは、上記できたてのペイントについての手順と同一の条件下で製造した。できたてのペイント及び1.5ヶ月経過後の古いペイントの両方から作られたパネルを2週間にわたって戸外にさらした。その親水性を、露出したパネルと水との接触角を測定することによって評価した。評価結果を表2に示している。良好な結果のためには、水接触角は50以下であるべきである。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
2週間の戸外露出後に、50よりも低い水接触角を有するパネルが良好な汚れ脱落性能を有する。酸触媒は、エチルシリケートES48を使用するときのさらに迅速な加水分解のために必要である(実施例3対比較例3)が、該触媒は、エチルメチルシリケートEMS485を含有するペイントには必要がない(実施例1)。
【0035】
より低い分子量は移動能力には不都合である。MS51(Mw:500〜700)(比較2)は、酸触媒を使用しても白色KYNAR500塗料には有効でなかった。メチルシリケートMS56を含有するできたてのペイントは、触媒がなくても迅速に加水分解することができる(例4)。シリケート等級は、ペイント可使時間と汚れ脱落性能とのバランスをとるために極めて重要である。メチルシリケートは表面を迅速に湿らせることができたが、その可使時間は短い。エチルシリケートは長い可使時間を与えたが、加水分解は緩やかであった。エチルメチルシリケートが最も良好な性能を示した。
【0036】
実施例6〜7及び比較例4〜6
実施例6
PVDF(アトフィナ・ケミカル社によって提供された商品名「KYNAR500」)20.5g、アクリルB44(40重量%トルエン溶液として提供されたローム・アンド・ハース・ポラロイドB−44) 21.9g、R960 TiO2(デュポン社により提供)15.8g、EMS485を3.0g及び5gのビードモレキュラーシーブを41.8gのイソホロンと共に混合した。
【0037】
実施例7
ペイント組成物を例6と同様の態様で得たが、ただし、ビードモレキュラーシーブの含有量を表3に示したように変更した。
【0038】
比較例4
ペイント組成物を例6と同様の態様で得たが、ただし、比較例4ではシリケート添加剤及びモレキュラーシーブは存在しない。
【0039】
比較例5
ペイント組成物を例6と同様の態様で得たが、ただし、比較例5ではモレキュラーシーブは存在しない。
【0040】
比較例6
ペイント組成物を例6と同様の態様で得たが、ただし、比較例6では追加のメチルアルコールは存在しない。
【0041】
処方物(表3参照)をペイントシェーカー上でガラスビーズを使用して1時間振盪させた。このできたてのペイントを、クロメート処理されたアルミニウムAA3003基材上にワイヤラップドローダウンロッド(#52)を使用して流延させた。得られたフィルム及びパネルを585°Fの通気オーブン内で50秒間焼き付けた。このパネルを冷水浴中で冷却させた。可使時間を試験するために、全てのペイントを室温で1ヶ月間、次いで50℃で2週間保管し、その後フィルムをワイヤラップドローダウンロッド(#52)で流延させた。該フィルムは、上記できたてのペイントについての手順と同一の条件下で製造した。
【0042】
できたてのペイント及び1.5ヶ月経過後の古いペイントの両方から作られた全てのパネルの光沢を、HunterLab社製ProGloss3を使用して判断した(ジオメトリー60°)。全てのパネルを、米国ペンシルバニア州キングオブプロシアの野外に2週間さらした。その親水性を水接触角を測定することによって評価した。良好な結果のためには、水接触角は50以下であるべきである。さらに、全てのパネルをシンガポール南部(南緯45度)においても2ヶ月間野ざらしにして汚れ脱落性能を評価した。該汚れ脱落性能は、シンガポールにおいて2週間にわたり野ざらしにされたパネルのΔE(元のものからの全色変化)を測定することによって評価した。色は、HunterLab社製LabscanII;ジオメトリー0/45を使用して判読した。色の判読は、CIE L***、10度観測者、D65光源である。良好な汚れ脱落性能のためには、ΔEは、2未満であるべきである。評価結果の全てを表4に示した。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
実施例6及び7の結果から分かるように、シリケートEMS485と水除去剤の併用は、優れた汚れ脱落性能(ΔE<2)及び長い可使時間(1.5ヶ月)並びに高い光沢を同時にもたらす。水除去剤なし(比較例5)では、良好な汚れ脱落性能及び長い可使時間はそのままであるが、光沢は低下する。しかしながら、アルコール溶媒が該ペイント組成物に含まれる場合には、該塗料の初期光沢は、水除去剤が存在したとしても有意に低下する(比較例6)。アルコール溶媒はペイント組成物から除外されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長い可使時間を有し且つ優れた耐候性及び耐汚染性を有する塗膜を形成させることのできるフルオロポリマー樹脂をベースとする塗料組成物であって、
(a)全樹脂固形分を基にして、少なくとも30重量%の少なくとも1種のフルオロポリマーと、
(b)0.1〜20重量%の少なくとも1種の有機シリケートと、
(c)0.1〜40重量%の少なくとも1種の水除去剤と
(全てのパーセンテージは該組成物の全樹脂固形分に基づく)
を含む塗料組成物。
【請求項2】
前記フルオロポリマーがポリ弗化ビニリデンを含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
少なくとも1種のアクリル樹脂をさらに含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項4】
少なくとも1種の酸触媒をさらに含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項5】
顔料、増量剤、沈降防止剤、均展剤、増粘剤又はそれらの混合物をさらに含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記フルオロポリマーを少なくとも50重量%含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項7】
前記フルオロポリマーを70〜80重量%含む、請求項6に記載の塗料組成物。
【請求項8】
前記有機シリケートがメチルシリケート、エチルシリケート、プロピルシリケート、エチルメチルシリケート及びそれらの混合物よりなる群から選択される、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項9】
有機シリケートとしてエチルシリケートを含み、且つ、酸触媒をさらに含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項10】
前記有機シリケートが600〜20000の重量平均分子量を有する、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項11】
前記有機シリケートが1000〜5000の重量平均分子量を有する、請求項10に記載の塗料組成物。
【請求項12】
前記水除去剤がモレキュラーシーブを含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項13】
前記酸触媒が希釈塩酸、オルト蟻酸トリアルキル、オルト酢酸トリアルキル、オルト硼酸トリアルキル及びそれらの混合物よりなる群から選択される、請求項4に記載の塗料組成物。
【請求項14】
前記組成物がアルコール系溶媒を含まない、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項15】
少なくとも1種の有機シリケートを2〜10重量%含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項16】
有機シリケート含有塗料組成物の可使時間を増加させるための方法であって、少なくとも30重量%の少なくとも1種のフルオロポリマーと、0.1〜20重量%の有機シリケートであってエチルシリケート、メチルシリケート、メチルエチルシリケート及びメチルプロピルシリケート並びにそれらの混合物よりなる群から選択されるものと、0.1〜40重量%の少なくとも1種の水除去剤とを混合すること(全てのパーセンテージは、該組成物の全樹脂固形分に基づくものとする)を含む方法。

【公表番号】特表2008−504393(P2008−504393A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518059(P2007−518059)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/015840
【国際公開番号】WO2006/007052
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(500307340)アーケマ・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】