説明

耐油性シート状物

【課題】 低い透気抵抗度でかつ優れた耐油性能を備え、特に食用油を使用した食品の包装材料として好ましく使用できる耐油性シート状物を提供する。
【解決手段】 デンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸を含む少なくとも1層の塗工層を基材の少なくとも片面に0.5〜20g/m設けたこととすることで耐油性シート状物が得られる。この塗工層にさらに架橋剤を含有させることにより、耐油性能が向上する。この塗工層の上に、脂肪酸を主成分とする塗工層又はポリビニルアルコールを主成分とする塗工層をさらに塗工して少なくとも2層の塗工層を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油性、耐グリース性に優れるシート状物に関する。更に詳しくはフライや天ぷら等の食用油を使用した食品の包装材料として好ましく使用できるシート状物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、紙に耐油性を付与するために、加工処理面の臨界表面張力を油性物質の表面張力より小さくする方法が取られていた。このような機能を有する処理薬品を耐油剤と称し、フッ素系の耐油剤を用いたものが耐油紙の主流となっていた。
【0003】
例えば特許文献1に新規な耐油剤としてフッ素系耐油剤の紹介があるように、過フッ素炭化水素のアクリレートまたはリン酸エステル等のようなフッ素系化合物を用いたものが低コストでかつ効果的であるので、耐油紙用の耐油剤として主流となっていた。
【0004】
フッ素系の耐油剤を用いた耐油紙は、耐油剤自身が優れた撥油性能を持ち、さらに強力な撥水性能を有していることから、耐油紙の表面に皮膜を形成させる必要がなく、その結果として耐油紙自体の透気抵抗度を低くすることが可能であった。しかし、近年になってこのようなフッ素系化合物の耐油剤を使用した耐油紙を使用してフライ等を包装し、電子レンジ等を使用して100℃以上の高温で処理した際に、人体に蓄積され害を及ぼすガス(フッ化アルコールガス、フッ化水素等)が発生することが明らかになり、フッ素系の耐油剤の使用が大きな問題となっていた。また電子レンジ等で加熱処理しなくても、100℃以上になっている食材の包装に使用するような場合にも同様のガスが発生する危険が指摘されていた。さらには、フッ素系の有機化合物の生分解性は非常に悪く、これら物質による地球規模での汚染が懸念されていた。このように人体への影響及び地球環境への影響を考え、フッ素系化合物の使用が社会的に大きな問題となっているのが現状であった。
【0005】
特許文献2には、フッ素系化合物を使用しない耐油紙として、架橋したポリビニルアルコールおよび/またはデンプンと耐水化剤とを主成分とするバリヤー層に、シリコン樹脂およびヒートシール用接着剤を塗工し、それを容器とする耐油性容器が提案されている。しかし、この耐油性容器は、必ずしも満足し得る耐油性能を有するものではなく、更にシリコン樹脂が高価であるため容器のコストがかかるという問題点があった。
【0006】
特許文献3にはノニオン性、あるいはカチオン性のポリビニルアルコールの塗工層、並びにフッ素系の耐油剤を順次塗工してなる耐油紙に関する提案がなされている。しかし、ここで使用されるポリビニルアルコールの塗工層はフッ素系耐油剤の紙への浸透を防止するための役割であり、本発明の主旨とまったく異なる。
【0007】
さらに、特許文献4、特許文献5、特許文献6にはアクリルエマルジョンを耐油剤として使用した耐油紙が提案されている。しかし、ここで提案されている耐油紙においては耐油性能を満足するためにしっかりとしたアクリル樹脂の皮膜形成が必要であり、このため透気抵抗度が非常に高くなり食品包装材料としての性能を損なうものであった。食品包装材料で透気抵抗度が高くなると、食品を包装材料に入れたまま加熱若しくは保温した場合、食品から発散する水蒸気が包装材料の中で充満し、結露した水が食品に付着する結果、食品の食感や味覚が大きく損なわれる場合がある。更に、食品を包装材料に入れたまま電子レンジ等で再加熱した場合、急速に発生する水蒸気が外部に放出しきれず破袋する危険がある。また充分な耐油性能を得るための皮膜を生成するには多くの塗布量を必要とし、その結果包装材料のコストがかかるという問題点があった。
【0008】
また、前記したように、食品を包装材料に入れたまま電子レンジ等で再加熱したような場合、そこで発生する水蒸気の外部への放出されやすさは、透気抵抗度の他にも水蒸気透過性で表現される場合もある。水蒸気透過性を測定する方法としては、JIS Z−0208(1976年)による防湿材料の透湿度測定方法があり、ここでは透湿度の定義として「一定時間に単位面積の膜状物質を通過する水蒸気の量」とされている。しかし、この方法は非常に時間がかかることと、実際に食品用包装材料として使用された際の問題点である、包装袋内における結露や、電子レンジで加熱した際において急速に発生する水蒸気が外部に放出しきれず破袋するようなケースを想定すると試験方法としては合わないと考える。従って、本発明のようなケースにおける透湿度の評価試験としては、実際に食品を包装するか、それに代わるものを使用して、包装袋内部の結露発生状況や破袋の状況を調査することが好ましい。
【0009】
一方、高い耐油性能を確保するため、フィルムをラミネートする方法が一般的に行われてきた。しかしながら、フィルムをラミネートすると透気抵抗度が極端に高くなり、前述したように食品包装材料として問題があった。
【0010】
この透気抵抗度が極端に高くなるのを防ぐ為、特許文献7では微孔を有する紙等の基材の少なくとも片面に基材と同様な微孔を有する熱可塑性フィルムを積層させたことを特徴とする、通気性のある耐油シートが提案されている。また、不織布と紙の積層体にするという提案もなされている。しかし、このようなシートでは食品油の外部への染み出しが防ぎきれず、良好な耐油性が得られないという問題があった。
【0011】
特許文献8では、疎水性のデンプンを使用した耐油紙が提案されている。しかし、疎水性デンプンのみで充分な耐油性能を確保しようとすると、極端に多量の疎水性デンプンを塗布する必要があり、コスト的に非現実的であり、また塗布量の増加による透気抵抗度の上昇も問題であった。更に、疎水化デンプンのみではデンプンが水に溶けやすいために食品包装材料として使用した場合、温められている食品から発生する水蒸気によってデンプンが溶け出し、食品の表面に付着するという問題点があった。
【0012】
また特許文献9では、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコールと架橋剤を併用した耐油剤を塗布した耐油紙を提案している。この発明は少ない塗布量で高い耐油性能を得ることができるが、ポリビニルアルコールを使用している為、他の非フッ素系耐油剤に比べれば透気抵抗度は低く抑えられるものの充分といえるものでは無かった。さらに、サイズプレスで塗布しようとすると、ドライヤーを汚す、という問題点があった。
【0013】
また、特許文献10では、無サイズの紙にデンプン、ポリビニルアルコール、アクリル系耐油剤を均一に含有する耐油紙を提案している。しかし、この発明においても食品用包装材料としての耐油性能は不十分であり、また、耐油性能を確保するため多量の塗工層を必要とするので、結果として透気抵抗度が高くなってしまう、という問題点があった。
【0014】
特許文献11では紙基材に2層の塗膜を設け、該塗膜の構成が下層にゴムラテックス等のエラストマーまたは保水性/吸水性ポリマーと糊化可能デンプン類との混合物の塗膜、上層に低粘度化デンプンまたはデンプン誘導体の塗膜である耐油処理紙を提案している。この方法では、主にデンプンとエラストマーまたは保水性/吸水性ポリマーで耐油性能を確保しているため、前述した通り、耐油性能を確保するためには透気抵抗度を犠牲にしなくてはならず、結果として耐油性能に優れ、かつ透気抵抗度の低い耐油性シート状物を得ることはできなかった。また、デンプンのフィルムを形成することが目的である該発明は、透気抵抗度についてはまったく考慮されていない。また、この発明においてはデンプン誘導体の例として炭素数2〜16の飽和・不飽和脂肪酸のアシル残基置換体で水酸基を置換したものが提案されているが、これは水酸基をある一定量(水酸基置換度(DS)0.001〜1.8)脂肪酸に置換したデンプンであって、本発明の脂肪酸とはまったく異なるものである。また、脂肪酸で置換する目的は、耐老化増粘性、耐水性の付与であり、この点においても本発明とまったく異なるものである。
【0015】
また、内添用の脂肪酸サイズ剤は耐油性能を向上させることが従来から知られているが、ここでいう耐油性能とは、オフセット印刷時のインクの裏抜けを防止する程度の耐油性能であり、本発明でいう食品包装材料等に要求される耐油性能と比べ格段に低い耐油性能であった。このため、食品包装材料等に使用される耐油紙に対して脂肪酸サイズ剤を使用する検討は行われていなかった。
【0016】
更に、脂肪酸サイズ剤は、通常ステキヒトサイズ度を上げる為に内添サイズ剤として使用されており、塗工層に添加するケースはほとんど無く、ましてや耐油性向上を目的として塗工液に添加することはまったく検討されていなかった。このように従来技術においては、耐油性能と透気抵抗度と生産性を同時に満足することのできる食品包装材料として好適な耐油紙を得ることはできなかった。
【0017】
【特許文献1】特開平12−026601号公報
【特許文献2】特公平6−2373号公報
【特許文献3】特開平8−209590号公報
【特許文献4】特開平9−3795号公報
【特許文献5】特開平9−111693号公報
【特許文献6】特開2001−303475号公報
【特許文献7】特開平11−021800号公報
【特許文献8】特開2002−69889号公報
【特許文献9】特開2004−68180号公報
【特許文献10】特開2005−29943号公報
【特許文献11】特開2005−29941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、従来のフッ素系耐油剤を使用した食品包装材料としての耐油紙における人体への安全性、環境への問題点、また、非フッ素系耐油剤を使用した食品包装材料としての耐油紙における高い透気抵抗度、高コストといった問題点の解決を課題とする。具体的には、低い透気抵抗度で人体に安全、且つ優れた耐油性能および生産性に優れる耐油性シート状物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
すなわち本発明の請求項1に係る発明は、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸を含む少なくとも1層の塗工層を基材の少なくとも片面に0.5〜20g/m設けたことを特徴とする耐油性シート状物である。
【0020】
本発明の請求項2に係る発明は、塗工層に架橋剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の耐油性シート状物である。
【0021】
本発明の請求項3に係る発明は、ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層を少なくとも1層設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の耐油性シート状物である。
【0022】
本発明の請求項4に係る発明は、脂肪酸を主成分とする塗工層を少なくとも1層設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の耐油性シート状物である。
【0023】
本発明の請求項5に係る発明は、基材に近い塗工層が請求項1または2に記載の塗工層であり、基材から遠い塗工層が脂肪酸を主成分とする塗工層である少なくとも2層の塗工層を基材の少なくとも片面に有することを特徴とする耐油性シート状物である。
【0024】
本発明の請求項6に係る発明は、架橋剤がエピクロルヒドリン系であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の耐油性シート状物である。
【0025】
本発明の請求項7に係る発明は、脂肪酸が脂肪酸サイズ剤であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の耐油性シート状物である。
【0026】
本発明の請求項8に係る発明は、脂肪酸がエピクロルヒドリン系の薬剤で変性されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の耐油性シート状物である。
【0027】
本発明の請求項9に係る発明は、透気抵抗度が10000秒以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の耐油性シート状物である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、低い透気抵抗度で人体に安全であり、且つ優れた耐油性能および生産性に優れる耐油性シート状物を得ることができる。本発明による耐油性シート状物は、特に食用油を使用した食品の包装材料として、好ましく使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明における塗工層は、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸を含む必要がある。本発明者は、塗工層にデンプンおよび/またポリビニルアルコールと脂肪酸を含むことにより、それ単独では考えられなかった程に耐油性能が飛躍的に向上することを確認した。ここでいう耐油性とは油の浸透をブロックする性能を意味する。一般的に耐油性、すなわち油の浸透をブロックする性能は、ひまし油等の油の浸透時間を測定することにより評価される。ここで油の浸透時間は、測定する油を通常は23℃50%R.H.の環境下でサンプルに1滴垂らし、裏面に完全に染み込むまでの時間で評価される。完全に染み込むとは、垂らした面積と同じ面積が裏面にしみている状態を意味し、これを目視で確認する。本発明でいう耐油性シート状物とは、ひまし油の浸透時間が0.5時間以上である紙をいう。
【0030】
本発明で使用されるデンプンは、通常のデンプンの他、グラフト化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルデンプン、カチオンデンプン、酢酸デンプン、リン酸デンプン、リン酸ジデンプン、グリセロールジデンプン、白色デキストリン、黄色デキストリン、ブリティッシュガム、マルトデキストリン、酸化デンプン、酸処理デンプン、アルファ化デンプン等といったエーテル化デンプン、エステル化デンプン、架橋デンプン、焙焼デンプン、酵素変性デンプンが使用できる。この他、造粒された粒状デンプン、多孔質化した吸油性デンプン等も好適に使用できる。
【0031】
ポリビニルアルコールとしては、完全鹸化であっても部分鹸化であっても構わない。また、カルボキシル基、シアノール基等で変性されてあっても構わない。耐油性能の面から、カルボキシル基、もしくはシアノール基で変性されたポリビニルアルコールであることが好ましい。また、耐油性、透気抵抗度、製袋適性のバランスから鹸化度85〜100%、平均重合度300〜2500であることが好ましい。
【0032】
本発明においてデンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸を含む塗工層を設ける方法としては、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸を混合して塗布しても良いし、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸を別々に塗布してもよい。もちろん、塗料には架橋剤を含んでも良く、一般的に塗工用塗料の原料として使用される他の成分を含んでも良い。また、本発明においては塗工層にデンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸を含んでいれば、それらが混合して塗布されたものであっても、別の層として存在していても一向に構わない。
【0033】
塗工層に脂肪酸を含むと耐油性能が格段に向上する原理については定かでは無いが、本発明者は脂肪酸が浸透する油を吸収することで浸透を止めるためであると推測する。また、脂肪酸のみの層では耐油性能は確保できないことからデンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸の組み合わせによって何らかの作用もしくは反応があって耐油性能が向上しているのではないかと推測する。
【0034】
脂肪酸には耐油性能を向上させる効果のほか、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールに混合して塗工層を設けた場合、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールの皮膜形成を阻害することで透気抵抗度を下げる効果があり、かつ透気抵抗度が下がっても耐油性能を低下させずに、逆に向上させることが可能となる。このような特徴は、透気抵抗度を低く保ち、かつ高い耐油性能が要求される食品用包装材料、例えば電子レンジに使用される食品用包装材料や、水分を多く含む食材の包装材料等に極めて有効である。
【0035】
本発明において、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸を含む塗工層におけるデンプンおよび/またはポリビニルアルコールを架橋剤で架橋することで、耐油性能は飛躍的に向上する。この理由は定かではないが、架橋剤のみを基材に塗工してもシート状物の耐油性能が発現しないことから、脂肪酸とデンプンおよび/またはポリビニルアルコールと架橋剤の成分が何らかの作用をしてシート状物の耐油性能を向上させていると推測される。
【0036】
本発明で使用される架橋剤は、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールを架橋できるものであれば特に限定されない。架橋剤としては、グリオキザール、ジアルデヒド、ポリアクロレイン、N−メチロール尿素、N−メチロールメラミン、活性化ビニル化合物、各種エステル、ジイソシアネート、ウレタン系架橋剤等があるが、経済性、反応安定性、食品への影響等からエピクロルヒドリン等のエポキシ化合物を使用するのが好ましい。
【0037】
デンプンおよび/またはポリビニルアルコールに対する架橋剤の添加量は、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールの全固形分質量に対して固形分で1〜30質量%であることが好ましい。更に好ましくは5〜15質量%である。デンプンおよび/またはポリビニルアルコールに対する架橋剤の添加量がデンプンおよび/またはポリビニルアルコールの全固形分質量に対して固形分の1質量%未満では効果が充分に出ない。また、30質量%を超えて添加しても添加量に見合った効果が出ずコスト的に不利になるので好ましくない。また架橋剤の添加量が多くなりすぎると、塗料全体に対するデンプンおよび/またはポリビニルアルコールの割合が少なくなるため耐油性能が落ちるので好ましくない。
【0038】
デンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸を含む塗工層は、基材の少なくとも片面に0.5〜20g/m2 設ける必要がある。0.5g/m2 未満であると充分な耐油性能が確保できない。また、20g/mより多いと塗工量の割に耐油性能が向上せずコスト的に不利であり、また透気抵抗度が上昇することによって包装袋が破袋しやすくなるといった問題がある。塗工に際してはサイズプレス塗工がコスト的に有利であり好ましいが、サイズプレス塗工を施す場合には、塗工量を0.5〜7g/m2 とすることが好ましい。7g/m2 を超えると乾燥時に乾燥ドライヤーを汚す可能性があるので好ましくない。塗工層は、必要に応じて基材の両面に設けることもできるが、この場合の塗工量は、両面塗工層の合計が上記塗工量の範囲内となるようにするのが好ましい。
【0039】
本発明で使用される脂肪酸とは、主成分が脂肪酸成分であればよく、脂肪酸を変性したものや脂肪酸塩であってもよい。逆に脂肪酸が主成分でないものは含まない。ここでいう主成分とは、構成物質中に脂肪酸を50質量%以上含む場合をいう。例えば、脂肪酸から誘導される脂肪酸アミドや、脂肪酸とアルコールによって生成される脂肪酸エステル等も好適に使用できる。脂肪酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、蒸留脂肪酸、硬化脂肪酸等のいずれであってもよく、これらの脂肪酸は、塗工できるようにエマルジョン化、ソープ化されているものが好ましいが、熱をかけて溶融させてから塗工する等、塗工が可能であればエマルジョン化、ソープ化されている必要はない。また、植物性脂肪酸であっても動物性脂肪酸であってもかまわない。
【0040】
脂肪酸は、カチオン変性することで紙用の脂肪酸サイズ剤として従来から広く使用されている。脂肪酸サイズ剤には、脂肪酸、脂肪酸塩もしくは機能性を付与するために変性された脂肪酸に、ポリアミン系薬剤等のカチオン性定着剤を付与したものやエピクロルヒドリン系薬剤でエポキシ化されているものがある。一般的には脂肪酸と多価アミンの縮合で得られるもの、アルケニルコハク酸と多価アミンとの反応に得られるもの等が挙げられる。脂肪酸と多価アミンの縮合物は、エピクロルヒドリンを用いて4級塩としたものが好適に使用できる。脂肪酸としては、炭素数8〜30の高級脂肪族モノカルボン酸又は多価カルボン酸が好ましく、特に炭素数12〜25のものが好ましい。脂肪族カルボン酸としては、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラキン酸、ベヘン酸、トール油脂肪酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸等が挙げられる。多価アミンとしては、ポリアルキレンポリアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、アミノエチルエタノールアミン等が挙げられる。
この他、脂肪酸を使用したサイズ剤として、ステアリルアマイド等の脂肪酸アマイド、N,N‘−エチレンビスステアリルアマイド等のN−置換脂肪酸アマイド等の脂肪酸アマイドワックス等も使用できる。この際、脂肪酸は炭素数8〜30のものが好ましい。
また、脂肪酸クロム錯塩も使用できる。本発明で使用する脂肪酸は、これら脂肪酸を利用したサイズ剤であれば、いかなるものでも好ましく使用できる。
【0041】
理由は明らかではないが、脂肪酸をエピクロルヒドリン系薬剤でエポキシ化すると、脂肪酸単体で使用するよりも耐油性能は飛躍的に向上する。さらに脂肪酸を脂肪酸サイズ剤として使用すると、耐油性能の向上効果はさらに顕著となるので好ましい。
【0042】
本発明で使用される脂肪酸の融点は20℃以上であることが好ましく、更に好ましくは40℃以上である。20℃未満であると、基材に塗工してシート状物としたときに、シート状物が油っぽくなり扱いづらい。40℃未満であると、食品包装材料として使用した場合、加熱、保温時に脂肪酸が溶けだし耐油性能が悪化する危険がある。
【0043】
本発明で使用される脂肪酸として、エピクロルヒドリン系の薬剤で変性されている脂肪酸を使用することにより、シート状物の耐油性能を向上させることができるので好ましい。ここで、エピクロルヒドリンで変性されているとは、単に脂肪酸にエピクロルヒドリン基が導入されているものだけでなく、脂肪酸の分散剤にエピクロルヒドリンを使用するなど、脂肪酸に何らかの形でエピクロルヒドリンが付与されている場合も含む。
【0044】
脂肪酸のデンプンおよび/またはポリビニルアルコールに対する添加量は、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールの全固形分質量に対して固形分で1〜30質量%であることが好ましい。更に好ましくは3〜15質量%である。1質量%未満では充分な耐油性能が出ない場合があり、30質量%を超えて添加しても添加量に見合った耐油性能が向上せず、コスト的に不利になり、さらには脂肪酸の割合が多くなりすぎるために塗工層中のデンプンおよび/またはポリビニルアルコールの割合が少なくなり、結果としてシート状物の耐油性能が落ちるので好ましくない。また、脂肪酸を添加した塗工層を基材に塗工したシート状物はすべりやすくなる傾向にあるが、脂肪酸を15質量%以下にして塗工層に添加すると、シート状物のすべりが少なく扱い易くなるので好ましい。また、脂肪酸が3質量%未満であると、油の種類によっては耐油性能が不十分となる場合がある。
【0045】
脂肪酸が塗工層に含まれると、脂肪酸が剥離剤の働きをすることでサイズプレス塗工する際に乾燥ドライヤーの汚れを防止する効果を得ることができる。すなわち、脂肪酸を塗工層に添加することにより、得られたシート状物の耐油性能を向上させると同時に、サイズプレス塗工時の乾燥ドライヤーの汚れ防止効果をもたらし、生産性が良くなる。さらには脂肪酸の剥離剤としての作用により、本発明による耐油性シート状物を唐揚げ等の揚げ物の包装材料として使用した場合に、食材と包装材料の剥離性が向上し、唐揚げの皮等が包装材料に付着するのを効果的に防止することができる。
【0046】
デンプンに脂肪酸を添加する際、エピクロルヒドリン系の薬剤で変性された脂肪酸を使用すると塗料が凝集を発生する場合がある。凝集が発生しても耐油性能を発現することに関して問題はないが、凝集物が抄紙機や塗工機を汚す場合があるので好ましくない。また、食品包装材料として使用した場合、この凝集物が食品に付着する恐れもある。このことから、エピクロルヒドリン系薬剤で変性された脂肪酸をデンプンに使用する場合には、塗料の凝集により発生する凝集物を抑制するためにポリビニルアルコールを添加することが好ましい。さらに、ポリビニルアルコールを使用することにより耐油性シート状物の耐油性能を向上させる効果もある。
【0047】
塗料の凝集を抑えるためにポリビニルアルコールを添加する場合、ポリビニルアルコールの添加量は、脂肪酸の質量に対し、好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上とすることが好ましい。10質量%未満では凝集抑制効果が充分でない場合があり、20質量%を越えてもその効果が頭打ちになるので好ましくない。
【0048】
デンプンを使用せず、ポリビニルアルコールと脂肪酸のみの塗工層でも耐油性シート状物を得ることができる。一般的にポリビニルアルコールはデンプンより高価であり、被膜成形性が高いのでデンプンより透気抵抗度が高くなりやすい。しかし、耐油性能はデンプンより優れているので、用途に応じてデンプン、ポリビニルアルコールを単独若しくは混合して使用することができる。デンプン、ポリビニルアルコールの混合割合を調整することにより用途に応じた耐油性能、透気抵抗度を得ることができる。
【0049】
本発明は2層以上の塗工層を基材の片面または両面に形成することもできる。この場合、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸の塗工層と、脂肪酸を主成分とする塗工層またはポリビニルアルコールを主成分とする塗工層とを積層形成する実施態様、および、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸と架橋剤の塗工層と、脂肪酸を主成分とする塗工層またはポリビニルアルコールを主成分とする塗工層とを積層形成する実施態様が考えられる。また、前述した通り、デンプンおよびポリビニルアルコール単独の塗工層と脂肪酸を主成分とする塗工層とを積層形成する実施形態も考えられる。この際どちらの層にも架橋剤を添加することができる。
【0050】
脂肪酸を主成分とする塗工層とは、具体的には塗工層の固形分質量に対し脂肪酸が50質量%以上含まれていることを意味する。この場合の脂肪酸以外の成分としては、前述したデンプン、ポリビニルアルコール、架橋剤の他、塗工液の含浸性に影響を与える表面サイズ剤、紙粉等を抑える表面紙力剤等の一般的に紙用塗工材料として使用されるものが挙げられ、性能を損なわない範囲でこれらを、脂肪酸を主成分とする塗工層中に含ませることができる。
【0051】
ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層とは、具体的には塗工層の固形分質量に対しポリビニルアルコールが50質量%以上含まれていることを意味する。この場合のポリビニルアルコール以外の成分としては、前述したデンプン、脂肪酸、エピクロルヒドリン系の薬剤で変性された脂肪酸、脂肪酸サイズ剤、架橋剤の他、塗工液の含浸性に影響を与える表面サイズ剤、紙粉等を抑える表面紙力剤等の一般的に紙用塗工材料として使用されるものが挙げられ、性能を損なわない範囲でこれらを、ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層中に含ませることができる。
【0052】
デンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸の塗工層と、脂肪酸を主成分とした層とを別に設けた場合には、2つの塗工層の相乗効果により優れた耐油性能をシート状物に付与することができる。また、脂肪酸を主成分とする塗工層を別に設けることにより、非常に低い透気抵抗度を備えるとともに耐油性能に優れたシート状物とすることができる。さらに、ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層を別に設けることにより、脂肪酸を主成分とする塗工層を設ける場合に比べてシート状物の透気抵抗度が高くなる傾向にあるが、耐油性能は脂肪酸を主成分とする塗工層を設けた場合に比べて良好になる。このように塗工層を2層に分けて設けることにより、透気抵抗度と耐油性能のバランスをとることができる。このため、上述の種々の塗工層を単独もしくは組み合わせて設けることにより、用途に応じた性能を備えた耐油性シート状物を得ることができる。
【0053】
脂肪酸を主成分とする塗工層を別途設ける実施態様において、脂肪酸を主成分とする塗工層を、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸の塗工、またはデンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸と架橋剤の塗工層より、基材から遠い位置に形成することが好ましく、これによりシート状物の耐油性能をより一層高めることができるので好ましい。さらに、脂肪酸を主成分とする塗工層をシート状物の表面に露出するように設けることによって、食品包装材料として使用した場合、唐揚げの皮などが包装材料に付着するのを防ぐ効果もあるので好ましい。
【0054】
ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層を別途設ける実施態様においては、この塗工層を基材に近い層として、または基材から遠い層として、または最外層として形成してもよい。ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層が基材に近い層として形成した場合は、塗工液の基材中への浸透を抑える働きをして、シート状物の透気抵抗度が高くなる場合があるが、耐油性能は高くなる。逆に基材から遠い層として形成した場合には、透気抵抗度は低いが、耐油性能は低くなる場合がある。また、最外層として形成した場合には、前述した脂肪酸によるすべりを軽減することができる。
【0055】
上述したような性質を考慮して、脂肪酸を主成分とする塗工層またはポリビニルアルコールを主成分とする塗工層をどのような位置に形成すればよいかを耐油性シート状物の使用目的に応じて選定することができる。
【0056】
ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層に使用するポリビニルアルコールは、塗工層に添加するポリビニルアルコールと同様、完全鹸化であっても、部分鹸化であっても構わない。また、カルボキシル基、シアノール基で変性されてあっても構わないが、耐油性能の面から、カルボキシル基、シアノール基で変性されてあることが好ましい。
【0057】
また、本発明による耐油性シート状物にヒートシール性、剥離性等の特定の性能をさらに付与させる場合には、ヒートシール剤、剥離剤等、その必要な性能に応じた新たな層を追加的に設けることもできる。
【0058】
本発明では、性能を損なわない範囲で、塗工層に一般的な抄紙薬品を使用することができる。例えば塗工層に、表面サイズ剤、ドライヤー剥離剤、消泡剤、表面紙力剤、帯電防止剤等が用途によって使用できる。
【0059】
本発明で基材に塗工層を設ける方法としては、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ビルブレードコーター、ロッドおよびブレードメタリングコーター等や、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、ダイスロットコーター、ショートドウェルコーター等のコーターやディッピングマシン、各種印刷機等を使用することができるが、コスト的利点からオンマシンでの処理装置を使用するのが好ましい。
【0060】
塗工層を設ける基材に関しては、特に限定しないが、透気抵抗度の点から植物繊維を主成分としたシート状物が好ましい。基材に使用される植物繊維としては、木材パルプ、非木材パルプ、合成パルプ、合成繊維、無機繊維等を単独若しくは適宜組み合わせて使用することができる。
【0061】
製紙用パルプを使用する場合は、叩解処理の程度はカナディアンスタンダードフリーネスで100〜500mlが好ましい。叩解度が100mlより低いと、紙を製造する際に抄紙ワイヤー上での濾水性が悪くなり製造効率が著しく悪くなると同時に、紙の密度が高くなりすぎるため透気抵抗度が高くなる傾向があるので好ましくない。また、叩解度が500ml以上であると充分な耐油性能が得られなくなる場合があるので好ましくない。
【0062】
製紙用副資材としては一般的に使用されるものが適宜使用することができる。特に内添薬品としてグアーガム、脂肪酸、耐水化剤、硫酸バンド等を使用すると、紙自体の耐油性能が向上し、本発明の塗工層と組み合わせることにより、優れた耐油性能を達成できるので好ましい。
【0063】
本発明においては、所定成分の塗工層を基材に設けるとともに、さらに基材自体にもデンプンを含有させることができる。これによってシート状物の耐油性能をより一層向上させることができる。この場合におけるデンプンの含有量は、基材全体の質量に対し1〜15質量%であることが好ましい。1質量%未満であると効果が充分に発現しない場合もあり、15質量%を超えて含有させても耐油性能は向上せず、コスト的に不利になると共に、紙基材とした場合には、親水性成分であるデンプンが製紙原料中にあまり多く含まれると、抄紙工程での濾水性が悪くなり生産性が著しく低下するので好ましくない。なお、製紙原料中には、疎水化デンプンとともに、他の製紙用副資材やグアーガム、脂肪酸等の耐油性能を向上させる薬剤を併用してもよい。
【0064】
本発明における耐油性シート状物の透気抵抗度は10000秒以下であることが好ましい。10000秒を超えると、前述したとおり、食品包装材料として使用した場合、加熱した際に食品自体から発生する水蒸気によって破裂するおそれがあるので好ましくない。ここでいう透気抵抗度とはJIS P−8117で定められた、紙の空気の通過しやすさを測定した値である。
【実施例】
【0065】
[実施例1]
木材パルプとして、アスペン材から製造された広葉樹晒クラフトパルプ50質量%、針葉樹晒クラフトパルプ50質量%を使用し、ダブルディスクリファイナーでカナディアンスタンダードフリーネスによる叩解度が350mlの原料パルプスラリーを調製した。この原料パルプスラリーにエピクロルヒドリン系湿潤紙力増強剤を対パルプ質量当たり固形分濃度で0.5質量%添加し、ロジンサイズ剤を対パルプ質量当たり固形分濃度で0.5質量%添加し、硫酸アルミニウムを4質量%添加して原料スラリーを調製した。この原料スラリーを長網抄紙機により坪量42g/m2 になるようにシート化した。
【0066】
酸化デンプンおよびポリアミン系薬剤でカチオン化され、エポキシ化された脂肪酸サイズ剤(主成分がパルミチン酸、融点63〜64℃)を対酸化デンプン質量当たり固形分濃度で5質量%添加した塗工液を調製し、この塗工液による塗工層がシートの両面で3.0g/m2 になるように、上記で得られた紙基材に塗工し、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0067】
[実施例2]
酸化デンプンを、鹸化度93〜95%、重合度2000のカルボキシル変性ポリビニルアルコールに変更したこと以外は実施例1と同様にして坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0068】
[実施例3]
塗工液に、架橋剤としてポリアミドエピクロルヒドリン樹脂を酸化デンプン質量当たり固形分濃度で10質量%添加した以外は実施例1と同様にして、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0069】
[実施例4]
酸化デンプンが、鹸化度93〜95%、重合度2000のカルボキシル変性ポリビニルアルコールであること以外は実施例3と同様にして坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0070】
[実施例5]
塗工液に、鹸化度93〜95%、重合度2000のカルボキシル変性ポリビニルアルコールを、対脂肪酸サイズ剤質量当たり300質量%添加した以外は実施例3と同様にして、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0071】
[実施例6]
実施例1で得られた基材に、実施例3で得られた塗工液を、塗工層が両面で2.5g/m2 になるように塗工し、更にこの塗工層の上に、ポリアミン系薬剤でカチオン化され、エピクロルヒドリンで変性された脂肪酸サイズ剤(主成分がパルミチン酸、融点63〜64℃)のみの塗工液を、この塗工液の塗工層が両面で0.5g/m2 になるように塗布して、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0072】
[実施例7]
実施例1で得られた紙基材に、酸化デンプンを塗工層がシートの両面で2.5g/m2 になるように塗布し、更にその後、ポリアミン系薬剤でカチオン化され、エポキシ化された脂肪酸サイズ剤(主成分がパルミチン酸、融点63〜64℃)を塗工層が両面で0.5g/m2 になるように塗布して、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0073】
[実施例8]
酸化デンプンが、鹸化度93〜95%、重合度2000のカルボキシル変性ポリビニルアルコールであること以外は実施例7と同様にして坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0074】
[実施例9]
実施例1で得られた紙基材に、酸化デンプンおよび架橋剤としてポリアミドエピクロルヒドリン樹脂を、対酸化デンプン質量当たり固形分濃度で10質量%添加した塗工液を調製し、この塗工液による塗工層がシートの両面で2.5g/m2 になるように塗工し、更にその後、ポリアミン系薬剤でカチオン化され、エポキシ化された脂肪酸サイズ剤(主成分がパルミチン酸、融点63〜64℃)を塗工層が両面で0.5g/m2 になるように塗工して、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0075】
[実施例10]
実施例1で得られた基材に、実施例3で得られた塗工液(塗工液A)を両面で1.5g/m2 になるように手塗りで塗布し、更にこの塗工層の上に、鹸化度93〜95%、重合度2000の無変性のポリビニルアルコールのみの塗工液(塗工液B)を、この塗工液の塗工層が両面で1.5g/m2 になるように塗布して、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0076】
[実施例11]
塗工液Bに、架橋剤としてポリアミドエピクロルヒドリン樹脂をポリビニルアルコール質量当たり固形分濃度で10質量%添加した以外は実施例10と同様にして、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0077】
[実施例12]
塗工液Bに、ポリアミン系薬剤でカチオン化され、架橋剤としてポリアミドエピクロルヒドリン樹脂をポリビニルアルコール質量当たり固形分濃度で10質量%添加し、更にエポキシ化された脂肪酸サイズ剤(脂肪酸の主成分がパルミチン酸、融点63〜64℃)をポリビニルアルコール質量当たり固形分濃度で25質量%添加した以外は実施例10と同様にして、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0078】
[実施例13]
実施例1で得られた基材に、エポキシ化された脂肪酸サイズ剤(脂肪酸の主成分がパルミチン酸、融点63〜64℃)を、この塗工液の塗工層が両面で0.5g/m2 になるように塗工し、更にこの塗工層の上に、実施例1で得られた塗工液(塗工液A)を両面で2.5g/m2 になるように塗工して、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0079】
[実施例14]
ポリアミン系薬剤でカチオン化され、エポキシ化された脂肪酸サイズ剤に代えて、脂肪酸(主成分ブラシジン酸、融点61.5℃)を使用する以外は実施例1と同様にして、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0080】
[実施例15]
脂肪酸(主成分がブラシジン酸)に代えて、ポリアミン系薬剤でカチオン化され、エポキシ化された脂肪酸サイズ剤(主成分がブラシジン酸)を使用する以外は実施例14と同様にして、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0081】
[実施例16]
酸化デンプンに代えて、リン酸デンプンを使用する以外は実施例1と同様にして、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0082】
[実施例17]
酸化デンプンに代えて、酢酸デンプンを使用する以外は実施例1と同様にして、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0083】
[実施例18]
脂肪酸(主成分がブラシジン酸)に代えて、ポリアミン系薬剤でカチオン化され、エポキシ化された脂肪酸サイズ剤(主成分がステアリン酸、融点71.5〜72℃)を使用する以外は実施例14と同様にして、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0084】
[実施例19]
脂肪酸(主成分がブラシジン酸)に代えて、ポリアミン系薬剤でカチオン化され、エポキシ化された脂肪酸(主成分がラウリン酸、融点44℃)を使用する以外は実施例14と同様にして、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0085】
[実施例20]
脂肪酸(主成分がブラシジン酸)に代えて、ステアリン酸クロミッククロライド錯塩を使用する以外は実施例14と同様にして、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0086】
[比較例1]
実施例1で得られた紙基材に、酸化デンプンのみの塗工液を、該塗工液の塗工層が両面で3.0g/m2 になるように塗工して、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0087】
[比較例2]
実施例1で得られた紙基材に、鹸化度93〜95%、重合度2000のカルボキシル変性ポリビニルアルコールのみの塗工液を、該塗工液の塗工層が両面で3.0g/m2 になるように塗工して、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0088】
[比較例3]
塗工液に、架橋剤としてポリアミドエピクロルヒドリン樹脂を酸化デンプン質量当たり固形分濃度で10質量%添加した以外は比較例1と同様にして、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0089】
[比較例4]
塗工層が両面で25g/m2 になるように塗布されたこと以外は、実施例1と同様にして、坪量67g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0090】
[比較例5]
塗工層が両面で0.2g/m2 になるように塗布されたこと以外は、実施例1と同様にして、坪量42.2g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0091】
[比較例6]
実施例1で得られた紙基材の片面に、厚さ4μmのポリエチレンフィルムをラミネートし、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0092】
上記の実施例および比較例で得られた耐油性シート状物の性能評価結果を表1に示す。性能評価は、耐油性、透湿性、耐熱水性および破袋の有無について、下記の方法により行った。なお、耐熱水性は耐油性シートの用途によって要求されない性能であるため、参考として評価した。したがって、耐油性、透湿性、破袋の有無のすべてにおいて合格レベル以上であるものを、耐油性シート状物として合格と評価した。
【0093】
<耐油性の評価試験>
耐油性シート状物にヒマシ油0.5mlを滴下し、ヒマシ油滴下面に5g/cm2 の荷重を掛け(荷重掛けには金属板を使用)、ヒマシ油滴下部分の反対の面を目視観察し、滴下したヒマシ油が反対面まで浸透して滴下部分とほぼ同面積になるまでの時間を測定する方法で評価した。また、測定時間は最大で24時間までとし、一定時間処理後に、滴下されたヒマシ油が反対面まで浸透する度合いを目視により判断した。ヒマシ油の浸透度合いの評価基準を次の通りとし、△以上を合格とした。
○:ヒマシ油滴下12時間後、ヒマシ油滴下面の反対面へのヒマシ油の浸透はほとんど認められない。
△:ヒマシ油滴下6〜12時間の間で、ヒマシ油滴下面の反対面へのヒマシ油浸透が認められる。
×:ヒマシ油滴下6時間以内に、ヒマシ油滴下面の反対面へのヒマシ油浸透が認められる。
【0094】
<透湿性の評価試験>
沸騰水100mlをビーカーに入れ、その上から袋状にした耐油性シート状物のサンプルをかぶせて1時間放置し、袋内部の結露状態を目視で判断した。結露状態の判断基準は次の通りとし、△以上を合格とした。
◎:1時間放置後、袋内部に全く結露が見られない状態。
○:1時間放置後、袋内部に若干の結露が見られる状態。
△:1時間放置後、袋内部の全面に結露が見られるが、水滴が発生する程ではない状態。
×:1時間放置後、袋内部に結露が見られ、水滴が発生した状態。
【0095】
<耐熱水性の評価試験>
耐油性シート状物のサンプルを5cm角に切り、100mlの熱水で10分間抽出後、抽出液を蒸発させ、蒸発残渣を測定する方法で評価した。試験結果は全抽出物量として、2mg/25cm以下を○、それよりも多いものを×とした。
【0096】
<破袋の有無の試験>
一方にスポンジを入れる口を設けた8cm×14cmの耐油性シート状物の袋を作成し、この中に20mlの水を含ませた5cm×7cm×4cmの大きさのスポンジを入れて、袋の口を2回折り曲げ、中央部を1箇所セロハンテープでシールして800W出力の電子レンジに入れ、5分間加熱処理した際における袋の破袋の有無を確認した。評価基準は次の通りとし○を合格とした。
○:袋が破袋せず、セロハンテープの剥がれも確認できないレベル。
×:袋が破袋するか、あるいはセロハンテープが剥がれるレベル。
【0097】
<透気抵抗度>
JIS P−8117により透気抵抗度を測定し、透気抵抗度が10000秒以下を○、透気抵抗度が10000秒を超えるものを×とした。○を合格とした。
【0098】
表1

【0099】
表1の結果から、本発明の実施例1〜20は低い透気抵抗度で人体に安全であり、且つ優れた耐油性能および生産性に優れる耐油性シート状物であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明による耐油性シート状物は耐油性、耐グリース性に優れ、フライや天ぷら等の食用油を使用した食品の包装材料として好ましく使用できる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸を含む少なくとも1層の塗工層を基材の少なくとも片面に0.5〜20g/m設けたことを特徴とする耐油性シート状物。
【請求項2】
塗工層に架橋剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の耐油性シート状物。
【請求項3】
ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層を少なくとも1層設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の耐油性シート状物。
【請求項4】
脂肪酸を主成分とする塗工層を少なくとも1層設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の耐油性シート状物。
【請求項5】
基材に近い塗工層が請求項1または2に記載の塗工層であり、基材から遠い塗工層が脂肪酸を主成分とする塗工層である少なくとも2層の塗工層を基材の少なくとも片面に有することを特徴とする耐油性シート状物。
【請求項6】
架橋剤がエピクロルヒドリン系であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の耐油性シート状物。
【請求項7】
脂肪酸が脂肪酸サイズ剤であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の耐油性シート状物。
【請求項8】
脂肪酸がエピクロルヒドリン系の薬剤で変性されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の耐油性シート状物。
【請求項9】
透気抵抗度が10000秒以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の耐油性シート状物。


【公開番号】特開2006−219786(P2006−219786A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34320(P2005−34320)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000225049)特種製紙株式会社 (45)
【Fターム(参考)】