説明

耐油板紙及び耐油段ボール

【課題】
コルゲーターでの段ボール製造工程にて、ゴミ、埃等の付着問題とパッレト輸送時のシート崩れを起こさず、リサイクル可能な、耐油板紙及び耐油段ボールを製造する。
【解決手段】
製紙工程にて、耐油剤の浸透を防止するバリアー層(顔料塗工層)を作成する。
次に、別塗工機にて、スチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョンからなる耐油塗料を塗工し、裏面より乾燥して耐油層を形成する。この場合に、スチレン・アクリル樹脂とワックス比率を調整して、耐油層表面の最低ヒートシール温度が200℃以上であり、かつ耐油層面同士の滑り角度が13以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油、食用油含有の加工食品の包装等に使用し、使用済み後は、紙へのリサイクルが可能である耐油板紙及び耐油段ボールに関するものである。さらに詳しくは、本発明は、抄紙機以外の塗工機にて、耐油塗料を単層塗工し、乾燥させて耐油層を形成した耐油板紙及び耐油段ボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ライナーに耐油性を付与する技術としては、単層抄き内添サイズ紙の少なくとも片面にノニオン性あるいはカチオン性のポリビニルアルコール塗工層/フッ素系耐油剤の塗工層を順次塗工した耐油紙が提案されている(例えば、特許文献1)。
また、一般の段ボール原紙を基材とし、その表面にスチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョン等からなる耐油層を形成した耐油紙が提案されている(例えば、特許文献2と特許文献3)。
【0003】
しかしながら、これら提案の耐油紙は、耐油層に存在するピンホールの影響で所望の耐油効果が得られなかったり、その基材原紙(ベース原紙)が一般の段ボール用原紙であり、耐油塗料に対する浸透防止効果が少ないため、耐油塗料を塗工し、耐油層を作成する場合に、耐油剤を大量に塗工しなければならない問題、そして状況によっては2層塗工しなければならない問題があった。
【0004】
更に耐油段ボールの製造および耐油段ボールとして使用する時の問題として、耐油剤については、耐油剤の耐熱温度と滑り角度の範囲が定まっていないため、コルゲーター工程にて、段ボールシートを作成する場合に、コルゲーターの熱で、耐油層が軟化し、粘着性を有するようになり、コルゲーター周辺の埃、ゴミ、付着物を耐油層表面に粘着して、その表面が汚染して、食品用の包装箱としては、衛生上使用できなくなる問題、そして作成したシートをコルゲーター工程から段ボール製函工程に、パレットにシートを300〜500枚積んで搬送する場合に、その滑り角度が低すぎるため、パレットに積んだシートが崩れる問題、そして、内容物をケース等で包装し、輸送する場合に、内容物が定位置より移動する等の問題等が有った。
【0005】
また、一般の段ボール原紙の表面にプラスチックフィルムをラミネートし、そのラミネート面に耐油塗料を塗工すると、耐油塗料に対する浸透防止効果が高くなり、単層塗工にて所定の耐油層を得る従来技術があるが、その従来技術は、容器として使用済み後に、紙に再生する場合に、プラスチックフィルムが水溶解せず、大量の残渣となり、紙への再生工程にて、スクリーン詰り等の問題が発生し、容易にリサイクルできない問題が有った。
【0006】
【特許文献1】特開平8−209590
【特許文献2】特開2005−81662
【特許文献3】特開平9−111693
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、その基材原紙(ベース原紙)に、耐油塗料の浸透防止効果のある顔料塗工層を抄紙機での塗工にて、設けることで、耐油層の塗工量を従来技術より大幅に減少し、耐油塗料の単層塗工にて必要とする耐油性を有するようにすることである。更に、コルゲーターでの段ボール製造工程にて、ゴミ、埃等の付着問題とパッレト輸送時のシート崩れを起こさず、リサイクル可能な、耐油板紙及び耐油段ボールを製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、顔料塗工層を有する板紙、例えば、白板紙や塗工ライナーを基材原紙とし、抄紙機以外の塗工機にてスチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョンからなる耐油層を形成した耐油板紙及び耐油段ボールであり、以下の(1)〜(5)の構成を採る。
(1)表面に顔料とバインダーからなる塗工層を有する板紙を基材原紙とし、この基材原紙の塗工層側に、抄紙機以外の塗工機にて、スチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョンを主成分とする耐油塗料を塗工乾燥して耐油層を形成し、その耐油層表面の最低ヒートシール温度が200℃以上であり、かつ耐油層面と耐油層面間の滑り角度が13度以上である耐油板紙である。
(2)(1)項に記載の耐油塗料において、スチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョンの乾燥固形状態におけるワックス/スチレン・アクリル樹脂の固形分質量比で4/96未満であり、かつ、0.1/99.9以上である耐油板紙である。
(3)(2)項に記載の耐油塗料において、スチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョンの他に、粒径0.1〜1.0μmのプラスチック顔料を乾燥固形状態で1〜30質量比含有していることを特徴とする耐油板紙である。
(4)耐油塗料がロッドコーターにて単層塗工され、基材原紙の耐油層を形成させる面と反対側(裏面)から熱エネルギーを加えて乾燥して耐油層を形成する(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の耐油板紙である。
(5)段ボールを構成するライナー部の少なくとも1つに、(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の耐油板紙を使用する耐油段ボールである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、顔料塗工層を有する白板紙や塗工ライナーを基材原紙とし、抄紙機以外の塗工機にて、スチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョンからなる耐油層を形成することにより、優れた耐油性を発揮するとともに耐油板紙又は耐油段ボールとして使用済み後に、紙への再生工程にて、水分散が可能であり、紙へのリサイクルが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の基材原紙には、抄紙機にて、塗工量5〜15g/m程度の顔料塗工層を設けた板紙、例えば、白板紙又は塗工ライナーを使用する。
顔料塗工層に使用される顔料としては、その種類、配合率については特に限定はなく、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、雲母等の無機顔料を適宜選択して用いることができる。顔料は最密充填される場合、一般に、板状顔料の空隙率は、球状顔料に比べて低く、緻密な塗工層が形成される。このことから、上記顔料の中でも、特に板状顔料を用いることが好ましく、中でもカオリン、炭酸カルシウム、二酸化チタンが好ましい。
【0011】
顔料塗工層に使用されるバインダーとしては、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(変性SBRラテックス)、アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル樹脂等の合成樹脂エマルジョンラテックス、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、澱粉およびその誘導体、セルロース誘導体、カゼイン等が挙げられる。バインダーの主成分は上記合成樹脂エマルジョンラテックスであり、全バインダー中に占める合成樹脂エマルジョンラテックスの割合は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。本発明の顔料塗工層には、顔料とバインダー以外に必要に応じて、分散剤、耐水化剤、滑剤、消泡剤、防腐剤、着色剤等を適宜添加することができる。
【0012】
顔料塗工層中の顔料比率は、カオリン30〜60質量%、炭酸カルシウム35〜65質量%、酸化チタン0〜20質量%であり、顔料塗工層中におけるバインダーの配合量は、顔料100質量部に対して10〜50質量部が好ましく、10〜30質量部がより好ましい。
【0013】
顔料塗工層は、上記顔料塗工層塗料を塗工、乾燥して形成することができる。該塗料の塗工設備としては、特に限定はなく、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター、バーコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドブレードコーター、カーテンコーター等から適宜選択することができる。
【0014】
抄紙機以外で塗工する耐油塗料の主成分は、スチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョンである。
本発明において、スチレン・アクリル樹脂エマルジョンとしては、スチレン系樹脂エマルジョンとアクリル樹脂エマルジョンの混合物あるいはスチレン−アクリル系共重合体エマルジョンである。これらのエマルジョンのうちスチレン−アクリル系共重合体エマルジョンが好ましい。そして、スチレン−アクリル系共重合体エマルジョンとしては、例えばスチレン系とアクリル系のラジカル重合性モノマーをモノマー成分として用い、水媒体中で、乳化剤の存在下に乳化重合法によって得ることができる。
【0015】
スチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレンなどの炭素数が1〜4のアルキル基を有するアルキルスチレンが例示できる。
アクリル系モノマーとしては、アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アリキルエステルが例示できる。
スチレン系モノマーとアクリル系モノマーの配合比率は、10/90〜50/50モル%の範囲であることが好ましい。
さらに、スチレン・アクリル系樹脂エマルジョンの濃度は10〜60質量%、好ましくは30〜50質量%である。
【0016】
使用する乳化剤としては、特に限定しないが、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤および反応性乳化剤を使用することができる。アニオン性乳化剤としては、オレイン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステル等が挙げられる。ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。反応性乳化剤としては、種々の分子量(EO付加モル数の異なる)のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレングリコールのモノマレイン酸エステルおよびその誘導体、(メタ)アクリロイルポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル等が挙げられる。環境衛生面、特に環境ホルモン問題で好ましいものは、上記のうちで高級アルコール系誘導体の乳化剤である。
【0017】
本発明において使用されるワックスエマルジョンとしては、各種パラフィンワックス、ステアリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸アミド、ステアリン酸ビスアミド、オレイン酸アミド、パルミチン酸アミド等の脂肪酸アミド、ステアリン酸亜鉛やステアリン酸カルシウム等の脂肪酸塩、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン−プロピレン共重合体ワックス等のポリオレフィン系ワックスを挙げることができる。
【0018】
本発明で使用されるポリオレフィン系ワックスとしては、エチレン、プロピレンまたはエチレンとプロピレンの混合物をラジカル重合触媒により高温高圧下で重合したポリオレフィン系ワックスあるいはチーグラー触媒により低圧で重合したポリオレフィン系ワックス等いずれも使用できる。また、ポリオレフィン系ワックスの変性物としては、該ポリオレフィン系ワックスを空気、酸素、オゾンまたはその他の各種酸化剤を用いて部分酸化あるいは酸化分解された化合物またはエチレン、プロピレンあるいはその混合物とエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体が挙げられる。エチレン、プロピレンあるいはその混合物とエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体を構成するエチレン性不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のエチレン性モノカルボン酸またはジカルボン酸が挙げられる。また、エチレン性不飽和カルボン酸として加水分解によりカルボキシル基に誘導可能な官能基を有する不飽和モノマー、例えば、酸無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸等)、エチレン性不飽和カルボン酸のアルキルエステル((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等)、ニトリル基含有不飽和モノマー((メタ)アクリロニトリル)等を重合し、加水分解したものを使用することもできる。
【0019】
これらのうち好ましくは、ポリオレフィン系ワックスおよびその部分酸化物あるいは酸化分解物およびエチレン、プロピレンあるいはその混合物と(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸との共重合体である。更に好ましくは、ポリオレフィン系ワックスおよびその部分酸化物あるいは酸化分解物およびエチレン、プロピレンあるいはその混合物と(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸との共重合体である。特に好ましくは、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスおよびそれらの部分酸化物あるいは酸化分解物およびエチレン、プロピレンと(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸との共重合体である。
【0020】
ポリオレフィン系ワックスの変性物の塩または部分塩としては、アンモニア、アルキルアミン(モノエチルアミン、モノブチルアミン、トリエチルアミン等)、アルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)等のアミン化合物、周期律表第1族金属(リチウム、ナトリウム、カリウム等)および周期律表第2族金属(マグネシウム、カルシウム、亜鉛等)等の塩が挙げられる。これらの塩のうち好ましいものは、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛の塩である。
【0021】
本発明において、ワックスエマルジョンの平均粒子径は、3〜100μm、好ましくは10〜50μm、更に好ましくは15〜30μmの範囲にある。平均粒子径が3μmより小さいと耐油層の滑り角度が低下しすぎる。100μmより大きいと耐油層表面の離型性の低下や塗布の際にストリークの発生等の問題が生じるおそれがある。尚、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置による50%体積平均粒子径である。
【0022】
本発明のポリオレフィン系ワックスは、示差走査熱量計で測定した融点が50〜200℃、好ましくは80〜160℃の範囲にある。ポリオレフィン系ワックスまたはその変性物は、乳化分散剤を用いて水に乳化分散した水性分散液の形態で使用することが好ましい。該分散液の製造方法は、水、ポリオレフィン系ワックスまたはその変性物および乳化分散剤を反応容器に入れ、ポリオレフィン系ワックスまたはその変性物の融点以上に加熱し、撹拌により乳化分散後冷却するか、あるいはあらかじめ微粒子状に粉砕したポリオレフィン系ワックスまたはその変性物を乳化分散剤を用いてそのまま水に分散させることによって得られる。該水性分散液の乳化分散に用いられる乳化分散剤としては、通常のノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤あるいは水溶性高分子が使用できる。
ここで、ワックスエマルジョンの濃度は10〜60質量%、好ましくは30〜50質量%である。
【0023】
本発明で使用するワックスとしては、ポリエチレンワックスを使用し、その融点が105℃以上のものが好ましい。具体的には、ポリエチレンワックスとして、東邦化学工業製/ハイテックスE−4B(融点123℃)が挙げられる。ワックスの融点が、105℃以下になると、コルゲーター工程(加熱ロール等の温度=約180℃)にて、耐油層が粘着性を有するようになり、コルゲーター運転時に、周辺のゴミ、埃等を付着するため、105℃以上にするものである。
【0024】
本発明において、耐油層を形成するのに用いるスチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョンの配合比率は、ワックス/スチレン・アクリル樹脂の固形分質量比で4/96未満であり、かつ、0.1/99.9以上である。さらに好ましくは1/99未満であり、かつ、0.1/99.9以上である。
耐油層中のワックスの固形分質量比が4以上だと、耐油層の耐熱性は高まり、コルゲーター運転時の周辺のゴミ、埃等の付着に対する防止効果は高まるが、耐油層の滑り角度が低下し、シート運送時のシート崩れ、内容物包装輸送時の内容物の移動が起き易くなる。
耐油層中のワックスの固形分質量比が0.1に満たないと、耐油層の耐熱性が低く、ワックスの離型効果が低下して、コルゲーター運転時の汚染となる。ここで、耐油層用塗料の濃度は10〜60質量%、好ましくは30〜50質量%である。
【0025】
しかしながら、本発明において、段ボールシートの滑り角度を更に高める必要がある場合は、上記耐油層を形成するスチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョンの配合液に、粒径0.1〜1.0μmのプラスチック顔料を乾燥固形状態で1〜30質量比配合する。
【0026】
プラスチック顔料の比重においては、密実粒子の場合は0.9〜1.1、中空粒子の場合は0.4〜1.1とすることで、スチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョンの配合液から沈降または浮上して分離することを防止する。
そして、プラスチック顔料は、エマルジョンが乾燥した後も、耐油層内で、その粒径を保ち、凹凸にある耐油層となり、段ボールシートの滑り角度を向上させるものである。
【0027】
上記耐油塗料の塗工装置としては特に限定されず、ロッドコーター、バーコーター、ゲートロールコーター、カレンダーコーター、ブレードコーター、印刷機などを適宜使用することができるが、比較的粘度が高い塗料で広範囲の塗工量確保のためロッドコーターが好ましい。特に、巻線の大きさで塗工量が容易に変えられるグルーブドロッドコーターがより好ましい。
耐油層用塗料の塗工量は、1〜15g/mが好ましい。因みに、塗工量が1g/m未満であると耐油性が低下するおそれがある。逆に塗工量が15g/mを超えると耐油性向上効果が飽和し、経済的にも必要性に乏しい。
本発明の耐油板紙および耐油段ボールにおいて、耐油層の層数が1層であることが大きな特徴である。これは、顔料塗工層を有する基材原紙を用いているので、耐油層用塗料の浸透を効果的に防止しているものと推定される。
【0028】
ここで、耐油塗料の乾燥方式については特に限定されないが、基材原紙の耐油層が形成される側と反対側(裏面)から熱エネルギーを加えて乾燥させることが好ましい。具体的には、裏面からのみ熱風を吹きかけて基材原紙を暖めて耐油層を乾燥させること、裏面を熱板に接触させることによって乾燥させること、ヤンキードライヤーまたは円筒状のシリンダードライヤーに抱かせて乾燥することが好ましい。紫外線または赤外線を併用することもできる。これは、耐油層を熱風により耐油層表面から急激に乾燥させると耐油層表面に強固な皮膜が形成され、内部がかえって乾燥し難くなってしまうこと、更には耐油層にピンホールが発生してしまい、所望の耐油性が得られなくなるものと推定される。さらに、塗工層表面からの急激に乾燥させると、耐油層中のワックスが融解してしまい耐油層内で対流が起こり、ワックスが耐油層表面に効率よく被覆しない原因にもなる。これらのことが、従来技術での耐油層に多量のワックスを添加しなければならなかった原因の一つと推察される。
【0029】
本発明の乾燥方式によると、基材原紙の耐油層を形成する反対側の原紙(裏面)から熱エネルギーを加える。このために耐油塗料のエマルジョン中の水分は原紙から耐油層表面の方向に向かって移動し、耐油層表面から蒸発乾燥される。このために、耐油層にはピンホールもなく、均一な耐油層となる。更には、水分の移動と共に、耐油塗料の成分であるポリエチレンワックスが耐油層の表面に移動し、耐油層表面に均一にワックスがブリードアウトし、離型効果を発揮する。この離型効果により、耐油層と耐油層をヒートシールしてもブロッキングすることがなく、またコルゲーター運転時の周辺のゴミ、埃等の付着に対する防止効果も高まることになる。
また、ポリエチレンワックスの耐油層表面へのブリードアウトは、耐油層の乾燥時のほかに、乾燥後の耐油板紙になった後も生じているものと推定される。
【0030】
本発明は、耐油層の主成分であるスチレン・アクリル樹脂とワックスの質量比率を調整して、耐油層と耐油層間の最低ヒートシール温度を200℃以上とし、かつ、耐油層と耐油層間の滑り角度を13度以上とするものである。
耐油層と耐油層間の最低ヒートシール温度が高くなると、コルゲーター運転時の周辺のゴミ、埃等の付着に対する防止効果は高まるが、耐油層と耐油層間の滑り角度が低下し、シート運送時のシート崩れ、内容物包装輸送時の内容物の移動が起き易くなるため、ワックスの質量比率を0.1質量%以上、4質量%未満に制御するものである。こうすることによって、耐油層と耐油層間の滑り角度を13度以上に制御することができる。そして、耐油層と耐油層間の滑り角度が13度以上であると、耐油層と一般ライナーの滑り角度は、17度以上となり、本発明のシートをホークリフト等で輸送する場合に、シート崩れの発生を効果的に防止することができる。
【0031】
ここで、本発明の試験方法として、最低ヒートシール温度と滑り角度、耐油性試験は下記の通りである。
【0032】
[ヒートシール温度試験]
耐油層と耐油層面を重ね合わせ、ヒートシールテスター(理学工業)で2kgf/cmの荷重を30分かけ、室温まで下がった時に軽く剥がれる場合にブロッキングしていないと判定する。
ブロッキングする最低温度を最低ヒートシール温度とした。
[滑り角度]
耐油層と耐油層間の滑り角度はJIS P 8147に準じて測定した。
[耐油性試験]
段ボールシートの耐油原紙の耐油層面に、日清オイリオ/キャノーラ油をスポイトにて5〜10滴、落とし表面からの吸収状態を観察する。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に従って説明する。
<実施例1>
基材原紙(白板紙:表面に顔料塗工層あり、商品名:OKボール230g/m、王子製紙社製)に下記耐油塗料Aをロッドコーターにて単層で塗工し、基材原紙の耐油塗料Aの塗工面と反対側(裏面)から熱板を用いて乾燥し、本発明の耐油板紙を得た。ここで、固形分換算塗工量は約5g/mであった。
耐油塗料A(固形分濃度38質量%):スチレン・アクリル樹脂エマルジョン/ワックスエマルジョン(商品名:ハイテックスE−4B、東邦化学工業)=99.2/0.8(固形分質量比)
得られた耐油板紙の最低ヒートシール温度は220℃であり、耐油層と耐油層間の滑り角度は14度であった。
次に、コルゲーターにて、上記耐油板紙をシングルフェーサ(SF)側ライナーに使用し、中芯には王子板紙製OND中芯120g/m、ダブルフエーサ(DF)側ライナーには王子板紙製OFKライナー220g/mを使用して、本発明の耐油段ボールシートを得た。
【0034】
<実施例2>
水中に分散剤(商品名:アロンT−40、東亞合成社製)を有効成分で0.2質量部、水酸化ナトリウムを有効成分で0.1質量部、消泡剤(商品名:ノプコ8034L、サンノプコ社製)0.1部を添加し、コーレス分散機で攪拌しながら、顔料としてカオリン(商品名:アマゾンSD、CADAM社製)を60質量部、軽質炭酸カルシウム(TP−123−CS、奥多摩工業社製)30質量部、二酸化チタン(商品名:クロノスKA−10、チタン工業社製)10質量部をそれぞれ添加し、30分間攪拌、分散して顔料スラリーを調製した。次いで、上記顔料スラリー中にバインダーとして非アルカリ膨潤型スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:L−1117、Tg=−2℃、旭化成社製)を固形分換算で15質量部、および水を添加して仕上がり濃度45質量%の顔料塗料を調製した。
坪量220g/mのライナーの表面に、抄紙機内に設置したバーコーターにて、上記顔料塗料を10g/m塗工、乾燥した後、キャレンダーにて加圧処理して、本発明の基材原紙を得た。
次に、耐油剤の塗工方法とコルゲーターでの段ボールシート作成方法は、実施例1と同様にして本発明の耐油段ボールを得た。
【0035】
<比較例1>
基材原紙に、王子板紙製OFKライナー220g/mを使用する以外は、実施例1と同様にして耐油段ボールを得た。
【0036】
<実施例3>
耐油層となる耐油塗料のエマルジョン中のスチレン・アクリル樹脂/ワックスの固形分質量比が99.8/0.2であること以外は、実施例1と同様にして耐油段ボールを得た。
【0037】
<実施例4>
耐油塗料Aが、固形分濃度:39質量%、スチレン・アクリル樹脂エマルジョン/ワックスエマルジョン(商品名:ハイテックスE−4B、東邦化学工業)/プラスチック顔料(スチレン系密実顔料、比重1.06、粒径0.5μm)=84.3/0.7/15.0(固形分質量比)であり、得られた耐油板紙の最低ヒートシール温度は220℃であり、耐油層と耐油層間の滑り角度は22度であること以外は、実施例1と同様にして耐油段ボールを得た。
【0038】
<比較例2>
耐油層となる耐油塗料中のエマルジョン中のスチレン・アクリル樹脂/ワックスの固形分質量比が90.0/10.0であること以外は、実施例1と同様にして耐油段ボールを得た。
【0039】
<比較例3>
実施例1において、耐油塗料Aを塗工した後、耐油塗料Aの塗工面表面に熱風(140℃以上)を吹きかけて急速に乾燥したこと以外は、実施例1と同様にして耐油段ボールを得た。
【0040】
以上のように、本実施例では耐油板紙をシングルフェーサ側に使用したが、必要に応じてダブルフェーサ側にも、更には段ボールの両面にも使用することもできる。なお、貼合する段ボールのフルートは特に制限はなく、A段、B段、C段、E段のほかマイクロフルートにも使用できる。場合によっては、貼合せずに耐油板紙として各種紙器としても使用できる。
<結果>
実施例および比較例の結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

(注*1)本発明耐油性試験にて、24時間放置後に基材原紙及び耐油層に油分の浸透が無いものを○、僅かに浸透があるものを△、明らかに浸透があるものを×とする。
(注*2)コルゲーター貼合時に、耐油層にゴミ及び/又は埃の付着がないものを○、少し付着があるものを△、大きく付着があり、商品化できないものを×とする。
(注*3)段ボールシートをパレットに積み、ホークリフトで輸送する場合に、シート崩れがほとんど起きないものを○、シート崩れおよびシート上部の移動が大きいものを×とする。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、食用油、食用油含有の加工食品の包装等に使用し、使用済み後は、紙へのリサイクルが可能である耐油板紙及び耐油段ボールとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に顔料とバインダーからなる塗工層を有する板紙を基材原紙とし、この基材原紙の塗工層表面に、抄紙機以外の塗工機にて、スチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョンを主成分とする耐油塗料を塗工乾燥して耐油層を形成し、その耐油層表面の最低ヒートシール温度が200℃以上であり、かつ耐油層面と耐油層面間の滑り角度が13度以上であることを特徴とする耐油板紙。
【請求項2】
請求項1に記載の耐油塗料において、スチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョンの乾燥固形状態におけるワックス/スチレン・アクリル樹脂の固形分質量比で4/96未満であり、かつ、0.1/99.9以上であることを特徴とする耐油板紙。
【請求項3】
請求項2に記載の耐油塗料が、スチレン・アクリル樹脂エマルジョンとワックスエマルジョンの他に、粒径0.1〜1.0μmのプラスチック顔料を乾燥固形状態で1〜30質量比含有していることを特徴とする耐油板紙。
【請求項4】
耐油塗料がロッドコーターにて単層塗工され、基材原紙の耐油層を形成させる面と反対側(裏面)から熱エネルギーを加えて乾燥して耐油層を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐油板紙。
【請求項5】
段ボールを構成するライナー部の少なくとも1つに、請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐油板紙を使用することを特徴とする耐油段ボール。

【公開番号】特開2009−57676(P2009−57676A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289419(P2007−289419)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(502356517)王子チヨダコンテナー株式会社 (66)
【Fターム(参考)】