説明

耐油紙およびその製造方法

【課題】ポリビニルアルコール系樹脂耐油剤の溶解時の起泡を抑えて操業性低下を防止し、また耐油層塗料の塗工時に、塗料の起泡による操業性低下を防止し、表面欠陥の発生を抑えることによって優れた耐油性を有し、さらに安全性の高い耐油紙を提供する。
【解決手段】紙支持体の少なくとも片面に少なくとも1層の耐油層を設けた耐油紙において、前記耐油層のうち少なくとも1層中に使用される耐油剤がポリビニルアルコール系樹脂であり、且つ該耐油層中にポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーをポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、0.01〜1.0質量部を含有させる。また、前記耐油層中に含有するポリビニルアルコール系樹脂がエチレン変性ポリビニルアルコールであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動植物油等の油分の浸透を抑制する耐油紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品などの包装材料には、紙あるいは板紙が幅広く用いられている。それらの中でもチョコレートやピザ、ドーナツなどの油や油脂成分が多く含まれる食品には油が包装用紙に浸透しないように耐油性を有する紙や板紙が使用される。
食品に含まれる油類が包装用紙に浸透すると紙の表面にまで油が浸透して表面に油しみができて外観を損ねて商品価値を下げたり、印刷部分が油しみで黒くなり、文字が判読できなかったり、バーコード、QRコード等のOCR適性が低下するおそれがある。また、衣服に油が転移し汚染するなどの問題があるため、食品に接する部分に耐油性を付与した紙や板紙が使用される。
従来、耐油性を発現させるために、フッ素系耐油剤、特にパーフルオロフッ素系の耐油剤が使用されていた。しかし、パーフルオロフッ素系の化合物は加熱処理によってパーフルオロオクタン酸やパーフルオロスルホン酸を発生するため、安全性に懸念が持たれている。そのため、安全性を高めたフッ素系樹脂も各種開発されつつあるが、耐油性が不十分であったり、安全性に不安が残っているのが現状である。
【0003】
一方、非フッ素系耐油剤としてポリビニルアルコール系樹脂が使用されている。ポリビニルアルコール系樹脂は親水性樹脂であり、強固な皮膜を形成するため、油の浸透を防ぐことによって優れた耐油性が得られることが知られている。
フッ素系耐油剤は、紙中に浸透させてパルプ繊維表面に撥油性を付与することで耐油性を得ていたのに対し、ポリビニルアルコール系樹脂は塗工層皮膜によるバリアー効果により耐油性を得るものであるため、塗工時に塗工欠陥が生じると耐油性が低下してしまう問題がある。
【0004】
一般にポリビニルアルコール系樹脂は、溶解時の加熱工程中に泡立ちやすく、特に高濃度で溶解する場合には発生した泡が消え難く、タンク液面が上昇し、溶解液が溢れるおそれがあるため、溢れを防ぐために溶解量を減らす対応が必要となり、作業効率が低下してしまう。また、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする塗料は泡立ちやすく、泡が塗工面にのることにより塗工欠陥を生じたり、泡立ちが酷い場合は塗りムラを生じ、耐油性を低下させてしまうことがある。
【0005】
塗料の起泡を改善する目的で消泡剤を添加することは各種塗工紙用塗料で提案されている。例えば、インクジェット記録紙用塗料では、ポリビニルアルコール系塗料に脂肪酸エステル系、エーテル系、金属石鹸系、シリコーン系消泡剤を添加する方法(特許文献1)、ポリビニルアルコール系塗料に疎水性シリカ系消泡剤を添加する方法(特許文献2)等が挙げられる。
【0006】
これら消泡剤を添加することにより塗料の泡立ちは抑制されるものの、消泡剤自体が塗工面上で疎水性部分を形成し、耐油塗料の非塗工部分(所謂ハジキ)を発生させて耐油性を損ねたり、消泡剤自身の親油性が強い場合は油を浸透させてしまうおそれがあるため、これら消泡剤を耐油紙用塗料に適用しても満足な耐油性が得られないのが実情である。
【0007】
さらに、アセチレン系の消泡剤もしくはアセチレンジオール系の界面活性剤を耐油層に含有させて消泡性とレベリング性を両立させる技術が提案されている(特許文献3、4)。この場合においても良好な消泡効果やハジキ防止効果は得られるが、アセチレン系の消泡剤もしくはアセチレンジオール系の界面活性剤自身の親油性によって耐油性が低下してしまうため、満足な品質が得られない。
【0008】
また、多層紙の層間に耐油層を設け、その耐油層に柔軟剤としてポリエチレングリコールやそのエーテル化合物、エステル化合物を添加することが提案されている(特許文献5)。この場合も層構成によっては満足な耐油性は得られるが、表面の油しみは防止できないため、商品イメージを損なうおそれがあり、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−277877号公報
【特許文献2】特開2009−84404号公報
【特許文献3】特開2001−303475号公報
【特許文献4】特開2006−225772号公報
【特許文献5】特開2005−35216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂耐油剤の溶解時の起泡を抑えて操業性低下を防止し、また耐油層塗料の塗工時に、塗料の起泡による操業性低下を防止し、塗工欠陥の発生を抑えることによって優れた耐油性を有し、さらに高い安全性の要求される食品包装用途にも使用可能な耐油紙を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、耐油層塗料中に耐油剤としてポリビニルアルコール系樹脂を使用し、且つ特定の構造のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを含有させることにより、ポリビニルアルコール系樹脂溶解時の起泡による操業性低下を抑え、また、塗工時の塗料の起泡による操業性低下を防止し、塗工欠陥の発生を抑えることによって優れた耐油性が発現することを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は以下の各発明を包含する。
【0012】
(1)紙支持体の少なくとも片面に少なくとも1層の耐油層を設けた耐油紙において、前記耐油層のうち少なくとも1層中に使用される耐油剤がポリビニルアルコール系樹脂であり、且つ該耐油層中にポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、ポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーを0.01〜1.0質量部含有させた耐油紙。
【0013】
(2)前記ポリビニルアルコール系樹脂がエチレン変性ポリビニルアルコールである(1)に記載の耐油紙。
【0014】
(3)前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーがポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマーである(1)または(2)に記載の耐油紙。
【0015】
(4)前記ポリビニルアルコール系樹脂の溶解時において、前記ポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーを昇温前、または昇温中に添加する耐油紙の製造方法。
【0016】
(5)前記ポリビニルアルコール系樹脂を耐油剤として使用した耐油層を紙支持体または塗工層上にニップ塗工法によって形成させる(4)記載の耐油紙の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によりポリビニルアルコール系樹脂の溶解作業を高効率化し、また耐油層塗料の塗工時に、塗料の起泡による操業性低下を防止し、塗工欠陥の発生を抑えることによって、優れた耐油性を有し、さらに安全性の高い耐油紙が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において少なくとも1層の耐油層にはポリビニルアルコール系樹脂とポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを含有させることを特徴とする。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーについては各種化学構造のブロックポリマーが知られているが、本発明ではポリビニルアルコール系樹脂に対する抑泡性の点から該ブロックポリマーとしてポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーを使用する。なかでも、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマーがポリビニルアルコール系樹脂の溶解時の起泡や耐油層塗料の塗工時の起泡を効果的に抑制するので特に好ましい。具体的には、例えば東邦化学社製「ペポールB」シリーズ、第一工業製薬社製「エパン」シリーズ、ADEKA社製「プルロニック」シリーズ等が挙げられる。
【0019】
本発明において耐油層に添加されるポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーの添加量としてはポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して0.01〜1.0質量部必要であり、より好ましくは、0.05〜0.5質量部である。
ポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーの添加量が0.01質量部未満の場合、満足な消泡効果が得られない。また、1.0質量部を超える場合は、塗工面にハジキを発生させて耐油性が低下する。
【0020】
本発明において用いられるポリビニルアルコール系樹脂としては、未変性の完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコールや変性ポリビニルアルコールが挙げられ、変性ポリビニルアルコールとしては、エチレン変性ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、珪素変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、ジアセトン基変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。
なかでもエチレン変性ポリビニルアルコール(例えば、商品名:「エクセバール」シリーズ、(株)クラレ製)は耐油性が優れるため好ましい。
【0021】
本発明ではポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーはポリビニルアルコール系樹脂の溶解時において、昇温前または昇温中に添加することにより、ポリビニルアルコール溶解時の起泡を抑制でき、また加温により消泡効果が損なわれることはないため好ましい。もちろん溶解後のポリビニルアルコール溶液や塗料へ添加し、塗工時の抑泡効果を得ることもできる。
【0022】
本発明の耐油層の少なくとも1層中に使用する耐油剤は、ポリビニルアルコール系樹脂であるが、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の耐油剤も併用可能であり、また、ポリビニルアルコール系樹脂の耐油剤を用いた耐油層以外の耐油層に使用される耐油剤に関しても特に限定されない。ポリビニルアルコール系樹脂以外の耐油剤としては、例えばアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、カルボキシメチルセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、澱粉類、変性澱粉類、アミロース類、アミロペクチン類、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂とワックスの混合物、スチレン−アクリル系樹脂とワックスの混合物等が挙げられる。
【0023】
本発明の耐油層において、板紙同士が圧着する所謂ブロッキングを防止する目的で各種の無機または有機顔料を含有させることは有効な手段である。無機顔料の具体例としては、カオリン、構造性カオリン、デラミカオリン、焼成カオリン等のカオリン類、合成マイカ、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、アルミノ珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、ホワイトカーボン、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スメクタイト等の鉱物等が挙げられる。なかでもカオリンは優れた耐油性を示すため好ましい。
また、有機顔料の具体例としては、ポリイソプレン、ポリネオプレン、ポリブタジエン等のポリジエン類、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリプロピレン等のポリアルケン類、酢酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミド、メチルビニルエーテル等のビニル系モノマーの重合体や共重合体類、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂等の密実型、中空型、あるいは貫通孔型粒子等が挙げられる。
顔料成分の使用量は、耐油層全固形分中の75質量%程度までの範囲で調整される。本発明の耐油層塗料には、必要に応じて、ポリカルボン酸などの分散剤、界面活性剤、保水剤等の助剤を添加することができる。
【0024】
本発明の耐油層の塗工量は(多層の場合はその合計)0.5〜20.0g/mの範囲であることが好ましい。塗工量が0.5g/m未満の場合は、満足な耐油性能が得られない。また、20.0g/mを超える場合は、耐油性能は得られるもののコストの面で好ましくない。より好ましい範囲は1.0〜10.0g/mである。
本発明の耐油紙に用いられる紙支持体としては、特に限定するものではないが、例えば植物由来のパルプを主成分とするものとし、上質紙、中質紙、微塗工紙、塗工紙、片艶紙、晒または未晒クラフト紙(酸性紙又は中性紙)、または段ボール用、建材用、白ボ−ル用、チップボ−ル用などに用いられる板紙、白板紙などが好適である。紙支持体の坪量は特に制限はないが、包装紙用としては20g/m〜150g/m、箱等の成型容器用としては150g/m〜500g/mが好適である。
【0025】
本発明の耐油層の層構成としては、前記紙支持体の少なくとも片面に少なくとも1層の耐油層を設けるものであるが、同じ塗工量を塗工する場合、多層構成とした方が単層構成よりも耐油性は得られ易い。多層構成の場合、各層は同じ構成(組成)でもよいし、異なっていてもよい。また、本発明で使用される特定の構造を有するポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーは、少なくとも1層中にポリビニルアルコール系樹脂と共に含有させるものである。
【0026】
耐油層の塗工方法としては、一般に公知の塗工装置、例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、ブラシコーター、スライドビードコーター、ツーロールあるいはメータリングブレード方式のサイズプレスコーター、ビルブレードコーター、ショートドウェルコーター、ゲートロールコーター、キャレンダーによるニップコーター等が適宜用いられる。
耐油層の塗工はオンマシンコーティングがコストの面で好ましい。特に抄紙パートの後半部に位置するキャレンダー部でのニップ塗工では、平滑化ロールの段数に応じて多段塗工ができるため、少ない塗工量で高い耐油性が得られ易く、好ましい実施態様である。
【0027】
本発明の耐油紙は耐油層形成後、必要に応じて平滑化処理を行うことができる。平滑化処理は通常のスーパーキャレンダー、グロスキャレンダー、ソフトキャレンダー等の平滑化処理装置を用いて、オンマシン又はオフマシンで行われる。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中の「部」及び「%」は特に断わらない限り、「質量部」及び「質量%」を示す。
【0029】
<実施例1>
[耐油剤の溶解]
水90.5質量部にエチレン変性ポリビニルアルコール(商品名:「エクセバールHR3010」、クラレ社製 含水率約5%)9.5質量部、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックプリマー(商品名:「ペポールB−181」、東邦化学工業社製)0.009質量部を添加し、撹拌しながら95℃まで昇温、1時間保持したのち常温まで冷却し、濃度9%のエチレン変性ポリビニルアルコール水溶液を得た。なお、昇温過程、温度保持中とも起泡は全く観察されなかった。
【0030】
[エチレン変性ポリビニルアルコール水溶液の起泡性テスト]
上記[耐油剤の溶解]で得られた9%エチレン変性ポリビニルアルコール水溶液を200mlのデスカップに50ml入れ、高剪断撹拌機(商品名:「TKホモディスパfモデル」、インペラー直径:30mm、特殊機化社製)を用いて、1000rpmで1分間撹拌後の液比重を測定して、塗料の起泡性を評価した。
【0031】
[耐油紙の製造]
坪量350g/mの塗工板紙原紙の抄造パート後のマシンキャレンダーにて上記[耐油剤の溶解]で得られた9%エチレン変性ポリビニルアルコール水溶液を塗工板紙原紙の片面に11.1ml/m(固形で約1.0g/m)塗工した後乾燥して、耐油紙を得た。
【0032】
<実施例2>
実施例1の[耐油紙の製造]において、濃度9%エチレン変性ポリビニルアルコール水溶液を塗工板紙原紙の片面に2段塗工(1段目:11.1ml/m(固形で約1.0g/m)、2段目:8.9ml/m(固形で約0.8g/m))した後乾燥した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0033】
<実施例3>
実施例1の[耐油紙の製造]において、濃度9%エチレン変性ポリビニルアルコール水溶液を塗工板紙原紙の両面に各1段塗工(表裏とも11.1ml/m(固形で約1.0g/m))した後乾燥した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0034】
<実施例4>
実施例1の[耐油紙の製造]において、濃度9%エチレン変性ポリビニルアルコール水溶液を塗工板紙原紙の片面に1段塗工(11.1ml/m(固形で約1.0g/m))した後、さらにその上に下記耐油層2をバーコーターにて乾燥後の塗工量が5.0g/mとなるように塗工後乾燥させた以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0035】
[耐油層2の調製]
水42質量部にカオリン(商品名:「ウルトラホワイト90」、BASFジャパン社製)62.5質量部を加えて撹拌し、60%濃度のカオリン分散液を得た。このものにさらに50%濃度のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:「OJ−2000H」、JSR社製)25質量部、40%アクリル系耐油剤(商品名:「ジョンクリルPDX−7326」、BASFジャパン社製)62.5質量部、ジオレイン酸ポリエチレングリコール(重合度:8)0.1質量部、さらに調整水40.7質量部を加えて撹拌し、耐油層2塗料を得た。
【0036】
<実施例5>
実施例1の[耐油紙の製造]において、濃度9%エチレン変性ポリビニルアルコール水溶液を塗工板紙原紙の片面に1段塗工(11.1ml/m(固形で約1.0g/m))した後、さらにその上に下記耐油層3をバーコーターにて乾燥後の塗工量が5.0g/mとなるように塗工後乾燥させた以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0037】
[耐油層3の調製]
水57質量部にカオリン(商品名:「ウルトラホワイト90」、BASFジャパン社製)85質量部を加えて撹拌し、60%濃度のカオリン分散液を得た。別途溶解した7%濃度のエチレン変性ポリビニルアルコール(商品名:「エクセバールHR3010」、クラレ社製)214.3質量部中に前記カオリン分散液を撹拌しながら投入し混合した。このものにさらにジオレイン酸ポリエチレングリコール(重合度:8)0.1質量部、さらに調整水144質量部を加えて撹拌し、耐油層3塗料を得た。
【0038】
<実施例6>
実施例1の[耐油剤の溶解]において、エチレン変性ポリビニルアルコール(商品名:「エクセバールHR3010」、クラレ社製 含水率約5%)9.5質量部の代わりに珪素変性ポリビニルアルコール(商品名:「R−1130」、クラレ社製、含水率約5%)9.5質量部を使用した以外は実施例1と同様にして耐油剤の溶解を行った。また、この水溶液の起泡テスト、この水溶液を用いて耐油層の形成を実施例1と同様にして行った。
【0039】
<実施例7>
実施例1の[耐油剤の溶解]において、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー(商品名:「ペポールB−181」、東邦化学工業社製)0.009質量部の代わりにポリオキシエチレン(10モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー(商品名:「ペポールB−182」、東邦化学工業社製)0.009質量部を添加して溶解を行い、この水溶液の起泡テスト、この水溶液を用いて耐油層の形成を実施例1と同様にして行った。
【0040】
<比較例1>
実施例1の[耐油剤の溶解]において、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー(商品名:「ペポールB−181」、東邦化学工業社製)を添加しなかった以外は実施例1と同様にして耐油剤の溶解を行ったところ、昇温中に起泡による液面上昇が起こり、タンクから溢れそうになるため、溶解量を制限しなければならなかった。また、エチレン変性ポリビニルアルコール水溶液の起泡性テストも実施例1と同様にして行った。さらに、坪量350g/mの塗工板紙原紙の抄造パート後のマシンキャレンダーにて上記[耐油剤の溶解]で得られた濃度9%エチレン変性ポリビニルアルコール水溶液(ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー未添加)を塗工板紙原紙の片面に11.1ml/m(固形で約1.0g/m)塗工した後乾燥して、耐油紙を得た。塗工中のエチレン変性ポリビニルアルコール水溶液の起泡が激しく、カラーパンから溢れる状態であった。
【0041】
<比較例2>
実施例1の[耐油剤の溶解]において、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー(商品名:「ペポールB−181」、東邦化学工業社製)の添加量を0.0005質量部に減量し、溶解を行ったが、消泡効果は十分でなく、液面上昇が見られた。また、この水溶液の起泡テスト、この水溶液を用いて耐油層の形成を実施例1と同様にして行った。塗工中の消泡効果も十分ではなかった。
【0042】
<比較例3>
実施例1の[耐油剤の溶解]において、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー(商品名:「ペポールB−181」、東邦化学工業社製)の添加量を5.0質量部に増量し、溶解を行い、この水溶液の起泡テスト、この水溶液を用いて耐油層の形成を実施例1と同様にして行った。
各実施例、比較例で得られた耐油紙を以下の方法で評価、結果を表1に示す。
【0043】
[評価方法]
起泡性
起泡性テストで得られた塗料の容積をメスシリンダーで測定し、塗料質量(g)/塗料容積(cm)で液比重を算出して、起泡性を評価した。また、溶解時および塗工時の起泡状態を下記の基準で評価した。
<ポリビニルアルコール系樹脂溶解時の起泡状態>
○:溶解時、起泡が見られない。
△:起泡が若干見られ、冷却後も液面に泡が残る。
×:昇温中に激しく起泡し、溶解液がタンクから溢れそうになる。
<耐油層塗料塗工中の起泡状態>
○:塗工中のカラーパンに起泡が見られない。
△:カラーパンの耐油層塗料が泡で白濁する。流動性もやや悪い。
×:カラーパン中の耐油層塗料の起泡が激しく、塗料がカラーパンから溢れる。
【0044】
2)耐油性
TAPPI UM−557に準拠して、キット液を用いて耐油性を評価した。
以上の評価結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から明らかなように本発明のポリビニルアルコール系樹脂の耐油剤にポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーを特定量配合することにより耐油層塗料の起泡を抑制し、しかも耐油性に優れた包装用紙が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る耐油層塗料は起泡しにくく、塗料調製時、または塗工時において安定操業性と優れた耐油性が得られるものである。また、本発明で用いたポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーは安全性の高い化合物であるため、それを用いた耐油紙は食品用途にも使用可能であり、実用上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙支持体の少なくとも片面に少なくとも1層の耐油層を設けた耐油紙において、前記耐油層のうち少なくとも1層中に使用される耐油剤がポリビニルアルコール系樹脂であり、且つ該耐油層中にポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、ポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーを0.01〜1.0質量部含有させたことを特徴とする耐油紙。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系樹脂がエチレン変性ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の耐油紙。
【請求項3】
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーがポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマーである請求項1または請求項2に記載の耐油紙。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール系樹脂の溶解時において、前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを昇温前、または昇温中に添加することを特徴とする耐油紙の製造方法。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール系樹脂を耐油剤として使用した耐油層を紙支持体または塗工層上にニップ塗工法によって形成させることを特徴とする請求項4に記載の耐油紙の製造方法。

【公開番号】特開2011−184812(P2011−184812A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49007(P2010−49007)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(000191320)王子特殊紙株式会社 (79)
【Fターム(参考)】