説明

耐湿熱性導電性複合繊維及び耐湿熱性導電性布帛

【課題】 十分な導電性能を有しており、滅菌処理等の湿熱処理後も導電性能及び強度の低下が少なく、クリーンルーム用や医療用の作業用ユニフォーム等の衣料用途や、カーテンなどのインテリア用途及び資材用途に好適に用いられる導電性複合繊維を提供する。
【解決手段】 ポリエステル系樹脂からなる非導電性成分と、導電性粒子を含有するポリエステル系樹脂からなる導電性成分とで構成され、導電性成分の少なくとも一部が繊維表面に露出している形状を呈している複合繊維であって、電気抵抗値が1×10Ω〜1×10Ω/cmであり、湿熱処理(121℃で25時間処理)後の導電性能低下率が20以下であり、湿熱処理(121℃で25時間処理)後の強度保持率が75%以上である耐湿熱性導電性複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂の導電性成分と非導電性成分とからなる導電性複合繊維であって、湿熱処理後の電気抵抗値の低下や強度の低下が少なく、制電作業着、ユニフォームなどの衣料用途や、カーテンなどのインテリア用途及び産業資材用途として好適に用いることができる耐湿熱性導電性複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等の疎水性ポリマーからなる繊維は、機械特性、耐薬品性、耐候性等の多くの長所を有しており、衣料のみならず産業資材用途にも広く用いられている。しかしこれらの繊維は摩擦等による静電気の発生が著しいため、空気中の粉塵を吸引して美観を低下させたり、人体への電撃を与えて不快感を与えたり、さらにはスパークによる電子機器への障害や、引火性物質への引火爆発等の問題を引き起こす場合があり、これらの問題を解決するために導電性を付与するための多くの研究がなされてきた。
【0003】
特許文献1には、導電性カーボンブラックや金属粉等の導電性粒子を含有する導電性成分を非導電性ポリマーで包み込んだ芯鞘型の複合繊維が記載されている。このような芯鞘型の複合繊維であれば、導電性粒子は繊維の内部のみに存在するので、操業時のトラブルは生じにくく、操業性よく得ることが可能であった。しかしながら、導電性粒子が繊維内部のみに存在するため、導電性能は不十分であった。
【0004】
一方、特許文献2には、導電性粒子を含有する導電性成分を鞘部に配した芯鞘型の導電性複合繊維が記載されている。このような導電性複合繊維は、特許文献1に記載の繊維と比較すると、操業時のトラブルは生じやすいものであったが、導電性能はかなり満足できるものであった。
【0005】
また、近年、導電性繊維は、クリーンルームでの作業用ユニフォームや医療用のユニフォーム等に用いられている。このような用途においては、オートクレーブにより滅菌処理が繰り返し施される。上記したような鞘部に導電性成分を配したような導電性複合繊維であると、滅菌処理を繰り返し行うことで導電性繊維にクラックが生じ、さらには導電性成分の欠落が生じるという問題があり、滅菌処理後の導電性能の低下、繊維の劣化による強度の低下が生じていた。
【0006】
以上のように、オートクレーブによる湿熱処理を施す用途において、繊維表面のクラックや導電性成分の欠落が生じにくく、導電性能の低下、繊維の劣化による強度低下が少なく、長期間使用しても十分な導電性能を有している導電性繊維は未だ開発されていない。
【特許文献1】特開平09−143821号公報
【特許文献2】WO2002/075030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するもので、十分な導電性能を有しており、滅菌処理等の湿熱処理後も導電性能及び強度の低下が少なく、クリーンルーム用や医療用の作業用ユニフォーム等の衣料用途や、カーテンなどのインテリア用途及び資材用途に好適に用いることができる耐湿熱性導電性複合繊維及び耐湿熱性導電性布帛を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は次の(1)、(2)を要旨とするものである。
【0009】
(1)ポリエステル系樹脂からなる非導電性成分と、導電性粒子を含有するポリエステル系樹脂からなる導電性成分とで構成され、導電性成分の少なくとも一部が繊維表面に露出している形状を呈している導電性複合繊維であって、電気抵抗値が1×10Ω〜1×10Ω/cmであり、湿熱処理(121℃で25時間処理)後の導電性能低下率が20以下であり、湿熱処理(121℃で25時間処理)後の強度保持率が75%以上であることを特徴とする耐湿熱性導電性複合繊維。
【0010】
(2)(1)記載の耐湿熱性導電性複合繊維を少なくとも一部に用いた布帛であって、表面漏洩抵抗値が1×10Ω〜1×10であることを特徴とする耐湿熱性導電性布帛。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の導電性複合繊維(以下、耐湿熱性導電性複合繊維を略称する)は、ポリエステル系樹脂からなる非導電性成分と、導電性粒子を含有するポリエステル系樹脂からなる導電性成分とで構成されるものである。本発明の導電性複合繊維の複合形態について図面を用いて説明する。図1〜3は、本発明の導電性複合繊維の繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面形状を示すものである。
【0013】
本発明の導電性複合繊維は、導電性成分の少なくとも一部が繊維表面に露出しているものである。
【0014】
図1に示すように、導電性成分が繊維表面の全体を覆っているもの、つまり、鞘部が導電性成分、芯部が非導電性成分の芯鞘形状のものや、図2に示すような、導電性成分の一部が繊維表面に露出している形状のものが挙げられる。繰り返し湿熱処理を施した場合に、導電性成分にクラックの発生や脱落が生じにくい形状としては、繊維表面の一部を導電性成分が覆っている図2や図3の形状のものが好ましい。
【0015】
導電性成分の一部が繊維表面に露出し、繊維表面の一部を導電性成分が覆っている形状のものとしては、図2(a)〜(d)に示すように、略三角形状の導電性成分が非導電性成分中に存在しており、導電性成分の一部(略三角形状の一辺)が繊維表面に露出しているようなものが挙げられる。導電性成分の形状は特に限定されるものではなく、四角形や半円形状のものであってもよい。
【0016】
図2(a)は、導電性成分の数が1個で繊維表面に露出している箇所が1箇所であるもの、(b)は導電性成分の数が2個で繊維表面に露出している箇所が2箇所、(c)は導電性成分の数が3個で繊維表面に露出している箇所が3箇所、(d)は導電性成分の数が4個で繊維表面に露出している箇所が4箇所であるものの例である。
【0017】
導電性成分の繊維表面に露出している箇所は2〜20箇所が好ましく、中でも3〜8箇所であることが好ましい。導電性成分の繊維表面に露出している箇所が1箇所であると、繊維表面に露出している部分が湿熱処理後、着用等による負荷を受けた時にクラックが生じたり、破損、欠落すると、導電性能が不十分となり、当初の導電性能を維持できなくなる場合がある。一方、導電性成分の繊維表面に露出している箇所が20箇所を超える場合は、繊維表面への露出部分が多くなり、湿熱処理後のクラックや欠落が生じやすくなる。このため、導電性成分の繊維表面への露出の割合は、円周の3/4以下、中でも1/2以下とすることが好ましく、より好ましくは1/3〜1/10である。円周の1/10未満となると、導電性能が不十分となりやすく、好ましくない。
【0018】
さらに、本発明の導電性複合繊維の形状として、導電性成分の繊維表面に露出している部分が2箇所以上あり、かつ導電性成分が繊維中心部付近を連通する形状を呈していることが好ましい。その一例としては、図3(a)〜(c)に示すようなものが挙げられる。図3(a)は、導電性成分が繊維の中心部付近を通って一直線状に配置されているものであり、繊維表面に露出している部分が2箇所のものである。(b)は、導電性成分が繊維の中心部付近を通って十字形状に配置されており、繊維表面に露出している部分が4箇所のものである。(c)は、導電性成分が繊維の中心部付近を通って三方に分かれた形状に配置されており、繊維表面に露出している部分が3箇所のものである。
【0019】
このように、導電性成分が繊維中心部付近を連通し、かつ繊維表面に2箇所以上露出していることにより、繊維表面に多数の導電性の接点が存在し、かつそれらの接点間が中心部を介して導通することにより電気の流れが多方向で可能となるので、導電性に優れた繊維とすることができる。このため、中でも導電性成分の繊維表面に露出している部分が3箇所以上とすることが好ましい。ただし、露出している部分の箇所が増えると、繊維表面への露出部分が多くなり、滅菌処理後のクラックや欠落が生じやすくなるため、中でも3〜8箇所とすることが好ましい。また、導電性成分の繊維表面への露出の割合は、前記と同様の理由で、円周の3/4以下、中でも1/2以下とすることが好ましく、より好ましくは1/3〜1/10である。
【0020】
また、本発明の複合繊維においては、非導電性成分と導電性成分の複合比率は、非導電性成分が60〜90質量%、導電性成分が40〜10質量%とすることが好ましく、より好ましくは非導電性成分が70〜85質量%、導電性成分が30〜15質量%である。導電性成分の複合比率が10質量%未満では、導電性性能が十分でない場合があり、一方、導電性成分の複合比率が40質量%を超えると、強伸度特性等の糸質性能が劣ったり、操業時のトラブルや滅菌処理後のクラックが生じやすくなる。
【0021】
そして、本発明の導電性複合繊維は、導電性能として、電気抵抗値が1×10Ω/cm〜1×10Ω/cmであることが好ましく、中でも1×10Ω/cm〜1×10Ω/cmであることが好ましい。複合繊維の電気抵抗値が1×10Ω/cmを超えると、導電性能が不十分となり、得られる布帛を通常の環境下で使用した場合に、布帛の帯電を防止する効果が小さくなる。一方、1×10Ω/cm未満にしようとすると、導電性粒子をポリマーに多量に含有させることが必要となり、紡糸、延伸時にトラブルが生じやすくなる。
【0022】
なお、本発明における導電性複合繊維の電気抵抗値は、AATCC76法に準じて以下のようにして測定するものである。導電性複合繊維(マルチフィラメントもしくは単糸のいずれでもよい)を長さ方向に15cm程度にカットして、10サンプルを採取する。このサンプルの両端の表面にケラチンクリームを塗布し、この表面部分を金属端子に接続し、試料測定長10cmにて、50Vの直流電流を印加して電流値を測定し、下記式で電気抵抗値を算出する。算出した10個のサンプルの電気抵抗値の相加平均値とする。
電気抵抗値=E/(I×L)
E:電圧(V) I:測定電流(A) L:測定長(cm)
【0023】
次に、本発明の導電性複合繊維の湿熱処理(121℃で25時間処理)後の性能について説明する。湿熱処理後の導電性能低下率が20以下であり、強度保持率が75%以上である。上記したような繊維の形状とし、さらには、導電性複合繊維のカルボキシル末端基濃度を低いものとすることで、滅菌処理等の湿気処理を繰り返し行っても、その前後での導電性能の低下及び強度の低下がほとんどない繊維とすることが可能である。
【0024】
具体的には、導電性複合繊維のカルボキシル末端基濃度は、25geq/t以下であることが好ましく、中でも20geq/t以下、さらには18geq/t以下であることが好ましい。カルボキシル末端基濃度が25geq/tを超えて高くなると、耐湿熱性に劣るものとなり、導電性能低下率や強度保持率を満足しないものとなりやすい。
【0025】
導電性複合繊維のカルボキシル末端基濃度を25geq/t以下とするには、非導電性成分と導電性成分のうち少なくとも一方のカルボキシル末端基濃度を25geq/t以下とすることが好ましい。中でも導電性成分のカルボキシル末端基濃度を25geq/t以下とすることで、繰り返し湿熱処理を施しても導電性成分にクラックが生じにくくなり、導電性粒子の欠落や脱落も生じにくくなり、従来の繊維にはない耐湿熱性能を有する導電性繊維とすることができる。
【0026】
また、図1に示すように導電性成分が鞘部となる芯鞘形状のものや、図2に示すような導電性成分の繊維表面への露出が一部のものでも、露出の割合が多いものでは、繊維表面の導電性成分が湿熱処理によりダメージを受けやすいので、導電性成分と非導電性成分の両者のカルボキシル末端基濃度を25geq/t以下とすることが好ましい。
【0027】
本発明における導電性複合繊維のカルボキシル末端基濃度は、導電性複合繊維 0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解し、この溶液にクロロホルム10mlを加えた後、1/10規定の水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定して求めるものである。
【0028】
導電性複合繊維のカルボキシル末端基濃度を低くするには、紡糸時に末端封鎖剤を添加する方法、導電性成分や非導電性成分の固相重合や溶融重合での重合条件(触媒量、温度等)を調整変更する方法等が挙げられる。末端封鎖剤の具体例としては、N,N'-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド)などのカルボジイミド化合物、フェニルグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物などが挙げられる。
【0029】
通常、病院等で使用される手術着や白衣、食品工場のユニフォーム等では高圧の蒸気による滅菌処理が定期的に(繰り返し)施される。その時の蒸気処理、すなわち湿熱処理温度は121℃〜135℃で、処理時間としては15分〜5分程度が滅菌に必要とされる時間として一般的である。
【0030】
121℃での湿熱処理(1回)に要する時間は通常15分程度であることから、本発明においては、100回分の湿熱処理に相当する25時間処理を行うことで処理前後の導電性能と強度の低下の程度をみる指標とするものである。
【0031】
まず、本発明の導電性複合繊維における湿熱処理(121℃で25時間処理)後の導電性能低下率は以下のようにして算出するものである。
導電性能低下率=(Y/X)
X:導電性複合繊維の湿熱処理前の電気抵抗値(Ω/cm)
Y:導電性複合繊維の湿熱処理後の電気抵抗値(Ω/cm)
【0032】
本発明の導電性複合繊維は、導電性能低下率が20以下であり、中でも10以下であることが好ましい。通常、導電性能低下率が100を超えると、滅菌処理等の湿熱処理により電気抵抗値が大きく低下する繊維となり、処理前には導電性能を有していたとしても、処理後には導電性能を有していないものとなり、耐久性に劣り、各用途において十分に導電性能が発揮できないものとなる。20以下であることにより、ほとんど導電性能の低下がなく、非常に耐久性に優れたものとなる。
【0033】
さらに、本発明の導電性複合繊維における湿滅処理後の強度保持率は、繊維の引張強度をJIS−L1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に従い、定速伸張形の試験機を用い、つかみ間隔20cmで測定する。次に、湿熱処理を121℃、25時間行った後、再度同様の方法で繊維の強度を求める。そして、以下のようにして算出するものである。
強度保持率(%)=(S/M)×100
S:導電性複合繊維の湿熱処理後の引張強度(cN/dtex)
M:導電性複合繊維の湿熱処理前の引張強度(cN/dtex)
【0034】
強度保持率は75%以上、中でも80%以上であることが好ましい。常法で得られた繊維では、強度保持率は50%以下になってしまう。この場合、滅菌処理を繰り返すうちに、強度の低下が大きくなり、着用による負荷でダメージを受けて、繊維が切断したり、品位が悪くなると同時に導電性能も低下する。強度保持率が75%以上であることで、湿熱処理後もほとんど強度の低下のない優れた性能のものが得られる。
【0035】
次に、本発明の導電性複合繊維を構成する各成分について説明する。まず、導電性成分について説明する。
【0036】
導電性成分のポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等を用いることができ、これらを単独あるいはブレンドや共重合したものも用いることができる。
【0037】
中でも耐湿熱性に優れているため、PETを用いることが好ましく、エチレンテレフタレート繰り返し単位が85モル%以上のPETが好ましい。エチレンテレフタレート繰り返し単位が85モル%未満となると、耐湿熱性能が低下しやすくなるため好ましくない。
【0038】
そして、PETはPBTに比べると、導電性粒子の練り込み性が低くなるが、特定の共重合成分を少量含有させることによって、導電性粒子の含有量を増加させることができ、導電性能の向上を図ることができるため、15モル%以下であれば、共重合成分を含有していてもよい。
【0039】
このような共重合成分としては、イソフタル酸やアジピン酸が好ましく、どちらか一方、もしくは両者を共重合成分として、共重合させることが好ましい。これにより、導電性成分と導電性粒子との相溶性(表面濡れ性)を向上させ、導電性粒子の混入量を増加させることができ、優れた導電性能を有するものとすることができる。さらにはポリマーの柔軟性が向上し、紡糸延伸工程をスムーズに行うことができ、長さ方向に均一な導電性能を有するものとすることができる。
【0040】
また、導電性成分に含有される導電性粒子としては、カーボンブラックや金属粉末(銀、ニッケル、銅、鉄、錫あるいはこれらの合金等)、硫化銅、沃化銅、硫化亜鉛、硫化カドミウム等の金属化合物が挙げられる。また、酸化錫に酸化アンチモンを少量添加したり、酸化亜鉛に酸化アルミニウムを少量添加して導電性粒子としたものも挙げられる。
【0041】
さらには、酸化チタンの表面に酸化錫をコーティングし、酸化アンチモンを混合焼成し、導電性粒子としたものも用いることができる。中でも好ましいものは、導電性繊維の性能向上として汎用的に使用され、他の金属粒子と比較し、ポリマー流動性を阻害しにくいカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)である。
【0042】
また、導電性粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、平均粒径が1μm以下のものとすることが好ましい。1μmを超えると、導電性粒子のポリマー中への分散性が悪くなりやすく、導電性能や強伸度特性の低下した繊維となりやすい。
【0043】
導電性成分における導電性粒子の含有量については、導電性粒子の種類、導電性能、粒子径、粒子の連鎖形成能及び用いるポリマーの特質によって適宣選択すればよいが、導電性成分中の5〜40質量%とすることが好ましく、さらに好ましくは10〜30質量%である。含有量が5質量%未満では、導電性能が不十分になる場合があり、また、40質量%を超えると、導電性粒子のポリマー中への分散が難しくなるので好ましくない。
【0044】
さらに、導電性成分には、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて、ワックス類、ポリアルキレンオキシド類、各種界面活性剤、有機電解質等の分散剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、着色剤、顔料、流動性改善剤、その他の添加剤を加えることもできる。
【0045】
次に、非導電性成分のポリエステル系樹脂は、溶融紡糸可能なあらゆるポリエステルポリマーが適用可能であるが、上記したように耐湿熱性の面から、PETを用いることが好ましく、中でもエチレンテレフタレート繰り返し単位が85モル%以上のPETが好ましい。エチレンテレフタレート繰り返し単位が85モル%未満となると、耐湿熱性能が低下しやすくなるため好ましくない。
【0046】
また、非導電性成分のポリエステル系樹脂にも、効果を損なわない範囲であれば目的に応じて、ワックス類、ポリアルキレンオキシド類、各種界面活性剤、有機電解質等の分散剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、着色剤、顔料、流動性改善剤、その他の添加剤を加えることもできる。
【0047】
本発明の導電性複合繊維は、複数本からなるマルチフィラメントとしても、単糸のみで用いるモノフィラメントとしてもよく、また、長繊維でも短繊維としてもよい。
【0048】
また、本発明の導電性複合繊維は、他の繊維と合撚、混繊した加工糸としてもよい。他の繊維としては特に限定するものではなく、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン等の合繊繊維やレーヨン等の再生繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維が挙げられ、中でも導電性複合繊維と同じポリエステル繊維が湿熱処理の耐久性から好ましい。
【0049】
次に、本発明の導電性複合繊維の製造方法について説明する。まず、導電性成分を得る方法としては、ポリマーの重合段階で導電性粒子を添加する方法や、導電性粒子を予め高濃度に添加したポリマーを作成しておき、重合を行ったポリマーに添加して溶融混練する方法があるが、用いるポリマーによっては重合段階で導電性粒子を添加することが困難なものもあるので、後者の方法で溶融混練する方法が好ましい。そして、非導電性成分や導電性成分のカルボキシル末端基濃度を低下させるには、上記したように、重合条件を調整する方法や末端封鎖剤を添加する方法等でカルボキシル末端基濃度を低下させたポリエステル成分とする。このようにして得られた導電性成分と非導電性成分とを、乾燥等の処理を行ってチップ化し、通常の二成分系の複合溶融紡糸装置を用いて複合紡糸する。このとき、非導電性成分や導電性成分の形状や配置位置については、紡糸口金形状を種々変更することにより、所望の断面形状の複合繊維とする。そして、得られた糸条を延伸、熱処理することによって、本発明の導電性複合繊維を得ることができる。
【0050】
次に、本発明の導電性布帛について説明する。本発明の導電性布帛は、上記したような本発明の導電性複合繊維を少なくとも一部に用いた布帛であって、布帛の電気抵抗値を示す表面漏洩抵抗値が1×10Ω〜1×10のものであり、中でも1×10Ω〜1×10であることが好ましい。
【0051】
本発明の導電性布帛に占める本発明の導電性複合繊維の割合は0.1〜5.0質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、十分な導電性能を布帛に付与することが困難となりやすい。一方、5.0質量%を超えると、布帛としての風合い等に問題がなければよいが、導電性能は十分に付与されているため、コスト的に不利となりやすい。
【0052】
本発明の導電性布帛の種類としては、織編物や不織布、各種のシート等が挙げられる。
【0053】
織物の場合、経糸と緯糸のどちらか一方もしくは両方に本発明の導電性複合繊維を用い、織物中に導電性複合繊維を10mm以下、より好ましくは5mm以下の間隔で配置することが好ましい。織組織としては、特に限定されるものではなく、平織、綾織、絡み織等を挙げることができる。
【0054】
編物の場合は、丸編、緯編、経編のいずれでもよく、丸編、緯編の場合は、10mm以下、より好ましくは5mm以下の間隔で本発明の導電性複合繊維をボーダー状に挿入することが好ましい。経編の場合も本発明の導電性複合繊維を10mm以下、より好ましくは5mm以下の間隔でストライプ状に挿入することが好ましい。
【0055】
不織布の場合は、本発明の導電性複合繊維を短繊維状にして、他の繊維と混綿して不織布にしたり、他の繊維から得られた不織布中に本発明の導電性複合繊維を挿入することが好ましい。
【0056】
そして、本発明の導電性布帛は、布帛の電気抵抗値を示す表面漏洩抵抗値が1×10Ω〜1×10のものであり、本発明の導電性複合繊維を少なくとも一部に使用しているため、湿熱処理(121℃で25時間処理)後の表面漏洩抵抗値も1×10Ω〜1×10、中でも1×10Ω〜1×10であることが好ましい。なお、表面漏洩抵抗値は、JIS L 1094 「参考 表面漏えい抵抗測定法・クリンギング測定法」に従い測定するものである。
【0057】
本発明の導電性布帛の表面漏洩抵抗値が1×10Ω/cmを超えると、導電性能が不十分となり、得られる布帛を通常の環境下で使用した場合に、布帛の帯電を防止する効果がに乏しいものとなる。一方、1×10Ω/cm未満にしようとすると、導電性複合繊維中に導電性粒子をポリマーに多量に含有させることが必要となり、前記したように繊維物性に悪影響を及ぼすばかりか、紡糸、延伸時にトラブルが生じやすくなる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の導電性複合繊維は、電気抵抗値が低く、十分な導電性能と強度を有しており、滅菌処理等の湿熱処理後も導電性能及び強度の低下が少ない。このため、湿熱処理を繰り返し行うような各種の用途において好適に使用することが可能となる。
【0059】
そして、本発明の導電性布帛は本発明の導電性複合繊維を一部に用いたものであるため、優れた耐湿熱性能と糸質性能を有するものとなる。このため、本発明の導電性複合繊維及び導電性織編物は、制電効果を求められ、かつ滅菌処理等の湿熱処理を繰り返し行う必要のある、クリーンルーム用や医療用の作業用ユニフォーム等の衣料用途や、カーテンなどのインテリア用途及び資材用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0060】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各種の値の測定及び評価は以下のように行った。
1.導電性複合繊維の電気抵抗値、導電性能低下率、強度保持率
前記した方法に従って、測定、算出した。なお、得られた導電性複合繊維を用いて筒編地を作成した後に、界面活性剤(日華化学製 サンモールFL)を1g/lの濃度で使用し、80℃、30分間精練処理を行った後に、130℃、30分間熱水で処理を行う。この後、湿熱処理として、該筒編地に高圧蒸気滅菌器(平山製作所製 HV−50)を用いて121℃で25時間連続して処理を行った。筒編地を作成する前の導電性複合繊維の電気抵抗値を湿熱処理前の電気抵抗値とし、湿熱処理後の筒編地を解編して取り出した導電性複合繊維の電気抵抗値を湿熱処理後の電気抵抗値とした。
2.導電性布帛の表面漏洩抵抗値(湿熱処理前後)
得られた布帛を用い、前記した方法に従って表面漏洩抵抗値を測定した。なお、1.と同様の高圧蒸気滅菌器を用いて湿熱処理を121℃で25時間連続して行った後、同様にして湿熱処理後の表面漏洩抵抗値を測定した。
3.カルボキシル末端基濃度
導電性成分、非導電性成分及び導電性複合繊維のカルボキシル末端基濃度は、前記の方法で測定した。
【0061】
実施例1
導電性成分として、極限粘度(フェノールと四塩化エタンとの等質量混合液を溶媒とし、温度20℃で測定した)0.67、カルボキシル末端基濃度が30geq/tのPET(実質的にエチレンテレフタレート繰り返し単位が100モル%)に、導電性粒子として、平均粒径0.2 μm のカーボンブラック(導電性成分中の25質量%となる量)を溶融混練したものを用い、常法によりチップ化して導電性成分とした。また非導電性成分としては、テレフタル酸とエチレングリコールを重縮合反応させてプレポリマーペレットとし、さらに、220℃で20時間固相重合反応を行って得た、極限粘度0.64 、カルボキシル末端基濃度が9geq/t のPET(実質的にエチレンテレフタレート繰り返し単位が100モル%)を使用し、同様に常法によりチップ化して非導電性成分とした。
次に、単糸の横断面形状が図2(c)となるように設計された紡糸口金を用いて、導電性成分と非導電性成分のチップを供給し、通常の複合紡糸装置より紡糸温度295℃、導電性成分の複合比率20質量%となるように紡糸し、冷却、オイリングしながら3000m/分の速度で巻き取り、43dtex/2fの未延伸糸を得た。そして、この未延伸糸を90℃の熱ローラを介して1.53倍に延伸し、さらに、190℃のヒートプレートで熱処理を行った後に巻き取り、図2(c)の断面形状を呈する28dtex/2の導電性複合繊維を得た。
【0062】
実施例2
導電性成分として、PETに代えて、極限粘度0.67、カルボキシル末端基濃度が24geq/tのPBTを用い、導電性粒子として、平均粒径0.2 μm のカーボンブラック(導電性成分中の30質量%となる量)を溶融混練し、常法によりチップ化して導電性成分とした以外は、実施例1と同様にして導電性複合繊維を得た。
【0063】
実施例3
単糸の横断面形状が図3(c)となるように設計された紡糸口金を用いた以外は実施例1と同様にして行い、図3(c)の断面形状を呈する28dtex/2の導電性複合繊維を得た。
【0064】
実施例4
導電性成分として、PETに代えて、共重合成分としてイソフタル酸を5モル%共重合したPET(極限粘度0.67、カルボキシル末端基濃度が25geq/t)を使用し、導電性粒子として、平均粒径0.2 μm のカーボンブラック(導電性成分中の30質量%となる量)を溶融混練し、常法によりチップ化して導電性成分とした以外は、実施例3と同様にして導電性複合繊維を得た。
【0065】
実施例5
非導電性成分として、テレフタル酸とエチレングリコールを重縮合反応させたプレポリマーペレットに、220℃で16時間固相重合反応を行って得られた、極限粘度0.64、カルボキシル末端基濃度が12geq/tのPET(実質的にエチレンテレフタレート繰り返し単位が100モル%)を使用した以外は、実施例1と同様にして導電性複合繊維を得た。
【0066】
実施例6
導電性成分として、テレフタル酸とエチレングリコールを重縮合反応させてプレポリマーペレットとし、さらに、220℃で24時間固相重合反応を行って得た、極限粘度0.67、カルボキシル末端基濃度が7geq/tのPET(実質的にエチレンテレフタレート繰り返し単位が100モル%)に、導電性粒子として、平均粒径0.2 μm のカーボンブラック(導電性成分中の25質量%となる量)を溶融混練したものを用い、常法によりチップ化して導電性成分とした以外は、実施例1と同様にして導電性複合繊維を得た。
【0067】
比較例1
単糸の横断面形状が図4に示すような芯鞘型となるように設計された紡糸口金を用い、導電性成分を芯部、非導電性成分を鞘部に配し、非導電性成分として、固相重合時間を変更(220℃、16時間)して得た、極限粘度0.64、カルボキシル末端基濃度12geq/tのPETを使用した以外は実施例1と同様に行って、導電性複合繊維を得た。
【0068】
比較例2
非導電性成分として、極限粘度0.64、カルボキシル末端基濃度37geq/tのPETを用いた以外は、実施例1と同様にして導電性複合繊維を得た。
【0069】
比較例3
非導電性成分として、比較例2と同様の極限粘度0.64、カルボキシル末端基濃度37geq/tのPETを用いた以外は、実施例3と同様にして導電性複合繊維を得た。
【0070】
実施例1〜6、比較例1〜3で得られた導電性複合繊維の各種の値の測定結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1〜6の導電性複合繊維は、湿熱処理前後の電気抵抗値ともに低く、導電性能低下率も低く、導電性能に優れていた。また、湿熱処理前後の強度ともに高く、強度保持率も高く、糸質性能にも優れていた。
【0072】
一方、比較例1の導電性複合繊維は、芯鞘形状で芯部にのみ導電性成分が配されていたため、導電性能が不十分なものであった。また、比較例2、3の導電性複合繊維は、非導電性成分及び導電性成分のカルボキシル末端基濃度が高く、導電性複合繊維のカルボキシル末端基濃度も高かったため、耐湿熱性能を有しておらず、湿熱処理後の電気抵抗値が高くなり、また強度が低くなり、導電性能低下率が高く、強度保持率の低いものとなった。
【0073】
実施例7
通常のPETからなる84dtex/36fのマルチフィラメント(糸条B)と実施例1で得られた導電性複合繊維を用い、合撚機にてS方向に300T/Mの合撚を施して糸条Aとした。糸条Aと糸条Bを1:29の比率で経糸を準備した。緯糸には経糸と同様の糸条Aと糸条Bと用いて、ウォータージェットルームにて製織し、糸条Aと糸条Bとの比率が1:19の平織物を得た。このときの生機密度は経糸150本/2.54cm、緯糸95本/cmであった。
さらに、上記の平織物に公知の方法で精錬、プレセット、染色を行い、導電性繊維を含む糸条Aが経、緯糸ともに約5mm間隔に1本ずつ配列するように仕上げセットを行って、導電性織物(目付100g/cm)を製造した。このときの仕上げ密度は、経糸165本/2.54cm、緯糸は105本/2.54cmであった。
【0074】
比較例4
実施例7で用いた導電性複合繊維(実施例1で得られたもの)を比較例2で得られた導電性複合繊維に変更した以外は、実施例7と同様にして導電性織物を得た。
【0075】
実施例8
28ゲージトリコット編機を用い、マーキーゼット組織にてフロント部にナイロン6糸(繊度78dtex/24f)を用い、バック部にはナイロン6糸(繊度44dtex/12f)を5本と実施例3で得た導電性複合繊維を用いて実施例7と同様にして得た合撚糸1本を用い、計6本の繰り返し配列となるように編成した。次に、公知の方法で精錬、染色加工を行い、未処理の導電性編地を得た。このときの生機密度は、50コース/2.54cm、30ウェール/2.54cmであった。
【0076】
比較例5
実施例8で用いた導電性複合繊維(実施例3で得られたもの)を比較例3で得られた導電性複合繊維に変更した以外は、実施例8と同様にして導電性編物を得た。
【0077】
実施例7〜8、比較例4〜5で得られた導電性布帛の測定及び評価結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

表2から明らかなように、実施例7〜8の布帛は、本発明の導電性複合繊維を一部に用いたものであったため、湿熱処理前及び湿熱処理後の表面漏洩抵抗値ともに十分な値のものであり、十分な導電性能と耐湿熱性能を有するものであった。
【0079】
一方、比較例4〜5の布帛は湿熱処理後の導電性能が不十分な導電性複合繊維を一部に用いたものであったため、湿熱処理後の表面漏洩抵抗値が高く、十分な導電性能を有していないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の導電性複合繊維の一実施態様を示す、繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面模式図である。
【図2】本発明の導電性複合繊維の他の実施態様を示す、繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面模式図である。
【図3】本発明の導電性複合繊維の他の実施態様を示す、繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面模式図である。
【図4】従来の導電性複合繊維の一実施態様を示す、繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂からなる非導電性成分と、導電性粒子を含有するポリエステル系樹脂からなる導電性成分とで構成され、導電性成分の少なくとも一部が繊維表面に露出している形状を呈している導電性複合繊維であって、電気抵抗値が1×10Ω〜1×10Ω/cmであり、湿熱処理(121℃で25時間処理)後の導電性能低下率が20以下であり、湿熱処理(121℃で25時間処理)後の強度保持率が75%以上であることを特徴とする耐湿熱性導電性複合繊維。
【請求項2】
導電性複合繊維のカルボキシル末端基濃度が25geq/t以下である請求項1記載の耐湿熱性導電性複合繊維。
【請求項3】
非導電性成分と導電性成分の少なくとも一方が、カルボキシル末端基濃度が25geq/t以下である請求項1又は2記載の耐湿熱性導電性複合繊維。
【請求項4】
非導電性成分と導電性成分の少なくとも一方が、エチレンテレフタレート繰り返し単位が85モル%以上のポリエチレンテレフタレートである請求項1〜3いずれかに記載の耐湿熱性導電性複合繊維。
【請求項5】
導電性成分の繊維表面に露出している箇所が2〜20箇所である請求項1〜4いずれかに記載の耐湿熱性導電性複合繊維。
【請求項6】
導電性成分は、繊維表面に露出している箇所が2箇所以上あり、かつ繊維中心部付近を連通する形状を呈している請求項1〜5いずれかに記載の耐湿熱性導電性複合繊維。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の耐湿熱性導電性複合繊維を少なくとも一部に用いた布帛であって、表面漏洩抵抗値が1×10Ω〜1×10であることを特徴とする耐湿熱性導電性布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−92200(P2007−92200A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280636(P2005−280636)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】