説明

耐火スリーブ用固定具および耐火スリーブの固定方法

【課題】 耐火スリーブの貫通する貫通孔に耐火スリーブを確実・強固にそして作業性良く固定するための固定技術を提供することにある。
【解決手段】 耐火スリーブ用固定具10は、当該固定具を耐火スリーブ70の外周面に取り付けるための取付部20と、取付部20へ回動自在に設けられるとともに、貫通孔の外縁を両側から挟むように挟持する挟持部30とを備える。挟持部30は略U字形に形成されたものであるとともに、取手部32を備える。また、挟持部30の先端の当接面には内側へ突起する突起部33を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、耐火スリーブの貫通する貫通孔に耐火スリーブを固定するための固定技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「耐火スリーブ」とは、鉄骨構造の貫通孔へ挿通する金属管に耐火材を被覆したものである。従来、鉄骨構造の貫通孔へ挿通するスリーブ材(ダクト)を固定する固定技術に関する先行技術としては、次の特許文献1及び特許文献2がある。
特許文献1は、耐火スリーブ1において、挿通空間を形成するスリーブ管3と、スリーブ管3の外周に装着されスリーブ管3の外周と梁開口11との間隙を塞ぐ円環形状の耐火材5と、耐火材5の外周に設けられ耐火材5の保護を兼ねて梁開口11に当接される円環形状の保護カバー9と、保護カバー9の外周面に円周方向で複数個設けられ起立自在な爪部19を有することで爪部19により梁開口11の縁部を両面側から挟持する支持金具13とを設けるものである(符号は特許文献1のもの)。
【0003】
また、特許文献2は、ダクト挿通用スリーブ(耐火スリーブ)20において、ダクトが挿通するスリーブ本体と、このスリーブ本体の外周の周方向に所定間隔をあけて固定され、貫通孔の縁部との係合によりスリーブ本体を前記貫通孔内に保持する複数のスペーサ26とを備えており、スペーサの支持板部30の先端部には、貫通孔近くの両側面を挟み込む一対の爪32a,32bが形成されているものである(符号は特許文献2のもの)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−111913号公報
【特許文献2】特開平9−242214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の支持金具13の場合、耐火スリーブ1の梁21への取り付けは、梁21の一方の面に当接する爪部19aのみを予め起立させておき、この状態で耐火スリーブ1を梁開口11の一方側から挿入し、梁21の一方の面に爪部19aを当接させた後、他方の爪部19bを起立させ、梁開口11の縁部を両側面から挟持することによって行われる(同明細書[0009])。
【0006】
しかし、特許文献1の支持金具13を用いた取り付け方法では、耐火スリーブ1を挿入する側と、爪部19bを起立させる側とが異なる。このため、作業者が1名の場合は、耐火スリーブ1の挿入作業後に場所を移動して爪部19bの起立作業を行う必要があった。また、作業者の場所移動を無くすためには、耐火スリーブ1の挿入作業側と爪部19bの起立作業側にそれぞれ1名ずつ作業者が必要であった。従って、作業負担或いは作業コストがかかっていた。
【0007】
これに対して、特許文献2に記載のスペーサ26の場合、ダクト挿通用スリーブ(耐火スリーブ)20を挿入する側からスペーサ26を貫通孔12近くの両側面に挟み込ませることは可能である。しかし、スペーサ26は、ダクト挿通用スリーブ(耐火スリーブ)20の貫通孔12への挿入後に、一対の支持板部30を逆ハV字形に折り曲げて貫通孔近くの両側面を挟み込む必要がある。
【0008】
但し、この折り曲げ方式では、ダクト挿通用スリーブ(耐火スリーブ)20を貫通孔12へ「固定する」とまでは言えず、「支持する」程度のものである。この点は、特許文献1も同様であり(梁21の一方の面に爪部19aを当接させた後、他方の爪部19bを起立させる)、耐火スリーブ1を梁開口(貫通孔)11へ「固定する」とまでは言えず、「支持する」程度のものである。
【0009】
そこで、本願発明者は、耐火スリーブの貫通する貫通孔に耐火スリーブを確実・強固にそして作業性良く固定するための固定技術を提供すべく、本願発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1の発明は、耐火スリーブの貫通する貫通孔に耐火スリーブを固定するための固定具であって、当該固定具を耐火スリーブの外周面に取り付けるための取付部と、取付部へ回動自在に設けられるとともに、貫通孔の外縁を両側から挟むように挟持する挟持部と、を備えたことを特徴とする耐火スリーブ用固定具である。
第2の発明は、挟持部が略U字形に形成されたものであることを特徴とする同耐火スリーブ用固定具である。
第3の発明は、挟持部に指の掛け止めできる取手部を備えたことを特徴とする同耐火スリーブ用固定具である。
第4の発明は、貫通孔の外縁と当接する挟持部の当接面に突起部を備えたことを特徴とする同耐火スリーブ用固定具である。
第5の発明は、挟持部に反耐火スリーブ側へ延伸する延伸部材を備えたことを特徴とする同耐火スリーブ用固定具である。
第6の発明は、耐火スリーブの貫通する貫通孔に耐火スリーブを固定するための固定方法であって、耐火スリーブを固定するための耐火スリーブ用固定具を耐火スリーブの外周面に取り付けるための取付工程と、耐火スリーブ用固定具に回動自在に設けられて貫通孔の外縁を両側から挟むように挟持する略U字形の挟持部を横倒させた状態で貫通孔へ耐火スリーブを貫通させる貫通工程と、耐火スリーブの貫通孔への挿入側から横倒した挟持部を起立させて貫通孔の外縁を両側から挟むように挟持する固定工程と、を備えたことを特徴とする耐火スリーブの固定方法である。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)耐火スリーブを貫通孔へ貫通する場合には挟持部を倒すことでスムーズに貫通でき、貫通孔への貫通後に挟持部を起立させることで挟持部が貫通孔の外縁を両側から挟むように挟持でき、耐火スリーブを貫通孔へ容易且つ確実に固定できる。
(2)略U字形の挟持部を構成する一対の挟持片のいずれか一方を操作(回動)することで、他方の挟持片もこれに連動して同じように作動(回動)するので、挟持片のいずれか一方のみの操作(回動)で耐火スリーブの固定作業を確実に行える。
(3)挟持部に取手部を備えることで挟持部の回動を容易且つ確実に行えるようになる。
(4)挟持部に突起部を備えることで突起部が返しの役割を果たし、挟持部が貫通孔の外縁と十分に係止することで、耐火スリーブを貫通孔へ確実に固定できるようになる。
(5)挟持部に延伸部材を備えたことで、挟持部が貫通孔の外縁を挟持するための高さ調整が可能となる。
(6)耐火スリーブの貫通孔への挿入側から横倒した挟持部を起立させることができるので、耐火スリーブの作業性(施工性)が著しく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本願発明の第1実施形態を示す説明図(固定具)。
【図2】本願発明の第1実施形態を示す説明図(固定具)。
【図3】本願発明の第1実施形態を示す説明図(固定方法)。
【図4】本願発明の第1実施形態を示す説明図(使用状態)。
【図5】本願発明の第1実施形態を示す説明図(固定具)。
【図6】本願発明の第2実施形態を示す説明図(固定具)。
【図7】本願発明の第2実施形態を示す説明図(固定具)。
【図8】本願発明の第2実施形態を示す説明図(使用状態)。
【図9】本願発明の第3実施形態を示す説明図(使用状態)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本願発明の第1実施形態を示す説明図であり、耐火スリーブ用固定具(以下「固定具」)を示す斜視図である。図1に示す固定具10は、当該固定具10を耐火スリーブの外周面に取り付けるための取付部20と、取付部20へ回動自在に設けられるとともに、貫通孔の外縁を両側から挟むように挟持する挟持部30を備える。取付部20は、耐火スリーブの外周面に取り付けるために取付孔22を備えた取付部本体21,21からなり、左右一対の取付部本体21,21を連結するように挟持部30が回動自在に設けられている。
【0014】
挟持部30は、略U字形に形成されたものであり、その底部が取付部本体21,21と回動自在に連結されている。挟持部30の略U次形は、先端側に向かって幅狭となるテーパー形状となっている。また、貫通孔の外縁と当接することになる先端の当接面には内側へ突起する突起部33を備えている。この突起部33が「返し」の役割を果たし、挟持部30が貫通孔の外縁と十分に係止することで、耐火スリーブを貫通孔へ確実に固定できるようになる。
【0015】
その他に挟持部30は、左右の挟持片31,31に一対の取手部32,32を備える。取手部32は指の掛け止めができて、挟持部30の回動を容易且つ確実にする。この時、挟持部30は略U字形をしているので、一方の取手部32で操作すれば挟持部30を回動できる(両方の取手部32,32を操作する必要がない)。また、挟持片31は、貫通孔外縁との固定に利用できるように穿孔34を形成している。
【0016】
図2は、図1と同様に固定具10を示す斜視図である。固定具10は、耐火スリーブに取り付けられていない状態であれば、360度回動できる。耐火スリーブに取り付けられている状態であっても、180度可動できる。図2は、固定具10を図1の状態から90度後方へ回動させて、横倒した状態である。図示省略するが、固定具10を図1の状態から90度前方へ回動させることもできる。図2のように固定具10を横倒することで、貫通孔へ耐火スリーブを挿通することが可能になる。
【0017】
図3は、図1及び図2の固定具を用いた耐火スリーブの固定方法を示すものである。
(a)耐火スリーブ70(例:長さ20〜80cmの亜鉛めっき鋼板製スパイラルダクトに耐火被覆材を巻き付けて固定ピンで固定したもの)を鉄骨梁80等の貫通孔81へ固定するために、まず、耐火スリーブ70の外周面に固定具10を取り付けて、固定具10を横倒状態(図2等)にする。
(b)固定具10を横倒状態にしたまま、貫通孔81へ耐火スリーブ70を貫通させる。この時、固定具10が耐火スリーブ70の外周面から多少突起していても、耐火スリーブ70を構成する耐火被覆材に柔軟性があるので、固定具10が耐火スリーブ70側に沈み込み、耐火スリーブ70の貫通を阻害することにはならない。
(c)耐火スリーブ70の貫通孔81への挿入側から横倒した挟持部30を起立させて貫通孔81の外縁を両側から挟むように挟持する。耐火スリーブ70の挿入側から挟持部30の回動(起立)作業を行えるので、耐火スリーブ70の挿入者がそのまま挟持部30の回動(起立)作業を行えて極めて効率的である。
【0018】
図4は、図1及び図2の固定具の使用状態、すなわち図3(C)の状態を示す断面図である。図4では、スパイラルダクトなどのスリーブ材71に耐火被覆材72を巻き付けた耐火スリーブ70の外周面に固定具10が取り付けられており、挟持部30が貫通孔81の外縁を両側から挟むように挟持している。なお、挟持片31先端の当接面には内側へ突起する突起部33を備えている。この突起部33が「返し」の役割を果たし、挟持部30と貫通孔の外縁とを十分に係止することで、耐火スリーブ70を貫通孔81へ確実に固定できるようになる。
【0019】
図5は、第1実施形態におけるその他の固定具を示す説明図(正面図)である。
図5に示す固定具11は、挟持部30の内側にあって挟持片31,31に摺動して上方(反耐火スリーブ側)へ可動する延伸部材35を備える。この延伸部材35はいわば高さ調整部材であって、これを備えることによって、挟持部30が貫通孔81の外縁を挟み込むために必要な高さ(長さ)を自在に調整できる。なお、その他の点について固定具11は図1及び図2に示す固定具10と同じであるので、その説明を省略する。
【0020】
図6は、本願発明の第2実施形態を示す説明図であり、固定具を示す斜視図である。
図6に示す固定具40は、第1実施形態の固定具と異なり、厚鋼板等に形成された貫通孔へ挿通した耐火スリーブを固定するための固定具であるため、厚鋼板等を挟み込むことができるような構造となっている。すなわち、取付部50の構造は第1実施形態の固定具10と同じであるが、挟持部60の構造が第1実施形態の固定具10と異なっている。
【0021】
図6に示す固定具40の挟持部60は、厚鋼板等を挟み込むために幅広に形成されているとともに、左右の挟持片61,61はストレートで平行に形成されている。第1実施形態の固定具10のようにテーパー状に形成されていないのは、厚鋼板等を挟み込む場合に左右の挟持片61,61は、ネジ等の留具を用いて固定することができるからである。また、挟持部60と厚鋼板とをネジ等で固定する場合には、留具を取手として使用することができるので、第1実施形態のような取手部を備えなくてもよい。
【0022】
図7は、図6と同様に固定具40を示す斜視図である。固定具40も、耐火スリーブに取り付けられていない状態であれば、360度回動できる。耐火スリーブに取り付けられている状態であっても、180度可動できる。図6は、固定具40を図6の状態から90度後方へ回動させて、横倒した状態である。図示省略するが、固定具40を図6の状態から90度前方へ回動させることもできる。図7のように固定具40を横倒することで、貫通孔へ耐火スリーブを挿通することが可能になる。
【0023】
図8は、図6及び図7の固定具の使用状態を示す断面図である。図8では、スパイラルダクトなどのスリーブ材71に耐火被覆材72を巻き付けた耐火スリーブ70の外周面に固定具40が取り付けられており、挟持部60の挟持片61,61が貫通孔81の外縁に当接しその両側から挟むように挟持している。
【0024】
図9は、本願発明の第3実施形態を示す説明図である。
図9左図は、耐火スリーブ70の端面を示しており、耐火スリーブ70の端部にはL字形の固定具90を設けている。
図9右図は、耐火スリーブ70の端部に耐火被覆材92を取り付ける状態を示している。耐火スリーブ70の端部にはL字形の固定具90が設けられているので、この固定具90に対して固定ピン91を溶接するように打ち込めば、耐火スリーブ70へ耐火被覆材92を確実且つ容易に取り付けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本願発明は、耐火スリーブの貫通する貫通孔に耐火スリーブを固定するための固定技術として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0026】
10,11 固定具(第1実施形態)
20 取付部
21 取付部本体
22 取付孔
30 挟持部
31 挟持片
32 取手部
33 突起部
34 穿孔
35 延伸部材
40 固定具(第2実施形態)
50 取付部
60 挟持部
61 挟持片
70 耐火スリーブ
71 スリーブ材
80 鉄骨梁
81 貫通孔
90 固定具
91 固定ピン
92 耐火被覆材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火スリーブの貫通する貫通孔に耐火スリーブを固定するための固定具であって、
当該固定具を耐火スリーブの外周面に取り付けるための取付部と、
取付部へ回動自在に設けられるとともに、貫通孔の外縁を両側から挟むように挟持する挟持部と、
を備えたことを特徴とする耐火スリーブ用固定具。
【請求項2】
挟持部が略U字形に形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の耐火スリーブ用固定具。
【請求項3】
挟持部に指の掛け止めできる取手部を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の耐火スリーブ用固定具。
【請求項4】
貫通孔の外縁と当接する挟持部の当接面に突起部を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の耐火スリーブ用固定具。
【請求項5】
挟持部に反耐火スリーブ側へ延伸する延伸部材を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の耐火スリーブ用固定具。
【請求項6】
耐火スリーブの貫通する貫通孔に耐火スリーブを固定するための固定方法であって、
耐火スリーブを固定するための耐火スリーブ用固定具を耐火スリーブの外周面に取り付けるための取付工程と、
耐火スリーブ用固定具に回動自在に設けられて貫通孔の外縁を両側から挟むように挟持する略U字形の挟持部を横倒させた状態で貫通孔へ耐火スリーブを貫通させる貫通工程と、
耐火スリーブの貫通孔への挿入側から横倒した挟持部を起立させて貫通孔の外縁を両側から挟むように挟持する固定工程と、
を備えたことを特徴とする耐火スリーブの固定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate