説明

耐火壁のライニング層の除去装置及び除去工法

【課題】 粉塵の発生を抑制しながら低騒音で効率的且つ迅速にライニング層を除去できる耐火壁のライニング層の除去装置及び除去工法を提供する。
【解決手段】 金属製ブラケット1の左右には剥離用シリンダのケース又はロッドの端部と係合するシリンダ係合凹所2を形成し、金属製ブラケット1の背面には小ライニング層に突設されるアンカーボルトを掛止するボルト掛止溝3を形成し、金属製ブラケット1の内部には装着治具を介してアンカーボルトの打設用シリンダを脱着自在に装着するシリンダ装着凹所4を形成し、金属製ブラケット1の上面に金属製ブラケット1を上方から吊下する荷役具と連結するアイボルト5を螺設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火炉や煙突の筒身等の内壁面に被覆された所定厚さの耐火壁のライニング層の除去装置及び除去工法に関し、詳しくは環境問題に配慮した粉塵の発生を抑制しながら低騒音で安全で効率的且つ迅速に除去できるようにする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、劣化したライニング層の補修は、地上に設置されたウインチにより火炉又は煙突内をワイヤロープで吊昇降するゴンドラ等の作業台に作業者が搭乗し、ホイールカッターやエアブレーカー等の装置を用いてライニング層を破砕除去し、除去後新たなライニングを吹き付ける手法で行なわれている。
【0003】
ところで、前記方法では作業者に大きな振動が伝わるとともに大きな騒音が発生し、同騒音が外周囲へ漏れ出て騒音公害となっていた。また、破砕除去されるライニング層は大小様々な形状で作業者の周囲に飛散して大量の粉塵を発生させ、危険で且つ作業環境が極めて悪いものであった。
【0004】
そこで、前記作業環境を改善するための煙突ライニング層の補修装置が開発されている(例えば特許文献1参照)。この補修装置は、ゴンドラ上を煙突内周に沿って旋回する装置台に回転カッターを設け、装置台を旋回させながら回転カッターでライニング層を矩形状に区画するように格子状の切溝を形成し、ライニング層を容易に解体できるようにしたものである。本発明は、前記補修装置により切溝で区画されたライニング層をさらに効率良く迅速に除去できる装置及び工法を開発したものである。
【特許文献1】特開平6−235512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解消し、粉塵の発生を抑制しながら低騒音で安全且つ迅速にライニング層を除去できる環境問題に配慮した耐火壁のライニング層の除去装置及び除去工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) 耐火壁の耐火ライニング層を切溝により複数の小ライニング層に区画し、近接する2つの小ライニイング層面にそれぞれ取付けられた金属製ブラケット間を離間させて剥離させる耐火壁のライニング層の除去装置であって、
前記小ライニング層面にアンカ−ボルトにより固定される金属製ブラケットと、該金属製ブラケット間を離間させる剥離用シリンダとを備えると共に、
該金属製ブラケットには、剥離用シリンダのケ−ス又は端部と係合する係合部と、上方から吊下する荷役具と連結する連結部と、前記アンカ−ボルトを小ライニング層に打込む打設用シリンダを脱着自在に装着する装着部とを備えたことを特徴とする耐火壁のライニング層の除去装置
2) 前記金属製ブラケットと剥離用シリンダを、略同じ高さに吊下する荷役具を備えたことを特徴とする請求項1記載の耐火壁のライニング層の除去装置
3) 前記金属製ブラケットの小ライニング層との接触面を、前記小ライニング層の内面と略同曲率の曲面に形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の耐火壁のライニング層の除去装置
4) 前記剥離用シリンダと打設用シリンダとを共用すると共に、前記打設用シリンダに金属製ブラケットの装着部に係合する装着治具と前記アンカ−ボルトの先端を打込む打設部とを着脱可能に取付けたことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の耐火壁のライニング層の除去装置
5) 耐火壁の内壁面に被覆された耐火ライニング層を所定深さの切溝により区画して複数の小ライニング層を形成する工程と、
近接する小ライニング層面に穿孔を形成してアンカ−ボルトを固定する工程と、該アンカ−ボルトにより金属製ブラケットを固定した後、金属製ブラケット間に剥離用シリンダを固定する工程と、
該金属製ブラケットに打設用シリンダを固定して、前記アンカ−ボルトを小ライニング層に打込む工程とを備えたことを特徴とする耐火壁のライニング層の除去工法
6) 前記金属製ブラケットを上方から吊下する荷役具により吊下げ、該金属製ブラケットと共に剥離された小ライニング層を吊下げて除去することを特徴とする請求項5記載の耐火壁のライニング層の除去工法
にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、区画した小ライニング層に固定した金属製ブラケットを剥離用シリンダで押圧してずらしながら剥離させるから、従来のホイールカッターやエアブレーカー等の打撃力で破砕除去する方法と比較して振動及び騒音が著しく低減されるとともに所定面積を区画単位に確実に除去でき、しかもライニング層の小片の飛散が少ないから安全で粉塵もほとんど発生せず、低騒音で効率的且つ迅速に補修作業が行える。
【0008】
また、本発明の金属製ブラケットは左右に剥離用シリンダのケース及びロッドの端部を係合する係合部を有しているから、押圧時に剥離用シリンダが金属製ブラケットからずれることがなく安全に剥離作業できる。また、打設用シリンダを装着治具を介して脱着自在に装着する装着部を有しているから、アンカーボルトを小ライニング層に正確且つ低騒音で埋設して金属製ブラケットを固定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の金属製ブラケットは隣接する2つの小ライニング層面にそれぞれ固定するか、又は1つおきに固定する方法などがあり、小ライニング層の寸法やシリンダの大きさ,ストロークに応じて選択される。シリンダは剥離用と打設用に別々に用意してもよいし、共用できる構造のものを用いてもよい。また、油圧・空圧・電動などがあり、任意に選ばれる。
【0010】
小ライニング層の剥離方法としては、剥離除去して開放されたライニング層の無い領域の方向へ小ライニング層をずらして剥離するか、又は小ライニング層を切溝の溝幅分ずらして剥離する方法がある。切溝の溝幅は4〜10mmが一般的であるが、4〜5mmの溝幅があれば確実に剥離可能である。剥離方向は上下左右いずれかの方向の他、その方向を途中で変更して作業していくパターンとがある。切溝は格子状に区画するように形成する場合と、上下又は左右の一方向にのみ複数区画するように形成する場合とがある。また、最初及び最後の剥離など小ライニング層のずらしが困難な場合は従来通り手作業で行うことがある。
【0011】
耐火壁が煙突の筒身の場合は、煙突内にゴンドラ等の作業台を設け、同作業台上にシリンダを伸縮作動させるシリンダ作動機器を設け、作業台上で剥離作業する。作業台の外周端上方には周方向のガイドレールを架設し、同ガイドレールに荷役具を走行可能に吊設し、荷役具で金属製ブラケット及び剥離用シリンダを略同じ高さに吊下すると、金属製ブラケットや剥離用シリンダの設置作業を容易にするとともに、剥離の衝撃による器具及び剥離した小ライニング層の落下や飛散を防止できて安全である。以下、本発明の実施例を図面に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1〜10に示す実施例は、煙突の耐火ライニング層の剥離に本発明を適用した例である。図1は実施例の金属製ブラケットの正面側の斜視図、図2は実施例の背面側の斜視図、図3は実施例のゴンドラの昇降を示す説明図、図4は実施例のゴンドラの平面図、図5は実施例のゴンドラの側面図、図6は実施例の荷役具の側面図、図7は実施例の金属製ブラケットの固定を示す断面図、図8は図7のA−A断面図、図9は実施例の小ライニング層の剥離を示す説明図、図10は実施例の小ライニング層の剥離順を示す説明図である。
【0013】
本実施例1の金属製ブラケット1は、図1,2に示すように左右に剥離用シリンダ18のケース又はロッドの端部と係合するシリンダ係合凹所2を形成し、ブラケット1の背面に小ライニング層12bを突設されるアンカーボルト20を嵌挿して掛止するボルト掛止溝3を形成し、金属製ブラケット1の内部にアンカーボルト20を小ライニング層12bへ押圧して固定させるための打設用シリンダ19を装着治具19aを介して上方から脱着自在に装着するシリンダ装着凹所4を形成し、金属製ブラケット1の上部背面側に金属製ブラケット1を上方から吊下する荷役具14と連結する連結部であるアイボルト5を螺設し、金属製ブラケット1の背面にライニング層12の内面と同曲率にした曲面部1aを形成している。
【0014】
図3に示すように作業台である円形のゴンドラ13をワイヤロープ15で地上の図示しないゴンドラウインチに接続して煙突10内を昇降可能に吊り下げている。ワイヤロープ15は煙突10上端のゴンドラアーム16と転向シーブ17により方向転換して支持され、図示しないゴンドラウインチ及びアンカーウェイトにより地上Gに固定されている。
【0015】
ゴンドラ13は、図4〜6に示すようにその外周端上方に8体に分割された周方向のハンガーレール13aを複数本のL字型の支柱13bで円周状に架設し、同各ハンガーレール13aにハンガー単車13cを備えた荷役具14を走行可能にそれぞれ吊設し、同荷役具14にスイベルスナップ14aを備えたワイヤー14bを吊下している。支柱13bは内側へ配置して荷役具14を外側に吊設し、ライニング層12に近接させて吊下が安定するようにしている。
【0016】
まず、特開平6−235512号公報に示される補修装置で煙突10の劣化したライニング層12に溝幅5mmの切溝12aを格子状に形成して300×600mm角の小ライニング層12bに区画する。この際、ライニング層12内に金網や鉄筋がある場合は一緒に切断する。次に、図7,8に示すように剥離すべき小ライニング層12b及び隣接する小ライニング層12bの表面に穿孔してアンカーボルト20を仮固定し、同アンカーボルト20に荷役具4で吊下した金属製ブラケット1をそのボルト掛止溝3に嵌挿するとともに必要に応じてボルト掛止溝3で固定位置を上下に調整し、シリンダ装着凹所4に装着治具19aを介して装着した打設用シリンダ19で仮固定したアンカーボルト20を打ち込んで金属製ブラケット1を小ライニング層12bに固定し、打設用シリンダ19にアンカ−ボルト20の先端を打込む打設部19bを取り付ける。
【0017】
この各金属製ブラケット1の一方のシリンダ係合凹所2に図9(a)に示すように図示しない油圧装置と接続された剥離用シリンダ18のケース端を横方向にして係合するとともにワイヤー14bで吊下し、油圧装置を作動して剥離用シリンダ18のロッドをゆっくりと伸長させる。この剥離用シリンダ18の押圧力で図9(b)に示すように各金属製ブラケット1は離間方向へ押圧され、金属製ブラケット1が固定されたいずれか片方の小ライニング層12bがライニング層12の無い領域の方向にずれて筒身11aから徐々に剥離してくる。このとき、ライニング層12の無い領域が存在しない場合でも、切溝12aの溝幅が4〜5mm程度あれば剥離される。また、スタッドボルト21も剪断力で同時に折損させる。この剥離の衝撃で金属製ブラケット1や剥離用シリンダ18が飛散しようとするが、荷役具14で吊下しているから安全である。
【0018】
小ライニング層12bが筒身11から完全に脱離すると、剥離された小ライニング層12bを荷役具14でハンガーレール13aに沿って所定位置まで搬送し、金属製ブラケット1を取り外して図示しないクラッシャー等の破砕機で破砕処理する。
【0019】
続いて、取り外した金属製ブラケット1を先の対向側の小ライニング層12bと隣接する小ライニング層12bの表面に穿孔してアンカーボルト20で固定し、先の剥離で伸長した剥離用シリンダ19を縮退させて金属製ブラケット1間に配置し、油圧装置を作動して再び剥離用シリンダ19を伸長させる。この剥離用シリンダ19の押圧力で剥離跡12c側に位置する小ライニング層12bが剥離跡12c方向へ横ずれして剥離し、先と同様に搬送後金属製ブラケット1を取り外して破砕処理する。
【0020】
その後、この一連の工程を図10に示すように必要個所に応じて繰り返し、除去跡に新たなライニングを吹き付けることで補修が完了する。補修個所が全面に渡る場合は上段から下段へ順に繰り返して除去されることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は煙突のライニング層や火力発電所・製鉄所・焼却炉等の火炉の耐火壁のライニング層の他、建物の外壁の剥離等にも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例の金属製ブラケットの正面側の斜視図である。
【図2】実施例の金属製ブラケットの背面側の斜視図である。
【図3】実施例のゴンドラの昇降を示す説明図である。
【図4】実施例のゴンドラの平面図である。
【図5】実施例のゴンドラの側面図である。
【図6】実施例の荷役具の側面図である。
【図7】実施例の金属製ブラケットの固定を示す断面図である。
【図8】図7のA−A断面図である。
【図9】実施例の小ライニング層の剥離を示す説明図である。
【図10】実施例の小ライニング層の剥離順を示す説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 金属製ブラケット
1a 曲面部
2 シリンダ係合凹所
3 ボルト掛止溝
4 シリンダ装着凹所
5 アイボルト
10 煙突
11 筒身
12 ライニング層
12a 切溝
12b 小ライニング層
13 ゴンドラ
13a ハンガーレール
13b 支柱
13c ハンガー単車
14 荷役具
14a スイベルスナップ
14b ワイヤー
15 ワイヤーロープ
16 ゴンドラアーム
17 転向シーブ
18 剥離用シリンダ
19 打設用シリンダ
19a 装着治具
19b 打設部
20 アンカーボルト
21 スタッドボルト
G 地上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火壁の耐火ライニング層を切溝により複数の小ライニング層に区画し、近接する2つの小ライニイング層面にそれぞれ取付けられた金属製ブラケット間を離間させて剥離させる耐火壁のライニング層の除去装置であって、
前記小ライニング層面にアンカ−ボルトにより固定される金属製ブラケットと、該金属製ブラケット間を離間させる剥離用シリンダとを備えると共に、
該金属製ブラケットには、剥離用シリンダのケ−ス又は端部と係合する係合部と、上方から吊下する荷役具と連結する連結部と、前記アンカ−ボルトを小ライニング層に打込む打設用シリンダを脱着自在に装着する装着部とを備えたことを特徴とする耐火壁のライニング層の除去装置。
【請求項2】
前記金属製ブラケットと剥離用シリンダを、略同じ高さに吊下する荷役具を備えたことを特徴とする請求項1記載の耐火壁のライニング層の除去装置。
【請求項3】
前記金属製ブラケットの小ライニング層との接触面を、前記小ライニング層の内面と略同曲率の曲面に形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の耐火壁のライニング層の除去装置。
【請求項4】
前記剥離用シリンダと打設用シリンダとを共用すると共に、前記打設用シリンダに金属製ブラケットの装着部に係合する装着治具と前記アンカ−ボルトの先端を打込む打設部とを着脱可能に取付けたことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の耐火壁のライニング層の除去装置。
【請求項5】
耐火壁の内壁面に被覆された耐火ライニング層を所定深さの切溝により区画して複数の小ライニング層を形成する工程と、
近接する小ライニング層面に穿孔を形成してアンカ−ボルトを固定する工程と、該アンカ−ボルトにより金属製ブラケットを固定した後、金属製ブラケット間に剥離用シリンダを固定する工程と、
該金属製ブラケットに打設用シリンダを固定して、前記アンカ−ボルトを小ライニング層に打込む工程とを備えたことを特徴とする耐火壁のライニング層の除去工法。
【請求項6】
前記金属製ブラケットを上方から吊下する荷役具により吊下げ、該金属製ブラケットと共に剥離された小ライニング層を吊下げて除去することを特徴とする請求項5記載の耐火壁のライニング層の除去工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−118286(P2006−118286A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309040(P2004−309040)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(592135199)安部ガナイト工業株式会社 (9)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【出願人】(000158910)株式会社亀山 (5)
【Fターム(参考)】