説明

耐火断熱煉瓦及びその製造方法

【課題】 粘土質耐火物よりも熱伝導率が低く断熱材として好適な耐火断熱煉瓦を、焼成時に硫黄酸化物を発生させることなく製造する方法を提供する。
【解決手段】 SiOとAlを主成分とする粘土鉱物に、硫黄を含まないカルシウム化合物と、気孔付与剤と水とを添加して混練し、得られたスラリーを鋳込み成形した後、乾燥し、1200℃以上の温度で焼成する。得られる耐火断熱煉瓦は主な結晶相がアノーサイトであり、圧縮強度が1.6MP以上、残存線変化率(1250℃×12h)が1%以下、熱伝導率(1000℃)が0.33W/(m・K)以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材などとして利用される高強度で低熱伝導率の耐火断熱煉瓦と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主な結晶相がアノーサイト(灰長石;CaAlSi)である煉瓦又は耐火物は、粘土質の煉瓦又は耐火物よりも低い熱伝導率を有する。従って、アノーサイト質の煉瓦又は耐火物を加熱炉などの断熱材として使用すれば、従来の粘土質の煉瓦又は耐火物からなる断熱材に比べて消費エネルギーを低減できるという利点がある。
【0003】
一般に、主な結晶相がアノーサイトである煉瓦又は耐火物やセラミックの構造材は、粘土鉱物に石膏などの硫酸カルシウムを主成分とする化合物と水を添加して混練し、得られたスラリーを鋳込み成形した後、硬化後に脱型し、焼成することによって製造されている。硫酸カルシウムを主成分とする化合物は硬化剤としての働きに加え、アノーサイトの生成に必要なカルシウム源となる。
【0004】
例えば、米国特許第4248637号明細書(特許文献1)には、アルミナあるいはアルミノシリケートに石膏を10重量%以上添加混合し、水を加えて混練し、得られたスラリーを型に鋳込んで成形した後、1000〜1400℃で焼成することにより、気孔率が40〜70%で、気孔径が0.75〜8μmのアノーサイト質焼結体を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4248637号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来のアノーサイト質焼結体、即ち主な結晶相がアノーサイトである煉瓦又は耐火物やセラミック構造材の製造方法では、原料中に硬化剤として石膏のような硫酸カルシウムを主成分とする化合物を含んでいるため、焼成の際に硫黄酸化物(SOx)の発生が避けられなかった。そのため、排ガス中から有害な硫黄酸化物を除去する排煙脱硫工程が必要となり、排煙脱硫装置を設置しなければならなかった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、通常の粘土質の煉瓦又は耐火物よりも熱伝導率が低く、高強度であり、断熱材として好適なアノーサイト質の煉瓦又は耐火物を、焼成の際に硫黄酸化物を発生させることなく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、硬化剤として石膏(硫酸カルシウム)を使用しなくても、原料にカルシウム化合物を添加し、鋳込み成形後、乾燥、焼成することにより、主な結晶相がアノーサイトであって優れた強度を有する焼結体が得られることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
即ち、本発明が提供する耐火断熱煉瓦は、SiOを35〜50重量%、Alを35〜50重量%、CaOを10〜20重量%含み、主な結晶相がアノーサイト(CaAlSi)であって、気孔を有し、圧縮強度が1.6MP以上、残存線変化率(1250℃×12hr)が1%以下、熱伝導率(1000℃)が0.33W/(m・K)以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明が提供する耐火断熱煉瓦の製造方法は、SiOとAlを主成分とする粘土鉱物に、硫黄を含まないカルシウム化合物と、気孔付与剤と水とを添加して混練し、得られたスラリーを鋳込み成形した後、乾燥し、1200℃以上の温度で焼成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、通常の粘土質耐火物よりも熱伝導率が低く、高強度でり、断熱材として好適なアノーサイト質の耐火断熱煉瓦を、焼成時に硫黄酸化物を発生させることなく製造することができる。その結果、未脱硫排煙による環境汚染をなくすことができるだけでなく、排煙脱硫工程及び装置に要するコストを削減することができるため、経済的にも極めて有利である。
【0012】
また、本発明による耐火断熱煉瓦は、かさ比重が低く、熱伝導率が粘土質耐火物よりも低いことに加えて、従来のアノーサイト質の耐火物よりも優れた強度を具えている。そのため、本発明の耐火断熱煉瓦は、加熱炉の構築に使用することで操業において省エネルギー化が期待できるうえ、強度を必要とされる構造物への耐火断熱材としての利用など適用範囲の拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の耐火断熱煉瓦の製造方法では、アノーサイトの生成に必要なカルシウム源として、従来使用されていた石膏などの硫酸カルシウムを主成分とする化合物の代わりに、硫黄を含まないカルシウム化合物を使用する。硫黄を含まないカルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、硅灰石(ウォラストナイト)、セメントなどを使用することができる。
【0014】
具体的な製造方法は、まず、SiOとAlを主成分とする粘土鉱物に、硫黄を含まないカルシウム化合物と、気孔付与剤と水とを添加し、混練してスラリーとする。得られたスラリーを所定の形状に鋳込み成形した後、1200℃以上の温度で焼成することにより耐火断熱煉瓦を得ることができる。焼成時の温度が1000℃未満ではアノーサイトの生成が不十分であることに加え、得られた煉瓦の残存線変化率が大きくなるため、1200℃以上とする必要があり、特に1250〜1450℃の温度が好ましい。
【0015】
上記粘土鉱物としては、SiOとAlを主成分とするものであれば良く、例えば、アルミナ−シリカ系の耐火粘土、カオリナイト、ハロイサイトなどを好適に用いることができる。また、上記粘土鉱物の組成としては、Alが30重量%以上で、SiOとAlの合計が80重量%以上であることが好ましい。上記気孔付与剤としては、ポリスチレン、ポリプロピレンなどの発泡ビーズや気泡剤などを用いることができる。
【0016】
上記各原料粉末は、全原料中のCaOとAlとSiOの量がアノーサイト(CaAlSi)の合成に必要な組成割合、即ち理論重量比でSiO/Al/CaO=43/37/20となるように配合すればよい。例えば、SiOとAlを主成分とする粘土鉱物を20〜80重量%、硫黄を含まないカルシウム化合物を10〜40重量%の割合で配合することが好ましい。
【0017】
上記スラリーの成形方法としては、スラリーを型に流し込む鋳込成形を用いる。得られた成形体を乾燥した後、1200℃以上の温度で焼成することにより、本発明の耐火断熱煉瓦物が得られる。このような本発明の方法によれば、アノーサイトの生成に必要なカルシウム源として硫黄を含まないカルシウム化合物を使用するため、焼成の際に硫黄酸化物が発生することがない。
【0018】
得られた耐火断熱煉瓦は、切削などの仕上げ加工を施して製品とする。仕上げ加工の際に発生する粉末は、耐火断熱煉瓦の原料として利用することができる。尚、この加工粉末の添加割合は原料全体の80重量%未満とする。
【0019】
本発明により得られる耐火断熱煉瓦は、SiOとAlとCaOを主成分とし、SiOを35〜50重量%、Alを35〜50重量%、CaOを10〜20重量%含み、主な結晶相がアノーサイトであって、気孔を有している。また、本発明の耐火断熱煉瓦は、強度が高く、且つ低い熱伝導率を有している。
【0020】
具体的には、圧縮強度は1.6MP以上、残存線変化率(1250℃×12h)は1%以下、熱伝導率は1000℃で0.33W/(m・K)以下である。また、かさ比重は1.0以下である。尚、圧縮強度はJIS R 2615に基づいて測定し、残存線変化率はISO 2477に基づいて測定した。熱伝導率はASTM C182に基づいて測定した。また、かさ比重はJIS R 2614に基づいて測定した。
【0021】
従来の方法で製造したアノーサイト質の耐火物の圧縮強度は1MPa程度であったが、本発明による耐火断熱煉瓦は1.6MPaを超える圧縮強度を具えている。本発明の耐火断熱煉瓦が高い強度を具える理由としては、鋳込み成形であるため水に粘土が解膠し、各原料が均一に混合でき、焼成時に各原料同士が均一に反応してアノーサイトが析出することや、球形の独立気孔が形成されるため、周りの固体部分(煉瓦の構造を支える部分)の連続性が高くなることなどが考えられる。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
粘土鉱物として高純度カオリン(SiO:52〜56重量%、Al:42〜44重量%)の粉末78kgに、炭酸カルシウム22kgと、ポリスチレンビーズ60リットル及び水80リッルを加え、湿式混練してスラリーとした。このスラリーを鋳込み成形し、乾燥した後、1340℃で焼成して耐火断熱煉瓦を製造した。
【0023】
得られた耐火断熱煉瓦は、かさ比重(JIS R 2614)が0.67であり、曲げ強度(JIS R 2213)が2.3MPa、圧縮強度(JIS R 2206)が4.8MPa、残存線変化率(ISO 2477、1250℃×12h)が0.07%であった。また、熱伝導率(ASTM C182)は、200℃で0.18W/(m・K)、400℃で0.21W/(m・K)、600℃で0.25W/(m・K)、800℃で0.29W/(m・K)、1000℃で0.33W/(m・K)であった。
【0024】
[実施例2]
上記実施例1で得られた耐火断熱煉瓦の加工粉末30kgと、粘土鉱物である高純度カオリンの粉末54kgと、炭酸カルシウム16kgに、気孔付与剤の発泡ビーズ100リットル及び水54リットルを添加し、十分に湿式混練した。得られたスラリーを型に流し込んで鋳込成形し、乾燥した後、1340℃で焼成することにより耐火断熱煉瓦を製造した。
【0025】
得られた耐火断熱煉瓦は、かさ比重(JIS R 2614)が0.52であり、曲げ強度(JIS R 2213)が1.3MPa、圧縮強度(JIS R 2206)が2.6MPa、残存線変化率(ISO 2477、1250℃×12h)が0.01%であった。また、熱伝導率(ASTM C182)は、200℃で0.16W/(m・K)、400℃で0.19W/(m・K)、600℃で0.22W/(m・K)、800℃で0.26W/(m・K)、1000℃で0.29W/(m・K)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOを35〜50重量%、Alを35〜50重量%、CaOを10〜20重量%含み、主な結晶相がアノーサイトであって、気孔を有し、圧縮強度が1.6MP以上、残存線変化率(1250℃×12h)が1%以下、熱伝導率(1000℃)が0.33W/(m・K)以下であることを特徴とする耐火断熱煉瓦。
【請求項2】
SiOとAlを主成分とする粘土鉱物に、硫黄を含まないカルシウム化合物と、気孔付与剤と水とを添加して混練し、得られたスラリーを鋳込み成形した後、乾燥し、1200℃以上の温度で焼成することを特徴とする耐火断熱煉瓦の製造方法。
【請求項3】
前記硫黄を含まないカルシウム化合物が、炭酸カルシウム、炭化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、硅灰石(ウォラストナイト)、セメントから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2に記載の耐火断熱煉瓦の製造方法。

【公開番号】特開2012−31006(P2012−31006A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171352(P2010−171352)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(391029509)イソライト工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】