説明

耐火物およびその製造方法

【課題】 異常体積膨張による損傷が生じず製造効率および利用効率を向上できるトリジマイト耐火物を提供する。
【解決手段】 トリジマイト相70質量%以上、非晶質相30質量%未満が主要鉱物相の使用後珪石れんがや焼成後の珪石れんが規格外品を主要原料とし、ポルトランドセメントを2〜5質量%、フュームドシリカを8〜22質量%で配合して調製した配合原料100質量%に対して5〜10質量%の添加水分量で混練し、成形する。成形物1t当たり6〜20kWの出力でマイクロ波を照射して乾燥し、乾燥品を得る。乾燥品を焼成する場合は、1200℃以上で加熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリジマイト相を主要鉱物相とした耐火物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱風炉やコークス炉、ガラス窯などに利用される耐火物として、珪石れんがが知られている。この珪石れんがは、珪石などの石英質原料を主原料として、焼成によりトリジマイト相とクリストバライト相を主鉱物相として製造される(例えば、特許文献1または特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に記載のものは、段階を付けられた粒状珪岩と元素珪素をもつ出発混合物中の珪岩、珪素および火成二酸化珪素として、75μmまでの粒度の珪素0.5ないし10重量%と、1.5ないし8重量%の微粒子の無定形火成二酸化珪素とを含有している。そして、1400ないし1450℃の最終温度でかつ1000℃以上の温度範囲で100〜300時間焼成する。
【0004】
また、特許文献2に記載のものは、内部に金属相が0.5〜2.5体積%分散する嵩比重が1.95〜2.10の範囲で製造し、内部に金属相を残存させ、1400℃で1000時間の熱処理後の嵩比重が0.01〜0.05となる状態に、1450℃まで毎時7℃で昇温加熱して所定時間保持した後に、室温まで毎時7℃で降温して製造する。
【0005】
【特許文献1】特開平2−279560号公報(第2頁左下欄−第4頁左上欄)
【特許文献2】特開平11−116324号公報(第3頁左欄−第8頁右欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献2に記載のような従来の珪石れんがでは、製造の際、石英質原料が焼成時にトリジマイト相やクリストバライト相に相転移する際に大きな体積変化を伴うので、極めて長い焼成時間を要する。また、焼成時の異常体積膨張により亀裂などの損傷が発生しやすく、効率的な製造が実施しにくいなどの問題がある。
【0007】
本発明の目的は、上述したような問題点に鑑み、異常体積膨張による損傷が生じにくく効率的な製造および利用条件が容易に得られる耐火物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の耐火物は、トリジマイト相が65質量%以上で、非晶質相が35質量%未満を主要鉱物相とし、見掛け気孔率が20%以下であることを特徴とする。
【0009】
(2)本発明では、残部の鉱物相が、クオーツ相およびクリストバライト相のうちの少なくともいずれか一方である構成とすることが好ましい。
【0010】
(3)本発明では、前記クオーツ相は、10質量%未満であり、前記クリストバライト相は、10質量%未満である構成とすることが好ましい。
【0011】
(4)本発明の耐火物の製造方法は、トリジマイト相が70質量%以上で非晶質相が30質量%未満を主要鉱物相とした珪石耐火物屑を主要原料とし、ポルトランドセメントを2質量%以上5質量%以下、フュームドシリカを8質量%以上22質量%以下で配合して配合原料を調製し、この調製した配合原料に水を添加し混練して混練物を調製し、この調製した混練物を成形して成形物を形成し、この形成した成形物をマイクロ波を用いて乾燥することを特徴とする。
【0012】
(5)本発明では、前記珪石耐火物屑は、使用後珪石耐火物および焼成後の珪石耐火物規格外品のうちの少なくともいずれか一方である構成とすることが好ましい。
【0013】
(6)本発明では、前記珪石耐火物屑は、残部の鉱物相がクオーツ相およびクリストバライト相のうちの少なくともいずれか一方である構成とすることが好ましい。
【0014】
(7)本発明では、前記珪石耐火物屑は、前記クオーツ相が10質量%以下であり、前記クリストバライト相が10質量%以下である構成とすることが好ましい。
【0015】
(8)本発明の耐火物の製造方法は、使用後珪石耐火物および焼成後の珪石耐火物規格外品のうちの少なくともいずれか一方の珪石耐火物屑を主要原料とし、ポルトランドセメントを2質量%以上5質量%以下、フュームドシリカを8質量%以上22質量%以下で配合して配合原料を調製し、この調製した配合原料に水を添加し混練して混練物を調製し、この調製した混練物を成形して成形物を形成し、この形成した成形物をマイクロ波を用いて乾燥することを特徴とする。
【0016】
(9)本発明では、前記配合原料は、前記珪石耐火物屑の一部を10質量%以下の配合割合で珪石および溶融シリカのうちの少なくとも一方に置換して配合し調製する構成とすることが好ましい。
【0017】
(10)本発明では、前記混練物は、前記配合原料100質量%に対して5質量%以上10質量%以下の水を添加して混練し調製する構成とすることが好ましい。
【0018】
(11)本発明では、前記成形物は、前記混練物を、流し込み成形、振動成形、加圧成形、および加圧振動成形のうちのいずれか1つの成形方法により成形する構成とすることが好ましい。
【0019】
(12)本発明では、前記成形物のマイクロ波を用いた乾燥は、前記成形物1t当たり6kW以上20kW以下の出力でマイクロ波を照射する構成とすることが好ましい。
【0020】
(13)本発明では、前記成形物のマイクロ波を用いた乾燥は、熱風送風環境下または減圧環境下で前記成形物に前記マイクロ波を照射する構成とすることが好ましい。
【0021】
(14)本発明では、前記成形物をマイクロ波を用いて乾燥した乾燥物を、1200℃以上で加熱処理する構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、焼成時や窯炉に利用した際の熱負荷で異常体積膨張を生じず、亀裂などの損傷を生じないとともに、繰り返し加熱・冷却に対して割れにくい耐熱的スポーリング性が向上し、過酷な利用環境下でも長期間安定した特性が得られ、製造効率および利用効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の耐火物における実施の形態について説明する。本実施の形態では、トリジマイト相を主要鉱物とする耐火物(以下、トリジマイト耐火物と称する。)で、珪石れんがの用途となる熱風炉やコークス炉、ガラス窯、電気炉など、用途が限られるものではなく、いずれの窯炉や建造物などの構造物に利用することができる。
【0024】
〔トリジマイト耐火物の構成〕
(トリジマイト耐火物の組成)
本発明のトリジマイト相を主要鉱物とする耐火物であるトリジマイト耐火物は、主要鉱物相がトリジマイト相65質量%以上、非晶質相35質量%未満で、見掛け気孔率が20%以下である。このトリジマイト耐火物は、焼成した焼成品および未焼成すなわち乾燥品の双方の形態で提供され、例えば熱風炉やコークス炉、ガラス窯などに利用される。
【0025】
そして、トリジマイト耐火物は、主要鉱物相として、トリジマイト相が65質量%以上、特にトリジマイト相が多いほどよい。このように、トリジマイト相を主要鉱物相としていることから、珪石を原料とする珪石れんがと同等以上の特性が得られるとともに、例えば焼成時や窯炉に利用した際の熱負荷が加わった時に、相転移に伴う異常体積膨張を生じず、異常体積膨張による亀裂などの損傷の発生が防止され、また成形後の寸法と焼成後の寸法差に大差が生じず、歩留まりが向上し、製造効率や窯炉の操業効率が向上する。なお、トリジマイト相が65質量%未満となると、不純物の割合が増大して、珪石を原料とする珪石れんがと同等の特性が得られなくなる。さらに、トリジマイト相を主要鉱物相とした原料の割合が低減し、珪石れんがと同様の特性を得るためには石英質原料を用いる割合が増大し、焼成時や窯炉に利用した際の熱負荷で異常体積膨張が生じやすくなり、亀裂などの損傷が生じやすくなり、製造効率の向上や操業効率の向上、例えば安定した操業の延長や窯炉の昇温時における昇温速度の向上などが望めなくなる。したがって、主要鉱物相としてトリジマイト相を65質量%以上に設定する。
【0026】
また、トリジマイト耐火物は、主要鉱物相として、非晶質相が35質量%未満であることから、良好なクリープ特性が得られ、窯炉に利用した際にクリープ変形が生じにくく長期間安定した特性が得られ、窯炉操業の延長化が容易に得られ、操業効率が向上する。なお、非晶質相が35質量%以上となると、例えばクリープ特性が低下するなど、珪石れんがと同等以上の長期間安定した特性が得られなくなる。このため、主要鉱物相として非晶質相を35質量%未満に設定する。
【0027】
さらに、トリジマイト耐火物は、残部の鉱物相がクオーツ相およびクリストバライト相のうちの少なくともいずれか一方である。特に、クオーツ相が、10質量%未満で、クリストバライト相が、10質量%未満、好ましくはクオーツ相およびクリストバライト相が合計で10質量%未満である。このため、珪石れんがと同等の鉱物相の組成となり、仮に使用後珪石れんが屑を原料に用いても、珪石れんがと同等以上の長期間安定した特性が容易に得られ、操業効率が向上する。なお、クオーツ相およびクリストバライト相のうちの少なくともいずれか一方が10質量%以上となると、焼成時や窯炉に利用した際の熱負荷で異常体積膨張が生じやすくなり、異常体積膨張による亀裂などの損傷が生じやすくなり、製造効率の向上や長期間の安定した特性が得られにくくなる。このため、残部の鉱物相を構成するクオーツ相およびクリストバライト相をそれぞれ10質量%未満に設定する。
【0028】
そして、トリジマイト耐火物は、見掛け気孔率が20%以下であることから、窯炉に利用した際の雰囲気ガスの侵入が生じにくく耐浸食性が高く、クリープ特性や圧縮強度なども強く、長期間安定した良好な特性が得られる。なお、見掛け気孔率が20%を越えると、窯炉に利用した際の耐浸食性や、クリープ特性、圧縮強度などが低下し、良好な特性が得られなくなる。このため、見掛け気孔率を20%以下に設定する。
【0029】
(トリジマイト耐火物の製造方法)
次に、上記トリジマイト耐火物の製造方法について説明する。
【0030】
原料として、珪石耐火物屑を主要原料とする。ここで、珪石耐火物屑は、使用後珪石耐火物および焼成後の珪石耐火物規格外品のうちの少なくともいずれか一方が用いられる。特に、主要鉱物相がトリジマイト相70質量%以上で非晶質相30質量%未満のものである。この珪石耐火物屑は、適宜粉砕され、例えば粒径がタイラメッシュ(Tyler mesh)で325メッシュ(JIS篩い目開きが45μm)以上5mm以下で、粒度分布が連続的となる状態に粒度を調製したものである。
【0031】
そして、使用後珪石耐火物および焼成後の珪石耐火物規格外品のうちの少なくともいずれか一方、特に主要鉱物相がトリジマイト相70質量%以上で非晶質相30質量%未満のものを用いるので、製造されるトリジマイト耐火物の主要鉱物相がトリジマイト相65質量%以上で非晶質相35質量%未満となり、上述したように、異常体積膨張が生じず、製造効率の向上や操業効率などの利用効率の向上が得られる。なお、使用後珪石耐火物および焼成後の珪石耐火物規格外品のうちの少なくともいずれか一方を用いない、特に主要鉱物相がトリジマイト相70質量%未満となると、製造されるトリジマイト耐火物のトリジマイト相65質量%未満、非晶質相35質量%以上となり、上述したように、良好な特性が得られなくなり、製造効率の向上や操業効率の向上が望めなくなる。このため、使用後珪石耐火物および焼成後の珪石耐火物規格外品のうちの少なくともいずれか一方、特に主要鉱物相がトリジマイト相70質量%以上で非晶質相30質量%未満のものを主要原料に用いる。
【0032】
また、主要原料の珪石耐火物屑は、残部の鉱物相がクオーツ相およびクリストバライト相のうちの少なくともいずれか一方である。特に、クオーツ相が、10質量%未満で、クリストバライト相が、10質量%未満、好ましくはクオーツ相およびクリストバライト相が合計で10質量%未満である。このため、製造されるトリジマイト耐火物の残部の鉱物相が、クオーツ相およびクリストバライト相のうちの少なくともいずれか一方、特に、クオーツ相が、10質量%未満で、クリストバライト相が、10質量%未満、好ましくはクオーツ相およびクリストバライト相が合計で10質量%未満となり、上述したように、珪石れんがと同等の鉱物相の組成となり、仮に使用後珪石れんが屑を原料に用いても、珪石れんがと同等以上の長期間安定した特性が容易に得られ、操業効率が向上する。
【0033】
さらに、原料として、ポルトランドセメントおよびフュームドシリカを用いる。すなわち、トリジマイト耐火物の製造に際して、ポルトランドセメントを2質量%以上5質量%以下、フュームドシリカを8質量%以上22質量%以下、残部が使用後珪石耐火物および焼成後の珪石耐火物規格外品のうちの少なくともいずれか一方、特に主要鉱物相がトリジマイト相70質量%以上で非晶質相30質量%未満の粒度調製された珪石耐火物屑となる条件で配合し、配合原料を調製する配合原料調製工程を実施する。
【0034】
原料として、ポルトランドセメントを2質量%以上5質量%以下で配合するので、カルシウムシリケート(CaO−SiO2)成分系であることから、珪石耐火物屑の二酸化珪素(SiO2)すなわちシリカ成分と反応し、アルミニウム・カルシウムシリケート(CaO−Al23−SiO2)系の低融点物を生成するアルミナ成分が含まれていない。このため、例えば窯炉に利用した際に長期間安定した特性が得られ、窯炉の操業効率などの利用効率が向上するとともに、成形後の強度が得られ、製造性や搬送性、施工性などが向上し、製造時や搬送時、施工時などに損傷して歩留まりが低下するなどの不都合がなく、製造効率が向上する。また、フュームドシリカを8質量%以上22質量%以下で配合するので、粒径が1μm以下であることから、粒子間が充填されて緻密化し、例えば窯炉に利用した際に長期間安定した特性が得られ、窯炉の操業効率などの利用効率が向上するとともに、ポルトランドセメントと反応して珪石耐火物屑との付着性が良好なカルシウムシリケート水和物を生成するポゾラン反応が生じて強度が向上し、製造性や搬送性、施工性などが向上し、製造効率が向上する。
【0035】
なお、ポルトランドセメントが2質量%未満では、成形後の十分な強度が得られず、製造時や例えば窯炉として施工する時の取扱時に損傷し、製造性や搬送性、施工性などの向上が図れず、製造効率や搬送効率、施工効率などである利用効率の向上が得られなくなる。一方、ポルトランドセメントが5質量%を越えると、凝結・硬化時の収縮が大きくなり、亀裂が発生して歩留まりが低下し、製造効率の向上が得られなくなる。このため、ポルトランドセメントを2質量%以上5質量%以下で配合する。さらに、フュームドシリカが8質量%未満では、カルシウムシリケート水和物の生成量が少なくなり、十分な強度が得られなくなり、製造時や施工時の取扱時に損傷し、製造性や搬送性、施工性などの向上が図れず、製造効率や搬送効率、施工効率などである利用効率の向上が得られなくなる。一方、フュームドシリカが22質量%を越えると、フュームドシリカの保水性により混練時に添加する水の量が増加し、フュームドシリカが表面上に浮き上がるような原料の分離現象が生じ、乾燥後に表面に微細な亀裂が発生するなど歩留まりが低下するとともに、原料の分離現象を生じる混練物を成形した成形物を乾燥して得られた乾燥物やこの乾燥物を焼成した焼成品の組成が不均一となり、良好な特性が得られなくなり、良好な操業効率の向上が得られなくなる。このため、フュームドシリカを8質量%以上22質量%以下で配合する。
【0036】
また、配合原料としては、主要原料である珪石耐火物屑の一部を、10質量%以下の配合割合で、珪石および溶融シリカのうちの少なくともいずれか一方に置換して配合し調製してもよい。このことにより、例えば使用後珪石耐火物屑に付着あるいは浸漬する雰囲気ガスなどの不純物による特性の低下などが防止されるとともに、焼成時や窯炉に利用した際の熱負荷による異常体積膨張などの体積変化による影響が生じない程度に添加される珪石や溶融シリカの石英質分により、粒子間結合や緻密化などによる強度の向上やさらなる長期間安定した特性などが得られる。なお、置換する珪石および溶融シリカのうちの少なくともいずれか一方が配合割合で10質量%を越えると、クオーツ相の増加により、焼成時や窯炉に利用した際の熱負荷で異常体積膨張が生じやすくなり、異常体積膨張による亀裂などの損傷が生じやすくなり、製造効率の向上や長期間の安定した特性が得られにくくなる。このため、置換する場合には、珪石および溶融シリカのうちの少なくとも一方を配合割合で10質量%以下に設定する。
【0037】
そして、トリジマイト耐火物の製造では、配合原料調製工程の後、この配合原料調製工程で調製した配合原料に、水を添加し混練して混練物を調製する混練工程を実施する。この混練工程において、利用される混練装置としては、バッチ式、連続式など各種装置構成のものが利用可能である。そして、配合原料100質量%に対して5質量%以上10質量%以下の水を添加して混練し調製することが好ましい。このことにより、配合原料が略均一な組成に混練されるとともに、乾燥エネルギの増大の防止や見掛け気孔率の増大の防止が得られ、良好な特性の耐火物を効率的に製造できる。ここで、水の添加量が5質量%未満では、混練中にだまが生じるなど、配合原料を略均一な組成に混練することが困難となり、混練時間が長くなるなどの不都合が生じるとともに成形性が低下する。さらに、ポルトランドセメントによるカルシウムシリケート水和物の生成が不十分となり、十分な強度が得られにくくなる。一方、水の添加量が10質量%を越えると、フュームドシリカが表面上に浮き上がるような原料の分離現象が生じ、乾燥後に表面に微細な亀裂が発生するなど歩留まりが低下するとともに、原料の分離現象を生じる混練物を成形した成形物の組成が不均一となり、良好な特性が得られにくくなる。このため、水の添加量を5質量%以上10質量%以下に設定する。
【0038】
また、トリジマイト耐火物の製造では、混練工程の後、この混練工程で調製した混練物を成形していわゆるグリーンボディである成形物としての固化体を形成する成形工程を実施する。この成形工程では、例えば、流し込み成形、振動成形、加圧成形、および加圧振動成形のうちのいずれか1つの成形方法により混練物を成形して成形物である固化体を形成することが好ましい。このような成形方法とすることにより、見掛け気孔率が20%以下となる所望の形状のトリジマイト耐火物が比較的容易に得られる。ここで、流し込み成形、振動成形、加圧成形、および加圧振動成形以外の成形方法では、例えば、いわゆる冷間等方圧加圧成形法(Cold Isostatic Pressing:C.I.P.)では成形物が得られるものの、ニアネット成形すなわち製品寸法に近い形状に成形することが困難で、製品寸法に調整するための加工が必要となり、製造コストの増大や生産性の向上などの不都合を生じるおそれがある。このことにより、流し込み成形、振動成形、加圧成形、および加圧振動成形のうちのいずれか1つの方法で成形することが好ましい。なお、減圧下で成形することにより、より緻密化および強度の向上が得られ、より好ましい。
【0039】
さらに、トリジマイト耐火物の製造では、成形工程の後、この成形工程で形成した固化体をマイクロ波を用いて乾燥して乾燥物すなわち未焼成の乾燥品を製造する乾燥工程を実施する。この乾燥工程において、乾燥炉としては、バッチ式、連続式など、マイクロ波を発生して乾燥可能ないずれの装置構成が利用可能である。また、マイクロ波としては、例えば8MHz以上6GHz以下、特に広く利用され技術確立された2.45GHzの波長領域で照射する。そして、乾燥工程では、固化体1t当たり6kW以上20kW以下の出力でマイクロ波を成形物に照射して乾燥する。このことにより、固化体の内部まで略均一に十分加熱され、緻密な固化体でも亀裂などを生じることなく内部まで略均一に乾燥できる。ここで、マイクロ波の出力が固化体1t当たり6kWより低くなると、成形体の温度が内部まで100℃以上に昇温されず、十分に乾燥するまでの乾燥時間が長くなり、効率的な製造が図れなくなる。一方、マイクロ波の出力が固化体1t当たり20kWを越えると、固化体が急激に加熱されることとなり、内部の水が急激に水蒸気化することによる亀裂の発生を生じるおそれがある。このため、マイクロ波の出力を固化体1t当たり6kW以上20kW以下に設定することが好ましい。なお、乾燥工程において、熱風送風環境下または減圧環境下でマイクロ波を照射してもよい。このように、熱風送風乾燥または減圧乾燥を組み合わせることにより、効率よく乾燥され、乾燥時間が短くなり、製造効率が向上する。
【0040】
また、トリジマイト耐火物の製造では、乾燥工程の後、得られた乾燥物を焼成して焼成品を製造する焼成工程を実施してもよい。この焼成工程において、焼成炉としては、バッチ式や連続式など、各種焼成炉を利用することができる。そして、焼成工程では、乾燥物を1200℃以上、好ましくは1400℃以上1470℃以下で加熱処理する。このことにより、原料のフュームドシリカに起因する液相焼結が進行し、乾燥品より高強度が得られるとともにクリープ特性が向上し、長期間安定した特性が得られる。
【0041】
〔トリジマイト耐火物の作用〕
次に、上記実施の形態のトリジマイト耐火物の作用として、各種組成のトリジマイト耐火物を比較例として形成したものと、特性を比較する実験について説明する。実験としては、実験試料の製造時における製造状況の観察実験、圧縮強度の比較実験、クリープ特性の比較実験、耐熱的スポーリング性の比較実験を実施した。
【0042】
(実験試料)
実験試料の製造時における製造状況の観察実験として、各種原料を用いて適宜配合し、混練時、成形時、乾燥時、焼成時で、各配合における製造性について観察した。本発明のトリジマイト耐火物に対応する実施例に対して比較する比較例として、珪石を原料としてあらかじめ製造された珪石れんがも対象とし、従来例として比較した。
【0043】
なお、原料として、珪石耐火物屑である珪石れんが屑としては、実際にコークス炉で1000℃〜1200℃の温度で約30年間使用されたものを用いた。また、珪石としては、中国産山西省五台山産のものを用いた。さらに、溶融シリカとしては、国産の破砕シリカを用いた。ポルトランドセメントとしては、国産の中庸熱タイプのものを用いた。フュームドシリカとしては、国産のものを用いた。そして、実験試料としては、以下の表1ないし表3に示す原料を適宜配合して製造した。なお、珪石れんが屑および実験試料の鉱物相の定量分析は、マックサイエンス社製のX線回折装置を用いて、内部標準法により測定した。
【0044】
また、製造に際して、株式会社ダルトン製の万能混練機を用い、水の添加量を適宜変更して混練した。さらに、固化体の成形では、エクセン株式会社製の振動成形機を用い、振動数75Hz、振動加速度3G(SI単位:29.4m/sec2)、振動時間5分の条件で、1辺が200mmの直方体形状に成形した。そして、固化体の乾燥では、新日本無線株式会社製のマイクロ波発振装置を利用した乾燥機を用い、300℃の熱風を100Nm3/hrの風量で乾燥室内に送風しつつ、周波数が2.45GHzのマイクロ波を異なる出力条件で照射して乾燥した。また、焼成は、電気式焼成炉を用い、各焼成条件で焼成した。そして、実験試料としては、以下の表1ないし表3に示す製造条件で製造した。また、製造した各実験試料については、JIS−R−2205に基づいて、見掛け気孔率を測定した。この見掛け気孔率の実験結果も、表1ないし表3に合わせて示す。また、乾燥が完了するまでの乾燥条件すなわちマイクロ波の出力条件を変動させた際の実験結果を表4および図1に示す。表4および図1は、マイクロ波の出力と乾燥完了までの時間との関係を示し、マイクロ波の出力は、成形体としての固化体である実験試料1t当たりに照射する電力量〔kW〕である。
【0045】
(表1)

【0046】
(表2)

【0047】
(表3)

【0048】
(表4)

【0049】
この製造状況の観察実験の結果、混練中に水を徐々に添加し、次第に添加する水分量を多くした結果、配合原料100質量%に対して5質量%以上でだまが生じずに良好に混練できた。また、水分量が10質量%を越えると、フュームドシリカが表面上に浮き上がるような原料の分離現象が生じ、均一な混練が得られないことが認められた。このことから、配合原料100質量%に対して5質量%以上10質量%以下とする必要があることがわかった。
【0050】
また、比較例3および比較例4では、乾燥時に収縮し、亀裂が発生していた。一方、ポルトランドセメントの配合量が2質量%の実施例4、および、5質量%の実施例5では、亀裂が生じず、良好に形成できた。また、フュームドシリカの配合量が8質量%の実施例6、および、22質量%の実施例7でも、亀裂が生じず、良好に形成できた。これは、比較例3では、ポルトランドセメントを10質量%で配合したことから、ポゾラン反応による凝結・硬化時の収縮によるものと考えられる。また、比較例4では、超微粉のフュームドシリカの配合量が30質量%と多く、粒度バランスが崩れたり、ポゾラン反応に寄与しないフリーのフュームドシリカ分が多くなり、成形時のラミネーションなどが生じたものと考えられる。これらのように、ポルトランドセメントの配合量は2質量%以上5質量%以下、フュームドシリカの配合量は8質量%以上22質量%以下とする必要があることがわかった。
【0051】
さらに、表4および図1に示す結果から、マイクロ波の出力が実験試料1t当たり3kWでは乾燥が完了するまでに15日間必要であったが、6kWでは5日間で乾燥が完了し、10kWでは3日、20kWでは1日で完了した。このことから、マイクロ波は実験試料1t当たり6kW以上の出力で照射する必要があることがわかる。なお、20kWを越えると、固化体が急激に加熱されることとなり、内部の水が急激に水蒸気化することによる亀裂の発生を生じるおそれがある。このため、マイクロ波の出力を固化体1t当たり6kW以上20kW以下に設定することが好ましい。
【0052】
また、見掛け気孔率は、従来例が21.0%であるのに対し、各実施例は15%程度で、従来例より緻密化していることが分かる。また、1200℃で焼成した実施例19では見掛け気孔率が11.2%、1400℃で焼成した実施例10ないし実施例12および実施例14では、見掛け気孔率が8〜9%程度にさらに小さくなり、より緻密化することが認められた。
【0053】
(圧縮強度の比較実験)
各実験試料を用いて圧縮強度を測定する実験を実施した。この圧縮強度の測定は、JIS−R−2206に基づいて測定した。その結果を表1ないし表3、表5ないし表8、および、図2ないし図5に示す。なお、表5および図2はポルトランドセメントの配合量と圧縮強度との関係を示し、表6および図3はフュームドシリカの配合量と圧縮強度との関係を示し、表7および図4は添加する水分量と見掛け気孔率と圧縮強度との関係を示し、表8および図5は焼成温度と見掛け気孔率と圧縮強度との関係を示す。
【0054】
(表5)

【0055】
(表6)

【0056】
(表7)

【0057】
(表8)

【0058】
これら表1ないし表3、表5および図2に示す結果から、上述したように比較例3では乾燥中に亀裂が発生し、従来例では圧縮強度が40.0MPaであった。一方、ポルトランドセメントの配合量が2質量%の実施例4、3質量%の実施例2、および、5質量%の実施例5では、圧縮強度が60MPa強と高くなっていることが認められた。このことからも、ポルトランドセメントの配合量は2質量%以上5質量%以下に設定する必要があることがわかる。
【0059】
また、表1ないし表3、表6および図3に示す結果から、上述したように比較例4では乾燥中に亀裂が発生した。一方、フュームドシリカの配合量が8質量%の実施例6、10質量%の実施例2、および、22質量%の実施例7では、圧縮強度が60MPa強と強くなっていることが認められた。このことからも、フュームドシリカの配合量は8質量%以上22質量%以下とする必要があることがわかる。
【0060】
さらに、表1ないし表3、表7および図4に示す結果から、配合原料100質量%に対して添加水分量が2質量%のもので見掛け気孔率が18.8%で圧縮強度が従来例より低い22.2MPa、添加水分量が20質量%の比較例5では見掛け気孔率が従来例より高い26.9%で圧縮強度が従来例より低い26.8MPaであった。一方、比較例5と同配合で水分量が5質量%の実施例2では見掛け気孔率が従来例より低い15.5%で圧縮強度が65.4MPaと高く、添加水分量が8質量%の実施例15、添加水分量が10質量%の実施例16でも、圧縮強度がほぼ60MPaであった。このことからも、添加水分量は、配合原料100質量%に対して5質量%以上10質量%以下に設定する必要があることがわかる。なお、添加水分量が5質量%から10質量%へ多くなるにしたがって、見掛け気孔率が若干増大するとともに、圧縮強度が若干低下することが認められた。このことから、特に添加水分量が5質量%以上10質量%以下の範囲で作業性や成形性なども加味して可能な限り少ない、特に5質量%程度が好ましいことが分かる。
【0061】
また、表1ないし表3、表8および図5に示す結果から、未焼成の実施例2より、焼成により見掛け気孔率が低減して緻密化する、実施例19さらに焼成温度が高い実施例10ないし実施例12および実施例14では、より圧縮強度も増大し、焼成温度が高くなるにしたがって圧縮強度も高くなることが認められた。また、珪石や溶融シリカを10質量%で置換した実施例8、実施例9、実施例11および実施例12でも圧縮強度に差は認められなかった。このことからも、焼成することにより、より良好な特性が得られることが分かる。
【0062】
(クリープ特性の比較実験)
上述した条件で製造した各種実験試料を用いてクリープ量を測定する実験を実施した。このクリープ量の測定は、JIS−R−2658に準じて測定、すなわち0.2MPaの荷重下で1550℃で50時間保持した後の変形量を測定した。その結果を、表1ないし表3、表8、表9、および図6に示す。なお、表8は焼成温度とクリープ量との関係を示し、表9および図6は実験試料のトリジマイト相の量とクリープ量との関係を示す。
【0063】
(表9)

【0064】
これら表1ないし表3、表9および図6に示す結果から、従来例の珪石れんがではクリープ量が0.13%であった。また、トリジマイト相が50.3質量%の珪石れんが屑を配合した比較例1ではクリープ量が0.68%で、トリジマイト相が70.1質量%の珪石れんが屑を用いて比較例1と同様に配合しトリジマイト相が65.4質量%に製造された実施例1ではクリープ量が、トリジマイト相が61.4質量%の従来例より良好な0.11%であった。そして、実施例1ないし実施例3のクリープ量を比較すると、トリジマイト相の割合が多くなるにしたがってクリープ量が少なくなり、クリープ特性が向上することが認められた。また、表8に示す結果から、同一原料で同一配合した実施例2、実施例10および実施例19では、未焼成の実施例2でも従来例よりクリープ量が少なく、焼成温度が1200℃で緻密化した実施例19ではよりクリープ量が少なくなり、さらに焼成温度が1400℃に高くなってより緻密化した実施例10ではさらにクリープ量が少なくなることが認められた。これらのように、原料に使用する珪石れんが屑の組成は、トリジマイト相が70質量%以上で非晶質相が30%未満のもの、また、耐火物組成では、トリジマイト相が65質量%以上で非晶質相が35質量%未満とする必要があることがわかった。さらに、未焼成品では、前述したトリジマイト相および非晶質相を主要鉱物相として設定することで、従来例の珪石れんが以上の特性が認められ、未焼成品でも十分に製品として利用できることが確認できた。
【0065】
また、表1および表2に示す結果から、比較的にトリジマイト相が多い珪石れんが屑を用いた実施例2の配合で、一部すなわち配合割合で10質量%を珪石に置換して製造した実施例8および実施例11と、配合割合で10質量%を溶融シリカに置換して製造した実施例9および実施例12でも、クリープ量に差は認められなかった。このことから、耐火物組成でトリジマイト相が65質量%以上で非晶質相が35質量%未満の範囲内であれば、石英質が一部、すなわち10質量%で置換しても特性が低下しないことが認められた。
【0066】
(耐熱的スポーリング性の比較実験)
上記表1ないし表3に示す配合で、同様の条件で並形形状すなわち横寸法が230mm、縦寸法が114mm、厚さ寸法が65mmの直方体形状に実験試料を製造し、この直方体形状の実験試料を、電気式加熱炉内に設置し、実験を実施した。実験条件は、10℃/分の昇降温速度で、600℃と1200℃との加熱・冷却を繰り返し、亀裂が発生するまでの加熱・冷却サイクル数を計数し、比較評価した。その結果を表1ないし表3に示す。なお、表1ないし表3は、説明の都合上、亀裂が発生するまでの加熱・冷却サイクル数を亀裂発生回数として記載した。
【0067】
その結果、従来例では1回の加熱・冷却サイクルで亀裂が発生したが、比較例1および比較例5と、各実施例ではほぼ10回以上の加熱・冷却サイクルでも亀裂が発生しなかった。なお、トリジマイト相の量が少ない比較例1は、耐熱的スポーリング性は良好であるが、特に非晶質相の割合が多くなり、上述したようにクリープ変形が大きくなるため、安定した操業が得られなくなることがわかる。これらのことからも、上述したように、原料に使用する珪石れんが屑の組成は、トリジマイト相が70質量%以上で非晶質相が30%未満のもの、また、耐火物組成では、トリジマイト相が65質量%以上で非晶質相が35質量%未満とすることにより、耐熱的スポーリング性が大きく向上でき、例えば操業始動時に窯炉を昇温する際の条件が緩やかとなり、操業効率が向上することがわかる。
【0068】
〔トリジマイト耐火物の作用効果〕
上述したように、上記実施の形態のトリジマイト耐火物では、主要鉱物相をトリジマイト相65質量%以上、非晶質相35質量%未満で、見掛け気孔率が20%以下としている。このため、珪石を原料とする珪石れんがと同等以上の特性を得ることができるとともに、例えばコークス炉や熱風炉、ガラス窯、電気炉などの窯炉に利用した際に、相転移による異常体積膨張が生じず、異常体積膨張による亀裂などの損傷の発生を防止でき、例えば窯炉始動時の昇温条件や加熱条件の変更などの窯炉操業条件が緩やかとなって、操業効率などの利用効率を向上できる。さらに、例えば原料としてトリジマイト相を主要鉱物相とした使用後珪石れんが屑などを使用することで、65質量%以上のトリジマイト相が主要鉱物相として得られることとなり、トリジマイト相を主要鉱物相とした原料の利用により、乾燥後に焼成する際に、相転移による異常体積膨張が生じず、異常体積膨張による亀裂などの損傷の発生を防止でき、また成形後の寸法と焼成後の寸法差に大差が生じず、歩留まりを向上できるとともに、焼成条件が緩やかとなって製造が容易となり、製造効率を向上できる。また、珪石れんが屑を用いることによるコストの低減や、産業廃棄物となる珪石れんが屑を有効利用でき、環境保護も容易に得られる。
【0069】
そして、本実施の形態におけるトリジマイト耐火物の残部の鉱物相として、クオーツ相およびクリストバライト相のうちの少なくともいずれか一方としている。このため、珪石れんがと同等の鉱物相の組成となり、仮にコスト面や環境保護などを考慮して使用後珪石れんが屑を原料に用いても、珪石れんがと同等以上の特性を容易に得ることができる。
【0070】
さらに、残部の鉱物相を構成するクオーツ相およびクリストバライト相のうちの少なくともいずれか一方を10質量%未満としている。このため、例えば窯炉に利用した際の熱負荷でも長期間安定した特性を容易に得ることができる。
【0071】
そして、本実施の形態におけるトリジマイト耐火物の製造に際して、トリジマイト相が70質量%以上で非晶質相が30質量%未満を主要鉱物相とした珪石れんが屑を主要原料とし、ポルトランドセメントを2質量%以上5質量%以下、フュームドシリカを8質量%以上22質量%以下で配合して配合原料を調製する。この調製した配合原料に水を添加して混練し調製した混練物を成形し、マイクロ波を用いて乾燥する。このため、製造されるトリジマイト耐火物の主要鉱物相がトリジマイト相65質量%以上、非晶質相35質量%未満となり、上述したように、異常体積膨張がなく、製造効率および利用効率を容易に向上できる。また、ポルトランドセメントを2質量%以上5質量%以下で配合するので、珪石耐火物屑のシリカと反応してCaO−Al23−SiO2系の低融点物を生成するアルミナ成分が含まれておらず、例えば窯炉に利用した際に長期間安定した特性が得られ、窯炉の操業効率などの利用効率を向上できるとともに、成形後の強度が得られ、製造性や搬送性、施工性などが向上し、製造時や搬送時、施工時などに損傷して歩留まりが低下するなどの不都合がなく、製造効率を向上できる。また、フュームドシリカを8質量%以上22質量%以下で配合するので、粒子間が充填されて緻密化し、例えば窯炉に利用した際に長期間安定した特性が得られ、窯炉の操業効率などの利用効率を向上できるとともに、ポルトランドセメントと反応して珪石耐火物屑との付着性が良好なカルシウムシリケート水和物を生成するポゾラン反応が生じて強度が向上し、製造性や搬送性、施工性などが向上し、製造効率を向上できる。さらに、マイクロ波を用いて乾燥するため、成形物の内部まで略均一に効率よく加熱され、緻密な成形物でも内部まで略均一に乾燥でき、製造効率を向上できる。
【0072】
また、主要原料として、使用後珪石れんがおよび焼成後で不良品とされる珪石れんが規格外品のうちの少なくともいずれか一方の珪石れんが屑を用いることもできる。すなわち、このような珪石れんが屑は、主要鉱物相がトリジマイト相70質量%以上で非晶質相30質量%未満であり、製造されるトリジマイト耐火物の主要鉱物相がトリジマイト相65質量%以上、非晶質相35質量%未満となり、上述したように、異常体積膨張がなく、製造効率および利用効率を容易に向上できる。
【0073】
さらに、主要原料として、残部の鉱物相がクオーツ相およびクリストバライト相のうちの少なくともいずれか一方の珪石れんが屑を用いる。このため、上述したように、製造したトリジマイト耐火物の組成が珪石れんがと同等の鉱物相となり、仮にコスト面や環境保護などを考慮して使用後珪石れんが屑を原料に用いても、珪石れんがと同等以上の特性を容易に得ることができる。
【0074】
そしてさらに、珪石れんが屑の残部の鉱物相を構成するクオーツ相およびクリストバライト相をそれぞれ10質量%未満としている。このため、製造されるトリジマイト耐火物の主要鉱物相のクオーツ相およびクリストバライト相がそれぞれ10質量%未満となるので、上述したように、異常体積膨張がなく、製造効率および利用効率を容易に向上できる。
【0075】
そして、配合原料中の珪石れんが屑の一部を10質量%以下の配合割合で、珪石および溶融シリカのうちの少なくともいずれか一方で置換して配合原料を調製することにより、例えば使用後珪石れんが屑に付着あるいは浸漬する雰囲気ガスなどの不純物による特性の低下などを防止できるとともに、焼成時や窯炉に利用した際の熱負荷による異常体積膨張などの体積変化による影響が生じない程度に添加される珪石や溶融シリカの石英質分による粒子間結合や緻密化などによる強度の向上やさらなる長期間安定した特性などが得られる。
【0076】
また、配合原料100質量%に対して、5質量%以上10質量%以下の水を添加して混練し混練物を調製している。このため、配合原料が略均一な組成に混練されるとともに、乾燥エネルギの増大の防止や見掛け気孔率の増大の防止などが得られ、良好な特性のトリジマイト耐火物を効率的に製造できる。
【0077】
さらに、流し込み成形、振動成形、加圧成形、および加圧振動成形のうちのいずれか1つの成形方法により混練物を成形して成形物である固化体を形成する。このため、見掛け気孔率が20%以下となる所望の形状のトリジマイト耐火物を得ることが比較的に容易にできる。
【0078】
また、固化体1t当たり6kW以上20kW以下の出力でマイクロ波を固化体に照射して乾燥している。このため、固化体の内部まで略均一に十分加熱でき、緻密な固化体でも亀裂などを生じることなく内部まで略均一に効率よく乾燥できる。さらに、熱風送風環境下または減圧環境下で、マイクロ波を固化体に照射して乾燥する。このため、効率よく乾燥でき、乾燥時間が短くなり、製造効率を向上できる。
【0079】
そして、乾燥工程で得られた乾燥物を、1200℃以上で加熱処理するので、フュームドシリカに起因する液相焼結が進行し、高強度が得られるとともに、クリープ特性が向上し、長期間安定した特性を容易に得ることができる。
【0080】
〔実施の形態の変形〕
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示される変形をも含むものである。
【0081】
すなわち、上述したように、珪石れんが代替え品に限らず、また窯炉に利用する構成に限られない。
【0082】
そして、本発明の耐火物および主要原料として利用する珪石れんが屑の残部の鉱物相としては、クオーツ相およびクリストバライト相のうちの少なくともいずれか一方に限らず、また、これらが10質量%に限られるものではない。また、主要原料としては、トリジマイト相が70質量%以上で非晶質相が30質量%未満を主要鉱物相とした珪石れんが屑に限らず、使用後珪石れんがおよび焼成後の不良品とされる珪石れんが規格外品のうちの少なくともいずれか一方の珪石れんが屑を主要原料としてもよい。
【0083】
さらに、製造時において、混練工程での添加水分量として、配合原料100質量%に対して5質量%以上10質量%以下に限らない。また、成形工程での成形方法として、流し込み成形、振動成形、加圧成形、および加圧振動成形のうちのいずれか1つの方法に限られない。さらに、乾燥工程のマイクロ波の出力として、固化体1t当たり6kW以上20kW以下に限らない。そして、乾燥工程において、熱風送風や減圧乾燥を併用しなくてもよい。さらに、熱風送風についても、上記実験における乾燥条件に限られない。
【0084】
また、焼成物に限らず、乾燥後の固化体を未焼成品として提供してもよい。そして、焼成温度も1200℃以上に限られない。例えば、フュームドシリカが液相焼結を開始する温度で焼成するなどしてもよい。
【0085】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施の形態に係るトリジマイト耐火物の製造時における乾燥工程でのマイクロ波の出力と乾燥完了までの時間との関係を示すグラフである。
【図2】前記実施の形態におけるトリジマイト耐火物のポルトランドセメントの配合量と圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図3】前記実施の形態におけるトリジマイト耐火物のフュームドシリカの配合量と圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図4】前記実施の形態におけるトリジマイト耐火物の製造時の混練工程での添加水分量と見掛け気孔率と圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図5】前記実施の形態におけるトリジマイト耐火物の製造時の焼成工程での焼成温度と見掛け気孔率と圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図6】前記実施の形態におけるトリジマイト耐火物のトリジマイト相の量とクリープ量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリジマイト相が65質量%以上で、非晶質相が35質量%未満を主要鉱物相とし、
見掛け気孔率が20%以下である
ことを特徴とした耐火物。
【請求項2】
請求項1に記載の耐火物であって、
残部の鉱物相が、クオーツ相およびクリストバライト相のうちの少なくともいずれか一方である
ことを特徴とした耐火物。
【請求項3】
請求項2に記載の耐火物であって、
前記クオーツ相は、10質量%未満であり、
前記クリストバライト相は、10質量%未満である
ことを特徴とした耐火物。
【請求項4】
トリジマイト相が70質量%以上で非晶質相が30質量%未満を主要鉱物相とした珪石耐火物屑を主要原料とし、ポルトランドセメントを2質量%以上5質量%以下、フュームドシリカを8質量%以上22質量%以下で配合して配合原料を調製し、
この調製した配合原料に水を添加し混練して混練物を調製し、
この調製した混練物を成形して成形物を形成し、
この形成した成形物をマイクロ波を用いて乾燥する
ことを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の耐火物の製造方法であって、
前記珪石耐火物屑は、使用後珪石耐火物および焼成後の珪石耐火物規格外品のうちの少なくともいずれか一方である
ことを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の耐火物の製造方法であって、
前記珪石耐火物屑は、残部の鉱物相がクオーツ相およびクリストバライト相のうちの少なくともいずれか一方である
ことを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の耐火物の製造方法であって、
前記珪石耐火物屑は、前記クオーツ相が10質量%以下であり、前記クリストバライト相が10質量%以下である
ことを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項8】
使用後珪石耐火物および焼成後の珪石耐火物規格外品のうちの少なくともいずれか一方の珪石耐火物屑を主要原料とし、
ポルトランドセメントを2質量%以上5質量%以下、フュームドシリカを8質量%以上22質量%以下で配合して配合原料を調製し、
この調製した配合原料に水を添加し混練して混練物を調製し、
この調製した混練物を成形して成形物を形成し、
この形成した成形物をマイクロ波を用いて乾燥する
ことを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項9】
請求項4ないし請求項8のいずれかに記載の耐火物の製造方法であって、
前記配合原料は、前記珪石耐火物屑の一部を10質量%以下の配合割合で珪石および溶融シリカのうちの少なくとも一方に置換して配合し調製する
ことを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項10】
請求項4ないし請求項9のいずれかに記載の耐火物の製造方法であって、
前記混練物は、前記配合原料100質量%に対して5質量%以上10質量%以下の水を添加して混練し調製する
ことを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項11】
請求項4ないし請求項10のいずれかに記載の耐火物の製造方法であって、
前記成形物は、前記混練物を、流し込み成形、振動成形、加圧成形、および加圧振動成形のうちのいずれか1つの成形方法により成形する
ことを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項12】
請求項4ないし請求項11のいずれかに記載の耐火物の製造方法であって、
前記成形物のマイクロ波を用いた乾燥は、前記成形物1t当たり6kW以上20kW以下の出力でマイクロ波を照射する
ことを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項13】
請求項4ないし請求項12のいずれかに記載の耐火物の製造方法であって、
前記成形物のマイクロ波を用いた乾燥は、熱風送風環境下または減圧環境下で前記成形物に前記マイクロ波を照射する
ことを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項14】
請求項4ないし請求項13のいずれかに記載の耐火物の製造方法であって、
前記成形物をマイクロ波を用いて乾燥した乾燥物を、1200℃以上で加熱処理する
ことを特徴とする耐火物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−290657(P2006−290657A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111555(P2005−111555)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(591194986)黒崎炉材株式会社 (1)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】