説明

耐火用高張力溶融Zn−A1合金めっき鋼板の製造方法

【目的】 成形加工性と高温強度に優れ、普通鋼に近い鋼組成で、経済的に優れた耐火用高張力溶融Zn−Alめっき鋼板の製造方法の提供。
【構成】 重量%で、C:0.01〜0.25、Si:1.5以下、Mn:0.05〜2.5、P:0.1以下、S:0.02以下、Al:0.005〜0.1の鋼に重量%で、Mo:0、05〜1.0%残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延し、酸洗後、溶融めっき設備における加熱還元温度を450〜950℃で行い、引きつづいて溶融Zn−Alめっきを施す。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は建築・建材分野の構造物に用いられる薄鋼板を対象とし、構造物の高強度化および火災時において十分な強度を有する耐火用高張力溶融Zn−Al合金めっき鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】従来、鉄骨構造物に用いられるJIS規格鋼材として、一般構造用圧延鋼板(G 3101)、溶接構造用圧延鋼板(G 3106)、溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材(G 3106)、また構造用軽量型鋼や構造用鋼管の素材として熱間圧延軟質鋼板(G 3132)、溶融亜鉛めっき鋼板(G 3302)等が広く利用されている。
【0003】一方、火災時における安全性を確保するため、火災時にも鋼材温度が350℃を超えないよう耐火被覆を施すことが義務づけられているが、鋼材の高温強度が確保される場合には、無被覆で鋼材を使用することも可能となる。そこで、高温においても高い耐力を有する鋼材の使用が種々検討されている。
【0004】鋼材の高温強度については、古くから調べられており、ボイラー用鋼板あるいは圧力容器用鋼板として規格化されているが、これらは高温で数万時間といった長時間使用の場合の強度、すなわちクリープ強度の高い鋼材であり、本発明で問題としている強度は火災時の数時間以内の強度である。上記の高温用鋼板は常温における強度が高すぎるため冷間加工性が、さらに溶接性が構造用鋼板にくらべ大幅に劣ることから適用できない。
【0005】従来の高張力鋼板は母材の金属組織の変化により、高温強度を確保することが難しく、このような観点から例えば本発明と目的(用途)を同じとする耐火用の高温強度を高めた建築用の亜鉛めっき鋼板として特開平2−197520号、特開平2−254117号がある。特開平2−197520号、特開平2−254117号ともTi、Nbを添加したIF鋼(Interstitial Free Steel)にCuを含有させたもので、常温強度はCuの固溶強化で、高温強度をCuのクラスターないし析出によって強化しているものである。
【0006】高温強度をCuのクラスターないし析出によって強化することは有効な技術であるが、これらは500℃付近の温度で最も効果を発揮するもので高温の600℃では析出Cu粒子の凝集化が進むため効果が小さくなる。このため、さらに多量のCuを必要とする。Cuの析出によって高温強度を高めるためには熱間圧延終了段階でCuを固溶させるため、極低温巻取り(450℃以下)が必要であるが、450℃以下の巻取りを行うと板形状確保が困難となる。また、極低温巻取りを行ってCuを固溶させても溶融めっき工程にかける加熱によって一部もしくは大部分Cuが析出してしまい高温強度を高める効果が小さくなることはいなめない。鋼にCuを多量に含有させると、熱間圧延時に高温割れが生じるが、この高温割れを防止するために、ほぼ同量の高価な金属であるNiの含有が必要となる。さらにIF鋼をベースとしているため製鋼脱炭を必要とし、製造コスト上昇を招く等の欠点を有している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、高温特性、軽量鉄骨等への成形加工性、母材の耐食性に優れ、さらに製鋼工程、熱間圧延工程に特別な手段を使用せず、普通鋼に近い鋼組成で、経済的に優れた耐火用高張力溶融Zn−Al合金めっき鋼板の製造方法の提供にある。
【0008】
【問題を解決しようとする手段】本発明者らは、600℃での鋼板強度に及ぼす化学組成、製造条件について種々検討した結果、普通鋼に近い組成系においてMo添加あるいはW添加およびTi、Nb、Vの複合添加が極めて有効で、600℃での降伏強度が室温の降伏強度の0.6以上となる鋼板の製造方法を見出した。
【0009】本発明はこの知見に基づいてなされたもので、(1)重量%でC:0.01〜0.25、Si:1.5以下、Mn:0.05〜2.5、P:0.1以下、S:0.02以下、Al:0.005〜0.1、Mo:0.05〜1.0、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延を行い、酸洗後、連続溶融めっき設備における加熱還元を450〜950℃の温度で行い、引き続いて溶融Zn−Al合金めっきを施すことを特徴とする耐火用高張力溶融Zn−Al合金めっき鋼板の製造方法、
【0010】(2)重量%でC:0.01〜0.25、Si:1.5以下、Mn:0.05〜2.5、P:0.1以下、S:0.02以下、Al:0.005〜0.1、W:0.01〜1.0、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延を行い、酸洗後、連続溶融めっき設備における加熱還元を450〜950℃の温度で行い、引き続いて溶融Zn−Al合金めっきを施すことを特徴とする耐火用高張力溶融Zn−Al合金めっき鋼板の製造方法、
【0011】(3)重量%でC:0.01〜0.25、Si:1.5以下、Mn:0.05〜2.5、P:0.1以下、S:0.02以下、Al:0.005〜0.1、Mo:0.05〜1.0に加えてCr:0.05〜3.0、W:0.01〜1.0、Ti:0.005〜0.2、Nb:0.005〜0.2、V:0.005〜0.2、B:0.0003〜0.003のうち一種もしくは二種以上含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延を行い、酸洗後、連続溶融めっき設備における加熱還元を450〜950℃の温度で行い、引き続いて溶融Zn−Al合金めっきを施すことを特徴とする耐火用高張力溶融Zn−Al合金めっき鋼板の製造方法、及び
【0012】(4)重量%でC:0.01〜0.25、Si:1.5以下、Mn:0.05〜2.5、P:0.1以下、S:0.02以下、Al:0.005〜0.1、Mo:0.05〜1.0、Cu:0.05〜0.6に加えて、Ni:0.05〜0.6、W:0.01〜1.0、Ti:0.005〜0.2、Nb:0.005〜0.2、V:0.005〜0.2、B:0.0003〜0.003のうち一種もしくは二種以上含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延を行い、酸洗後、連続溶融めっき設備における加熱還元を450〜950℃の温度で行い、引き続いて溶融Zn−Al合金めっきを施すことを特徴とする耐火用高張力溶融Zn−Al合金めっき鋼板の製造方法を提供する。
【0013】まず、この発明において組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。Cは、所定の強度を確保するために添加するが、0.01%未満ではその添加効果に乏しく、一方、0.25%を超えると加工性、溶接性および靱性に劣るため0.01〜0.25%に限定した。
【0014】Siは、強度向上元素として有効であるが、本発明者らの研究によれば連続溶Zn−Al合金めっき設備に通板した場合に鋼中のSi含有量が約0.1%を超えると不めっきが生じる。ただし、連続溶融めっき設備への通板に先立って、Fe系の電気めっきを施しておけばこの問題は解消される。しかし、Siが1.5%を超えると硬質となり延性が劣化し、また、靱性に劣るため1.5%以下に限定した。
【0015】Mnは、製鋼時の脱酸剤として、また、不純物であるSによる熱間脆性を防止するのに有効であり、そのために最低0.05%以上必要である。一方、鋼の強度を向上させるにも望ましい元素である。しかし、2.5%を超えると延性、靱性に劣る。このため0.05〜2.5%に限定した。
【0016】Pは、強度向上元素として有効であり、Cuとの相互作用で耐食性の向上をもたらすが、0.1%を超える添加は脆化を助長させるので0.1%以下とする。
【0017】Sは、母材鋼にとって本質的に有害な元素であり少ないほど望ましいが、本発明の場合、0.02%までは許容できるので0.02%以下とした。
【0018】Alは、脱酸剤としての役割を果たすのみならず、鋼中のNをAlNとして固定する働きがある。このためには0.005%以上が必要であるが、0.1%を超えると介在物が増大し、加工性および表面品質を劣化させるので、下限を0.005%、上限を0.1%とした。
【0019】Mo、Wは、鋼中に固溶し、あるいは炭化物を析出し、鋼材の高温強度を向上させる効果を有する。このような効果を得るためにはMoは0.05%以上、Wは0.01%以上の添加を必要とするが、1.0%を超えて添加しても添加に見合った効果が得られない。このため下限をMoは0.05%、Wは0.01%とし、上限を1.0%とした。
【0020】Crは、母材の耐食性を改善する元素であり、また、焼入れ性を向上させるとともに、焼戻して炭化物を析出し、高温強度を向上させる元素である。このような効果を要するとき0.05%以上を添加する。しかし、構造用材としては3.0%を超える添加は不必要なため上限を3.0%とした。
【0021】Ti、Nb、Vは、室温強度および高温強度を向上させる元素であるが、0.005%未満では効果が認められないため、いずれも下限を0.005%とした。また、0.2%を超えると添加量に見合った効果が認められないため、上限を0.2%とした。
【0022】Cuは、Pとの相乗効果により耐食性を向上させる。このような効果を得るには0.05%以上の添加が必要であるが、0.6%を超える添加は熱間圧延時、高温割れが著しくなる。このため、下限を0.05%、上限を0.6%とした。
【0023】Niは、耐食性を向上させる元素であり、また、熱間脆性の防止に有効な元素であるが、このような効果を期待するためには、0.05%以上の添加が必要であるが、0.6%を超えて添加しても製造コストが高くなる。このため、下限を0.05%、上限を0.6%とした。
【0024】Bは、焼入れ性を向上させるとともに粒界強化元素であり、このような効果を要する時、0.0003%以上の添加が必要であるが、0.003%を超えて添加しても効果は飽和する。このため、下限を0.0003%、上限を0.003%とした。
【0025】本発明においては、以上のような組成を有する鋼を通常の工程でスラブとした後、熱間圧延により所定の板厚の鋼板とするが、1050〜1250℃の加熱、800〜950℃の仕上げ圧延、500〜700℃の巻取り温度とすることが望ましい。
【0026】次に上記の鋼板を酸洗後、連続溶融めっき設備で加熱温度を450〜950℃の温度で行い、溶融Zn−Al合金めっきを施こす。そのさい、連続溶融めっき設備に通板する前に、連続電気めっき設備で適量の鉄めっきを施しておくことも有利である。これによって不めっき発生率を皆無にすることができる。とくに前記化学組成の鋼のうちでも、Si含有量が0.1%を超えるものについてはこの鉄めっきが有利である。鉄めっきの付着量は2g/m2程度の薄いものでよい。連続溶融めっき設備における加熱還元温度が450℃未満ではめっき密着性が劣り、950℃を超えると表面疵が発生し易くなり良製品が得難くなる。
【0027】溶融Zn−Al合金めっきには、Alを約5%含んだZn−Al合金めっきとAlを約50%含んだZn−Al合金めっきとがあるが、本発明方法はこの両者を包含する。
【0028】
【実施例1】以下に実施例を挙げて本発明の効果を具体的に示す。表1に示す化学組成のスラブを表2に示す条件で熱間圧延し、板厚3.2mmの熱延鋼板とした。得られた熱延鋼板を酸洗後、Al:4.8%を含むZn浴の連続溶融めっき設備で表2に示す条件で付着量100g/m2の溶融Zn−Al合金めっきを施した。
【0029】室温における引張試験はJIS Z22201の5号試験片を用い、高温引張試験はJIS G0567に準じ、600℃に15分保ち、その後、引張強さ、降伏強度を測定した。また、高温強度の指標として600℃および室温における降伏強度の比、いわゆる降伏強度比を採用した。
【0030】表2の結果に見られるように、比較例であるNo.1およびNo.12の溶融Zn−Al合金めっき鋼板は、室温においては強度延性に優れる特性を有するが、600℃における降伏強度の低下が大きく、室温の降伏強度の0.6以上を満たさず、高温特性に劣る。
【0031】これに対し、本発明例であるNo.2〜11およびNo.13〜15の溶融Zn−Al合金めっき鋼板は、室温における延性の低下も認められず、600℃における降伏強度の低下が極めて小さく、室温の降伏強度の0.6倍以上を満たす。特にMo添加のNo.3およびCu、Mo、W、V複合添加のNo.10では、それぞれ0.80、0.74と極めて高い降伏強度比を有している。
【0032】
【実施例2】表3に示す化学組成の鋼を転炉で溶製、連続鋳造でスラブとした後、表4に示す条件で熱間圧延し、板厚3.2mmの熱延鋼板とした。得られた熱延鋼板を酸洗後、連続電気めっきラインにて付着量2g/m2のFe−0.01%Bめっきを施した。その後Al:4.8%を含むZn浴の連続溶融めっき設備で表4に示す条件で付着量100g/m2の溶融Zn−Al合金めっきを施した。
【0033】得られた溶融Zn−Al合金めっき鋼板の室温における機械的性質および600℃における高温特性を実施例1と同様に評価した。
【0034】表4の結果に見られるように、比較例であるNo.18の溶融Zn−Al合金めっき鋼板は、溶融めっき加熱還元温度によらず室温における延性は優れるものの、600℃における降伏強度の低下が著しく、高温特性に劣っている。
【0035】これに対し、本発明例であるNo.19およびNo.20の溶融Zn−Al合金めっき鋼板は、室温における強度延性バランスにすぐれ、600℃における降伏強度の低下も小さく、降伏強度比0.6以上を有する高温特性に優れるものとなっている。発明例で示した化学組成の鋼は溶融めっき加熱還元温度によりその強度が大きく変化するが、二相複合組織鋼となっている830℃の高温加熱処理材が、総じて強度延性バランスに優れ、かつ僅かながら降伏強度比が高い。
【0036】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、高温特性、成形加工性、耐食性に優れ、かつ、製鋼工程、熱間圧延工程に特別な手段を使用せず、普通鋼に近い鋼成分で、経済的に優れた耐火用高張力溶融Zn−Al合金めっき鋼板を製造することが可能となり、産業上の効果は極めて顕著である。
【表1】


【表2】


【表3】


【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量%でC:0.01〜0.25、Si:1.5以下、Mn:0.05〜2.5、P:0.1以下、S:0.02以下、Al:0.005〜0.1、Mo:0.05〜1.0、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延を行い、酸洗後、連続溶融めっき設備における加熱を450〜950℃の温度で行い、引き続いて溶融Zn−Al合金めっきを施すことを特徴とする耐火用高張力溶融Zn−Al合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】 重量%でC:0.01〜0.25、Si:1.5以下、Mn:0.05〜2.5、P:0.1以下、S:0.02以下、Al:0.005〜0.1、W:0.01〜1.0、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延を行い、酸洗後、連続溶融めっき設備における加熱還元を450〜950℃の温度で行い、引き続いて溶融Zn−Al合金めっきを施すことを特徴とする耐火用高張力溶融Zn−Al合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】 重量%でC:0.01〜0.25、Si:1.5以下、Mn:0.05〜2.5、P:0.1以下、S:0.02以下、Al:0.005〜0.1、Mo:0.05〜1.0に加えてCr:0.05〜3.0、W:0.01〜1.0、Ti:0.005〜0.2、Nb:0.005〜0.2、V:0.005〜0.2、B:0.0003〜0.003のうち一種もしくは二種以上含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延を行い、酸洗後、連続溶融めっき設備における加熱還元を450〜950℃の温度で行い、引き続いて溶融Zn−Al合金めっきを施すことを特徴とする耐火用高張力溶融Zn−Al合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】 重量%でC:0.01〜0.25、Si:1.5以下、Mn:0.05〜2.5、P:0.1以下、S:0.02以下、Al:0.005〜0.1、Mo:0.05〜1.0、Cu:0.05〜0.6に加えて、Ni:0.05〜0.6、W:0.01〜1.0、Ti:0.005〜0.2、Nb:0.005〜0.2、V:0.005〜0.2、B:0.0003〜0.003のうち一種もしくは二種以上含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延を行い、酸洗後、連続溶融めっき設備における加熱還元を450〜950℃の温度で行い、引き続いて溶融Zn−Al合金めっきを施すことを特徴とする耐火用高張力溶融Zn−Al合金めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開平5−306411
【公開日】平成5年(1993)11月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−102084
【出願日】平成4年(1992)3月27日
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)