説明

耐熱マグネットワイヤおよびその製造方法

【課題】耐熱性と曲げ特性とを改善した耐熱マグネットワイヤを提供する。
【解決手段】純銅導線(1a)の外周面にニッケル層(1b)を形成した金属導線(1)の外周面に、二酸化珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜(2)を形成する。
【効果】高出力スピーカ用コイル、自動車用ファンモータコイル、トランスコイル、DVDモータ用コイル、HDDモータ用コイルなど発熱が著しく、高耐熱性が求められる巻線に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱マグネットワイヤおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、耐熱性と曲げ特性とを改善した耐熱マグネットワイヤおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジルコニウムの化合物およびシリコンの化合物を含むコーティング用組成物を導体上に塗布、熱硬化させセラミック絶縁皮膜を形成したセラミック絶縁被覆電線が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−222616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のセラミック絶縁被覆電線では、ジルコニウムの化合物およびシリコンの化合物を含むコーティング用組成物を導体上に塗布して耐熱性を向上させている。
本発明の目的は、上記従来のコーティング用組成物とは異なるコーティング用組成物を用いて耐熱性と曲げ特性とを改善した耐熱マグネットワイヤおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、金属導線(1)と、前記金属導線(1)の外周面に形成した珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜(2)とを具備したことを特徴とする耐熱マグネットワイヤ(100)を提供する。
上記第1の観点による耐熱マグネットワイヤ(100)では、シリカミクロ多孔体膜(2)により耐熱性を改善できる。また、シリカミクロ多孔体膜(2)のミクロ孔が緩衝作用を有するため、柔軟に曲げることが出来る。よって、高出力スピーカ用コイル、自動車用ファンモータコイル、トランスコイル、DVDモータ用コイル、HDDモータ用コイルなど発熱が著しく、高耐熱性が求められる巻線に好適な耐熱マグネットワイヤとなる。
なお、曲げたときにシリカミクロ多孔体膜(2)に発生する歪みは線径と曲げ半径とに依存するが、歪み2%程度までは曲げに十分耐えることが出来る。
【0006】
第2の観点では、本発明は、上記構成の耐熱マグネットワイヤ(100)において、前記金属導線(1)が、外周面にニッケル膜(1b)を形成した銅導線または銅合金導線(1a)であることを特徴とする耐熱マグネットワイヤ(100)を提供する。
上記第2の観点による耐熱マグネットワイヤ(100)では、ニッケル膜(1b)を中間層とすることによりシリカミクロ多孔体膜(2)の密着性を向上することが出来る。この理由は、シリカミクロ多孔体膜(2)を形成する際に150℃前後まで加熱するが、ニッケル膜(1b)の外周面は酸化しないためである。
【0007】
第3の観点では、本発明は、上記構成の耐熱マグネットワイヤ(100)において、前記シリカミクロ多孔体膜(2)の厚さが0.1μm以上、50μm以下であることを特徴とする耐熱マグネットワイヤ(100)を提供する。
シリカミクロ多孔体膜(2)を0.1μmより薄くすると、十分に耐熱性を改善できない。他方、50μmより厚くすると、曲げたときにシリカミクロ多孔体膜(2)にクラックが発生することがあった。
そこで、上記第3の観点による耐熱マグネットワイヤ(100)では、シリカミクロ多孔体膜(2)の厚さを0.1μm以下、50μm以下とした。これにより、耐熱性を改善でき且つ曲げたときにシリカミクロ多孔体膜(2)にクラックが発生することを防止できた。
【0008】
第4の観点では、本発明は、金属導線(1)の外周面に、シリカミクロ多孔体溶液を塗布し焼付けして、珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜(2)を形成することを特徴とする耐熱マグネットワイヤの製造方法を提供する。
上記第4の観点による耐熱マグネットワイヤの製造方法では、上記第1から第3の観点による耐熱マグネットワイヤ(100)を連続的に製造することが出来る。
【0009】
第5の観点では、本発明は、上記構成の耐熱マグネットワイヤの製造方法において、前記シリカミクロ多孔体溶液は、シリコンアルコキシドと加水分解反応を促進する活性アルコールとアルコールと水の混合液からゾル−ゲル法により合成されたものであることを特徴とする耐熱マグネットワイヤの製造方法を提供する。
上記第5の観点による耐熱マグネットワイヤの製造方法では、シリカミクロ多孔体溶液をゾル−ゲル法により合成するので、製造コストを低減することが出来る。
【発明の効果】
【0010】
本発明の耐熱マグネットワイヤによれば、シリカミクロ多孔体膜(2)のミクロ孔が緩衝作用を有するため、必要な曲げ強度が得られる。また、シリカミクロ多孔体膜(2)は、珪素を主成分とするため、極めて優れた耐熱性が得られる。
さらに、本発明の耐熱マグネットワイヤの製造方法によれば、上記耐熱マグネットワイヤを好適に製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0012】
図1は、実施例1に係る耐熱マグネットワイヤ100を示す断面図である。
この耐熱マグネットワイヤ100は、純銅導線1aの外周面にニッケル層1bを形成した金属導線1の外周面に、二酸化珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜2を形成した構成である。
【0013】
数値例を示すと、純銅導線1aの直径は0.3mm、ニッケル層1bの厚さは0.3μm、シリカミクロ多孔体膜2の厚さは1μmである。シリカミクロ多孔体膜2は外周面に孔径2nm以下のミクロ孔を有している。
【0014】
図2は、耐熱マグネットワイヤ100の製造過程を示す説明図である。
純銅導線1aの外周面に電解メッキまたは無電解メッキによりニッケル層1bを形成した金属導線1に、シリカミクロ多孔体溶液塗布部SCでシリカミクロ多孔体溶液を塗布し、焼付け部SRで焼き付けて、シリカミクロ多孔体膜2を形成し、耐熱マグネットワイヤ100を製造する。
【0015】
図3は、ゾル−ゲル法によるシリカミクロ多孔体溶液の合成処理を示すフロー図である。
ステップS1では、シリコンアルコキシドと加水分解反応を促進する活性アルコールとアルコールと水の混合液を調製する。
なお、シリコンアルコキシドは、例えばTMOS(テトラメトキシシラン)やTEOS(テトラエチルオルソシリケート)等である。
また、加水分解反応を促進する活性アルコールは、例えばヒドロキシアセトン、1−ペンテン−3−オール、アセトンシアノヒドリン等である。
また、アルコールは、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等である。
【0016】
ステップS2では、混合液を攪拌する。
ステップS3では、混合液に塩触媒を添加する。
ステップS4では、混合液を攪拌する。
以上により、シリカミクロ多孔体溶液を合成できる。
なお、上記シリカミクロ多孔体溶液の合成方法は、「化学工学会 第34回秋季大会、2001」で発表されている。また、特願2003−83915に記載されている。
【0017】
実施例1の耐熱マグネットワイヤ100は、曲げ半径7.5mmまで曲げることが出来た。また、耐熱温度は1000℃以上であった。
【実施例2】
【0018】
実施例1の耐熱マグネットワイヤ100からニッケル層1bを省略してもよい。また、純銅導線1aの代わりに銅合金導線を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の耐熱マグネットワイヤは、高出力スピーカ用コイル、自動車用ファンモータコイル、トランスコイル、DVDモータ用コイル、HDDモータ用コイルなど発熱が著しく、高耐熱性が求められる巻線に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1に係る耐熱マグネットワイヤを示す断面図である。
【図2】実施例1に係る耐熱マグネットワイヤの製造過程を示す説明図である。
【図3】ゾル−ゲル法によるシリカミクロ多孔体溶液の合成処理を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0021】
1 金属導線
1a 純銅導線
1b ニッケル層
2 シリカミクロ多孔体膜
100 耐熱マグネットワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属導線(1)と、前記金属導線(1)の外周面に形成した珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜(2)とを具備したことを特徴とする耐熱マグネットワイヤ(100)。
【請求項2】
請求項1に記載の耐熱マグネットワイヤ(100)において、前記金属導線(1)が、外周面にニッケル膜(1b)を形成した銅導線または銅合金導線(1a)であることを特徴とする耐熱マグネットワイヤ(100)。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の耐熱マグネットワイヤ(100)において、前記シリカミクロ多孔体膜(2)の厚さが0.1μm以上、50μm以下であることを特徴とする耐熱マグネットワイヤ(100)。
【請求項4】
金属導線(1)の外周面に、シリカミクロ多孔体溶液を塗布し焼付けして、珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜(2)を形成することを特徴とする耐熱マグネットワイヤの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の耐熱マグネットワイヤの製造方法において、前記シリカミクロ多孔体溶液は、シリコンアルコキシドと加水分解反応を促進する活性アルコールとアルコールと水の混合液からゾル−ゲル法により合成されたものであることを特徴とする耐熱マグネットワイヤの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−100168(P2006−100168A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286486(P2004−286486)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】