説明

耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品

【課題】耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】原料ナチュラルチーズに対して0.1〜3重量%のプレクックドチーズ、溶融塩を添加し、乳化釜において85〜100℃で加熱溶解し、加熱溶解、冷却後ケーシングしたチーズを燻製処理することにより、風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品を製造する。本発明のスモークチーズ様食品は、そのまま食しても、加熱して食しても、加熱後に冷めて食しても美味しく食すことができ、また、料理や加工食品に利用する際に、チーズを加熱しても溶けにくく、耐熱保形性に優れており、本発明は、風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品を提供する。本発明のスモークチーズ様食品は、入手が容易な乳原料を利用して製造することができるため、容易に工業生産することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品、及びその製造方法に関する。本発明のチーズはそのままでも、加熱後においても、滑らかな組織を有し、風味が良好であるという特徴を有する。よって、本発明のチーズは、そのまま食しても、加熱して食しても、加熱後に冷めて食しても美味しく食すことができる。また、本発明のスモークチーズ様食品は、料理や加工食品に利用する際に、チーズを加熱しても溶けにくく、耐熱保形性に優れている。したがって、本発明は、特に、風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チーズは冷蔵されたものをそのまま食すことが多いが、パンや菓子、竹輪等加工食品の製造に際し、混合或いは組み合わせて、チーズ入り食品として供給されている。該加工食品の製造にチーズを利用する際には、加熱処理が行われる場合が多く、したがって、チーズを加熱しても溶けにくいように、耐熱保形性を付与する技術が開発されてきた。チーズに耐熱保形性を付与する技術としては、チーズの製造に際して、チーズの製造原料を選択する方法や、各種の成分や素材を添加する方法や、各種の処理工程を採用する方法等の種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば、各種の成分や素材を添加する方法として、乳原料以外の素材を添加するものとしては、原料チーズに、澱粉及び溶融塩を添加する方法(特許3308914号公報)、ナチュラルチーズに、溶融塩と酸化澱粉、エステル化澱粉、又はエーテル化澱粉を添加する方法(特許3108968号公報)、水分量が多いチーズに、ゲル化剤として寒天を添加する方法(特開平10−28526号公報)、原料チーズに対して、小麦グルテンを添加する方法(特開2003−102381号公報)、ポリリジンを添加する方法(特公平6−42813号公報)、ナチュラルチーズにグルコマンナンを添加する方法(特開平9−294538号公報)、牛血清タンパク質を含有させる方法(特開2000−245343号公報)が開示されている。
【0004】
また、通常はチーズの製造に使用しない乳原料等を使用する方法としては、例えば、乳の脂肪量に対して、乳脂肪部分グリセリドを1〜20重量%添加する方法(特許4125850公報)、熟成が進行していないグリーンチーズに、レンネットカゼイン及びラクチックカゼインを添加して得られる混合物を基材とする方法(特開昭59−198938号公報)、αsカゼイン比率の高いチーズを原料に使用する方法(特許3103331号公報、特許3181028号公報、特開2001−69911号公報)、及び高水分軟質チーズに、ゼラチン及び乳タンパク質濃縮物を添加する方法(特開2009−112226号公報)が開示されている。
【0005】
新たに処理工程を採用する方法としては、各種チーズを破砕混合したものに、オルソリン酸塩、ピロリン酸塩を含有させて成形したプロセスチーズを、40℃〜100℃の温度下で乾熱若しくは湿熱の状態に保持し、エージングする方法(特開昭57−16648号公報)、チーズ類を機械的な剪断過程を経て、140℃までの形態維持物性をもつチーズ類を製造する方法(特開平3−103142号公報)が開示されている。
【0006】
上記のとおり、チーズに耐熱保形性を付与する技術としては、各種の方法が開示されているが、例えば、乳原料以外の素材を添加する方法では、添加素材の風味が製品チーズの風味に影響したり、組織が硬くなったり、食品添加物の添加が敬遠される社会のニーズに応えることができないという問題があった。また、通常はチーズの製造に使用しない乳原料等を使用する方法においては、原料の入手が困難であったり、コストが高くなるという問題があった。更に、新たに処理工程を採用する方法では、製造コストが割高となったり、既存設備に新規設備を追加するスペースが取れない場合には対応できないという問題があった。したがって、簡便な手段で、チーズ本来の味覚を維持しつつ、しかも、チーズに効果的に耐熱保形性を付与する技術という観点からは、更なる開発が必要とされていた。
【0007】
一方で、ナチュラルチーズや、プロセスチーズを、燻煙室で処理し、スモークの成分をチーズに含有させて、独特の香味及び味覚を付与したスモークチーズが知られている。食品に対するスモーキングの目的は、製品の嗜好性と貯蔵性の向上であることが知られており(特公昭56−7649号公報)、その独特の香味、味覚と貯蔵性から、それ自体種々の利用形態があるが、各種のスモークチーズに適した耐熱保形性を向上させる技術という観点からの開発は従来行われてきていなかった。したがって、スモークチーズを、料理や加工食品の製造に利用するに際して、加熱処理が行われる場合には、耐熱保形性等の観点からの制約があり、従来、かかる分野での利用が行われていなかった。
【0008】
他方、プロセスチーズ類に、プレクックドチーズを添加することは従来より行われてきた。すなわち、プロセスチーズ類の製造においては、製造ライン中に残存するチーズや、成形不良、包装不良、内容量不足等の不良製品チーズ等のロスが発生する。かかるロスを新たなプロセスチーズ類の製造に再利用することが行われている。この再利用チーズは、プレクックドチーズ(Pre-cooked cheese) 、リワーキングチーズ(Reworking cheese)、又は、再製チーズと称されている。
【0009】
プレクックドチーズを多く原料チーズに混合して加熱溶融した場合、溶融物の粘度上昇が著しく製造に支障が発生する。即ち、溶融物の粘度上昇が著しくなり、ポンプによる配管輸送、充填、成形等プロセスチーズ類の製造工程で様々な支障が生じる。又、プレクックドチーズを多く含み加熱溶融時に粘度が上昇した溶融物は、仮に充填が可能だったとしても、冷却後に得られる製品は通常の製品より明らかに硬い組織になってしまう。そのため、原料チーズの歩留り向上の為、プレクックドチーズを使用できる量は少量に限定されている。プレクックドチーズの使用割合を増やす為にグリセリン脂肪酸ナトリウム等特定の乳化剤を使用することも行われている(特許3514893号公報)。しかしながら目的は、原料チーズの歩留り向上のためであり、スモークチーズ様食品の耐熱性を向上するためには使用されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭56−7649号公報。
【特許文献2】特公平6−42813号公報。
【特許文献3】特開昭57−16648号公報。
【特許文献4】特開昭59−198938号公報。
【特許文献5】特開平3−103142号公報。
【特許文献6】特開平9−294538号公報。
【特許文献7】特開平10−28526号公報。
【特許文献8】特開2000−245343号公報。
【特許文献9】特開2001−69911号公報。
【特許文献10】特開2003−102381号公報。
【特許文献11】特開2009−112226号公報。
【特許文献12】特許3103331号公報。
【特許文献13】特許3108968号公報。
【特許文献14】特許3181028号公報。
【特許文献15】特許3308914号公報。
【特許文献16】特許3514893号公報。
【特許文献17】特許4125850公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品、及びその製造方法を提供すること、特に、そのまま食しても、加熱して食しても、加熱後に冷めて食しても美味しく食すことができ、また、料理や加工食品に利用する際に、チーズを加熱しても溶けにくく、耐熱保形性に優れている、風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく、風味や組織が良好で耐熱保形性を有するチーズの製造について鋭意検討する中で、原料ナチュラルチーズに、特定量のプレクックドチーズを添加し、乳化釜において、特定温度で加熱溶解し、加熱溶解、冷却後ケーシングしたチーズを燻製処理することにより、風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、ナチュラルチーズを原料チーズとし、該原料ナチュラルチーズに対して0.1〜3重量%のプレクックドチーズと溶融塩を添加し、乳化釜において85〜100℃で加熱溶解したときの乳化釜中のチーズ粘度が250dPa・s以上600dPa・s以下であることを特徴とし、加熱溶解し冷却後ケーシングしたチーズを燻製処理することにより、風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品を製造する方法からなる。
【0014】
すなわち、本発明者は、チーズ本来の味覚を維持し、しかも、料理や加工食品への利用の観点から耐熱保形性を向上させることを目的として、従来法のように、澱粉や寒天、グルテン等のような乳原料以外の素材を添加せず、入手が容易な乳原料を利用して、工業的に容易に製造でき、風味や組織が良好で、かつ耐熱保形性を有するチーズの開発について、鋭意検討する中で、原料として、ナチュラルチーズと特定量のプレクックドチーズを添加し、燻製することにより、風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の開発に成功した。
【0015】
本発明において使用する原料ナチュラルチーズは、特に限定されないが、硬質のナチュラルチーズを主原料として用いることが好ましい。尚、ここで言う硬質チーズとは水分含量が20〜42%のナチュラルチーズを示す。水分含量が20〜42%のナチュラルチーズであれば、種類は特に限定されないが、好ましくはゴーダチーズ、チェダーチーズを主原料として含有することがより好ましい。さらに好ましくは、硬質チーズ中のゴーダ、チェダーチーズの割合は、ゴーダチーズは30〜70%、チェダーチーズは30〜70%であることが望ましい。このような、原料チーズの配合にすると、乳化釜中のチーズ粘度を適切な範囲に保持しやすくなる。また、本発明において、原料ナチュラルチーズに添加するプレクックドチーズは、80〜100℃でプレクックして調製されたものであることが好ましい。本発明において、ナチュラルチーズに、プレクックドチーズを添加し、乳化釜において85〜100℃で加熱溶解したときの乳化釜中のチーズ粘度は、250dPa・s以上600dPa・s以下であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、原料ナチュラルチーズに、プレクックドチーズを添加し、加熱溶解、冷却後ケーシングしたチーズを燻製処理するが、該燻製処理は、燻製処理前後において、表面色の明るさを示すL値の低下が12〜26となる条件で燻製処理を行うことが好ましい。本発明のスモークチーズ様食品の製造に際しては、該スモークチーズ様食品に更に、蓄肉加工品、魚介類加工品、ナッツ類、野菜類、香辛料、調味料から選択される1又は2以上を配合することができる。本発明のスモークチーズ様食品は、該スモークチーズ様食品のサイズを、長径8cm以下短径3cm以下のひと口サイズに成形することにより、製品化することができる。
【0017】
本発明は、本発明のスモークチーズ様食品の製造方法によって製造されたスモークチーズ様食品の発明を包含する。本発明のスモークチーズ様食品は、次の3つの加熱条件のうち、少なくとも1つの加熱条件により、加熱しても、風味や組織が良好で耐熱保形性を有する:(1)トースター(860W、240℃)で5分間加熱;(2)食用油で200℃で素揚げの状態で2分間加熱;(3)オートクレーブにおいて130℃で2分間加熱。
【0018】
すなわち、具体的には本発明は、[1]原料ナチュラルチーズに対して0.1〜3重量%のプレクックドチーズ、溶融塩を添加し、乳化釜において85〜100℃で加熱溶解し、加熱溶解後冷却したチーズを燻製処理することを特徴とする、風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法や、[2]原料ナチュラルチーズが、ゴーダチーズとチェダーチーズとを含有するものであることを特徴とする前記[1]記載の風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法や、[3]プレクックドチーズが、80〜100℃でプレクックして調製されたものであることを特徴とする前記[1]又は[2]記載の風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法からなる。
【0019】
また、本発明は、[4]ナチュラルチーズに、プレクックドチーズを添加し、乳化釜において85〜100℃で加熱溶解したときの乳化釜中のチーズ粘度が250dPa・s以上600dPa・s以下であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか記載の風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法や、[5]燻製処理前後において、表面色の明るさを示すL値の低下が12〜26となる条件で燻製処理を行うことを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか記載の風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法や、[6]スモークチーズ様食品が、該スモークチーズ様食品に更に、蓄肉加工品、魚介類加工品、ナッツ類、野菜類、香辛料、調味料から選択される1又は2以上を配合することを特徴とする上記[1]〜[5]記載の風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法からなる。
【0020】
更に、本発明は、[7]スモークチーズ様食品が、該スモークチーズ様食品のサイズを、長径8cm以下短径3cm以下のひと口サイズに成形することを特徴とする上記[1]〜[6]記載の風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法や、[8]上記[1]〜[7]のいずれかの記載のチーズ様食品の製造方法によって製造された風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品や、[9]スモークチーズ様食品が、以下の3つの加熱条件のうち、少なくとも1つの加熱条件により、加熱しても、風味や組織が良好で耐熱保形性を有することを特徴とする上記[8]記載のスモークチーズ様食品:(1)トースター(860W、240℃)で5分間加熱;(2)食用油で200℃で素揚げの状態で2分間加熱;(3)オートクレーブにおいて130℃で2分間加熱;からなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品、及びその製造方法を提供する。特に、本発明は、そのまま食しても、加熱して食しても、加熱後に冷めて食しても美味しく食すことができ、また、料理や加工食品に利用する際に、チーズを加熱しても溶けにくく、耐熱保形性に優れている、風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品、及びその製造方法を提供する。
【0022】
本発明のスモークチーズ様食品の製造は、耐熱保形性をアップさせることを目的とした乳原料以外の原材料を添加することなく行われるため、製造されたスモークチーズ様食品は、チーズの本来の風味や味覚を保持することができ、また、本発明のスモークチーズ様食品の製造は、入手が容易な乳原料を利用して行うことができるため、容易に工業生産が可能な耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法を提供することができる。本発明の食品はそのまま食しても、加熱後および加熱冷却後においても、滑らかな組織を有し、風味が良好であるという特徴を有する。本発明のスモークチーズ様食品の製造においては、プレクックドチーズを適量添加使用することにより、タンパクを中心にした3次元構造を作り出し、チーズ全体の耐熱保形性を上げ、更に、燻製による表面硬化により耐熱保形性を向上させることを可能にしている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、ナチュラルチーズを原料チーズとし、該原料ナチュラルチーズに対して0.1〜3重量%のプレクックドチーズと溶融塩を添加し、乳化釜において85〜100℃で加熱溶解したときの乳化釜中のチーズ粘度が250dPa・s以上600dPa・s以下であることを特徴とし、加熱溶解後冷却固化したチーズを燻製処理することにより、風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品を製造することからなる。
【0024】
本発明のスモークチーズ様食品は、風味や組織が良好で耐熱保形性を有する食品であり、乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)上のプロセスチーズ、チーズフード、乳等を主要原料とする食品及びこれらに類似する加工食品に該当する。なお、本発明のスモークチーズ様食品には、スモークチーズそのものも含んでいる。
【0025】
本発明のスモークチーズ様食品の製造においては、嗜好性向上のため、蓄肉加工品、魚介類加工品、ナッツ類、野菜類から選択される1又は2品種以上を配合することができる。該配合材料としては、蓄肉加工品、魚介類加工品、ナッツ類、野菜類はいずれも使用原料に制約はないが、蓄肉加工品としては、ベーコン、サラミ、ハム、生ハム、ソーセージ、コンビーフ、フォアグラ等、魚介類加工品としては、明太子、ホタテ、イカ、タコ、サケ等、ナッツ類としては、アーモンド、ピーナッツ、カシューナッツ、クルミ、マカダミアナッツ、ココナッツ、胡麻、松の実等、野菜類としては、オニオン、にんにく、生姜等、香辛料、調味料としては、コショウ、わさび、唐辛子等を好適に使用することができる。
【0026】
本発明のスモークチーズ様食品の製造においては、原料ナチュラルチーズに、プレクックドチーズが添加される。プロセスチーズ類の製造においては、製造ライン中に残存するチーズや、成形・包装不良、内容量不足等の不良製品チーズ等のロスが発生する。このようなロスを新たなプロセスチーズ類の製造に再利用することが行われている。この再利用チーズは、プレクックドチーズと呼ばれている。
【0027】
本発明のスモークチーズ様食品の製造において、プレクックドチーズの添加量はナチュラルチーズの0.1%〜3%が良く、好ましくは0.3%〜2%、更に好ましくは、0.7%〜1.5%である。プレクックドチーズの添加量が少なすぎると耐熱保形性が不十分となり、プレクックドチーズの添加量が多すぎると、製品のチーズ組織が硬くなりすぎたり、製造時に粘度が高くなりすぎて扱いづらくなる場合がある。プレクックドチーズの加熱(プレクック)条件は好ましくは80℃〜100℃、より好ましくは85℃〜95℃である。加熱温度が低すぎても、高すぎても耐熱保形性が不十分となってしまう。
【0028】
使用する原料チーズは、85〜100℃で加熱溶解時の乳化釜中のチーズ粘度が250dPa・s以上になるものであれば、ナチュラルチーズの種類は特に限定されないが、ゴーダチーズとチェダーチーズを含むことが好ましい。ゴーダチーズとチェダーチーズを含むことにより、耐熱保形性の付与と風味の良さの両立を行いやすくなる。
【0029】
本発明のスモークチーズ様食品の製造においては、原料のナチュラルチーズを原料チーズとして使用し、プレクックドチーズを添加して、乳化釜において85〜100℃で加熱溶解するが、加熱溶解時の乳化釜中のチーズ粘度は250dPa・s以上である必要がある。(粘度測定:RION社 ビスコテスタVT−04 使用ローター No.2)加熱溶解時の乳化釜中のチーズ粘度は250dPa・s未満であると、耐熱保形性が十分得られない。600dPa・s程度以上に粘度が高くなると、耐熱保形性は付与されるものの、組織が硬くなったり、こげが発生しやすくなったり、チーズの移送が行い難くなったりして、工業的な生産が効率的に行うことが難しくなる場合がある。
【0030】
本発明のスモークチーズ様食品の製造においては、原料ナチュラルチーズに、プレクックドチーズを添加し、乳化釜において加熱溶解し、加熱溶解後冷却固化したチーズに、燻製を施すことで、チーズ表面を硬化させる。該燻製の条件は耐熱保形性や風味やチーズの組織に大きな影響を及ぼす。燻材としてはブナ、ナラ、サクラ、りんご、クルミ、シラカバなどいずれも利用することができ、特に限定はしないが、サクラが最も好適に使用することができる。燻製においては、燻材、燻煙濃度、温度、湿度、燻煙時間等様々な因子により製品品質が異なるので、燻製前の色と燻製後の色の色度差により評価を実施することができる。燻製条件が弱すぎると、耐熱保形性が得られなかったり、スモーク臭が少なすぎたりし、燻製条件が強すぎると、耐熱保形性は得られるものの、チーズ組織が硬くなり、ぼそぼそしてくるので好ましくない。該燻製処理は、燻製処理前後において、表面色の明るさを示すL値の低下が12〜26となる条件で燻製処理を行うことが好ましい。
【0031】
本発明のスモークチーズ様食品の製品形態は、適宜のものが採用でき、特に限定はないが、サイズがひと口サイズ(長径8cm以下短径3cm以下)の形状で製品化することができ、該形状のものは、加熱しやすく、風味、組織、耐熱保形性、食べやすさの観点からより好ましい。
【0032】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら試験例及び実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
[1.スモークチーズ様食品の製造方法]
(1)原材料
原料:ゴーダチーズ;チェダーチーズ;プレクックドチーズ;ポリリン酸系溶融塩;ベーコン
【0034】
(2)製造方法
原材料及びその配合量を、表1に示す。ゴーダチーズ42%、チェダーチーズ28%添加し、85〜90℃で加熱溶解し、ポリリン酸系溶融塩を2%添加、プレクックドチーズを1%添加した。ベーコンを20%添加して、所定基準にて殺菌、ケーシングに充填した。
【0035】
【表1】

【0036】
(3)燻煙方法
燻煙を0、5、10、15、20分間というように5分毎に55分間まで、燻煙を実施した12サンプルを準備し、12時間冷蔵保存後、耐熱保形性測定用サンプルとした。
【0037】
[2.燻製度と耐熱性の相関実験]
(1)試験方法
1)色差の測定:
色彩色差計としてミノルタCR−300を使用し、L値(メトリック明度)を測定した。L値が0に近いと黒、100に近いと白となる。燻製を実施していないサンプルのL値を基準L値とし、燻製時間によってL値がどのように変動するかを調査した。燻製実施後のL値−基準L値=deltaL値とし、deltaL値を経時的に測定した。計測箇所はチーズ表面の中心部とした。
【0038】
2)粘度の測定:
RION社 ビスコテスタVT−04使用ローター No.2を使用し、乳化釜において加熱溶解したチーズをサンプリングし、粘度を測定した。測定時の温度は85℃であった。尚、当該試料の粘度は、300dPa・sであった。
【0039】
3)耐熱性確認方法:
評価品をスモーク工程中、燻製室にて計測しながら5分おきにサンプルを採取した。耐熱保形性は前述のように、燻煙後12時間冷蔵保存後のサンプルについて次の確認方法にて測定した。
<オーブントースターDERIO社、機器使用(860W、240℃)5分間加熱>
【0040】
4)官能評価方法:
得られたサンプルについて、官能評価を実施した。訓練された官能評価パネル6人で5段階評価にて行った。官能評価点数を、表2に示す。6人の結果の平均値の結果を(2)に示すが、点数が大きい程、官能評価結果が良いことを意味する。製品特性上の合格基準は平均値で3.0点以上とする。
【0041】
【表2】

【0042】
商品の特性は、欠け、潰れがなく、原料由来の旨みに香ばしいスモーク臭を有し、異味異臭がない。部位によって組織が異なることなく均一な組織であること。外観は茶褐色、内部は薄淡黄色〜薄茶褐色を有することが必要である。スモークする利点は、適正な燻煙時間を施す事で、スモーク香が適度に吸着し、プロセスチーズに味の厚みをつけている。燻煙時間が短いとスモーク香が着かない為、味の付与が足りず、表面硬化も少ない商品になる。燻煙時間が長すぎると、スモーク香が強く、刺激的な風味を与え、食品としての価値を失う。
【0043】
5)耐熱性評価点数:
上記耐熱性確認方法を用いて、耐熱性評価を行った。該耐熱性評価に用いた耐熱性評価点数(保形性点数)の指標を、表3に示す。製品特性上の合格基準は平均値で3.0点以上とする。
【0044】
【表3】

【0045】
(評価結果)
上記、色差の測定、耐熱性確認方法、官能評価方法を用いた評価結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
[3.発明品(実施例)と市販品(比較例)との耐熱性の評価]
(1)試験方法
発明品(実施例:前述の製法にて製造したもの(スモーク時間30分))、従来品(市販)スモークチーズを含めて、6品を評価対象とし、それぞれ耐熱保形性を確認した。耐熱保形性は前述のように、燻煙後12時間冷蔵保存後のサンプルについて以下の確認方法にて測定した。
1)オーブントースターDERIO社 機器使用(860W、240℃)5分間加熱。
2)素揚げ:食用油にて加熱、200℃2分加熱。
3)オートクレーブTOMMY社 130℃で2分間加熱。
【0048】
耐熱保形性の評価基準を、表5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
(2)評価結果
上記試験方法により、実施例品及び対照例としての従来品(市販)スモークチーズ
について、耐熱保形性を評価した結果を、表6に示す。製品特性上の合格基準は平均値で3.0点以上とする。
【0051】
【表6】

【0052】
[4、発明品と従来品1との加熱前後での官能評価(総合評価)]
【0053】
(1)評価方法
上記本発明品及び従来品1(市販スモークチーズ)について、訓練された官能評価パネル6人で5段階評価にて行った。評価結果は、6人の結果の平均値の結果を示す。点数が大きい程、官能評価結果が良いことを意味する。官能評価に用いた官能評価点数を表7に示す。外観を含めた香味評価は以下の確認方法で検証した。製品特性上の合格基準は平均値で3.0点以上とする。
<オーブントースターDERIO社 機器使用(860W、240℃)5分間加熱>
【0054】
【表7】

【0055】
(2)評価結果
上記本発明品及び従来品1との官能評価の結果を表8に示す。従来品1は、加熱特性を有さないため、加熱時には破裂し中身が出てしまい、味の均一性はなくなる。その為、製品価値としての点数は低くなる。加熱冷却後の従来品1のサンプルでは、組織が荒く滑らかではない組織であった。
【0056】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品、及びその製造方法を提供する。特に、本発明のスモークチーズ様食品は、そのまま食しても、加熱して食しても、加熱後に冷めて食しても美味しく食すことができるという特徴がある。また、料理や加工食品に利用する際に、チーズを加熱しても溶けにくく、耐熱保形性に優れており、風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品、及びその製造方法を提供することができる。本発明のスモークチーズ様食品の製造方法は、入手が容易な乳原料を利用して行うことができるため、容易に工業生産が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ナチュラルチーズに対して0.1〜3重量%のプレクックドチーズ、溶融塩を添加し、乳化釜において85〜100℃で加熱溶解し、加熱溶解後冷却したチーズを燻製処理することを特徴とする、風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法。
【請求項2】
原料ナチュラルチーズが、ゴーダチーズとチェダーチーズとを含有するものであることを特徴とする請求項1記載の風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法。
【請求項3】
プレクックドチーズが、80〜100℃でプレクックして調製されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法。
【請求項4】
ナチュラルチーズに、プレクックドチーズを添加し、乳化釜において85〜100℃で加熱溶解したときの乳化釜中のチーズ粘度が250dPa・s以上600dPa・s以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法。
【請求項5】
燻製処理前後において、表面色の明るさを示すL値の低下が12〜26となる条件で燻製処理を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法。
【請求項6】
スモークチーズ様食品が、該スモークチーズ様食品に更に、蓄肉加工品、魚介類加工品、ナッツ類、野菜類、香辛料、調味料から選択される1又は2以上を配合することを特徴とする請求項1〜5記載の風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法。
【請求項7】
スモークチーズ様食品が、該スモークチーズ様食品のサイズを、長径8cm以下短径3cm以下のひと口サイズに成形することを特徴とする請求項1〜6記載の風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの記載のチーズ様食品の製造方法によって製造された風味や組織が良好で耐熱保形性を有するスモークチーズ様食品。
【請求項9】
スモークチーズ様食品が、以下の3つの加熱条件のうち、少なくとも1つの加熱条件により、加熱しても、風味や組織が良好で耐熱保形性を有することを特徴とする請求項8記載のスモークチーズ様食品。
(1)トースター(860W、240℃)で5分間加熱。
(2)食用油で200℃で素揚げの状態で2分間加熱。
(3)オートクレーブにおいて130℃で2分間加熱。



【公開番号】特開2012−50363(P2012−50363A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194085(P2010−194085)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(594197388)小岩井乳業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】