説明

耐熱性ガスバリアシート

【課題】 高価な真空装置を必要とせず、低コストで耐熱性のあるガスバリアシートを提供する。
【解決手段】 ガラス転移温度が140℃以上である合成樹脂シートと、このシートの片面又は両面に配置されるシリカ膜とを備えた、ガスバリアシート。シリカ膜が、シラザン化合物を前駆体とするものから得られるガスバリアシート。合成樹脂シートが、ポリイミド、アラミド又はアリルエステル樹脂組成物の成形体であるガスバリアシート。合成樹脂シートが、その全光線透過率を、80%以上とするガスバリアシート。シリカ膜が、その厚みを、0.05〜3μmとするガスバリアシート。シリカ膜が、複数層形成されているガスバリアシート。水蒸気透過度が、1g/m・day以下であるガスバリアシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性ガスバリアシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ材料、電子デバイス等は、軽量化の要求に応えるべく、重くて脆いガラス基材に変わり、軽くフレキシブルな合成樹脂シートを、基材として用いる試みがなされている。
但し、合成樹脂シートは、ガラスと比較して、ガスバリア性に劣るという欠点があり、ディスプレイ材料や電子デバイス等として、合成樹脂シートをガラス代替材とした時には、合成樹脂シート内部を透過した水蒸気等の影響で、内部素子等の劣化が発生することが懸念されている。
【0003】
そこで、ガスバリア性を向上させるため、合成樹脂シートに、ガスバリア性を有する膜を形成する試みが広く行われている。
【0004】
ガスバリア性を有する膜を形成する手法としては、金属又はセラミック薄膜を形成させることが一般的であるが、金属薄膜では透明性を確保できないため、透明性が要求される場合には、セラミック薄膜によるガスバリア性の付与が広く行われている。
【0005】
ガスバリア性を有するセラミック薄膜としては、シリカ薄膜が一般的であり、このシリカ薄膜の作成には、蒸着法、PVD法、CVD法等の真空装置を併用した手法、アルコキシシラン等を用いたゾルゲル法等が挙げられる。
【0006】
また、特許文献1及び2には、シリカ前駆体であるシラザン化合物を合成樹脂シートに塗布し、種々の処理を施すことで、ガスバリア性を有するシリカ薄膜を作ることが可能であると提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−237588号公報
【特許文献2】特開2009−255040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述した蒸着法、PVD法及びCVD法は、真空装置等の高価な設備が必要であるため高コストであり、更には一度に処理できる面積が限られてしまう等の問題がある。またゾルゲル法では、処理温度が高温であることや、1回のコートで作成できる膜厚限界が非常に薄いため、厚膜を作成するには多くのコートを繰り返す必要があることからコストがかる等の問題がある。
【0009】
また、特許文献1及び2に開示されるものは、一般的に合成樹脂シートが耐熱性に乏しいため、シリカ薄膜によりガスバリア性を付与したガスバリアシートであっても、実際の製品の製造工程によっては、耐熱性が不十分であるため使用することができない場合があり、使用範囲が低温環境下に限定されてしまうという問題がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高価な真空装置を必要とせず、低コストで耐熱性のあるガスバリアシートを、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下のものに関する。
(1)ガラス転移温度が140℃以上である合成樹脂シートと、このシートの片面又は両面に配置されるシリカ膜とを備えた、ガスバリアシート。
(2)項(1)において、シリカ膜が、シラザン化合物を前駆体とするものから得られるガスバアリアシート。
(3)項(1)又は(2)において、合成樹脂シートが、ポリイミド、アラミド又はアリルエステル樹脂組成物の成形体であるガスバリアシート。
(4)項(1)乃至(3)の何れかにおいて、合成樹脂シートが、その全光線透過率を、80%以上とするガスバリアシート。
(5)項(1)乃至(4)の何れかにおいて、シリカ膜が、その厚みを、0.05〜3μmとするガスバリアシート。
(6)項(1)乃至(5)の何れかにおいて、シリカ膜が、複数層形成されているガスバリアシート。
(7)項(1)乃至(6)の何れかにおいて、水蒸気透過度が、1g/m・day以下であるガスバリアシート。
【発明の効果】
【0012】
本発明のガスバリアシートは、高価な真空装置が不要であり、蒸着法によって作成されたシリカ膜を有するガスバリアシートと同性能のガスバリア性を有し、なおかつ高耐熱性を有している。その為使用温度が高い環境下での用途に用いる場合に好ましく適用できる。
シリカ膜がシラザン化合物を前駆体とするものから得るようにした場合は、高価な真空装置が不要であるため低コストであると共に、ゾルゲル法に比べて低温処理で簡便に合成樹脂シート上にシリカ膜を得ることができる。
合成樹脂シートが、ポリイミド、アラミド又はアリルエステル樹脂組成物の成形体である場合は、ガラス転移温度が250℃以上であるため、耐熱性がある。そのため200℃以上の高温環境下での使用が可能となる。
合成樹脂シートが、その全光線透過率を、80%以上とする場合は、ガスバリアシートが透明であるため、例えばディスプレイ材料等の光学用途として使用することができる。
シリカ膜が、その厚みを、0.05〜3μmとする場合は、そのシリカ膜がガスバリア性能を有し、且つ、成膜時にクラックが発生しない安定した膜となる。
シリカ膜が、複数層形成される場合は、シラザン化合物の塗布時のピンホールやクラック等の欠陥を減らすことができ、ガスバリア性能の向上を図ることができる。
水蒸気透過度が、1g/m・day以下である場合は、食品や電子部品のガスバリア性包装材や、液晶表示素子や有機EL素子等ディスプレイ材料用途として使用することに適する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の1実施例である、シリカ膜を片側に1層設けたガスバリアシートの模式断面図を示す。
【図2】本発明の1実施例である、シリカ膜を片側に3層設けたガスバリアシートの模式断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を詳細に説明する。
<合成樹脂シート>
本発明に用いる合成樹脂シートは、ガラス転移温度が、140℃以上ものである。そのような合成樹脂シートとしては、例えばポリイミド、アラミド(全芳香族ポリアミド)、アリルエステル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリルサルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン樹脂等から成形されるシートが挙げられる。
前述した樹脂の中でも、特に、ポリイミド、アラミド、アリルエステルから成形されるシートが、ガラス転移温度を250℃以上であり、耐熱性に優れ好ましい。
【0015】
また、合成樹脂シートの透明性を求める場合には、全光線透過率が、80%以上であるものを使用する。このような樹脂シートを用いることで、シートの透明性を確保できるため、例えばディスプレイ材料などの光学用途として使用することができる。
尚、全光線透過率は、例えば日本電色工業株式会社製のHAZEメーター(商品名:NDH−1001DP)を用いて、算出することができる。
【0016】
<シリカ膜>
本発明にて述べるシリカ膜は、シラザン化合物を前駆体とするものから得ることができる。
シラザン化合物は、合成樹脂シートにそのまま塗布してもよいが、合成樹脂シートを侵すことのない有機溶剤で脱脂洗浄した後に塗布することが好ましく、有機溶剤洗浄後、更にプラズマ処理又は紫外線処理等による洗浄を施してから、塗布することがより好ましい。溶剤洗浄、プラズマ処理、紫外線処理等を施すことで、合成樹脂シートとシラザン化合物の濡れ性が向上し、良好な密着性を得ることができる。
【0017】
前述したプラズマ処理は、例えば大気圧プラズマ装置を用いて、窒素ガス、酸素ガス又はこれらの混合ガス雰囲気下にて、2つの電極間にプラズマを発生させて試料に照射する方法が、簡便で好ましく用いることができる。
また、前述した紫外線処理は、200nm以下の波長を有する低圧水銀灯又はエキシマランプ等からの紫外光を、試料に照射することで行うことができる。
【0018】
シラザン化合物によるシリカ膜は、合成樹脂シート上に直接形成しても良いし、密着性向上や寸法安定性のために、単層又は複数層の中間層を介して形成してもよい。
中間層としては、特に限定はなく、例えばアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、酢酸ビニル樹脂、アミノ系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ビニルアルコール樹脂、スチレン系樹脂、メラミン樹脂及びこれらの混合物若しくは共重合体等の高分子化合物等が挙げられる。
また、ビニル官能性シラン、アクリル官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アミノ官能基シラン等のシランカップリング剤による層も前述した中間層として用いることができる。
【0019】
シラザン化合物の塗布は、簡易且つ低コスト処理できるため、湿式法で形成させることが望ましい。その手法としては、公知の塗布法が適用可能であり特に限定されるものではなく、例えばスピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ディップコート法、エアーナイフ法等を、用いることができる。
【0020】
(シラザン化合物)
シラザン化合物としては、完全無機のシリカ膜が形成されるため、以下の化学構造式(1)に示す、パーヒドロポリシラザンを用いることが好ましいが、これに限定されず、化学構造式(1)に示される水素の一部又は全部をアルキル基等の有機成分で置換した、オルガノポリシラザンを用いても良い。また単一の組成でも良いし、これらを混合して用いても良い。
【0021】
【化1】

【0022】
シラザン化合物には、必要に応じて、シランカップリング剤、有機アミンやカルボン酸無水物、イソシアネート、チオール、カルボジイミド、金属アルコキシド、金属ハロゲン化物等の硬化剤を添加することができる。また、低温でのシリカへの転化を進めるために、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム、アミン類等の触媒を用いることもできる。
【0023】
シラザン化合物を溶解又は分散させる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジブチルエーテル、ソルベッソ、デカリン等を用いることができ、これらを単独又は混合して用いることができる。
【0024】
塗布されたシラザン化合物のシリカ転化手法は、特に限定されず、大気放置、加熱処理、加湿処理、プラズマ処理、紫外線処理、酸塩基性蒸気への暴露等の手法を用いることができる。
【0025】
前述した大気放置は、シラザン化合物を塗布後、清浄な雰囲気下で放置しておく。シラザン化合物は、このようにすることで、大気中の酸素や水分と反応し、シリカ薄膜が合成樹脂シート上に形成される。
【0026】
前述した加熱処理は、シラザン化合物を塗布後、乾燥機等を用いて加熱を行う。加熱の温度に指定はないが、合成樹脂シートが変性しない範囲で、なるべく高温で加熱したほうが、シラザン化合物のシリカ転化が早くなる。
【0027】
前述した加湿処理は、シラザン化合物を塗布後、恒温恒湿層を用いて処理を行う。恒温恒湿層の温度及び湿度に指定はないが、合成樹脂シートが変性しない範囲で、なるべく高温・高湿度で処理を行ったほうが、シラザン化合物のシリカ転化が早くなる。
【0028】
前述したプラズマ処理は、シラザン化合物を塗布後、例えば大気圧プラズマ装置を用いて、窒素ガス、酸素ガス又はこれらの混合ガスの雰囲気下で、2つの電極間にプラズマを発生させて、試料に照射することができ、この照射によりシリカ薄膜が合成樹脂シート上に形成される。
【0029】
前述した紫外線処理は、シラザン化合物を塗布後、200nm以下の波長を有する低圧水銀灯やエキシマランプ等からの紫外光を照射することで、シリカ薄膜が合成樹脂シート上に形成される。
【0030】
前述した酸塩基性蒸気への暴露は、シラザン化合物を塗布後、例えばアンモニア水溶液、エチルアミン水溶液、ジエチルアミン水溶液、塩酸、酢酸、硝酸等から発生する蒸気と接触させること等が挙げられるが、これに限定されるわけではない。
【0031】
上記各種処理によるシラザン化合物のシリカ転化の程度は、Nの残存率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、2%以下が特に好ましい。
Nの残存率が10%を超えると、シリカ転化が不十分であり、水蒸気透過度で1g/mday以下のガスバリア性を得ることができない。
尚、Nの残存率に関しては、元素分析が可能な分析装置を使用することで算出可能であり、このような分析が可能なものとして、例えばXPS(X線光電子分光分析装置)等を用いて算出することができる。
【0032】
シリカ膜の厚みは、0.05〜3μmが好ましく、0.1〜1μmがより好ましい。厚みが0.05μm未満では、水蒸気透過度で1g/mday以下のガスバリア性を得ることができず、また、厚みが3μmを超えるとクラックや剥離が発生し易くなり、ガスバリア性が急激に低下する恐れがある。
【0033】
図1、図2は本発明によるガスバリアシートの断面である。合成樹脂シート1の片面もしくは両面に配置されるシリカ膜2の層数は、図1に示すように、単層であっても良いが、図2に示すように、2層以上の多層構造とすることが好ましい。
図1に示すガスバリアシート3では、シリカ膜2が、単層であるため、このシリカ膜2にピンホール又はクラック4が発生すると、リカバーすることができない。
これに対し、複数層のシリカ膜を備えたものは、図2に示すように、1層目のシリカ膜5にピンホール又はクラック4が発生しても、それを覆うように、2層目のシリカ膜6、更には3層目のシリカ膜7によりリカバーされ、全てのシリカ膜にて、連通するピンホール又はクラックが発生する可能性は、極めて低くなり、急激なガスバリア性の劣化を防ぐことができるためである。
【0034】
本発明のガスバリアシートは、その水蒸気透過度が、1g/m・day以下であることが好ましい。このようなガスバリアシートは食品や電子部品のガスバリア性包装材や、液晶表示素子や有機EL素子等ディスプレイ材料用途として使用することができるためである。
尚、水蒸気透過度は、JISK0208で規格化されているカップ法「JIS7129A」で規格化されている、乾湿センサー法「JIS7129B」で規格化されている赤外線センサー法を用いて測定できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明のガスバリアシートについて、実施例を用いて説明する。
尚、本実施例にて説明するガスバリア性、透明性、ガラス転移温度、耐熱性については、以下に記載したように測定、又は確認を行った。
(ガスバリア性能)
ガスバリア性の評価は、「JISK0208」で規格化されているカップ法によって行った。
(透明性)
透明性の評価は、日本電色工業株式会社製のHAZEメーター(商品名:NDH−1001DP)を用いて全光線透過率を算出し評価した。
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度はエスアイアイ・ナノテクノロジー社製TMA−120を用いて算出した。
(耐熱性)
耐熱性の評価は、200℃で24h保持した後の、ガスバリアシートの外観の変化を確認した。外観変化のないものを「○」とし、外観変化のあるものを「×」とした。
【0036】
(実施例1)
東レ・デュポン株式会社製のポリイミドフィルム(商品名:カプトンフィルム500H、厚さ:125μm)をイソプロパノールで脱脂洗浄後、株式会社魁半導体製大気圧プラズマ装置(商品名:S5000)を用いて、Nガス雰囲気下でプラズマを発生させて、1分間処理を施した。
その後、シラザン化合物「NL110−20」(AZエレクトニックマテリアルズ株式会社製 商品名)を、5mass%にキシレンで希釈し、1000rpmにて30秒間スピンコートし、更に300℃にて1時間加熱し、片面に0.2μmずつ、両面合計0.4μmのシリカ膜を得た。
得られたガスバリアシートの水蒸気透過度は、「JISK0208」で規格化されているカップ法により測定すると、0.5g/m・dayであり、全光線透過率は22%であった。
また、得られたガスバリアシートを、200℃にて24時間保持する、耐熱性評価試験では、その前後で外観の変化は確認されなかった。
【0037】
(実施例2)
東レ・デュポン株式会社製ポリイミド(商品名:カプトンフィルム500H、厚さ:125μm)をイソプロパノールで脱脂洗浄後、株式会社魁半導体製大気圧プラズマ装置(商品名:S5000)を用いて、Nガス雰囲気下でプラズマを発生させて、1分間処理を施した。
その後、シラザン化合物「NL110−20」(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製 商品名)を10mass%にキシレンで希釈し、1000rpmにて30秒間スピンコートし、300℃にて1時間加熱した。前述した処理を2回施し、片面に0.3μmを2層、合計0.6μmのシリカ膜を得た。
得られたガスバリアシートの水蒸気透過度は0.5g/m・dayであり、全光線透過率は22%であった。また耐熱性評価前後で外観の変化は確認されなかった。
【0038】
(実施例3)
三菱ガス化学株式会社製の透明ポリイミドフィルム(商品名:ネオプリムL−3430、厚さ:100μm)をイソプロパノールで脱脂洗浄後、株式会社魁半導体製大気圧プラズマ装置(商品名:S5000)を用いて、Nガス雰囲気下でプラズマを発生させて、1分間処理を施した。
その後、シラザン化合物「NL110−20」(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製 商品名)を5mass%にキシレンで希釈し、1000rpmにて30秒間ピンコートし、更に200℃にて1時間加熱し、片面に0.2μmずつ、両面合計0.4μmのシリカ膜を得た。
得られたガスバリアシートのガスバリア性能は、0.5g/m・dayであり、全光線透過率は89%であった。また耐熱性評価前後で外観の変化は確認されなかった。
【0039】
(比較例1)
東レ・デュポン株式会社製ポリイミド(商品名:カプトンフィルム500H、厚さ:125μm)をイソプロパノールで脱脂洗浄後、株式会社魁半導体製大気圧プラズマ装置(商品名:S5000)を用いて、Nガス雰囲気下でプラズマを発生させて、1分間処理を施した。このフィルムの水蒸気透過度は15g/m・dayであり,全光線透過率は22%であった。耐熱性評価前後で外観の変化は確認されなかった。
【0040】
(比較例2)
三菱ガス化学株式会社製透明ポリイミド(商品名:ネオプリムL−3430、厚さ:100μm)をイソプロパノールで脱脂洗浄後、株式会社魁半導体製大気圧プラズマ装置(商品名:S5000)を用いて、Nガス雰囲気下でプラズマを発生させて、1分間処理を施した。このフィルムのガスバリア性能は、140g/m・dayであった。全光線透過率は89%であり、耐熱性評価前後で外観の変化は確認されなかった。
【0041】
(比較例3)
東洋紡績株式会社製ポリエステルフィルム(商品名:コスモシャインA4100、厚さ:100μm)をイソプロパノールで脱脂洗浄後、株式会社魁半導体製大気圧プラズマ装置(商品名:S5000)を用いて、Nガス雰囲気下でプラズマを発生させて1分間処理を施した。
その後、シラザン化合物「NL110−20」(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製 商品名)を、5mass%にキシレンで希釈し、1000rpmにて30秒間スピンコートし、更に120℃にて1時間加熱し、片面に0.2μmずつ、両面合計0.4μmのシリカ膜を得た。
得られたガスバリアシートの水蒸気透過度は1.0g/m・dayであり、全光線透過率は89%であった。また耐熱性評価試験後にはフィルム全体の白化が起きた。
【0042】
(参考例1)
東レ・デュポン株式会社製ポリイミド(商品名:カプトンフィルム500H、厚さ:125μm)をイソプロパノールで脱脂洗浄後、株式会社魁半導体製大気圧プラズマ装置(商品名:S5000)を用いて、Nガス雰囲気下でプラズマを発生させて、1分間処理を施した。
その後、シラザン化合物「NL110−20」(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製 商品名)を20mass%のまま100rpmにて30秒間スピンコートし、更に300℃にて1時間加熱した。前述した処理を2回施し、片面に2μmを2層、計4μmのシリカ膜を得た。
得られたガスバリアシートは、透湿度評価中にクラックが入り,また水蒸気透過度は、15g/m・dayであり、全光線透過率は22%であった。耐熱性評価前後で外観の変化は確認されなかった。
【0043】
(参考例2)
三菱ガス化学株式会社製透明ポリイミド(商品名:ネオプリムL−3430、厚さ:100μm)をイソプロパノールで脱脂洗浄後、株式会社魁半導体製大気圧プラズマ装置(商品名:S5000)を用いて、Nガス雰囲気下でプラズマを発生させて、1分間処理を施した。
その後、シラザン化合物「NL110−20」(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製 商品名)を1mass%にキシレンで希釈し、1000rpmにて30秒間スピンコートし、更に200℃にて1時間加熱し、片面に0.01μmのシリカ膜を得た。
得られたガスバリアシートのガスバリア性能は、100g/m・dayであった。全光線透過率は89%であり、耐熱性評価前後で外観の変化は確認されなかった。
【0044】
前述してきた実施例1〜3、比較例1〜3、参考例1、2について、各項目及び試験結果を、以下の表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の記載から判るように、実施例1〜3では合成樹脂シート上のシリカ膜の存在により、ガスバリア性が付与され、水蒸気透過度が1g/m・day以下となっている。また、実施例3及び比較例2にあるように、シリカ膜の有無による全光線透過率の変化もほぼなく、合成樹脂シートの透明性を保持することも可能である。
合成樹脂シートのガラス転移温度が低いものを用いている比較例3では、耐熱性試験後、合成樹脂シートの変質が起きているのに対し,耐熱性が高い合成樹脂シートを用いている実施例1〜3は耐熱性評価後における変質が確認されなかった。そのため本発明におけるガスバリアシートは高温環境下の使用に耐えることが可能なガスバリアシートである。
【符号の説明】
【0047】
1…合成樹脂シート、2…シリカ膜、3…ガスバリアシート、4…ピンホール又はクラック、5…1層目のシリカ膜、6…2層目のシリカ膜、7…3層目のシリカ膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が140℃以上である合成樹脂シートと、このシートの片面又は両面に配置されるシリカ膜とを備えた、ガスバリアシート。
【請求項2】
請求項1において、シリカ膜が、シラザン化合物を前駆体とするものから得られるガスバリアシート。
【請求項3】
請求項1又は2において、合成樹脂シートが、ポリイミド、アラミド又はアリルエステル樹脂組成物の成形体であるガスバリアシート。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかにおいて、合成樹脂シートが、その全光線透過率を、80%以上とするガスバリアシート。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかにおいて、シリカ膜が、その厚みを、0.05〜3μmとするガスバリアシート。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかにおいて、シリカ膜が、複数層形成されているガスバリアシート。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかにおいて、水蒸気透過度が、1g/m・day以下であるガスバリアシート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−161891(P2011−161891A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29997(P2010−29997)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(508187665)日立化成テクノサービス株式会社 (11)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】