説明

耐熱性樹脂組成物およびその製造方法

【課題】マトリックス樹脂単体に比較して、特に耐熱特性、寸法安定性が向上したポリスルホン系樹脂組成物および成形体を提供する。
【解決手段】ポリスルホン系樹脂100重量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01〜50重量部とからなるポリスルホン系樹脂組成物。窒化ホウ素ナノチューブは、平均直径が0.4nm〜1μm、アスペクト比が5以上であることが好ましい。又、窒化ホウ素ナノチューブは、共役系高分子で被覆されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリスルホン系樹脂と窒化ホウ素ナノチューブとを均一に分散させたポリスルホン系樹脂組成物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、従来にない機械的物性、電気的特性、熱的特性等を有するためナノテクノロジーの有力な素材として注目を浴び、広範な分野で応用の可能性が検討され、一部実用化が開始されている。
ポリマーコンポジットとしては、フィラーにカーボンナノチューブを用いてポリマーに添加することで、ポリマーの機械的物性、導電性、耐熱性等を改質する試みも行われている。
【0003】
例えば、ビスフェノールAやポリカーボネートを化学結合で表面修飾したカーボンナノチューブを用いることでポリカーボネートの力学的特性が向上するとの報告がある。(特許文献1参照)
【0004】
また、カーボンナノチューブを共役系高分子で被覆することで、カーボンナノチューブの分散性を極めて高め、少ないカーボンナノチューブの量でマトリクス樹脂に高い導電性を付与するとの報告(特許文献2参照)がある。
【0005】
また、ポリメチルメタクリレートやポリスチレンのような側鎖構造を有するポリマーとカーボンナノチューブからなるポリマーコンポジットに関して、共役系高分子で単層カーボンナノチューブを被覆することにより、わずかな単層カーボンナノチューブ添加量であっても弾性率が飛躍的に向上するとの報告(特許文献3参照)がある。
【0006】
近年、カーボンナノチューブと構造的な類似性を有する窒化ホウ素ナノチューブも、従来にない特性を有する材料として注目を浴びている(特許文献4参照)。窒素ホウ素ナノチューブは、カーボンナノチューブに匹敵する優れた機械的物性、熱伝導性を有するだけでなく、化学的に安定でカーボンナノチューブよりも優れた耐酸化性を有することが知られている。また、絶縁性であるため、絶縁放熱材料としても期待できる。特許文献3にはカーボンナノチューブの代わりに窒化ホウ素ナノチューブを使用しても良いとの記載があるが、飛躍的な効果を得るためには側鎖構造を有するポリマーに限定されておりそれ以外の主鎖型芳香族ポリマーでの具体的な報告はされていない。
【0007】
一方、芳香族ポリスルホン樹脂は耐熱性、難燃性、剛性、耐薬品性に優れ、スーパーエンジニアリングプラスチックとしてプリント回路基板や食品、グラフィックアート、コンデンサ、メディカル用のフィルム等に利用されており、更なる耐熱特性の向上により光ディスク、磁気ディスク、自動車・航空機部品、電子機器部品等への展開が進むものと期待される。しかしながら、ポリスルホン系樹脂に窒化ホウ素ナノチューブを添加して成形することにより耐熱特性の改善された成型体を得たとの報告はない。
【0008】
【特許文献1】特開2004−323738号公報
【特許文献2】特開2004−2621号公報
【特許文献3】特開2004−244490号公報
【特許文献4】特開2000−109306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、マトリックス樹脂単体に比較して、特に耐熱特性、寸法安定性が向上した窒化ホウ素ナノチューブ含有ポリスルホン系樹脂組成物および成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、窒化ホウ素ナノチューブをポリスルホン系樹脂に添加することにより、耐熱特性に優れ、寸法安定性に優れたポリスルホン系樹脂組成物が得られることを見出し本発明に到達した。すなわち、本発明は、
1.ポリスルホン系樹脂100重量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01〜50重量部とからなるポリスルホン系樹脂組成物。
2.窒化ホウ素ナノチューブは、平均直径が0.4nm〜1μm、アスペクト比が5以上であることを特徴とする上記記載のポリスルホン系樹脂組成物。
3.窒化ホウ素ナノチューブが共役系高分子で被覆されていることを特徴とする上記記載のポリスルホン系樹脂組成物。
4.ポリスルホン系樹脂100重量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01〜40重量部とからなる上記記載のポリスルホン系樹脂成形体。
5.共役系高分子を窒化ホウ素ナノチューブに被覆した後、共役系高分子で被覆された窒化ホウ素ナノチューブをポリスルホン系樹脂または該樹脂溶液に混合分散させる工程を含む請求項2記載のポリスルホン系樹脂組成物の製造方法。
により構成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によりポリスルホン系樹脂中に窒化ホウ素ナノチューブが均一に分散している樹脂成形体が得られ、優れた熱伝導性、耐熱特性、寸法安定性を従来のポリスルホン系樹脂に付与することが期待される。本発明のポリスルホン系樹脂は、溶液、溶融成形などの任意の成形方法により、所望の形状に成形でき、機械部品などの樹脂成形品、産業資材、電気電子用途などの成形体として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。
(窒化ホウ素ナノチューブ)
本発明において、窒化ホウ素ナノチューブとは、窒化ホウ素からなるチューブ状材料であり、理想的な構造としては6角網目の面がチューブ軸に平行に管を形成し、一重管もしくは多重管になっているものである。窒化ホウ素ナノチューブの平均直径は、好ましくは0.4nm〜1μm、より好ましくは0.6〜500nm、さらにより好ましくは0.8〜200nmである。ここでいう平均直径とは、一重管の場合、その平均外径を、多重管の場合はその最外側の管の平均外径を意味する。平均長さは、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。アスペクト比は、好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。アスペクト比の上限は、平均長さが10μm以下であれば限定されるものではないが、上限は実質25000である。よって、窒化ホウ素ナノチューブは、平均直径が0.4nm〜1μm、アスペクト比が5以上であることが好ましい。
【0013】
窒化ホウ素ナノチューブの平均直径およびアスペクト比は、電子顕微鏡による観察から求めることが出来る。例えばTEM(透過型電子顕微鏡)測定を行い、その画像から直接窒化ホウ素ナノチューブの直径および長手方向の長さを測定することが可能である。また組成物中の窒化ホウ素ナノチューブの形態は例えば繊維軸と平行に切断した繊維断面のTEM(透過型電子顕微鏡)測定により把握することが出来る。
【0014】
窒化ホウ素ナノチューブは、アーク放電法、レーザー加熱法、化学的気相成長法を用いて合成できる。また、ホウ化ニッケルを触媒として使用し、ボラジンを原料として合成する方法も知られている。また、カーボンナノチューブを鋳型として利用して、酸化ホウ素と窒素を反応させて合成する方法もが提案されている。本発明に用いられる窒化ホウ素ナノチューブは、これらの方法により製造されるものに限定されない。窒化ホウ素ナノチューブは、強酸処理や化学修飾された窒化ホウ素ナノチューブも使用することができる。
【0015】
また、本発明において窒化ホウ素ナノチューブは共役系高分子で被覆されていても良い。窒化ホウ素ナノチューブを被覆する共役系高分子は、窒化ホウ素ナノチューブと相互作用が強く、マトリクス樹脂であるポリスルホン系樹脂との相互作用も強いものが好ましい。これらの共役系高分子としては、例えば、ポリフェニレンビニレン系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリフェニレン系高分子、ポリピロール系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリアセチレン系高分子等が挙げられる。中でも、ポリフェニレンビニレン系高分子、ポリチオフェン系高分子が好ましい。
【0016】
本発明の樹脂組成物においては、ポリスルホン系樹脂100重量部に対して、窒化ホウ素ナノチューブが、0.01〜50重量部の範囲内で含有されるものである。本発明におけるポリスルホン系樹脂100重量部に対する上記窒化ホウ素ナノチューブの含有量の下限は、0.01重量部であるが、本発明においては特に、0.05重量部以上が好ましく、より好ましくは0.1重量部以上であることが好ましい。一方、ポリスルホン系樹脂100重量部に対する窒化ホウ素ナノチューブの含有量の上限は、上述したように50重量部以下であるが、本発明においては、40重量部以下であることがより好ましい。上記範囲内とすることにより、窒化ホウ素ナノチューブをポリスルホン系樹脂に均一に分散させることが可能となるからである。また、窒化ホウ素ナノチューブが過度に多い場合は、均一な樹脂組成物を得ることが困難となり好ましくない。
【0017】
本発明で使用されるポリスルホン樹脂とは主鎖が芳香族ビスフェノールとジハロゲノアリールスルホンの縮合構造で結ばれた高分子の総称であるが、これらの化合物を塩基性触媒の存在下に溶液あるいは溶融重合法等の公知の方法で重縮合させて得ることができる。
【0018】
ここで用いられる芳香族ビスフェノールとしては、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1、1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1、1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3、3、5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1、1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1、1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2、2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2、2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、9、9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9、9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、1、3−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1、4−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1、1、1−3、3、3−ヘキサフルオロプロパン等を挙げることができる。また用いられるジハロゲノ化合物としては、例えば、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(4−ブロモフェニル)スルホン、4−クロロ−4’−(p−クロロフェニル)ジフェニルスルホン、4−フルオロ−4’−(p−フルオロフェニル)ジフェニルスルホン、4−ブロモ−4’−(p−ブロモフェニル)ジフェニルスルホン、ビス(4’−クロロビフェニル)スルホン、ビス(4’−フルオロビフェニル)スルホン、ビス(4’−ブロモビフェニル)スルホン、ビス(6−クロロビナフチル)スルホン、ビス(6−フルオロビナフチル)スルホン、ビス(6−ブロモビナフチル)スルホン、ビス(4−クロロ−3−メチルフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロ−3−メチルフェニル)スルホン、ビス(4−ブロモ−3−メチルフェニル)スルホン、ビス(3−フェニル−4−クロロフェニル)スルホン、ビス(3−フェニル−4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(3−フェニル−4−ブロモフェニル)スルホン、ビス(4−クロロ−3−t−ブチルフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロ−3−t−ブチルフェニル)スルホン、ビス(4−ブロモ−3−t−ブチルフェニル)スルホン等を挙げることができる。
【0019】
これらの中でもビスフェノールAと呼ばれる2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンをビスフェノール成分とし、ビス(4−クロロフェニル)スルホンをジハロゲノアリールスルホン成分として縮合重合せしめることで得られる芳香族ポリスルホンを物性、コストの面から好ましく挙げることができる。これらのジヒドロキシ化合物及び/又はジハロゲノアリールスルホンは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いて共重合ポリスルホンとしても良い。また主鎖の一部や末端基にアミノ基、カルボキシル基、カルボニル基およびそれらのアミド、エステル誘導体構造を導入し変性せしめて使用したり、モノマーの一部をジアリールケトンやジアリールスルフィド骨格として共重合することも可能である。
【0020】
本発明で用いられるポリスルホン樹脂の分子量は、その粘度平均分子量で、8000〜200000の範囲である。粘度平均分子量が8000より小さいと該樹脂組成物においても成形物は極めて脆くなり好ましくない。また、200000を超えると溶融流動性が悪くなりがちで、良好な成形物が得にくくなりがちとなる。より好ましくは10000〜100000の範囲である。なお粘度平均分子量は、ポリスルホンの塩化メチレン溶液中で求めた固有粘度を、マーク−ホウインク−桜田の式に代入して計算した。この際の各種係数は、例えばポリマーハンドブック第3改訂版 ワイリー社(1989年)(Polymer Handbook 3rd Ed. Willey,1989)の7〜23ページに記載されている。
【0021】
本発明のポリスルホン系樹脂組成物の製造方法としては以下に示す方法で調整可能である。
(樹脂組成物の製造方法について)
本発明において組成物の製造方法としては、特に限定はされない。例えば、ポリスルホン系樹脂に窒化ホウ素ナノチューブを溶融混合させる方法が好ましく利用できる。溶融混合の方法は特に制限はないが、一軸あるいは二軸押し出し機、ニーダー、ラボプラストミルなどを用いて混練する事により得られる。
【0022】
また、組成物の製造方法としてあるいはポリスルホン系樹脂を溶解させることが可能な溶媒に窒化ホウ素ナノチューブを分散させた分散液を調整し、ポリスルホン系樹脂を添加、溶解させてポリスルホン系樹脂と窒化ホウ素ナノチューブからなる混合溶液を調整し、溶媒を除去する方法が好ましく利用できる。
【0023】
本発明において共役高分子を溶解するのに使用される溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、ブタノール、トルエン、キシレン、アセトン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0024】
この際に例えば窒化ホウ素ナノチューブを溶媒中でビーズミル処理することや超音波処理を施す、強力なせん断処理を施すことにより窒化ホウ素ナノチューブの分散性を向上することができる。
【0025】
さらにこのようにして作成されたポリスルホン系樹脂組成物にはさらに分散性を高める目的で、溶融混練処理を行ってもよい。混練方法は特に特定はしないが、一軸ルーダー、ニ軸のルーダーおよびニーダーを使用して行う事ができる。溶融混練処理温度は、樹脂成分が軟化、流動する温度より5℃〜100℃高い温度である。高温過ぎると樹脂の分解や異常反応を生じ好ましくない。また、混練処理時間は少なくとも30秒以上15分以内、好ましくは1〜10分である。
【0026】
また、共役系高分子で被覆した窒化ホウ素ナノチューブを使用する場合は、共役系高分子を窒化ホウ素ナノチューブに被覆した後、共役系高分子で被覆された窒化ホウ素ナノチューブを上記のようにポリスルホン系樹脂または該樹脂溶液に混合分散させることにより本発明の樹脂組成物を製造することができる。
【0027】
窒化ホウ素ナノチューブを共役高分子で被覆する方法として特に限定はされないが、1)窒化ホウ素ナノチューブを溶融している共役高分子に添加して混合する無溶媒で行う方法2)窒化ホウ素ナノチューブと共役高分子を、共役高分子を溶解する溶媒中で分散混合する方法等が挙げられる。2)の方法においては窒化ホウ素ナノチューブを分散させる方法として超音波や各種攪拌方法を用いることができる。攪拌方法としては、ホモジナイザーのような高速攪拌やアトライター、ボールミル等の攪拌方法も使用することができる。
【0028】
本発明において共役高分子を溶解するのに使用される溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、ブタノール、トルエン、キシレン、アセトン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0029】
また本発明のポリスルホン系樹脂組成物は、その成形物、物性を損なわない範囲で各種充填剤の添加は可能であり、耐熱性、寸法安定性、電気的性質の性能に優れた成形品を得るためには配合することが好ましい。
【0030】
尚、本発明の目的を逸脱しない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えばポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、天然ゴム、合成ゴム等の熱可塑性樹脂、或いは難燃剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、滑剤、離型剤、発泡剤、架橋剤、着色剤等の添加剤を加えても差し支えない。
【0031】
本発明は、前述の窒化ホウ素ナノチューブ含有樹脂組成物を作製したのち、成形することによりフィルム、シートといった成形体を製造することができる。
成形方法については特に制限はないが、例えば溶融状態にある窒化ホウ素ナノチューブ含有ポリスルホン系樹脂をダイより押し出し成形する押し出し成形、射出成形、インフレーション成形等によりフィルム、シートを製造することができる。
または樹脂溶液を支持体に流延し、特定の厚みにキャストした後、溶媒を除去する等の方法によりフィルム、シートを製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
(1)ガラス転移温度
ガラス転移温度は、TAインストルメント製TA2920を用いて30〜300℃の範囲で測定し、セカンドスキャンのピーク値よりガラス転移温度を計算した。
(2)熱膨張係数
熱膨張係数は、TAインストルメント製TA2940を用いて30〜80℃の範囲で測定し、セカンドスキャンの値を熱膨張係数とした。
【0033】
[参考例1 窒化ホウ素ナノチューブの製造]
窒化ホウ素製のるつぼに、1:1のモル比でホウ素と酸化マグネシウムを入れ、るつぼを高周波誘導加熱炉で1300℃に加熱した。ホウ素と酸化マグネシウムは反応し、気体状の酸化ホウ素(B)とマグネシウムの蒸気が生成した。この生成物をアルゴンガスにより反応室へ移送し、温度を1100℃に維持してアンモニアガスを導入した。酸化ホウ素とアンモニアが反応し、窒化ホウ素が生成した。1.55gの混合物を十分に加熱し、副生成物を蒸発させると、反応室の壁から310mgの白色の固体が得られた。続いて得られた白色固体を濃塩酸で洗浄、イオン交換水で中性になるまで洗浄後、60℃で減圧乾燥を行い窒化ホウ素ナノチューブ(以下、BNNTと略すことがある)を得た。得られたBNNTは、直径がおよそ27.6nm、長さがおよそ2460nmのチューブ状であった。
【0034】
[実施例1]
参考例1で得られた0.18重量部の窒化ホウ素ナノチューブを100重量部のN−メチル−2−ピロリジノンに添加して、超音波バスにて2時間処理を行い、窒化ホウ素ナノチューブ分散液を調整した。続いて15重量部のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers 製、UDEL P-3500 LCD MB)を添加して室温でポリスルホンが溶解するまで攪拌した。得られた窒化ホウ素ナノチューブ含有ポリスルホン溶液をガラス基板上に200μmのドクターブレードを使用してキャストした後、80℃で60分、次いで130℃で60分放置した。得られたフィルムをガラス板より剥離し、金枠に固定して80℃で10分、130℃で1時間乾燥させた。フィルムの厚みは21μm、ガラス転移温度は187.2℃、熱膨張係数は50.2ppm/℃であった。また引張弾性率は2.05Gpa、強度は61.9Mpaであった。
【0035】
[比較例1]
窒化ホウ素ナノチューブを含まない以外は実施例1と同様にして窒化ホウ素ナノチューブを含有しないポリスルホンフィルムを作製した。フィルムの厚みは17μm、線熱膨張係数は54.0ppm/℃、ガラス転移温度は184.2℃であった。また引張弾性率は1.90Gpa、引張り強度は60.0Mpaであった。
【0036】
[実施例2]
(共役系高分子で被覆した窒化ホウ素ナノチューブの作製)
参考例1で得られた0.1重量部の窒化ホウ素ナノチューブを100重量部のジクロロメタンに添加して超音波バスにて2時間処理を行う、窒化ホウ素ナノチューブ分散液を調整した。続いて0.1重量部のアルドリッチ製ポリ(m−フェニレンビニレン−co−2,5−ジオクトキシ−p−フェニレンビニレン)を添加して超音波処理を1時間実施した。得られた分散液をミリポア製オムニポアメンブレンフィルター0.1μでろ過し、大量のジクロロメタンで洗浄後、60℃減圧乾燥を2時間行うことで黄色の共役系高分子で被覆された窒化ホウ素ナノチューブを得た。窒化ホウ素ナノチューブ上に被覆された共役系高分子の量は窒化ホウ素ナノチューブに対して4.2重量%であった。
【0037】
(窒化ホウ素ナノチューブ含有ポリスルホン系樹脂の作製)
0.18重量部の窒化ホウ素ナノチューブを含む上記で作製した共役系高分子で被覆された窒化ホウ素ナノチューブを100重量部のN−メチル−2−ピロリジノンに添加して、超音波バスにて2時間処理を行い、窒化ホウ素ナノチューブ分散液を調整した。続いて実施例1と同じポリスルホン15重量部を添加して室温でポリスルホンが溶解するまで攪拌した。得られた窒化ホウ素ナノチューブ含有ポリスルホン溶液をガラス基板上に200μmのドクターブレードを使用してキャストした後、80℃で60分、次いで130℃で60分放置した。得られたフィルムをガラス板より剥離し、金枠に固定して80℃で10分、130℃で1時間乾燥させた。フィルムの厚みは20μm、線熱膨張係数は49.6ppm/℃、ガラス転移温度は187.0℃であった。引張弾性率は1.98Gpa、引張り強度は61.0Mpaであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスルホン系樹脂100重量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01〜50重量部とからなるポリスルホン系樹脂組成物。
【請求項2】
窒化ホウ素ナノチューブは、平均直径が0.4nm〜1μm、アスペクト比が5以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリスルホン系樹脂組成物。
【請求項3】
窒化ホウ素ナノチューブが共役系高分子で被覆されていることを特徴とする請求項1または2に記載のポリスルホン系樹脂組成物。
【請求項4】
ポリスルホン系樹脂100重量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01〜50重量部とからなる請求項1〜3のいずれかに記載のポリスルホン系樹脂成形体。
【請求項5】
共役系高分子を窒化ホウ素ナノチューブに被覆した後、共役系高分子で被覆された窒化ホウ素ナノチューブをポリスルホン系樹脂または該樹脂溶液に混合分散させる工程を含む請求項3記載のポリスルホン系樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−197555(P2007−197555A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17444(P2006−17444)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】