説明

耐熱性無機繊維製品およびその製造方法

【課題】耐熱性および強度に優れ、排ガスフィルター用材料として好適に用いられる耐熱性無機繊維製品の省資源上有利な製造方法を提供する。
【解決手段】無機基材繊維からなる無機基材繊維製品を溶融性カルボシラン系重合体で被覆し、被覆した該溶融性カルボシラン系重合体を不融化処理し、不融化後のカルボシラン系重合体被覆を非酸化性雰囲気下で加熱焼成する、ことを含む耐熱性無機繊維製品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性および強度に優れ、排ガスフィルター用材料として有用である耐熱性無機繊維製品および省資源の点で有利なその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両や産業機械等から排出される排気ガスは大気汚染の見地から問題視されている。特にディーゼルエンジン車両においては、主にNOxとカーボンを主体とする浮遊粒子状物質とを除去することが重要な課題である。
【0003】
このような背景のもと、多種多様な排ガス浄化装置が提案されている。ディーゼルエンジン車両における一般的な排ガス浄化装置としては、エンジンの排気マニホールドに連結された排気管の途上にケーシングを設け、その中に微細な孔を有するフィルタを配置した構造のものが挙げられる(特許文献1)。しかし、このような装置では、温度分布に起因するクラックの発生や溶損が問題となっている。この問題を解決するため、金属不織布(特許文献2)や炭化ケイ素系不織布(特許文献3)を用いた排ガス浄化装置が提案されている。しかしながら、これらの不織布は短繊維であるため強度が低く、その製造のためにはジメチルジクロロシランからポリシランを合成し、さらに、ポリカルボシランやポリチタノカルボシランを合成することが必要であり、製造プロセスが複雑であり、非常に高価である。
【0004】
【特許文献1】特開平6−92753号公報
【特許文献2】特開平9−262414号公報
【特許文献3】特開2004−60096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐熱性および強度に優れ、排ガスフィルター用材料として好適に用いられる耐熱性無機繊維製品、および該無機繊維製品を省資源で製造でき、経済的に有利な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、無機基材繊維と、該無機基材繊維を被覆する特定の耐熱性に優れる無機被覆層とからなる耐熱性無機繊維からなる耐熱性無機繊維製品が上記課題を解決することを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
即ち、本発明は、第一に、
無機基材繊維からなる無機基材繊維製品を溶融性カルボシラン系重合体で被覆し、
被覆した該溶融性カルボシラン系重合体を不融化処理して非溶融性カルボシラン系重合体に転換し、
該非溶融性カルボシラン系重合体を非酸化性雰囲気下で加熱焼成する
ことを含む耐熱性無機繊維製品の製造方法を提供する。
【0008】
本発明は、第二に、上記の製造方法により製造された耐熱性無機繊維製品を提供する。
【0009】
本発明は、第三に、上記耐熱性無機繊維製品を含む排ガスフィルターを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の耐熱性無機繊維製品は、無機基材繊維として例えばガラス繊維等の高強度で汎用されている材料を利用することができ、その上に耐熱性に優れる被覆層を設けることで耐熱性および強度に優れているものである。そのため、この耐熱性無機繊維製品は、高温に晒される排ガスフィルター用材料、特に、ディーゼルエンジン等からの排ガスに含まれる浮遊粒子状物質を除去するための排ガスフィルター用材料として好適に用いることができる。更に、本発明の製造方法により、このような耐熱性無機繊維製品を、資源の無駄な消費を抑制しつつ製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0012】
本明細書において、「カルボシラン系重合体」とは、カルボシラン結合(−Si−CH2−)有する重合体を意味し、例えば、ポリカルボシラン、並びに、ホウ素、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムからなる群から選ばれる金属が、通常2〜15質量%添加されたポリカルボシランを意味する。
【0013】
また、本明細書において「非溶融性カルボシラン系重合体」とは、軟化点を有しないカルボシラン系重合体を意味する。したがって、このカルボシラン系重合体は温度を高めていくと溶融しないで熱分解を起こす。
【0014】
なお、本明細書において「軟化点」は、JIS K 2207に規定の軟化点試験方法(環球法)に準拠して測定された温度を意味する。
【0015】
[無機基材繊維]
本明細書において「無機基材繊維」とは、無機物からなる繊維であって、上記の被覆層で被覆される基材となる繊維を意味する。無機基材繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維等が挙げられる。無機基材繊維の繊維径としては、例えば、0.1〜50μm、好ましくは1〜30μmが挙げられる。
【0016】
[無機基材繊維製品]
本明細書において「繊維製品(textile)」とは、繊維;糸(yarn);織布、不織布等の布帛(fabric);繊維束等を意味する。本明細書において「無機基材繊維製品」とは、無機基材繊維からなる繊維製品を意味する。
【0017】
[耐熱性無機繊維製品]
本明細書の耐熱性無機繊維製品は、無機基材繊維と、該無機基材繊維を被覆する耐熱性に優れる無機被覆層とからなる耐熱性無機繊維からなる繊維製品である。
【0018】
上記被覆層の厚さは、例えば、1nm〜10μm、好ましくは5nm〜5μmである。該厚さが大きすぎても、該厚さの増加に応じた耐熱性の向上は期待できない。
【0019】
[耐熱性無機繊維製品の製造方法]
本発明の耐熱性無機繊維製品は、
無機基材繊維からなる無機基材繊維製品を溶融性カルボシラン系重合体で被覆し、
被覆した該溶融性カルボシラン系重合体を不融化処理して非溶融性カルボシラン系重合体に転換し、
該非溶融性カルボシラン系重合体を非酸化性雰囲気下で加熱焼成する
ことを含む方法ことにより得られる。
【0020】
以下、順を追って説明する。
(1)溶融性カルボシラン系重合体による被覆:
該製造方法では無機基材繊維製品を被覆するために溶融性カルボシラン系重合体が使用される。ここで、「溶融性カルボシラン系重合体」とは、常温において固体であるが、軟化点を有するカルボシラン系重合体を意味する。カルボシラン系重合体はその重合度、架橋構造、架橋度などが高まるにつれ溶融性を失い非溶融性に変る。本発明に使用される溶融性カルボシラン系重合体は通常100〜300℃の軟化点を有する。
【0021】
溶融性カルボシラン系重合体の分子量は、上述した適度の軟化点を有する程度であることが好ましい。例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という。)により測定した重量平均分子量が、ポリスチレン換算で好ましくは500以上、より好ましくは800〜5,000の範囲内である。
【0022】
溶融性カルボシラン系重合体としては、一種単独で用いても、異なる二種以上を併用してもよい。
【0023】
このような溶融性カルボシラン系重合体は、従来公知の方法によって製造することができる。
【0024】
無機基材繊維製品を溶融性カルボシラン系重合体で被覆する方法としては、例えば、溶融性カルボシラン系重合体を適当な乳化剤によって水に乳化させて水系エマルジョンを調製し、該水系エマルジョンを無機基材繊維製品に塗布し、乾燥する方法;溶融性カルボシラン系重合体をトルエンやテトラヒドロフランなどの有機溶剤に溶解させて有機溶剤溶液を調製し、該溶液を無機基材繊維製品に塗布し、乾燥する方法等が挙げられる。ここで用いられる水系エマルジョンまたは有機溶剤溶液は、25℃における粘度が通常1〜50,000mPa・s、好ましくは10〜10,000mPa・sとなるように調製される。該粘度がこれらの範囲内にあると、無機基材繊維製品を被覆する溶融性カルボシラン系重合体の厚さが均一となりやすい。また、水系エマルジョンまたは有機溶剤溶液の具体的な塗布方法としては、例えば、含浸、スプレー塗布などの方法を採用することができる。無機基材繊維製品を溶融性カルボシラン系重合体で被覆する際には、無機基材繊維製品を構成する全無機基材繊維が溶融性カルボシラン系重合体で被覆されることが望ましい。
【0025】
溶融性カルボシラン系重合体の被覆量は、無機基材繊維製品に対して、通常0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜25質量%である。該被覆量がこの範囲内にあると、無機基材繊維間での融着が生じにくく、均一な厚さでの被覆が容易となりやすく、また、経済的にも有利となりやすい。
【0026】
(2)不融化処理:
次に、無機基材繊維製品上に被覆された溶融性カルボシラン系重合体の不融化処理が行なわれる。該処理の前のカルボシラン系重合体は溶融性であるので高温に付されると溶融、軟化するが、不融化処理により非溶融性に転換される。不融化処理の方法としては、例えば、被覆した溶融性カルボシラン系重合体を酸素存在下、通常空気中で、好ましくは100〜500℃、より好ましくは120〜400℃の温度で加熱する方法、電子線等の短波長電磁波を照射する方法等が知られているが、いずれの公知の方法も使用することができる。経済性の点では空気中で加熱する方法が有利である。最終製品の耐熱性がより高まる点では、アルゴン、窒素等の非酸化性雰囲気中で電磁波を照射する方法が好ましい。こうした不融化処理によりカルボシラン系重合体分子で架橋反応が進行し、非溶融性になる。不融化処理により得られる非溶融性カルボシラン系重合体は高温に付しても溶融しないので、これにより被覆された無機基材繊維間では融着は起らない。
【0027】
(3)非溶融性カルボシラン系重合体被覆の無機セラミック化:
無機基材繊維製品を被覆する非溶融性カルボシラン系重合体は、非酸化性雰囲気下、好ましくは600〜1500℃の温度、より好ましくは800〜1300℃の温度で加熱、焼成することによって特に、炭素−水素結合の開裂と水素の離脱が起ってセラミック化し、ケイ素炭素系無機セラミック物質となる。加熱が前記の温度範囲内で行われると、非溶融性カルボシラン系重合体中のC−H結合の分解と水素の離脱が十分となりやすい一方、ケイ素や炭素の離脱は起こりにくい。このように原料中のケイ素、炭素は生成物である無機セラミック物質中に有効に利用されるので資源の無駄な損失は抑制される。
【0028】
非酸化性雰囲気は、焼成時に非溶融性カルボシラン系重合体の酸化を十分に防ぐことができるものであれば特に制限されないが、好ましくは不活性ガス雰囲気である。不活性ガスとしては、例えば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられ、実用的には窒素ガスが好ましい。
【0029】
[用途]
本発明の耐熱性無機繊維製品は、耐熱性および強度に優れ、排ガスフィルター用材料、特に、浮遊粒子状物質を除去するための排ガスフィルター用材料、例えば、トラック、バス等の大型自動車、ディーゼル機関車等の鉄道車両、建設機械、農業用機械、船舶等のディーゼル機関を用いた産業用機械、工場、家庭用燃料電池などから排出される排気ガスの浄化に好適に用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例および比較例を示し、本発明をより詳細に説明する
[実施例1]
(ポリカルボシランの調製)
内容量100Lのグラスライニングした反応器にキシレン40Lを仕込み、金属ナトリウム10kg(435モル)を投入した。その後、反応器内を110℃まで昇温して金属ナトリウムを融解させ、攪拌しながら反応器内にジメチルジクロロシラン28kgを定量ポンプを用いて注入した。140℃で10時間反応させた後、反応液を濾過して水洗し、食塩を除去し、乾燥したところポリジメチルシラン12kg(収率95%)が得られた。次に、内容量500mlのステンレススチール製反応器に得られたポリジメチルシラン350gを仕込み、器内の雰囲気を窒素ガスで置換後昇温し、圧力120kg/mm2G、温度430℃で20時間重合させ、ポリカルボシラン210g(収率60%)を得た。
【0031】
(不融化、無機化)
(1)上記で得られたポリカルボシランをテトラヒドロフランに溶解し10%テトラヒドロフラン溶液とした。この溶液に無機基材繊維として直径10μmのガラス繊維からなる繊維束を浸した後、室温にて乾燥させた。この処理により、未処理ガラス繊維束の質量に対して質量が10%増した。こうして処理した繊維束を、空気中200℃で1時間加熱を行い、不融化繊維束を作成した。
【0032】
(2)上で得られた不融化繊維束を、以下のとおり、非酸化性雰囲気下で加熱した。すなわち、この繊維束を、アルミナボートに入れ、雰囲気式電気炉で、窒素ガス雰囲気下、100℃/時間の昇温速度で室温から1000℃まで約10時間かけて加熱し、続けて1000℃で1時間保持した。その後、200℃/時間の速度で室温まで冷却した。これにより茶色の繊維束を得た。この際、繊維束の繊維間に融着は認められなかった。
【0033】
上記加熱の前後で測定した繊維束の質量を比較することで、加熱前の質量に対する加熱により損失した質量の割合(以下、「加熱による損失率」とする。)を算出したところ、2.1%だった。
【0034】
また、加熱処理後の繊維は約10μmの直径を有していた。
【0035】
得られた無機繊維を空気中で900℃に150時間暴露を行った。この加熱による損失率を算出したところ、0.3%であり、加熱前後の繊維の形状と寸法の変化をSEMにより観察したところ形状も寸法も変化は認められなかった。
【0036】
[実施例2]
無機基材繊維束を直径10μmのガラス繊維からなる繊維束から直径10μmの炭素繊維からなる繊維束に変更した以外は、実施例1の(1)と同様にしてポリカルボシランでコーティングを行った。この際、未処理炭素繊維束の質量に対して質量が10%の増加した。その後、実施例1と同様に、不融化処理後、非酸化性雰囲気下で加熱し、黒色の繊維束を得た。この際、繊維束の融着は認められず、この加熱による損失率は0.3%であった。
【0037】
こうして得た無機繊維束を空気中900℃で150時間暴露を行った。この加熱による損失率を算出したところ、0.6%であり、加熱前後の繊維の形状と寸法の変化をSEMにより観察したところ形状も寸法も変化は認められなかった。
【0038】
[実施例3]
実施例1と同様にして調製したポリカルボシラン溶液に、ガラスクロス1080((株)有沢製作所製)を浸した後、マングルにて絞り、室温にて乾燥させた。この処理により、未処理ガラス繊維束の質量に対して質量が10%増加した。その後、実施例1と同様に、不融化処理後、非酸化性雰囲気下で加熱し、茶色の無機繊維織布を得た。得られた無機繊維織布では、繊維間でも織布としても融着は認められず、この加熱による損失率は0.4%であった。
【0039】
この無機繊維を空気中に900℃で150時間暴露を行った。この加熱による損失率を算出したところ、0.8%であり、加熱前後の繊維の形状と寸法の変化をSEMにより観察したところ形状も寸法も変化は認められなかった。
【0040】
[比較例1]
無処理のガラスクロス1080((株)有沢製作所製)をアルミナボートに入れ、雰囲気式電気炉で、窒素ガス雰囲気下、100℃/時間の昇温速度で室温から1000℃まで約10時間かけて加熱し、続けて1000℃で1時間保持した。その後、200℃/時間の速度で室温まで冷却したところ、銀色の、全体に融着が起った棒状のガラスが得られた。繊維の原形は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機基材繊維からなる無機基材繊維製品を溶融性カルボシラン系重合体で被覆し、
被覆した該溶融性カルボシラン系重合体を不融化処理して非溶融性カルボシラン系重合体に転換し、
該非溶融性カルボシラン系重合体を非酸化性雰囲気下で加熱焼成する
ことを含む耐熱性無機繊維製品の製造方法。
【請求項2】
前記無機基材繊維がガラス繊維である請求項1に係る製造方法。
【請求項3】
前記無機基材繊維が炭素繊維である請求項1に係る製造方法。
【請求項4】
前記無機基材繊維がアルミナ繊維である請求項1に係る製造方法。
【請求項5】
前記溶融性カルボシラン系重合体が、ポリカルボシラン、又はホウ素、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムからなる群から選ばれる金属が添加されたポリカルボシランである請求項1〜4のいずれか一項に係る製造方法。
【請求項6】
前記溶融性カルボシラン系重合体の不融化処理を、該溶融性カルボシラン系重合体を酸素存在下で100〜500℃の温度で加熱することにより行う請求項1〜5のいずれか一項に係る製造方法。
【請求項7】
前記加熱焼成を600〜1500℃で行う請求項1〜6のいずれか一項に係る製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により製造された耐熱性無機繊維製品。
【請求項9】
請求項8に記載の耐熱性無機繊維製品を含む排ガスフィルター。

【公開番号】特開2008−57088(P2008−57088A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238073(P2006−238073)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】