説明

耐熱性粘着剤組成物

【課題】基材シートに粘着剤層を形成した粘着シートに使用できる粘着剤組成物において、初期接着強度が容易に脱落しない程度の接着強度を有し、しかも高温加熱した後においても容易に剥離できる程度の接着強度を保持することができる耐熱性粘着剤組成物を提供し、さらに当該耐熱性粘着剤組成物を基材シート上に塗布し乾燥して得られる耐熱性粘着シートを提供することにある。
【解決手段】質量平均分子量が60万以上、酸価が20mg/mgKOH以下のアクリル系高分子量共重合体85〜15質量%と質量平均分子量が50万以下、酸価が25mg/mgKOH以上のアクリル系低分子量共重合体15〜85質量%とを主成分とし、両共重合体を構成する主成分モノマーであるアルキル(メタ)アクリレートのアルキル基部分の炭素数の差が2以下のものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物および当該粘着剤組成物を塗布・乾燥して得られる粘着シートに関し、さらに詳しくは、耐熱性が優れた粘着剤組成物およびこれを基材シートの表面に塗布・乾燥して得られる耐熱性粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器などの小型化が進み、それらを構成する部品も軽薄短小化の動きが進んでいる。その中で、例えば、電子機器の頭脳部分である電子回路基板も小型化しており、その製造現場においては、加工の安定のため、例えば表面に固定用粘着剤層が形成されたキャリアーシートに基板材料を粘着固定して、各部品を搭載するなどの加工が行われ、加工終了後は、各基板は、キャリアーシートから剥離分離されて、次の加工工程、検査工程あるいは包装工程に進んで行く。その加工工程経由の区間において高温環境または加熱条件雰囲気に曝される場合は粘接着力が上昇して、剥離が困難になって作業効率が低下したり、著しい場合は、基板の裏面に粘着剤が残留して(いわゆる糊残り)、次の工程の障碍になったり、あるいは、製品の性能が損なわれる場合もある。
【0003】
かかる問題点を改善する方法として、例えば、特定のシラン系化合物の存在下でアクリル系モノマーを重合してなるアクリル系樹脂に、硬化剤、好ましくは更に硬化助剤としてポリオール系化合物又は/及びメラミン系化合物を配合させてなる粘着剤組成物が開示されている。(特許文献1参照)この粘着剤は、その発明の効果欄の記載によれば、高温下または高温高湿下でも凝集力及び粘着力の経時変化が小さく、かつ、曲面接着力にも優れた効果を示し、又、各種光学フィルムとガラス等の各種基材との接着においては、粘着剤の発泡や剥離を起こさないといった耐久性に優れるばかりでなく、高温、高湿環境下で長時間放置してもその光学特性を低下させないといった効果も奏する旨記載されている。
【0004】
しかしながら、このようにして得られた粘着フィルムは、接着力(粘着力)が1.7〜1.9kg/25mm(_0.68〜0.76N/cm)であって、薄膜の電子回路用フィルム用に適した接着力0.05〜0.3N/cmと比べて接着力が過大であり、一方、比較例として示された接着力が比較的低水準の粘着剤は、接着力が0.5〜0.8kg/25mm(0.2〜0.32N/cm)と低水準であるが、凝集力が劣り、50℃×48時間の耐久試験後には発泡、剥離を起こす旨評価されている。すなわち、糊残りが発生しやすいことを示唆している。
【0005】
また、加熱処理しても接着強度の上昇が少ない粘着剤組成物として、ヒドロキシル基含有アクリル系重合体に、複数のヒドロキシル基を含有するアミン系化合物、およびポリイソシアネート系化合物を含む再剥離性粘着剤組成物及び再剥離用粘着シートが知られている(特許文献2参照)。この再剥離用粘着シートは、メラミン樹脂塗装鋼板に対する180度剥離法による初期接着力が1.8〜2.4N/20mm(0.9〜1.2N/cm)であり、50℃×48時間の熱処理後の粘着力が初期粘着力の1.2倍以下である。この再剥離用粘着シートも上記の特許文献1に記載の粘着フィルムの場合と同様に、初期粘着力自体が高水準すなわち過重である。
【特許文献1】特開平08−199144号公報。
【特許文献2】特開2002−356662号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、基材シートに粘着剤層を形成した粘着シートに使用できる粘着剤組成物において、初期接着強度として容易に脱落しない程度の接着強度を有し、しかも高温加熱した後においても容易に剥離できる程度の軽い接着強度を保持することができる耐熱性粘着剤組成物を提供することにあり、さらに当該耐熱性粘着剤組成物を基材シート上に塗布し乾燥して得られる耐熱性粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の要旨は、主成分モノマーとしてのアルキル基部分の炭素数が3〜12のアルキル(メタ)アクリレート97.5〜99質量%と官能基含有アクリル系モノマー2.5〜1質量%とを含み、質量平均分子量が60万以上、酸価が20mg/mgKOH以下のアクリル系高分子量共重合体85〜15質量%と、主成分モノマーとしてのアルキル基部分の炭素数が3〜12のアルキル(メタ)アクリレート90〜98質量%と官能基含有アクリル系モノマー10〜2質量%とを含み、質量平均分子量が50万以下、酸価が25mg/mgKOH以上のアクリル系低分子量共重合体15〜85質量%と、を主成分とする共重合体組成物100質量部と、架橋剤1〜15質量部とを含み、当該アクリル系高分子量共重合体の主成分モノマーのアルキル基部分の炭素数と当該アクリル系低分子量共重合体の主成分モノマーのアルキル基部分の炭素数との差が2以下である耐熱性粘着剤組成物にあり、本発明の第二の要旨は、上記の耐熱性粘着剤組成物を含む塗布液を基材シート上に塗布し、乾燥して得られる耐熱性粘着シートにある。なお、本発明において(メタ)アクリレートは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐熱性粘着剤組成物は、質量平均分子量が60万以上と大きく、酸価が20mg/mgKOH以下と低いアクリル系高分子量共重合体と、質量平均分子量が50万以下と小さく、酸価が25mg/mgKOH以上と高いアクリル系低分子量共重合体とを主成分として配合し、これに架橋剤を配合したことにより、加熱前の接着強度が低すぎることなく、且つ高温加熱後も接着強度の上昇が小さく、しかも、この際、両共重合体を構成する主成分モノマーのアルキル基部分の炭素数の差が2以下であるため両共重合体間の相溶性が優れ、これらを配合して得られる粘着剤は相分離の虞がなく、接着剤として使用した後に剥離しても糊残りがないため、耐熱性があり、しかも再剥離性が優れた接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の耐熱性粘着剤組成物は、アクリル系高分子量共重合体およびアクリル系低分子量共重合体を主成分としこれに架橋剤を添加して成る。
【0010】
上記のアクリル系高分子量共重合体は、主成分モノマーとして、アルキル基部分の炭素数が3〜12のアルキル(メタ)アクリレート97.5〜99質量%と官能基含有アクリル系モノマー2.5〜1.0質量%を含む。その重合分子量は、通常、60万〜300万であり、好ましくは80万〜100万である。
【0011】
上記の主成分であるアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられ、中でも、アルキル基部分の炭素数が7以上のものが50質量%以上であるのが好ましく、たとえば2−エチルヘキシルアクリレートが50質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのがより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
【0012】
前記の官能基含有アクリル系モノマーとしては、例えば、カルボキシル基含有アクリル系モノマー及びヒドロキシル基含有アクリル系モノマーが挙げられる。
【0013】
上記のカルボキシル基含有アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。
また、上記のヒドロキシル基含有アクリル系モノマーとしては、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートなど(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルが挙げられる。かかる官能基含有アクリル系モノマーの配合量は、共重合体の酸価が20mg/mgKOH以下となる様に比較的少量であり、通常、1〜2.5質量%とされる。その中で、カルボキシル基含有アクリル系モノマーが1質量%以上であるのが好ましい。
【0014】
前記のアクリル系高分子量共重合体を構成するモノマーとしては、上記の主成分モノマーの他に、その他の共重合性モノマーを、本発明の目的を損なわない範囲で、アルキル(メタ)アクリレートの一部として、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下の量を配合することができる。
【0015】
上記のその他の共重合性モノマーとして、例えば、アルキル基部分の炭素数は1または2のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルフォリン、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルエステル、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、酢酸ビニルなどのビニルモノマー等が挙げられる。
【0016】
本発明に使用するアクリル系高分子量共重合体は、上記の各モノマー成分を溶剤に溶解して反応溶液とし、これに重合開始剤および必要に応じてさらに連鎖移動剤を添加した後、通常、加熱重合して製造することができる。上記の濃度は、目的とする質量平均分子量60万〜300万を達成するため、重合当初は反応溶液のモノマー濃度を比較的高濃度例えば40〜50質量%とし、反応がかなり進んで粘度が高くなるにつれて溶媒を追加して実用的濃度例えば30〜40質量%に希釈するのが好ましい。
【0017】
上記の各成分の溶解に使用される溶媒としては、例えば、n−ペンタン、トルエン、ベンゼン、n−ヘキサン、ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、及びそれらの混合物等が挙げられ、通常、酢酸エチル、トルエン又はその混合物が汎用される。なお、上記の溶媒として、必要により本発明の目的に支障がない範囲でメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類を10質量%程度以下の範囲で混合することができる。
【0018】
上記の重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウリルパーオキサイド、クメンパーオキサイド等のパーオキサイド類、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物などを例示することができる。かかる重合開始剤は、全共重合モノマー100質量部に対して、通常、0.05〜2.0質量部、実用的には0.1〜0.5質量部とされる。
【0019】
上記の連鎖移動剤としては、通常、チオール類が使用され、具体的には、たとえば、n−ドデカンチオール等を例示することができる。かかる連鎖移動剤は、全共重合モノマー100質量部に対して、通常、0.01〜0.5質量部、実用的には0.1〜0.5質量部とされる。
【0020】
上記の共重合反応の条件は、特に限定されるものではないが、通常、反応系内を不活性ガスで置換し、冷却器を使用して還流させつつ、通常5〜15時間、実用的には10時間程度反応が継続される。また、上記の不活性ガスとしては、経済性の観点から、通常、窒素ガスが汎用される。反応は、通常、随時反応液成分をモニターして、溶液濃度、重合開始剤添加量、連鎖移動剤添加量、反応温度、反応時間などを調節して、重合体成分の質量平均分子量が制御される。
【0021】
前記のアクリル系低分子量共重合体は、主成分モノマーとして、アルキル基部分の炭素数が3〜12のアルキル(メタ)アクリレート90〜98質量%と官能基含有アクリル系モノマー2〜10質量%を含む。その重合分子量は、通常、20万〜50万であり、好ましくは30万〜40万である。
【0022】
上記のアクリル系低分子量共重合体を構成する主成分であるアルキル(メタ)アクリレートとしては、前記のアクリル系高分子量共重合体に使用されるものを挙げることができるが、中でも、アルキル基部分の炭素数が7以上のものが50質量%以上であるのが好ましく、たとえば2−エチルヘキシルアクリレートが50質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのがより好ましい。
【0023】
また、上記のアクリル系低分子量共重合体を構成する官能基含有アクリル系モノマーも前記のアクリル系高分子量共重合体に使用されるものを挙げられるが、その際、官能基含有アクリル系モノマーの配合量は、共重合体の酸価が25mg/mgKOH以上となる様に比較的多量であり、通常、2〜10質量%、実用的には3〜6質量%とされ、その中で、カルボキシル基含有アクリル系モノマーが3質量%以上であるのが好ましい。
【0024】
前記のアクリル系低分子量共重合体を構成するモノマーとしても、アクリル系高分子量共重合体の場合と同様に、上記の主成分モノマーの他に、その他の共重合性モノマーを、本発明の目的を損なわない範囲で、アルキル(メタ)アクリレートの一部として、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下の量を配合することができる。かかるその他の共重合性モノマーとして、前記のアクリル系高分子量共重合体の場合に例示されたものをあげることができる。
【0025】
なお、前記のアクリル系高分子量共重合体と前記のアクリル系低分子量共重合体の両共重合体を配合して得られる共重合体組成物内の相溶性を改善し、主要用途である粘着剤として使用する場合の相分離を抑制し、また剥離した後の糊残りを抑制し、また、接着剤層の透明性を改善する観点から、両共重合体の各主成分モノマーは、互いに構造が類似したものをより高含有率で使用するのが好ましく、例えば、両共重合体を構成する各主成分モノマーであるアルキル(メタ)アクリレートのアルキル基部分の炭素数の差が2以下であるのが好ましく、両アルキル基が同じものであるのがより好ましい。かかるアルキル(メタ)アクリレートは、各共重合体に50質量%以上含まれているのが好ましく、90質量%以上含まれているのがより好ましい。かかるアルキル基部分の炭素数が3〜12のアルキル(メタ)アクリレートの中でより好適なものとして2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)を挙げることが出来る。
【0026】
本発明に使用するアクリル系低分子量共重合体は、前記のアクリル系高分子量共重合体の場合とほぼ同様にモノマー成分を溶媒に溶解して反応溶液を調製し、重合開始剤、連鎖移動剤を添加し、共重合反応させて製造することができるが、その際、目的とする共重合体の質量平均分子量が20万〜50万と比較的小さいことに鑑み、当初の反応溶液の濃度は、特に高くする必要が無く、通常30〜45質量%、実用的には35〜45質量%程度とすることができる。
【0027】
本発明の耐熱性粘着剤組成物は、以上のようにして得られたアクリル系高分子量共重合体とアクリル系低分子量共重合体とを配合し、これに架橋剤を添加して調製することができ、通常反応溶媒を含む溶液として得られる。上記のアクリル系高分子量共重合体とアクリル系低分子量共重合体との配合比率は、固形分比として85:15〜15:85であり、好ましくは75:25〜25:85である。85:15を超える場合は、耐熱性が不十分であり、高温環境下に曝された場合に剥離強度が高くなりすぎる。また、15:85未満の場合は、貼り付け当初の接着強度が小さいため、貼り付けた後の取り扱い段階で剥離して脱落する虞がある。上記の組成物中の固形分すなわちアクリル系共重合体の濃度は、通常30〜50質量%であるが、実用的には上記の要領により調製された共重合体溶液をアクリル系高分子量共重合体とアクリル系低分子量共重合体の所定の配合比率に応じて単に混合すればよく、商品としての濃度を一定にする必要がある場合をのぞいて特に濃度を調整する必要はない。
【0028】
上記の架橋剤としては、通常、イソシアネート系化合物およびエポキシ系化合物が挙げられる。このイソシアネート系化合物としては、大きく分けると、脂肪族系と芳香族系に分けられ、芳香族系のものには、一部水素添加したものも含まれるが、本発明においては、それらのいずれも使用することができる。かかるイソシアネート系架橋剤としては、例えば、TDI−TMP(トリレンジイソシアネート−トリメチルプロパンアダクト)、HMDI−ビューレットタイプ、HMDI−イソシアヌレート、HMDI−TMPアダクト(ヘキサメチレンジイソシアネート−トリメチルプロパンアダクト)、XDI−TMPアダクト(キシリレンジイソシアネート−トリメチルプロパンアダクト)などのイソシアネート系化合物が挙げられる。
【0029】
また、上記のエポキシ系化合物としては、エピクロルヒドリン型エポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、N,N,N´,N´−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン等を挙げることができる。
【0030】
上記の架橋剤の耐熱性粘着剤組成物への添加量は、この組成物に含まれるアクリル系共重合体に含まれる官能基間を十分架橋しうる量であり、具体的には共重合体の質量に対して、1〜15質量%程度である。
【0031】
本発明の耐熱性粘着シートは、上記の耐熱性粘着剤組成物溶液を基材シートに塗布し乾燥して得ることができる。
【0032】
上記の基材シートとしては特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニルなどから成るシート又は紙類等を挙げることができる。そのなかでも、価格、腰の強さなどの観点からPETシートを好適に挙げることができる。これらの基材シートは、本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲において、他の添加剤、例えば、顔料、染料、酸化防止剤、劣化防止剤、充填剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び/又は電磁波防止剤を含んでいてもよい。上記の基材シートの厚さは、特に限定されないが、目的により適宜調整され、通常20μm〜10mmであるが、キャリアーシートとして使用する場合は、通常25μm〜1mmであり、実用的には50μm〜200μm程度である。また、上記の基材シートには、必要により基材シートの塗布用面にコロナ処理、プラズマ処理、ブラスト処理等の易粘着処理が施しておくことができる。また、表面にアンカーコート層あるいは易接着層が設けられているものも好適に使用することができる。
【0033】
上記の基材シートへの耐熱性粘着剤組成物溶液の塗布量は、耐熱性粘着シートの用途により適宜設定されるが、通常、固形分として1〜50μmとされる。また、その塗布方法は、公知の方法を適用できるが、例えば、ローラー塗装法、刷毛塗装法、スプレー塗装法、ダイコーター、バーコーター、ナイフコーターなどを用いた方法が挙げられる。そして、上記の塗布層は、通常、80〜150℃の温風中で30〜120秒間、好ましくは100〜130℃の温風の中で40〜120秒間乾燥することにより粘着剤層を形成し、本発明の耐熱性粘着シートを得る事ができる。
【0034】
上記の耐熱性粘着シートの粘着剤層の表面には、取り扱い上の便利のため、離型性シートを積層することができる。かかる離型性シートとしては、公知のものを利用することができ、例えば、プラスチックシートの表面にシリコーン系離型剤を塗布したものを挙げることができるが、上記の粘着剤層の粘着力が低い水準にあることから、ポリオレフィン系フィルム等、接着性が小さいフィルムを未処理のまま使うことができる場合もある。
【0035】
以上の様にして得られた耐熱性粘着シートは、粘着剤層の架橋を進めるため、養生するのが好ましい。かかる養生条件は、特に限定されないが、通常、30〜50℃において5〜10日間、好ましくは40〜50℃において5〜7日とされる。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
なお、本実施例において、耐熱性粘着シートの評価方法および質量平均分子量は、以下の評価方法によった。
【0037】
(質量平均分子量の測定方法)
以下のGPC法で測定した。
カラムとしてShodex GPC KF−806Lを使用し、系内カラム温度40℃、溶離液としてTHFを1.0ml/min.で流し、RI検出器により検出してポリスチレン換算値として測定した。
【0038】
(加熱前および加熱後の接着強度)
離型性シートを積層した耐熱性粘着シートから幅25mm、長さ250mmの短冊形試験片を裁断し、その離型性シートを剥離した後、JIS Z 0237の粘着力試験方法に準じて、被着体としての厚さ25μmのポリイミドシート(カプトン100H、東レ・デュポン株式会社製)に上記の耐熱性粘着シートの粘着剤層表面を末端に剥離部を残して圧着した。このようにして試験片を複数枚作製し、30℃で30分間放置した試験片(加熱前)、および180℃で60分間加熱した試験片(加熱後)について、島津製作所製AUTOGRAPH AGS−50Dを用い、それぞれについて剥離角度180度法により、剥離速度毎分300mm条件で粘着剤層および基材シートとしてのPETシート層をまとめて掴んで剥離して粘着剤層と厚さ25μmのポリイミドシートとの間の粘着力を測定し、各3試験片の測定値の平均値を粘着力とした。
【0039】
(初期接着強度および加熱後接着強度の評価)
上記の各実施例および比較例の結果について、接着強度が0.05N/cm未満は、接着力不足として「×」と評価し、0.05〜0.3N/cmを好ましい範囲として「○」と評価した。また、0.3N/cmを超えるものは過重として「×」と評価した。
【0040】
(粘着剤溶液の透明性)
アクリル系高分子量共重合体溶液とアクリル系低分子量共重合体とを混合し、マグネティックスターラーで60分間攪拌した混合塗布溶液の透明性について、目視で観察し、「透明」、「微白濁」、「白濁」に区分して評価した。
【0041】
(粘着剤層の濁度(1)、(2))
アクリル系高分子量共重合体溶液とアクリル系低分子量共重合体とを混合し、同じマグネティックスターラーで、それぞれ5分間(1)および60分間(2)攪拌混合した混合塗布溶液を、厚さ50μmのポリエステルフィルム(商品名:ルミラー50S10、東レ株式会社製)表面にメイヤーバーを使用して乾燥後の厚さがおよそ10μmになるように塗布し、100℃の通風乾燥機を使用して乾燥した後の塗布面上の外観について、目視で観察し、「×」(曇っている)、「△」(若干曇っている)、または「○」(透明で問題なし)に区分して評価した。
【0042】
(総合評価)
上記の初期接着強度、加熱後の接着強度、塗布溶液の透明性および粘着剤層の濁度(1)(2)の各評価における欠点を総合して評価した。
【0043】
(アクリル系高分子量共重合体(1)の調製)
1L容の三口の反応容器に、反応溶媒として酢酸エチル40g、アセトン60gを投入し、この溶媒に2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)60g、ブチルアクリレート(BA)37.9g、アクリル酸(AA)2.1gを投入して溶解し、さらに、重合開始剤としてAIBNを0.05g及び連鎖移動剤としてn−ドデカンチオールを0.01g投入し、冷却器、温度計および攪拌装置を取り付け、これを80℃ウォーターバスで0.5℃/分で昇温させ、沸点まで昇温後は還流器により還流させながら3.5時間経過後、酢酸エチルのみを50g追加してモノマー濃度が約40質量%に希釈して、さらにウォーターバスにて加熱し、還流させながら反応開始から10時間反応を継続した後、反応容器をウォーターバスから取り出して放冷し、アクリル系高分子量共重合体(1)の溶液を得た。得られたアクリル系高分子量共重合体の溶液について、前記の質量平均分子量の測定方法により、質量平均分子量を測定したところ、約90万であった。また、この共重合体の酸価は16.3mg/mgKOHであった。これらの結果をモノマー組成と共に表1に示した。
【0044】
(アクリル系高分子量共重合体(2)の調製)
上記のアクリル系高分子量共重合体(1)の調製において、モノマー組成を2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)98g、ブチルアクリレート(BA)0g、アクリル酸(AA)2gに変更したこと以外は、上記のアクリル系高分子量共重合体(1)の調製の場合と同様にしてアクリル系高分子量共重合体(2)の溶液を得た。得られたアクリル系高分子量共重合体の溶液について、前記の質量平均分子量の測定方法により、質量平均分子量を測定したところ、約89万であった。また、この共重合体の酸価は15.6mg/mgKOHであった。これらの結果をモノマー組成と共に表1に示した。
【0045】
(アクリル系低分子量共重合体(1)の調製)
1L容の三口の反応容器に、反応溶媒として酢酸エチル150gを投入し、この溶媒に2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)96g、アクリル酸(AA)4.0gを投入して溶解し、さらに、重合開始剤としてAIBNを0.05g及び連鎖移動剤としてn−ドデカンチオールを0.1g投入し、冷却器、温度計および攪拌装置を取り付け、これをウォーターバスで0.5℃/分で昇温させ、80℃まで昇温後は還流器により還流させながら反応開始から10時間反応を継続した後、反応容器をウォーターバスから取り出して放冷し、アクリル系低分子量共重合体(1)の溶液を得た。得られたアクリル系低分子量共重合体(1)の溶液について、前記の質量平均分子量の測定方法により、質量平均分子量を測定したところ、約40万であった。また、この共重合体の酸価は31.1mg/mgKOHであった。これらの結果をモノマー組成と共に表1に示した。
【0046】
(アクリル系低分子量共重合体(2)の調製)
上記のアクリル系低分子量共重合体(1)の調製方法において、投入した2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)96g、アクリル酸(AA)4.0gの投入量をそれぞれ99g、1gに変えた以外は全くアクリル系低分子量共重合体1の調製方法と同様にして共重合を行い、アクリル系低分子量共重合体(2)の溶液を得た。得られたアクリル系低分子量共重合体(2)の溶液について、前記の質量平均分子量の測定方法により、質量平均分子量を測定したところ、約40万であった。また、この共重合体の酸価は7.1mg/mgKOHであった。これらの結果をモノマー組成と共に表1に示した。
【0047】
(アクリル系低分子量共重合体(3)の調製)
上記のアクリル系低分子量共重合体(1)の調製方法において、溶媒組成を酢酸エチル100質量部:トルエン50質料部混合溶媒とし、投入した2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)の代わりにブチルアクリレート(BA)の投入量を90.0g、アクリル酸(AA)の投入量を10.0gとした以外はアクリル系低分子量共重合体(1)の調製方法と全く同様にして共重合を行い、アクリル系低分子量共重合体(3)の溶液を得た。得られたアクリル系低分子量共重合体(3)の溶液について、前記の質量平均分子量の測定方法により、質量平均分子量を測定したところ、約41万であった。また、この共重合体の酸価は77.9mg/mgKOHであった。これらの結果をモノマー組成と共に表1に示した。
【0048】
[実施例1]
上記のアクリル系高分子量共重合体溶液(1)10gとアクリル系低分子量共重合体(1)溶液30gとを混合し、これに架橋剤としてTETRAD−C(三菱瓦斯化学株式会社製)を0.5g添加して粘着剤塗布溶液とし、基材としての厚さ50μmのポリエステルシート(商品名:ルミラー50S10、東レ株式会社製)の表面に、メイヤーバーを用いて乾燥後の厚さが10μmとなるように塗布し、100℃に温調した熱風乾燥機で60秒乾燥して、耐熱性粘着シートを得た。
得られた耐熱性シートについて、前記の方法により加熱前の接着強度、加熱後の接着強度を測定し、粘着剤塗布溶液の透明性、粘着剤層の濁度について評価し、これらの結果を表1に示した。
【0049】
[実施例2]〜[実施例3]
実施例2および実施例3として、アクリル系高分子量共重合体(1)溶液とアクリル系低分子量共重合体(1)溶液の混合量をそれぞれ20gと20g、および30gと10g、としたこと以外は、実施例1の場合と全く同様にして耐熱性粘着シートを得た。
得られた耐熱性シートについて、前記の方法により加熱前の接着強度、加熱後の接着強度を測定し、粘着剤塗布溶液の透明性、粘着剤層の濁度について評価し、これらの結果を表1に示した。
【0050】
[比較例1]
使用した共重合体溶液としてアクリル系低分子量共重合体(1)の溶液のみとし、その使用量を40gとしたこと以外は、実施例1の場合と全く同様にして耐熱性粘着シートを得た。得られた耐熱性シートについて、前記の方法により加熱前の接着強度、加熱後の接着強度を測定し、粘着剤塗布溶液の透明性、粘着剤層の濁度について評価し、これらの結果を表1に示した。
【0051】
[比較例2]
使用した共重合体溶液としてアクリル系高分子量共重合体(1)の溶液のみを使用し、その使用量を40gとしたこと以外は、実施例1の場合と全く同様にして耐熱性粘着シートを得た。得られた耐熱性シートについて、前記の方法により加熱前の接着強度、加熱後の接着強度を測定し、粘着剤塗布溶液の透明性、粘着剤層の濁度について評価し、これらの結果を表1に示した。
【0052】
[比較例3]〜[比較例6]
使用した共重合体溶液としてアクリル系高分子量共重合体(1)の溶液とアクリル系低分子量共重合体(2)の溶液をそれぞれ、0gと40g、10gと30g、20gと20g、および30gと10gの組み合わせにしたこと以外は、実施例1の場合と全く同様にして耐熱性粘着シートを得た。得られた耐熱性シートについて、前記の方法により加熱前の接着強度、加熱後の接着強度を測定し、粘着剤塗布溶液の透明性、粘着剤層の濁度について評価し、これらの結果を表1に示した。
【0053】
[実施例4]
使用した共重合体溶液としてアクリル系共重合体(2)の溶液とアクリル系低分子量共重合体(1)の溶液をそれぞれ20gと20gの組み合わせたこと以外は、実施例1の場合と全く同様にして耐熱性粘着シートを得た。得られた耐熱性シートについて、前記の方法により加熱前の接着強度および加熱後の接着強度を測定し、粘着剤塗布溶液の透明性、粘着剤層の濁度について評価し、これらの結果を表1に示した。
【0054】
[比較例7]〜[比較例11]
[比較例7]〜[比較例11]として、それぞれ使用した共重合体溶液としてアクリル系高分子量共重合体(2)の溶液40gのみ、アクリル系高分子量共重合体(2)の溶液とアクリル系低分子量共重合体(3)の溶液をそれぞれ30gと10g、20gと20g、10gと30gの組み合わせ、アクリル系低分子量共重合体(3)の溶液40gのみで行ったこと以外は、実施例1の場合と全く同様にして耐熱性粘着シートを得た。得られた耐熱性粘着シートの内、比較例7と11について前記の方法により加熱前の接着強度および加熱後の接着強度を測定し、これらの結果を表1に示した。なお、比較例8〜10では粘着剤塗布溶液および粘着剤層の濁度の結果から相溶性の点で不良であることから、何れも接着強度については測定しなかった。
【0055】
【表1】

【0056】
(結果の考察)
表1の結果からも分かるように、高分子量で且つ官能基が比較的少ない共重合体と低分子量で官能基を多量に含む共重合体とを質量比で85:15〜15:85の割合の範囲に含まれる組成物から形成された粘着シートの接着強度は、加熱前および180℃×60分間加熱後も共に0.05〜0.3N/cmであり、加熱前でも容易に剥離脱落せず、しかも加熱後も容易に剥離できる粘着シートであった。そして、さらに、高分子量共重合体成分と低分子量共重合体成分との相溶性が優れているため、各々の粘着剤溶液および塗布乾燥して形成された粘着剤層は濁りがなく透明性が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の耐熱性粘着シートは、物品に貼り付けた時、加熱前すなわち貼付時の接着強度および加熱後すなわち高温加熱環境下に曝された後であっても共に接着強度が0.05〜0.3N/cmであり、貼付時には容易に脱落せず且つ貼り直しも容易であり、粘着剤を構成する高分子量共重合体成分と低分子量共重合体成分との相溶性が優れているため、塗布溶液および塗布し乾燥して形成される粘着剤層の透明性が優れ、さらに加熱後再剥離しても糊残りが無いため、例えば、加熱工程を含む製造工程の物品のキャリアーシートとして使用した場合であっても、加工処理後に当該物品を汚染することなくキャリアーシートから容易に剥離して取り出すことができ、産業上の利用効果は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分モノマーとしてのアルキル基部分の炭素数が3〜12のアルキル(メタ)アクリレート97.5〜99質量%と官能基含有アクリル系モノマー2.5〜1質量%とを含み、質量平均分子量が60万以上、酸価が20mg/mgKOH以下のアクリル系高分子量共重合体85〜15質量%と、主成分モノマーとしてのアルキル基部分の炭素数が3〜12のアルキル(メタ)アクリレート90〜98質量%と官能基含有アクリル系モノマー10〜2質量%とを含み、質量平均分子量が50万以下、酸価が25mg/mgKOH以上のアクリル系低分子量共重合体15〜85質量%と、を主成分とする共重合体組成物100質量部と、架橋剤1〜15質量部とを含み、当該アクリル系高分子量共重合体の主成分モノマーのアルキル基部分の炭素数と当該アクリル系低分子量共重合体の主成分モノマーのアルキル基部分の炭素数との差が2以下である耐熱性粘着剤組成物。

【請求項2】
初期接着強度および180℃×60分加熱後の接着強度が共に0.05〜0.3N/cmであることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性粘着剤組成物。

【請求項3】
アクリル系高分子量共重合体を構成するモノマー配合比が、2−エチルヘキシルアクリレート90質量%以上を含むアルキル基部分の炭素数が3〜12のアルキル(メタ)アクリレート97.5〜99質量%と官能基含有アクリル系モノマーとしてアクリル酸2.5〜1質量%を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱性粘着剤組成物。

【請求項4】
アクリル系低分子量共重合体を構成するモノマー配合比が、主成分モノマーとして、2−エチルヘキシルアクリレート90質量%以上を含むアルキル基部分の炭素数が3〜12のアルキル(メタ)アクリレート90〜98質量%と官能基含有アクリル系モノマーとしてアクリル酸2〜10質量%を含むことを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載の耐熱性粘着剤組成物。

【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一つの耐熱性粘着剤組成物を含む塗布液を基材シートに塗布し、乾燥して得られる耐熱性粘着シート。

【公開番号】特開2008−38103(P2008−38103A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217619(P2006−217619)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(591145335)パナック株式会社 (29)
【Fターム(参考)】